結論
NISSHA は、京都の印刷会社から出発した部材メーカーだ。いまの稼ぎは 3 本に分かれる。車の内外装を飾る加飾フィルムと食品向けの蒸着紙、タブレットなどのタッチセンサー、米国を中心とした医療機器の受託開発製造である。筆者の結論は、10 年の価値は今の時価総額を1 割強下回る、というものだ。一番の理由は、売上が約 1,950 億円あるのに営業利益が約 40 億円しか残らない薄さにある。
薄い利益を厚くできる事業は、医療の受託製造だ。大手医療機器メーカーの下請けだが、一度採用されると他社への切り替えが難しい。米国ウィスコンシン州の新棟が 2027 年 4 月に完成し、微細部品の生産能力は 2 倍以上になる。ここが育てば会社の姿は変わる。
逆風も強い。2026 年 5 月に約 58 億円で買ったベトナムの USM は、買収前から循環取引があった。不正は買収後の 6 月に分かり、のれんの減損は約 67 億円に達した。会社は 9 月に株式を現地の社長へ戻し始めた。2026 年 12 月期は純損益が約 62 億円の赤字に変わる見通しだ。
加えて、タブレット向けのセンサーは需要が急に細った。会社は 2030 年に営業利益率 12% を掲げるが、足もとは 2% だ。目標と実力の距離が大きい。この距離を埋められる確率を、筆者は厳しめに置いた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、持ち続けたい事業が 1 つ、そうでない事業が 2 つ混ざった会社だ。
持ちたいのはメディカルである。顧客が簡単に替えられず、需要は人の健康に結びつく。この事業が会社の中心になるなら、将来の利益の質は上がる。
そうでないのはデバイスだ。顧客が少なく、値段が下がり、数量は顧客の都合で動く。産業資材は、自動車の景気と新製品の立ち上げ費用に利益が左右される。蒸着紙のような強い一角はあるが、全体の利益は薄い。
経営者の資本配分には減点がある。稼ぎが薄いのに配当を年約 24 億円で据え置き、そのうえ買収で失敗した。同じ金を、強いメディカルの設備に先に回すべきだった。
安全域はどうか。10 年後に会社が配当と成長のどちらも満たせる姿は、中立の筋書きでも自己資本利益率が 5% 前後で、資本コストに届かない。この水準では、ためた利益は額面の価値に届かない。
筆者は、今の値段を割安とはみない。自己資本を大きく割っているのは事実だが、自己資本の中身である工場や在庫が、稼ぐ力に見合って働いているとは言えないからだ。メディカルの利益率が 7% を超えて安定して初めて、評価が変わる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 3 つある。
産業資材は売上の約 4 割を占める最大の事業だ。中心は加飾フィルムと成形品である。プラスチック部品の成形と同時に、木目や金属調の模様、タッチ機能を付ける技術で、会社は「IMD」の名で商標を持つ。顧客は自動車メーカーが多く、内装から外装へと用途を広げている。飲料や食品の包装に使う蒸着紙も同じ事業に入り、会社は世界の首位級だと説明している。2025 年 12 月期の売上は約 763 億円、利益は約 37 億円だった。
デバイスは売上の約 3 割で、フィルム式のタッチセンサーを作る。使われ先はタブレットや物流の業務端末だ。画面の部品は買い手の力が強く、値段も数量も顧客の機種の入れ替えに左右される。2025 年 12 月期の売上は約 585 億円、利益は約 21 億円。2026 年は上半期の売上が前年から 23% 減り、赤字に沈んだ。
メディカルは売上の約 2 割5分だ。2026 年 1 月に名前をメディカルテクノロジーから改め、医薬品の受託も含める形になった。中核は米国の Nissha Medical Technologies で、内視鏡や手術支援ロボット向けの微細部品、ウェアラブルセンサーなどを大手の医療機器メーカーに代わって開発し、作る。2025 年 12 月期の売上は約 471 億円、利益は約 20 億円。前の期より減ったが、2026 年上半期は売上が 8% 増え、持ち直している。
このほかに情報関連の小さな事業と本社費がある。3 つの事業の利益を足すと約 79 億円だが、連結の営業利益は約 40 億円にとどまる。差の約 39 億円が、本社の費用などで消えている。
優良さと弱いところ
優良さは事業ごとにまるで違う。メディカルだけが、長く続く強みを持つ。
医療機器の受託製造は、顧客の承認と品質の記録がそろって初めて取引が始まる。部品を替えるには許認可の手間がかかるので、顧客は簡単に他社へ移らない。ここが加飾やセンサーとの違いだ。ただし、米国の医療機器受託には専業の大手が複数あり、NISSHA は小さな挑戦者だ。規模の利益はまだ薄く、利益率は 4% 台にとどまる。
