結論
マクセルは、ボタン電池や医療機器用の一次電池、粘着テープ、車載レンズを作る中堅の電機メーカーだ。筆者の結論は、今の値段はやや割高というものである。一番の理由は、この会社が過去 10 年のほとんどの期で、資本コストに見合う利益を上げてこなかったことにある。
事業の核は小型電池だ。ガスメーターや医療機器に使われる電池は、止まると困る用途で、信頼性が価値になる。2026 年 3 月には村田製作所から小型一次電池の事業を買い、タイヤ空気圧センサー向けでは合計 8 割弱のシェアを握る見込みだ。全固体電池は競合がほぼいない小型の領域で、将来の上積みになりうる。
ただ、利益の厚みが足りない。売上は 10 年間 1,300 億円前後で動かず、営業利益率は 3〜7% にとどまる。2026 年 3 月期は銀の高騰で酸化銀電池が減益になり、半導体向けの回復も遅れた。会社の予想は営業利益 100 億円だが、中計の目標には届かない。
10 年後の中立の姿は、売上 2,000 億円強、営業利益率 6% の会社だ。数量は 17% ほど増え、価格は物価並みに上がる。それでも ROE は 8% 前後で、資本コスト 8.5% に届かない。ためた利益が額面どおりの価値を持たないので、倍率は 1 割ほど低く置くことになる。
確率をかけた本質価値は、今の時価総額を 16% ほど下回る。ただし割高の度合いは小さい。電池の寡占的な地位と全固体電池が当たれば、楽観の筋書きでは今の 2 倍を超える。外れても、純負債が軽く財務は傷まない。大きな安全域はないが、致命傷もない会社というのが筆者の見立てだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点から見て、マクセルは「わかる部分」と「わからない部分」がはっきり分かれる会社だ。わかるのは小型一次電池である。切れると困る用途で、顧客が信頼性にお金を払う。村田の事業を加え、空気圧センサー向けのシェアは 8 割弱になる。ここは長く続く堀になりうる。
わからないのは残りだ。粘着テープ、車載レンズ、理美容家電は、10 年先の収益の姿が読みにくい。過去 10 年の ROE は 5% 前後で、資本コストを稼げたとは言えない。株主の取り分になるオーナー利益は、増産投資を引くと薄い。
経営は、不採算を整理し、還元を厚くし、電池に資本を集める方向で動いている。方向は評価できるが、実績が追いついていない。買収後の統合で利益が出るまで、時間もかかる。
安全域の面では、自己資本の厚みがあり、純負債が軽いので、財務の面で行き詰まる心配は小さい。ただ、本質価値は今の時価総額をやや下回る。割高と言える水準だが、悲観の筋書きでも失う額は限られる。優良企業を割安で買う機会ではなく、様子を見る対象というのが筆者の整理だ。
何で稼ぐ会社か
マクセルは 4 つの事業を持つ。売上の 33% を占めるのがエネルギーだ。ここには、時計や玩具に入る酸化銀電池、車載やガスメーターに入るリチウム一次電池、全固体電池などの小型電池が入る。
機能性部材料は売上の 25% で、半導体の製造工程で使う粘着テープ、ハイブリッド車の電池に使う塗布型セパレーター、工業用ゴムを作る。光学・システムは 28% で、LED ヘッドランプのレンズ、車載カメラのレンズユニット、半導体向けの装置部品が主力だ。価値共創事業は 14% で、イズミブランドのシェーバーなどの理美容家電と電設工具を扱う。
利益の大半を稼ぐのは光学・システムだ。2026 年 3 月期の営業利益 35 億円は、全社の 4 割以上にあたる。エネルギーは売上が最大でも営業利益は 21 億円にとどまる。銀価格が上がると、販売価格に転嫁するまでの間、利益が削られる。
4 つの事業に共通するのは、創業以来の混ぜる・塗る・固める技術だ。電池の材料を混ぜ、テープの粘着剤を薄く塗り、レンズを精密に成形する。事業はばらばらに見えるが、材料と加工のノウハウが共通している。
2026 年に入り、会社は小型電池を成長の主役に据えた。角形のリチウムイオン電池は生産をやめ、精密電気鋳造の事業はソノコムへ譲る。選択と集中の途上にあり、売上の約 53% は海外だ。
優良さと弱いところ
堀は事業ごとに濃淡がある。いちばん強いのは小型一次電池だ。医療機器やガス・水道の計測器、タイヤの空気圧センサーは、電池が切れると製品全体が止まる。顧客は価格より信頼性を選ぶ。村田の事業を合わせると、空気圧センサー向けは合計 8 割弱のシェアになる。
全固体電池も、小型では競合が少ない。耐熱性に優れ、産業機器から採用が広がっている。会社は 2030 年度に売上 300 億円を目標に掲げるが、まだ立ち上がりの段階で、採算は見通せない。
