結論
竹田iPホールディングスは、名古屋の老舗印刷会社が前身だ。今は印刷、印刷資材の販売、半導体関連のマスク、不動産の賃貸の4つを持つ。筆者の結論は「割高」で、いちばんの理由は稼ぐ力の弱さだ。純資産の安さは、割安の根拠にならない。
売上の4分の3は、紙の需要が縮む印刷と、その資材や機械の販売が占める。営業利益率は2期で4%前後と、長く2%台だった水準から上がった。それでも、資本に対する稼ぎ(ROE)は5〜7%で、資本コストに届かない。
利益を牽引するのは半導体関連マスクだ。売上は2割に満たないが、営業利益は全体の3割を超える。AIサーバーや通信向けが好調で、20億円の設備投資を進めている。
純現金は39億円と、時価総額の3割近い。ただ、2026年6月の買収で約23億円を使い、本社屋や賃貸物件、マスク設備の投資も控える。使い道が先に決まっていて、そのまま余っているわけではない。
筆者は、印刷の縮みを半導体が埋め切れるかを最も気にしている。埋まれば第2次中計の水準、埋まらなければ利益は薄くなる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、竹田iPは「安く見えるが、安さを生かし切れない会社」だ。時価総額は自己資本の7割で、純現金も厚い。ただ、稼ぐ力が資本コストに届かない会社では、純資産の安さは割安の根拠にならない。
株主が受け取れる利益は、純利益のほぼ全部と見る。工場は中堅の規模で、更新の投資が要るが、買収と建て替えの支払いは、利益より先に出ていく。
経営の資本配分は、前向きだが重い。半導体関連マスクの強化と、タイの包装は筋が通る。一方、23億円の買収、29億円の本社屋、13億円の賃貸物件を続けて払う形は、稼ぐ力が弱い会社には大きな賭けになる。
安全域は、資産の面ではある。悲観の筋書きでも、現金、政策保有株、賃貸の収益で、時価総額の3分の1ほどは残る。ただ、利益の面では薄い。筆者は、印刷が売上の半分を切り、ROEが資本コストを超えるまで、割安とは見ない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は4つある。情報コミュニケーションが売上の4割強で、商業印刷、パッケージ、BPO(業務の代行)を担う。ソリューションセールスが3割強で、印刷会社や企業に資材や機械を売る。半導体関連マスクが2割弱、不動産の賃貸が2%だ。
情報コミュニケーションの中身は、紙の印刷からの転換だ。タイに新工場を立ち上げ、海外向けの包装を伸ばしている。物流を請け負うBPOも育てる。ただし印刷の需要減には勝てておらず、利益率は2%台にとどまる。
半導体関連マスクは、1987年に始めた事業だ。フォトマスクは半導体の回路を焼き付ける原版で、スクリーンマスクやメタルマスクは電子部品の印刷に使う。国内2社と、中国・東南アジアの3社で作る。AIサーバー、スマートフォン、通信向けが好調で、営業利益率は9%ほどだ。
不動産の賃貸は、本社周辺の物件を貸す。売上は8億円で、営業利益は4億円を超える。利益率が高く、会社の安定した稼ぎだ。
2026年3月期の売上は345億円、営業利益は13億円。従業員は約930人で、半導体関連マスクが約300人、情報コミュニケーションが約470人になる。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば「祖業が縮み、新しい芯を育てている途中の会社」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、半導体関連マスクにだけある。
強みは三つある。一つ目は、半導体関連マスクの技術だ。特許46件と、年2億円ほどの研究開発で、微細な金型やマスクの精度を磨く。二つ目は、賃貸の安定した収益だ。三つ目は、実質無借金で自己資本比率が5割を超えることだ。
弱みも三つある。一つ目は、売上の4分の3が印刷系で、需要が構造的に縮むことだ。二つ目は、資本の効率だ。ROEは過去10年の中央値で4%台と低い。自己資本が厚く、それを生かし切れていない。三つ目は、下期に利益が偏り、四半期ごとの振れが大きいことだ。
赤字の年も2009年、2010年、2019年、2021年と4回ある。ただ、近年は拠点の統廃合と半導体の比率上昇で、営業利益率は2期連続で4%前後と最高圏にある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の印刷市場は、30年かけて半分近くまで縮んだ。1991年に9兆円ほどあった市場は、今は6兆円台と見られる。紙の広告、カタログ、書籍が減り、デジタルに置き換わった。AIによる制作の自動化も、この流れを速める。
一方、半導体関連のマスクは、今は追い風にある。AIサーバーと通信デバイスの需要が強く、スマートフォンも堅い。ただし自動車向けはEVの需要減で弱い。フォトマスクでは大日本印刷やTOPPANフォトマスクが大きく、竹田iPが手がけるのは国内外の中堅の品種だ。中国勢の追い上げもある。
タイの包装は、日系の食品や日用品メーカーの海外生産に乗る。ここは数量が増える。BPOは、人手不足の物流の現場で需要がある。ただし、AIによる事務の自動化が進めば、単純な代行は価格が下がる。
10年先は、印刷が実質で2〜3割縮み、半導体関連マスクが5割ほど増えると筆者は見る。全体の数量は横ばいで、物価の分だけ売上が増える形だ。追い風はAIと通信の需要、向かい風は紙の縮みと中国勢の安値になる。再編も進み、中堅の印刷会社は買い手にも売り手にもなりうる。
