結論
遠藤製作所は、新潟の燕三条で鍛造と金属加工を営む会社だ。ゴルフクラブのヘッド、人工関節や航空機の部品、複合機のメタルスリーブ、自動車や建設機械の鍛造品を作る。売上は 182 億円、営業利益は 10 億円。
筆者の結論は、今の値段はほぼ妥当ということだ。時価総額は 95 億円で、純現金が 83 億円ある。事業はほぼ只で付いてくる計算だが、それが割安を意味するわけではない。
理由は二つある。一つは、稼ぐ力が資本コストに届かないこと。ROE は 3% 前後で、2024〜2026 年度の目標(5% 以上)にも届かない。もう一つは、現金の使い道を決めるのが創業家系の財団を含む経営側で、少数株主には決められないことだ。
成長の芽はある。発電用のガスタービンや建設機械向けの大型鍛造、医療・航空機の部品だ。一方で、ゴルフは中国勢に押され、OA 機器と内燃機関の自動車部品は縮む。10 年の中立は、利益が今の 2 倍弱まで伸びる姿だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は資産の上に事業が乗ったような株だ。時価総額 95 億円に対して純現金が 83 億円、純資産が 233 億円。事業そのものは、時価総額の 1 割ほどで買える計算になる。
だが、安全域はそれほど厚くない。理由は三つある。事業の稼ぐ力が低く、ROE が資本コストに届かないこと。創業家系の財団が筆頭株主で、現金の使い道を少数株主が決められないこと。主力のゴルフ、OA 機器、自動車が縮み、成長分野は小さいこと。
経営は安全を優先し、現金をためた。そこは評価できる。ただ、資本をもっと生かせていない。日亜鍛工の買収のように、成長分野に小さく投じるのは筋が良いが、規模が足りない。
筆者は、純現金を 75% の値で数えても、事業の価値を足せば今の値段にほぼ並ぶと見る。上振れは、成長分野と現金の使い方の改善で得られる。下値は純現金で堅く、悪い筋書きでも時価総額の 6 割台は残る。
何で稼ぐ会社か
事業は大きく二つに分かれる。ファインプロセス事業(売上 86 億円)は、ゴルフクラブのヘッド、人工関節などの医療機器部品、航空機部品を作る。顧客は住友ゴム工業が売上の 11% を占める。精度と品質が要る分、利益率は 11% 台と高い。
メタル事業(売上 97 億円)は三つの顔を持つ。複合機の定着部に使うステンレスの薄い筒(メタルスリーブ)、自動車などの鍛造部品、建設機械や発電用タービンブレードの精密な鍛造品だ。IHI が売上の 10% を占める。2025 年 2 月には、群馬の鍛造会社である日亜鍛工を買収し、大型鍛造品に広げた。
タイに 3 つの子会社があり、メタルスリーブと鍛造品を作る。国内の従業員は提出会社で 121 人、連結で 1,290 人。
利益はセグメントの合計が 17 億円だが、本社費などの全社費用が約 7 億円あり、連結の営業利益は 10 億円になる。設備投資は年 19 億円ほどで、医療や航空機の設備と新しい事務所の建設が中心だ。2026 年 12 月期の上期は、売上が 9.5% 増えたが、営業利益は 16% 減った。
優良さと弱いところ
優良さは、顧客に入り込んだ精密加工にある。人工関節や航空機の部品は、認定を受けるまでに年単位かかり、いったん採用されれば替わりにくい。ここは利益率が高い。発電用のタービンブレードも同じだ。
ただし、売上の中心になる部分は堀が薄い。ゴルフクラブのヘッドは、中国製品が価格と品質で追い上げている。メタルスリーブは複合機の台数減で縮む。自動車の鍛造部品は、電動化で一部が要らなくなる。2025 年 12 月期の営業利益率は 5.6% で、2021 年の 14.6% から大きく下がった。
資本の使い方は消極的だ。自己資本比率は 83% と極めて厚く、ROE は 2.6% にとどまる。配当は年 1 回、安定配当を基本とする。ためた現金で日亜鍛工を買ったのは前向きだが、規模は小さい。
大株主は創業家系の遠藤栄松ファンデーション(約 22%)で、経営の方針に大きな影響力を持つ。少数株主の立場では、この点を割り引いて見る必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
事業ごとに環境が違う。ゴルフクラブヘッドは、競技人口の減少が以前より緩やかになる一方、中国製品が広がり、価格と品質の競争が激しい。製品の寿命が短くなり、多品種・少量の生産が増えている。値上げは通りにくい。
OA 機器向けのメタルスリーブは、複合機の台数が減るため、構造的に縮む。トナーやインクと同じ、オフィスの印刷が減る流れの中にある。
自動車の鍛造部品は、電動化の影響を受ける。有価証券報告書は「電気自動車への切り替え需要は一定数あるものの、内燃機関の車と二輪の需要は底堅い」とする。ただ 10 年で見れば、エンジンや変速機の部品は減り、完成車メーカーの値下げ要請も重くなる。
