結論
河合楽器製作所は、ピアノと電子ピアノ、音楽教室を営む会社だ。「カワイ」のブランドで知られ、国内のピアノのシェアは初めて 5 割を超えた。売上の 8 割弱は楽器教育である。筆者の結論は、10 年後の価値は今の値段を 3 割近く下回る、というものだ。
足元は苦しい。2026 年 3 月期の売上は 720 億円、営業利益は 1 億円で、利益率は 0.2% に落ちた。2022 年 3 月期の 7.8% から、4 年で消えた。楽器教育は 9 億円の赤字である。純利益 11 億円は、為替と有価証券の償還益に支えられた。
会社は、2027 年 3 月期に営業利益 18 億円、2028 年 3 月期に 50 億円(中期計画の目標)まで戻すと言う。だが、2026 年 3 月期の経常利益も、期初の予想を 2 割下回った。
財務は堅い。自己資本比率は 59% で、借入枠も 87 億円が空いている。ただ、現金は借入より 13 億円少なく、稼げない資本が積み上がる形だ。
中立の営業利益は 40 億円、利益率は 4% で、過去 10 年の普通の水準に戻る姿である。それでも ROE は 5% 弱で、資本コスト 8% に届かない。資本が厚く、稼ぎが薄い会社だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、オーナー利益は今、ほぼ見えない。営業利益は 1 億円で、純利益 11 億円は為替の差益と有価証券の償還益に支えられた一時のものだ。営業活動のお金の出入りは、2026 年 3 月期にマイナスだった。
ただ、事業の骨格は悪くない。ブランドと国内シェア 5 割、教室という入口は、簡単にまねできない。利益率が 3〜5% の年が多かったことを見れば、4% 前後への回復は無理な絵ではない。
問題は、資本の使い方だ。自己資本は 467 億円あるのに、稼ぎは 1 桁億円だった。借入を増やして、設備と有価証券に資金を回している。投資有価証券の取得に 36 億円を使いながら、本業の営業利益が 1 億円という姿は、資本配分の規律が弱いと見える。
中立の筋書きでも、ROE は 5% 弱で、資本コストの 8.5% に届かない。回復が実現しても、成長に新しく投じる資本が、投じた額以上の価値を生まない。それでも、価値は帳簿の 6 割ほどはあり、安全域は 3 割ほど不足する。会社が大きく変わるか、ほかの株主が資本政策を変えさせるかのきっかけを待つ株である。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は三つある。楽器教育、素材加工、その他事業だ。
楽器教育は、売上の 8 割弱を占める。アコースティックピアノ(グランドとアップライト)、電子ピアノ・電子楽器、音楽教室、調律などの保守が含まれる。静岡県浜松市の本社と磐田市の竜洋工場でピアノを作り、インドネシアで電子ピアノとアップライトを、中国の上海と寧波で電子ピアノと部品を組み立てる。2026 年 3 月期の売上は 565 億円で、営業損失は 9 億円。教室は独立した区分ではなく、教室だけの数字は開示されない。
素材加工は、売上 103 億円、営業利益 8 億円。楽器の木工と金属の技術を使い、自動車や半導体向けの精密な金属部品と鋳造品を外に売る。2026 年 3 月期は半導体関連で増収だった。
その他事業は、売上 52 億円、営業利益 3 億円。不動産の賃貸や周辺の事業である。
従業員は連結で 2,917 人。内訳は楽器教育 2,501 人、素材加工 216 人、その他 75 人で、残りは全社だ。研究開発は年 5 億円で、ほぼ全部が楽器教育向けである。2026 年 3 月期の設備投資は 43 億円、2027 年 3 月期は 40 億円を計画する。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、ブランドと、国内の教室と販売の網、アクション(鍵盤の機構)の技術だ。国内ピアノのシェアは初めて 5 割を超え、国際コンクールでの存在感も上げようとしている。「ピアノのカワイ」という名は、教室に通った人の記憶に残る。教室は、将来の買い替え客を生む入口でもある。
弱みは、規模と稼ぐ力だ。ヤマハは、世界のピアノの 4 割弱、電子ピアノの 5 割弱を持つ(業界ノートより)。河合は、電子ピアノの世界シェアの目標を 2035 年に 24.4% に置いていて、今はそれを下回る。売上は 720 億円で、ヤマハの楽器事業とは規模が違う。
利益率は、過去 10 年で 0.2% から 7.8% の間を動いた。2022 年 3 月期の 7.8% は、コロナ後の需要と円安の追い風で、続かなかった。中央値の ROE は 7.8% だが、直近は 2.4% である。
楽器教育は赤字で、生徒数の減少と、材料費と人件費の上昇が値上げを上回った。素材加工は自動車の需要に左右される。
経営は、2025 年に中期計画「KAWAI 十年の計」を作り、2035 年に営業利益 150 億円、ROE 16% を掲げた。ただ、目標と実績の差が大きい。2028 年 3 月期の目標(営業利益 50 億円)に対し、会社自身の予想は 28 億円である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