産業資材の加飾は、自動車メーカーの意匠に食い込む技術が強みだ。外装向けの新製品が出れば値段を上げやすい。ただし車の開発は先行費用が重く、2025 年は新製品の立ち上げ費用で利益が約 23% 減った。蒸着紙には世界首位級という立場があるが、利益への貢献の大きさは開示から確認できていない。
デバイスは堀が薄い。タブレットの画面部品は少数の顧客に頼り、値段も下がり続ける。2026 年のように顧客の機種の事情で需要が数割動けば、工場の稼働が落ちて赤字に転じる。
資本効率は低い。自己資本利益率は 2025 年に 0.9%、過去 10 年の中央値でも 4% 前後で、資本コストを下回る年が大半だ。赤字の年も 20 年で 6 回ある。
経営は、医療に資源を移す方向自体は正しい。しかし、USM の買収は買う前の調べが甘かったと言わざるをえない。買収の失敗を 2026 年に表に出した点は、早く切ったという意味で救いがある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社は 3 つの市場に同時に立っているので、それぞれの景色を分けて見る。
医療機器の受託製造は、世界で約 1,300 億ドル規模とされる大きな市場で、年 6% 前後の拡大が見込まれる。米国の市場は会社資料で年 11〜12% の伸びとされ、内視鏡や手術支援ロボットなど、部品が小さく精密になる流れが追い風だ。大手の医療機器メーカーが自社工場を減らして外に出す動きも続く。ただし、2025 年には顧客の在庫調整のような需要の停滞があり、NISSHA の売上は 15% ほど減った。成長は一直線ではない。
自動車の加飾は、世界の車の生産台数がほぼ横ばいなので、数量は台数ではなく 1 台あたりの採用点数で伸びる。電気自動車は外装の加飾や、センサーを隠す部品に使う場面が多く、会社も外装向けを強化している。競合の顔ぶれと売上は開示がまちまちで、NISSHA の世界でのシェアは確認できていない。
タッチセンサーは、構造が逆風だ。タブレットの数量は伸びにくく、AI データセンター向けのメモリー需要でタブレット用の部材が足りなくなったと報じられている。新しい行き先として車載画面や業務端末があるが、規模はまだ小さい。
同じ領域の会社と比べると、TOPPAN や大日本印刷は半導体材料という稼ぎ頭を持つ。NISSHA にその役を担えるのは、いまのところメディカルだけだ。
資本政策と M&A
資本の使い方は、成長の入り口でつまずいた形だ。
配当は 2023 年から同じ額で据え置かれ、総額は年約 24 億円。2026 年も同額の計画だ。2025 年は純利益が約 10 億円で、配当の総額を下回った。2024 年 11 月から 2025 年 3 月には、約 9 億円の自社株買いを行った。方針は安定配当の継続で、資本効率のための自社株買いは適宜という文言にとどまる。
M&A では、2026 年 5 月の USM 買収が傷になった。のれん減損は約 67 億円で、買収額を上回る。会社は 9 月に株式の半分を現地の社長に譲り、残りも 2027 年から 2028 年に譲る。会社自身は不正に関与していないと説明している。
政策保有株は、年に 1 回、取締役会で保有の意味を点検し、薄れたものを減らす方針だ。大量保有報告書では、みずほ銀行が約 8% を持つ。物言う株主は確認できなかった。
筆者は、今回の経験が次の買収の審査を厳しくするかどうかに注目している。借金は純額で約 233 億円あり、営業利益は支払利息の約 2 倍しかない。買収で失敗する余裕は、もうあまり残っていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
メディカルが会社の主役になる。ウィスコンシン州の新棟で微細部品の能力が 2 倍になり、内視鏡や手術支援ロボットの需要を取り込む。米国の受託市場は年 11〜12% で伸びると会社は見ており、実質で売上を 2 倍にできれば、利益率は 10% を超える。ヴァンダービルト大学内の研究拠点は、大手メーカーの共同開発の入口になる。
産業資材は、電気自動車の外装加飾と機能付きの部品で採用点数が増える。車の開発の先行費用が一巡すれば、利益率は 8% に戻る。蒸着紙も食品の環境対応で追い風を受ける。
デバイスは、タブレットから車載の画面や業務端末へ主役を移す。数量は横ばいを守り、工場の稼働が戻れば赤字は消える。
USM の失敗は高い授業料だったが、買収の審査が厳しくなる効果もある。会社が掲げる 2030 年の営業利益率 12% には届かなくても、半分の 6〜7% に達するだけで、営業利益は今の 6 倍になる。そうなれば、株主資本利益率も資本コストに並ぶ。
慎重な見方