成長分野は、発電と建設機械、医療、航空機だ。世界のデータセンター向けの電力需要を背景に、ガスタービンの需要が強い。人工関節は高齢化で伸びる。この分野では、国内の鍛造専業の中堅や海外の精密鍛造メーカーが競合する。会社の規模では取れる受注に限りがある。日本の製造業の人手不足も、国内の鍛造工場の人件費を押し上げる。人件費の上昇を価格に転嫁できるかが、利益率を左右する。
資本政策と M&A
資本政策は、中期経営計画(2024〜2026 年度)の「資本効率の向上」を掲げる。目標は ROE 5% 以上だが、2025 年 12 月期の実績は 2.6%。配当性向は 6 割ほどで、総額は 3.6 億円。年に一度、期末にだけ払う。
現金は 83 億円あり、有利子負債はほぼない。大きな投資は日亜鍛工の買収(売上 20 億円)で、2025 年に全株を取得した。投資有価証券は上場 3 銘柄で 2 億円ほどと小さく、政策保有株の問題は薄い。
最大株主は遠藤栄松ファンデーション(約 22%)で、創業家系の財団とみられる。第四北越銀行も株主に並ぶ。TOB の話は出ていない。M&A は鍛造の分野を広げる小さな買収が中心で、現金の大きな使い道は示されていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
時価総額 95 億円に対して、純現金が 83 億円ある。事業は一割ほどの値段で買え、純資産の 4 割に満たない。成長分野は強い。発電用ガスタービンは世界のデータセンター向け電力で需要が続き、IHI 向けの大型鍛造が伸びる。人工関節や航空機の部品は精度の認定が要り、利益率は 17% 前後と高い。
日亜鍛工の買収で大型鍛造が加わり、2025 年は建設機械とタービン向けで売上が伸びた。2026 年 12 月期は上期の売上が 9.5% 増で、経常利益の通期予想は 9% 増だ。ゴルフは営業の底が固く、住友ゴムとの取引が続く。
資本の面でも、中期計画で ROE 5% を掲げ、配当は性向 6 割に届く。東証の資本効率の要請を受ければ、増配や自社株買いで現金を戻す余地がある。現金の 83 億円を戻すだけで、時価総額の 9 割に相当する。2026 年 12 月期の経常利益は 9% 増益の予想で、底は打ったと読める。ROE の目標を掲げた以上、会社はその達成に向けて動かざるをえない。
慎重な見方
安い理由は、稼ぐ力が弱いからだ。営業利益率は 2021 年の 14.6% から 5.6% まで下がった。2025 年 12 月期の営業利益は 33% 減。ROE は 3% 前後で、資本コストの 3 分の 1 にすぎない。ためた現金は、事業で生かせていない証拠でもある。
主力のゴルフクラブヘッドは中国製品に押され、価格が上がりにくい。メタルスリーブは複合機の台数減で縮み、自動車の鍛造部品は電動化で減る。縮む三つの事業が売上の 6 割を占め、成長分野は 4 割に満たない。
現金は、創業家系の財団が約 22% を持つ体制の下で、戻ってくる保証がない。配当は性向 6 割でも額は小さい。成長分野の受注は景気で大きく振れ、1 社の動向に左右される。買収で使われるかもしれず、日亜鍛工のように、規模の小さい投資で終わることも多い。2026 年 12 月期の中間は営業利益が 16% 減っており、足元の改善も遅い。ROE の目標 5% も、2026 年度の期限までに届くかは疑わしい。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は純現金の厚さと成長分野を根拠にするが、現金は戻り方を 0.75 で数える。慎重な見方の指摘(稼ぐ力が弱い、縮む事業が大きい、財団の影響)は実績で裏づけられる。確率は中立を 4 割弱に置き、悲観側をやや厚くした。悪い筋書きでも純現金が下値を支えるため、悲観は同領域の標準より薄くした。強気の条件は成長分野の拡大と現金の還元の二つで、どちらも会社の意思に左右される。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 1,761 円157 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 516 円46 億円)。 今の値に割り戻すと 1,144 円102 億円、今との差 +7.7%、 期待の年率 +7.9%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,216 円287 億円 | 784 円70 億円 | +276.6% | +14.2% | 400 円36 億円 |
| やや楽観 | 17% | 2,528 円226 億円 | 694 円62 億円 | +203.4% | +11.7% | 548 円49 億円 |
| 中立 | 38% | 2,054 円183 億円 | 616 円55 億円 | +151.4% | +9.7% | 1,014 円91 億円 |
| やや悲観 | 22% | 672 円60 億円 | 336 円30 億円 | −5.1% | −0.5% | 222 円20 億円 |
