結論
アートネイチャーは、かつらと増毛、育毛のサービスを手がける、国内最大手の一角だ。筆者の結論は、今の値段はやや割高から割高、というものだ。
市場は2016年から縮んでいる。薬、AGAクリニック、低価格の商品が、ウィッグの客を取りにくる。同社はその中でシェアを2015年の28.9%から2024年の36.2%に上げてきた。男性向けでは首位、女性向けでは2位である。
2026年3月期の売上は446億円、営業利益は32.2億円と、前期より47.6%増えた。ただ、営業利益率は7.2%で、過去12年の中央値と同じ水準にとどまる。2027年3月期は先行投資で、営業利益25億円と22%の減益を会社が予想する。
10年の中立は、売上が約584億円、営業利益が約39億円、純利益が約22億円。営業利益率は6.6%で、ROEは資本コストの8.5%を下回る。現金は198億円と時価総額の4分の3に当たるが、約62億円は前受金で、会社の自由な現金は限られる。薄い利益率と、縮む市場の組み合わせは、値段の安さを現金だけで補えない。
バリュー投資の観点から
事業は分かりやすい。薄毛の悩みに、ウィッグと手入れで応える会社だ。
良い点は三つある。第一に、国内でシェアを上げ続けており、男性向けで首位に立つ。第二に、現金が厚く、借金がない。第三に、客との付き合いが長く、手入れの契約で収入が安定している。
気になる点も三つある。第一に、市場が2016年から縮んでおり、薬と医療という別の解決策が広がっている。第二に、店と人にかかる固定費が重く、売上が落ちると利益がすぐに削れる。2025年3月期の営業利益率は5.0%、2021年3月期は5.4%まで落ちた。第三に、現金を持ち続ける理由が、M&Aの準備以外に見当たらない。
筆者は、この会社を「手堅いが、伸びない」と見る。持ち続けて報われるかは、現金の使い方にかかっている。利益を増やすより、現金を戻す方が、株主の取り分は増える。
安全域は、今の値段には十分ある。時価総額の4分の3を現金が占めるからだ。ただし、その現金は前受金や運転資金に化ける部分があり、見かけほど自由ではない。
何で稼ぐ会社か
アートネイチャーは、かつらと増毛、育毛のサービスを手がける会社だ。1968年の創業で、国内の毛髪業では最大手の1社である。
2026年3月期の売上は446億円。男性向けが233億円で5割強、女性向けが135億円で3割、女性向けの既製ウィッグが62億円、その他が16億円だった。
中心は、客の頭に合わせて作るオーダーメイドのウィッグだ。1年に6万3千本を作る。売って終わりではなく、手入れ、カット、毛の植え足し、育毛の施術を続けて受け取る。客と長く付き合う、会員型に近い商売である。
店は国内に283店。女性向けの既製品は「ジュリア・オージェ」が91店、低価格の「NAO-ART」が36店ある。製造は海外が中心で、フィリピンの工場に加え、2026年3月期からバングラデシュの工場が動き出した。
従業員は連結で3,851人。店で客に応じる人が多く、人件費が最大の費用になる。
客層は、男性の薄毛の悩みが中心だったが、近年は女性向けが伸びている。会社は店を、悩みを相談する場として位置づけ、カウンセリングから製作、手入れまでを一つの流れで売る。
優良さと弱いところ
強みは、顧客との長い付き合いと、国内のシェアにある。
矢野経済研究所の推計をもとに会社が示すところでは、国内の毛髪業市場に占める同社の売上の割合は、2015年の28.9%から2024年の36.2%に上がった。男性向けは首位、女性向けは2位である。市場が縮むなかで、シェアを取ってきた。
一方で、堀は深くない。薄毛への対処は、飲み薬、塗り薬、AGAクリニック、低価格のウィッグなど、選択肢が増えている。ブランドと店舗網、手入れの契約は強みだが、客がほかに移ることを防ぐ壁は高くない。
値決めの力は中くらいだ。手入れの契約が価格を支えるが、競争で単価は上げにくい。
資本効率は低い。ROEは2015年3月期の9.8%から、直近10年の中央値で5.6%。2026年3月期は6.8%に戻したが、資本コストの8.5%には届かない。厚い現金を抱えて、自己資本が重いことが原因の一つだ。
経営は堅実だ。借金はなく、現金は198億円。ただ、その現金を使いこなせていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の毛髪業の市場は、2016年から縮んでいる。コロナ禍後に回復したが、コロナ前の規模には戻っていない。
市場の大きさは、同社の売上を市場シェア(36.2%)で割ると、約1,200億円になる。会社の売上の大半は、この市場の中にある。競争相手は、同業のウィッグ会社だけではない。非毛髪業の参入、医薬品の販売業者、AGAクリニック、低価格の商品が、会社自身が挙げる脅威だ。
