結論
ピジョンは、哺乳器と乳首で知られるベビー用品の会社だ。日本では哺乳器・乳首の市場の 8 割以上を握り、中国でも 4 割強で首位に立つ。筆者の結論は、事業の質は高いが、今の株価は割高で安全域がないというものだ。
稼ぎの柱は中国だ。2025 年 12 月期の売上は 1,092 億円、営業利益は 132 億円。事業ごとの利益で見ると、中国が 6 割を超える。
気がかりは、その中国の出生数が 2025 年に 792 万人と、1 年で 17% 減ったことだ。会社は高価格品への移行と、北米・欧州での哺乳器の拡大で補う計画を立て、2028 年に営業利益 200 億円を掲げる。ただ、前の中期計画の財務目標は未達に終わっており、新しい計画も割り引いて見る必要がある。
中立の筋書きでは、10 年後の営業利益は 210 億円ほどだ。中国は細るが、欧米と東南アジアが穴を埋める。この姿でも、今の時価総額に見合う利益には届かない。欧米で哺乳器が定番になる楽観の筋書きで、ようやく今の値段を超える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家が最初に問うのは、10 年後もこの事業が今より強いかどうかだ。哺乳器については「はい」と答えられる。赤ちゃんの口に入るものを、親は値段で選ばない。信頼は何十年もかけて築くもので、後発が短期間でまねできない。
だが、事業全体では答えが割れる。利益の 6 割を稼ぐ中国で、出生数が 1 年で 17% 減った。買うお金が増えて補ってきたが、人数の減りは止まらない。欧米の拡大は、成功すれば大きいが、まだ証明の途中だ。
株主のものになる利益は、見た目の純利益に近い。工場を増やさない方針で設備投資は軽く、無借金で純現金が厚いことも安心材料だ。ただ、配当性向が 100% を超える年が続いたことは、利益で事業を育てるより、株主に返す色が濃い運営だったことを示す。
安全域は無い。今の時価総額は、直近の純利益の約 30 倍だ。10 年で純利益が 7 割近く伸びても、この値段に見合う利益には届かない。持ち続けたい会社だが、今の値段では払い過ぎだ。
何で稼ぐ会社か
ピジョンの稼ぎは、地域ごとの 4 つの事業でできている。2025 年 12 月期の売上は、中国が 429 億円、日本が 378 億円、米州・欧州が 219 億円、シンガポールが 149 億円だ。
利益の大黒柱は中国だ。哺乳器・乳首のほか、ベビー用のスキンケアなどを売り、利益率は 25% 近い。事業の利益 105 億円は、4 事業の合計の 6 割を超える。会社は、営業利益に占める中国の比率を、2022 年の 7 割近くから 2028 年に 55% へ下げる目標を置いている。
日本は、哺乳器・乳首の国内シェア 8 割以上が土台だ。ここに自社 EC(前年比 7 割増)と、さく乳器や育児家電が重なる。育児家電は日本事業の売上の 1 割を超えた。一方、子育て支援とヘルスケア・介護は苦戦が続く。利益率は 7% 弱と、4 事業で低い方だ。
シンガポール事業は、東南アジアやインド、中東などを受け持つ。細口から高単価の広口の哺乳器へ切り替え、広口の比率は 6 割を超えた。利益率は 14% まで上がっている。
米州・欧州は、買収したランシノが担う。さく乳器や授乳用品が中心で、哺乳器・乳首の売上は 3 年で約 4 倍になった。会社はここを「次の中国」と呼び、2026 年から先行投資を厚くする。2025 年は米国の関税で減益だった。
事業ごとの利益は、本社費や内部取引の消去の前の数字で、合計は連結の営業利益より 36 億円ほど大きい。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、哺乳器への信頼にある。赤ちゃんが人生で最初に口にする人工物であり、親は値段より安全で選ぶ。日本のシェアは 8 割を超え、中国でも 4 割強で首位を保つ。2026 年 9 月には、日本で哺乳瓶など 243 品目を最大 36% 値上げすると発表した。これだけ上げられるのは、値決めの力がある証拠だ。
資本効率は、かつて高かった。ROE は 2019 年 1 月期の 22% から、直近は 10% 台まで下がった。筆者は、原因が中国での販促投資と、2023 年の処理水をめぐる風評被害にあり、哺乳器の稼ぐ力そのものが落ちたのではないと見る。無借金で、自己資本比率は 75%、純現金は約 400 億円ある。
弱みは 3 つある。1 つ目は中国への依存だ。2 つ目は、出生数の減少が数量の天井になること。3 つ目は資本の使い方で、配当性向が長く 100% を超え、在庫の管理にも会社自身が反省を述べている。
2025 年に就任した矢野亮社長は、元中国事業本部長だ。本社の機能を CxO 制に改め、営業利益率 16% を掲げた。成果が出るのはこれからだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ベビー用品の需要は、人の数と、1 人にかけるお金で決まる。人の数は減っている。日本の 2025 年の出生数は 67 万人で、10 年連続の過去最少だった。中国は 792 万人と前年より 17% 減り、統計を取り始めて以来の最少になった。
それでも金額が伸びるのは、1 人の子にかけるお金が増えるからだ。ピジョンの中国の売上は、出生数が減る中で 10% 伸びた。高価格の哺乳器、スキンケア、ドリンキングカップなど、買うものが増えたためだ。ただ、1 年で 17% 減る世界では、この力にも限りがある。筆者は、中国の数量が 10 年で 15% ほど減ると見る。
