結論
平賀は、小売店向けのチラシ・POP・シールを企画から配送まで請け負う販促会社だ。売上は100億円、営業利益は2億円ほどしかない。筆者は、本業の稼ぎが薄いまま10年が過ぎれば、今の値段を支えるのは現金だけになると見る。
時価総額27億円に対し、純現金は16億円ある。割安に見えるのはそのためだ。だが、この現金は会社の中にあり、株主の手元に戻る保証はない。自己株を発行済みの3割近く持つ実績はあるが、消却や総還元の数値方針は確かめられなかった。
本業は構造的に厳しい。折込チラシは部数が減り、小売の販促は自前のアプリやSNSに移っている。10年で受注の件数は2割弱減ると置いた。値上げで売上の目減りは抑えるが、紙・人件費・配送費の上昇を価格に転嫁しきれなかったのが直近の減益だ。
会社は中期経営計画で営業利益率8%、ROE15%を長期の目標に掲げた。ただ、2026年版では数値目標を取り下げた。筆者はこの目標を中立に採らない。過去12年で営業利益率が6%を超えたのは1度だけだからだ。
結論は、現金を足してほぼ適正。資本コスト8.75%に届かない稼ぐ力に高い倍率はつけられず、現金の安全域がその分を支える。現金が戻る確かさが上がれば、見方は上に動く。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は持ち続けたい事業ではない。理由は、10年後に今より強くなっている姿が描けないからだ。チラシの需要は減り、価格を決める力も弱い。
株主のものになる利益、つまりオーナー利益は、直近で2億円弱しかない。事業を維持する設備投資は小さいが、利益そのものが薄い。純現金の16億円が時価総額の6割に当たるのは確かで、その分の安全域は大きい。
ただ、現金は戻って初めて株主のものになる。戻し方に確かな方針が見えない以上、帳簿の額をそのまま価値に数えない。筆者は戻り方を0.75とし、事業の価値には、資本コストに届かない稼ぎに見合った低い倍率だけを与えた。
経営は借金をせず、危ない買収もしていない。資本の配分で価値を壊してはいない。ただ、現金を事業の成長に変える先がないのも事実だ。会社が営業利益率8%、ROE15%と言い続けるなら、実績で示してほしい。
安全域は、悲観の場合の純現金にある。悲観でも今の時価総額を割り込みにくいのは、そのためだ。一方、楽観でも、伸びる事業の厚みがないので、大きな上振れは見込めない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、小売・流通業の販売促進物の受注だ。スーパーやドラッグストアなどが出す折込チラシ、店頭のPOP、商品に貼るシール、販促のWebページを、企画・デザインから印刷、配送まで一貫して引き受ける。東京都練馬区に本社を置く1956年設立の会社で、東証スタンダードに上場している。
収益は売上の約100億円で、単一の事業として開示している。受注は小口で件数が多い。同じ顧客から毎週のように同じ型のチラシを受けるため、一件ごとの利益は小さいが、取引は途切れにくい。ここが、この会社の安定の源である。
一方で、利益の多くは印刷の仕入れ(紙・インキ)と外注費、配送費の差で決まる。販売価格は顧客の見積もり比較で決まりやすく、原価が上がっても転嫁に時間がかかる。2026年3月期は売上が1.8%増えたのに、営業利益は4割減った。原材料高と費用の増加を価格に載せきれなかった形だ。
事業の性格は、受注産業に近い。景気が悪くなれば小売の販促費は削られるが、反対に値引きの訴求が増えて、チラシが増える局面もある。需要の山谷は大きくない。ただ、長い目では紙媒体の部数が減る力が働き、Webへの置き換えをどこまで自社の売上にできるかが勝負になる。
会社は2024年に中期経営計画「SPX2027」を出し、変革期と位置づけて、事業規模の拡大と稼ぐ力の向上を掲げた。ただ、2026年版では原材料価格の高止まりを理由に、数値目標の管理をやめ、単年度の計画に切り替えた。
優良さと弱いところ
優良さは、高くない。筆者がこの会社の堀、つまり他社が簡単にまねできない強みを探すと、顧客との取引の長さと小口の対応力に行き着く。ただ、どちらも価格を自分で決める力にはつながっていない。
営業利益率は、過去12年で0〜6.5%の間を行き来している。直近の2.2%は低い方だ。印刷は設備を持つ大手と、外注で請ける小規模の会社が多く、見積もりで比べられる。値段を決めるのは顧客のほうだ。
資本効率も弱い。ROEの過去10年の中央値は10%だが、直近は4%まで落ちた。自己資本の4分の1近くが現金で、稼ぐ力に対して資本が重い。会社自身がROE10%、PBR1倍を掲げたのは、この点を意識している証拠だろう。
