結論
興研は、工場や建設現場、病院、自衛隊で使う防じんマスクと防毒マスクを作る会社だ。国の型式検定に合格しないと売れない製品で、会社は国内の防じんマスクで首位級の地位にある。筆者の結論は、今の値段はほぼ適正から、わずかに割安寄りだ。製品は強いが、資本の稼ぎがそれに追いついていないからだ。
本業のマスクは、景気に左右されにくい安定した事業だ。働く人の安全を守る法令が支える需要で、2024 年の化学物質の規制の見直しは追い風になる。2026 年には主要な製品の値上げも通した。
もう 1 つの芽が、半導体の工場向けのクリーン装置「KOACH(コーチ)」だ。マスクで培った空気を清浄にする技術を生かした製品で、2025 年 12 月期は売上が 8 割増えた。利益率も高く、10 年で会社の利益を押し上げる力がある。
弱みは資本の重さだ。東京の本社などの土地を簿価で 60 億円持ち、自己資本は時価総額の 1.6 倍ある。ROE は 6% 前後で、資本コストの 7% に届かない。創業家と財団が株の過半を持ち、資本の使い方が大きく変わる見込みも薄い。
10 年の中立では、マスクの数量はほぼ横ばいで価格は物価並み、KOACH が 1.3 倍に育つとみる。営業利益は 17 億円台と今の 1.4 倍になる。値段の差を生むのは、この成長を資本の重さがどこまで打ち消すかだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、興研は「良い製品を持つが、資本の使い方で損をしている会社」だ。国の検定に守られたマスクで首位級のシェアを持ち、値上げも通る。10 年後もこの事業は残り、今より需要は厚くなっている可能性が高い。
堀、つまり他社がまねできない強みは本物だ。新しい会社がマスクを売るには、検定の技術と現場の信頼の両方を一から積む必要がある。交換部品が繰り返し売れることも、オーナーにとって心強い。
オーナー利益、つまり設備の更新を引いたあとに株主に残る現金は、会計の利益とほぼ同じだ。設備は軽く、更新の投資は償却の範囲に収まる。
問題は資本の重さだ。本社の土地や在庫で自己資本が膨らみ、良い事業なのに ROE が資本コストに届かない。創業家が過半を持ち、資本を絞る圧力は弱い。
安全域は、製品の強さと土地の厚さにある。値段は事業の価値をやや下回る程度で、大きな割安ではない。筆者は、KOACH の伸びと資本の使い方の変化が見えた時に、値打ちが一段上がると見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの 8 割はマスクだ。粉じんを防ぐ防じんマスク、有毒なガスを防ぐ防毒マスク、電動ファンで空気を送る呼吸用保護具、病院の感染対策用のマスク、自衛隊や官公庁向けの防護マスクを作る。売上の大半は国内で、販売店を通じて製造業、建設業、病院、官公庁に届く。
これらは労働安全衛生法で使うことが義務づけられ、国の型式検定に通った製品しか売れない。新しい会社が参入するには、検定に通る技術と、全国の現場に届ける販路の両方が要る。使い捨ての品だけでなく、交換用のフィルターや部品が繰り返し売れるのも強みだ。
マスク関連のセグメント利益は売上の 4 割を超える。ここから研究開発や管理部門の費用、つまり全社費用を引いたのが会社の営業利益だ。全社費用は売上の 3 割強と重く、会社の営業利益率は 10% 前後になる。
2 つ目の柱が環境関連で、半導体や電子部品の工場向けのオープンクリーンシステム「KOACH」を売る。部屋全体を清浄にする従来のクリーンルームではなく、作業する場所だけに清浄な空気を送る装置で、世界最高水準の清浄度を省エネで作れるのが売りだ。2025 年 12 月期は大型機の販売台数が大きく増え、売上は 19 億円に達した。
その他に、官公庁向けの空気清浄装置などがある。工場は国内にあり、設備の更新は小口で、償却は年 4 億円ほどだ。
優良さと弱いところ
優良さは「並の上」と筆者は見る。中心にあるのは、規制に守られた検定品で首位級のシェアを持つことだ。会社の採用情報では国内の防じんマスクで 6 割を超えるシェアを掲げる。重松製作所と並ぶ 2 強の構図で、海外の大手が国内の現場で大きくシェアを取った例は少ない。
値決めの力もある。原材料と物流費が上がる中で、2026 年に主要な製品の値上げを行った。マスクは働く人の命を守る品で、顧客は値段より信頼と使い慣れを選ぶ。交換部品の売上が続くことも、利益を安定させる。
弱いのは資本の効率だ。営業利益率は 10% 前後と悪くないが、自己資本は土地や在庫で膨らみ、ROE は過去 10 年の中央値で 5.6% にとどまる。資本コストを超えたことはほぼ無い。
