結論
リンテックは、粘着剤を塗った紙やフィルムをつくる素材メーカーだ。稼ぎの 9 割近くは、半導体の製造工程で使う粘着テープなど電子・光学の事業が生む。筆者の結論は、10 年の価値は今の時価総額をやや下回る、である。利益が一本の足に偏り、ほかの事業が稼ぎを薄めているからだ。
2026 年 3 月期の売上は 3,194 億円、営業利益は 252 億円。売上の 6 割近い印刷材・産業工材は、利益が 20 億円しかない。米国のラベル子会社マックタックの不振が重い。電子・光学は売上が 3 割なのに利益が 221 億円あり、利益率は 22% に達する。
2026 年 8 月、筆頭株主だった日本製紙が持ち株を売り、会社は 300 億円の自社株買いで応じた。重い売り圧力は片づいた。自己株は発行済み株式の 17% に上る。
先を決めるのは電子・光学の伸びだ。AI 向け半導体の需要は強く、会社は EUV 露光用のペリクルという新しい製品も立ち上げている。順調なら 10 年で利益は 1.5 倍になる。ただ、半導体は波が大きく、競合も手ごわい。印刷材・産業工材が稼げない状態が続けば、全体の利益率は上がりきらない。
中立の筋書きでは、10 年後の営業利益は 465 億円、ROE は 9% だ。資本コストを上回る良い会社だが、その先の伸びまで買うほどの値段ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社は「良い事業 1 つと、そうでない事業 2 つの寄せ集め」だ。
良い事業は電子・光学だ。利益率が 22% あり、顧客に替えにくい理由もある。10 年後も存在し、今より大きいと考えてよい。一方、印刷材・産業工材は、10 年たっても資本コストを稼げるか怪しい。堀がなく、世界大手と値段で争う。ここに資本を回し続けることには賛成しにくい。
経営の資本配分は、直近で改善した。300 億円の自社株買いは、売り手が出てきた時に自社の株を買い入れた手として筋が通る。配当も安定している。ただ、マックタックの買収は長く損失を出した。オーナーとして持ち続けたいかを問われれば、答えは電子・光学の持続力にかかる。
安全域はそれなりに厚い。純現金があり、借金は小さい。しかし、利益の 9 割が一つの部門に偏る事業は、見通しの確信が持てない。半導体の波と競合の動きで、稼ぎは大きく変わる。
中立の本質価値は、今の時価総額を 1 割台半ば下回る。値段に十分な余裕があるとは言えない。
何で稼ぐ会社か
稼ぐ場所は 3 つに分かれる。売上は 26/03 期で、印刷材・産業工材が 1,826 億円、電子・光学が 1,007 億円、洋紙・加工材が 360 億円だ。
印刷材・産業工材は、ラベルやシールに使う粘着紙・粘着フィルムと、車や建物の窓に貼るウインドーフィルムが中心だ。米国のマックタック(ラベル・グラフィック用の粘着材料)とマディコ(防犯用などの窓フィルム)がここに入る。売上は大きいが、利益率は 1% 台に沈んだ。マックタックは製造工程の歩留まり悪化で、25 年度に 39 億円の営業赤字を出した。
電子・光学がこの会社の稼ぎ頭だ。半導体のウエハーを削る・切る工程で使うテープ、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の製造に使うテープ、そのテープを貼る装置を持つ。有機 EL スマホや車載ディスプレイ向けの光学用粘着材もある。AI 向けの需要が追い風で、利益率は 22% だ。
洋紙・加工材は、耐油紙や剥離紙の原紙、合成皮革の工程紙をつくる。稼ぎは小さい。熊谷工場の抄紙機を 1 台止めるなど、縮小と整理が進む。
海外売上は 63% で、米国が 869 億円と最大だ。国内は 37% にとどまる。粘着という一つの技術を、ラベルから半導体まで広げてきた会社である。
優良さと弱いところ
優良なのは電子・光学だけだ。ほかは平凡か、傷んでいる。
半導体向けテープには堀、つまり他社がまねしにくい強みがある。顧客の製造ラインで品質認定を受けると、簡単には替えられない。粘着剤の配合と塗工の技術も蓄積が要る。ただ競合は日東電工・古河電工など強い会社で、堀は広くない。
印刷材・産業工材には堀がほとんどない。ラベル材料は世界大手との値下げ競争になり、利益率は過去 10 年で 3% 台から 1% 台へ落ちた。赤字の年も 2 回あった。筆者がいちばん気にしているのは、この部門が資本コストを稼げていないことだ。
財務は堅い。自己資本比率は 75% で、純現金を持つ。営業利益は支払利息の 78 倍ある。ただ ROE は過去 10 年の中央値で 6% にとどまる。稼ぐ力に比べて資本を厚く抱えてきた。