伸びしろは海外にある。世界では年に約 1 億 3,000 万人の赤ちゃんが生まれ、ピジョンの哺乳器を使う人はまだ少ない。米国で試験的に売り込んだところ、ピジョンブランドの哺乳器は前年の 2 倍を超えた。欧州でもランシノの哺乳器・乳首が 4 割以上伸びた。ただ、米国の関税とコストの先行が重い。
競争は、地域で顔ぶれが違う。中国では地元ブランドが増え、外資は撤退や縮小を迫られている。ピジョンは価格では争わず、品質と現地向けの商品で勝負する。欧米は、フィリップスやドクターブラウンなどの先行ブランドが強く、ピジョンは後発として棚を取りに行く立場だ。
物価は、原材料や物流費の上昇として、すでに価格に表れている。値上げを親が受け入れ続けるかどうかが、日本の利益を左右する。
資本政策と M&A
資本の使い方は、守りから攻めへ変わる途中にある。長く無借金で、純現金は約 400 億円ある。配当は継続を基本とし、配当性向は長く 100% を超えてきたが、2026 年 12 月期から 100% を切る計画だ。自社株買いは、大きくは打ち出していない。
会社は、この財務の余力を使わないのは「もったいない」とし、M&A も視野に入れた。買う相手は、欧米で哺乳器・乳首を伸ばす足がかりになる会社だろう。これまでの大きな買収は、米国のランシノだ。
株主では、2025 年 5 月に、元カーライルの大塚氏が率いる Japan Activation Capital と提携した。同社は約 3.6% を持つ少数株主で、経営の助言役だ。会社は報酬制度の見直しなど、株価と利益率を意識した改革を進めている。大株主の上位は信託銀行の口座で、支配株主はいない。買収の標的になる余地はあるが、そうした動きは見えない。
筆者がいちばん気にするのは、約 400 億円の純現金の行き先だ。買収で使うのか、株主に返すのか。10 年後の ROE がそれで決まる。
10 年の還元は、配当性向を 100% 未満に下げる計画どおり、純利益の合計の 87% ほど。余った現金 250 億円には手を付けない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ピジョンは、ベビー用品で世界に通じる数少ない日本の会社だ。哺乳器は赤ちゃんの最初のひと口で、親は信頼で選ぶ。日本のシェアは 8 割超、中国でも 4 割強。2026 年には 243 品目を最大 36% 値上げしたが、それができる会社は多くない。
成長の主役は、これから海外に移る。北米でピジョンブランドの哺乳器が前年の 2 倍を超え、ランシノの哺乳器・乳首は北米・欧州で 3 年に約 4 倍になった。世界の赤ちゃんは年に 1 億 3,000 万人で、ピジョンの哺乳器を使う人はまだ少ない。欧米で本気になれば、中国に次ぐ柱が生まれる。
利益率にも伸びしろがある。哺乳器は利益率の高い商品で、比率が上がるほど全体の利益率も上がる。CxO 制で重複を削り、工場も増やさない。会社は 2028 年に営業利益 200 億円、利益率 16% を掲げる。
財務は無借金で、純現金は約 400 億円ある。M&A で欧米の棚を一気に取りに行くこともできる。外部の株主として助言役の Japan Activation Capital も入り、株価と利益率への規律が強まった。この路線が当たれば、10 年後の利益は今の 3 倍に届く。
慎重な見方
ピジョンは、縮む市場の王様だ。利益の 6 割を占める中国で、出生数が 2025 年に 17% 減った。日本も 10 年連続で最少を更新している。高価格品への移行は、この減少を数年は補えても、10 年は補えない。中国では地元ブランドが増え、外資の撤退も相次ぐ。ピジョンが価格で争わない以上、シェアは守りにくい。
欧米は、成功が証明されていない。先行するブランドと棚を争うには、広告も販促も要る。2026 年 12 月期は販管費が 7% 増える計画で、利益は先に削られる。2025 年には米国の関税で、ランシノがすでに減益になった。
会社の目標も割り引くべきだ。前の中計の財務目標は未達に終わった。今回は営業利益 200 億円で、3 年で 5 割増という前提になる。在庫の管理に失敗したと会社自身が認め、中国では新商品への投資が過剰だった。
株価もすでに高い。純利益の約 30 倍は、成長が 10 年続くと約束した値段だ。純現金は魅力だが、買収で使えば価値を壊すこともある。ピジョンは 100% を超える配当を続けてきた会社で、利益を伸ばす力より、返す力に頼ってきた。
どちらに重みを置いたか
勝つのは慎重な見方だ。哺乳器への信頼と、値上げができる力は本物で、強気の見方が語る事実は否定しない。だが今の値段は、中国の出生数の減りを欧米が埋め切り、利益率が 16% まで上がる姿に近い。出生数が 1 年で 17% 減る中国が利益の 6 割を占める以上、その賭けは重い。