| 悲観 | 13% | 627 円56 億円 | 90 円8 億円 | −32.5% | −3.9% | 93 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,761 円157 億円 | 516 円46 億円 | +114.4% | +7.9% | 2,277 円203 億円 |
今の株価時価総額 1,062 円95 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:医療・航空機と発電向けの鍛造が育ち、現金も活かされる 利益 21 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 3,216 円287 億円
発電用のガスタービンと建設機械の需要が 10 年続き、精密型打鍛造と大型鍛造の売上は 100 億円を超える。日亜鍛工の統合が進み、IHI 向けの受注が積み上がる。
人工関節や航空機の部品は高齢化と航空需要で 2.5 倍になる。ゴルフクラブヘッドは個数を保ち、値上げも通る。メタルスリーブは OA 機器の縮みで本数が 3 割減るが、全体への影響は小さい。
営業利益は 31 億円、利益率は 9%。純利益は 21 億円で、ROE は 7% 台まで上がる。厚い現金は、配当と自社株買いで株主に戻る。日亜鍛工の統合も進み、全社費用の負担は売上の伸びで薄まる。
- ゴルフクラブヘッド:数量 152(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.60(1 個あたり単価(万円))→ 売上 92 億円・営業利益 9 億円。個数 1.1 倍
- 医療・航空機の部品:数量 118(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.67(1 個あたり単価(万円))→ 売上 79 億円・営業利益 14 億円。医療・航空機が 2.5 倍
- メタルスリーブ(OA 機器部品):数量 231(出荷本数(万本、推定))× 価格 0.13(1 本あたり単価(万円))→ 売上 30 億円・営業利益 3 億円。本数 7 割
- 自動車などの鍛造部品:数量 1,254(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.03(1 個あたり単価(万円))→ 売上 41 億円・営業利益 2 億円。台数 95%
- 精密型打鍛造・大型鍛造:数量 6,425(出荷量(トン、推定))× 価格 0.02(1 トンあたり単価(億円))→ 売上 103 億円・営業利益 11 億円。タービン向けが 2.5 倍
倍率:事業の純利益 20 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)41 億円。全体の PER 12.16 倍、時価総額 287 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:発電用タービンと医療・航空機の需要が強く、日亜鍛工の統合も進む上振れ。小さな会社で、受注の変動は大きいため、同領域の標準よりやや薄くした。
やや楽観 17% やや楽観:鍛造と医療が伸び、OA と自動車の縮みを補う 利益 16 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 2,528 円226 億円
精密型打鍛造と医療・航空機の部品が 2 倍強に伸び、全社の売上を押し上げる。ゴルフは個数が微増で、値段は中国勢の追い上げで物価をやや下回る。
メタルスリーブは本数が 35% 減、自動車の鍛造部品は 1 割減る。営業利益は 23 億円、利益率は 7% 台後半。ROE は 5% 台後半。日亜鍛工の統合は計画どおり進み、IHI 向けの大型鍛造は倍近くに増える。減価償却は新しい設備の分だけ増え、既存設備の償却は物価で増えない。還元は配当性向 5 割を守り、現金は少しずつ増える。ゴルフは中国勢に押されつつも、品質で住友ゴムの取引を守る。
- ゴルフクラブヘッド:数量 145(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.59(1 個あたり単価(万円))→ 売上 86 億円・営業利益 8 億円。個数 1.05 倍
- 医療・航空機の部品:数量 98.7(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.67(1 個あたり単価(万円))→ 売上 66 億円・営業利益 12 億円。2.1 倍
- メタルスリーブ(OA 機器部品):数量 215(出荷本数(万本、推定))× 価格 0.13(1 本あたり単価(万円))→ 売上 28 億円・営業利益 3 億円。本数 65%
- 自動車などの鍛造部品:数量 1,188(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.03(1 個あたり単価(万円))→ 売上 38 億円・営業利益 2 億円。台数 9 割
