結論
ソノコムは東京の小さな版の会社だ。電子部品やプリント基板に電極やはんだを刷る、網目の版(スクリーンマスク)を注文ごとに作る。最大の顧客は太陽誘電である。筆者の結論はやや割高だ。現金と債券は時価総額を超えるほどあるが、その多くは株主に戻らず、本業の稼ぎも資本に比べて小さいからである。
帳簿だけを見ると、驚くほど割安に見える。借金は無く、現金は 41 億円、債券などの運用が 20 億円ほどある。今の時価総額は 40 億円だ。しかし創業家の 2 人が支配株主として過半の議決権を持ち、配当性向は 15% 台にとどまる。現金は長く積み上がるだけで、少数株主の手には少ししか戻ってこなかった。
本業は堅実だが大きくない。営業利益は 3 億円前後で、利益率は年によって 6〜16% と振れる。2026 年にはマクセルから精密な電鋳の事業を約 9 億円で買い、連結の売上を倍近くにする計画だ。買収が当たれば楽しみはあるが、大企業が手放した事業を立て直すのは簡単ではない。
戻りにくい現金を額面より低く見ると、今の値段は中心の筋書きの価値をやや上回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、帳簿の安さと資本の使い方の悪さが同居する会社だ。時価総額より多い現金と債券を持ち、借金は無い。数字だけなら、事業をただで手に入れられるように見える。
しかしオーナーとして大事なのは、その現金が誰のために使われるかである。支配株主のもとで現金は長く積み上がり、配当は利益の 15% 台にとどまってきた。少数株主は、清算も還元の上積みも決められない。清算されない現金は、額面の価値では持てないのだ。
本業の版の仕事は堅実で、電子部品の数とともに伸びる。電鋳の買収は、現金を働かせる試みとして評価できる。だが買った事業の稼ぎはまだ分からない。筆者は、還元の方針が変わるか、電鋳が稼ぎ始めるのを見てから考えたい。
安全域は、帳簿の上では厚い。しかし戻らない現金の上に立つ安全域は、見かけほど頼りにならない。
何で稼ぐ会社か
売上は 27 億円で、85% が自社で作るスクリーンマスクだ。残りは印刷機やスキージ(刷る時のへら)などを仕入れて売る資機材である。
スクリーンマスクは、細かい網に感光の乳剤を塗り、必要な形の穴だけを開けた版だ。電子部品の工場では、この版を通してペーストを刷り、電極や配線をつくる。積層セラミックコンデンサのような小さな部品ほど、版の精度が歩留まりを決める。版は使うほど傷むので、部品が作られ続ける限り注文は繰り返し来る。
仕事は受注生産だ。顧客の部品の形ごとに版が違い、短い納期が求められる。ソノコムは「高品質と短納期」を掲げ、玉川と松戸の工場で作る。2027 年 3 月期には 3.8 億円をかけて能力を 1 割増やす。最大の顧客の太陽誘電が売上の 17% を占める。
2026 年 7 月からは、マクセルから買う電鋳の事業が加わる。電鋳は、めっきで金属を積み上げて微細な穴を作る技術で、有機 EL の画面を作る時の蒸着用のマスクなどに使う。九州の子会社で営む。
設備は小さく、人の手と経験に頼る部分が多い。従業員は 113 名で、版の仕上がりを見極める職人の目が品質を支える。投資の負担が軽いので、稼いだ利益の多くが現金として残る。
優良さと弱いところ
本業には小さいが確かな強みがある。版は顧客の部品ごとに作る特注品で、精度と納期で選ばれる。一度工程に入れば、品質の実績のある会社から買い続けるのがふつうだ。太陽誘電や村田製作所といった強い部品会社との長い付き合いは、その信頼の表れである。
それでも値段を決める力は強くない。同業との受注の競争は激しく、利益率は 12 年で 6〜16% の間を振れてきた。電子部品の在庫の調整が来れば注文はすぐに減る。
いちばんの弱みは資本の使い方だ。自己資本の 6 割以上が現金と債券で、本業に使われていない。だから ROE は 2〜4% にとどまり、資本コストの半分にも届かない。事業が悪いのではなく、使わないお金が多すぎるのである。
経営は堅実で、無理な拡大をしてこなかった。それが厚い財務を生んだが、同時に株主の利回りを下げてきた。電鋳の買収は、その流れを変える最初の試みである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の芯は電子部品の数だ。積層セラミックコンデンサは、スマートフォン 1 台に 1,000 個前後、電気自動車には 1 万個以上使われる。AI のサーバーはさらに多くを使う。部品の数は 10 年先も伸び続け、版の数もそれにつれて増える。