医療用マスクの売上は感染症の流行で大きく振れ、流行の波が去ると減る。KOACH は半導体の投資の波に左右される。どちらも本業の安定を揺らすほどの大きさではないが、利益の見通しをぶれさせる。
経営は創業家の色が濃く、技術と品質を重んじる社風が強い。半面、資本を絞って ROE を上げる動きは鈍い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
産業用マスクの需要は、働く人の数と、粉じんや化学物質を扱う仕事の量で決まる。製造業と建設業の就業者は減っていくが、マスクの使用を求める規制は強まる方向にある。
最大の変化は化学物質の規制だ。2024 年 4 月から、約 2,900 種類の化学物質について、会社が自らリスクを見積もり、保護具を使わせる仕組みに変わった。2026 年 4 月には対象がさらに約 850 物質増える予定だ。これまでマスクを使っていなかった現場にも需要が広がる。
建設の現場も追い風だ。老朽化した道路や橋、トンネルの補修工事が全国で増え、粉じんの出る作業が増える。自衛隊向けの防護マスクは、防衛費の増額を背景に 3 期続けて伸びた。
逆風もある。医療用マスクは新型コロナの特需が終わり、流行が無い年は減る。国内の製造業の就業者が減れば、使い捨てのマスクの数量も減る。
10 年で見ると、マスクの数量は規制の追い風と就業者の減少が打ち消し合い、ほぼ横ばいになると筆者は見る。価格は検定品の強みで物価並みに上がる。
KOACH の市場は半導体の工場の投資に連動する。熊本や北海道に大型の工場が建ち、国内の半導体の投資は 2020 年代に大きく増えた。従来のクリーンルームを置き換える提案が通れば、市場はまだ小さく伸びしろは大きい。ただ半導体の投資には波があり、年ごとの売上は振れる。
資本政策と M&A
還元は安定配当が中心だ。普通配当は前期と同じ水準を保ち、2025 年 12 月期は過去最高益を受けて特別配当を上乗せした。配当の総額は年 2 億円台だ。2026 年 2 月には立会外の取引で自社株を 1.5 億円買った。
株主の構成は創業家が中心だ。創業家の酒井家と、その財団で株の過半を持つ。みずほ銀行とりそな銀行も上位に並ぶ。少数株主の声で資本の使い方を変えさせるのは難しい。
貸借対照表は堅い。借入は 54 億円あるが、現預金 28 億円と合わせた純負債は 26 億円で、年の営業キャッシュフローの 2 年分ほどだ。東京の本社などの土地を簿価で 60 億円持つ。
M&A は、買う側でも買われる側でも目立った動きは無い。創業家が過半を握るので、敵対的な買収は起きにくい。創業家による MBO の可能性は残るが、具体的な話は見当たらない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
マスクは規制が需要を作る事業だ。2024 年から化学物質の管理が会社任せの仕組みに変わり、保護具の使用が義務になった。2026 年には対象の物質がさらに増える。これまでマスクを使わなかった現場に需要が広がり、数量は就業者の減少を上回って伸びうる。
値決めの力もはっきりしてきた。2026 年の値上げは受注を落とさずに通り、前倒しの注文まで出た。検定品で首位級のシェアを持つ会社が、物価並みかそれ以上に値段を上げ続けられるなら、利益率は上がる。
KOACH はまだ始まったばかりだ。半導体の工場は国内で建設が続き、従来のクリーンルームより省エネで清浄度の高い装置への置き換えは、大きな市場になりうる。2025 年 12 月期に売上が 8 割増えたのは、その入り口にすぎない。セグメントの利益率は 5 割近く、売上が 2 倍になれば会社の営業利益は 3 割増える。
自衛隊向けの防護マスクも防衛費の増額で伸び続ける。土地は簿価 60 億円で、都心の本社の時価はそれを大きく上回るはずだ。
慎重な見方
マスクの数量は伸びない。国内の製造業と建設業の就業者は減り続け、使い捨てのマスクの数はそれに沿って細る。医療用マスクはコロナの特需が去り、流行の無い年は減収が続く。規制の追い風は、すでに 2024 年からの売上に織り込まれている。
KOACH は半導体の投資の波に乗っているだけだ。2026 年 12 月期の中間期は大型機の納入が減り、環境関連の売上は 4 割減った。半導体の投資が一服すれば、売上は簡単に半分になる。市場も小さく、クリーンルームの大手が同じ発想の製品を出せば、価格は崩れる。
