結論
ツツミは、金やプラチナの鎖物を中心に、全国145店でジュエリーを売る会社だ。筆者の結論は、今の値段は割高ぎみというものだ。理由は、直近の利益が金相場の急騰という追い風で山になっていること、そして現金の厚みを差し引いても本業の稼ぐ力が小さいことにある。
2026年3月期の売上は4割増え、営業利益は2倍に跳ねた。地金のネックレスやブレスレットが想定を大きく超えて売れたためだ。会社は相場が上がる中でも販売価格への転嫁を抑え、客を集めた。ただ、2027年3月期の第1四半期は地金相場が急落し、評価損が約5億円出た。会社の今期予想も減益だ。
強みは財務にある。自己資本比率は95%で、現金だけで時価総額の8割に近い。倒れる心配はほとんどない。
ただ、その現金は10年以上、使われないまま積み上がってきた。自己資本利益率は10年の中央値が1%と低く、利益の大半は現金に吸われている。
中立の筋書きでは、価値は今の時価総額の3分の2ほどになる。現金があるので大きくは崩れないが、割安とも言えない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ツツミは「財布は厚いが、稼ぎは薄い」会社だ。
まず安全域は財務にある。現金が時価総額の8割に近く、借金はほとんどない。事業が傾いても、すぐには倒れない。ここは評価できる。
一方で、事業の中身は評価しにくい。堀は弱く、値段は金の相場で決まり、婚姻の減少で需要は細る。直近の好業績は、相場の追い風という運に支えられている。オーナーとして持ち続けたい事業とは言いがたい。
最も気になるのは、資本の使い方だ。現金が積み上がっても、事業に使う先が見えず、株主に戻す動きも弱い。現金が帳簿の上で眠っている限り、額面どおりの値打ちは持たない。
筆者は、現金の半分だけを価値に数えた。事業の稼ぎには、低い倍率を付けた。それでも、中立の価値は今の時価総額の3分の2ほどになる。
値段が現金を大きく下回るようなら安全域は厚くなるが、今はそこまで安くない。確信度が下がるのは、金相場の動きと、現金の使い道が見えない点だ。
何で稼ぐ会社か
ツツミは、「ジュエリーツツミ」を全国145店で展開する宝飾品の専門店だ。本社は埼玉県蕨市。企画、原材料の買い付け、製造、販売までを一貫して手がけ、工場は蕨市と群馬県にある。直営店のほか、取引先への卸売もある。
売上の6割強は、ネックレスとブレスレットだ。金やプラチナの鎖物が中心で、値段は地金の相場にそのまま連動する。残りは指輪が約2割、ピアスなどの小物が約2割。婚約や結婚の指輪は、売上の柱というより、客を店に呼ぶ入口の役目が強い。
出店先は、主にショッピングセンターの中だ。関東に88店が集まり、近畿や中部、九州にも店がある。賃貸借の契約で入るので、家賃は固定の約束になる。ここ数年は不採算の店を整理していて、店数は前期末より6店減った。
稼ぎ方の核は、自社で作ることだ。金の原料を自社で買って加工するため、相場が上がる時は在庫の値打ちが上がり、下がる時は評価損が出る。2026年3月期は前者が追い風になった。2027年3月期の第1四半期は、後者が出た。
会社の姿勢は慎重だ。借金はほとんどなく、現金と預金が潤沢にある。配当は利益の約半分を目安に払う。
優良さと弱いところ
筆者は、ツツミの堀(他社がまねしにくい強み)は「弱い」とみる。
強みは2つある。1つ目は、企画から製造、販売までを一社で回す力だ。仲介を挟まないぶん、原価を抑えやすい。2つ目は、金を安く買って、相場が上がった時に在庫の値打ちを取る力だ。ただし、これは相場の運であり、堀ではない。
弱みは多い。値段は金の相場で決まり、自分で決められない。店はショッピングセンターの中にあり、ブランドの力は強くない。婚姻の数は年50万組を割り込み、結婚指輪の需要は長く細る。若い世代が宝飾品を買う機会も減っている。
資本効率は低い。自己資本利益率は10年の中央値が1%で、直近の5.3%も金相場の追い風が乗った数字だ。利益率も、4〜9%台が長く続いた末の14.9%で、山にある。
経営は堅実だが、現金の使い道に工夫は見えない。配当は出すが、自社株買いや大きな再投資は見当たらない。財務の堅さは評価するが、資本の使い方は評価が分かれる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の宝飾品市場は、長期で縮んでいる。婚姻の数が減り、結婚指輪の需要が細る。若い世代は宝飾品より体験にお金を使う。百貨店の宝飾売り場も縮み、専門店チェーンとネット通販が客を分け合う。
