結論
フルヤ金属は、イリジウムやルテニウムといった希少な貴金属を、半導体や記憶装置の部材に加工する会社だ。単結晶を育てるイリジウムるつぼ、有機ELの発光材料に使う化合物、ハードディスク用のルテニウムターゲットで、自社調べの世界シェアは7〜9割に達する。
筆者の結論は「割高」だ。理由は一つで、2026年6月期の営業利益248億円が、ルテニウムとイリジウムの値段が跳ね上がった年の数字だからである。金属の値段が平常に戻れば、利益は今期ほどにはならない。
事業そのものは優れている。顧客は限られ、素材は代わりがきかず、リサイクルで金属を取り戻す技術も持つ。中期計画の目標は2030年6月期で売上1,500億円、経常利益200億円だ。筆者が置いた中立の10年後も、営業利益は200億円前後である。優良企業としては十分な稼ぎだが、10年たっても今の時価総額を超える水準には届かない。
上振れの余地は、AIデータセンターの投資が続き、金属の値段も高いまま保たれる場合に開く。その時は時価総額が今の1.7倍になりうる。一方で、記録方式の転換や代替材料で需要が細る道もある。強気と慎重の見方を並べると、慎重な見方のほうが強い。確率はそちらに寄せた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に問うのは、10年後も同じ稼ぎがあるかである。フルヤ金属は、ニッチな需要に深く根を張った事業だ。10年後も存在する可能性は高い。しかし、稼ぎの大きさは、ルテニウムとイリジウムの値段と、用途が続くかで大きく変わる。予測しやすい事業ではない。
次に、稼いだ利益のうち、株主が自由に使える分を考える。設備投資は営業利益の半分に満たず、現金を生む力は強い。ところが、手元に積み上がったお金を自社の事業で高く回せるかは未知数だ。ためるだけなら、ROEは年々下がる。経営がためた資金をどう使うかが、長期保有の決め手になる。
堀は広いが浅い。シェアは高いが、市場は小さく、技術の転換点を一つ誤れば需要が消える。HAMRへの移行、水素需要の波、スマートフォン向けの落ち込みは、すでに起きた例だ。
最後に値段である。2026年6月期の利益は、金属が高い年の数字だ。この利益を平常と見て倍率を掛ければ、割安に見える。筆者は、平常の利益に妥当な倍率を掛けた値段こそ本質価値と考え、今の値段にはその分の安全域がないと判断する。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は「貴金属を、顧客が使える形に変える」ことだ。イリジウム、ルテニウム、白金など加工の難しい金属を、純度99.999%まで精製し、板・るつぼ・粉末・化合物に仕上げる。使い終わった金属を顧客から引き取り、精製して戻すリサイクルも手がける。
事業は五つに分かれる。薄膜は、ハードディスク(HDD)の記録層に使うルテニウムターゲットが売上の約5割を占める。残りは半導体向けで、EUV露光のマスクブランクス用ルテニウム合金、BAWフィルタ向けのアルミニウムスカンジウムが育っている。2026年6月期の売上は180億円で、営業利益率は5割を超えた。
電子は、単結晶を育てる容器であるイリジウムるつぼが主力だ。売上の約5割は、医療用PET装置に使うシンチレータ向けである。国内のスマートフォン向けは受注が大きく減ったが、米国の医療向けが補った。ファインケミカル・リサイクルは、有機EL用の化合物と燃料電池などの電極触媒、そして精製が柱になる。サーマルは、半導体の拡散炉で温度を測る熱電対を作る。国内シェアは約7割だ。
サプライチェーン支援は、貴金属の売買である。顧客の金属調達を助ける仕事で、売上は大きいが利益率は12%程度にとどまる。2026年6月期は金属の値上がりで売上が約2.5倍の190億円に膨らんだ。会社の稼ぎの質は、この売買の分だけ見かけより薄い。
優良さと弱いところ
この会社の堀は、ほかの金属加工会社が簡単にまねできない技術と信用にある。イリジウムは融点が高く、固く、割れやすい。るつぼに仕上げるには、長年の加工ノウハウが要る。有機EL用のイリジウム化合物は、自社調べで世界シェア90%だ。単結晶用るつぼと、HDD向けの純ルテニウムは70%とされる。いずれも市場は小さく、大手が本気で参入するには旨味が足りない。
資本の効率も高い。過去10年のROEの中央値は18.6%で、2026年6月期は20.5%だった。ただし高いROEの中身を疑う必要がある。2025年6月期は10%まで落ちており、金属の値段と受注の波で大きく振れてきた。2009年6月期には営業利益率がマイナス20%の赤字も経験している。