ただ、電子部品の業界には数年おきに在庫の谷が来る。谷では部品会社が生産を絞り、版の注文も急に減る。ソノコムの利益が年によって大きく動くのはこのためだ。
工法の変化も見ておきたい。部品会社が刷る方法から、別の塗り方や転写の方法に切り替えれば、版の需要は消える。有報もこの危うさをリスクに挙げている。電鋳のマスクは、有機 EL の画面の大型化とともに育ちうるが、画面の技術の流れに左右される。
競合は国内の版の会社が中心で、どこも小さい。市場の大きさは限られ、大手が入ってくるほどの魅力は無い。そのぶん、残った会社どうしの競争が続く。
10 年で見れば、数量の芯は強い。部品の小型化が進むほど版の精度への要求は上がり、腕のある版の会社の居場所は残る。問題は、その強い需要がどれだけ株主の利益に変わるかである。ここで業界の話は、この会社の資本の使い方の話に戻ってくる。
資本政策と M&A
資本政策がこの会社の評価を決める。配当は年 0.5 億円ほどで据え置きが続き、配当性向は 15.5% だ。自社株は発行済みの 27% にあたる量を持つが、消却や追加の買い入れの方針は示されていない。
創業家の 2 人が支配株主で、合わせて過半の議決権を持つ。少数株主が現金の使い道を変える手段は無い。今回の電鋳の買収は、現金を事業に回す初めての大きな一歩だが、額は現金の 2 割ほどにとどまる。
支配株主の会社なので、外からの TOB は起きにくい。逆に、創業家が非公開化を選ぶ可能性はある。その時に付く値段が、少数株主にとって最大の上振れになる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
まず安全域が厚い。現金と債券で 60 億円あり、借金は無い。時価総額の 40 億円は、事業の価値をほぼゼロとみているのに近い。そのうえ本業は黒字で、電子部品の数とともに伸びる。
電子部品の需要は長く強い。AI のサーバーと電気自動車は、積層セラミックコンデンサを大量に使う。最大の顧客の太陽誘電も、村田製作所も増産を続けている。版は使うほど傷む消耗品で、部品が作られる限り注文は来る。ソノコムは能力を 1 割増やす投資もすでに決めた。
電鋳の買収は、眠っていた現金がようやく動き出した合図だ。マクセルの技術と顧客を約 9 億円で手に入れ、連結の売上を倍近くにする。目標の営業利益 6 億円に届けば、ROE も大きく上がる。創業家が非公開化を選べば、少数株主は現金の分まで報われる。
しかも版の仕事は、投資の負担が軽い。稼いだ利益の多くが現金になり、電鋳への投資も手元の資金で賄える。悪い年にも会社が揺らぐことはない。下に向けた危うさが小さく、上に向けた選択肢がいくつもある。
慎重な見方
現金は株主のものではない。支配株主が過半を握り、配当性向は 15% 台だ。現金はこの 10 年で積み上がる一方だった。少数株主に戻らない現金を額面で数えるのは誤りである。
本業も強くはない。営業利益は 3 億円前後で、利益率は 6〜16% と振れる。電子部品の在庫の谷が来れば注文は急に減り、今期の会社の予想もすでに営業利益の 4 割減だ。顧客が刷る工法を変えれば、版の需要そのものが消える。
電鋳の買収も危うい。マクセルという大企業が手放した事業で、売上も利益も開示されていない。有機 EL の画面の技術は変化が速く、小さな会社が追いかけ続けるのは重い。現金を働かせる一歩が、現金を減らす一歩になりかねない。
非公開化の期待も当てにならない。支配株主には急ぐ理由が無く、決めるとしても、その時の株価が低いほど支配株主には有利だ。少数株主が待たされるうちに、現金の価値は物価で目減りしていく。現金の厚さは、待つ間の慰めにはなっても、株主の利回りにはならない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方の方がやや強い。現金と債券の厚さは本物だが、支配株主のもとで株主に戻る分は限られる。中心の筋書きは本業が電子部品とともに伸び、電鋳が細く黒字を保つ形とした。強気の側には 3 割の重みを置き、買収と還元の上振れを残した。