一方で、2024年から2026年にかけて、金の相場が急騰した。金は安全資産として買われ、国内でも「持つための金」を買う人が増えた。店では、地金のネックレスやブレスレットが、投資と装飾の中間の商品として売れた。ツツミは、この波に乗った会社だ。
相場の急騰は、数量にも値段にも効く。値段は相場に連動して上がる。数量は、上がりすぎると手を出しにくくなるが、「値上がりする前に買う」動きが出ると、一時的に増える。2026年3月期は後者が出た。
波は永遠には続かない。2026年の春から夏にかけて、地金相場は急に下がった。金を扱う宝飾店は、相場の下落で在庫の評価損を抱える。売上も、買い急ぎの反動で落ちやすい。
長期で見れば、金相場は物価に沿って上がると考えるのが自然だ。ただ、急騰後の反動をどう見るかで、10年の利益の置き方が大きく変わる。
競合は、百貨店系、他の専門店チェーン、ネット通販が入り乱れる。規模は大きくなく、ブランドの差は小さい。
資本政策と M&A
還元は、配当が中心だ。2026年3月期は、年間の配当が利益の約5割だった。自社株買いは、見当たらない。
株主優待は、自社商品の15%割引券だ。100株以上に1枚、500株以上に2枚を贈る。電子チケットに切り替えた。使うには店で買い物をする必要があるため、実際の費用は小さく、年1億円に満たないとみる(推定)。差は1ポイントに届かないので、価値には足していない。
現金は厚い。現金及び現金同等物は約322億円で、有利子負債はほとんどない。時価総額の8割に近い。この現金は、10年以上、ほぼ手つかずで残ってきた。株主への還元は、利益の範囲にとどまる。
買収や大型の投資は、これまで見当たらない。政策保有株は、必要がなければ売却する方針だ。2026年3月期に不動産の売却益が0.75億円出た。
ガバナンスの面では、大株主の情報を確認できなかった。参考として、kabufuの推計では、10年以内の買収の確率は約28%だ。現金が厚く、時価総額が帳簿の資産より小さいため、買収側には魅力的に映る。ただ、筆者は買収を前提にした確率は置いていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ツツミは、金相場の上昇という大きな追い風の中心にいる。2026年3月期は売上が4割増え、営業利益は2倍になった。会社は相場が上がっても販売価格への転嫁を抑え、客を集めた。この「安く売る戦略」は、店の来客数と認知度を押し上げる。
金は、世界の中央銀行が買い増し、個人の投資需要も強い。相場が高止まりすれば、地金のネックレスやブレスレットは、これからも売れ続ける。自社で原料を買って製造するため、相場の上がり局面では在庫の値打ちも上がる。
財務の安全は極めて厚い。自己資本比率は95%で、現金は時価総額の8割に近い。今の値段は、本業の価値をほとんど織り込んでいない。現金を差し引くと、時価総額の残りは約65億円にすぎない。それで営業利益が40億円以上ある事業が手に入る。
配当も増えている。現金が眠っているという批判は、増配と自社株買いが始まれば消える。完全子会社化や、物言う株主の登場で、現金の使い道が変わる可能性もある。
慎重な見方
今の利益は、金相場が作った山だ。2026年3月期の営業利益率14.9%は、過去10年の最高で、それまでは4〜9%台だった。会社自身も、今期は営業利益が約24%減ると見ている。
地金相場は、すでに急落した。2027年3月期の第1四半期には、原材料と仕掛品の評価損が約5億円出た。相場が上がった時に儲かる事業は、下がった時に損をする。これは事業の実力ではなく、相場への賭けだ。
本業は縮んでいる。婚姻の減少で指輪は売れず、若い世代の宝飾離れも進む。店はショッピングセンターの中にあり、家賃は固定の約束だ。店数は前期末に6店減った。ブランドの力は弱く、値段を自分で決められない。
現金は厚いが、10年以上、使われていない。自己資本利益率が1%台の会社に、現金を戻す動機は弱い。現金が帳簿の額面どおりに評価されるとは限らない。