- 精密型打鍛造・大型鍛造:数量 5,397(出荷量(トン、推定))× 価格 0.02(1 トンあたり単価(億円))→ 売上 87 億円・営業利益 9 億円。2.1 倍
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)41 億円。全体の PER 12.12 倍、時価総額 226 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:発電・建機・医療の伸びは業界の需要で説明できるが、受注の波は大きい。
中立 38% 中立:成長分野が OA・自動車の縮みを上回り、全体は物価を超えて伸びる 利益 13 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 2,054 円183 億円
成長を担うのは、発電用タービンや建設機械向けの鍛造、人工関節や航空機の部品だ。それぞれ 10 年で 1.8 倍になる。ゴルフクラブヘッドは個数が横ばいで、中国勢の追い上げで値段は物価の 8 割ほどしか上がらない。
縮むのは OA 機器向けのメタルスリーブ(本数が 6 割に)と、自動車の鍛造部品(電動化で台数が 85%)だ。完成車メーカーの値下げ要請もあり、価格は物価に届かない。
全社費用は物価で膨らみ、約 10 億円になる。営業利益は 18 億円、利益率は 6.6%。減価償却は、日亜鍛工と新設備の分だけ増える。純利益は 12.5 億円、ROE は 4% 台。還元は配当性向 5 割ほどを守る。
- ゴルフクラブヘッド:数量 138(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.59(1 個あたり単価(万円))→ 売上 81 億円・営業利益 7 億円。個数横ばい。中国勢で価格は 1.30 倍止まり
- 医療・航空機の部品:数量 84.6(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.67(1 個あたり単価(万円))→ 売上 57 億円・営業利益 10 億円。医療・航空機が 1.8 倍
- メタルスリーブ(OA 機器部品):数量 198(出荷本数(万本、推定))× 価格 0.13(1 本あたり単価(万円))→ 売上 25 億円・営業利益 2 億円。OA 機器の縮みで本数 6 割
- 自動車などの鍛造部品:数量 1,122(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.03(1 個あたり単価(万円))→ 売上 35 億円・営業利益 2 億円。電動化で台数 85%
- 精密型打鍛造・大型鍛造:数量 4,626(出荷量(トン、推定))× 価格 0.02(1 トンあたり単価(億円))→ 売上 74 億円・営業利益 7 億円。タービン・建機向けで 1.8 倍
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.5% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)41 億円。全体の PER 12.12 倍、時価総額 183 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の中心的な見通しに沿う。成長分野(発電・建機・医療・航空機)が 4 割弱を占め、縮む分野(OA・自動車)を上回る。同領域の標準(中立 3〜4 割)にそろえた。
やや悲観 22% やや悲観:ゴルフが中国勢に押され、自動車・OA の縮みが速い 利益 5 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 672 円60 億円
ゴルフクラブヘッドは中国製品に押され、個数が 15% 減り、価格は物価の 6 割ほどしか上がらない。メタルスリーブは本数が半分に、自動車の鍛造部品は 3 割減る。
成長分野は 1.4 倍にとどまり、固定費の重さで営業利益は 6 億円ほどに縮む。物価で費用が膨らみ、実質では赤字に近い。
配当は性向を保つが額は増えない。現金は設備の更新と日亜鍛工の立て直しに使われる。タイの工場も稼働が落ち、固定費の負担が重い。住友ゴム向けの受注の一部は、中国メーカーに移る。医療・航空機の部品は伸びるが、規模が小さく、全体の落ち込みを補えない。
- ゴルフクラブヘッド:数量 117(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.54(1 個あたり単価(万円))→ 売上 63 億円・営業利益 3 億円。個数 85%、価格競争
- 医療・航空機の部品:数量 65.8(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.65(1 個あたり単価(万円))→ 売上 43 億円・営業利益 6 億円。1.4 倍
- メタルスリーブ(OA 機器部品):数量 165(出荷本数(万本、推定))× 価格 0.12(1 本あたり単価(万円))→ 売上 20 億円・営業利益 1 億円。本数半分