楽器の市場は、先進国で縮み、新興国で伸びる。業界ノートは、中立で名目年 2〜3% の成長を置く。ヤマハは、世界のピアノの 39%、電子ピアノの 48%、管楽器の 32% を持ち、楽器全体のシェアは 26% で世界首位とされる。河合は、国内のアコースティックピアノで 5 割を超え、海外ではグランドの高級品とアップライトで戦う。電子ピアノには、ヤマハのほか、ローランド、カシオがいる。
ピアノは、家庭に置く大きな買い物で、少子化と住宅事情の影響を受ける。最大の市場である中国は、数年にわたり需要が低迷している。ヤマハも、中国の弱さが続くと述べ、2025 年 12 月にインドネシアでのエントリー向けピアノの生産を終え、日本と中国に集約した。河合の説明資料も、中国のピアノ販売が大幅に減ったと述べる。北米は増えている。
電子ピアノは、2026 年 3 月期に全地域で販売が減った。欧州と日本も弱い。在庫は増えたが、新工場の先行生産分を含む。
音楽教室は、少子化で生徒数が減っている。河合は、海外での教室展開と、大人向けを増やして埋めようとする。
10 年後を考える。中国を除く地域で、数量は少し増え、価格は物価並みに上がるのが中立だ。国内は人口が減るので、数量は横ばいかやや減る。分かれ目は、電子ピアノでヤマハに次ぐ位置を固められるか、教室の赤字を止められるかだ。
資本政策と M&A
還元の方針は、累進配当(減配しない)と、総還元性向 50% 以上の継続である。配当は年 1 回で、総額は 8 億円ほど。2026 年 3 月期の純利益 11 億円に対しては、7 割を超える。自社株買いは、2023 年 3 月期に 1 億円ほどあっただけだ。
株主優待は、2026 年 2 月に広げた。工場の見学とイベントへの招待に、ピアノの調律割引券、音楽教室のおためしレッスン券、少額のクオカードを加えた。年間の費用は 1 億円に満たないと見て(開示がなく推定)、還元には足さない。
借入は増えている。有利子負債は 113 億円で、現金 100 億円を上回る。2026 年 3 月期の営業活動のお金の出入りは 8 億円の支出で、投資有価証券の取得に 36 億円を使った。インドネシアの電子ピアノの新工場(総投資 40 億円、2026 年 7 月に完成式)の資金も、自己資金と借入で賄う。設備投資は年 40 億円で、利益に対して重い。
政策保有株は、上場分の計上額が 62 億円。筆頭は住友不動産の 34 億円。毎年検証して縮減する方針で、当期は 2 銘柄を 1 億円で売った。有価証券報告書は、学研ホールディングスとの資本提携の解消に伴う売却を記す。
大株主は、日本マスタートラスト信託銀行 9.8%、河合社団 5.5%、住友不動産 5.1%、日本毛織 4.0%、明治安田生命 3.5%、東京海上日動 3.2% などで、持ち合いが厚い。2026 年 6 月から、ひびき・パース・アドバイザーズが買い増し、8 月に 7.2% を報告した。目的は純投資で、具体的な提案は確認できていない。買われる側の確率は、kabufu の試算で 10 年以内 25% と高めだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
底は打った。営業利益率 0.2% は、新工場の立ち上げ前の最悪の数字で、これ以上は落ちない。会社は、2027 年 3 月期に営業利益 18 億円、2028 年 3 月期に 28 億円を見込む。1 四半期の営業損失は、5 億円から 2.6 億円へ縮んでいる。
国内のピアノのシェアは、初めて 5 割を超えた。北米は増えている。インドネシアの新工場は、電子ピアノの原価を下げ、米国の開発拠点は、売れ筋の機能を早く取り込む。電子ピアノの世界シェアは、2035 年に 24.4% に上げる計画だ。マスターシリーズなど高級アップライトの海外展開も、利益率を押し上げる。
音楽教室は、値上げと費用の見直し、海外展開で赤字を抜ける。素材加工は半導体向けが伸びる。
財務は堅く、借入枠に 87 億円の余裕がある。大株主には、ひびき・パースが入り、資本効率の改善を迫る力が働く。政策保有株の縮減が進めば、還元も増える。
10 年で利益率が 8% に乗れば、営業利益は 96 億円になり、中期計画の途上に入る。そうなれば、時価総額は今の 2 倍を超える。
慎重な見方
回復の絵は、何度も崩れた。2026 年 3 月期の経常利益は、期初の予想の 1.2 倍の見込みから 2 割下回った。営業利益は 2 期続けてほぼゼロで、会社の予想は毎年上方に置かれている。
電子ピアノは、全地域で販売が減った。在庫は積み上がり、新工場の先行生産分が重なる。中国のピアノ需要は戻らず、欧州も弱い。ヤマハですら、インドネシアの廉価品を畳んだ。規模で劣る河合が、同じ土俵で利益を出すのは難しい。
音楽教室は、少子化で生徒数が減り、材料費と人件費の上昇が値上げを上回った。楽器教育の営業損失は、1.5 億円広がった。
資本の使い方にも疑問がある。営業活動のお金の出入りがマイナスなのに、有価証券に 36 億円を使い、借入を増やした。設備投資は年 40 億円で、営業利益の 4 倍を超える。