資本政策と M&A
還元の方針は、連結配当性向30%以上と、配当の下限を段階的に上げることだ。今期の配当は、2026年4月の株式分割後の基準で、中間と期末を合わせて前期の実質水準を保ち、下限も設ける。十分な内部留保が確保できれば、自己株式の取得も検討する。自己株式はすでに発行済みの7%ほどを持つ。
投資は積極的だ。2026年6月、大英エレクトロニクスを約23億円で子会社化した。本社屋の建て替え(約29億円、2026年7月完了予定)、名古屋の賃貸物件(約13億円)、半導体関連マスクの設備(約20億円)が続く。純現金は買収後の約16億円まで減る。
政策保有株は、連結純資産比で17%台。2026年度までに15%以下に縮める方針で、売却益が今期の純利益に乗る。2026年度の純利益の予想は、この売却益と、拠点集約の損失を含む。
中計は2026年度が最終年度で、次の第2次中計では営業利益20億円以上、ROE10%以上を掲げる。ROEの目標は高いが、自己資本を厚くしたまま達成するのは難しい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
会社は変わり始めた。営業利益率は2期連続で4%前後と、長く2%台だった水準から上がった。2025年度は、中計の2026年度の目標を1年前倒しで達成した。今期は営業利益を16億円と見込み、約25%の増益になる。
半導体関連マスクは、AIサーバーと通信の需要で伸びている。売上は64億円、営業利益は5.7億円で、全体の営業利益の3割を稼ぐ。20億円の設備投資が稼働すれば、さらに伸びる。2026年6月に買収した大英エレクトロニクスも、売上を押し上げる。
財務は強い。自己資本比率は5割を超え、純現金は39億円ある。時価総額は自己資本の7割で、PBRが1倍を下回る。会社は第2次中計で、PBR1倍超とROE10%を掲げ、配当の下限も引き上げている。
10年で見ても、半導体の需要は物価の分以上に伸び、マスクの利益は倍になりうる。印刷の縮みを拠点の統廃合で補えば、営業利益は20億円に届く。PBRの1倍割れは、会社自身が課題と認め、改善を約束している。
慎重な見方
稼ぐ力が弱い。ROEは過去10年の中央値で4%台、直近でも5〜7%で、資本コストの9%に届かない。時価総額が自己資本の7割なのは、安いのでなく、稼げないことへの正当な値付けだ。
売上の4分の3は印刷系だ。紙の市場は30年縮み続け、AIによる制作の自動化がさらに速める。ソリューションセールスも印刷会社が顧客で、縮みに連れて小さくなる。情報コミュニケーションの営業利益率は2%台で、拠点を統廃合しても追いつかない。
半導体関連マスクは循環が速い。自動車向けはEVの減速ですでに弱く、中国勢の追い上げもある。大手のフォトマスク会社と比べれば、規模も小さい。
純現金は使い道が先に決まっている。23億円の買収、29億円の本社屋、13億円の賃貸物件、20億円のマスク設備で、39億円は足りない。今期の純利益の予想は、政策保有株の売却益に支えられ、本業の稼ぎではない。第2次中計のROE10%は、自己資本を減らさない限り届かない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。半導体関連マスクと実質無借金は確かな強みだが、売上の4分の3が縮む印刷系で、稼ぐ力が資本コストに届かない。確率は、中立に4割弱を置き、やや悲観を2割台後半まで厚くした。悲観を1割強に置いたのは、過去に赤字の年が4回あり、印刷の縮みが速まる道を無視できないからだ。強気の見方が挙げる増益は近い年の話で、半導体の伸びが印刷の縮みを埋め切る証拠はまだない。中立の営業利益率は、過去の最高を少し超える4%台前半に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,065 円174 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 312 円51 億円)。 今の値に割り戻すと 679 円111 億円、今との差 −21.3%、 期待の年率 +4.8%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 2,105 円345 億円 | 550 円90 億円 | +208.0% | +11.9% | 159 円26 億円 |
| やや楽観 | 17% | 1,600 円262 億円 | 440 円72 億円 | +136.6% | +9.0% | 347 円57 億円 |
| 中立 | 38% | 1,274 円209 億円 | 336 円55 億円 | +86.8% | +6.4% | 612 円100 億円 |
| やや悲観 | 27% | 540 円88 億円 | 244 円40 億円 | −9.0% | −0.9% | 212 円35 億円 |
| 悲観 | 12% | 305 円50 億円 | 92 円15 億円 | −53.9% | −7.5% | 48 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,065 円174 億円 | 312 円51 億円 | +59.8% | +4.8% | 1,377 円225 億円 |