戻りにくい現金は、額面より低く見るべきだ。それでも本業の伸びと電鋳の選択肢は、強気の側に一定の重みを与える理由になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,186 円80 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 207 円8 億円)。 今の値に割り戻すと 1,205 円44 億円、今との差 +12.6%、 期待の年率 +8.4%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,760 円138 億円 | 382 円14 億円 | +287.1% | +14.5% | 414 円15 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,887 円106 億円 | 273 円10 億円 | +195.3% | +11.4% | 695 円25 億円 |
| 中立 | 36% | 2,451 円90 億円 | 191 円7 億円 | +146.9% | +9.5% | 951 円35 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,188 円44 億円 | 136 円5 億円 | +23.8% | +2.2% | 265 円10 億円 |
| 悲観 | 12% | 458 円17 億円 | 109 円4 億円 | −47.0% | −6.1% | 68 円2 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,186 円80 億円 | 207 円8 億円 | +123.7% | +8.4% | 2,393 円88 億円 |
今の株価時価総額 1,070 円39 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:電子部品の数が伸び、電鋳が第 2 の柱になる 利益 8 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 3,760 円138 億円
AI のサーバーと電気自動車で、積層セラミックコンデンサの数は 10 年で大きく伸びる。ソノコムの版の枚数は 1.45 倍になり、精度の高い版ほど値段も上がる。利益率は 12 年の山に近い 15% に戻る。
電鋳の事業は有機 EL の画面の大型化に乗り、九州の工場が埋まる。マクセルの技術と、ソノコムの短い納期の作り方がかみ合い、利益率は 1 割に乗る。連結の営業利益は 10 億円を超える。
還元も少しずつ厚くなる。それでも現金は積み上がり、株主に戻るのは一部にとどまる。資本の利回りは上がるが、資本コストにはまだ届かない。
- スクリーンマスク:数量 67,135(スクリーンマスクの出荷(枚・年、推定))× 価格 6.70(1 枚あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 45 億円・営業利益 7 億円。枚数 1.45 倍、売値は物価並み、利益率 15%
- スクリーン印刷用資機材:数量 2,400(資機材の販売(点・年、推定))× 価格 26(1 点あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。1.2 倍、利益率 6%
- 精密電鋳(EF2、九州ソノコム):数量 9,600(電鋳マスク・部品の出荷(枚・年、推定))× 価格 40(1 枚あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 39 億円・営業利益 4 億円。枚数 1.6 倍(有機 EL のマスクが育つ)、利益率 10%
倍率:事業の純利益 7 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)33 億円。全体の PER 14.02 倍、時価総額 138 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI のサーバーと車の電動化で積層セラミックコンデンサの数は長く伸び、太陽誘電・村田という強い顧客を持つ。電鋳の買収が当たれば上振れは大きいので 10%。
やや楽観 22% やや楽観:連結の目標に近づく 利益 6 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 2,887 円106 億円
電子部品の数の伸びに沿って、版の枚数は 10 年で 1.35 倍になる。能力の増強が効き、太陽誘電と村田製作所向けの注文が増える。利益率は 13% 台を保つ。
電鋳の事業は数年かけて立て直り、利益率 7% の黒字に定着する。会社の連結の目標の営業利益 6 億円には、10 年の半ばで届く。