数量の物差しは、オーダーメイドが年間の制作本数、女性向けの既製品が店舗数とした。人口の高齢化で、男性の薄毛の客は増えるが、薬と医療が代わりに取る。女性向けは、悩みを語りやすくなったことで伸びている。
値段は、物価の1.34倍に届かない1.3倍とした。低価格の商品と薬の競争で、単価が上がりにくいためだ。
会社は、中期経営計画「アートネイチャーFrontierプラン」で、2030年3月期に売上600億円、ROE9.2%を目指している。経常利益率は6.7%と、2026年3月期の7.7%から下がる計画である。成長を取りにいく分、利益率は薄くなる前提だ。
資本政策と M&A
還元は手厚い。方針は、連結配当性向40%以上を目安とし、年間の配当額に下限を置く(約9億円)。ROEが10%を超えるまでは、性向を50%以上にする。2026年3月期の配当は総額約9.8億円で、性向は約51%だった。
財務は極めて健全だ。現金は198億円で、時価総額の約76%に当たる。借金はなく、50億円のコミットメントラインも使っていない。自己資本比率は53.4%。
ただし、現金のうち約62億円は、客から先に受け取った代金(前受金)の見込みで、会社の自由になる現金ではない。この数字は第三者の集計で、決算短信で確かめられていない。残りも、運転資金と店の運営に要る分があるため、ここでは約80億円を事業に要らない分と見た。
設備投資は24億円で、店が14億円、システムが3億円、バングラデシュ工場が6億円。減価償却は13億円。
大株主は、五十嵐祥剛氏が約19%、アイ・コーポレーションが約10%、塚本武氏が約8%と、個人と資産管理会社が上位に並ぶ。信託銀行名義は約6%。創業者の阿久津三郎氏はすでに亡くなっている。
M&Aは、「美と健康」の分野で国内外を探す方針だ。2014年に三河屋、2019年にNAO-ARTを買った実績がある。kabufuの推計では、10年以内にTOBや買収の対象になる確率は23.5%だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、シェアの上昇と、女性向けの伸びに目を向ける。
国内の毛髪市場は縮んでいるのに、同社のシェアは2015年の28.9%から2024年の36.2%に上がった。これは、競争相手が取りこぼした客を取ってきた結果である。
女性向けは、2026年3月期に売上が7.6%増えた。女性の薄毛の悩みは、話しやすくなりつつあり、既製品の店も91店まで増えた。男性向けより、客の層の伸びしろが大きい。
バングラデシュの新工場が動き出し、原価を下げられる。2026年3月期の営業利益は、前期より47.6%増の32.2億円に戻した。
現金は198億円あり、配当は性向5割を保つ。M&Aで新しい事業を取り込めば、成長の道が開く。会社は、2030年3月期に売上600億円を目指している。
10年後、女性向けとオーダーメイドが同時に伸び、営業利益が66億円に届けば、ROEは11%台に乗る。この筋書きの確率を7%とした。
慎重な見方
慎重な見方は、市場の縮みと、薬と医療への代替を突く。
国内の毛髪市場は、2016年から縮んでいる。会社自身が、非毛髪業の参入、医薬品の販売、AGAクリニック、低価格の商品を脅威に挙げる。薄毛の悩みを抱える人が、ウィッグを選ばず、薬や治療を選ぶ流れは止まらない。
固定費が重い。店が283店、従業員が3,851人。売上が1割落ちても、人と家賃はそのまま残る。営業利益率は、2025年3月期に5.0%まで落ちた。
会社の予想では、2027年3月期の営業利益は25億円と、前期より22%減る。第1四半期は2.85億円の営業赤字だった。計画の初年度から、先行投資が利益を削る。
中期計画も、2030年3月期の経常利益率を6.7%と、今より下に置いている。会社自身が、利益率の改善を見込んでいない。
現金は厚いが、約62億円は前受金で、客に返す責任が残る。残りも、M&Aに使って成果が出なければ、価値を減らす。
どちらに重みを置いたか
結論は、今の値段は割高というものだ。確率を重ねた価値は約167億円で、時価総額260億円を4割ほど下回る。
分かれ目は、現金をどこまで株主の取り分と見るかだ。現金198億円のうち、約80億円を余りとして足した。残りは前受金と運転資金で、自由にならない。
中立の10年後は営業利益39億円、利益率6.6%。ROEは資本コストの8.5%を下回り、事業の価値は純利益の10倍に満たない。市場が縮むなかで、この利益率が上がる理由は見つからなかった。
強気の言い分はシェアの上昇と女性向け、慎重な見方は薬と医療への代替と重い固定費だ。確率は、慎重側にやや寄せた。
