結論
クレステックは、取扱説明書と修理マニュアルの制作から翻訳・印刷までを一手に請け負う会社だ。筆者の結論は「ほぼ適正」で、安く見えても割安とは言えない。いちばんの理由は、稼ぎの半分近くが人の手間で売る文書の仕事で、ここが AI に置き換わる側にあることだ。
今の利益に比べた株価は低く、一見すると割安に見える。だが会社自身が、製品の電子化でマニュアルの市場は縮むと認めている。そこへ AI の翻訳と下書きが加わり、10 年で文書の量は 3 分の 1 減ると筆者は見る。
支えは、日系メーカーのアジアの工場のそばで取説と梱包材を刷って届ける仕事だ。物の流れに結びつくので AI では消えない。ただ紙の取説は減り、量は少しずつ細る。
事業の稼ぐ力は資本コストに届かず、ためた利益が価値を生みにくい。安く見える値段は、この先細りをおおむね映している。
筆者がいちばん気にしているのは、日本の文書の部門の利益が 2026/06 期に 7 割減ったことだ。一時の落ち込みではなく、単価が崩れ始めた兆しと読む方が自然だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安いが、10 年持ちたい事業ではない」と筆者は見る。
オーナーの目で見ると、稼ぎの源は 2 つある。アジアの印刷と梱包は、日系の工場が残る限り小さく確かな利益を生む。文書の仕事は、10 年先に今の形で残っている姿が描きにくい。人の時間で売る仕事の値段は、AI が入った瞬間に買い手が決め直す。
経営は手堅く、借金も重くない。還元も方針どおりで、資本の使い方で大きな失敗はしていない。ただ稼いだ利益の 6 割は社内に残り、資本コストを超える稼ぎを生まない。ためた利益が額面未満の価値にしかならない構造だ。
安全域は、今の利益に比べた株価の低さにある。しかし利益が細る筋書きの方が強いので、その安さは見かけほど厚くない。払う値段と得るものがほぼ釣り合っている、というのが筆者の見立てだ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は 2 つある。1 つは文書の仕事で、メーカーから新製品の取説や修理マニュアルの制作を請け負う。文章を書き、図を描き、組版し、多言語に訳す。日本と欧米の拠点が中心で、売上の 4 割強を占める。値段は人の手間で決まる。
もう 1 つは、アジアの現地工場向けの印刷と梱包材だ。中国・フィリピン・マレーシア・インドネシアなど 10 か国に拠点を置き、日系メーカーの工場のすぐ横で取説を刷り、箱や緩衝材を調達して納める。売上の 6 割弱がここで、利益もこちらが厚い。2026/06 期は中国と東南アジアで営業利益の 7 割を稼いだ。
顧客はプリンター・家電・自動車・医療機器などのメーカーで、最大の顧客はエプソンだ。比率は 16% から 13% に下がった。最近は医薬品と生活用品の会社、外資系メーカーへ広げている。
文書を顧客が自分で作るためのソフトも売るが、規模は小さい。AI の推進チームを作り、マニュアルの問い合わせに答える仕組みなどを出し始めている。
2 つの仕事は、同じ顧客の同じ製品でつながっている。日本で作った取説のデータを、アジアの工場の横で刷る。この一貫の流れが、顧客にとって手間を減らす価値になっている。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、狭いが無いわけではない。日系メーカーの工場の横で刷って届ける仕組みは、30 年近くかけて各国に張った拠点の網だ。新しく入る会社には手間がかかる。
弱いのは文書の仕事だ。人の時間を売る商売で、値段は顧客の購買部門が決める。AI の翻訳が使えるようになると、顧客はまず翻訳の単価を下げに来る。日本のセグメントの利益が 2026/06 期に 7 割減ったのは、その兆しだと筆者は見る。
資本の効率は並だ。ROE は 10% 前後で推移してきたが、資本コストを大きくは超えない。借入はあるが現金の方が多く、財務は安定している。
経営は配当性向 30% 以上を守り、自社株買いもしている。中計は売上 200 億円・営業利益 14 億円と控えめで、達成の見込みは立っている。ただ数字を大きくする道は、周辺の小さな買収に頼る形だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