利益が薄いのは偶然ではなく、構造だ。過去 8 年の営業利益率は平均しても 3% に届かず、赤字の年が 2 回あった。外装加飾は新製品のたびに先行費用がかかり、売上が増えても利益が残らない。
デバイスは、少数の顧客の機種の事情に数量が左右される。2026 年上半期の売上は 23% 減った。タブレットの数量が戻らないなら、工場の固定費だけが残る。値段も下がり続けるので、事業ごと縮める判断を迫られる。
メディカルは有望でも、米国の受託製造には大手が複数いる。顧客が価格を下げさせ、小さな NISSHA は規模の利益を得にくい。実際、2025 年は売上が約 15% 減り、利益率は 4% 台だった。
そのうえ、USM の件は、買収の審査と子会社の管理に問題があったことを示している。次の大きな買収が同じ形で失敗すれば、純負債が約 233 億円ある財務は余裕がなくなる。営業利益は支払利息の約 2 倍しかない。金利が上がる世界では、利払いも重くなる。
会社は 2030 年に営業利益率 12% を掲げるが、足もとは約 2% だ。この距離は、計画ではなく願望に近い。
どちらに重みを置いたか
どちらが強いかといえば、慎重な見方だ。
メディカルの伸びは信じてよい。ただし、全社の利益に効くには時間がかかり、その間にデバイスと産業資材の薄さが足を引っ張る。この会社は過去 8 年、強気の見方が描くような利益率に一度も届いていない。USM で資本配分の弱さも出た。
そのため、確率は慎重な側に寄せた。中立を最も厚くしつつ、やや悲観と悲観を足すと 4 割弱になる。楽観は 1 割に届かない。メディカルの利益率が 7% を超えて続く証拠が出たら、強気の側へ確率を戻す。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 1,681 円797 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 494 円234 億円)。 今の値に割り戻すと 1,051 円499 億円、今との差 −6.7%、 期待の年率 +6.8%(資本コスト 8.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,143 円1,964 億円 | 801 円380 億円 | +338.7% | +15.9% | 396 円188 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,628 円1,246 億円 | 696 円330 億円 | +194.9% | +11.4% | 665 円315 億円 |
| 中立 | 34% | 1,543 円732 億円 | 500 円237 億円 | +81.2% | +6.1% | 695 円329 億円 |
| やや悲観 | 24% | 844 円400 億円 | 380 円180 億円 | +8.6% | +0.8% | 294 円139 億円 |
| 悲観 | 14% | 696 円330 億円 | 211 円100 億円 | −19.6% | −2.2% | 127 円60 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,681 円797 億円 | 494 円234 億円 | +93.0% | +6.8% | 2,175 円1,031 億円 |
今の株価時価総額 1,127 円534 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 8% メディカルが会社の主役になり、薄い利益が厚くなる筋書き 利益 163 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 4,143 円1,964 億円
米国の新棟が立ち上がり、メディカルは大手の医療機器メーカーの外注先として地位を固める。内視鏡や手術支援ロボットの部品が伸び、実質の売上は今の 2 倍に届き、利益率は 11% に乗る。ここまでは会社の中計が描く道に近い。
産業資材は、電気自動車の外装加飾で採用点数が増え、先行費用が一巡して利益率は 8% に戻る。デバイスは車載画面と業務端末に主役を移し、タブレットの落ち込みを数量の横ばいで受け止める。
USM の失敗を機に、買収の審査と子会社の管理が引き締まり、同じ形の失敗は起きない。借金の利払いは営業利益の伸びに埋もれ、株主還元は増配と自社株買いで厚くなる。会社が掲げる営業利益率 12% には届かないが、7% 近くまでは行く。
- 産業資材:数量 992(実質の売上(億円。市場規模×シェアの代理))× 価格 1.34(価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34))→ 売上 1,329 億円・営業利益 106 億円。採用点数が増え、利益率 8%