一方で、堀が薄い事業も多い。粘着テープは国内外の大手との競争が厳しい。車載レンズは既存品の値下がりが続き、新製品の切り替え期に利益が落ちた。シェーバーなどの家電は、関税の影響で米国向けの数量が減った。
資本効率が最大の弱点だ。過去 10 年の ROE は中央値で 5% を下回り、赤字の期が 3 期あった。会社は中計で ROIC 7.5% を掲げたが、WACC 約 6% に近い水準で、予想は 5.5% にとどまる。
経営は選択と集中を進めており、方向はよい。ただ、収益性の改善が数字で確かめられたとはまだ言えない。財務は堅く、自己資本比率は 48% で純有利子負債も軽い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
マクセルの事業は、電子部品や素材の中でも用途がばらばらだ。共通して言えるのは、成長のけん引役が構造需要に寄っていることである。
小型電池は、医療機器・インフラの計測・タイヤ空気圧センサー・IoT 機器など、電池交換が難しい用途で数量が伸びる。一次電池の競合には、パナソニックなどの大手がいる。酸化銀電池は、クオーツ時計の需要が先細るため数量は減る。銀価格との連動が課題だ。
機能性部材料は、半導体の製造工程用テープが半導体投資の循環に左右される。建築用テープは人口減で国内が伸びにくい。塗布型セパレーターはハイブリッド車で好調で、電動化の方向に追い風がある。
光学・システムは、車載のヘッドランプレンズが LED の高機能化で単価が上がる。車載カメラのレンズユニットは、2026 年は新製品の切り替え期で落ち込んだ。既存品は値下がりが続いている。
理美容家電は、国内の人口減で数量が伸びず、海外も関税の影響を受ける。全体として、数量の伸びは年 1.5% 前後、物価並みの価格上昇が基本の業界である。需要は、スマホ・自動車・半導体の景気に連動して振れる。
資本政策と M&A
資本政策は、ここ 3 年で株主寄りに動いた。中計 MEX26 の期間は、配当に自社株買いを足した総還元性向で 100% 以上を目安にしている。2025 年 11 月に 629 万株を買い、2026 年 5 月に消却した。2027 年 3 月期の配当は、前の期より 12% 増える予定だ。
一方で、投資も増やしている。3 年間の成長投資は約 350 億円で、前の中計の 2 倍を超える。うち 200 億円超がエネルギーだ。医療機器用の一次電池や、耐熱性のあるボタン形のリチウム電池の増産に回している。
M&A は電池に集まる。2026 年 3 月に、村田製作所と東北村田製作所の小型一次電池事業を約 80 億円で取得した。年間売上は約 120 億円で、買収価格はおよそ売上の 7 割だ。のれんの償却があり、初期の利益は数億円にとどまる。
不採算の整理も進む。角形リチウムイオン電池は生産を終え、中国の子会社は売却した。精密電気鋳造の事業はソノコムに譲る。10 年以内に買収・TOB が起きる確率は、参考の試算で 2 割弱ある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
小型電池は、これから最も伸びる領域のひとつだ。医療機器、インフラの計測、タイヤの空気圧センサー、IoT の機器は、電池交換が難しく、信頼性で選ばれる。村田の事業を加え、空気圧センサー向けのシェアは合計で 8 割弱になる。値上げもしやすくなる。
全固体電池は、小型では競合がほとんどいない。会社は 2030 年度に売上 300 億円を目指す。耐熱性があり、産業機器や車載から採用が広がっている。この数字が実現すれば、エネルギー事業の利益率は今の 5% から 10% に近づく。
光学・システムにも上振れの余地がある。次世代のヘッドランプレンズが 2026 年の下期から出荷され、車載カメラのレンズユニットも新製品が控える。半導体向けは、AI 向けの特殊用途ではなく汎用品が中心で、市況が戻れば数量が一気に戻る。
財務の面では、自社株買いと増配で資本効率を上げる姿勢が明確になった。総還元性向 100% 以上を掲げ、629 万株を消却している。ポートフォリオ改革で不採算を切れば、電池以外の事業の利益率も底上げされ、ROE は 13% 前後まで上がる。
銀価格も、価格転嫁の仕組みが整えば利益を圧迫しなくなる。会社は銀連動の販売価格を導入し、反映の期間を縮めている。
慎重な見方
