結論
ヨネックスは、バドミントン用品で世界首位のスポーツ用品メーカーである。売上の約6割をバドミントンが占め、テニスが続く。2026年3月期は売上1,636億円、営業利益166億円と、ともに過去最高を更新した。
筆者の結論は、事業の質は高いが、10年後を見ると今の値段にはやや安全域がない、というものだ。直近の追い風は中国とインドの普及だ。一方、これが10年続くと見るには、地場メーカーの追い上げと中国の景気という重しが大きい。
稼ぎの源は単純だ。選手が使う道具を市民が買う。ヨネックスは世界の有力選手を契約で囲い、その信頼を売値に乗せてきた。強みの核は、炭素繊維の成形という長年の技術と、新潟の自社工場を使った品質管理にある。
利益率は10%前後で、コロナ前の4〜7%からは大きく上がった。この水準が定着するかが最大の争点だ。中立の筋書きでは今の水準を守るが、還元が薄いため自己資本が膨らみ、ROEは15%から11%へ下がっていく。
財務は堅い。純現金は174億円で、借金の心配はない。経営は創業家の影響下にあり、還元に熱心とはいえない点が、安全域を測るうえでの引っかかりだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ヨネックスは「事業は良いが、値段と還元に引っかかる」会社だ。世界首位の専門ブランド、純現金、借金のなさという土台は評価できる。10年先もバドミントンをする人は多く、ラケットは買い替えられる。
オーナー利益は、純利益に近い。工場は自前だが、設備投資は売上の伸びに見合った範囲にとどまる。ただ、広告費と研究開発費は毎年重く、利益のうち自由に使える分は見た目より小さい。
資本の使い方は評価が割れる。買収で価値を壊さない点は良い。しかし、利益の8割を会社に残し、その自己資本から稼ぐ力が15%から11%に下がっていく。資本が積み上がるほど、資本あたりの稼ぎは薄まる。
値段については、直近の利益率10%と売上の高い伸びが続く前提を、かなり含んでいる。コロナ前は利益率が4〜7%だった。この水準に戻る筋書きを、無視できない確率で見る必要がある。安全域は薄いと筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
ヨネックスの商売は、競技用具を設計し、自社工場で作り、世界の販売店と直営・ネットで売ることだ。主力はバドミントンで、ラケット・シャトル・シューズ・ウェアを一式そろえる。売上の約6割を占め、その大半が海外で売れる。
テニスは売上の約14%の2本目の柱だ。ラケット・ストリング・シューズが中心で、北米と欧州が成長の舞台になる。長岡の新工場(2025年6月竣工予定と公表)は、このテニス需要に応える拠点と位置づけられている。ほかにゴルフクラブ、スノーボード、ソフトテニス、ウェアなどがあり、合わせて売上の4分の1ほどだ。
地域別では、アジアが売上の約6割(994億円)、日本が約4分の1(419億円)で、欧州121億円・北米74億円が続く。日本は成熟市場で、成長を引っ張るのは中国とインドだ。
稼ぐ仕組みの要は、契約選手だ。世界の上位選手が使うことで、一般の愛好家が同じ道具を求める。広告費は重いが、それが値段に乗る強みになる。
生産は新潟を中心とした国内工場とインドの現地生産会社で行う。炭素繊維の成形(カーボン技術)をラケットやシャフトに使う点が、他社との差になっている。
優良さと弱いところ
ヨネックスの堀は、選手に選ばれるブランドと、炭素繊維の成形技術の二つにある。バドミントンでは世界トップクラスの選手が使うことで、愛好家の信頼が生まれ、売値を守る力になる。
ただし、堀は絶対ではない。中国には李寧、台湾にはVictorという有力な競合がいて、近い品質を安く出せる。品質の差が縮めば、ヨネックスの値決め力は削られる。
資本の効率は上がってきた。ROEは2021年3月期の3%から、2026年3月期には15%まで上がった。ただ、この水準は直近の売上の急伸(5年で3倍)の結果であり、長く続いた実績ではない。過去10年のROEの中央値は11%だ。
弱みは二つある。第一にアジア、とりわけ中国への依存が高い。第二に、広告・研究開発・販売網といった固定的な費用が重く、売上が落ちると利益が急に細る。2021年3月期の営業利益率は2.0%まで落ちた。