- デバイス:数量 585(実質の売上(億円。顧客の機種数×1 機種あたりの搭載量の代理))× 価格 1.30(価格の指数(今=1.00))→ 売上 760 億円・営業利益 49 億円。車載・業務端末で数量を保つ
- メディカル:数量 989(実質の売上(億円。世界の医療機器 CDMO 約 19 兆円×シェア約 0.25%))× 価格 1.34(価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34))→ 売上 1,325 億円・営業利益 146 億円。数量 2.1 倍、利益率 11%
- その他・調整:数量 130(実質の売上(億円))× 価格 1.34(価格の指数(今=1.00))→ 売上 174 億円・営業利益 0 億円。横ばい
倍率:事業の純利益 163 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.0 倍。全体の PER 12.05 倍、時価総額 1,964 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:医療の利益率 7% 超が 2 年続くという具体的な裏づけは無く、会社目標 12% の約 6 割までしか置かない。USM の失敗と過去の利益率から、確率は 1 割に届かせない。
やや楽観 20% 医療の伸びが加飾の弱さを上回り、利益率が 5% 前後まで戻る 利益 109 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 2,628 円1,246 億円
メディカルは年 3〜4% の実質成長を保ち、10 年で数量は 1.7 倍あまりになる。利益率は 9% 台に乗る。新棟の稼働が順調で、顧客の在庫調整は一度で終わる。
産業資材は、外装加飾の新製品が定着し、利益率は 7% に戻る。蒸着紙は食品の環境対応で堅調だ。デバイスは、タブレットの数量が 1 割ほど減るが、車載や業務端末で一部を補い、薄い黒字を保つ。
経営は USM のような大型の買収を控え、少額の買い足しにとどめる。配当は年約 24 億円前後を続け、余力が出れば自社株買いを足す。全社の営業利益率は 5% 強で、会社の目標には遠いが、過去 10 年の平均よりは明らかに高い。
- 産業資材:数量 916(実質の売上(億円。市場規模×シェアの代理))× 価格 1.34(価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34))→ 売上 1,227 億円・営業利益 86 億円。利益率 7%
- デバイス:数量 526(実質の売上(億円。顧客の機種数×1 機種あたりの搭載量の代理))× 価格 1.20(価格の指数(今=1.00))→ 売上 631 億円・営業利益 32 億円。数量 1 割減、利益率 5%
- メディカル:数量 824(実質の売上(億円。世界の医療機器 CDMO 約 19 兆円×シェア約 0.25%))× 価格 1.34(価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34))→ 売上 1,104 億円・営業利益 105 億円。数量 1.75 倍、利益率 9.5%
- その他・調整:数量 124(実質の売上(億円))× 価格 1.34(価格の指数(今=1.00))→ 売上 166 億円・営業利益 0 億円。小幅縮小
倍率:事業の純利益 109 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 1,246 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:医療が年 3〜4% で伸び、新棟が順調に動くのは起こりうる筋だが、加飾とセンサーの薄さが残る。2 割に置く。
中立 34% 医療は伸びるが、加飾とセンサーの薄さが全体を抑える 利益 64 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,543 円732 億円
メディカルは 10 年で数量が 1.45 倍になり、利益率は 7.5% まで上がる。新棟の稼働は 2027 年に始まるが、顧客の発注の波があり、直線では伸びない。
産業資材は、数量が 1 割強増え、利益率は 6% に戻る。自動車の景気で山と谷があり、新製品のたびに先行費用が出る形は変わらない。デバイスは、タブレットの数量が 4 分の 1 減り、値段は物価に追いつかない。工場を畳むほどではないが、利益はわずかだ。