技術文書の市場は、静かに縮んでいる。製品の操作は画面とアプリの案内に移り、紙の取説は薄くなった。会社自身が有報で、ペーパーレスの流れでマニュアルの市場は縮むと書いている。
これから効くのは AI エージェントだ。翻訳は機械翻訳と生成 AI でほぼ自動になり、下書きも製品の設計データから作れる。人が要るのは、医療機器の添付文書のように法令の責任が伴う確認の部分に絞られる。人の時間で売る仕事は、10 年で量が 3〜4 割減るのが中ほどの見方だ。
競合は、国内の文書の制作会社と大手の翻訳会社、それに顧客の内製だ。これからは AI の会社と顧客自身の AI が最大の競合になる。値段の主導権は買い手にある。
アジアの印刷と梱包は事情が違う。日系メーカーの工場の数と生産量に結びつき、物の流れがある限り残る。工場は中国から東南アジアとインドへ移っており、拠点を追いかけて移せるかが勝負になる。紙の取説は減るが、箱と緩衝材は減らない。
10 年の中ほどの姿は、文書の量が 3 分の 1 減り、印刷と梱包の量が 1 割減るというものだ。値段は物価並みに上げられても、全社の利益は実質で目減りする。
資本政策と M&A
還元の方針は配当性向 30% 以上だ。2026/06 期の配当は性向 31.6% で、自社株も少し買った。今期の予想は減配だが、性向は 30% を保つ。10 年の還元は、配当と自社株買いを合わせて利益の 4 割とみる。
手元の現金は 70 億円を超えるが、借入も 50 億円近くある。差し引きの純現金は 15 億円ほどで、アジアの印刷の在庫と売掛金を回すのに要る額に近い。事業に要らない現金として別に数えるほどではない。
買収は、マニュアル制作や販促の小さな会社を毎年のように買ってきた。中計はインバウンドや保険の文書への参入をうたう。規模が小さく、価値を大きく壊す心配は少ないが、AI に削られる同じ型の仕事を買い足している面もある。
時価総額が 60 億円ほどと小さいので、大手の印刷会社や投資ファンドに買われる可能性は残る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
まず値段が安い。今の利益に比べて株価は 6 倍ほどで、純現金もある。配当は性向 30% 以上を守っており、利益が多少減っても配当で報われる。
次に、アジアの印刷と梱包材は AI で消えない。日系メーカーの工場の横で刷り、箱を調達して届ける仕事は、物の流れそのものだ。工場が中国から東南アジアやインドへ移っても、クレステックは 10 か国に拠点を持ち、ついていける。2026/06 期に中国の利益は 4 倍になり、この部分の稼ぐ力は強まっている。
文書の仕事も、全部は消えない。医療機器や医薬品の添付文書は、各国の法令を確かめる責任が要る。AI が下書きしても、最後に責任を持つ人が要る。会社は AI 推進チームを作り、問い合わせに答える仕組みを売り始めた。AI を道具にして工数を減らせれば、利益率はむしろ上がる。
最後に、時価総額が小さく創業家の経営なので、買収の対象になりうる。拠点の網には、大手の印刷会社にとって値打ちがある。
慎重な見方
文書の仕事は人の時間を売る商売で、AI エージェントに置き換わる型の真ん中にある。翻訳は機械で済み、下書きは設計データから AI が作る。顧客がまず削るのは外注の費用だ。日本のセグメントの利益が 2026/06 期に 7 割減ったのは、その始まりだと見るべきだ。
アジアの印刷も安泰ではない。紙の取説は製品の画面とアプリに置き換わり、刷る量は毎年減る。梱包材の調達は付加価値が薄く、現地の印刷会社との値下げ競争になりやすい。最大の顧客エプソンの比率は既に下がっている。大口の工場が一つ統合されれば、拠点の数字は大きく動く。
利益の 6 割は社内に残るが、その使い道は同じ型の小さな買収だ。ROE は資本コストを大きく超えたことがなく、ためた利益は価値を生まない。