見るべき点は三つ。オーダーメイドの制作本数、営業利益率、そして現金の使い方である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 984 円322 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 314 円103 億円)。 今の値に割り戻すと 670 円219 億円、今との差 −14.5%、 期待の年率 +5.2%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 1,758 円575 億円 | 458 円150 億円 | +183.1% | +11.0% | 155 円51 億円 |
| やや楽観 | 18% | 1,391 円455 億円 | 382 円125 億円 | +126.5% | +8.5% | 319 円104 億円 |
| 中立 | 35% | 1,155 円378 億円 | 324 円106 億円 | +88.8% | +6.6% | 517 円169 億円 |
| やや悲観 | 27% | 619 円203 億円 | 281 円92 億円 | +15.0% | +1.4% | 243 円80 億円 |
| 悲観 | 13% | 306 円100 億円 | 183 円60 億円 | −37.5% | −4.6% | 64 円21 億円 |
| 加重平均 | 100% | 984 円322 億円 | 314 円103 億円 | +65.8% | +5.2% | 1,298 円425 億円 |
今の株価時価総額 783 円256 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 育毛と女性向けが当たり、店舗の増加と値上げが重なる 利益 37 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 1,758 円575 億円
女性の薄毛の悩みが表に出やすくなり、女性向けの店とウィッグが伸びる。既製品の店は91店から120店台へ増え、1店の売上も物価を上回って伸びる。オーダーメイドは、製造を海外に移した効果が出て、本数が1割強増える。
価格は物価の1.34倍を上回り、1.4倍に届く。手入れや育毛のサービスを組み合わせた客単価の上がり方だ。
売上は約744億円、営業利益は約66億円で、利益率は9%近い。会社の計画(2030年3月期に売上600億円)を、10年のうちに上回る姿である。純利益は約37億円、ROEは10.9%。配当は純利益の5割を保ち、自己資本は着実に積み上がる。
ただし、薬や医療の競争は消えない。新しい競争相手が参入しても、市場のシェアを守れた場合に限る。
- オーダーメイド(男性向け・女性向け):数量 7.3(年間の制作本数(万本))× 価格 813,400(1本あたりの事業売上(円・名目。手入れの収入を含む))→ 売上 592 億円・営業利益 59 億円。数量1.15倍、価格1.40倍、利益率10.0%
- 女性向け既製ウィッグ:数量 123(店舗数(ジュリア・オージェ))× 価格 0.89(1店あたりの売上(億円・名目))→ 売上 109 億円・営業利益 8 億円。数量1.35倍、価格1.30倍、利益率7.0%
- その他(海外・育毛関連の商品など):数量 2.0(事業の規模(1を基準))× 価格 21(売上(億円・名目))→ 売上 42 億円・営業利益 3 億円。数量2.00倍、価格1.34倍、利益率8.0%
倍率:事業の純利益 36 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)80 億円。全体の PER 13.84 倍、時価総額 575 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の毛髪市場は2016年から縮んでいる。その中で数量が増え、利益率も上がる筋書きは、うまくいった場合の上限に近い。7%とした。
やや楽観 18% 女性向けが伸び、男性向けは横ばいで、利益率は7%台に乗る 利益 29 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 1,391 円455 億円
男性向けのオーダーメイドは、本数が7%増えにとどまるが、手入れの定期契約が価格を支える。女性向けは、既製品の店が110店ほどに増え、1店の売上も着実に上がる。
価格は物価の1.34倍に近い。ただ、低価格の商品や薬との競争があり、物価を大きく超えることはない。
売上は約658億円、営業利益は約50億円で、利益率は7.6%。純利益は約29億円、ROEは8.8%。