本社費は物価に合わせて増え、3 事業の利益の約半分を食う。全社の営業利益は約 100 億円、利益率は 4% 弱で、過去最高の 2021 年(約 174 億円)には届かない。配当は年約 24 億円を保つが、増やす余力は乏しい。会社の掲げる 2030 年目標の約 3 割にとどまる。
- 産業資材:数量 855(実質の売上(億円。市場規模×シェアの代理))× 価格 1.34(価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34))→ 売上 1,146 億円・営業利益 69 億円。数量 1.12 倍、利益率 6%
- デバイス:数量 439(実質の売上(億円。顧客の機種数×1 機種あたりの搭載量の代理))× 価格 1.15(価格の指数(今=1.00))→ 売上 505 億円・営業利益 18 億円。数量 4 分の 1 減、値段は物価に届かず
- メディカル:数量 683(実質の売上(億円。世界の医療機器 CDMO 約 19 兆円×シェア約 0.25%))× 価格 1.34(価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34))→ 売上 915 億円・営業利益 69 億円。数量 1.45 倍、利益率 7.5%
- その他・調整:数量 117(実質の売上(億円))× 価格 1.34(価格の指数(今=1.00))→ 売上 157 億円・営業利益 0 億円。縮小
倍率:事業の純利益 64 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.0% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.43 倍、時価総額 732 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:医療の伸びと、加飾・センサーの薄さが相殺する姿を最も起こりやすいとみて、最大の 34% を置いた。
やや悲観 24% 医療の伸びが鈍り、加飾とセンサーの薄さで全社の利益がほぼ消える 利益 4 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 844 円400 億円
メディカルは、顧客が価格の引き下げを迫り、数量は 10 年で 1 割増えるだけにとどまる。利益率は 4% 台のまま動かない。新棟は造ったが、稼働率が上がらない。
産業資材は数量が横ばいで、利益率は 4% に沈む。車の開発費は続くが、値上げには結びつかない。デバイスは、タブレットの数量が半分近くまで減り、赤字と黒字の間を行き来する。
全社の営業利益は 20 億円前後にとどまり、利払いを引くと純利益はほぼゼロになる。会社は配当を半分に減らし、遊休の設備を売却して資金をつくる。筆者が気にするのは、この状態が一時的な谷ではなく、10 年続く姿になることだ。
- 産業資材:数量 763(実質の売上(億円。市場規模×シェアの代理))× 価格 1.28(価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34))→ 売上 977 億円・営業利益 39 億円。数量横ばい、利益率 4%
- デバイス:数量 322(実質の売上(億円。顧客の機種数×1 機種あたりの搭載量の代理))× 価格 1.05(価格の指数(今=1.00))→ 売上 338 億円・営業利益 0 億円。数量半減、利益率ほぼ 0
- メディカル:数量 518(実質の売上(億円。世界の医療機器 CDMO 約 19 兆円×シェア約 0.25%))× 価格 1.30(価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34))→ 売上 673 億円・営業利益 30 億円。数量 1.1 倍、利益率 4.5%
- その他・調整:数量 104(実質の売上(億円))× 価格 1.30(価格の指数(今=1.00))→ 売上 135 億円・営業利益 0 億円。縮小
倍率:稼ぐ力は純利益 4 億円を k で割っても約 40 億円しかない。価値は売れる資産の税後(400 億円)が決める。今の自己資本 1,153 億円に 0.347 を掛けた。EV ÷ 営業利益は約 33 倍(純負債 233 億円込み)と高いが、営業利益が谷の年なので、利益ではなく資産の床で見た。
確率:医療の価格圧力と、デバイスの数量半減は、足もとの動きからも十分ありうる。USM で管理の弱さも出た。慎重な見方が強いので 24% に厚くした。
悲観 14% 医療も伸びず、買収も再び失敗して、優良さを失う 利益 −23 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 696 円330 億円