資本の重さも変わらない。創業家と財団が過半を持ち、ROE は 10 年にわたり資本コストを下回ってきた。全社費用は売上の 3 割強と重く、値上げで増えた売上の多くは人件費と研究開発費に消える。
借入は 54 億円あり、金利の上昇は利払いを増やす。土地の含み益は、売られない限り株主の手には届かない。良い製品を持っていても、資本の重さが値打ちを削る構図は 10 年後も変わらない。
どちらに重みを置いたか
製品の強さについては、強気の見方に分がある。検定品の首位級のシェアと値上げの実績は、10 年先も利益を守る根拠になる。一方で、KOACH の伸びの大きさと資本の使い方については、慎重な見方にも理がある。中立に 40% を置き、楽観側に 30%、悲観側に 30% と、ほぼ釣り合う形にした。悲観の深さは、検定品の基盤と土地の厚さが支えるので浅めに置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 3,233 円156 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 822 円40 億円)。 今の値に割り戻すと 2,229 円108 億円、今との差 +29.4%、 期待の年率 +8.9%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 7,010 円339 億円 | 1,288 円62 億円 | +381.6% | +17.0% | 664 円32 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,611 円223 億円 | 998 円48 億円 | +225.5% | +12.5% | 1,234 円60 億円 |
| 中立 | 40% | 3,538 円171 億円 | 862 円42 億円 | +155.4% | +9.8% | 1,760 円85 億円 |
| やや悲観 | 22% | 918 円44 億円 | 544 円26 億円 | −15.2% | −1.6% | 321 円16 億円 |
| 悲観 | 8% | 513 円25 億円 | 434 円21 億円 | −45.1% | −5.8% | 76 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,233 円156 億円 | 822 円40 億円 | +135.3% | +8.9% | 4,055 円196 億円 |
今の株価時価総額 1,723 円83 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 規制の追い風と KOACH の倍増で、利益率が過去最高を超える 利益 21 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 7,010 円339 億円
化学物質の規制の対象が広がり、これまでマスクを使わなかった中小の工場や建設現場にも使用が根づく筋書きだ。マスクの数量は 10 年で 15% 増え、値上げも物価をわずかに上回って通る。
KOACH は国内の半導体の工場で従来のクリーンルームの置き換えが進み、台数は 2 倍近くになる。海外の販売網も育ち、大型機の受注が安定する。自衛隊向けの防護マスクも防衛費の増額で伸び続ける。
全社費用は物価と人の増加で 1.5 倍になるが、売上の伸びがそれを上回る。営業利益率は 15% に近づき、過去の最良を超える。
ROE は 9% 台に上がり、資本コストを超える。厚い利益を受けて配当も増え、創業家の会社のまま資本の効率が一段上がる。
- マスク関連:数量 28.9(マスク本体と交換部品の出荷(百万個・推定))× 価格 532(1 個あたりの平均単価(円・推定))→ 売上 154 億円・営業利益 68 億円。数量 15% 増。価格は物価をわずかに上回る
- 環境関連(KOACH):数量 450(販売台数(台・推定))× 価格 11(1 台あたりの平均単価(百万円・推定))→ 売上 48 億円・営業利益 22 億円。台数 1.86 倍。価格は物価並み
- その他(官公庁向け空気清浄装置など):数量 40.0(納入件数(件・推定))× 価格 13(1 件あたりの平均単価(百万円・推定))→ 売上 5 億円・営業利益 2 億円。官公庁向けが少し伸びる