強みは、財務の堅さだ。自己資本比率は59%、純現金は16億円で、借金に頼らない。赤字は2008〜2010年の3期だけで、これを除けば、小さな利益を積み上げてきた。経営は慎重だが、攻めた資本の使い方は見えない。
懸念は、どこに伸びるかが描けていないことだ。Webの制作運用は、AIの内製化で価格が下がりやすい分野でもある。堀があるとは言えないので、筆者は残る割合を普通の2分の1より低く、弱い堀として扱う。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
市場は、長い縮小の最中にある。日本の印刷市場は1991年の約9兆円から、2024年は6兆円強まで細った。チラシはその中でも、デジタル販促に置き換わる速さが大きい部類だ。折込の部数は年々減り、店のアプリやSNSのクーポンに予算が動いている。
小売はなお、店頭のPOPやシール、期間限定のチラシを必要とする。ここは紙の価値が残る領域で、平賀の受注の下支えだ。ただ、顧客のスーパーやドラッグストアは統合が進み、本部が一括で発注する流れが強まる。取引先が大きくなるほど、値段の交渉力は小さくなる。
費用の側では、紙・インキ・配送・人件費がいずれも上がる。物価が年3%で続く前提では、価格を同じ率で上げられるかが利益率を決める。上げられなかった会社から利益が痩せていく。直近の平賀がこの形だ。
競合は、大手の印刷会社から、地域の中小印刷、Web制作会社、広告代理店まで幅広い。業界全体では事業の整理と合併が続く。平賀のような中堅は、買われる側にも、小さな会社を買い集める側にもなりうる。ただ、これまでの合併は2013年のイマージュ吸収程度で、大きな再編の実績はない。
筆者は10年の数量を、中立で0.85倍と置く。人口の減少に加え、紙からデジタルへの置き換えが重なる。価格は物価並みの1.34倍まで上げられるかを、利益率の幅で表す。
資本政策と M&A
資本の使い方は、守りだ。配当は据え置きの水準(2027年3月期の予想も同じ)で、中計では配当性向30%以上を掲げる。年の総額は1億円強で、直近の利益の6割ほどに当たる。
自己株は発行済みの約28%を持つ。市場から買い戻してきた実績があり、少数株主の側から見れば、現金を戻す意思は一定程度ある。ただ、消却の計画や総還元の数値目標は確かめられなかった。株主優待も確認できなかったので、還元には数えない。
純現金16億円の大半は運転に要る分と見て、事業に要らない分は8億円と置く。戻り方は0.75とする。大株主の構成は確かめられておらず、オーナー支配で戻らない可能性を残すためだ。
M&Aは、買う側にも買われる側にもなりうる。時価総額が27億円と小さく、現金が時価総額の6割あるため、買い手から見れば安く映る。TOBの噂は見つかっていない。この可能性は、確率の中でやや楽観側に少し効かせた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
時価総額27億円に対して、純現金が16億円ある。事業を零として見ても、残りの時価総額は11億円で、これは売上100億円の会社に対して安すぎる。直近の営業利益が薄いのは、原材料と人件費の高騰を価格に載せるまでの一時的な遅れだ。
値上げが通れば、利益率は戻る。2022年3月期は6.5%、2024年3月期は5.0%を出した実績がある。会社が2027年3月期の経常利益を3.8億円と予想するのも、その回復の表れだ。
PBRは1倍を下回り、会社自身も1倍以上を目標に掲げた。自己株を発行済みの3割近く持つ以上、さらなる買い戻しや消却で、株主への還元が強まる余地がある。小規模で現金が厚いため、買収の標的になる可能性もあり、これは確率の上振れ要因だ。さらに、事業の価値を零と見ても現金が時価総額の6割を占めるので、下値の安全域は厚い。この点は、慎重な見方でも否定しにくい。会社が出す経常利益の回復予想が、その入り口になる。
慎重な見方
チラシ市場は構造的に縮む。折込は部数が減り、販促費はアプリとSNSへ動いている。10年で件数は2割ほど減る。顧客の小売は統合が進み、本部が一括で値段を決めるので、価格交渉力は弱まる一方だ。
利益率の回復は、過去にも期待されては外れてきた。営業利益率が6%を超えたのは過去12年で1度だけで、直近は2%だ。会社も中計の数値目標を取り下げた。回復を前提にした議論は、根拠が薄い。
現金は時価総額の6割あるが、株主に戻る確かな方針は無い。買い戻した自己株が消却されていないので、1株あたりの価値が増えるとは限らない。現金が事業の延命や、失敗する買収に使われれば、その価値は削られる。