経営は還元に動き始めた。配当性向 40% 以上を掲げ、日本製紙の売り出しに合わせて 300 億円を自社株買いに使った。マックタックの立て直しと、ペリクルの量産が、これからの実力試しになる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
会社の稼ぎに効く市場は 3 つある。
半導体向け粘着テープは、成長市場だ。ダイシングテープ(ウエハーを切る時に固定するテープ)の世界市場は、約 10 億ドルから 2030 年に 20 億ドルへ広がるという調査がある。競合は日東電工・古河電工・デンカ・住友ベークライトなどだ。HBM という AI 向けの積層メモリーは、ウエハーを極薄に削るため、高機能のテープの出番が増える。MLCC 用のテープは、AI サーバーと車載で需要が伸びる。筆者は、電子・光学向けの市場全体を約 1 兆円と推計する。リンテックのシェアは約 1 割だ。
ラベル・グラフィック用の粘着材料は、成熟した市場だ。世界で 9 兆円規模と置く(推計)。伸びは年 1〜2% の実質成長にとどまり、アベリー・デニソンなどの世界大手が価格を握る。リンテックのシェアは 2% だ。ここでは規模より、工場の歩留まりと値上げの通し方が利益を分ける。
洋紙・加工材の市場は、国内の紙需要とともに細る。工程紙は海外の合成皮革向けに需要がある。
半導体は波が大きい。装置・材料の売上が谷で 2〜4 割落ちる年がある。EUV ペリクルは三井化学も量産を急ぐ。量産の時期は 25 年度内から 26 年内へ後ろにずれたと読める。立ち上がれば新しい柱になるが、利益に効くのは 10 年のうちの後半だろう。
資本政策と M&A
資本政策は、この 2 か月で大きく変わった。
筆頭株主だった日本製紙は、資本効率の見直しで持ち株を手放すと申し出た。2026 年 8 月、会社は 300 億円の自社株買いと、日本製紙の売り出しを同時に決めた。日本製紙の議決権割合は 3% まで下がり、持分法の関連会社から外れた。自己株は発行済みの 17% になった。株主の顔ぶれが変わり、TOB(株式公開買い付け)の目も出てくる。kabufu の推定では、10 年以内の買収・TOB の確率は 15% だ。
還元は配当性向 40% 以上か純資産配当率 3% を目安とし、原則として減配しない。27/03 期は増配の予定だ。自社株買いは今回のように機動的に行う。
M&A は米国のマックタックとマディコが負担になっている。のれんの償却は 2026 年 11 月に終わり、損益は軽くなる。ただ、統合の失敗は繰り返せない。
投資は重い。3 年で設備投資 492 億円、研究開発 322 億円を計画する。電子・光学への投資が稼ぎにつながるかが、資本の使い方の評価を決める。
2026年8月の自己株式取得(ToSTNeT-3で約300億円)は実行済みで、株数に反映した。この分は10年の還元に入れていない。純現金は約200億円に減る。
点検済み:中立の営業利益率9.6%は会社の27・28年3月期予想(8.6〜10.0%)の範囲内で、電子・光学20%は今(22%)以下。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI 向けの半導体は、10 年にわたって数量が伸び続ける。HBM は積層が 12 段、16 段と増え、ウエハーをより薄く削る必要がある。高機能のダイシングテープやバックグラインドテープ(ウエハーを削る時に守るテープ)は、リンテックのような技術のある会社の独壇場になる。MLCC 用のテープも、AI サーバーと電動車で枚数が増える。
EUV ペリクルが立ち上がれば、もう一つの大きな柱になる。露光装置の台数と、より強い光源の世代交代が追い風だ。CNT(カーボンナノチューブ)を使う技術で先行できれば、価格を高く保てる。
電子・光学の市場は 10 年で 1.9 倍、シェアは 1 割から 11% へ上がる。利益率は 23% を保ち、セグメントの利益は 600 億円を超える。
マックタックは歩留まりが戻り、2026 年 11 月にのれんの償却も終わる。値上げが定着すれば、印刷材・産業工材の利益率は 5% 台に戻る。会社が掲げる全体の営業利益率 12% が、現実の数字になる。
日本製紙の売却で需給の重しは消えた。自社株買いが続き、資本効率が上がって、ROE は 15% 近くになる。
慎重な見方
利益の 9 割が電子・光学に偏る。ここが崩れれば全体が崩れる。半導体は波が大きく、設備と材料は谷で 2〜4 割落ちる。AI 向けの需要は、設備投資の過熱の裏返しでもある。
競合は手ごわい。日東電工・古河電工が価格で攻め、中国や韓国の新興メーカーも半導体の国産化で入ってくる。ダイシングテープの価格は、数量が増えても下がりやすい。
ペリクルは三井化学も急ぎ、量産はすでに後ろにずれた。技術が成熟する前に価格競争が始まれば、50 億円規模の初期投資は回収できない。