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍。全体の PER 16.29 倍、時価総額 339 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:営業利益率 14.7% は 2011/12 期の最良 13.1% を上回る。値上げの定着と KOACH の倍増が両方そろう必要があり 8%。
やや楽観 22% 値上げが根づき、KOACH が 1.7 倍に育つ 利益 15 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 4,611 円223 億円
マスクの数量は規制の追い風で 10 年に 5% 増え、値上げは物価並みに定着する筋書きだ。医療用は流行の無い年に減るが、産業用と防護マスクがそれを補う。
KOACH は国内の半導体の工場の投資が続き、台数が 1.6 倍に増える。投資の波で年ごとの売上は振れるが、10 年をならせば着実に伸びる。
全社費用は物価で増えるが、売上の伸びで吸収し、営業利益率は 12% と 2022/12 期の水準を少し上回る。
ROE は 7% 台に上がり、資本コストに並ぶ。配当は利益に沿って増え、自社株買いも折にふれて行う。
- マスク関連:数量 26.5(マスク本体と交換部品の出荷(百万個・推定))× 価格 515(1 個あたりの平均単価(円・推定))→ 売上 137 億円・営業利益 59 億円。数量 5% 増。価格は物価並み
- 環境関連(KOACH):数量 380(販売台数(台・推定))× 価格 11(1 台あたりの平均単価(百万円・推定))→ 売上 41 億円・営業利益 18 億円。台数 1.57 倍。価格は物価並み
- その他(官公庁向け空気清浄装置など):数量 36.0(納入件数(件・推定))× 価格 13(1 件あたりの平均単価(百万円・推定))→ 売上 5 億円・営業利益 2 億円。横ばい
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.56 倍、時価総額 223 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2026 年の値上げは受注を落とさずに通り、KOACH の引き合いも前期を上回る水準で積み上がる。起こりうる上振れとして 22%。
中立 40% マスクは横ばいで値上げは物価並み、KOACH が 1.4 倍 利益 12 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 3,538 円171 億円
マスクの数量は、規制の追い風と就業者の減少が打ち消し合い、10 年で 3% 増にとどまる筋書きだ。値段は検定品の強みで物価並みに上がり、マスクの売上は名目で 1.4 倍になる。
KOACH は半導体の投資の波に揺られながら、台数が 1.3 倍に増える。単価は物価並みに上がる。
全社費用は人件費と研究開発費が物価で増え、10 年で 1.37 倍になる。償却は取得した時の値段のまま年 4〜5 億円にとどまる。営業利益率は 10% 強と今の水準を保ち、営業利益は 17 億円台になる。
借入は 3.5% で借り換わり、利払いが少し増える。配当と自社株買いは利益の 4 割ほどで、自己資本は積み上がる。ROE は 6% 弱と、資本コストにわずかに届かない。
- マスク関連:数量 26.0(マスク本体と交換部品の出荷(百万個・推定))× 価格 505(1 個あたりの平均単価(円・推定))→ 売上 131 億円・営業利益 56 億円。数量 3% 増。価格は物価並み
- 環境関連(KOACH):数量 315(販売台数(台・推定))× 価格 11(1 台あたりの平均単価(百万円・推定))→ 売上 34 億円・営業利益 14 億円。台数 1.3 倍。価格は物価並み
- その他(官公庁向け空気清浄装置など):数量 35.0(納入件数(件・推定))× 価格 13(1 件あたりの平均単価(百万円・推定))→ 売上 5 億円・営業利益 2 億円。横ばい
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.0% が k 7.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.29 倍、時価総額 171 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去 12 年の営業利益率は 4.9〜11.2% で、直近 6 年は 9〜11% に定着した。全社費用の物価での増加を踏まえて 10.3% に置き、最も起こりやすい形として 40%。