- 自動車などの鍛造部品:数量 924(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.03(1 個あたり単価(万円))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。台数 7 割
- 精密型打鍛造・大型鍛造:数量 3,598(出荷量(トン、推定))× 価格 0.02(1 トンあたり単価(億円))→ 売上 56 億円・営業利益 4 億円。1.4 倍
倍率:ROE は 1.8% で k に遠く届かない。稼ぐ力に見合う PER の上限 1÷k = 12.1 倍の 5.8 割として 7.0 倍に置いた。
確率:ゴルフは価格競争が強まり、自動車の電動化と OA の縮みも速い。成長分野の伸びが予想を下回る。
悲観 13% 悲観:ゴルフ・OA・自動車が構造的に縮み、成長分野も取れない 利益 −3 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 627 円56 億円
中国勢にゴルフクラブヘッドの受注を奪われ、個数が 4 割減る。OA 機器は複合機の台数減でメタルスリーブがほぼなくなり、自動車の鍛造部品は電動化で 6 割減る。
日亜鍛工の大型鍛造は景気の波に振られ、成長分野も期待を下回る。全社費用が重く、営業赤字に落ちる。工場の再編と減損が続き、自己資本は細る。
配当は大きく減る。残るのは純現金と、売れる工場・設備・運転資本で、現金の戻り方は小さな値で数える。経営は事業の縮小と資産の売却に追われ、成長分野に投じる余力は残らない。創業家系の財団は支配を続け、少数株主への還元は後回しになる。
- ゴルフクラブヘッド:数量 83.0(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.47(1 個あたり単価(万円))→ 売上 39 億円・営業利益 0 億円。個数 6 割、利益ゼロ
- 医療・航空機の部品:数量 47.0(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.60(1 個あたり単価(万円))→ 売上 28 億円・営業利益 3 億円。横ばい
- メタルスリーブ(OA 機器部品):数量 99.0(出荷本数(万本、推定))× 価格 0.11(1 本あたり単価(万円))→ 売上 11 億円・営業利益 0 億円。本数 3 割
- 自動車などの鍛造部品:数量 528(出荷個数(万個、推定))× 価格 0.03(1 個あたり単価(万円))→ 売上 13 億円・営業利益 −1 億円。台数 4 割、赤字
- 精密型打鍛造・大型鍛造:数量 2,570(出荷量(トン、推定))× 価格 0.01(1 トンあたり単価(億円))→ 売上 37 億円・営業利益 2 億円。横ばい
倍率:赤字の筋書きなので、稼ぐ力でなく売れる資産で測る。今の自己資本 233 億円の 0.24 倍(約 56 億円)に置いた。減損で自己資本を 190 億円まで減らしている。
確率:構造的な負け筋。主力の三つが同時に縮む。純現金が厚いため、同領域の標準(15%)よりやや薄くした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ゴルフクラブヘッド
ゴルフクラブのヘッドを鍛造や加工で作る。住友ゴム工業向けが大きい。
| 数量出荷個数(万個、推定) | 価格1 個あたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 138 | 0.45 | 62 | 6 |
| 10 年後 中立 | 138 | 0.59 | 81 | 7 |
取り方:ファインプロセス事業 85.5 億円のうち、ゴルフクラブヘッドを約 62 億円と推定(開示は事業全体のみ)。出荷個数と 1 個あたり 0.45 万円の単価は推定。営業利益はファインプロセスの 9.5 億円を医療・航空機と分けた推定。
医療・航空機の部品
人工関節などの医療機器部品と、航空機部品。精度が要り、利益率が高い。
| 数量出荷個数(万個、推定) | 価格1 個あたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 47.0 | 0.50 | 24 | 4 |
| 10 年後 中立 | 84.6 | 0.67 | 57 | 10 |
取り方:ファインプロセス事業の残り約 23.5 億円を医療・航空機部品と推定。個数と単価は推定。営業利益は利益率 17% と推定。
メタルスリーブ(OA 機器部品)
複合機・プリンターの定着部に使われるステンレスの薄い筒。国内外の事務機メーカー向け。
| 数量出荷本数(万本、推定) | 価格1 本あたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 330 | 0.10 | 33 | 4 |
| 10 年後 中立 | 198 | 0.13 | 25 | 2 |