本丸の印刷材・産業工材は、長く資本コストを稼げていない。マックタックは 39 億円の営業赤字を出した。のれんの償却が終わっても、歩留まりが戻る保証はない。中東情勢で原燃料が上がる中、値上げが通らなければ赤字が続く。マディコの防犯フィルムも米国で需要が弱い。
洋紙・加工材は縮む一方だ。抄紙機の停止は、固定費の重さを示している。
300 億円の自社株買いで手元の現金は減った。半導体の谷とマックタックの赤字が重なれば、減配は避けられない。ROE は資本コストに届かず、倍率は式の上限にも届かない。
どちらに重みを置いたか
電子・光学の強さは本物だ。ただ、その強さは利益の 9 割に偏り、ほかの事業が足を引っ張る構図が 10 年変わらないことのほうが、筆者には確度が高く思える。中立は、電子・光学が 1.4 倍の市場で 1 割のシェアを守り、印刷材・産業工材がようやく 3% 台の利益率に戻る姿とした。
確率は、慎重な側にわずかに厚く置いた。半導体の波と競合の動きは、強気の前提が連続して当たらないと成り立たない。一方、日本製紙の売却で需給の重しが消え、自社株買いで資本効率が上がる点は、下支えとして認める。結果として、楽観を 10%、悲観を 12% とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,454 円4,475 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,238 円1,344 億円)。 今の値に割り戻すと 5,075 円3,047 億円、今との差 −2.6%、 期待の年率 +6.4%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 17,085 円1.03 兆円 | 2,831 円1,700 億円 | +282.3% | +14.4% | 1,992 円1,196 億円 |
| やや楽観 | 22% | 11,335 円6,806 億円 | 2,665 円1,600 億円 | +168.7% | +10.4% | 3,080 円1,849 億円 |
| 中立 | 33% | 7,558 円4,538 億円 | 2,332 円1,400 億円 | +89.8% | +6.6% | 3,264 円1,960 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,865 円1,720 億円 | 1,999 円1,200 億円 | −6.7% | −0.7% | 1,119 円672 億円 |
| 悲観 | 12% | 821 円493 億円 | 1,166 円700 億円 | −61.9% | −9.2% | 238 円143 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,454 円4,475 億円 | 2,238 円1,344 億円 | +86.0% | +6.4% | 9,692 円5,819 億円 |
今の株価時価総額 5,210 円3,128 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% AI 向け半導体が伸び続け、ペリクルも立ち上がる 利益 594 億円 · PER 17.3 倍 · 株価時価総額 17,085 円1.03 兆円
AI 向けの半導体需要が 10 年にわたって伸び、電子・光学が会社を引っ張る。HBM の積層が進み、極薄のウエハーを守る高機能テープが標準になる。リンテックは顧客の認定を先に取り、シェアを 1 割から 11% へ上げる。MLCC 用のテープも AI サーバーと車載で枚数が増える。
EUV ペリクルは量産が軌道に乗り、露光装置の世代交代とともに、もう一つの収益源になる。価格は高く保たれ、電子・光学の利益率は 23% を維持する。
マックタックは歩留まりが戻り、値上げも通る。のれんの償却が終わった後、印刷材・産業工材の利益率は 5% 台まで戻る。全体の営業利益率は 13% に近づき、会社が長期ビジョンで掲げた 12% を超える。
日本製紙の売却で需給の重しは消え、自社株買いも続く。ROE は 15% 近くまで上がる。
- 印刷材・産業工材:数量 238(世界の粘着ラベル・グラフィック・窓フィルム材料の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 3,184 億円・営業利益 175 億円。市場 1.2 倍・シェア 2.2%、歩留まり回復と値上げで利益率 5.5%