やや悲観 22% マスクの数量が細り、KOACH は投資の谷で縮む 利益 4 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 918 円44 億円
国内の製造業と建設業の就業者の減少が規制の追い風を上回り、マスクの数量が 10 年で 5% 減る筋書きだ。医療用マスクは流行の無い年が続いて細る。値上げは物価にやや届かない。
KOACH は半導体の投資が一服し、クリーンルームの大手が似た装置を出して価格が下がる。台数は今より 1 割減る。
全社費用は削減で物価ほどには増えないが、売上の伸びの鈍さを補えず、営業利益率は 5% 前後に落ちる。2014 年から 2019 年ごろの水準だ。
配当は利益に沿って減る。ROE は 2% 台に下がり、資本の重さが目立つ。
- マスク関連:数量 23.9(マスク本体と交換部品の出荷(百万個・推定))× 価格 480(1 個あたりの平均単価(円・推定))→ 売上 115 億円・営業利益 47 億円。数量 5% 減。価格は物価にやや届かない
- 環境関連(KOACH):数量 218(販売台数(台・推定))× 価格 8.80(1 台あたりの平均単価(百万円・推定))→ 売上 19 億円・営業利益 7 億円。台数 1 割減。価格競争
- その他(官公庁向け空気清浄装置など):数量 30.0(納入件数(件・推定))× 価格 13(1 件あたりの平均単価(百万円・推定))→ 売上 4 億円・営業利益 1 億円。少し減る
倍率:ROE 2% 台で稼ぐ力は資本コストの 3 分の 1 ほど。マスクの基盤は残るので上限 14.3 倍の 6 割強の 9 倍。中立より PBR は低い。
確率:2014〜2019 年は営業利益率 5〜8% だった。医療用の剥落と半導体の投資の一服が重なれば戻りうる水準で、22% を置いた。
悲観 8% 海外勢と価格競争に負け、マスクの利益が細る 利益 1 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 513 円25 億円
海外の大手が検定を取って国内の現場に入り込み、通販での値引きも広がる筋書きだ。マスクの数量は 10 年で 17% 減り、価格は物価を大きく下回る。医療用はほぼ無くなる。
KOACH は価格競争に負けて台数が半分になり、事業として小さく残るだけだ。
全社費用を今の水準まで削っても、営業利益率は 1% 台に沈む。配当は大きく減らされる。
値打ちは稼ぐ力ではなく、本社などの土地を売った時の額で決まる。創業家が過半を持つので、土地が売られて株主に届くかはわからない。少数株主は、資産の厚さを値段に乗せる手段を持たない。
- マスク関連:数量 21.0(マスク本体と交換部品の出荷(百万個・推定))× 価格 450(1 個あたりの平均単価(円・推定))→ 売上 95 億円・営業利益 36 億円。数量 17% 減。価格は物価を大きく下回る
- 環境関連(KOACH):数量 120(販売台数(台・推定))× 価格 8.00(1 台あたりの平均単価(百万円・推定))→ 売上 10 億円・営業利益 2 億円。台数半減
- その他(官公庁向け空気清浄装置など):数量 25.0(納入件数(件・推定))× 価格 12(1 件あたりの平均単価(百万円・推定))→ 売上 3 億円・営業利益 1 億円。縮む
倍率:稼ぐ力(純利益÷k)は 10 億円に満たない。床は売れる資産で見て、今の自己資本 138 億円に 0.18 倍を掛けた約 25 億円。中立の PBR より低い。EV(時価総額+純負債)÷営業利益は 39 倍と高く出るが、利益がほぼ消える筋書きなので資産の床で見た。
確率:赤字は過去 30 年で無く、検定品の首位級が崩れる見込みは小さい。ただ構造的に負ければ起こりうるので 8%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
マスク関連
防じん・防毒マスク、電動ファン付き呼吸用保護具、医療用マスク、自衛隊・官公庁向け防護マスクと交換部品。
| 数量マスク本体と交換部品の出荷(百万個・推定) | 価格1 個あたりの平均単価(円・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 25.2 | 380 | 96 | 42 |
| 10 年後 中立 | 26.0 | 505 | 131 | 56 |