筆者は、この会社を「世界首位の専門ブランドだが、堀は強くも弱くもない」と見る。強い堀と呼ぶには、地場勢が近すぎる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界のバドミントン用品は、調査会社の数字が数十億ドルのあいだで大きくぶれる。筆者は、ラケット・シャトル・シューズ・ウェアを含む今の市場を、約4,000億円前後と見ている。これはヨネックスの売上と、競合の売上から逆算した推定だ。
需要を押し上げているのは中国とインドだ。バドミントンは両国で競技人口が多く、道具の買い替え需要がある。五輪やスーパーシリーズの年には話題が増えるが、需要の本体は愛好家のラケット買い替えにある。
競合は、中国の李寧、台湾のVictor、Apacs・RSLなど東南アジア勢、日本のGosen・Mizunoなどだ。中国勢は国内で強く、品質も上がっている。量販品や無名ブランドの低価格品も多い。
テニスはWilson・Head・Babolatが世界の大手で、ヨネックスは追う側だ。用品全体で約6,000億円前後と見て、ヨネックスの売上は3〜4%にあたる。北米で伸ばす余地はあるが、大手の販売網の壁は厚い。
日本は少子化で国内の用品需要が縮む。物価の上昇で価格を転嫁する余地はあるが、数量は減る。成長は海外の中間層の拡大に頼ることになる。
為替はドル円150円が続く前提で、輸出の採算は今の水準で見る。
資本政策と M&A
中長期ビジョン(2023年)は数値目標を置かず、成長投資と長期的で安定した株主還元に現金を配分する方針だけを示している。北米のテニスとインドのバドミントンを重点地域とし、新潟・長岡の工場と研究開発施設、基幹システムの世界展開に資金を回す。
還元は薄い。2026年3月期の配当は前期から増配したが、配当性向は約18%にとどまる。自社株買いは2025年3月期に24億円行ったが、2026年3月期は行っていない。純現金は174億円で、売上の急伸に合わせた在庫・設備に現金が回っている面もある。
創業家と財団が大株主に並び、安定した株主構成だ。社長は創業家3代目の米山有沙氏(2022年4月就任)で、社外取締役は半数を占める。TOBの可能性は、kabufuの推定で10年以内16%。創業家が厚いため、友好的でない買収は起きにくい。
大型のM&Aは目立たない。自前の工場と販売子会社で成長してきた会社であり、買収で価値を壊す心配は小さい。一方、還元を引き上げる動きが出れば、評価は上向く余地がある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
バドミントンの普及は、一時のブームではなく、人口の厚みが生んだ構造的な需要だ。中国とインドの愛好家が道具を買い替え続け、ヨネックスは世界の有力選手の信頼でその需要を受け止める。2026年3月期に売上が18%伸びたのは、その表れだ。
会社の予想は、今期も売上が約9%伸び、営業利益が過去最高を更新する見通しだ。2027年3月期の第1四半期は売上が14%伸び、純利益は3割増えた。足元の勢いは衰えていない。
テニスは北米の新工場と現地販売の強化で、シェアが3〜4%から伸びる余地が大きい。バドミントンで築いた選手契約のやり方を、テニスで再現できる。
財務は純現金で借金がなく、不況でも投資を続けられる。創業家が長期の視点で動くため、短期の利益を追って品質を落とす心配がない。還元は薄いが、これは余力であり、引き上げれば評価は一段上がる。
世界首位のブランドが、数量と価格の両方を伸ばして10年を進むなら、今の値段は割安にもなりうる。
慎重な見方
売上が5年で3倍になったのは、中国とインドのブームと、五輪の追い風が重なった結果だ。ブームは数年で冷める。コロナ前の営業利益率は4〜7%で、今の10%はその倍にあたる。この利益率が10年続くと見るのは強気にすぎる。
中国には李寧、台湾にはVictorがあり、品質を上げて価格で攻めてくる。バドミントンは道具の差が見えにくい愛好家の層が厚く、安い道具に流れやすい。ヨネックスの値決め力は、地場勢の成長とともに削られる。
売上の6割近くをアジアが占める。中国の景気が弱まり、若者の趣味が動けば、数量が落ちる。北米・欧州のテニスはまだ小さく、赤字の期間が長引く恐れがある。
広告・研究開発・販売網という固定費は重く、売上が落ちると利益は急に細る。2021年3月期は営業利益率が2%まで落ちた。
還元も薄い。利益の約8割を社内に残すので、自己資本が膨らみ、ROEは下がっていく。株主にとって、資本が積み上がること自体が価値を薄める。
どちらに重みを置いたか
事業の質では強気の見方が優勢だ。世界首位のブランド、純現金、勢いのある決算は本物で、悲観の確率は大きくは寄せない。