今の株価時価総額 862 円141 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% AI向けのマスクが倍以上に伸び、印刷も海外包装で下げ止まる 利益 28 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 2,105 円345 億円
半導体関連マスクの出荷は実質で2倍強になる。AIサーバーと通信デバイス向けの先端品が伸び、20億円の設備投資が稼働に変わる。利益率は10%台を保つ。印刷は縮みが1割にとどまり、タイの新工場での包装とBPOが穴を埋める。
不動産の賃貸は、名古屋の新しい物件が加わって1.5倍に増える。営業利益は34億円ほど、純利益は28億円になる。第2次中計の営業利益20億円を大きく超え、ROEは9%台に乗る。配当性向は4割へ上がり、自己株式の取得も加わる。印刷会社だった会社が、半導体の部材会社として評価される姿だ。
- 情報コミュニケーション(印刷・包装・BPO):数量 90.0(出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷・包装・BPO市場 × 当社シェア))× 価格 2.10(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 189 億円・営業利益 8 億円。90 × 2.103、利益率 4.0%
- ソリューションセールス(印刷資材・機械の販売):数量 95.0(出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷資材・機械の市場 × 当社シェア))× 価格 1.85(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 176 億円・営業利益 6 億円。95 × 1.853、利益率 3.5%
- 半導体関連マスク:数量 210(出荷規模の指数(今を100とした実質))× 価格 0.86(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 180 億円・営業利益 19 億円。210 × 0.856、利益率 10.5%
- 不動産賃貸:数量 3.3(賃貸面積(万㎡、推定))× 価格 4.76(1㎡あたり年間賃料(万円・名目))→ 売上 16 億円・営業利益 8 億円。3.3 × 4.757、利益率 50.0%
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍。全体の PER 12.31 倍、時価総額 345 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体の需要が10年続いて伸び、タイの包装とBPOが印刷の縮みを埋める筋書き。両方が当たる必要があり、1割未満に置く。
やや楽観 17% マスクは伸び、印刷は縮みながら採算を守る 利益 21 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,600 円262 億円
半導体関連マスクの出荷は実質で75%増える。スマートフォンと通信向けの堅い需要に、AIサーバー向けが乗る。印刷は実質で2割近く減るが、拠点の統廃合とタイの包装で利益率は3%台を保つ。ソリューションセールスは、印刷資材の市場とともに縮む。賃貸は新しい物件が加わり、安定した稼ぎとして残る。
営業利益は25億円、純利益は20億円ほどになる。会社の第2次中計(営業利益20億円以上)を少し上回る水準だ。配当性向は3割台半ばを保ち、自己資本は270億円台になる。ROEは7%台で、資本コストにはまだ届かない。印刷の重みが、半導体の伸びを薄める。
- 情報コミュニケーション(印刷・包装・BPO):数量 83.0(出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷・包装・BPO市場 × 当社シェア))× 価格 2.07(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 172 億円・営業利益 6 億円。83 × 2.071、利益率 3.3%
- ソリューションセールス(印刷資材・機械の販売):数量 88.0(出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷資材・機械の市場 × 当社シェア))× 価格 1.83(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 161 億円・営業利益 5 億円。88 × 1.826、利益率 3.0%
- 半導体関連マスク:数量 175(出荷規模の指数(今を100とした実質))× 価格 0.81(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 142 億円・営業利益 13 億円。175 × 0.812、利益率 9.2%
- 不動産賃貸:数量 3.1(賃貸面積(万㎡、推定))× 価格 4.76(1㎡あたり年間賃料(万円・名目))→ 売上 15 億円・営業利益 8 億円。3.08 × 4.757、利益率 50.0%
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 247 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体関連マスクが実質で7割増え、拠点の統廃合で印刷の利益率が少し上がる姿。会社の第2次中計に近く、やや厚めに置く。