弱みは三つある。第一に、売上の大半が金属の値段に連動する。値段の転嫁は進むが、在庫の評価益が利益を押し上げる面は否めない。第二に、顧客と用途が少ない。HDD、医療用PET、有機ELの三つが柱で、どれかが崩れると響く。第三に、需要を握る技術が変わると影響を受ける。HDDは熱アシスト記録(HAMR)に移ると、ルテニウムが減ってイリジウムが増えると会社自身が説明している。
経営の資本配分は堅実だ。大型の買収はなく、設備投資は新千歳工場など自社の増強に向けられている。ただし配当性向は25%以上という低い目安にとどまり、利益をためやすい。ためたお金を高い収益で使い切れるかが、これからの宿題になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の市場は、金属の値段と、AI・半導体・医療の需要という二つの波に挟まれている。
需要面の追い風は強い。AIデータセンターではHDDの寿命が想定より延び、ルテニウムターゲットの需要は今後5年ほど続くと会社は見ている。EUV露光のマスクブランクス向けルテニウム合金は、HOYA、AGC、信越化学の3社向けに立ち上がり始めた。医療用PET装置向けのイリジウムるつぼは米国で伸びている。
値段面は複雑だ。ルテニウムは2025年に1オンス500ドル前後だったが、2026年3月には1,700ドルを超えたとされる。イリジウムは2025年に水素需要の失速で下がり、2026年2月の会社前提は高い水準だった。どちらも白金やパラジウムの採掘の副産物で、供給を増やしにくい。需要がAIで強まれば高止まりしうる。だが投機的な買いが引けば、急に下がることもある。
競合は、国内外の貴金属加工の専業数社で、田中貴金属工業やヘレウス、ジョンソン・マセイなどが挙げられる。各社とも自社調べでしか数字を出さず、市場の大きさは不明だ。筆者は、この領域に新しく大手が入る可能性は低いと見る。
技術の分かれ目は記録方式にある。HAMRに移るとルテニウムの使用量は大きく減るが、代わりにイリジウムのターゲットが増える。EUV向けと合わせて、会社の稼ぎがルテニウム一本から分散する流れでもある。一方、スマートフォン向けSAWフィルタ用のるつぼのように、需要がまとめて落ちる例もある。需要の波は大きいと考えておくべきだ。
資本政策と M&A
還元の方針は、配当性向25%以上である。2026年6月期の配当は前の年より大きく増え、2027年6月期はさらに増やす計画だ。ただし、実績は10年間で2〜4割台にとどまり、自社株買いの実績は確認できなかった。利益の多くは社内に残る。
投資は積極的だ。今後2年で設備投資に約100億円を使う。内訳は半導体向けの新千歳工場とナノ技術向けのつくば工場隣地である。新千歳工場は45億円を投じ、2027年春に本格稼働する。石英保護管の能力を2倍にする。
M&Aは、これまで大きなものがない。政策保有株は1銘柄のみと少ない。新しい柱の候補として、チップレット、光電融合、グリーン水素などを挙げ、2030年に600億円規模を目指す。だが、新規事業が収益を生む前に、金属の値段の変動で利益が振れる点は見ておく必要がある。
TOBの可能性は、外部の推計で10年以内に16%程度とされる。時価総額は2,500億円超で、買い手は海外の貴金属大手か素材会社に限られる。この確率は価値の計算には入れていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIデータセンターの投資はまだ序盤で、HDDの需要は想定より長く続く。ルテニウムターゲットの需要が5年続いたあとも、HAMRへの移行でイリジウムターゲットが増え、薄膜の売上は途切れない。EUVのマスクブランクス向けルテニウム合金は、HOYA、AGC、信越化学と取引が始まったばかりで、先端半導体の投資とともに伸びる。アルミニウムスカンジウムもBAWフィルタ向けに量産が見えている。
金属の値段も追い風だ。ルテニウムは2026年3月に過去最高値をつけ、イリジウムも供給を増やしにくい。需要が強い限り、値段は高止まりしうる。会社の中期計画は、イリジウムを1オンス3,925ドル、ルテニウムを490ドルとして立てた。実際の値段はそれを大きく上回っている。計画を超える可能性は高い。
事業の幅も広がる。2026年6月期は新しい柱の売上が70億円だった。それを2030年に600億円へ育てる計画だ。チップレット、光電融合、グリーン水素のどれか一つでも当たれば、利益は大きく上乗せされる。有機EL用のイリジウム化合物は世界シェア90%で、発光材料が青色に広がれば、需要はさらに増える。