今の時価総額は、帳簿の自己資本の約0.55倍だが、これは割安の根拠にならない。稼げない資産に、帳簿の値は付かない。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分で強いのは、財務の堅さと、現金の厚みだ。慎重な見方で強いのは、利益が相場の山にあることと、現金が眠り続けてきた事実だ。筆者は、現金の戻り方を半分とし、事業の利益率を山から下げた。確率は、やや悲観を24%、悲観を10%と、下側に厚く寄せた。結果として、価値は今の時価総額を下回る。ただし、現金の厚みで悲観の下値は支えられるため、割高の程度は限られる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,618 円565 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,083 円169 億円)。 今の値に割り戻すと 2,461 円385 億円、今との差 −1.0%、 期待の年率 +6.6%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,306 円829 億円 | 1,536 円240 億円 | +175.3% | +10.7% | 547 円86 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,646 円726 億円 | 1,280 円200 億円 | +138.5% | +9.1% | 1,185 円185 億円 |
| 中立 | 38% | 4,252 円665 億円 | 1,152 円180 億円 | +117.5% | +8.1% | 2,054 円321 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,217 円346 億円 | 896 円140 億円 | +25.3% | +2.3% | 747 円117 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,167 円182 億円 | 512 円80 億円 | −32.5% | −3.8% | 168 円26 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,618 円565 億円 | 1,083 円169 億円 | +89.2% | +6.6% | 4,701 円735 億円 |
今の株価時価総額 2,485 円388 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 金相場が高止まりし、鎖物の稼ぎが続く 利益 48 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 5,306 円829 億円
金は、中央銀行や個人の買いに支えられ、高い水準を保つ。ツツミの鎖物は、投資と装飾の中間の商品として定着し、客が店に戻ってくる。会社は転嫁を抑えながら、自社の製造と原料の買い付けで利益率を保つ。
数量は、今の水準を少し上回る。値段は金の上昇に沿って、物価を上回って上がる。指輪と小物も、婚約の入口として来店が増え、横ばいを保つ。
営業利益率は12%を超え、直近の山(14.9%)には届かないが、過去の長い平均よりはるかに高い。現金の利息も増え、純利益は大きく伸びる。
ただし、相場が高止まりし、客が離れないという条件は強気だ。店数が減る中で、数量を保つ難しさも残る。
- ネックレス・ブレスレット(地金系を含む):数量 28.7(ネックレス・ブレスレットの販売点数(万点/年))× 価格 1.40(1点あたり売上の指数(今=1.00=約8万円。金・プラチナの相場を含む))→ 売上 321 億円・営業利益 45 億円。ネックレス・ブレスレットの販売 28.7 万点/年、1点あたり売上は今の 1.40 倍、営業利益率 14.0%
- 指輪:数量 12.9(指輪の販売点数(万点/年))× 価格 1.38(1点あたり売上の指数(今=1.00=約6万円))→ 売上 107 億円・営業利益 11 億円。指輪の販売 12.9 万点/年、1点あたり売上は今の 1.38 倍、営業利益率 10.0%