中立 38% マスクは伸びるが、印刷の縮みが利益を薄める 利益 15 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,274 円209 億円
半導体関連マスクの出荷は実質で45%増える。物価の分より値上げは弱く、汎用品は中国勢との競争に押される。印刷は実質で2割以上減り、値上げも物価に届かない。タイの包装が穴を埋めるが、全体の売上は伸びても名目で年1%台にとどまる。
営業利益は18億円、純利益は15億円ほど。利益率は4%台前半で、過去12年の最高を少し超える。拠点の統廃合と半導体の比率上昇が効く。賃貸の安定した稼ぎも、全体を下から支える。配当性向は35%で、自己資本は270億円台に積み上がり、ROEは5%台にとどまる。堅実だが、資本の稼ぎは資本コストに届かない。
- 情報コミュニケーション(印刷・包装・BPO):数量 78.0(出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷・包装・BPO市場 × 当社シェア))× 価格 2.02(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 158 億円・営業利益 4 億円。78 × 2.022、利益率 2.8%
- ソリューションセールス(印刷資材・機械の販売):数量 80.0(出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷資材・機械の市場 × 当社シェア))× 価格 1.80(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 144 億円・営業利益 4 億円。80 × 1.798、利益率 2.6%
- 半導体関連マスク:数量 145(出荷規模の指数(今を100とした実質))× 価格 0.77(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 111 億円・営業利益 9 億円。145 × 0.767、利益率 8.0%
- 不動産賃貸:数量 3.0(賃貸面積(万㎡、推定))× 価格 4.76(1㎡あたり年間賃料(万円・名目))→ 売上 14 億円・営業利益 7 億円。2.97 × 4.757、利益率 50.0%
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 176 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体関連マスクは堅く伸びる一方、売上の4分の3を占める印刷と印刷資材の販売が、人口減とデジタル化で縮む姿。利益率は会社の計画の水準に近づく。
やや悲観 27% 印刷の縮みが速く、マスクも中国勢に押される 利益 8 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 540 円88 億円
印刷の取扱いが実質で3分の1減り、印刷資材の販売も同じ速さで縮む。広告主は紙からデジタルへの移行を急ぎ、大口の顧客も内製化に動く。値上げは通らず、価格は物価の半分ほどしか上がらない。半導体関連マスクは量こそ増えるが、成熟した品種は中国勢の安値に押され、利益率が6%台に下がる。
営業利益は10億円、純利益は7億円台。拠点の統廃合でも固定費が追いつかない。配当は下限を守るが、性向は5割に近づく。自己資本は240億円台で、ROEは3%を割る。2021年3月期に赤字になった頃の水準に近い。賃貸だけが安定した稼ぎとして残る。拠点の統廃合には、さらに損失が出る。
- 情報コミュニケーション(印刷・包装・BPO):数量 65.0(出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷・包装・BPO市場 × 当社シェア))× 価格 1.91(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 124 億円・営業利益 2 億円。65 × 1.909、利益率 1.5%
- ソリューションセールス(印刷資材・機械の販売):数量 68.0(出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷資材・機械の市場 × 当社シェア))× 価格 1.69(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 115 億円・営業利益 2 億円。68 × 1.687、利益率 1.8%
- 半導体関連マスク:数量 110(出荷規模の指数(今を100とした実質))× 価格 0.70(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 77 億円・営業利益 5 億円。110 × 0.703、利益率 6.5%
- 不動産賃貸:数量 2.9(賃貸面積(万㎡、推定))× 価格 4.76(1㎡あたり年間賃料(万円・名目))→ 売上 14 億円・営業利益 7 億円。2.86 × 4.757、利益率 48.0%