財務は健全で、営業CFは158億円、FCFは118億円ある。設備投資は営業CFの範囲で賄え、配当も増やせる。10年の間に、ニッチの堀を保ったまま、営業利益が500億円を超える道がある。
慎重な見方
2026年6月期の利益は、金属の値段が跳ねた年の数字だ。ルテニウムは1年で3倍になった。投機的な買いが引けば、同じ幅で下がりうる。その時、在庫の評価益は消え、サプライチェーン支援の売上も減る。2025年6月期の営業利益は95億円にすぎず、今期の248億円は異例である。
HDDの需要は、いつまでも続かない。会社自身が、HAMRに移ればルテニウムの使用量は大きく減ると説明している。イリジウムターゲットが増えても、金属の値段と量が同じとは限らない。EUV向けとアルミニウムスカンジウムは小さな市場で、HDDの穴を埋めるにはまだ足りない。アルミニウムスカンジウムの材料は中国からの供給が遅れており、調達も不安定だ。
用途は少ない。イリジウムるつぼは、国内のスマートフォン向けが大きく落ち込んだ。米国向けの関税も15%かかる。PETや有機ELの需要が崩れれば、電子とファインケミカルが同時に傷む。
2027年6月期の利益計画は、売上を横ばいに置いて営業利益が6.9%増える。値段の高止まりに頼る計画だ。金属が平常に戻る場合、計画は達成できない。それなのに株価は短期間で大きく上がり、2026年6月期の純利益の16倍になっている。倍率の面でも、今の値段は先の好調を相当に織り込んでいる。
どちらに重みを置いたか
事業の堀では強気の見方に分がある。しかし値段の議論では、慎重な見方が強い。今の利益は金属価格の高騰に押し上げられており、平常の稼ぎで測れば本質価値は時価総額を大きく下回る。中立の確率を最も厚くし、そのうえで、やや悲観に楽観と同じ重みを置いた。金属価格の下落と記録方式の転換という二つの悲観の理由は、どちらも一度起きれば戻りにくいからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 8,787 円2,162 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,889 円711 億円)。 今の値に割り戻すと 6,036 円1,485 億円、今との差 −36.0%、 期待の年率 +2.2%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 23,627 円5,812 億円 | 5,114 円1,258 億円 | +204.8% | +11.8% | 3,449 円848 億円 |
| やや楽観 | 20% | 13,732 円3,378 億円 | 3,862 円950 億円 | +86.6% | +6.4% | 3,519 円866 億円 |
| 中立 | 34% | 7,343 円1,806 億円 | 2,968 円730 億円 | +9.3% | +0.9% | 3,506 円862 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,601 円640 億円 | 1,980 円487 億円 | −51.4% | −7.0% | 1,008 円248 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,138 円280 億円 | 488 円120 億円 | −82.8% | −16.1% | 195 円48 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,787 円2,162 億円 | 2,889 円711 億円 | +23.8% | +2.2% | 11,676 円2,872 億円 |
今の株価時価総額 9,430 円2,320 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 12% 金属高が続き、複数の用途が育つ 利益 343 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 23,627 円5,812 億円
AIの投資が続き、HDDのルテニウム需要が長引く。そのうえHAMRへの移行でイリジウムターゲットが増え、EUV向けのルテニウム合金、BAW向けのアルミニウムスカンジウムも伸びる。ルテニウムとイリジウムは高値圏で推移し、薄膜と電子は数量が2倍を超える。新しい柱の候補のうち一つが事業として育ち、売上は2,500億円規模、営業利益は500億円台になる。配当を増やしながらも、利益の多くは投資に回る。ROEは17%前後を保つ。10年たっても市場は小さいまま堀が守られる、最良の10年である。会社が掲げる2030年の目標(売上1,500億円)は、この筋書きでは数年前倒しで達成される。EUV、PET、有機ELのどれにも需要の谷が来ず、ルテニウムとイリジウムの在庫の評価益も長く残る前提だ。