この会社は、過去 10 年のほとんどの期で資本コストを稼げていない。ROE の中央値は 5% を下回り、赤字の期が 3 期あった。会社が掲げた ROIC 7.5% の目標は、予想の 5.5% にとどまり、WACC の 6% 前後を下回っている。
2026 年 3 月期の純利益 83 億円は、中国の子会社を売った特別利益のおかげで膨らんだものだ。本業の営業利益は 79 億円で、15% 減っている。会社は 2027 年 3 月期に 100 億円を見込むが、中計の当初目標には届かない見込みだ。
電池も安泰ではない。酸化銀電池は銀価格の高騰で利益が削られ、価格転嫁が遅れた。中東の情勢で原材料も上がっている。村田から買った事業は、のれんの償却で利益への貢献が薄い。
事業は広く浅い。テープ、レンズ、理美容家電は、競争の厳しい市場で値下がりが続く。車載のカメラ用レンズは新製品の切り替えで落ち込み、シェーバーは米国の関税で数量が減った。全固体電池の 300 億円の目標は、まだ売上が小さく、採算も見えない。
今後 10 年も営業利益率が 6% 前後にとどまれば、ROE は 8% で資本コスト 8.5% に届かない。ためた利益に額面の価値は付かず、倍率は 1÷k を超えにくい。
どちらに重みを置いたか
電池の堀と全固体電池の上振れという見方には根拠がある。ただ、資本効率が資本コストに届かない実績が長く、10 年の中立でも ROE は 8% 前後だ。慎重な見方のほうがやや強い。
確率は中立に 3 割強を置き、慎重側のやや悲観を 24%、悲観を 8% とした。楽観は電池と全固体電池が両方当たる場合に限り、10% にとどめた。財務が軽いので、悲観の下値は限られる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,076 円1,134 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,393 円514 億円)。 今の値に割り戻すと 2,287 円843 億円、今との差 −8.9%、 期待の年率 +5.9%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,242 円2,301 億円 | 2,010 円741 億円 | +228.7% | +12.6% | 825 円304 億円 |
| やや楽観 | 25% | 4,494 円1,657 億円 | 1,685 円621 億円 | +146.1% | +9.4% | 1,545 円569 億円 |
| 中立 | 33% | 3,000 円1,106 億円 | 1,375 円507 億円 | +74.2% | +5.7% | 1,444 円532 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,230 円453 億円 | 1,091 円402 億円 | −7.6% | −0.8% | 557 円205 億円 |
| 悲観 | 8% | 539 円199 億円 | 692 円255 億円 | −51.0% | −6.9% | 98 円36 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,076 円1,134 億円 | 1,393 円514 億円 | +78.0% | +5.9% | 4,469 円1,647 億円 |
今の株価時価総額 2,511 円926 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 小型電池と全固体電池が柱になる 利益 164 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 6,242 円2,301 億円
村田から譲り受けた一次電池が統合の効果を出し、医療機器・インフラ・車載向けの数量が 10 年で 5 割ほど増える。全固体電池は産業機器から車載へ広がり、会社が掲げる 300 億円の売上が現実になる。銀価格は販売価格に素早く転嫁され、エネルギーの営業利益率は 9% に上がる。
光学・システムは、次世代ヘッドランプレンズと車載カメラの新製品が当たり、営業利益率が 12% を超える。機能性部材料は半導体向けテープが戻り、塗布型セパレーターも伸びる。ポートフォリオ改革の効果で、全社の営業利益率は 9% を超え、ROE は 13% 近くになる。自社株買いも続き、資本効率の高い会社として評価される 10 年になる。