- 小物(ピアス・ペンダントなど):数量 16.4(小物の販売点数(万点/年))× 価格 1.38(1点あたり売上の指数(今=1.00=約3.5万円))→ 売上 79 億円・営業利益 8 億円。小物の販売 16.4 万点/年、1点あたり売上は今の 1.38 倍、営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 45 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 829 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金相場が高止まりし、鎖物の売れ行きも落ちない必要がある。相場の動きは読めず、条件が重なるので8%にとどめた。
やや楽観 20% 相場の山から少し下げて、利益率は11%を保つ 利益 39 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 4,646 円726 億円
金相場は高めの水準を保つが、急騰の勢いは消える。鎖物の数量は少し減り、値段は物価を少し上回って上がる。指輪と小物は、婚姻の減少を、値段の上昇で補う。
営業利益率は11%ほどに下がる。山の水準から落ちるが、2020年代前半の6〜8%より高い。店数は少しずつ減るが、残った店の効率は上がる。
現金の利息が増え、純利益は38億円台を保つ。配当は毎年増える。
筆者は、この筋書きを「相場の追い風が半分残る姿」とみる。山の利益を完全には守れないが、会社の運営力で、普通の水準よりは上に着地する。
店数の整理で固定費が軽くなる点も、この筋書きを支える。ただし婚姻の減少は止まらず、指輪の数量は少しずつ細る。配当は利益の半分ほどを払い続け、現金は少しずつ積み上がる。
- ネックレス・ブレスレット(地金系を含む):数量 26.0(ネックレス・ブレスレットの販売点数(万点/年))× 価格 1.30(1点あたり売上の指数(今=1.00=約8万円。金・プラチナの相場を含む))→ 売上 270 億円・営業利益 35 億円。ネックレス・ブレスレットの販売 26.0 万点/年、1点あたり売上は今の 1.30 倍、営業利益率 13.0%
- 指輪:数量 12.3(指輪の販売点数(万点/年))× 価格 1.34(1点あたり売上の指数(今=1.00=約6万円))→ 売上 99 億円・営業利益 8 億円。指輪の販売 12.3 万点/年、1点あたり売上は今の 1.34 倍、営業利益率 8.5%
- 小物(ピアス・ペンダントなど):数量 15.7(小物の販売点数(万点/年))× 価格 1.34(1点あたり売上の指数(今=1.00=約3.5万円))→ 売上 74 億円・営業利益 6 億円。小物の販売 15.7 万点/年、1点あたり売上は今の 1.34 倍、営業利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 35 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.2% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 704 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:鎖物が高めの水準を保ち、本業の利益率が山から小さく下がる姿は十分ありうる。ただし直近が山なので、強気には寄せない。20%。
中立 38% 鎖物の売れ行きが落ち着き、利益率は9%台に戻る 利益 31 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 4,252 円665 億円
金の相場は物価に沿って上がるが、急騰した反動で、数量は細る。鎖物の販売点数は、今の85%まで減る。値段は物価ほどには上がらず、10年で25%の上昇にとどまる。急騰の分は、ならして見る。
指輪と小物は、婚姻の減少で1割ほど減る。店数も、不採算の店を閉じて少しずつ減る。家賃や人件費は物価で増え、本社の費用も同じペースで増える。
営業利益率は9%台と、直近の14.9%よりずっと低く、過去の山(14.9%)を超えない。ただ、4〜9%台だった長い平均よりは高い。
現金の利息は、金利の上昇で増える。純利益は営業利益の8割強に達し、30億円を少し超える。配当は利益の6割ほどを払い、自己資本は少しずつ増える。
- ネックレス・ブレスレット(地金系を含む):数量 23.3(ネックレス・ブレスレットの販売点数(万点/年))× 価格 1.25(1点あたり売上の指数(今=1.00=約8万円。金・プラチナの相場を含む))→ 売上 233 億円・営業利益 27 億円。ネックレス・ブレスレットの販売 23.3 万点/年、1点あたり売上は今の 1.25 倍、営業利益率 11.5%