確率は、中立に 4 割を置き、やや悲観と悲観に合わせて 3 割強を置いた。欧米の哺乳器の伸びは実績が出始めているため、楽観とやや楽観にも合わせて 3 割弱を残した。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 2,434 円2,915 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 799 円956 億円)。 今の値に割り戻すと 1,843 円2,207 億円、今との差 −10.9%、 期待の年率 +4.6%(資本コスト 6.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,170 円6,191 億円 | 1,211 円1,450 億円 | +208.6% | +11.9% | 510 円611 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,717 円4,452 億円 | 1,002 円1,200 億円 | +128.3% | +8.6% | 944 円1,130 億円 |
| 中立 | 40% | 2,712 円3,248 億円 | 835 円1,000 億円 | +71.6% | +5.5% | 1,419 円1,699 億円 |
| やや悲観 | 22% | 702 円841 億円 | 601 円720 億円 | −37.0% | −4.5% | 287 円343 億円 |
| 悲観 | 10% | 381 円456 億円 | 351 円420 億円 | −64.6% | −9.9% | 73 円88 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,434 円2,915 億円 | 799 円956 億円 | +56.4% | +4.6% | 3,233 円3,872 億円 |
今の株価時価総額 2,068 円2,476 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 欧米で哺乳器が定番になり、中国も踏みとどまる 利益 256 億円 · PER 23.5 倍 · 株価時価総額 5,170 円6,191 億円
北米と欧州で、ピジョンとランシノの哺乳器・乳首が定番の座を取る 10 年になる。米州・欧州の売上は 940 億円に達し、哺乳器の比率が上がるにつれて事業の利益率は 16% になる。
中国は、出生数が減り続けても、高価格品への移行とスキンケアの広がりで数量を守る。シェアは 20% を超え、売上は 610 億円。日本は値上げが定着し、育児家電と自社 EC が育つ。インドと中東では、広口の哺乳器が根づく。
営業利益は 370 億円で、会社が掲げる利益率 16% に近づく。関税や販促の負担は、規模の効果で吸収される。欧米で棚を取るための M&A も成功する。現在の約 3 倍の利益だ。ピジョンが世界の哺乳器の標準になる、いちばん良い姿である。
- 日本:数量 425(国内の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 140.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 595 億円・営業利益 71 億円。国内の対象市場 3,400 億円 × シェア 12.5%、値段は 1.40 倍(値上げの定着と高付加価値化)、利益率 12%
- 中国:数量 472(中国の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 130.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 613 億円・営業利益 153 億円。対象市場 2,300 億円 × シェア 20.5%、値段は 1.30 倍(中国の物価は低く、高付加価値化の分だけ)、利益率 25%
- シンガポール(アジア・中東など):数量 265(アジア(中国・日本を除く)・中東などの対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 138.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 366 億円・営業利益 66 億円。対象市場 3,400 億円 × シェア 7.8%、広口の哺乳器が定着、利益率 18%
- 米州・欧州(ランシノ):数量 683(北米・欧州の対象市場(億円・今の値段の実質)× 売上のシェア)× 価格 138.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 942 億円・営業利益 151 億円。対象市場 1 兆 500 億円 × シェア 6.5%、哺乳器・乳首が定番になる、利益率 16%
倍率:事業の純利益 252 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 30.1% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 18.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 23.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 23.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 23.53 倍、時価総額 6,191 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:欧米の哺乳器は実績が出始めたが、中国の出生数減を埋め切ったうえで利益率が 16% まで上がる道は細い。8% にとどめた。