- エネルギー(小型電池):数量 12.5(小型電池の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 74(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 929 億円・営業利益 84 億円。一次電池と全固体電池が伸びる
- 機能性部材料(テープ・セパレーター):数量 2.1(粘着テープ等の年間販売面積換算(億㎡、推定))× 価格 282(1 ㎡あたり平均単価(円・名目))→ 売上 591 億円・営業利益 47 億円。半導体向けが戻る
- 光学・システム:数量 1,450(車載光学部品等の年間出荷個数(万個、推定))× 価格 4,060(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 589 億円・営業利益 74 億円。新製品が当たる
- 価値共創事業(理美容・電設工具など):数量 450(機器の年間出荷台数(万台、推定))× 価格 5,360(1 台あたり平均単価(円・名目))→ 売上 241 億円・営業利益 14 億円。横ばいで利益率が少し上がる
倍率:事業の純利益 164 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.9% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.92 倍、時価総額 2,283 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電池の寡占と全固体電池の両方が当たり、他事業の利益率も上がる必要があるため低めに置いた。
やや楽観 25% 電池が伸び、他事業も底上げされる 利益 127 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 4,494 円1,657 億円
一次電池は買収の効果で数量が着実に増え、全固体電池も産業機器向けで売上を積み上げる。ただ、会社の目標ほどには伸びず、利益率はエネルギーで 7% 台にとどまる。
光学・システムは、新製品の効果で利益率が 11% 前後に戻る。機能性部材料は、電動化と半導体の回復で数量が増える。価値共創事業は人口減と競争で横ばいにとどまる。全社の営業利益率は 7.5% 前後、ROE は 10% 台になる。総還元性向は 100% を下回るが、配当は着実に増える。会社の中計の方向どおりに、10 年かけて少しずつ良くなる筋書きだ。
- エネルギー(小型電池):数量 11.8(小型電池の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 72(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 852 億円・営業利益 64 億円。買収の効果で伸びる
- 機能性部材料(テープ・セパレーター):数量 2.0(粘着テープ等の年間販売面積換算(億㎡、推定))× 価格 277(1 ㎡あたり平均単価(円・名目))→ 売上 555 億円・営業利益 39 億円。電動化で数量が増える
- 光学・システム:数量 1,380(車載光学部品等の年間出荷個数(万個、推定))× 価格 3,939(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 544 億円・営業利益 60 億円。新製品で利益率が戻る
- 価値共創事業(理美容・電設工具など):数量 440(機器の年間出荷台数(万台、推定))× 価格 5,360(1 台あたり平均単価(円・名目))→ 売上 236 億円・営業利益 13 億円。横ばい
倍率:事業の純利益 127 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.88 倍、時価総額 1,636 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電池の伸びと買収の統合が順調で、会社の中計の方向に近い筋書き。
中立 33% 電池は堅調、全体の利益率は 6% 台 利益 92 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,000 円1,106 億円
電池は堅調に伸びるが、全体の利益率は過去 10 年の最も良い水準をやや超える程度に落ち着く。村田の事業の統合は終わるが、のれんの償却と増産の投資負担で、エネルギーの営業利益率は 6% にとどまる。