- 指輪:数量 11.7(指輪の販売点数(万点/年))× 価格 1.32(1点あたり売上の指数(今=1.00=約6万円))→ 売上 93 億円・営業利益 7 億円。指輪の販売 11.7 万点/年、1点あたり売上は今の 1.32 倍、営業利益率 7.5%
- 小物(ピアス・ペンダントなど):数量 15.1(小物の販売点数(万点/年))× 価格 1.32(1点あたり売上の指数(今=1.00=約3.5万円))→ 売上 70 億円・営業利益 5 億円。小物の販売 15.1 万点/年、1点あたり売上は今の 1.32 倍、営業利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.3% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 610 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金相場は物価に沿って上がるが、急騰の反動で数量は細る。店数も減り、利益率は山から下がって9%台に戻る。いちばん実態に近い置き方で、最大の確率を置く。
やや悲観 24% 宝飾離れと相場の反動で、利益が半分以下になる 利益 18 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 2,217 円346 億円
婚姻の減少に加えて、若い世代の宝飾離れが進む。金相場の急騰の反動で、鎖物の買い急ぎが一巡し、数量は今の7割まで落ちる。値段も、相場の落ち着きで物価に届かない。
店数は減り続け、家賃の固定費が重くなる。指輪と小物も、数量が2割弱落ちる。営業利益率は6%に下がり、コロナ前の水準に戻る。
純利益は17億円ほどで、直近の半分に満たない。現金の利息があるので赤字にはならないが、本業の稼ぎは小さい。配当は絞るが、現金があるので維持できる。
筆者は、これを「山のあとの普通の谷」とみる。事業は壊れないが、成長の芽もない。現金が支えだ。
- ネックレス・ブレスレット(地金系を含む):数量 19.2(ネックレス・ブレスレットの販売点数(万点/年))× 価格 1.15(1点あたり売上の指数(今=1.00=約8万円。金・プラチナの相場を含む))→ 売上 177 億円・営業利益 14 億円。ネックレス・ブレスレットの販売 19.2 万点/年、1点あたり売上は今の 1.15 倍、営業利益率 8.0%
- 指輪:数量 10.4(指輪の販売点数(万点/年))× 価格 1.25(1点あたり売上の指数(今=1.00=約6万円))→ 売上 78 億円・営業利益 4 億円。指輪の販売 10.4 万点/年、1点あたり売上は今の 1.25 倍、営業利益率 5.0%
- 小物(ピアス・ペンダントなど):数量 13.9(小物の販売点数(万点/年))× 価格 1.25(1点あたり売上の指数(今=1.00=約3.5万円))→ 売上 61 億円・営業利益 3 億円。小物の販売 13.9 万点/年、1点あたり売上は今の 1.25 倍、営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益(現金の利息を除く)の自己資本利益率は2.6%で資本コスト7.75%に届かない。ためた利益は額面未満の価値なので、上限 1÷k=11.8倍より低く置いた(ROE÷k の比では約3.6倍)。山のあとの谷でも、土地と在庫が厚いので、ROE÷kの比(3倍台)までは下げず、上限1÷kの7割弱に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8 倍・時価総額 306 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:婚姻の減少と若い世代の宝飾離れが重なり、鎖物の買い急ぎの反動も出る。利益がコロナ後の谷の水準に近づく。山のあとに谷が来るのは、過去の業績を見ても繰り返された。強気側より少し重く24%。
悲観 10% 相場が崩れ、店を畳んで縮む 利益 4 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,167 円182 億円