株価が安く見えるのは、この先細りの裏返しだ。安さだけで持つ理由にはならない。むしろ、AI の会社と顧客の内製が同時に来た時に、小さな会社が値段を守る手段は少ない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方の方が強いと筆者は判断した。文書の仕事が AI に削られることは会社自身の言葉からも読み取れ、量の縮みは避けにくい。アジアの印刷が支えになる点は強気の見方に分があるが、紙が減る流れは同じだ。確率は中立を真ん中に、悲観側(やや悲観 20%・悲観 15%)を楽観側(楽観 10%・やや楽観 20%)よりやや厚くした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 3,544 円105 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,156 円34 億円)。 今の値に割り戻すと 2,336 円69 億円、今との差 +13.0%、 期待の年率 +8.6%(資本コスト 8.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,066 円180 億円 | 1,537 円46 億円 | +267.7% | +13.9% | 760 円23 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,107 円151 億円 | 1,382 円41 億円 | +213.8% | +12.1% | 1,298 円38 億円 |
| 中立 | 35% | 4,196 円124 億円 | 1,214 円36 億円 | +161.6% | +10.1% | 1,894 円56 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,859 円55 億円 | 1,005 円30 億円 | +38.5% | +3.3% | 573 円17 億円 |
| 悲観 | 15% | 506 円15 億円 | 668 円20 億円 | −43.3% | −5.5% | 176 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,544 円105 億円 | 1,156 円34 億円 | +127.3% | +8.6% | 4,700 円139 億円 |
今の株価時価総額 2,068 円61 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% AI を自分の道具にして文書の単価を守る 利益 13 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 6,066 円180 億円
会社が先に AI を道具にして、取説の下書き・翻訳・組版の工数を半分に減らし、浮いた人手で規制対応や梱包設計といった「人が責任を持つ仕事」に移る筋書きだ。医療機器や医薬品の添付文書は法令の確認が要るので、AI があっても人の目を外せない。そこへ外資系メーカーと医薬・生活用品の顧客が加わり、文書の仕事は量が 15% 減るだけで済む。
アジアでは日系メーカーの現地工場に寄り添う印刷と梱包材が、インドやベトナムへの工場の移転を追いかけて 1 割増える。工場のすぐ横で刷って届ける体制は、遠くの大手印刷会社にはまねしにくい。利益率は文書が 8%、アジアが 10% まで上がる。
それでも利益の伸びは物価並みに少し上乗せした程度で、事業の稼ぐ力が資本コストを大きく超える姿にはならない。
- 文書の制作・翻訳(日本・欧米):数量 595(制作の人員換算(人・推定))× 価格 0.15(1 人あたりの年の売上(億円))→ 売上 89 億円・営業利益 7 億円。制作の人員換算 595 人 × 1 人あたり売上(今の 1.34 倍)、営業利益率 8%
- アジアの印刷・梱包材・現地制作:数量 330(取引する現地工場(拠点・推定))× 価格 0.47(1 拠点あたりの年の売上(億円))→ 売上 154 億円・営業利益 15 億円。取引する現地工場 330 拠点 × 1 拠点あたり売上(今の 1.34 倍)、営業利益率 10%
倍率:事業の純利益 13 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍。全体の PER 12.22 倍、時価総額 159 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI の自社サービス(ManuAI bot など)はまだ売上の開示が無く、AI で文書の仕事を守り切る証拠は弱い。アジアの印刷が伸び続ける前提も重なるので 1 割にとどめた。