配当は利益とともに増えるが、配当性向は 2 割に届かない。現金と債券は手つかずで積み上がり、少数株主に戻る分は限られる。電鋳と版の両方を持つ会社として、顧客の新しい部品の試作にも呼ばれるようになる。版の会社としての信用は、むしろ高まる 10 年になる。
- スクリーンマスク:数量 62,505(スクリーンマスクの出荷(枚・年、推定))× 価格 6.60(1 枚あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 41 億円・営業利益 6 億円。枚数 1.35 倍、売値 1.32 倍、利益率 13.5%
- スクリーン印刷用資機材:数量 2,300(資機材の販売(点・年、推定))× 価格 26(1 点あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。1.15 倍、利益率 5.5%
- 精密電鋳(EF2、九州ソノコム):数量 8,100(電鋳マスク・部品の出荷(枚・年、推定))× 価格 39(1 枚あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 32 億円・営業利益 2 億円。枚数 1.35 倍、利益率 7%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.4% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)33 億円。全体の PER 13.33 倍、時価総額 106 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社は連結の営業利益 6 億円を目標に掲げ、単体の売上は前の目標 25 億円をすでに超えた。目標に近づく筋書きを 22% と見た。
中立 36% 中立:マスクは電子部品とともに伸び、電鋳は細く黒字 利益 5 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 2,451 円90 億円
版の枚数は電子部品の数とともに、10 年で 1.25 倍になる。売値は物価にわずかに負け、利益率は 12 年の中ほどの 12% に落ち着く。在庫の谷は 10 年の間に 2 度ほど来るが、そのたびに戻る。
電鋳の事業は細い黒字を保つ。大きく伸びはしないが、九州の工場は動き続ける。連結の営業利益は 6 億円近くになる。
配当は 15% 台のまま増え、現金は積み上がる。本業は堅実だが、厚い資本に比べた稼ぎは小さく、株主の取り分は物価並みに増えるにとどまる。10 年後も同じ会社が同じ顔で残り、帳簿だけが厚くなる。
- スクリーンマスク:数量 57,875(スクリーンマスクの出荷(枚・年、推定))× 価格 6.50(1 枚あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 38 億円・営業利益 5 億円。枚数 1.25 倍、売値 1.30 倍、利益率 12%(12 年の中ほど)
- スクリーン印刷用資機材:数量 2,200(資機材の販売(点・年、推定))× 価格 26(1 点あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 6 億円・営業利益 0 億円。1.1 倍、利益率 5%
- 精密電鋳(EF2、九州ソノコム):数量 7,200(電鋳マスク・部品の出荷(枚・年、推定))× 価格 38(1 枚あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。枚数 1.2 倍、売値 1.25 倍、利益率 5%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.2% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)33 億円。全体の PER 13.33 倍、時価総額 88 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子部品の数の伸びに沿ってマスクも伸び、電鋳は小さな黒字を保つ中心の筋書き。過去 12 年の利益率が 6〜16% で振れたことを映して 36%。
やや悲観 20% やや悲観:電子部品の谷と、電鋳の買収の空振り 利益 2 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,188 円44 億円