資本コスト8.75%に届かない稼ぎに、高い倍率は付けられない。ROEが5%程度の会社では、ためた利益の価値は帳簿の額に届かない。加えて、現金が厚いのは、成長に使い道がないことの裏返しでもある。成長に使えない現金は、時間とともに価値が薄れる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。強気の見方は現金の安全域では正しいが、事業の稼ぎが資本コストに届かない点を覆せない。確率は、中立と、やや悲観に厚く置いた。現金の戻り方を0.75としたのは、買い戻しの実績を認めつつ、方針の薄さを引くためだ。現金の安全域は価値の下支えになるが、それだけで割安とは言えない。結論は、この会社が稼ぐ力を戻せるかを証明するまで、現金の価値を割り引いて見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,659 円48 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 479 円14 億円)。 今の値に割り戻すと 1,032 円30 億円、今との差 +11.5%、 期待の年率 +8.7%(資本コスト 8.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,663 円105 億円 | 904 円26 億円 | +393.3% | +17.3% | 365 円11 億円 |
| やや楽観 | 17% | 2,209 円64 億円 | 696 円20 億円 | +213.7% | +12.1% | 494 円14 億円 |
| 中立 | 35% | 1,872 円54 億円 | 487 円14 億円 | +154.7% | +9.8% | 825 円24 億円 |
| やや悲観 | 28% | 933 円27 億円 | 348 円10 億円 | +38.3% | +3.3% | 359 円10 億円 |
| 悲観 | 12% | 619 円18 億円 | 174 円5 億円 | −14.4% | −1.5% | 95 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,659 円48 億円 | 479 円14 億円 | +130.9% | +8.7% | 2,138 円61 億円 |
今の株価時価総額 926 円27 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 値上げが通り、WebとPOPで受注を守る 利益 8 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 3,663 円105 億円
紙のチラシは縮むが、店頭のPOP・シール・販促Webを束ねて提案する力で、大手顧客の本部発注を取り込む。受注は2割弱の減少にとどまり、紙・配送・人件費の上昇も価格に転嫁できる。営業利益率は過去の山の6.5%まで戻る。余った現金は自己株の消却と増配で戻り、会社が掲げた配当性向30%以上を上回る。時価総額が小さく現金が厚いため、買い手が現れてもおかしくない。利益が戻れば、現金が厚い小さな会社として評価され直す。買い手が現れる道も、この筋書きでは開ける。数量の減りを価格で補い、利益の質が上向く姿を描いた。配当は増え、純現金も減らない。
- 販促物(チラシ・POP・シール・Web):数量 19.0(年間の受注件数(万件、推定))× 価格 7.00(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 133 億円・営業利益 9 億円。19.0 万件 × 1 件 7.0 万円、営業利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 7 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.6% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)6 億円。全体の PER 13.16 倍、時価総額 103 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:小口の販促を守りつつ値上げを通し続ける道は細く、過去12年に6%超の利益率は1度だけ。実現は少数と見る。
やや楽観 17% 原価の転嫁が進み、利益率が戻る 利益 5 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 2,209 円64 億円