ただ、利益率の水準と値段の議論では、慎重な見方が強い。コロナ前の4〜7%に戻る筋書きが、無視できない重みで残る。確率は、強気と中立に計66%、やや悲観と悲観に計34%を置き、尾を悲観側へ少しだけ厚くした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,499 円3,850 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 573 円490 億円)。 今の値に割り戻すと 2,638 円2,257 億円、今との差 +10.4%、 期待の年率 +7.8%(資本コスト 7.2%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 9,087 円7,776 億円 | 935 円800 億円 | +319.5% | +15.4% | 1,002 円858 億円 |
| やや楽観 | 22% | 6,793 円5,813 億円 | 701 円600 億円 | +213.7% | +12.1% | 1,649 円1,411 億円 |
| 中立 | 34% | 5,146 円4,404 億円 | 578 円495 億円 | +139.6% | +9.1% | 1,946 円1,666 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,356 円1,160 億円 | 467 円400 億円 | −23.7% | −2.7% | 419 円359 億円 |
| 悲観 | 11% | 311 円266 億円 | 187 円160 億円 | −79.2% | −14.5% | 55 円47 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,499 円3,850 億円 | 573 円490 億円 | +112.3% | +7.8% | 5,071 円4,340 億円 |
今の株価時価総額 2,389 円2,044 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 10% 中国・インドの普及と北米テニスがそろって当たる 利益 361 億円 · PER 20.7 倍 · 株価時価総額 9,087 円7,776 億円
中国とインドでバドミントン人口が伸び続け、ヨネックスは世界の用品市場で27%までシェアを上げる。道具の違いが勝敗に響く競技で、選手が使うブランドが市民の買い替えを引っ張る構図が10年続く。
テニスは北米の新工場と現地販売が効き、ラケットとストリングだけでなくシューズ・ウェアまで揃う総合ブランドになる。世界ツアーでの存在感が、売上を今の2倍近くに押し上げる。
広告費は売上の伸びに吸収され、営業利益率は13%台に乗る。会社は利益の35%ほどを還元しつつ、自己資本比率の高さも保つ。10年の中で最も理想的な筋書きだ。
- バドミントン:数量 67.0(販売点数(百万点・ラケット、シャトル、シューズ、ウェアなどの推定))× 価格 3,350(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 2,243 億円・営業利益 493 億円。販売点数 1.68 倍・単価 1.34 倍、営業利益率 22.0%
- テニス:数量 9.0(販売点数(百万点・ラケット、ストリング、シューズ、ウェアなどの推定))× 価格 6,700(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 603 億円・営業利益 96 億円。販売点数 2.00 倍・単価 1.34 倍、営業利益率 16.0%
- ゴルフ・スノーボード・ウェア・その他:数量 13.5(販売点数(百万点・推定))× 価格 5,360(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 724 億円・営業利益 65 億円。販売点数 1.30 倍・単価 1.34 倍、営業利益率 9.0%
倍率:事業の純利益 361 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.7 倍。全体の PER 20.7 倍、時価総額 7,473 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:バドミントンの普及、テニスの北米定着、広告費を回収できる値決めの3つが10年そろって当たる必要があり、実現すれば大きいが確度は高くない。