メディカルは、米国の受託製造で大手に価格を押されて数量が縮み、利益率は 2% 台に落ちる。新棟の償却が重くのしかかる。
産業資材は、電気自動車の普及の遅れや、加飾の採用が減って数量が 2 割減る。デバイスはタブレットの需要が戻らず、売上は今の 3 割に縮み、赤字が続く。
USM に続く大型の買収が再び失敗し、純負債が膨らむ。利払いが営業利益を超え、配当は無配に近づく。会社は工場や土地を売って借金を返すが、売却の値段は帳簿を大きく下回る。10 年後に残るのは、利益の薄い中堅の部材メーカーだ。事業をたたんで資産を現金に変えたほうがましだ、という状態に近づく。
- 産業資材:数量 610(実質の売上(億円。市場規模×シェアの代理))× 価格 1.15(価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34))→ 売上 702 億円・営業利益 21 億円。数量 2 割減、利益率 3%
- デバイス:数量 176(実質の売上(億円。顧客の機種数×1 機種あたりの搭載量の代理))× 価格 1.00(価格の指数(今=1.00))→ 売上 176 億円・営業利益 −2 億円。数量 3 割に縮み赤字
- メディカル:数量 377(実質の売上(億円。世界の医療機器 CDMO 約 19 兆円×シェア約 0.25%))× 価格 1.20(価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34))→ 売上 452 億円・営業利益 11 億円。価格圧力で利益率 2.5%
- その他・調整:数量 78.0(実質の売上(億円))× 価格 1.20(価格の指数(今=1.00))→ 売上 94 億円・営業利益 0 億円。縮小
倍率:赤字で稼ぐ力は価値にならない。純現金と売れる資産の税後 330 億円が床で、今の自己資本 1,153 億円の約 29%(0.286 倍)。減損で自己資本は減らす。
確率:複数の事業が同時に崩れ、買収も失敗する構造的な負け。まれだが、直近で大型の失敗が実際に起き、デバイスは赤字だ。5% 以上は必要と判断し 14%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
産業資材
加飾フィルム・成形品(IMD/IML。車の内外装・家電)と、飲料・食品向けの蒸着紙などのサステナブル資材。
| 数量実質の売上(億円。市場規模×シェアの代理) | 価格価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 763 | 1.00 | 763 | 37 |
| 10 年後 中立 | 855 | 1.34 | 1,146 | 69 |
取り方:世界の自動車加飾と食品包装資材の市場規模・シェアは競合の開示が乏しく確かめられない。そこで 2025/12 期の売上 763 億円を実質の数量とし、10 年の数量は『車 1 台あたりの採用点数の増加(内装から外装へ)』と『食品向け蒸着紙の環境対応の需要』で見る。価格は物価(10 年 1.34 倍)を基本にした。
デバイス
フィルム式のタッチセンサー(タブレット・物流の業務端末など)。
| 数量実質の売上(億円。顧客の機種数×1 機種あたりの搭載量の代理) | 価格価格の指数(今=1.00) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 585 | 1.00 | 585 | 21 |
| 10 年後 中立 | 439 | 1.15 | 505 | 18 |
取り方:2025/12 期の売上 585 億円を実質の数量とした。タブレットの市場は数量が伸びにくく、顧客の機種の入れ替えで動く。2026 年上半期は売上が前年比 23% 減。シェアは開示が無く確かめられない。
メディカル
米国中心の医療機器の開発製造受託(低侵襲手術の部品・ウェアラブルセンサー)と、国内の医薬品受託。
| 数量実質の売上(億円。世界の医療機器 CDMO 約 19 兆円×シェア約 0.25%) | 価格価格の指数(今=1.00。物価並みで 10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 471 | 1.00 | 471 | 20 |
| 10 年後 中立 | 683 | 1.34 | 915 | 69 |
取り方:世界の医療機器 CDMO 市場を 1,277 億ドル(GII の 2025 年推計)×150 円=約 19.2 兆円とし、売上 471 億円はその約 0.25%。市場の年 6% 成長のうち物価分を除く実質は年 3% 台。NISSHA の対象はその一部(低侵襲・センサー)なので、実質のシェアはもっと高い。
その他・調整