中期計画の「ROE9.2%」に届く姿で、配当方針(ROEが10%を超えるまで性向5割以上)が守られる。バングラデシュ工場の稼働で原価も下がる。
- オーダーメイド(男性向け・女性向け):数量 6.8(年間の制作本数(万本))× 価格 784,350(1本あたりの事業売上(円・名目。手入れの収入を含む))→ 売上 531 億円・営業利益 48 億円。数量1.07倍、価格1.35倍、利益率9.0%
- 女性向け既製ウィッグ:数量 109(店舗数(ジュリア・オージェ))× 価格 0.88(1店あたりの売上(億円・名目))→ 売上 96 億円・営業利益 5 億円。数量1.20倍、価格1.28倍、利益率5.5%
- その他(海外・育毛関連の商品など):数量 1.5(事業の規模(1を基準))× 価格 21(売上(億円・名目))→ 売上 31 億円・営業利益 1 億円。数量1.50倍、価格1.30倍、利益率4.0%
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)80 億円。全体の PER 13.11 倍、時価総額 440 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:女性向けが2025年3月期、2026年3月期と伸びている。男性向けの落ち込みが止まり、店の効率も上がる姿は十分ありうる。18%とした。
中立 35% 本数は横ばい、店は緩やかに増え、利益率は6〜7%にとどまる 利益 22 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,155 円378 億円
国内の毛髪市場は縮み続ける。会社はシェアを上げて数量を保ち、オーダーメイドの本数は今と同じ水準にとどまる。価格は物価の1.34倍に届かず、1.3倍にとどまる。手入れの契約と新商品で客単価は上がるが、低価格の商品に押される分がある。
女性向けの既製品は、店が100店ほどに増え、1店の売上は物価並みに上がる。
売上は約584億円、営業利益は約39億円で、利益率は6.6%。今の7.2%と、過去12年の中央値の間である。全社の費用は物価で増える。
純利益は約22億円、ROEは7.1%と資本コストを下回る。配当は純利益の約5割を保つ。減価償却は今の約13億円から店の改装で増える程度で、バングラデシュ工場の投資は一巡する。
- オーダーメイド(男性向け・女性向け):数量 6.3(年間の制作本数(万本))× 価格 755,300(1本あたりの事業売上(円・名目。手入れの収入を含む))→ 売上 478 億円・営業利益 38 億円。数量1.00倍、価格1.30倍、利益率8.0%
- 女性向け既製ウィッグ:数量 100(店舗数(ジュリア・オージェ))× 価格 0.86(1店あたりの売上(億円・名目))→ 売上 86 億円・営業利益 4 億円。数量1.10倍、価格1.25倍、利益率4.5%
- その他(海外・育毛関連の商品など):数量 1.0(事業の規模(1を基準))× 価格 21(売上(億円・名目))→ 売上 21 億円・営業利益 0 億円。数量1.00倍、価格1.30倍、利益率2.0%
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)80 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 346 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去12年の営業利益率は5〜10%の間にあり、中央値は7%前後である。市場は縮むが、会社はシェアを上げてきた。この二つが釣り合う姿を中立とした。35%とした。
やや悲観 27% 薬と医療に客を取られ、本数が1割強減る 利益 13 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 619 円203 億円
薬や医療で薄毛を抑える人が増え、オーダーメイドの本数は12%減る。店は固定費が重く、店舗網を削っても人件費と家賃は残る。価格は物価の1.2倍にとどまる。
女性向けの既製品は、店が減り、1店の売上も物価に届かない。
売上は約474億円で、物価の分しか増えない。営業利益は約20億円、利益率は4.3%に落ちる。2025年3月期の5.0%を下回る。純利益は約13億円、ROEは4.3%。
配当は利益の減りとともに減るが、年間の下限(約9億円)があるため、純利益の6割を超える年も出る。会社の計画(2030年3月期のROE9.2%)は、大きく届かない。