やや楽観 20% 文書は細るが印刷と梱包が支える 利益 11 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 5,107 円151 億円
文書の仕事は AI の翻訳と下書きで 4 分の 1 減るが、会社が AI の使い手として工数を削り、利益率は 6.5% まで戻る。日本のセグメントの利益は 2026/06 期に 7 割減ったが、これは人の多い制作の体制を抱えたまま単価が下がった結果で、体制を絞れば戻る余地がある。
アジアは日系メーカーの工場の数がほぼ横ばいで、印刷物は電子化で減るものの、梱包材と緩衝材の調達がその分を埋める。エプソンなど大口の顧客の工場がアジアに残る限り、現地で刷って届ける仕事は続く。利益率は 9.5%。
買収はインバウンドや保険の文書など周辺の小さな会社にとどまり、大きく価値を壊すことも生むこともない。
- 文書の制作・翻訳(日本・欧米):数量 525(制作の人員換算(人・推定))× 価格 0.15(1 人あたりの年の売上(億円))→ 売上 79 億円・営業利益 5 億円。人員換算 525 人 × 1 人あたり売上(今の 1.34 倍)、営業利益率 6.5%
- アジアの印刷・梱包材・現地制作:数量 300(取引する現地工場(拠点・推定))× 価格 0.47(1 拠点あたりの年の売上(億円))→ 売上 140 億円・営業利益 13 億円。現地工場 300 拠点 × 1 拠点あたり売上(今の 1.34 倍)、営業利益率 9.5%
倍率:事業の純利益 11 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.84 倍、時価総額 127 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:アジアの現地工場向けの印刷・梱包材は物の流れに結びつき、AI で消えにくい。文書の縮みを印刷が埋める形は筋が通るので 2 割。
中立 35% 文書は AI に削られ、印刷で食いつなぐ 利益 8 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,196 円124 億円
取説と修理マニュアルの仕事は、AI の翻訳と下書きで 10 年に 3 分の 1 減る。メーカーは文書を自社の AI で作り、外に出すのは規制の確認と最終の品質保証だけになる。単価は物価並みに上げられても量が減るので、文書の売上は今より 1 割強小さい。利益率は 5% で、日本の高い人件費を吸収しきれない。
アジアの印刷と梱包材は、紙の取説が減る分だけ量が 1 割落ちるが、梱包の設計と部材の調達が残る。利益率は今の 9% から 8.5% に少し下がる。全社の営業利益は今とほぼ同じ水準で、物価の分だけ実質で目減りする。
配当は性向 30% 以上の方針どおりで、自社株買いを合わせて利益の 4 割を戻す。残りは借入の返済と小さな買収に回る。
- 文書の制作・翻訳(日本・欧米):数量 455(制作の人員換算(人・推定))× 価格 0.15(1 人あたりの年の売上(億円))→ 売上 68 億円・営業利益 3 億円。人員換算 455 人 × 1 人あたり売上(今の 1.34 倍)、営業利益率 5%
- アジアの印刷・梱包材・現地制作:数量 270(取引する現地工場(拠点・推定))× 価格 0.47(1 拠点あたりの年の売上(億円))→ 売上 126 億円・営業利益 11 億円。現地工場 270 拠点 × 1 拠点あたり売上(今の 1.34 倍)、営業利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 96 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:マニュアル市場の縮小は会社自身が認めており、AI エージェントの翻訳と下書きがそれを速める。アジアの印刷が支える分を入れて、中ほどの筋書きに 35% を置いた。
やや悲観 20% AI が文書の値段まで崩す 利益 5 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 1,859 円55 億円