やや楽観 22% アジアの需要に乗り、堅実に高収益を保つ 利益 277 億円 · PER 19.9 倍 · 株価時価総額 6,793 円5,813 億円
バドミントンは市場が今の1.4倍まで広がり、シェアはわずかに上がる。中国とインドの市民需要が積み上がる一方、五輪の年の熱は薄れ、伸びは年5%台に落ち着く。
テニスは北米で着実にシェアを拡大するが、Wilson・Head・Babolatの牙城は崩れない。ゴルフやスノーボードは伸びが鈍く、利益率は低いままだ。
営業利益率は12%近くまで上がる。会社は利益の3割強を還元する。
筆者は、この筋書きを「世界首位の専門ブランドが、派手さはなくても堅実に稼ぎ続ける10年」と見る。値上げは物価並みにとどまり、利益の伸びは数量の増加と固定費の吸収で生まれる。地場勢との競争は続くが、ブランドの差で致命傷は避けられる。
- バドミントン:数量 57.7(販売点数(百万点・ラケット、シャトル、シューズ、ウェアなどの推定))× 価格 3,350(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 1,934 億円・営業利益 396 億円。販売点数 1.45 倍・単価 1.34 倍、営業利益率 20.5%
- テニス:数量 7.9(販売点数(百万点・ラケット、ストリング、シューズ、ウェアなどの推定))× 価格 6,700(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 528 億円・営業利益 77 億円。販売点数 1.75 倍・単価 1.34 倍、営業利益率 14.5%
- ゴルフ・スノーボード・ウェア・その他:数量 12.5(販売点数(百万点・推定))× 価格 5,360(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 667 億円・営業利益 53 億円。販売点数 1.20 倍・単価 1.34 倍、営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 277 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.4% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.9 倍。全体の PER 19.87 倍、時価総額 5,504 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直近5年の実績(売上3倍・利益率10%台)は強気の見立てに近い。ただしブーム後の反動と地場メーカーの追い上げを織り込み、楽観ほどは重く置かない。
中立 34% 中立:ブームが落ち着き、専門ブランドとして巡航する 利益 217 億円 · PER 18.9 倍 · 株価時価総額 5,146 円4,404 億円
バドミントンの市場は実質で3割ほど広がり、ヨネックスはシェア25%を守る。中国の人口構成は変わり、インドは伸びるが、全体の伸びは年2〜3%(数量)にとどまる。物価の分を価格に乗せ、売上は10年で1.7倍になる。
テニスは北米の拡大で数量が5割増える。主力2種目の利益率は今の水準を保つが、世界ツアーの契約選手への投資が重く、広告・研究開発費は売上並みに増え続ける。
営業利益率は10%強。今の水準をほぼ維持する。会社は還元を3割ほどに引き上げるが、自己資本は利益を追って厚くなり、ROEは今の15%から11%へ下がる。
- バドミントン:数量 51.8(販売点数(百万点・ラケット、シャトル、シューズ、ウェアなどの推定))× 価格 3,350(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 1,735 億円・営業利益 330 億円。販売点数 1.30 倍・単価 1.34 倍、営業利益率 19.0%
- テニス:数量 6.8(販売点数(百万点・ラケット、ストリング、シューズ、ウェアなどの推定))× 価格 6,700(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 453 億円・営業利益 59 億円。販売点数 1.50 倍・単価 1.34 倍、営業利益率 13.0%