光学・システムは、新製品が出ても値下がりが続き、利益率は 9.5% 前後で止まる。機能性部材料の利益率は 5.5%、価値共創事業は 4.5% で、どちらも競争の中で大きく上がらない。銀価格は転嫁が進むが、毎回少し遅れる。全社の営業利益率は 6% 前後、ROE は 8% で、資本コストにあと少し届かない。配当は性向 30〜40% を保ち、自社株買いで残りを返す。普通の電機メーカーとして成熟する 10 年になる。
- エネルギー(小型電池):数量 11.0(小型電池の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 71(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 783 億円・営業利益 47 億円。数量 1.4 倍・単価は物価並み
- 機能性部材料(テープ・セパレーター):数量 1.9(粘着テープ等の年間販売面積換算(億㎡、推定))× 価格 273(1 ㎡あたり平均単価(円・名目))→ 売上 519 億円・営業利益 29 億円。数量 1.2 倍・単価は物価並み
- 光学・システム:数量 1,300(車載光学部品等の年間出荷個数(万個、推定))× 価格 3,788(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 492 億円・営業利益 47 億円。値下がりで利益率は 9.5%
- 価値共創事業(理美容・電設工具など):数量 430(機器の年間出荷台数(万台、推定))× 価格 5,200(1 台あたり平均単価(円・名目))→ 売上 224 億円・営業利益 10 億円。人口減で数量が細る
倍率:事業の純利益 92 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 1,082 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電池は伸びるが、他事業の利益率は過去の水準から大きく上がらない。過去 10 年の実績に最も近い。
やや悲観 24% 値下がりと需要の振れで利益が細る 利益 51 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 1,230 円453 億円
銀や原材料の高騰、米国の関税、中東の情勢が重なり、価格転嫁が追いつかない期が増える。エネルギーは数量が伸びても利益率が 4% 台にとどまる。
車載レンズでは競合に押され、既存品の値下がりが続く。半導体向けの回復も弱く、機能性部材料の利益率は 4.5% に下がる。シェーバーは関税の影響が残り、数量が減る。全社の営業利益率は 4% 台で、過去 10 年の平均に近い。ROE は 5% を下回り、資本コストを稼げない状態が続く。配当は維持するが、自社株買いは細る。電池の事業は残るが、全体の価値は伸びない 10 年になる。
- エネルギー(小型電池):数量 9.8(小型電池の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 68(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 666 億円・営業利益 30 億円。銀・原材料高で採算が細る
- 機能性部材料(テープ・セパレーター):数量 1.7(粘着テープ等の年間販売面積換算(億㎡、推定))× 価格 261(1 ㎡あたり平均単価(円・名目))→ 売上 444 億円・営業利益 20 億円。競争で利益率が下がる
- 光学・システム:数量 1,150(車載光学部品等の年間出荷個数(万個、推定))× 価格 3,485(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 401 億円・営業利益 28 億円。競合の値下げ
- 価値共創事業(理美容・電設工具など):数量 380(機器の年間出荷台数(万台、推定))× 価格 4,800(1 台あたり平均単価(円・名目))→ 売上 182 億円・営業利益 5 億円。関税と競争で数量減
倍率:ROE 4.9% は資本コストを大きく下回る。PER の上限 1÷k=11.8 倍の 7 割を置いた。稼ぐ力が弱い会社の利益は、先で伸びても資本コストを稼げない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8.24 倍・時価総額 420 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:資本コストを稼げない実績が長いこと、銀・原材料高と関税、競合の値下げが重なる。慎重な見方がやや強いので厚めに置いた。