- 薄膜(ルテニウム等ターゲット):数量 5,280(加工するルテニウム等の量(kg))× 価格 788(1kgあたり売上(万円・名目。金属代+加工賃))→ 売上 416 億円・営業利益 158 億円。数量は今の 2.20 倍・価格は 1.05 倍・営業利益率 38%
- 電子(イリジウムるつぼ等):数量 860(加工するイリジウムの量(kg))× 価格 3,366(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 290 億円・営業利益 72 億円。数量は今の 2.00 倍・価格は 1.34 倍・営業利益率 25%
- サーマル(熱電対・石英保護管):数量 1,210,000(熱電対・保護管の出荷本数(本))× 価格 1.77(1本あたり売上(万円・名目))→ 売上 214 億円・営業利益 30 億円。数量は今の 2.20 倍・価格は 1.45 倍・営業利益率 14%
- ファインケミカル・リサイクル・その他:数量 12,000(加工・精製する貴金属の量(kg))× 価格 950(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 1,140 億円・営業利益 274 億円。数量は今の 2.00 倍・価格は 1.25 倍・営業利益率 24%
- サプライチェーン支援(貴金属トレーディング):数量 1,384(売買する貴金属の量(kg))× 価格 3,310(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 458 億円・営業利益 46 億円。数量は今の 1.80 倍・価格は 1.34 倍・営業利益率 10%
倍率:事業の純利益 343 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.94 倍、時価総額 5,812 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIとEUVという複数の追い風が10年続き、金属が高値圏を保つ必要があるため、実現しても確度は高くない。
やや楽観 20% 需要は伸びるが金属は平準化 利益 220 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 13,732 円3,378 億円
HDDのルテニウム需要は5年で一巡するが、イリジウムターゲットとEUV向けが穴を埋める。ルテニウムの値段は今より1割ほど下がるが、数量が2倍近くになるので薄膜の売上は伸びる。有機ELと医療用PETも順調に増え、サーマルは半導体投資に乗って育つ。営業利益は330億円台になる。新規事業は当たる芽が出るが、規模はまだ小さい。優良企業としての評価が定着し、10年を通して利益率は2割弱を保つ。HAMRへの移行も滑らかに進み、ルテニウムの減少分をイリジウムターゲットが埋める。配当は純利益の5割ほどを払い、自己資本の積み上がりも抑えられて、ROEは13%近くを保てる。
- 薄膜(ルテニウム等ターゲット):数量 4,680(加工するルテニウム等の量(kg))× 価格 690(1kgあたり売上(万円・名目。金属代+加工賃))→ 売上 323 億円・営業利益 107 億円。数量は今の 1.95 倍・価格は 0.92 倍・営業利益率 33%
- 電子(イリジウムるつぼ等):数量 753(加工するイリジウムの量(kg))× 価格 2,889(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 217 億円・営業利益 48 億円。数量は今の 1.75 倍・価格は 1.15 倍・営業利益率 22%
- サーマル(熱電対・石英保護管):数量 1,100,000(熱電対・保護管の出荷本数(本))× 価格 1.71(1本あたり売上(万円・名目))→ 売上 188 億円・営業利益 23 億円。数量は今の 2.00 倍・価格は 1.40 倍・営業利益率 12%
- ファインケミカル・リサイクル・その他:数量 10,500(加工・精製する貴金属の量(kg))× 価格 798(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 838 億円・営業利益 176 億円。数量は今の 1.75 倍・価格は 1.05 倍・営業利益率 21%