倍率:ROE 約 3%。ROE が k 8.5% 以下なので、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.1 倍。需要と価格が弱い局面で、上限の 6 割 3 分の 7.0 倍に置いた。
確率:紙の需要が想定より早く縮み、半導体マスクでも中国勢との価格競争が強まる姿。印刷が売上の大半を占める会社なので、中立に近い厚みで置く。
悲観 12% 構造的に負け、印刷は赤字、マスクも採算を失う 利益 −3 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 305 円50 億円
印刷の取扱いは半分まで減り、値上げもできない。印刷資材の販売も同じ速さで縮み、拠点の統廃合に伴う損失が続く。半導体関連マスクは、顧客が内製化し、中国勢の安値で採算を失う。買収した子会社ののれんも減損する。
営業利益はほぼゼロ、純利益は赤字になる。タイの新工場も稼働率が上がらず、立ち上げの費用だけが残る。配当は下限だけになり、自己資本は減損で目減りする。稼ぐ力は戻らず、残るのは現金と政策保有株、賃貸不動産の収益だ。借入が少ないことが、会社を支える。ただし、株主に戻る額は、配当の下限程度にとどまる。
- 情報コミュニケーション(印刷・包装・BPO):数量 50.0(出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷・包装・BPO市場 × 当社シェア))× 価格 1.70(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 85 億円・営業利益 −2 億円。50 × 1.699、利益率 -2.0%
- ソリューションセールス(印刷資材・機械の販売):数量 55.0(出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷資材・機械の市場 × 当社シェア))× 価格 1.52(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 84 億円・営業利益 0 億円。55 × 1.521、利益率 0.5%
- 半導体関連マスク:数量 90.0(出荷規模の指数(今を100とした実質))× 価格 0.64(指数1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 58 億円・営業利益 2 億円。90 × 0.639、利益率 3.0%
- 不動産賃貸:数量 2.6(賃貸面積(万㎡、推定))× 価格 4.76(1㎡あたり年間賃料(万円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 6 億円。2.64 × 4.757、利益率 45.0%
倍率:稼ぐ力は赤字で、床は売れる資産で測る。今の自己資本 199 億円に PBR 0.25 倍を掛けた約 50 億円。floor_assets_why の内訳と同じ額。
確率:紙の需要がデジタルとAIで急に縮み、半導体マスクも中国勢の安値と顧客の内製化で採算を失う筋書き。過去に赤字の年が4回ある会社で、印刷が大半を占めるため1割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
情報コミュニケーション(印刷・包装・BPO)
商業印刷、海外向けパッケージ、物流などのBPO。売上の約4割強。
| 数量出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷・包装・BPO市場 × 当社シェア) | 価格指数1あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 1.62 | 162 | 4 |
| 10 年後 中立 | 78.0 | 2.02 | 158 | 4 |
取り方:セグメント間の取引を消す前の数字で、売上は161.8億円、営業利益は3.48億円(決算説明会)。開示に印刷の取扱量が無いため、国内の印刷市場(約6.3兆円、業界の推計)に対する当社のシェア約0.26%を数量の側に置いた推定で、数量は今を100とした指数、価格は指数1あたりの売上(名目)にした。連結の売上345億円は、セグメント間取引約27億円を消した後。10年の価格は、印刷の価格競争とデジタル化で物価の1.34倍には届かず、中立で1.25倍と置く。
ソリューションセールス(印刷資材・機械の販売)
国内25拠点で、印刷会社などに資材と機械設備を売る。売上の約3割強。
| 数量出荷規模の指数(今を100とした実質。国内の印刷資材・機械の市場 × 当社シェア) | 価格指数1あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 1.38 | 138 | 4 |
| 10 年後 中立 | 80.0 | 1.80 | 144 | 4 |
取り方:売上は138.3億円、営業利益は3.92億円(セグメント間取引を消す前。決算説明会)。顧客が印刷会社で、市場の縮みに連れて小さくなる事業。数量は印刷関連資材の市場に当社シェアを乗せた推定で、今を100とした指数。
半導体関連マスク
フォトマスク、スクリーンマスク、メタルマスクを国内2社と海外3社で作る。売上の約2割弱で、営業利益の3割強。
| 数量出荷規模の指数(今を100とした実質) | 価格指数1あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 0.64 | 64 | 6 |