情報関連の小さな事業と、セグメントに載らない売上(3 つの合計と連結の差)。
| 数量実質の売上(億円) | 価格価格の指数(今=1.00) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 130 | 1.00 | 130 | 0 |
| 10 年後 中立 | 117 | 1.34 | 157 | 0 |
取り方:3 つの合計 1,819 億円と連結売上 1,949 億円の差 約 130 億円。内訳は開示から確認できていない(情報関連の小事業と取引の消去など)。利益は本社費と合わせて adjust_oku に入れる。
リスクと懸念
買収先の管理と審査の甘さ
USM は買収の約 1 か月後に、買収前の循環取引が見つかった。のれんは約 67 億円を減損した。次の買収でも同じ見落としがあれば、約 233 億円の純負債と営業利益の約 2 倍の利払い余力では吸収しきれない。会社は不正に関与していないと説明するが、買う前の調べの質は問われる。
タッチセンサーの需要の急減
デバイスは 2026 年上半期の売上が前年から 23% 減り、赤字に転じた。タブレット用の部材の不足も報じられ、顧客の機種の事情で数量が大きく動く。新しい行き先の車載や業務端末が、落ちた分を補えるかは見えていない。
メディカルの顧客の在庫調整と価格圧力
メディカルは 2025 年に売上が約 15% 減った。大手顧客の発注は波があり、価格交渉の力も顧客にある。米国の新棟は 2027 年 4 月の完成で、能力が 2 倍になる。稼働率が上がらなければ、償却が先に重くなる。
目標と実力の距離
会社は 2030 年に売上 3,000 億円、営業利益率 12%、自己資本利益率 15% を掲げる。足もとの営業利益率は約 2% で、過去最高でも 2021 年の約 9% だ。目標に引きずられた投資が、利益を伴わないまま固定費を増やす恐れがある。
自動車の加飾の先行費用
産業資材は 2025 年に新製品の先行費用で利益が約 23% 減った。電気自動車の需要の波や、顧客の開発の遅れで、費用だけが先に出る年がまた来る。値上げが通りにくい部品では、売上が伸びても利益が残らない。
財務の余裕の乏しさ
営業利益は支払利息の約 2 倍しかなく、金利が上がる世界では利払いが重くなる。配当は年約 24 億円で、2025 年は純利益を上回った。赤字の年にも据え置くなら、借金で配当を払う形になる。
今後の分かれ目
- メディカルの営業利益率が 7% を超えて 2 年以上続いたら
- 医療が全社の柱になった証拠で、強気側の確率を引き上げる。中立の利益の置き方も上方に直す。
- 米国の新棟が稼働し、受注の増加が数量に出たら
- 会社が描く医療の成長が現実になる。楽観・やや楽観の確率を上げ、悲観を下げる。
- デバイスが 2 年続けて赤字になったら
- 事業の縮小や撤退の判断が近づく。中立の利益率を下げ、やや悲観の確率を上げる。
- USM に続く買収で同じ種類の失敗が起きたら
- 経営の資本配分と管理に構造の問題がある証拠で、悲観の確率を上げる。
- 配当が据え置かれたまま赤字が 2 年続いたら
- 借金で配当を払う形が固まる。還元の合計を下げ、財務のリスクを重く見る。
- 第三者による買収提案が出たら
- この分析は買収の上乗せを織り込んでいない。提案の内容で、価値の評価を別に直す。
見ておくもの
- メディカルの売上とセグメント利益率(半期ごと)
- 米国ウィスコンシン工場の新棟の稼働時期と受注
- デバイスの売上と赤字の幅(タブレット向けの数量)
- 産業資材の利益率(外装加飾の新製品の先行費用)
- USM の残り 10% の譲渡と、次の買収の有無
- 配当と純有利子負債(営業利益に対する利払い)
倍率と資本コストの決め方
今の時価総額 534 億円や自己資本を下回る PBR を見てから筋書きを作っていない。3 事業の数量と価格を別々に置き、それぞれの利益率から営業利益を出し、その時点の ROE と k 8.75% から PER を決めた。中立でも ROE は 5% 前後で k に届かず、PER は上限 1÷k の約 9 割に置いた(景気と値決めの弱さは k の上乗せに入れてあるので、倍率では引かない)。本質価値が今の値段をやや下回る結果は、利益の薄さの積み上げから出たもので、今の株価に寄せたものではない。なお新リース会計基準(2028/12 期ごろ)で営業利益と純負債の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→12.05 倍・やや楽観 PER 10→11.43 倍・中立 PER 10→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。