紙や配送の値上がりを価格に載せる交渉が進み、営業利益率は5%に戻る。受注件数は10年で1割減とゆるやかに縮み、売上は120億円台になる。利益の半分以上を配当に回し、買い戻しも続く。大きな成長はないが、本業の稼ぎが現金と同じ水準で積み上がる。ただ、堀が弱いので、利益率が5%を超え続けるには値上げの交渉を毎年通す必要がある。件数の減少は止まらず、成長ではなく、稼ぎの質の回復という筋書きだ。顧客の統合が進んでも、小口の対応力で取引を守る前提を置く。経営は大きな賭けに出ず、現金を残したまま利益を積む。小さな買収で販促Webの顧客を広げる余地もあるが、投じる額は小さく、全体の姿は変わらない。
- 販促物(チラシ・POP・シール・Web):数量 18.0(年間の受注件数(万件、推定))× 価格 6.80(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 122 億円・営業利益 6 億円。18.0 万件 × 1 件 6.8 万円、営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)6 億円。全体の PER 11.44 倍、時価総額 62 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社が2027年3月期に経常利益の回復を見込み、過去には5〜6%台の営業利益率も出した。値上げの定着はあり得る。
中立 35% 件数は緩やかに減り、利益率は低いまま 利益 4 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,872 円54 億円
折込チラシの減少は続くが、店頭のPOPとシールが下支えする。受注の件数は10年で15%減、価格は物価並みの1.34倍まで上がる。営業利益率は3.8%で、過去の平均的な水準に落ち着く。売上は110億円台だが、利益は4億円に届かない。還元は配当性向30%強を保つ形で、現金は少しずつ積み上がる。現金は積み上がるが、事業の稼ぎが資本コストに届かないため、価値としては帳簿どおりには数えない。顧客の統合や内製化の影響はまだ限られ、緩やかな縮小が続く姿だ。会社が掲げる利益率8%には届かない。10年後の姿は今に近く、会社の規模と現金の厚みは大きく変わらない。
- 販促物(チラシ・POP・シール・Web):数量 17.0(年間の受注件数(万件、推定))× 価格 6.70(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 114 億円・営業利益 4 億円。17.0 万件 × 1 件 6.7 万円、営業利益率 3.8%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)6 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 49 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直近の営業利益率2.2%と過去12年の平均的な3〜4%の間に置く。件数減と値上げの綱引きが続く。
やや悲観 28% 件数が大きく減り、値上げも追いつかない 利益 2 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 933 円27 億円
大手顧客の本部発注が進み、見積もりの競争で単価が伸びない。受注件数は10年で25%減り、価格の上昇は物価に届かず1.30倍にとどまる。営業利益率は2.5%にとどまり、売上は100億円を割る。配当を今の水準で維持しにくくなり、還元は縮む。現金の一部は事業の延命に使われる。それでも赤字には落ちず、現金が緩衝材になる。ただし、配当の水準を保つには、利益より現金に頼る年が出てくる。筋書きとしては、事業が少しずつやせ細り、経営の選択肢が狭まる姿だ。人手と外注費の上昇が重く、紙以外の仕事への転換も遅れる。会社が単年度の計画に切り替えたことの意味が、数字で表れてくる。
- 販促物(チラシ・POP・シール・Web):数量 15.0(年間の受注件数(万件、推定))× 価格 6.50(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 98 億円・営業利益 2 億円。15.0 万件 × 1 件 6.5 万円、営業利益率 2.5%
倍率:ROE 4.2%(事業の純利益÷自己資本)。k 8.75% を大きく下回るので、PER は 1/k の約 7 割の 8 倍に置く。
確率:顧客の統合で価格交渉力が落ち、紙・人件費の上昇を載せきれない形は直近で既に出ている。
悲観 12% チラシの内製化とデジタル化で受注が半減 利益 0 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 619 円18 億円