電子部品の在庫の谷が長引き、版の注文は 10 年たっても少ししか増えない。同業との値段の競争で売値は物価に負け、利益率は 8% に落ちる。
電鋳の事業は立て直せない。有機 EL のマスクで技術の変化に追いつけず、売上は減り、赤字が続く。会社は工場の縮小を迫られる。
配当は据え置かれ、現金の一部は電鋳の赤字の穴埋めに使われる。少数株主に戻る分はさらに細る。電鋳の買収は、現金を働かせる試みとしては裏目に出たことになる。版の工場は動き続けるが、資本の利回りはさらに下がる。株価を支えるのは、手元の現金の厚さだけになる。
- スクリーンマスク:数量 48,615(スクリーンマスクの出荷(枚・年、推定))× 価格 6.00(1 枚あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 29 億円・営業利益 2 億円。枚数 1.05 倍、売値 1.20 倍、利益率 8%
- スクリーン印刷用資機材:数量 1,800(資機材の販売(点・年、推定))× 価格 24(1 点あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。0.9 倍、利益率 3%
- 精密電鋳(EF2、九州ソノコム):数量 4,800(電鋳マスク・部品の出荷(枚・年、推定))× 価格 35(1 枚あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 17 億円・営業利益 −1 億円。枚数 0.8 倍、赤字
倍率:ROE 1.7% が k 7.5% 以下なので、ためた利益は額面未満で、PER の上限は 1÷k=12.1 倍。利益が細り、ためた利益が資本コストを稼がないので上限の 7 割(上限の 70%=9.53 倍)。余った現金 33.0 億円は戻り方 0.50 を掛けて足した。
確率:電子部品は数年おきに在庫の調整で谷が来る。マクセルが手放した事業を立て直すのは簡単ではないので 20%。
悲観 12% 悲観:工法が変わり、マスクの需要が細る 利益 0 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 458 円17 億円
顧客の部品会社が、刷る工法から別の工法に切り替え始める。版の枚数は 10 年で 4 分の 1 減り、残った注文も値段を叩かれる。利益率は 3% まで落ちる。
電鋳の事業は赤字が膨らみ、撤退の手前まで追い込まれる。本業の利益はほぼ消える。会社は現金と債券を取り崩して、赤字と撤退の費用を賄う。
支配株主は現金を配らず、事業の立て直しに使う。少数株主に残るのは、現金の一部と土地に見合う価値だけになる。電子部品の数は伸びても、ソノコムの版はその伸びから外れてしまう。厚い現金があっても、それを使う力が会社に無ければ価値は生まれない。
- スクリーンマスク:数量 34,725(スクリーンマスクの出荷(枚・年、推定))× 価格 5.50(1 枚あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 19 億円・営業利益 1 億円。枚数 0.75 倍、利益率 3%
- スクリーン印刷用資機材:数量 1,400(資機材の販売(点・年、推定))× 価格 22(1 点あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。0.7 倍、収支とんとん
- 精密電鋳(EF2、九州ソノコム):数量 3,000(電鋳マスク・部品の出荷(枚・年、推定))× 価格 33(1 枚あたりの平均の売値(万円・名目))→ 売上 10 億円・営業利益 −1 億円。枚数 0.5 倍、赤字(撤退の手前)
倍率:本業はほぼ利益が出ず、稼ぐ力では値が付かない。床は売れる資産(floor_assets)とし、今の自己資本 93.4 億円の 0.18 倍にあたる 16.8 億円に置いた。
確率:顧客が刷る工法から別の工法に切り替える危うさは有報のリスクにも挙がる。太陽誘電への依存も 17% あるので 12%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
スクリーンマスク
電子部品やプリント基板に電極やはんだを刷る、網目の版(スクリーンマスク)を注文ごとに作る。最大の顧客は太陽誘電。
| 数量スクリーンマスクの出荷(枚・年、推定) | 価格1 枚あたりの平均の売値(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 46,300 | 5.00 | 23 | 3 |