- サプライチェーン支援(貴金属トレーディング):数量 1,230(売買する貴金属の量(kg))× 価格 2,964(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 365 億円・営業利益 33 億円。数量は今の 1.60 倍・価格は 1.20 倍・営業利益率 9%
倍率:事業の純利益 220 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍。全体の PER 15.34 倍、時価総額 3,378 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画(2030年に売上1,500億円)を超える伸びを置く筋書き。需要の追い風と金属の平準化が同時に起きる想定。
中立 34% 中立:事業は伸びるが金属は平常へ 利益 132 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 7,343 円1,806 億円
ルテニウムの値段は、今より2割ほど安い水準で落ち着く。HDD向けは5年ほど続き、その後はEUV向けとイリジウムターゲットが引き継ぐ。数量は10年で1.5〜1.8倍になる。売上は1,450億円、営業利益は200億円で、中期計画の目標とほぼ同じ水準だ。2026年6月期の248億円には戻らない。金属の値上がりで膨らんだ在庫評価益と売買の利益が剥がれ、利益率は14%程度に収まる。堀は保たれ、シェアも大きく崩れない。配当は純利益の5割ほどを払い、残りは社内にたまる。ROEは9%を下回り、事業の割に自己資本が厚くなる。
- 薄膜(ルテニウム等ターゲット):数量 4,080(加工するルテニウム等の量(kg))× 価格 593(1kgあたり売上(万円・名目。金属代+加工賃))→ 売上 242 億円・営業利益 68 億円。数量は今の 1.70 倍・価格は 0.79 倍・営業利益率 28%。価格は物価並みに上がらず0.79倍:ルテニウムが今の高値から平準化するため
- 電子(イリジウムるつぼ等):数量 645(加工するイリジウムの量(kg))× 価格 2,512(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 162 億円・営業利益 29 億円。数量は今の 1.50 倍・価格は 1.00 倍・営業利益率 18%。価格は物価並みに上がらず1.0倍:イリジウムは実質で下がるため
- サーマル(熱電対・石英保護管):数量 990,000(熱電対・保護管の出荷本数(本))× 価格 1.64(1本あたり売上(万円・名目))→ 売上 162 億円・営業利益 16 億円。数量は今の 1.80 倍・価格は 1.34 倍・営業利益率 10%
- ファインケミカル・リサイクル・その他:数量 9,000(加工・精製する貴金属の量(kg))× 価格 684(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 616 億円・営業利益 111 億円。数量は今の 1.50 倍・価格は 0.90 倍・営業利益率 18%。価格は物価並みに上がらず0.9倍:金属の単価が平準化するため
- サプライチェーン支援(貴金属トレーディング):数量 1,077(売買する貴金属の量(kg))× 価格 2,470(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 266 億円・営業利益 21 億円。数量は今の 1.40 倍・価格は 1.00 倍・営業利益率 8%。価格は物価並みに上がらず1.0倍:売買する金属の単価が平準化するため
倍率:事業の純利益 132 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 1,761 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社計画と値段の平準化を合わせた中心の筋書き。金属が高い今期を平常と見なさないことが、最も確からしい見方だと考える。
やや悲観 22% 記録方式の転換で薄膜が細る 利益 56 億円 · PER 8.9 倍 · 株価時価総額 2,601 円640 億円