- オーダーメイド(男性向け・女性向け):数量 5.6(年間の制作本数(万本))× 価格 697,200(1本あたりの事業売上(円・名目。手入れの収入を含む))→ 売上 389 億円・営業利益 23 億円。数量0.88倍、価格1.20倍、利益率6.0%
- 女性向け既製ウィッグ:数量 86.5(店舗数(ジュリア・オージェ))× 価格 0.79(1店あたりの売上(億円・名目))→ 売上 68 億円・営業利益 1 億円。数量0.95倍、価格1.15倍、利益率2.0%
- その他(海外・育毛関連の商品など):数量 0.9(事業の規模(1を基準))× 価格 19(売上(億円・名目))→ 売上 17 億円・営業利益 0 億円。数量0.90倍、価格1.20倍、利益率-2.0%
倍率:事業のROEは4.3%で資本コスト8%を大きく下回り、上限は1÷k=約11.8倍。利益が今の7割に細り、成長もないので、上限の72%の8.5倍とした。
確率:AGAクリニックや薬の販売業者は、会社自身がリスクとして挙げている。市場の縮みが今より速くなる姿は十分ありうる。27%とした。
悲観 13% 薬と医療に代替され、本数が3割減って赤字に近づく 利益 1 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 306 円100 億円
薬と医療の選択肢が広がり、オーダーメイドの本数が3割減る。店は283店の網を維持できず、閉店の費用がかさむ。価格は物価に届かず、横ばいに近い。
女性向けの既製品も、通販と低価格の商品に押される。
売上は約333億円と今を下回り、営業利益はほぼゼロ、純利益は金融収入でかろうじてプラスになる程度。固定費が重いため、損益の分かれ目が高い。
配当は年間の下限(約9億円)が負担になり、利益を超えて払う年が続く。ただし現金は厚く、倒れる心配はない。会社は経営資源の集中を迫られ、M&Aに頼る。
店を閉めても賃貸契約の解約や人員の再配置に時間がかかり、費用が先に出る。手入れの契約を持つ既存の客は残るが、新しい客が入らなければ、契約の更新だけでは売上を保てない。
- オーダーメイド(男性向け・女性向け):数量 4.4(年間の制作本数(万本))× 価格 610,050(1本あたりの事業売上(円・名目。手入れの収入を含む))→ 売上 270 億円・営業利益 5 億円。数量0.70倍、価格1.05倍、利益率2.0%
- 女性向け既製ウィッグ:数量 72.8(店舗数(ジュリア・オージェ))× 価格 0.68(1店あたりの売上(億円・名目))→ 売上 50 億円・営業利益 −1 億円。数量0.80倍、価格1.00倍、利益率-2.0%
- その他(海外・育毛関連の商品など):数量 0.8(事業の規模(1を基準))× 価格 16(売上(億円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 −1 億円。数量0.80倍、価格1.00倍、利益率-5.0%
倍率:稼ぐ力がほぼ無い筋書きなので PBR。床は、現金から前受金(客から先に受け取った代金)の返済と閉店の費用を引いた残り(floor_assets_oku)で、今の自己資本の約36%。10年で損失が出ても自己資本は今の水準(280億円)まで減ると見て、それに掛けた。
確率:薄毛の悩みに対し、飲み薬、塗り薬、医療の治療が広がる。ウィッグの客が構造的に減り、固定費の重い店が重荷になる姿として、13%とした。この確率を、資本コストの上乗せでも重ねて数えていない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
オーダーメイド(男性向け・女性向け)
客の頭に合わせて作るウィッグと、その手入れ・植え足し・育毛の施術。国内283店で売る。
| 数量年間の制作本数(万本) | 価格1本あたりの事業売上(円・名目。手入れの収入を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.3 | 581,000 | 368 | 33 |
| 10 年後 中立 | 6.3 | 755,300 | 478 | 38 |
取り方:売上368億円(男性向け233億円、女性向け135億円)と制作本数63,316本は開示。本数あたりの売上は、売上÷本数で出した推定で、手入れや育毛の収入を含む。セグメント利益は開示がなく、全社の営業利益32.2億円を売上で配分した推定。数量は本数、価格は名目(二重がけなし)。
女性向け既製ウィッグ
「ジュリア・オージェ」91店と低価格の「NAO-ART」36店で売る、すぐ使える既製のウィッグ。
| 数量店舗数(ジュリア・オージェ) | 価格1店あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 91.0 | 0.68 | 62 | 3 |