- 電子・光学:数量 209(電子・光学向け粘着材・装置の世界の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.30(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 2,717 億円・営業利益 625 億円。市場 1.9 倍・シェア 11%、高機能テープとペリクルで利益率 23%
- 洋紙・加工材:数量 30.6(国内外の特殊紙・工程紙の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 410 億円・営業利益 25 億円。整理が進み利益率 6%
倍率:事業の純利益 594 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍。全体の PER 17.27 倍、時価総額 10,258 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI 向けの需要・ペリクルの成功・マックタックの立て直しが 3 つとも当たる必要があり、連続して成功する確度は高くないと見て低めに置く。
やや楽観 22% 電子・光学が着実に伸び、マックタックも黒字に戻る 利益 436 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 11,335 円6,806 億円
電子・光学は市場の伸びをほぼ取り込み、シェアを 1 割強に保つ。HBM と MLCC の需要は強いが、競合との価格競争で単価の伸びは物価を下回る。利益率は 22% を保つ。
ペリクルは量産に入るものの、利益への効きは緩やかだ。立ち上がりの設備負担もあり、10 年の前半は大きな利益にならない。
マックタックは歩留まりの改善が定着し、印刷材・産業工材は 4% 台の利益率に回復する。洋紙・加工材は抄紙機の整理が進み、小さな黒字に戻る。
会社は配当性向 40% を守り、自社株買いも折々に足す。ROE は 11% 台に上がり、資本コストを明確に超える。全体の営業利益率は 11% 台だが、長期ビジョンの 12% には届かない。
- 印刷材・産業工材:数量 210(世界の粘着ラベル・グラフィック・窓フィルム材料の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 2,815 億円・営業利益 127 億円。市場 1.15 倍・シェア 2.0%、利益率 4.5%
- 電子・光学:数量 168(電子・光学向け粘着材・装置の世界の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.28(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 2,150 億円・営業利益 473 億円。市場 1.6 倍・シェア 10.5%、利益率 22%
- 洋紙・加工材:数量 30.6(国内外の特殊紙・工程紙の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 410 億円・営業利益 23 億円。利益率 5.5%
倍率:事業の純利益 436 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍。全体の PER 15.61 倍、時価総額 6,806 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電子・光学の追い風は今の決算で確認できている一方、競合の値下げで単価が鈍る見方も強い。ほどよく成功する筋書きを、中立に次ぐ厚みで置く。
中立 33% 電子・光学は市場並みに伸び、印刷材・産業工材は小さな黒字にとどまる 利益 326 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 7,558 円4,538 億円
電子・光学は 10 年で市場が 1.4 倍になり、リンテックは 1 割のシェアを守る。AI 向けの需要は続くが、半導体の波で伸びる年と足踏みする年が交互に来る。価格は競合の圧力で、物価ほど上がらない。利益率は 20% に少し下がる。
印刷材・産業工材は、マックタックの歩留まりが戻り、のれんの償却も終わって、ようやく 3% 台の利益率に戻る。ただ、世界大手との値下げ競争は続き、それ以上の改善は難しい。洋紙・加工材は小さな黒字だ。
ペリクルは立ち上がるが、利益への効きは小さい。
会社は配当性向 40% を守り、300 億円の自社株買い後も、折々に買い増す。ROE は 9% で、資本コストを少し上回る。営業利益は 10 年で倍近くなるが、売上は年 4% の伸びにとどまる。