やや楽観 20% 欧米が育ち、中国の減りを埋める 利益 189 億円 · PER 22.7 倍 · 株価時価総額 3,717 円4,452 億円
欧米が育ち、中国の減りを埋める。米州・欧州の売上は 680 億円まで伸び、北米で哺乳器の取扱店が広がる。利益率は 14% で、会社の目標には届かない。
中国は出生数の減少に押されるが、スキンケアとドリンキングカップで数量を支える。シェアは 19.8% に上がり、売上は 560 億円。日本は値上げが通り、育児家電の売上が育つ。シンガポール事業は広口の比率が 7 割を超え、利益率が 17% になる。
営業利益は 278 億円、現在の 2 倍ほど。会社の中期計画に近い歩みが、10 年かけて続く姿だ。哺乳器の信頼という堀が、地域を広げながら保たれる。
- 日本:数量 402(国内の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 134.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 539 億円・営業利益 59 億円。国内の対象市場 3,350 億円 × シェア 12.0%、値段は物価並みの 1.34 倍、利益率 11%
- 中国:数量 436(中国の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 128.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 558 億円・営業利益 134 億円。対象市場 2,200 億円 × シェア 19.8%、値段は 1.28 倍、利益率 24%
- シンガポール(アジア・中東など):数量 227(アジア(中国・日本を除く)・中東などの対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 134.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 304 億円・営業利益 52 億円。対象市場 3,200 億円 × シェア 7.1%、利益率 17%
- 米州・欧州(ランシノ):数量 510(北米・欧州の対象市場(億円・今の値段の実質)× 売上のシェア)× 価格 134.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 683 億円・営業利益 96 億円。対象市場 9,800 億円 × シェア 5.2%、利益率 14%
倍率:事業の純利益 186 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 24.6% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 22.65 倍、時価総額 4,452 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米・欧州の哺乳器の伸びと、値上げができる力は実績がある。会社の計画に近い姿で、強気の見方の中心。
中立 40% 中国が細り、欧米がその穴を埋める 利益 143 億円 · PER 21.4 倍 · 株価時価総額 2,712 円3,248 億円
中国が細り、欧米がその穴を埋める。中国の出生数は 2025 年の 792 万人から減り続け、実質の対象市場は 10 年で 15% 縮む。それでもシェアを 19% まで上げ、売上は 510 億円と今より 2 割ほど増える。値段が物価ほど上がらないのが、中国の特徴になる。
米州・欧州は、哺乳器・乳首の拡大が続く。ただし先行ブランドとの競争があり、利益率は 12% にとどまる。売上は 490 億円と、今の 2 倍以上になる。日本は出生数の減りを、高価格品と育児家電、自社 EC が補い、売上は 510 億円。シンガポール事業は広口への切り替えが進み、売上は 260 億円。
営業利益は 214 億円、利益率は 12〜13%。事業の利益に占める中国の比率は 4 割台まで下がる。会社が目指す 16% には届かないが、質の高い事業が堅実に伸びる姿だ。
- 日本:数量 380(国内の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 134.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 509 億円・営業利益 51 億円。国内の対象市場 3,300 億円(実質で 6% 減)× シェア 11.5%、値段は物価並みの 1.34 倍、利益率 10%
- 中国:数量 408(中国の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 125.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 510 億円・営業利益 117 億円。対象市場 2,125 億円(実質で 15% 減)× シェア 19.2%、値段は 1.25 倍(中国の物価は低い)、利益率 23%
- シンガポール(アジア・中東など):数量 195(アジア(中国・日本を除く)・中東などの対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 134.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 262 億円・営業利益 42 億円。対象市場 3,050 億円(実質で 22% 増)× シェア 6.4%、値段は 1.34 倍、利益率 16%