取り方:メタル事業 96.9 億円のうち、メタルスリーブを約 33 億円と推定(開示は事業全体のみ)。本数と単価は推定。
自動車などの鍛造部品
自動車のエンジン・駆動まわりなどの鍛造部品。電動化で一部は要らなくなる。
| 数量出荷個数(万個、推定) | 価格1 個あたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,320 | 0.03 | 33 | 2 |
| 10 年後 中立 | 1,122 | 0.03 | 35 | 2 |
取り方:メタル事業のうち、自動車等の鍛造部品を約 33 億円と推定。個数と単価は推定。営業利益率は 5% 台とみた。
精密型打鍛造・大型鍛造
建設機械や発電用タービンブレードなどの精密な鍛造品。日亜鍛工の大型鍛造を含む。IHI 向けが大きい。
| 数量出荷量(トン、推定) | 価格1 トンあたり単価(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,570 | 0.01 | 31 | 3 |
| 10 年後 中立 | 4,626 | 0.02 | 74 | 7 |
取り方:メタル事業の残り約 31 億円(日亜鍛工の売上 19.7 億円を含む)を精密型打鍛造・大型鍛造と推定。重量と単価は推定。営業利益率は 8〜9% とみた。
リスクと懸念
ゴルフクラブヘッドの競争
主力のゴルフクラブヘッドは、中国製品が価格と品質で追い上げている。住友ゴム工業の売上は 11% を占め、1 社の調達方針で数量が動く。製品の寿命も短くなり、値上げが通りにくい。
OA 機器と自動車の縮み
メタルスリーブは複合機の台数減で縮み、自動車の鍛造部品は電動化で減る。この二つで売上の 3 分の 1 強を占める。完成車メーカーの値下げ要請も、価格が物価に届かない理由になる。
現金を株主に戻さない
純現金は 83 億円で、時価総額に並ぶ。創業家系の財団が約 22% を持ち、使い道は経営側が決める。小さな買収や設備投資で価値が目減りすることもあり、戻り方は 0.75 としか数えられない。
日亜鍛工の統合
2025 年に買収した日亜鍛工は、大型鍛造で受注を広げたが、売上は 20 億円と小さい。景気に左右されやすく、統合が進まなければ減損の可能性がある。
設備更新と物価
設備投資は年 19 億円。鍛造設備の更新は建築費・機械の値段の上昇で膨らむ。今ある設備の償却は物価で増えないが、更新の投資は償却より大きく、現金が細る。
AI エージェントの影響
主な事業は金属部品の製造で、人月や画面操作を売る仕事ではない。AI エージェントによる直接の置き換えは小さい。工場の工程管理の省力化は、むしろ追い風になる。
今後の分かれ目
- 発電用ガスタービンの需要が 10 年続き、IHI 向けの大型鍛造が倍になる
- 精密型打鍛造の売上が 100 億円に近づき、営業利益は 30 億円に迫る。楽観の筋書きに近づく。
- 会社が配当性向の引き上げや自社株買いで、純現金を株主に戻す
- 現金の戻り方を 1.0 に見直せる。余った現金 55 億円の価値が 3 割増え、価値は 1 割強上がる。
- 中国製のゴルフクラブヘッドに住友ゴムが調達を切り替える
- ゴルフ部門の売上が 4 割減り、全社の営業利益は赤字に近づく。やや悲観から悲観に近づく。
- 電気自動車が普及し、自動車の鍛造部品の受注が半分に減る
- 売上の 15% 強が縮み、固定費の重さで営業利益は 3 億円ほど減る。縮みは成長分野で補えない。
- 創業家系の財団が持株を売却する・買い増す
- 支配の構造が変わり、現金の使い道が変わる可能性がある。公表されたものはない。
見ておくもの
- 医療・航空機・タービン向けの売上と営業利益率
- ゴルフクラブヘッドの出荷個数と住友ゴム向けの比率
- メタルスリーブと自動車鍛造部品の売上
- 純現金の推移と、配当・自社株買いなどの還元方針
- 日亜鍛工の統合の進み具合と受注
倍率と資本コストの決め方
倍率は利益ベースで置き、今の株価・過去や同業の PER・PBR は使っていない。中立は ROE 4.6% が k 8.25% に届かないため PER の上限は 1÷k = 12.1 倍で、その 7.4 割の 9.0 倍。余った現金は純現金 83 億円のうち 55 億円とし、戻り方は 0.75。悲観は純現金に戻り方を掛けた額と売れる資産の合計を、今の自己資本に掛けた。k は基本 7.5% に quality +0.75%。純現金が時価総額に並ぶので、現金の厚さに寄せて倍率を上げてはいない。新リース会計基準は工場が自社保有中心で影響は小さく、10 年後の数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→12.16 倍・やや楽観 PER 10→12.12 倍・中立 PER 9→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足した 8.25%。縮む事業は数量で、創業家の財団の影響は現金の戻り方で表し、k では二重に見ていない。