金の相場が大きく崩れる。在庫の評価損が出て、売上は急に落ちる。買い急ぎの反動に、宝飾離れと婚姻の減少が重なり、数量は今の半分近くまで細る。値段も下がり、利益率は1%に満たない。
会社は店を大きく畳むが、賃貸借の契約の解約には費用がかかる。工場の稼働も落ち、減損が出る。営業利益は赤字寸前になる。
もはや優良な会社ではなく、配当も大きく絞る。この場合の価値は、稼ぐ力でなく、現金と売れる資産(土地)で測る。現金は厚く、倒れる心配はない。ただし、使い道がない現金は、帳簿の半分の値打ちしか持たない。
現金の利息があるので赤字は小さいが、本業は縮小の局面に入る。経営は店の整理と工場の集約を急ぎ、配当を絞って現金を守る。少数株主には、現金の使い道を決める力がない。
- ネックレス・ブレスレット(地金系を含む):数量 13.7(ネックレス・ブレスレットの販売点数(万点/年))× 価格 1.00(1点あたり売上の指数(今=1.00=約8万円。金・プラチナの相場を含む))→ 売上 110 億円・営業利益 2 億円。ネックレス・ブレスレットの販売 13.7 万点/年、1点あたり売上は今の 1.00 倍、営業利益率 2.0%
- 指輪:数量 8.4(指輪の販売点数(万点/年))× 価格 1.15(1点あたり売上の指数(今=1.00=約6万円))→ 売上 58 億円・営業利益 1 億円。指輪の販売 8.4 万点/年、1点あたり売上は今の 1.15 倍、営業利益率 1.0%
- 小物(ピアス・ペンダントなど):数量 11.5(小物の販売点数(万点/年))× 価格 1.15(1点あたり売上の指数(今=1.00=約3.5万円))→ 売上 46 億円・営業利益 1 億円。小物の販売 11.5 万点/年、1点あたり売上は今の 1.15 倍、営業利益率 1.0%
倍率:事業の純利益は4億円と、現金の利息が大半で、本業の稼ぐ力は小さい。現金の戻り方を半分とみて、現金と売れる資産の合計を床とし、今の自己資本701億円の0.26倍(約180億円)に置いた。
確率:金相場が大きく崩れ、在庫の評価損と売上の落ち込みが重なる。ブランドの力が弱く、値段を決められないため、赤字の年もありうる。2016年と2017年に赤字だった前例があり、5%を上回る1割を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ネックレス・ブレスレット(地金系を含む)
金・プラチナの鎖物(ネックレス・ブレスレット)。売上の6割強で、地金の相場が価格に直結する。
| 数量ネックレス・ブレスレットの販売点数(万点/年) | 価格1点あたり売上の指数(今=1.00=約8万円。金・プラチナの相場を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 27.4 | 1.00 | 219 | 40 |
| 10 年後 中立 | 23.3 | 1.25 | 233 | 27 |
取り方:数量は販売点数。有価証券報告書の商品別売上(開示)は、ネックレス・ブレスレットが219億円。平均の1点あたり売上を約8万円と置いて約27.4万点と推定した。点数と単価は開示がなく推定。2026年3月期は、地金の高騰で売上が4割増えたが、会社は販売価格への転嫁を抑えた。営業利益はセグメント別の開示がなく、全社の営業利益52.4億円のうち約39.5億円と推定(利益率18%。直近は山)。
指輪
婚約・結婚指輪やファッションリング。
| 数量指輪の販売点数(万点/年) | 価格1点あたり売上の指数(今=1.00=約6万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 13.0 | 1.00 | 78 | 9 |
| 10 年後 中立 | 11.7 | 1.32 | 93 | 7 |
取り方:数量は販売点数。商品別売上(開示)は77.7億円。平均の1点あたり売上を約6万円と置いて約13万点と推定。点数と単価は開示がなく推定。営業利益は約8.5億円(利益率11%)と推定。
小物(ピアス・ペンダントなど)
ピアス・ペンダント・チャームなどの小物。
| 数量小物の販売点数(万点/年) | 価格1点あたり売上の指数(今=1.00=約3.5万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 16.4 | 1.00 | 57 | 6 |
| 10 年後 中立 | 15.1 | 1.32 | 70 | 5 |