- 米州・欧州(ランシノ):数量 368(北米・欧州の対象市場(億円・今の値段の実質)× 売上のシェア)× 価格 134.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 493 億円・営業利益 59 億円。対象市場 9,200 億円(実質で 14% 増)× シェア 4.0%、値段は 1.34 倍、利益率 12%
倍率:事業の純利益 140 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.3% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 21.43 倍、時価総額 3,248 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気と慎重の見方の落としどころ。中国は細るが、欧米と東南アジアが補い、利益は緩やかに伸びる。
やや悲観 22% 中国の縮小が深く、欧米の伸びが遅れる 利益 62 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 702 円841 億円
中国の縮小が深く、欧米の伸びが遅れる。中国の出生数の減少が続き、対象市場は実質で 3 割縮む。地元ブランドが価格を下げて迫り、ピジョンは価格では争わず、シェアを 17% で保つのがやっとだ。売上は 340 億円まで減り、利益率は 17% に落ちる。
欧米は、関税と先行ブランドの壁で、思ったほど棚が取れない。販促の負担だけが残り、利益率は 8% にとどまる。日本は値上げが十分に定着せず、売上は 440 億円、利益率は 7%。シンガポール事業も、インドネシアの不振が尾を引く。
営業利益は 100 億円で、今より 2 割強減る。優良さは落ちるが、無借金と純現金の厚さで、会社としては安定を保つ。配当は維持しにくくなり、増配の約束は果たせない。
- 日本:数量 341(国内の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 130.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 443 億円・営業利益 31 億円。国内の対象市場 3,100 億円 × シェア 11.0%、値段は 1.30 倍(値上げが定着しきらない)、利益率 7%
- 中国:数量 298(中国の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 115.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 342 億円・営業利益 58 億円。対象市場 1,750 億円(実質で 3 割減)× シェア 17.0%、値段は 1.15 倍、利益率 17%
- シンガポール(アジア・中東など):数量 162(アジア(中国・日本を除く)・中東などの対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 130.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 211 億円・営業利益 27 億円。対象市場 2,800 億円 × シェア 5.8%、値段は 1.30 倍、利益率 13%
- 米州・欧州(ランシノ):数量 273(北米・欧州の対象市場(億円・今の値段の実質)× 売上のシェア)× 価格 130.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 355 億円・営業利益 28 億円。対象市場 8,800 億円 × シェア 3.1%、値段は 1.30 倍、利益率 8%
倍率:ROE 9.0%(事業の純利益÷自己資本。余った現金を除く)。k 6.75%(基本 7.5%+quality −0.5%)。RONIC=k+残る割合 1/2×(ROE−k)=8.0%、g 3.5% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=16.1 倍。優良さが落ちた筋書きなので、上限の 6.9 割(11.0 倍)に置いた。余った現金は今の額の 0.75 倍(谷で食う)を足した。
確率:中国の出生数が 1 年で 17% 減った事実と、地元ブランドの増加が根拠。欧米の拡大が遅れる姿は十分ありうる。
悲観 10% 中国で押され、欧米の拡大も実らない 利益 8 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 381 円456 億円
中国で押され、欧米の拡大も実らない。中国の出生数は 2025 年の 792 万人から 4 割ほど減り、地元ブランドの低価格品が棚を取る。シェアは 13% まで下がり、値段も物価に追いつかず、利益率は 8% に沈む。売上は 190 億円と今の 4 割強まで縮む。
欧米では先行投資が回収できず、ランシノを含む買収の減損も出る。販促と物流費だけが膨らみ、利益はゼロに近い。日本は少子化と値上げの反動で、売上が 330 億円に減る。シンガポール事業も利益率が 8% に落ちる。