| 10 年後 中立 | 100 | 0.86 | 86 | 4 |
取り方:売上62.3億円(前期比2.5%増)と店舗数91店は開示。1店あたりは売上÷店数の推定で、NAO-ARTの売上も含む。セグメント利益は開示がなく推定。数量は店舗数、価格は名目。
その他(海外・育毛関連の商品など)
海外の販売子会社、商品の販売、そのほかの事業。
| 数量事業の規模(1を基準) | 価格売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 16 | 16 | −1 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 21 | 21 | 0 |
取り方:売上15.8億円は開示。内訳は開示がなく、規模を1として扱う。利益はほぼゼロと推定。
リスクと懸念
市場の縮みと薬・医療への代替
国内の毛髪市場は2016年から縮んでいる。AGAクリニックや薬の販売業者、非毛髪業の参入が脅威として挙げられている。ウィッグを選ぶ客が構造的に減れば、本数が落ちる。
固定費の重さ
店が283店、従業員が連結で3,851人。売上が落ちても人件費と家賃は残る。2025年3月期の営業利益率は5.0%、2021年3月期は5.4%まで落ちた。
先行投資で利益が減る
2027年3月期の営業利益の会社予想は25億円で、前期から22%減る。第1四半期は2.85億円の営業赤字。投資が実を結ぶ保証はない。
為替と海外生産
製造の大半が海外(フィリピン、バングラデシュ)にある。円安は原価を押し上げ、会社も為替リスクを可能性が高いものとして挙げる。供給網の混乱も影響が大きい。
現金の使い方
現金は198億円あるが、使い道がM&Aの準備に偏る。M&Aが失敗すれば、価値が減る。過去に海外事業の売却(カンボジア、2017年)と清算(中国、2024年)がある。
前受金とIT・情報管理
客から先に受け取った前受金(約62億円、第三者の集計)の返還責任がある。顧客情報の漏えいやシステムの停止も、影響が大きいリスクとして挙げられている。
今後の分かれ目
- オーダーメイドの制作本数が2年続けて前年を割った
- 薬と医療への代替が表に出た合図だ。数量の前提を下げ、慎重な筋書きの確率を上げる。
- 営業利益率が2年続けて7%を超えた
- 先行投資が実を結んだ合図だ。中立の利益率の前提を上げる。
- 女性向けの既製品の店舗数が120店を超え、1店の売上も増えた
- 女性向けが成長の柱になった合図だ。強気の筋書きの確率を上げる。
- 現金のうち、余った分を自社株買いや増配で戻す方針が出た
- 現金が株主に戻る合図だ。余った現金の戻り方を1.0に近づけて見直す。
- 国内外で大型のM&Aを発表した
- 現金の使い道が決まった合図だ。買う事業の収益性で、価値の見方を変える。
- 国内の毛髪業市場の縮みが年3%を超えた
- 代替が速まった合図だ。本数の前提を下げる。
見ておくもの
- オーダーメイドの制作本数と、男性向け・女性向けの売上
- 営業利益率(5〜7%台のどこにあるか)
- 女性向け既製品の店舗数と1店あたりの売上
- 前受金と現金の残高
- 配当性向と自社株買い
- 薬・医療の広がりと市場規模の統計
倍率と資本コストの決め方
起点は2026年3月期の実績(売上446億円、営業利益32.2億円)で、時価からは出発していない。2027年3月期の会社予想(営業利益25億円)は先行投資の初年度で、10年の筋書きの出発点としては参考にとどめた。
倍率は式から決めた。資本コストは8%(基本7.5%+quality1.0%)。中立のROEは7.5%前後で資本コストを下回り、上限は1÷k=約11.8倍。中立は上限の8割に置いた。他社や過去の倍率は、判断に使っていない。
制作本数、女性向けの店舗数、セグメントごとの利益は、開示が限られ、売上から置いた推定値である(notes/7823.md)。利益率は、過去の中央値(約7%)前後を中立とし、過去最高の山(2006年3月期の17%)には戻さない。
余った現金80億円は、現金198億円から前受金(約62億円、第三者の集計)と運転資金を引いた推定で、戻り方は0.5とした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.4→13.84 倍・やや楽観 PER 10.1→13.11 倍・中立 PER 9.4→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality1.0%を足した。市場の縮みや代替の速さは、k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。