HAMRへの移行でHDDのルテニウム使用量が大きく減り、薄膜の数量は伸びが鈍る。ルテニウムの値段も6割台に下がり、薄膜の売上はほとんど増えない。スマートフォン向けるつぼの落ち込みも戻らず、電子の利益率は1割台前半に下がる。トレーディングも低調で、全社の営業利益は85億円まで縮む。会社は赤字にはならず配当も続けるが、新しい柱の育ちも遅く、ためた資金のROEは4%台にとどまる。優良さは薄れるが、事業は残る。顧客との長い取引と精製の技術が下支えになり、赤字は避けられる。ただし中期計画の目標には届かず、新千歳工場などの設備投資も回収に時間がかかる。
- 薄膜(ルテニウム等ターゲット):数量 3,120(加工するルテニウム等の量(kg))× 価格 488(1kgあたり売上(万円・名目。金属代+加工賃))→ 売上 152 億円・営業利益 34 億円。数量は今の 1.30 倍・価格は 0.65 倍・営業利益率 22%
- 電子(イリジウムるつぼ等):数量 473(加工するイリジウムの量(kg))× 価格 2,135(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 101 億円・営業利益 14 億円。数量は今の 1.10 倍・価格は 0.85 倍・営業利益率 14%
- サーマル(熱電対・石英保護管):数量 770,000(熱電対・保護管の出荷本数(本))× 価格 1.64(1本あたり売上(万円・名目))→ 売上 126 億円・営業利益 10 億円。数量は今の 1.40 倍・価格は 1.34 倍・営業利益率 8%
- ファインケミカル・リサイクル・その他:数量 7,200(加工・精製する貴金属の量(kg))× 価格 570(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 410 億円・営業利益 58 億円。数量は今の 1.20 倍・価格は 0.75 倍・営業利益率 14%
- サプライチェーン支援(貴金属トレーディング):数量 769(売買する貴金属の量(kg))× 価格 2,223(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 171 億円・営業利益 10 億円。数量は今の 1.00 倍・価格は 0.90 倍・営業利益率 6%
倍率:事業の純利益÷自己資本のROEは4.1%、資本コストkは8%。ROEがk以下なので、ためた利益は額面未満の価値しかなく、正当化PERは1÷k=11.1倍が上限。金属の値段と用途の波は、資本コストの上乗せ(循環 +1%)と、10 年の中立を金属の平常値で置くことにすでに入れたので、倍率ではほとんど引かない。上限の約 8 割の 8.9 倍に置いた。
確率:記録方式の転換と金属の下落は、会社自身の説明からも現実味が高く、慎重な見方を強めるため楽観の確率を上回らせた。
悲観 12% 用途を失い、金属も下落 利益 −11 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,138 円280 億円
HAMRで主力のルテニウム需要が細り、頼みのイリジウムも水素や半導体の需要が伸びない。代替の薄膜形成材料や中国メーカーの低価格品が広がり、シェアを失う。金属の値段は半値近くまで下がり、在庫の評価損が出る。サプライチェーン支援の売上は6割に縮み、利益を出せなくなる。全社の営業損益は赤字で、新しい柱の投資も回収できない。配当は減らしながら維持するが、事業の稼ぐ力は大きく後退し、貴金属在庫と設備を売った値打ちが株主価値の支えになる。純利益の合計を大きく超える還元は、ためた現金と在庫の売却で払う前提だ。
- 薄膜(ルテニウム等ターゲット):数量 1,920(加工するルテニウム等の量(kg))× 価格 375(1kgあたり売上(万円・名目。金属代+加工賃))→ 売上 72 億円・営業利益 7 億円。数量は今の 0.80 倍・価格は 0.50 倍・営業利益率 10%
- 電子(イリジウムるつぼ等):数量 301(加工するイリジウムの量(kg))× 価格 1,507(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 45 億円・営業利益 2 億円。数量は今の 0.70 倍・価格は 0.60 倍・営業利益率 4%
- サーマル(熱電対・石英保護管):数量 550,000(熱電対・保護管の出荷本数(本))× 価格 1.46(1本あたり売上(万円・名目))→ 売上 81 億円・営業利益 3 億円。数量は今の 1.00 倍・価格は 1.20 倍・営業利益率 4%
- ファインケミカル・リサイクル・その他:数量 5,400(加工・精製する貴金属の量(kg))× 価格 418(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 226 億円・営業利益 14 億円。数量は今の 0.90 倍・価格は 0.55 倍・営業利益率 6%