取り方:出荷数は開示が無いので推定。使い捨ての防じんマスク(数百)と取替え式・電動ファン付き(数千〜数万)、交換フィルターの構成から平均単価を 380(円)とみて、売上 95.64 億円から 2,517 万個と割り戻した。営業利益は全社費用を配る前のセグメント利益 41.78 億円。
環境関連(KOACH)
半導体・電子部品の工場向けのオープンクリーンシステム「KOACH」。作業域だけを高い清浄度にする装置。
| 数量販売台数(台・推定) | 価格1 台あたりの平均単価(百万円・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 242 | 8.00 | 19 | 9 |
| 10 年後 中立 | 315 | 11 | 34 | 14 |
取り方:台数は開示が無いので推定。中・小型機(数百万)と大型の「フロアーコーチ」(数千万)の構成から平均 800 万(円)とみて、売上 19.39 億円から 242 台とした。営業利益はセグメント利益 9.47 億円。
その他(官公庁向け空気清浄装置など)
官公庁向けの空気清浄装置などの小口の事業。
| 数量納入件数(件・推定) | 価格1 件あたりの平均単価(百万円・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 35.0 | 10 | 4 | 2 |
| 10 年後 中立 | 35.0 | 13 | 5 | 2 |
取り方:件数は開示が無いので推定。1 件 1,000 万(円)前後とみて、売上 3.53 億円から 35 件とした。営業利益はセグメント利益 1.54 億円。
リスクと懸念
半導体の投資の波
KOACH の売上は半導体の工場の投資に連動する。2026 年 12 月期の中間期は大型機の納入が減り、環境関連の売上が 4 割減った。投資が長く一服すれば、成長の柱が細る。
就業者の減少
国内の製造業と建設業で働く人は減り続ける。規制の追い風が一巡すれば、使い捨てのマスクの数量はそれに沿って細る。
医療用マスクの振れ
医療用マスクは感染症の流行で大きく伸び、流行が去ると減る。コロナ前の約 3 倍の水準を保っているが、この先も同じ水準が続く保証は無い。
海外勢との競争
海外の大手が国内の検定を取り、通販で安く売れば、価格の主導権が揺らぐ。検定品の首位級という地位は強いが、永遠ではない。
資本の使い方
創業家と財団が株の過半を持つ。土地や在庫で自己資本が膨らんだままなら、良い製品を持ちながら ROE は資本コストに届かず、値打ちが上がりにくい。
原材料と物流費
樹脂やフィルターの材料、物流費の値上がりが続く。値上げは通しているが、改定の間は原価率が上がり、利益が削られる。
今後の分かれ目
- KOACH の売上が 30 億円を超えて定着する
- 第 2 の柱が育ったとみて、やや楽観の確率を上げる。
- 化学物質の規制の対象拡大で産業用マスクの売上が年 5% 以上伸びる
- マスクの数量の見通しを上げ、楽観側に寄せる。
- 自社株買いの継続や配当性向の引き上げを打ち出す
- 資本の効率が上がるとみて、ROE と倍率の見方を上げる。
- 半導体の投資の一服で KOACH の売上が 10 億円を割る
- やや悲観の確率を上げ、中立の KOACH の伸びを下げる。
- 値上げの後に受注が落ちる
- 値決め力の見方を下げ、価格の伸びを物価未満に置き直す。
見ておくもの
- マスク関連のセグメント利益率
- KOACH の売上と受注・引き合いの残高
- 化学物質の規制の対象拡大と保護具の使用の広がり
- 防衛費と自衛隊向けの防護マスクの受注
- 還元の方針(自社株買い・配当性向)
倍率と資本コストの決め方
倍率は ROE と k 7.0% から置いた。中立は ROE が k をわずかに下回るので上限 1÷k の 14.3 倍の 86%、楽観は ROE が k を超えるので正当化 PER の 9 割強とした。今と過去の PER・PBR は見ていない。全社費用は物価で 1.37 倍に増やし、償却は物価で増やしていない。中立の営業利益率 10.3% は過去 12 年の山 11.2% 以下。土地は悲観の床にだけ簿価で数え、時価の含み益は確かめられないので足していない。株数は短信の自己株(株式給付信託の分を含む)を引いた数にした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.5→16.29 倍・やや楽観 PER 13.5→14.56 倍・中立 PER 12.3→14.29 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality −0.5% = 7.0%。