中期計画の目標(2028 年 3 月期に営業利益 50 億円)は、会社の予想の倍近い。計画が実現しない前提で見れば、利益率は 2% 前後にとどまり、ROE は資本コストを大きく下回る。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも根拠がある。底打ちの兆しは、損失が縮んだ四半期にあり、新工場の効果もこれから出る。一方で、回復が毎回ずれたことも事実だ。
筆者は、中立を利益率 4% の回復に置き、確率は慎重側へやや寄せた。強気に 3 割弱、慎重に 3 割半だ。強気が実現すれば、価値は今の値段を大きく上回るが、中立では 3 割ほど下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,087 円352 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,445 円124 億円)。 今の値に割り戻すと 2,877 円247 億円、今との差 −10.7%、 期待の年率 +5.6%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 10,813 円930 億円 | 2,790 円240 億円 | +322.5% | +15.5% | 1,088 円94 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,597 円568 億円 | 2,092 円180 億円 | +169.9% | +10.4% | 1,738 円150 億円 |
| 中立 | 37% | 4,199 円361 億円 | 1,511 円130 億円 | +77.3% | +5.9% | 2,113 円182 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,030 円89 億円 | 814 円70 億円 | −42.7% | −5.4% | 461 円40 億円 |
| 悲観 | 10% | 918 円79 億円 | 407 円35 億円 | −58.8% | −8.5% | 133 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,087 円352 億円 | 1,445 円124 億円 | +71.8% | +5.6% | 5,532 円476 億円 |
今の株価時価総額 3,220 円277 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 強気:中期計画に近づき、利益率が 8% に乗る 利益 68 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 10,813 円930 億円
電子ピアノは、インドネシアの新工場と米国の開発拠点が効いて、全地域で売上が戻り、世界のシェアを上げる。グランドとアップライトの高級品は、海外で「マスターシリーズ」が受け入れられ、値上げが通る。中国は底を打ち、普及価格帯の競争も落ち着く。
音楽教室は、海外展開と大人向けのレッスンが広がり、赤字を抜けて黒字になる。楽器教育の利益率は 8% に乗る。素材加工は、半導体向けの精密部品が伸び、利益率は 10% になる。
全社の売上は 1,200 億円ほど、営業利益は 96 億円、利益率は 8.0% だ。2022 年 3 月期の 7.8% を超える。ROE は 9% を超え、資本コストに届く。政策保有株を売って、還元は総還元性向 5 割の方針どおり、10 年で 240 億円になる。インドネシアの新工場と米国の開発拠点が、早く立ち上がる。会社が掲げた電子ピアノの世界シェア 24.4%(2035 年)に、近づく。
- 楽器教育:数量 2,800(従業員数(人、楽器教育))× 価格 34(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 949 億円・営業利益 76 億円
- 素材加工:数量 240(従業員数(人、素材加工))× 価格 67(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 161 億円・営業利益 16 億円
- その他事業:数量 90.0(従業員数(人、その他事業))× 価格 97(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 88 億円・営業利益 5 億円
倍率:事業の純利益 68 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.68 倍、時価総額 930 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画(2031 年 3 月期に営業利益 80 億円)を、おおむね超える姿。計画が未達続きなので、1 割に届かない 8% を置いた。
やや楽観 20% やや強気:黒字に戻るが、利益率は 5% 台にとどまる 利益 45 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 6,597 円568 億円