この筋書きでは、稼ぐ力が消え、価値は純現金と売れる資産で測る。配当は最初の数年、手元の現金と資産の売却で払ったあと、大きく削られる。構造的に負けて、もう優良ではなくなった会社の姿である。
- 日本:数量 266(国内の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 125.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 333 億円・営業利益 13 億円。国内の対象市場 2,800 億円 × シェア 9.5%、値段は 1.25 倍、利益率 4%
- 中国:数量 182(中国の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 105.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 191 億円・営業利益 15 億円。対象市場 1,400 億円(実質で 4 割以上減)× シェア 13.0%、値段は 1.05 倍、利益率 8%
- シンガポール(アジア・中東など):数量 125(アジア(中国・日本を除く)・中東などの対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア)× 価格 125.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 156 億円・営業利益 13 億円。対象市場 2,500 億円 × シェア 5.0%、値段は 1.25 倍、利益率 8%
- 米州・欧州(ランシノ):数量 179(北米・欧州の対象市場(億円・今の値段の実質)× 売上のシェア)× 価格 120.0%(値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 215 億円・営業利益 0 億円。対象市場 7,800 億円 × シェア 2.3%、値段は 1.20 倍、先行投資が回収できず利益率 0%
倍率:この筋書きは稼ぐ力が消えて、純利益は 8 億円ほど。床は稼ぐ力ではなく、純現金と売れる資産の税後。今の自己資本 829 億円に 0.55 倍を掛けた(約 450 億円)。
確率:構造的に負ける筋書き。中国の利益が崩れ、欧米の投資も回収できない。無借金で純現金が厚いので 1 割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本
日本国内のベビー用品(哺乳器・乳首、スキンケア、さく乳器、育児家電)と、子育て支援、ヘルスケア・介護用品。自社 EC を含む。
| 数量国内の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア | 価格値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 378 | 100.0% | 378 | 26 |
| 10 年後 中立 | 380 | 134.0% | 509 | 51 |
取り方:会社開示のセグメント売上 378 億円(内部売上を含む)と、本社費の前のセグメント利益 26 億円。数量は、哺乳器・乳首、スキンケア、さく乳器、育児家電、介護用品を合わせた国内の対象市場を約 3,500 億円と推定し、シェア約 11% とした(公的な集計は確認できず、推定)。
中国
中国本土の哺乳器・乳首、ベビー用スキンケア、ドリンキングカップなど。利益の柱。
| 数量中国の対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア | 価格値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 429 | 100.0% | 429 | 105 |
| 10 年後 中立 | 408 | 125.0% | 510 | 117 |
取り方:会社開示のセグメント売上 429 億円(内部売上を含む)と、本社費の前のセグメント利益 105 億円(利益率約 24.5%)。数量は、哺乳器・乳首(シェア 4 割強)にスキンケアなどを足した対象市場を約 2,500 億円と推定し、シェア約 17% とした(市場の大きさは推定)。
シンガポール(アジア・中東など)
東南アジア、インド、中東などへ哺乳器・乳首を中心に売る。細口から高単価の広口への切り替えが進む。
| 数量アジア(中国・日本を除く)・中東などの対象市場(億円・今の値段の実質)× ピジョンのシェア | 価格値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 149 | 100.0% | 149 | 21 |
| 10 年後 中立 | 195 | 134.0% | 262 | 42 |
取り方:会社開示のセグメント売上 149 億円と、本社費の前のセグメント利益 21 億円(利益率約 14%)。数量は、哺乳器・乳首を中心にした対象地域の市場を約 2,500 億円と推定し、シェア約 6% とした(推定)。
米州・欧州(ランシノ)
米国のランシノを軸に、さく乳器・授乳用品と、哺乳器・乳首を北米・欧州で売る。2026 年から事業名が「ランシノ」から「米州・欧州」に変わった。