- ゴルフ・スノーボード・ウェア・その他:数量 11.9(販売点数(百万点・推定))× 価格 5,360(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 639 億円・営業利益 45 億円。販売点数 1.15 倍・単価 1.34 倍、営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 217 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.9 倍。全体の PER 18.94 倍、時価総額 4,110 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界の用品市場は年3%前後の実質成長、ヨネックスはシェアを守る。直近のブームの上振れを半分ほど剥がした姿を、中立の落としどころに置く。
やや悲観 23% 中国の地場勢に値段を取られ、稼ぎが元の水準へ戻る 利益 96 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,356 円1,160 億円
中国で李寧やVictorなどの地場メーカーが品質を上げ、バドミントン用品の値段が下がる。ヨネックスは数量を守るが、値上げができなくなる。
テニスは北米で苦戦し、販売網への投資が回収できない。広告費と工場の固定費は売上が落ちても減らないため、利益率はコロナ前の水準に近い6%へ戻る。
会社は還元を保つが、自己資本ばかりが積み上がり、ROEは資本コストを下回る。ブランドは残るが、もう資本を効率よく使う優良株とは呼べない。
2000年代から2010年代のように、バドミントンが一部の競技者のものにとどまり、中国の景気が足を引く時期が長引けば、この筋書きに近づく。値上げができない中で、人件費と原材料だけが物価で上がる。
- バドミントン:数量 41.8(販売点数(百万点・ラケット、シャトル、シューズ、ウェアなどの推定))× 価格 3,125(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 1,308 億円・営業利益 196 億円。販売点数 1.05 倍・単価 1.25 倍、営業利益率 15.0%
- テニス:数量 5.4(販売点数(百万点・ラケット、ストリング、シューズ、ウェアなどの推定))× 価格 6,250(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 338 億円・営業利益 30 億円。販売点数 1.20 倍・単価 1.25 倍、営業利益率 9.0%
- ゴルフ・スノーボード・ウェア・その他:数量 9.9(販売点数(百万点・推定))× 価格 5,000(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 492 億円・営業利益 17 億円。販売点数 0.95 倍・単価 1.25 倍、営業利益率 3.5%
倍率:筋書きの ROE 6.5% は k 7.25% を下回り、PER の上限は 1÷k=13.3 倍。稼ぐ力(事業の純利益 95 億円前後÷k)の 8 割弱に置いた。同じ筋書きの PBR は約 0.65 倍で、中立の約 1.4 倍より低い。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 10 倍・時価総額 960 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:コロナ前の営業利益率は4〜7%だった。ブームの利益率が10年続く保証はなく、地場メーカーの追い上げと関税・中国の需要減を見て、やや厚めに置く。
悲観 11% 地場勢と値崩れで、ブランドが構造的に傷む 利益 21 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 311 円266 億円
中国の景気と地場メーカーの台頭で、主力のバドミントンが価格と数量の両面から崩れる。シェアは25%から21%へ下がり、値段は物価に追いつかない。
テニスの北米投資は回収できず、長岡の新工場や研究施設の稼働率が落ちる。工場の減損が出て、自己資本も目減りする。
営業利益は2%を割る。会社は配当を細々と続けるが、成長投資の余力はない。稼ぐ力は純現金と工場用地の価値で測るしかなくなる。
世界首位だったという事実だけが残り、新規のラケットや素材の開発も遅れる。選手が他社の道具に移れば、愛好家の買い替えも止まり、ブランドの循環そのものが弱くなる。