電子ピアノの在庫が正常になり、新工場の効果で原価が下がる。アコースティックは、国内シェア 5 割を守り、北米と欧州で伸びる。中国は減り続けるが、他の地域で埋める。
音楽教室は、値上げと生徒数の下げ止まりで、赤字がほぼ消える。楽器教育の利益率は 5% 台だ。素材加工は 8% 台で、自動車の落ち込みを半導体で埋める。
全社の売上は 1,100 億円、営業利益は 64 億円、利益率は 5.8% だ。過去 12 年で 2022 年を除けば最高の水準だが、ROE は 7% に届かず、資本コストにはなお遠い。還元は総還元性向 5 割の方針どおり、180 億円になる。新工場の立ち上げ費用は、2〜3 年で出きる。その後は、原価の改善が利益率を押し上げる。
- 楽器教育:数量 2,650(従業員数(人、楽器教育))× 価格 33(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 868 億円・営業利益 48 億円
- 素材加工:数量 230(従業員数(人、素材加工))× 価格 66(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 151 億円・営業利益 13 億円
- その他事業:数量 85.0(従業員数(人、その他事業))× 価格 95(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 81 億円・営業利益 4 億円
倍率:事業の純利益 45 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.0% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 568 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子ピアノの回復と原価の改善で、ようやく黒字が定着する姿。会社の 2028 年 3 月期の目標(営業利益 50 億円)に 10 年かけて届くと見て、2 割を置いた。
中立 37% 中立:利益率は 4% 前後に戻り、資本コストには届かない 利益 29 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 4,199 円361 億円
電子ピアノの販売は戻るが、ヤマハとローランドの背中は遠い。アコースティックは、国内シェア 5 割を守る一方、中国の落ち込みと少子化で、世界の数量は伸びない。北米と東南アジアが少し伸びる。
音楽教室は、値上げと費用の見直しで、赤字を小さくする。楽器教育の利益率は 3.5% だ。素材加工は 7%、その他事業は 5% で、過去の水準に戻る。
全社の売上は 1,000 億円ほど、営業利益は 40 億円、利益率は 4.0% である。2016 年から 2021 年の 3.8〜5.2% の範囲に入る。純利益は 29 億円で、ROE は 5% 弱にとどまる。還元は総還元性向 5 割の方針どおり、10 年で 130 億円だ。最初の 2 年は、会社の予想に沿って回復する。その後は、利益率が横ばいで推移する。
- 楽器教育:数量 2,500(従業員数(人、楽器教育))× 価格 32(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 791 億円・営業利益 28 億円
- 素材加工:数量 220(従業員数(人、素材加工))× 価格 64(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 141 億円・営業利益 10 億円
- その他事業:数量 80.0(従業員数(人、その他事業))× 価格 93(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 75 億円・営業利益 4 億円
倍率:事業の純利益 29 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 361 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の予想(2027 年 3 月期に営業利益 18 億円、2028 年 3 月期に 28 億円)に沿って回復し、過去 10 年の平均の利益率に戻る姿。最も重い筋書きとして、3 割台後半を置いた。
やや悲観 25% やや弱気:利益率は 2% に届かず、赤字すれすれが続く 利益 11 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 1,030 円89 億円
電子ピアノは、ヤマハ・ローランド・カシオと中国メーカーに挟まれ、価格が上がらない。新工場の費用が重く、在庫の処分も続く。アコースティックは、中国の落ち込みが続き、国内も少子化で数量が減る。
音楽教室は、生徒数が減り続け、教室の統合に費用がかかる。楽器教育の利益率は 1% 止まりだ。素材加工は自動車の落ち込みで 5% に下がる。
全社の売上は 880 億円ほど、営業利益は 15 億円、利益率は 1.7% である。ここ 2 期とほぼ同じ水準が 10 年続く姿だ。ROE は 2% 台で、累進配当を守るので、配当を中心に還元は 70 億円になる。新工場の費用が重く、期待した原価の改善が遅れる。会社の予想は、毎年のように下方に修正される。