| 数量北米・欧州の対象市場(億円・今の値段の実質)× 売上のシェア | 価格値段の指数(2025/12 期=1.00。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 219 | 100.0% | 219 | 15 |
| 10 年後 中立 | 368 | 134.0% | 493 | 59 |
取り方:会社開示のセグメント売上 219 億円と、本社費の前のセグメント利益 15 億円(利益率約 7%。米国の関税で前年比 12% 減益)。数量は、さく乳器・授乳用品・哺乳器・乳首を合わせた北米・欧州の対象市場を約 8,100 億円と推定し、シェア約 2.7% とした(推定)。 先の数量は対象市場を実質(物価を除く)で置き、シェアの上昇(先行ブランドとの競争の中での哺乳器・乳首の拡大)を掛けたもので、名目の市場の伸びではない。
リスクと懸念
中国の出生数の減少と依存
利益の 6 割超を中国が稼ぐ。2025 年の出生数は 792 万人で、前年より 17% 減った。高価格品への移行で補ってきたが、減少が続けば数量の天井が下がる。会社は中国の比率を 2028 年に 55% へ下げる目標を置くが、道のりは長い。
中国の地元ブランドと日中関係
中国では地元の低価格ブランドが増え、外資の撤退や縮小が相次ぐ。ピジョンは価格で争わない方針だが、棚を失えばシェアが落ちる。2023 年には処理水をめぐる風評被害で売上が急に落ちた。日中関係の悪化は、会社自身も懸念として認めている。
欧米への拡大が実らない
米州・欧州を「次の中国」と位置づけ、2026 年から先行投資を厚くする。販管費は 7% 増える計画だ。先行ブランドとの競争があり、米国の関税もかかる。投資を回収できなければ、利益は先に削られ、減損も出る。
資本の使い方と在庫
配当性向は長く 100% を超えてきた。2026 年から 100% を切る計画だが、純現金約 400 億円を M&A に使う方針も出た。買収で価値を壊す恐れがある。在庫の管理にも、会社自身が反省を述べている。
日本の苦戦事業と値上げの反動
日本は、子育て支援とヘルスケア・介護が苦戦している。2026 年 9 月に哺乳瓶など 243 品目を最大 36% 値上げすると決めたが、受け入れが続くかは分からない。出生数は 67 万人と、10 年連続で最少を更新している。
経営の移行期
矢野亮社長は就任から 1 年ほどで、本社を CxO 制に変える途中だ。目標の営業利益率 16% は、2025 年の 12% から大きく上げる計画で、前の中計の財務目標は未達に終わった。新しい体制が、利益率を実際に上げられるかが問われる。
今後の分かれ目
- 米国・欧州の哺乳器・乳首の売上が、年 3 割以上の伸びを 3 年続けたら
- 米州・欧州の利益率と合わせて見る。売上と利益がともに伸びるなら、楽観とやや楽観の確率を上げる。売上だけ伸びて利益率が下がるなら、評価は変えない。
- 中国の売上が前年を割り、哺乳器・乳首のシェアが 4 割を下回ったら
- 地元ブランドに押され始めたサインだ。やや悲観の確率を上げ、中国の利益率の前提を下げる。
- 営業利益率が 14% を超え、その状態が続いたら
- 会社の 16% の目標に道が見える。中立の利益率の前提を上げる余地が出る。
- 純現金を使った大型の買収を発表したら
- 買う相手と値段を見て判断する。欧米の哺乳器の足がかりになる会社なら前向きに、関連の薄い会社や高い値段なら、悲観側の確率を上げる。
- 日本で哺乳瓶などの値上げのあと、販売数量が前年を大きく割ったら
- 値決めの力が思ったより弱いサインだ。日本の利益率の前提を下げる。
- 配当性向が 100% を超える状態に戻ったら
- 利益を事業に回す力が弱まっている。中立の ROE と倍率の前提に下振れの余地が出る。
見ておくもの
- 中国の売上と利益率、哺乳器・乳首のシェア(4 割強が保たれるか)
- 米州・欧州の売上の伸びと、営業利益率の改善
- 全社の営業利益率(2026 年は計画 12%台、目標は 2028 年に 16%)
- 日本の哺乳瓶などの値上げ後の販売数量、育児家電の売上
- 純現金の使い道(M&A・配当・自社株買い)
倍率と資本コストの決め方
4 つの事業を、対象市場(実質)× シェアと、値段の指数(物価 3% で 10 年 1.34 倍。中国だけは物価が低いので中立で 1.25 倍)に分けて積んだ。今の株価は見ていない。k は基本 7.5% に quality −0.5% を足した 7.0%、g は k−3.5% の 3.5%、残る割合は普通の 1/2 とし、中立の PER は正当化 PER の約 7.6 割に置いた。余った現金 250 億円は、事業の利益と分けて足した。結果は、中立でも今の時価総額の 7 割台で、確率で重みづけした価値は今の約 7 割(やや割高。割高に近い)。数量を市場 × シェアで置いたため、価格 1 の注意が出る。新リース会計は 2028 年 12 月期から BS に載るが、工場と倉庫が中心でリースは小さく、今と同じ形でそろえた。セグメントの売上は内部売上を含み、連結では約 84 億円が消去される。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 19.5→23.53 倍・やや楽観 PER 17.5→22.65 倍・中立 PER 16→21.43 倍)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。