- 印刷材・産業工材:数量 201(世界の粘着ラベル・グラフィック・窓フィルム材料の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 2,693 億円・営業利益 94 億円。市場 1.1 倍・シェア 2.0%、利益率 3.5%
- 電子・光学:数量 140(電子・光学向け粘着材・装置の世界の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.25(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 1,750 億円・営業利益 350 億円。市場 1.4 倍・シェア 10%、価格は物価を下回る、利益率 20%
- 洋紙・加工材:数量 30.6(国内外の特殊紙・工程紙の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 410 億円・営業利益 21 億円。市場 0.85 倍、利益率 5%
倍率:事業の純利益 326 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.92 倍、時価総額 4,538 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:最もありうる姿として最大の確率を置いた。電子・光学が市場並みに伸びる一方、印刷材・産業工材は資本コストを稼げないまま小さな黒字にとどまる。
やや悲観 23% 半導体の波と価格競争で電子・光学の利益が伸びない 利益 172 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 2,865 円1,720 億円
半導体の波が大きい年が続き、電子・光学の利益率は 16% まで下がる。日東電工・古河電工の値下げ攻勢に加え、中国・韓国の新興メーカーが入ってきて、シェアは 9% に落ちる。単価は物価ほど上がらず、10 年で 1.15 倍にとどまる。
印刷材・産業工材では、マックタックの歩留まりがもたつく。原燃料の値上げを価格に転嫁できず、利益率は 2% で足踏みする。洋紙・加工材も、整理の費用が重く、かろうじて黒字を保つ。
ペリクルは量産の立ち上がりが遅れ、設備の負担だけが残る。300 億円の自社株買いで現金が減り、新たな投資の余力も限られる。
ROE は 5% 台と、資本コストに届かない。良い会社の姿ではなく、平凡な素材メーカーとして評価される。
- 印刷材・産業工材:数量 180(世界の粘着ラベル・グラフィック・窓フィルム材料の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.30(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 2,334 億円・営業利益 47 億円。市場 1.05 倍・シェア 1.9%、転嫁できず利益率 2%
- 電子・光学:数量 108(電子・光学向け粘着材・装置の世界の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.15(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 1,242 億円・営業利益 199 億円。市場 1.2 倍・シェア 9%、値下げ圧力で利益率 16%
- 洋紙・加工材:数量 28.8(国内外の特殊紙・工程紙の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.25(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 360 億円・営業利益 7 億円。市場 0.8 倍、利益率 2%
倍率:事業の ROE 5.6% が k 7.75% 以下なので PER は 1÷k=12.5 倍まで。稼ぐ力(純利益 172 億円 ÷ k)の 8 割に置く。ためた利益は額面の価値に届かない。(上限の約 80% の 10.0 倍)
確率:利益の 9 割が電子・光学に偏るため、半導体の谷や競合の値下げで利益が伸びない筋書きの重みが大きい。慎重な側に厚く置く。
悲観 12% 電子・光学が競合に削られ、ほかの事業も立ち直れない 利益 58 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 821 円493 億円
電子・光学が構造的に崩れる。中国・韓国のメーカーが半導体の国産化に乗って入り込み、リンテックのシェアは 7% 台まで下がる。顧客に値下げを迫られ、単価は 10 年たっても上がらない。利益率は 9% まで落ちる。