- バドミントン:数量 33.9(販売点数(百万点・ラケット、シャトル、シューズ、ウェアなどの推定))× 価格 2,875(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 974 億円・営業利益 97 億円。販売点数 0.85 倍・単価 1.15 倍、営業利益率 10.0%
- テニス:数量 4.1(販売点数(百万点・ラケット、ストリング、シューズ、ウェアなどの推定))× 価格 5,750(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 233 億円・営業利益 9 億円。販売点数 0.90 倍・単価 1.15 倍、営業利益率 4.0%
- ゴルフ・スノーボード・ウェア・その他:数量 8.3(販売点数(百万点・推定))× 価格 4,600(1点あたりの平均単価(円))→ 売上 382 億円・営業利益 4 億円。販売点数 0.80 倍・単価 1.15 倍、営業利益率 1.0%
倍率:優良さを失い利益が細る筋書きなので PBR。稼ぐ力(事業の純利益 22 億円前後÷k)は約 300 億円、床の資産は純現金 174 億円+工場用地の税後 85 億円=259 億円。今の自己資本 805 億円の 0.33 倍(約 266 億円)に置いた=床の資産の水準。減損で自己資本は筋書き上 1,008 億円に減る。
確率:バドミントン人口の頭打ちと地場の低価格化、テニス投資の失敗が重なる複合の筋書き。専門ブランドの優位は一度崩れると戻りにくいので、低い確率でも一定の重みを置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
バドミントン
ラケット・シャトル・シューズ・ウェアなど、世界のバドミントン用品のトップブランド。売上の約6割を占める稼ぎ頭。
| 数量販売点数(百万点・ラケット、シャトル、シューズ、ウェアなどの推定) | 価格1点あたりの平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 39.8 | 2,500 | 996 | 195 |
| 10 年後 中立 | 51.8 | 3,350 | 1,735 | 330 |
取り方:2025/03期の構成比61.5%に2026/03期の伸び(+17.1%)を当てて約996億円と推定した。世界市場は用品全体で約4,000億円前後(李寧・Victor・Apacs・RSL・Gosen・Mizuno・量販品を含む筆者の推定。調査会社の数字は定義が揺れて使えない)、ヨネックスのシェアは約25%。セグメント利益は非開示で、全社の営業利益166億円から本社・広告費を引き戻した推定。 販売点数と単価は開示がなく、売上を平均単価(推定 2500)で割った点数。点数の伸びが実質の数量、単価の伸びが物価と値付けにあたる。
テニス
ラケット・ストリング・バッグ・シューズ。世界ツアーの契約選手を使った2本目の柱。北米・欧州が成長の舞台。
| 数量販売点数(百万点・ラケット、ストリング、シューズ、ウェアなどの推定) | 価格1点あたりの平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.5 | 5,000 | 225 | 30 |
| 10 年後 中立 | 6.8 | 6,700 | 453 | 59 |
取り方:2025/03期の構成比13.6%に2026/03期の伸び(+19.6%)を当てて約225億円と推定。世界のテニス用品(ラケット・ストリング・シューズ・ウェア・バッグ)は約6,000億円前後、ヨネックスのシェアは3〜4%台と推定(Wilson・Head・Babolatが大手)。利益は非開示で推定。 販売点数と単価は開示がなく、売上を平均単価(推定 5000)で割った点数。点数の伸びが実質の数量、単価の伸びが物価と値付けにあたる。 数量は実物(北米の販売網と新工場で増える点数)で、名目の市場の伸びではない。
ゴルフ・スノーボード・ウェア・その他
ゴルフクラブ、スノーボード、ソフトテニス、ランニング・ウェアなど。主力2種目より利益率が低い。
| 数量販売点数(百万点・推定) | 価格1点あたりの平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.4 | 4,000 | 415 | 25 |