- サプライチェーン支援(貴金属トレーディング):数量 461(売買する貴金属の量(kg))× 価格 1,482(1kgあたり売上(万円・名目))→ 売上 68 億円・営業利益 2 億円。数量は今の 0.60 倍・価格は 0.60 倍・営業利益率 3%
倍率:赤字なのでPBRで置いた。今の自己資本784億円から、貴金属在庫の評価損と事業の減損を引いた700億円に、売れる資産の価値を見て0.4倍を掛けた。稼ぐ力は赤字で、貴金属在庫と設備を売った税後の価値が支えになる。
確率:構造的な負けで、用途の喪失と金属価格の下落が重なる複合筋書き。一度崩れると戻りにくいため、低確率でも無視しない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
薄膜(ルテニウム等ターゲット)
HDD用ルテニウムターゲットが中心。半導体のEUVマスクブランクス用合金、BAW用アルミニウムスカンジウムが育つ。
| 数量加工するルテニウム等の量(kg) | 価格1kgあたり売上(万円・名目。金属代+加工賃) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 2,400 | 750 | 180 | 95 |
| 10 年後 中立 | 4,080 | 593 | 242 | 68 |
取り方:ルテニウムの会社前提(2026/02)に加工賃を足し、売上 180 億円を約 2.4 トン相当と推定。営業利益は決算要約の利益率 52.6% から 95 億円。 物価の分は価格に入れ、数量は実質(量)で置く。10年の価格は、ルテニウムが今の高値から平準化するため物価の倍率より低く置く(中立で今の0.79倍)。
電子(イリジウムるつぼ等)
単結晶育成用イリジウムるつぼ(医療用PETのシンチレータ向けが約5割)、SAWフィルタ向けなど。
| 数量加工するイリジウムの量(kg) | 価格1kgあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 430 | 2,512 | 108 | 20 |
| 10 年後 中立 | 645 | 2,512 | 162 | 29 |
取り方:イリジウムの会社前提(2026/02)に加工賃を足し、売上 108 億円を約 430kg と推定。営業利益は推定(短信本文は未確認)。 物価の分は価格に入れ、数量は実質(量)で置く。10年の価格は、イリジウムが実質で下がる前提で中立は今の1.0倍(物価の倍率1.34より低い)。
サーマル(熱電対・石英保護管)
半導体拡散炉用の貴金属熱電対と石英保護管。国内シェア約7割。
| 数量熱電対・保護管の出荷本数(本) | 価格1本あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 550,000 | 1.22 | 67 | 8 |
| 10 年後 中立 | 990,000 | 1.64 | 162 | 16 |
取り方:売上 67 億円を約 55 万本、1 本 1.2 万円と推定。営業利益は推定。 物価の分は価格に入れ、数量は実質(量)で置く。白金系の熱電対で物価並みの値上がり。 先の数量は実物(半導体の拡散炉の稼働増に伴う熱電対の本数)で、名目の市場の伸びではない。
ファインケミカル・リサイクル・その他
有機EL用イリジウム化合物、電極触媒、貴金属の精製・リサイクル。短信で内訳が確認できない差額(約180億円)もここに含めた。
| 数量加工・精製する貴金属の量(kg) | 価格1kgあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 6,000 | 760 | 456 | 125 |
| 10 年後 中立 | 9,000 | 684 | 616 | 111 |
取り方:売上 277 億円に、セグメント合計と連結の差 179 億円を足した 456 億円を約 6 トン相当と推定(差の中身は未確認)。営業利益は全体の 248 億円から逆算した推定。 物価の分は価格に入れ、数量は実質(量)で置く。10年の価格は、金属の平準化で中立は今の0.9倍(物価の倍率より低い)。
サプライチェーン支援(貴金属トレーディング)
顧客の貴金属調達を助ける売買。売上は大きいが利益率は低い。
| 数量売買する貴金属の量(kg) | 価格1kgあたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 769 | 2,470 | 190 | 23 |