ペリクルは競合に先を越され、50 億円規模の投資を回収できずに終わる。
印刷材・産業工材では、マックタックの立て直しが失敗する。歩留まりは戻らず、中東情勢による原燃料の高騰も価格に載せられない。米国の事業を縮小し、赤字から抜けられない。洋紙・加工材は、設備を止めて小さくなる。
この状態が続けば、利益は 60 億円ほどに細る。還元の合計は利益を上回り、300 億円の自社株買いと数年の配当を、手元の現金と不要な資産の売却で払う。その後は配当が削られる。資産と現金は残るが、稼ぐ力を失った会社として評価される。
- 印刷材・産業工材:数量 153(世界の粘着ラベル・グラフィック・窓フィルム材料の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.20(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 1,836 億円・営業利益 9 億円。シェア 1.7%、赤字すれすれの 0.5%
- 電子・光学:数量 75.0(電子・光学向け粘着材・装置の世界の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.00(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 750 億円・営業利益 68 億円。市場横ばい・シェア 7.5%、単価は上がらず利益率 9%
- 洋紙・加工材:数量 25.2(国内外の特殊紙・工程紙の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.15(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 290 億円・営業利益 0 億円。市場 0.7 倍、利益ゼロ
倍率:事業の ROE 2.4% が k 7.75% 以下なので PER は 1÷k=12.5 倍まで。構造的に負けた筋書きで、稼ぐ力(純利益 58 億円 ÷ k)は約 725 億円だが、やや悲観(ROE 5.6%)が上限の 8 割の 10.0 倍なので、それより低い上限の約 68% の 8.5 倍(約 493 億円)に置いた。純現金+売れる資産の床(200 億円)は稼ぐ力を下回るので床にはならない。
確率:電子・光学の崩れとマックタックの失敗が重なる構造的な負け。複数が同時に起きる必要があり低めだが、利益の偏りが大きいので 10% を超えて置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
印刷材・産業工材
ラベル・シール用の粘着紙・粘着フィルム、車や建物の窓に貼るウインドーフィルム。米国のマックタックとマディコを含む。
| 数量世界の粘着ラベル・グラフィック・窓フィルム材料の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段) | 価格値段の指数(今=1.00。物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 183 | 1.00 | 1,826 | 20 |
| 10 年後 中立 | 201 | 1.34 | 2,693 | 94 |
取り方:市場の規模は筆者の推計で、世界で約 9 兆円(実質)。同セグメント売上 1,826 億円を割るとシェアは約 2.0%。数量は市場×シェアの実質出荷額、価格は物価込みの値段の指数。営業利益は 20 億円(利益率 1.1%)で、マックタックの赤字 39 億円が重い。
電子・光学
半導体用のダイシング・バックグラインドテープ、MLCC 用テープ、貼り付け装置、有機 EL 向けなどの光学用粘着材、EUV ペリクル。
| 数量電子・光学向け粘着材・装置の世界の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段) | 価格値段の指数(今=1.00。物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 101 | 1.00 | 1,007 | 221 |
| 10 年後 中立 | 140 | 1.25 | 1,750 | 350 |
取り方:市場の規模は筆者の推計で、半導体用テープ・MLCC 用テープ・光学用粘着材・装置を合わせて約 1 兆円(実質)。同セグメント売上 1,007 億円でシェアは約 10%。ダイシングテープ単体の世界市場は約 10 億ドルから 6% 台の成長との調査があり、競合は日東電工・古河電工など。営業利益 221 億円(利益率 22%)。
洋紙・加工材