| 10 年後 中立 | 11.9 | 5,360 | 639 | 45 |
取り方:全社売上1,636億円から、バドミントン(約996億円)とテニス(約225億円)の推定を引いた残り。ゴルフは上期に苦戦した(確認不十分のため額は使わない)。開示がなく、残りとしての推定。 販売点数と単価は開示がなく、売上を平均単価(推定 4000)で割った点数。点数の伸びが実質の数量、単価の伸びが物価と値付けにあたる。
リスクと懸念
中国の景気と需要の変調
売上の約6割はアジアで、中国が大きい。景気の弱まりや若者の趣味の変化で数量が落ちれば、固定費の重さで利益が急に細る。2021年3月期の営業利益率は2.0%まで落ちた。
地場メーカー(李寧・Victor)の追い上げ
中国の李寧、台湾のVictorなどが品質を上げ、近い性能を安く出す。値決め力が削られれば、今の10%台の営業利益率は守れない。バドミントンは愛好家の層が厚く、価格に敏感な層も多い。
五輪・大会の反動
2024年パリ五輪の追い風は、一時的に株価と需要を押し上げた面がある。大会のない年は話題が薄れ、広告費に見合う売上の伸びが続かない恐れがある。
テニス投資の回収
北米・欧州でテニスを伸ばす投資(長岡の新工場、販売網)は重い。Wilson・Head・Babolatの牙城を崩せなければ、稼働率が落ち、減損や利益率の低下につながる。
関税と為替
米国の関税は北米の採算を圧迫する。ドル円が150円から円高に振れれば、輸出の採算が落ち、海外の値決めにも逆風になる。第3四半期の売上総利益率は44.2%と前年から1.5ポイント下がった。
還元の薄さ
配当性向は約18%で、2026年3月期の自社株買いはなかった。利益が自己資本として積み上がり、ROEが下がる。還元方針が変わらなければ、株主の取り分が薄まる。
創業家の経営と社長交代
社長は創業家3代目で、2022年に就任した。創業家の影響が強い会社は、長期の視点で動く利点がある半面、資本政策が株主の要望に動きにくい。
今後の分かれ目
- バドミントンの数量が中国・インドで2桁の伸びを保ったら
- 中立の数量(10年で1.3倍)を上方修正し、やや楽観・楽観の確率を上げてよい。
- 営業利益率が2期続けて8%を割ったら
- ブームが引いたと見て、やや悲観の重みを上げる。固定費の重さで、利益はさらに細る。
- 配当性向を40%以上へ引き上げる方針が出たら
- 自己資本の膨らみが止まり、ROEの下がり方が緩む。中立の倍率の根拠が良くなる。
- 李寧やVictorが中国で価格を下げて攻めたら
- バドミントンの価格の前提(物価並みの上昇)を下方修正する。
- 北米でテニスの売上が現地で2桁の伸びを続けたら
- テニスの数量を上方修正し、2本目の柱の利益率の前提を見直す。
- ドル円が2割ほど円高に振れたら
- 輸出の採算を下方修正する。海外の値決めの余地も狭まる。
見ておくもの
- 中国・インドのバドミントン用品の売上の伸びと、売上総利益率(今は44%台)
- 営業利益率が10%台を保てるか(過去の底は2%)
- 配当性向と自社株買いの方針(今は約18%)
- 北米・欧州のテニスの売上と、長岡の新工場の稼働
- 李寧・Victorの中国での価格と、世界ツアーでの契約選手の動き
倍率と資本コストの決め方
セグメントは、世界市場 × シェアで置いた実質の売上規模に、物価並みの値段(10年で1.34倍)を掛けて積んだ。市場の大きさは調査会社の数字が定義で大きくぶれるため、ヨネックスと競合の売上から逆算した筆者の推定を使った。倍率は式(正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g))と筋書きごとの ROE だけで置き、今の PER や同業の倍率は使っていない。悲観側は稼ぐ力と純現金で床を置き、今の自己資本に PBR を掛けた。新リース会計基準で営業利益や純負債の形が2028年3月期から変わるが、10年後の数字は家賃を営業費用に含む今と同じ形でそろえている。 中立は上限の 90% に置いた。ROE の低下は上限の式で、循環の振れは k の上乗せで見ており、倍率で重ねて引いていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.6→20.7 倍・やや楽観 PER 15.5→19.87 倍・中立 PER 14.5→18.94 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。