悲観 8% 競争に押されて構造的に利益が出なくなる 利益 21 億円 · PER 7.8 倍 · 株価時価総額 539 円199 億円
電池の優位が崩れる。新規参入が、医療機器・インフラ向けの一次電池で価格を下げ、酸化銀電池も時計向けの縮小で採算が落ちる。全固体電池は他社の技術に追いつかれ、売上が立たない。
車載のカメラ用レンズは競合に奪われ、半導体向けの部品も置き換えられる。シェーバーなどの家電は撤退を迫られ、リストラの費用がかさむ。全社の営業利益率は 2% 台まで落ち、ROE は 2% 前後になる。ただ、自己資本比率が高く純負債も軽いので、財務が行き詰まることはない。配当は大きく減らし、積み上げた資産から最低限を維持する。優良な電機メーカーではなくなった 10 年だ。
- エネルギー(小型電池):数量 8.0(小型電池の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 61(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 489 億円・営業利益 17 億円。価格競争で採算割れ
- 機能性部材料(テープ・セパレーター):数量 1.4(粘着テープ等の年間販売面積換算(億㎡、推定))× 価格 235(1 ㎡あたり平均単価(円・名目))→ 売上 328 億円・営業利益 13 億円。置き換えで数量が減る
- 光学・システム:数量 900(車載光学部品等の年間出荷個数(万個、推定))× 価格 3,030(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 273 億円・営業利益 14 億円。競合にシェアを奪われる
- 価値共創事業(理美容・電設工具など):数量 300(機器の年間出荷台数(万台、推定))× 価格 4,000(1 台あたり平均単価(円・名目))→ 売上 120 億円・営業利益 1 億円。採算割れで撤退
倍率:悲観の純利益 21 億円は ROE 2.0% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の時価総額÷純利益 8.2 倍より悲観ほど低く置くので、その約 95% の 7.8 倍(時価総額 164.4 億円)とした(稼ぐ力 純利益÷k も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。
確率:電池の優位が崩れ、車載レンズや半導体向けも置き換えられる複合の筋書き。起きにくいが、無視はできない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
エネルギー(小型電池)
酸化銀・リチウム一次電池、ボタン電池、全固体電池など。医療機器・インフラ計測・車載(タイヤ空気圧センサー)向けが中心。
| 数量小型電池の年間出荷個数(億個、推定) | 価格1 個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.0 | 53 | 425 | 21 |
| 10 年後 中立 | 11.0 | 71 | 783 | 47 |
取り方:売上 425 億円を、年約 8 億個(円筒形・コイン形・ボタン形の合計の推定)で割り、1 個あたり price 欄の値(円、名目)とした。開示は個数ではないので推定である。数量は実質。村田の事業の譲受(売上約 120 億円)と医療機器用の増産で 10 年に 1.4 倍まで増やす。単価は名目で、物価 3% と銀価格の転嫁・高機能品への構成の変化で、中立は 10 年 1.34 倍(物価並み)とした。銀価格は数量でなく単価に入れる。
機能性部材料(テープ・セパレーター)
半導体製造工程用や建築用の粘着テープ、ハイブリッド車向けの塗布型セパレーター、工業用ゴム製品。
| 数量粘着テープ等の年間販売面積換算(億㎡、推定) | 価格1 ㎡あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.6 | 204 | 326 | 15 |
| 10 年後 中立 | 1.9 | 273 | 519 | 29 |
取り方:売上 326 億円を、テープ・セパレーター・ゴムを面積に換算した年約 1.6 億㎡で割り、1 ㎡あたり price 欄の値(円、名目)とした。個数でなく面積換算の推定。数量は半導体投資の回復と電動化で 10 年に 1.19 倍。単価は名目で物価並みの 1.34 倍を基本にする(原材料高の転嫁を含む)。