| 10 年後 中立 | 57,875 | 6.50 | 38 | 5 |
取り方:製品の売上 23.15 億円を、1 枚の平均の売値を 5 万円と置いて約 4.6 万枚に割り戻した推定で、開示の実数ではない。単一セグメントなので、営業利益 3.32 億円のうち 3.1 億円をマスク、0.22 億円を資機材と推定して分けた。
スクリーン印刷用資機材
印刷機・スキージ(刷る時のへら)・乳剤などを仕入れて売る。
| 数量資機材の販売(点・年、推定) | 価格1 点あたりの平均の売値(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,000 | 20 | 4 | 0 |
| 10 年後 中立 | 2,200 | 26 | 6 | 0 |
取り方:商品の売上 3.98 億円を 1 点 20 万円で割り戻した推定。仕入れて売る商品で、利幅は薄い。
精密電鋳(EF2、九州ソノコム)
マクセルから買う精密な電鋳の事業。有機 EL の蒸着用マスクなど、金属をめっきで積んで微細な穴を作る。
| 数量電鋳マスク・部品の出荷(枚・年、推定) | 価格1 枚あたりの平均の売値(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6,000 | 30 | 18 | 1 |
| 10 年後 中立 | 7,200 | 38 | 27 | 1 |
取り方:2026 年 7 月に取得する事業で、今の決算には入っていない。売上・利益は開示が無く、会社の連結の目標(売上 50 億円)から単体の 27 億円を引いた年商約 18 億円・営業利益 0.8 億円と推定し、1 枚 30 万円で約 6,000 枚に割り戻した。本社の費用の増分は調整 −0.3 億円。
リスクと懸念
現金が株主に戻らない
支配株主が過半の議決権を持ち、配当性向は 15% 台だ。現金と債券が時価総額を超えても、少数株主はその使い道を決められない。割高な買収に使われる危うさもある。
電子部品の在庫の谷
積層セラミックコンデンサなどの部品は数年おきに在庫の調整が来る。谷では版の注文が急に減り、受注生産の工場は人と設備の費用を抱えたまま利益を落とす。
工法の切り替え
顧客が刷る工法から別の工法に切り替えれば、スクリーンマスクの需要は消える。有報もこの危うさを挙げている。特定の部品の工程に深く入っているぶん、変化の影響も大きい。
電鋳の買収の失敗
マクセルから約 9 億円で買う電鋳の事業は、売上も利益も開示されていない。有機 EL のマスクは技術の変化が速く、立て直しに失敗すれば減損と赤字が続く。
顧客の集中
太陽誘電が売上の 17% を占める。最大の顧客が版の内製や他社への切り替えを進めれば、売上の大きな部分が一度に失われる。
今後の分かれ目
- 配当性向を大きく上げるか、自社株の消却と買い入れを始めたら
- 現金の戻り方を見直し、本質価値は上に動く。
- 電鋳の事業が初年度から黒字なら
- やや楽観の筋書きに寄る。連結の営業利益 6 億円の目標が現実味を帯びる。
- 電鋳の事業で減損を出したら
- やや悲観の筋書きに寄る。現金を働かせる試みが裏目に出た合図だ。
- 創業家が非公開化を発表したら
- その値段しだいで、少数株主は現金の分まで報われうる。
- 電子部品の在庫の調整で受注が 2 割以上落ちたら
- 一時の谷か、工法の変化かを見分ける。後者なら悲観の側に寄る。
見ておくもの
- 電鋳の事業(九州ソノコム)の損益
- 配当性向と自社株の扱い
- 太陽誘電向けの売上
- 積層セラミックコンデンサの業界の受注
倍率と資本コストの決め方
数量はマスクと資機材、電鋳の枚数を売上から推定し、物価は売値に入れた。電鋳の今の数字は開示が無く、会社の連結の目標から推定した。中立の利益率はマスク 12% で、過去 12 年の幅の中ほど。ROE は全筋書きで k を下回り、倍率は 1÷k を上限に掛け目を決めた。現金と債券は買収の対価と運転資金を引いた 44 億円を戻り方 0.5 で足し、今の PBR 0.4 倍は見ていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.52→14.02 倍・やや楽観 PER 10.91→13.33 倍・中立 PER 9.7→13.33 倍・やや悲観 PER 8.48→9.53 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。