| 10 年後 中立 | 1,077 | 2,470 | 266 | 21 |
取り方:イリジウム中心の売買と見て売上 190 億円を約 770kg と推定。営業利益は利益率 12.2% から 23 億円。 物価の分は価格に入れ、数量は実質(量)で置く。10年の価格は、売買する金属の単価が平準化するため中立は今の1.0倍。
リスクと懸念
金属の値段の反転
ルテニウムやイリジウムは、白金などの副産物で供給が増えにくい。そのため値段が急に上がり、急に下がる。2026年6月期の営業利益は金属の高騰で押し上げられた面があり、値段が戻れば在庫の評価益が消え、売上も縮む。
HDDの記録方式の転換
HDDは将来、熱アシスト記録に移る。この時ルテニウムの使用量は大きく減り、イリジウムターゲットが代わりに増える。薄膜は売上の約5割がHDD向けルテニウムで、利益率も高い。転換のタイミングと量が合わなければ、利益が減る谷が来る。
用途の少なさ
柱はHDD、医療用PET、有機ELの3つにほぼ限られる。スマートフォン向けSAWフィルタ用のるつぼは国内で受注が大きく減った。一つの用途が崩れた時、他で補えるかが問われる。
貴金属のトレーディング
サプライチェーン支援は売上190億円だが、利益率は12%程度にとどまる。金属の値段次第で売上が大きく動き、在庫の保有も伴う。値段が下がれば、売上減に加え在庫の損失が出る恐れがある。
資本配分とROEの低下
配当性向は25%以上を目安とし、利益の多くが社内に残る。使い道が見つからないまま現金や在庫がたまれば、ROEは年々下がる。買収や新規事業の失敗で価値を壊す可能性もある。
関税と調達の不安
米国の関税15%が負担となっている。アルミニウムスカンジウムの材料は中国からの供給が遅れており、米国や豪州の鉱山開発を進めている。調達の遅れが新製品の立ち上げを遅らせる恐れがある。
今後の分かれ目
- ルテニウムの値段が数か月で大きく下がり、HDD向けの受注も細ったら
- やや悲観・悲観の筋書きに近づいている。2027年6月期の計画は達成が難しく、利益の水準を見直す必要がある。
- HAMR対応のHDDが量産に入り、イリジウムターゲットの受注が立ち上がったら
- 薄膜の売上の構成が変わる。イリジウムの数量が補えば中立に近く、補えなければやや悲観に寄る。
- EUV向けルテニウム合金とアルミニウムスカンジウムの売上が、2年で100億円規模に育ったら
- 薄膜がHDD頼みから抜ける。強気の筋書きの確率を上げてよい。
- 新しい柱(チップレット・光電融合・水素など)の売上が計画の600億円に向けて着実に増えたら
- 利益の基盤が広がる。ただし利益率の裏付けが要る。売上だけでは判断しない。
- 配当性向の引き上げや自社株買いの方針が出たら
- 自己資本がたまりすぎず、ROEが保たれる。10年の倍率の見方が好転する。
- 医療用PET向けや有機EL向けの受注が急に落ちたら
- 電子とファインケミカルが同時に傷む。やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- ルテニウム・イリジウムの市況(円/g)
- HDD向けルテニウムターゲットの受注とHAMR移行の時期
- EUVマスクブランクス向けルテニウム合金とアルミニウムスカンジウムの売上
- サプライチェーン支援の売上と利益率
- 新千歳工場の稼働と設備投資、配当方針
倍率と資本コストの決め方
今の株価や市場の倍率からは置いていない。10年後の売上は、セグメントごとに加工する貴金属の量(kg)と1kgあたり売上(金属代+加工賃)で積んだ。2026年6月期は金属が高い年なので、中立は薄膜の単価をルテニウムが今の約3分の2の水準へ下がる前提(今の約0.8倍)で平準化した。利益率も金属の値上がり益が剥がれる前提で下げた。倍率は、k 8%、g 4%、残る割合1/2から式で出した正当化PERの上限に、利益の質を見て中立は9割とした(金属の波は k の循環 +1% と平常値の置き方にすでに入れてある)。中立はROEが資本コストを下回るので上限は1÷kとなる。悲観は稼ぐ力と売れる資産から置いた。リース(家賃)は小さく、今と同じ形でそろえてあり、新リース会計基準の影響は置いていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.42→16.94 倍・やや楽観 PER 11.34→15.34 倍・中立 PER 10→13.33 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。