文書の仕事は量が 45% 減り、残った仕事も「AI が作ったものの確認」に変わって単価が物価に追いつかない。日本と欧米の制作の拠点は人を減らしても固定費が重く、利益率は 3% にとどまる。
アジアでは日系メーカーが工場をさらに絞り、中国の拠点は現地の印刷会社との値下げ競争に入る。印刷と梱包の量は 2 割減り、利益率は 7% に下がる。最大の顧客であるエプソンの比率は既に 16% から 13% に落ちており、大口の顧客の工場の移転や統合が一つ起きるだけで数字が動く。
利益は今の 6 割ほどになり、配当も方針どおり減る。
- 文書の制作・翻訳(日本・欧米):数量 385(制作の人員換算(人・推定))× 価格 0.14(1 人あたりの年の売上(億円))→ 売上 54 億円・営業利益 2 億円。人員換算 385 人 × 1 人あたり売上(今の 1.25 倍)、営業利益率 3%
- アジアの印刷・梱包材・現地制作:数量 240(取引する現地工場(拠点・推定))× 価格 0.45(1 拠点あたりの年の売上(億円))→ 売上 109 億円・営業利益 8 億円。現地工場 240 拠点 × 1 拠点あたり売上(今の 1.30 倍)、営業利益率 7%
倍率:ROE 3.6% が k 8.5% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値しか生まず、PER の上限は 1÷k=11.1 倍。やや悲観は文書の仕事の縮みが速く、上限の 5.9 割の 6.5 倍に置いた。
確率:AI エージェントの代替は量だけでなく値段にも効く。顧客が自前の AI で済ませる範囲が広がれば単価も物価に負けるので 2 割を置いた。
悲観 15% 文書の仕事が消え、印刷も細る 利益 2 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 506 円15 億円
取説は製品の画面と AI の案内に置き換わり、紙の取説と修理マニュアルの制作は量が 6 割減る。残る仕事も大手の翻訳会社や AI の会社に値段で負け、文書の部門は利益がほぼ出なくなる。
アジアの印刷も紙の取説の消滅で量が 4 割減り、梱包材の調達だけが残る。中国と東南アジアの拠点の統廃合に費用がかかり、利益率は 4% に落ちる。全社の売上は今の 6 割、営業利益は 3 億円ほどになる。
配当は細り、手元の現金は拠点の整理と借入の返済に回る。価値は純現金と、残った印刷の小さな稼ぎだけになり、純現金とほぼ同じ額まで落ちる。
- 文書の制作・翻訳(日本・欧米):数量 280(制作の人員換算(人・推定))× 価格 0.13(1 人あたりの年の売上(億円))→ 売上 36 億円・営業利益 0 億円。人員換算 280 人 × 1 人あたり売上(今の 1.15 倍)、営業利益率 0%
- アジアの印刷・梱包材・現地制作:数量 180(取引する現地工場(拠点・推定))× 価格 0.42(1 拠点あたりの年の売上(億円))→ 売上 75 億円・営業利益 3 億円。現地工場 180 拠点 × 1 拠点あたり売上(今の 1.20 倍)、営業利益率 4%
倍率:ROE 1.1% が k 8.5% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値しか生まず、PER の上限は 1÷k=11.1 倍。悲観は稼ぐ力がほぼ消え、値は床の資産(純現金約 15 億円)で付くとみて、時価総額を床に合わせた(PER は結果として上限の 9.0 割の 10.0 倍)。
確率:人の手間で売る型は AI エージェントで最も削られる。文書の売上が 10 年で半分以下になる道は十分にありうるので、やや悲観と合わせて 35% にした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
文書の制作・翻訳(日本・欧米)
取説・修理マニュアルの執筆・作図・組版・多言語の翻訳。人の時間で売る仕事。
| 数量制作の人員換算(人・推定) | 価格1 人あたりの年の売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 700 | 0.11 | 78 | 4 |
| 10 年後 中立 | 455 | 0.15 | 68 | 3 |