- 楽器教育:数量 2,350(従業員数(人、楽器教育))× 価格 29(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 690 億円・営業利益 7 億円
- 素材加工:数量 205(従業員数(人、素材加工))× 価格 60(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 123 億円・営業利益 6 億円
- その他事業:数量 72.0(従業員数(人、その他事業))× 価格 87(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 63 億円・営業利益 3 億円
倍率:純利益 10.8 億円・10 年後の自己資本 494 億円・ROE 2.2%。ROE 2.2% が資本コスト k 8% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 11.8 倍。事業の伸びも堀の強化も期待できず、ROE も低いので、上限の 7 割に置いた。純利益 10.8 億円 × 8.2 倍で時価総額 88.6 億円。
確率:直近 2 期の営業利益率が 0.4% と 0.2% で、会社の予想も下回った実績に照らして、4 分の 1 を置いた。
悲観 10% 弱気:ピアノ需要が構造的に縮み、教室も赤字が続く 利益 −6 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 918 円79 億円
中国と欧州のピアノ需要が戻らず、国内も少子化で数量が減る。電子ピアノは、中国メーカーの低価格品に押され、値下げに追い込まれる。ヤマハがインドネシアでの廉価品の生産をやめたように、普及価格帯は採算が合わなくなる。
音楽教室は、生徒数が大きく減り、教室を閉じる費用がかさむ。楽器教育は利益率がマイナス 2% に落ちる。素材加工は、自動車向けの需要が細り、利益率が 3% に下がる。
全社の売上は 700 億円を割り、営業損失は 7 億円になる。構造改革の費用がかさみ、配当は減らされ、還元は 35 億円にとどまる。自己資本は 400 億円ほどに減る。配当は、政策保有株や資産の売却資金で払う。構造改革に踏み切るが、費用が先に出て、効果は遅れる。立て直しに、長い時間がかかる。
- 楽器教育:数量 2,100(従業員数(人、楽器教育))× 価格 26(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 546 億円・営業利益 −11 億円
- 素材加工:数量 190(従業員数(人、素材加工))× 価格 53(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 100 億円・営業利益 3 億円
- その他事業:数量 65.0(従業員数(人、その他事業))× 価格 80(1 人当たり売上(百万円))→ 売上 52 億円・営業利益 2 億円
倍率:稼ぐ力が小さく、床は売れる資産で測る。回収後に残る約 160 億円の 5 割を、今の自己資本 467 億円に対する PBR 0.17 倍(時価総額 79.0 億円)に置いた。会社を清算しない限り、少数株主は資産の使い道を決められず、売れても費用と値引きがかかるので、純資産を大きく下回る値を認めた。
確率:ピアノの需要が構造的に縮み、楽器教育の赤字が続く姿。財務は堅く倒れる心配は小さいので、1 割を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
楽器教育
アコースティックピアノ(グランド・アップライト)、電子ピアノ・電子楽器、音楽教室(カワイ音楽教室)、調律・メンテナンス。国内ピアノのシェアは 5 割を超え、海外は北米・欧州・中国・インドネシア生産。
| 数量従業員数(人、楽器教育) | 価格1 人当たり売上(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,501 | 23 | 565 | −9 |
| 10 年後 中立 | 2,500 | 32 | 791 | 28 |
取り方:楽器教育の売上 564.9 億円(決算の開示)を、楽器教育の従業員 2,501 人(有価証券報告書、臨時を除く)で割って 1 人当たり 22.6 百万円とした。台数の開示がないので、人数を数量、1 人当たり売上を価格に置いた。人数は実質、1 人当たり売上は物価を含む名目。営業損失は 8.5 億円(利益率 −1.5%)。電子ピアノは全地域で減り、音楽教室は生徒数が減って、原価の上昇が値上げを上回った。
素材加工
精密金属加工(自動車・半導体向け部品)、鋳造、木材加工。楽器づくりの技術を生かした外販。
| 数量従業員数(人、素材加工) | 価格1 人当たり売上(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 216 | 48 | 103 | 8 |
| 10 年後 中立 | 220 | 64 | 141 | 10 |