取り方:数量は販売点数。商品別売上(開示)は57.4億円。平均の1点あたり売上を約3.5万円と置いて約16.4万点と推定。点数と単価は開示がなく推定。営業利益は約5.5億円(利益率9.6%)と推定。全社の合計は営業利益52.4億円に合わせ、本社費などの調整を約-1.1億円とした。
リスクと懸念
金相場の急落
鎖物は売上の6割強で、値段も在庫の値打ちも金の相場で決まる。2027年3月期の第1四半期は、相場の急落で評価損が約5億円出た。相場が崩れれば、売上も利益も大きく落ちる。
利益の山からの反動
2026年3月期の営業利益率14.9%は、過去10年の最高だ。買い急ぎの需要は一巡すれば戻ってこない。会社自身も、今期は営業利益が約24%減ると予想している。
婚姻の減少と宝飾離れ
婚姻の数は年50万組を割り込み、結婚指輪の需要は長く細る。若い世代が宝飾品を買う機会も減っている。指輪と小物は、数量が構造的に減る事業だ。
ショッピングセンターの家賃と店数
店はショッピングセンターに賃貸借で入り、家賃は固定の約束だ。前期の賃借料は約5億円増えた。客が減れば固定費の負担が重くなり、店の整理が続く。
現金の眠り
現金は約322億円で、10年以上ほぼ手つかずだ。自己資本利益率は低く、現金が事業に使われない限り、株主の価値には直結しない。使い道の改善が見られない点がリスクだ。
原料調達と在庫の評価
金などを自社で買い付けて製造するため、在庫が大きい。仕入れの値と相場のずれで、評価損や評価益が大きく出る。会計上の利益が、実力以上に揺れる。
大株主と買収
大株主の情報を確認できなかった。現金が厚く時価総額が帳簿より小さいため、買収の対象になりやすい。kabufuの推計では10年以内の買収の確率は約28%。ただし、買収を前提にはしていない。
今後の分かれ目
- 地金相場が高水準を保ち、鎖物の販売点数が前年を上回り続けたら
- 営業利益率が12%を超える筋書き(楽観・やや楽観)に確率を寄せる。
- 地金相場が大きく下がり、評価損が続けて出たら
- 利益が谷に向かう筋書き(やや悲観・悲観)に確率を寄せる。
- 自社株買いが始まり、総還元性向が10割を超えたら
- 現金の戻り方を1.0に近づけて価値を見直す。
- 店数の整理が進み、1店あたりの利益が上がり続けたら
- 本業の利益率が上がるので、やや楽観に確率を寄せる。
- 婚姻の数が一段と減り、指輪の売上が2割以上落ちたら
- 指輪の数量を下げて、中立の利益を見直す。
- 他社や投資家が買収を持ちかけたら(現金が厚く、時価総額が帳簿の資産より小さい)
- 買収の価格で価値が確定する筋書きが加わる。ただし筆者は、買収を前提にした確率は置いていない。
見ておくもの
- 地金相場の水準と、評価損益の大きさ
- ネックレス・ブレスレットの販売点数と、既存店の売上
- 営業利益率(14.9%の山から下がる速さ)
- 店数と家賃(賃借料)の増減
- 配当性向と、自社株買いの有無
- 現金及び現金同等物の推移と、使い道
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の自己資本利益率と資本コスト7.75%から、ROEがkを下回るため上限1÷k=11.8倍の枠の中で、ROE÷kの比を目安に7倍に置いた。市場の倍率は使っていない。現金は、事業に要らない約250億円を分け、戻り方0.5を掛けて足した。今の株価は筋書きを作ったあとで比べただけで、今の値段が倍でも半分でも、価値の計算は変わらない。点数と単価は開示がなく、商品別売上からの逆算で推定した。金相場は、急騰後の高止まりを物価に沿って伸ばしつつ、鎖物の数量を下げて反動を織り込んだ。新リース会計基準は2028年3月期から効くが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。同じ領域の会社が済んでいないため、物差しは式から直接出した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→12.9 倍・やや楽観 PER 8.5→12.9 倍・中立 PER 7→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質+1.0%を足した8.5%。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.75%。