耐油紙・剥離紙原紙などの特殊紙と、合成皮革用の工程紙。
| 数量国内外の特殊紙・工程紙の実質規模 × リンテックのシェア(十億円・2026 年の値段) | 価格値段の指数(今=1.00。物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 36.0 | 1.00 | 360 | 10 |
| 10 年後 中立 | 30.6 | 1.34 | 410 | 21 |
取り方:市場の規模は筆者の推計で約 6,000 億円(実質)、同セグメント売上 360 億円でシェアは約 6%。国内の紙需要は人口とともに細る。営業利益は 10 億円で、2015/03 期の 40 億円から細った。熊谷工場の抄紙機 1 台を 2026/03 末で停止した。
リスクと懸念
利益の 9 割が電子・光学に偏る
26/03 期の営業利益 251 億円のうち、電子・光学が 221 億円を占める。半導体の設備投資が一服したり、競合の値下げで利益率が落ちたりすれば、全体の利益が一気に細る。ほかの事業に代わりがない。
マックタックの立て直しが長引く
米国のラベル材子会社マックタックは、25 年度に 39 億円の営業赤字を出した。会社は歩留まりの改善とのれん償却の終了で 16 億円の改善を見込むが、原燃料の値上げと米国の需要の鈍さが続けば、黒字化はずれ込む。
半導体の循環と競合
半導体の材料は、需要の谷で売上が 2〜4 割落ちる年がある。日東電工・古河電工に加え、新興国のメーカーも入る。HBM 向けの装置の受注が一巡して売上が減った例もあり、AI の追い風は常に一定ではない。
EUV ペリクルの量産が遅れる
EUV ペリクルは、量産体制の確立が 25 年度内の目標から 26 年内へ後ろにずれたように読める。三井化学も量産を急ぐ。先行投資の負担だけが残り、収益化が遅れるおそれがある。
原燃料高と値上げの転嫁
中東情勢による原燃料の値上がりで、27/03 期は単体で 47 億円の費用増を見込む。ラベル材料は世界大手と値段で争うため、値上げを通しきれなければ、利益率は計画を下回る。
自社株買い後の株主構成の変化
日本製紙が持ち株を手放し、安定株主が減った。需給の重しは消えたが、買収や TOB の対象になりやすくなる面もある。自己株が発行済みの 17% に上り、現金も 300 億円減った分、投資の余力は小さくなった。
今後の分かれ目
- マックタックの営業利益が黒字に戻り、印刷材・産業工材の利益率が 4% を超えたら
- この部門の利益率の見通しを上げ、やや楽観以上の確率を増やす。
- HBM 向けのテープと装置の受注が、会社の見通しを超えて増え続けたら
- 電子・光学の市場とシェアを上方修正し、楽観側の確率を上げる。
- EUV ペリクルの量産が確認され、主要な露光装置の顧客に採用されたら
- 電子・光学の利益率と成長を上方修正する。
- 半導体の谷で電子・光学の利益が 2 割以上減り、競合の値下げが続いたら
- 電子・光学の利益率の見通しを下げ、悲観側の確率を増やす。
- 原燃料の高騰が続き、値上げが通らない状態が 2 年以上続いたら
- 印刷材・産業工材と洋紙・加工材の利益見通しを下げる。
- 買収提案や、大株主の再編が起きたら
- 資本政策の見通しを見直す。10 年の価値の前提は変わりうる。
見ておくもの
- 電子・光学の営業利益と利益率(四半期)
- 半導体用テープ・装置の受注と HBM 向けの動き
- マックタック・アメリカの営業損益(のれん償却終了後)
- EUV ペリクルの量産開始と顧客の採用
- 配当性向 40% と自社株買いの実施状況
- 原燃料価格と販売価格の改定
倍率と資本コストの決め方
今の時価総額 3,470 億円や、直近の株価の動きを見ずに、3 つの事業の市場規模とシェアから先に売上と利益を積み上げた。倍率は資本コスト 7.75% と事業の ROE から式で決め、市場の倍率は使っていない。中立は ROE が資本コストを少し上回るので、1÷k に近い水準に置いた。結果は今の時価総額を下回ったが、今の値段が 3 割高くても低くても、この数字は動かない。新リース会計基準で 2028/03 期から BS の形が変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえている。リンテックは工場や倉庫を借りる割合が小さく、影響は軽い。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.9→17.27 倍・やや楽観 PER 12.7→15.61 倍・中立 PER 12.6→13.92 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。