取り方:素材加工の売上 103.4 億円を、素材加工の従業員 216 人で割って 1 人当たり 47.9 百万円とした。人数は実質、単価は名目。営業利益は 7.6 億円(利益率 7.3%)。半導体関連の受注で増収だが、原価の上昇で減益。2027 年 3 月期は自動車関連の受注減を見込む。
その他事業
不動産の賃貸、施設運営、保険代理などの周辺事業。
| 数量従業員数(人、その他事業) | 価格1 人当たり売上(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 75.0 | 69 | 52 | 3 |
| 10 年後 中立 | 80.0 | 93 | 75 | 4 |
取り方:その他事業の売上 52.1 億円を、従業員 75 人で割って 1 人当たり 69.5 百万円とした。人数は実質、単価は名目。営業利益は 2.7 億円(利益率 5.2%)で、前年から 14.7% 増えた。
リスクと懸念
回復が計画より遅れる
営業利益率は 2 期続けて 0.4% と 0.2%。経常利益は予想を 2 割下回った。会社は 2027 年 3 月期に営業利益 18 億円を見込むが、1 四半期は 2.6 億円の損失だった。中期計画の目標との差も大きい。
中国と欧州の需要低迷
中国のピアノ販売は大幅に減り、欧州の電子ピアノも弱い。最大の市場の戻りが遅れれば、数量が減り、普及価格帯の競争も強まる。
楽器教育の赤字
少子化で教室の生徒数が減り、材料費と人件費の上昇が値上げを上回って、営業損失が広がった。教室は将来の買い替え客の入口でもあり、閉じれば本業にも響く。
電子ピアノの競争と在庫
ヤマハ、ローランド、カシオと、中国メーカーが競う。2026 年 3 月期は在庫が増えた。新工場の稼働が立ち上がるまでの費用と、在庫の処分で、利益が削られる。
為替
海外売上と木材・部品の輸入を抱える。2026 年 3 月期の純利益は為替差益に支えられた。円高になれば、この支えが消え、海外売上の円換算も目減りする。
資本配分と借入
有利子負債は現金を上回り、営業活動のお金の出入りはマイナスだった。設備投資は年 40 億円で、有価証券の取得も続く。回収が遅れれば、財務の余裕が削られる。
素材加工の自動車依存
2027 年 3 月期は、自動車関連の受注減を会社自身が見込む。半導体向けで補えるかが分かれ目である。
大地震
本社、竜洋工場、主な取引先が静岡県にあり、東南海地震の被害を受けやすいと、会社自身が挙げる。
今後の分かれ目
- 営業利益が 2 期続けて会社予想を達成し、楽器教育が黒字になったら
- 強気・やや強気側へ重みを移す。回復が実績で示されたことになる。
- 電子ピアノの販売が全地域で増え、在庫が正常になったら
- 新工場の原価改善が本物かを見る。強気側の確率を少し上げてよい。
- 中国のピアノ販売が下げ止まったら
- アコースティックの数量の前提を上げ、強気側へ重みを移す。
- 営業利益が予想をまた下回り、在庫や教室の整理費用が出たら
- やや弱気側へ重みを移す。回復の遅れが続いている証拠になる。
- 政策保有株の売却が進み、自社株買いや増配に回ったら
- 還元が増える分、現金の戻り方と強気側の確率を上げてよい。
- ひびき・パースなどの株主が提案を出す、または第三者が買収を提案したら
- 条件しだいで価値は大きく動く。買付価格と、資産の扱いの提案を見る。
見ておくもの
- 楽器教育の営業損益(音楽教室の生徒数と値上げの効果)
- 電子ピアノの全地域の販売と在庫、インドネシア新工場の稼働
- 中国・欧州・北米のピアノ販売の動き
- 営業活動のお金の出入りと借入、設備投資の水準
- 政策保有株の売却額と、その資金の使い道、株主提案の動き
倍率と資本コストの決め方
数量は楽器教育・素材加工・その他事業の従業員数(実質)、価格は 1 人当たり売上(物価 3% を含む名目)で積んだ。ピアノの台数や教室の生徒数は開示がないので、人数と 1 人当たり売上で置いた。中立の人数は、楽器教育が横ばい、素材加工とその他は少し増やした。価格は、楽器教育が物価に自動化の効果を足して 1.40 倍、素材加工とその他は物価並みの 1.34 倍とした。中立の営業利益率は、楽器教育 3.5%・素材加工 7%・その他 5% で、全社 4.0% だ。2016〜2021 年の 3.8〜5.2% の内に入り、会社の予想(2028 年 3 月期に 3.3%)より少し高く、中期計画(5.6%)より低い。倍率は k 8%・g 4% の式から置き、ROE が資本コストを下回るので上限は 1÷k だ。余った現金はなく(現金は借入より少ない)、政策保有株は配当が純利益に入るので足していない。悲観の床は、運転資産と保有株の売れる価値の半分で測った。減価償却は物価で増やさず、設備投資(年 40 億円)の膨らみは、利益率の低さに含めた。今の株価と PER は、最後に比べただけで、倍率の根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.0% = 8.5%。理由は quality_why。財務は堅く存続に疑いはないので、上乗せは付けない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。