大手の小売がアプリとSNSに販促費を移し、紙のチラシ・POPの外注が急減する。受注件数は10年で45%減り、価格は1.20倍にとどまる。営業利益は赤字に沈み、事業の稼ぐ力はほぼ消える。現金も、赤字の穴埋めと失敗した事業転換で目減りする。床は純現金から運転に要る分と、戻らない分を引いた額に置く。経営が事業の再編や身売りに動く可能性もあるが、この筋書きではそれが間に合わない。床の価値は、純現金から戻らない分と運転資金を引いた額に近い。取引先の離脱が連鎖し、固定費を支える受注量を下回る。印刷と配送の設備や人員を縮めても、収益の穴は埋まらない。
- 販促物(チラシ・POP・シール・Web):数量 11.0(年間の受注件数(万件、推定))× 価格 6.00(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 −1 億円。11.0 万件 × 1 件 6.0 万円、営業利益率 -1.0%
倍率:稼ぐ力が消えるので、今の自己資本(44 億円)に PBR 0.4 を掛けた床(約 18 億円)で置く。純現金は 16 億円から運転資金・戻らない分を引く。
確率:小売が販促を自前のデジタルに移し、紙の発注が構造的に半分近くまで縮む筋書き。起こる確率は低いが、起これば事業の価値は大きく損なわれる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
販促物(チラシ・POP・シール・Web)
小売・流通向けの販促物の企画・制作・印刷・配送を一貫して請け負う、単一の事業。
| 数量年間の受注件数(万件、推定) | 価格1 件あたりの平均売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 5.00 | 100 | 2 |
| 10 年後 中立 | 17.0 | 6.70 | 114 | 4 |
取り方:受注件数は開示が無いので推定。売上99.7億円を1件あたり約5万円(チラシ・POP・シールの小口案件の平均)として約20万件と置いた推定で、数量の確度は低い。営業利益は短信の2.15億円。
リスクと懸念
チラシ需要の構造的な縮小
折込の部数減と、小売の販促がアプリ・SNSへ移る流れで、主力の紙の受注が10年かけて縮む。件数の減りが価格の上昇を上回れば、売上そのものが減る。
原価高を価格に転嫁できない
紙・インキ・配送・人件費の上昇を顧客の見積もり比較の中で価格に載せきれない。2026年3月期は売上増でも営業利益が4割減った。この形が続くと、利益率は2%台で固まる。
顧客の統合と本部発注
スーパー・ドラッグストアの統合で、本部が発注と値段を一括で決める。取引先が大きくなるほど交渉力は落ち、単価が下がりやすい。
現金が株主に戻らない
時価総額の6割に当たる純現金は、消却や総還元の数値方針が確認できず、事業の延命や小さな買収に使われる恐れがある。戻り方を0.75に抑えたのはこのため。
Web制作・運用のAI内製化
販促Webの制作は、AIによる内製化で単価が下がりやすい。顧客が自前で作れるようになれば、デジタルへ移る受注の取りこぼしが大きくなる。
今後の分かれ目
- 営業利益率が2期続けて5%を超えたら
- 原価の転嫁が定着したと見て、やや楽観・楽観の確率を上げてよい。
- 自己株の消却や総還元の数値方針が開示されたら
- 余った現金の戻り方を1.0に近づけてよい。価値は現金の分だけ上がる。
- 主要な小売顧客が本部一括発注へ切り替えたら
- 価格交渉力の低下が現実になった合図。やや悲観の確率を上げる。
- 買い手によるTOBが出たら
- 筋書きの外。買付価格と現金の厚さを見比べる。
- 受注件数の減りが年5%を超えたら
- 悲観の筋書き(受注の半減)に重みを移す。
見ておくもの
- 営業利益率(四半期ごと)と、紙・配送の原価の転嫁状況
- 自己株の消却・配当方針の開示
- 折込チラシの市場の動向と、主要顧客の販促のデジタル移行
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト 8.75% に届かないかそれに近いことから、1/k(約 11.4 倍)を上限とし、堀は弱いとして上限の 6〜9 割に置いた。今の株価や過去の PBR は使っていない。現金は 8 億円を余りとして分け、戻り方 0.75 で足した。リースの賃借は小さく、新リース会計基準で数字の形が変わる点は 10 年後も今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→13.16 倍・やや楽観 PER 9.5→11.44 倍・中立 PER 9→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。