| 10 年後 中立 | 145 | 0.77 | 111 | 9 |
取り方:売上は63.9億円、営業利益は5.66億円(決算説明会)。AIサーバー・スマホ・通信向けが好調で、自動車向けはEVの減速で弱い。出荷枚数などの開示が無いため、数量は今を100とした出荷規模の指数、価格は指数1あたりの売上(名目)にした推定。10年の価格は、汎用品が中国勢と競うため、物価の1.34倍より低く置く。
不動産賃貸
名古屋周辺の賃貸物件。売上は小さいが利益率が高い。
| 数量賃貸面積(万㎡、推定) | 価格1㎡あたり年間賃料(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.2 | 3.55 | 8 | 4 |
| 10 年後 中立 | 3.0 | 4.76 | 14 | 7 |
取り方:売上は7.8億円、営業利益は4.24億円(決算説明会)。賃貸面積は開示が無く、売上から逆算した推定(誤差が大きい)。名古屋の新しい賃貸物件(約13億円、2027年3月完了予定)で面積が増える。
リスクと懸念
印刷の需要が想定より早く縮む
売上の4分の3は印刷と印刷資材の販売で、紙の市場は30年縮み続けている。AIによる制作の自動化とデジタル広告の拡大が、この流れを速める。拠点の統廃合でも、売上の減りに利益率の改善が追いつかない恐れがある。
半導体の循環と中国勢の安値
半導体関連マスクは、AIとスマートフォンで好調だが、半導体は2〜3年ごとに谷が来る。自動車向けはEVの減速ですでに弱い。成熟した品種では、中国勢が安値で攻めてくる。
買収と大型投資で純現金が尽きる
2026年6月に約23億円で大英エレクトロニクスを子会社化し、本社屋の建て替えに約29億円、賃貸物件に約13億円、マスク設備に約20億円を投じる。純現金39億円は大半が先に決まっていて、減損や投資の遅れは自己資本を削る。
資本の効率が改善しない
ROEは過去10年の中央値で4%台、直近でも5〜7%。自己資本比率が5割を超える厚い資本が、稼ぎを薄めている。第2次中計のROE10%は、政策保有株の売却や自己株式の取得が進まなければ届きにくい。
四半期ごとの利益の振れ
事業の繁閑で、売上と利益が下期に偏る。印刷の納期や半導体の受注の山谷で、四半期の数字は大きく振れる。会社予想も修正が多く、経常利益は予想を6%下回った期がある。
AIによる事務の自動化でBPOの単価が下がる
BPOは人手不足の物流の現場で伸びているが、AIエージェントの普及で、単純な事務の代行は人月の単価が下がりうる。物流の現場の体を使う部分と、事務の部分で影響は分かれる。
今後の分かれ目
- 半導体関連マスクの営業利益率が10%を2期続けて超えたら
- 設備投資が稼ぎに変わったと見て、やや楽観の確率を少し増やす。
- 印刷系の売上が前年比5%超の減少を2期続けたら
- 縮みが速いと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 自社株買いと政策保有株の売却で、ROEが7%を超えて定着したら
- 資本効率が改善したと見て、中立の倍率を少し上へ直す。
- 大英エレクトロニクスの黒字化が確認できたら
- 買収が筋の通った投資だったと見て、半導体関連の数量を上へ直す。
- 第2次中計の営業利益20億円以上が、2年続けて未達になったら
- 計画が高すぎると見て、中立の利益率を下げる。
- 純現金が10億円を割ったら
- 次の投資が借入に頼る局面と見て、悲観の確率を少し上げる。
見ておくもの
- 半導体関連マスクの売上と営業利益率
- 情報コミュニケーションの営業利益率
- 印刷系の売上の前年比
- 純現金と投資の進み具合
- 政策保有株の売却と自己株式の取得
- 大英エレクトロニクスの業績
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 8.5%(基本 7.5% + quality 1.5%)に届かない前提で、正当化 PER の上限(1÷k = 約11.1 倍)の 6〜9 割に置いた。悲観は谷の利益でなく、純現金・政策保有株・賃貸の収益から売れる資産(約50億円)で測り、谷の PBR は使っていない。今の株価や PER を見てから決めたわけではない。中立の営業利益率は4%台前半で、過去12年の最高(4.0%)を少し超えるが、今期の会社予想(4.4〜4.5%)より低く、開示の実績(中計の目標の前倒し達成)がある。純現金は先に決まった投資で使うため、余った現金としては分けていない。賃貸等不動産の稼ぎは営業利益に入っているため、含み益は別に足していない。リースは軽く、新リース会計の影響は小さい。10年後の数字は今と同じ形でそろえた。セグメント別の数量と価格は推定で、誤差が大きい。減価償却は物価で一律には増やしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→12.31 倍・やや楽観 PER 9→11.76 倍・中立 PER 7.8→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.5% = 9.0%。個別のリスク(買収の実行・設備投資の稼働)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.50%。