取り方:日本(外部売上 54.2 億・利益 0.86 億)と欧米(24.1 億・2.99 億)の地域セグメントの合計を文書の仕事とみた(有報 2026/06)。人員は開示が無く、制作会社の 1 人あたり売上 1,100 万円前後から約 700 人と推定。AI エージェント代替の人月の型(PROMPT_AI_RISK)として、中立の人員は 10 年 0.65 倍、単価は物価の 1.34 倍まで。
アジアの印刷・梱包材・現地制作
中国・東南アジア・南アジアの日系メーカーの工場の近くで、取説を刷り、箱や緩衝材を調達して納める。
| 数量取引する現地工場(拠点・推定) | 価格1 拠点あたりの年の売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 300 | 0.35 | 105 | 10 |
| 10 年後 中立 | 270 | 0.47 | 126 | 11 |
取り方:中国(44.7 億・3.85 億)と東南/南アジア(59.8 億・5.72 億)の合計(有報 2026/06)。取引する工場の数は開示が無く、10 か国の拠点の規模から約 300 拠点・1 拠点年 3,500 万円と推定。数量は日系の工場の数と紙の取説の量で決まり、中立は 10 年 0.9 倍(紙の減少)、単価は物価の 1.34 倍。
リスクと懸念
AI エージェント代替
文書の制作と翻訳は人の時間で売る仕事で、AI の翻訳と下書きに最も置き換わりやすい。顧客が自社の AI で取説を作るようになれば、外に出る仕事は確認だけになり、量と単価が同時に下がる。
紙の取説の消滅
製品の操作は画面とアプリの案内に移り、紙の取説は薄く少なくなっている。アジアの印刷の稼ぎも紙の量に結びつくので、文書と印刷の両方が同じ流れで細る。
大口の顧客への依存
最大の顧客エプソンが売上の 13% を占める。プリンターの市場が縮む中で、顧客の工場の統合や内製化が一つ起きるだけで、アジアの拠点の稼ぎは大きく揺れる。
中国と東南アジアの拠点のリスク
売上の 6 割近くが中国と東南・南アジアにある。日系メーカーの工場の移転についていけないと、拠点ごと仕事を失う。現地の印刷会社との値下げ競争も起きやすい。
小さな買収の積み重ね
周辺の制作会社を毎年のように買ってきた。規模は小さいが、AI に削られる同じ型の仕事を買い足している面がある。のれんの減損が利益を削る可能性がある。
今後の分かれ目
- AI のサービス(ManuAI bot など)の売上が開示され、年に数億円規模に育ったら
- 文書の仕事を AI の側から取りにいけている証拠になる。楽観側の確率を上げてよい。
- 日本のセグメントの利益率が 2〜3 年続けて 2% を割ったら
- 文書の単価の崩れが定着したと見て、やや悲観に重みを移す。
- エプソンなど大口の顧客の比率がさらに 10% を割ったら
- アジアの印刷の拠点の稼ぎが細る兆しとして、悲観側を厚くする。
- インドやベトナムの新しい工場の取引が大きく増えたら
- 印刷と梱包の量の縮みが小さく済む。中立の数量を上げてよい。
- 大手の印刷会社やファンドが買収を提案したら
- 拠点の網の値打ちが値段に出る。本質価値の見方は変えずに、提案の値段と比べる。
見ておくもの
- 地域セグメント(日本・中国・東南アジア・欧米)の利益率
- 最大の顧客の比率
- AI のサービスの売上の開示
- 中計(2027/06 期 売上 200 億円・営業利益 14 億円)の達成
- 配当性向と自社株買い
倍率と資本コストの決め方
倍率は今や過去の株価から置いていない。k 8.5%(基本 7.5% に、値決め力 +0.5%・寿命 +1.0%)で、10 年の事業の ROE が k を下回るので PER の上限は 1÷k の 11.1 倍とし、その 8〜9.5 割に置いた。文書の仕事は AI エージェント代替の人月の型として量を中立 0.65 倍に縮め、k の寿命は表の下限 +1.0%、確率は悲観側 35% で、g は使っていない(ROE が k 以下)。今の株価が安く見えることは筋書きに使っていない。新リース会計の形の変化は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.56→12.22 倍・やや楽観 PER 10→11.84 倍・中立 PER 8.89→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。