光学・システム
LED ヘッドランプレンズ、車載カメラのレンズユニット、半導体向け装置部品など。
| 数量車載光学部品等の年間出荷個数(万個、推定) | 価格1 個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,200 | 3,030 | 364 | 35 |
| 10 年後 中立 | 1,300 | 3,788 | 492 | 47 |
取り方:売上 364 億円を、年約 1,200 万個で割り、1 個あたり price 欄の値(円、名目)とした(推定)。数量は車載の高機能ヘッドランプレンズの採用増で 10 年に 1.08 倍。単価は名目で、既存品の値下がりが続くため、中立は 10 年 1.25 倍と物価の 1.34 倍に届かせない。理由は、既存品の販売価格の下落が続いているため(2026 年 3 月期に実際に減益要因になった)。
価値共創事業(理美容・電設工具など)
イズミブランドのシェーバーなどの健康・理美容機器、電設工具、音響機器、乾電池など。
| 数量機器の年間出荷台数(万台、推定) | 価格1 台あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 450 | 4,000 | 179 | 8 |
| 10 年後 中立 | 430 | 5,200 | 224 | 10 |
取り方:売上 179 億円を、年約 450 万台で割り、1 台あたり price 欄の値(円、名目)とした(推定)。数量は国内の人口減と米国の関税で 10 年に 0.96 倍。単価は名目で、競争が激しく、中立は 10 年 1.30 倍(物価の 1.34 倍に届かない)。
リスクと懸念
銀価格の高騰と価格転嫁の遅れ
酸化銀電池は銀が主な原材料で、2026 年の急騰で原価が上がった。会社は銀連動の価格スキームを入れたが、転嫁には時間差がある。高止まりが続けば、エネルギーの利益率の回復は計画より遅れる。
買収した一次電池事業の統合
村田製作所から約 80 億円で買った小型一次電池事業は、売上約 120 億円だ。のれんの償却と統合の費用で、当初の利益は数億円にとどまる。顧客や技術者が離れれば、期待した利益が出ない。
資本効率が上がらないリスク
過去 10 年の ROE は中央値で 5% を下回る。中計の ROIC 目標 7.5% は予想で 5.5% にとどまり、資本コストを稼げるかが疑わしい。増産の投資が利益になって戻らなければ、価値は積み上がらない。
半導体・自動車の景気と競争
半導体向けのテープと部品は、半導体の投資循環で数量が大きく振れる。車載レンズは既存品の値下がりが続き、新製品の切り替え期に利益が落ちた。
米国の関税と為替
理美容家電は米国向けが多く、2026 年上期は関税で数量が減った。海外売上は約 53% で、為替の影響も受ける。関税が再び上がれば、価値共創事業は赤字に近づく。
全固体電池の事業化の遅れ
会社は 2030 年度に売上 300 億円を目標にするが、現時点の売上は小さい。採用が増えても採算が見えず、技術面でも他社の追い上げがありうる。上積みとして数えられない。
今後の分かれ目
- 銀価格が高止まりしても、価格転嫁が半年以内に進んだら
- エネルギーの利益率の回復が確かめられたことになり、楽観・やや楽観側の確率を上げる。
- 全固体電池の売上が 2028 年度までに 100 億円を超えたら
- 2030 年度 300 億円の目標が現実味を帯び、楽観の確率を上げる。
- 買収した一次電池事業で顧客の離脱や統合の遅れが出たら
- エネルギーの利益率の前提を下げ、やや悲観の確率を上げる。
- 車載レンズの新製品の採用が遅れ、既存品の値下がりが続いたら
- 光学・システムの利益率を 8% 台に下げ、やや悲観側に寄せる。
- 自社株買いが続き、総還元性向 100% が次の中計でも維持されたら
- 資本効率の改善を評価し、中立の ROE の前提を上げて見直す。
- 米国の関税が再び上がり、理美容家電が赤字に転じたら
- 価値共創事業の撤退・売却を想定し、中立の利益率を下げる。
見ておくもの
- エネルギーの営業利益率(2027 年 3 月期予想 5.8%)の達成度
- 全固体電池の売上と採用先の広がり(2030 年度 300 億円の目標)
- 次の中期経営計画の ROIC・ROE の目標と総還元性向
- 光学・システムの営業利益率(新製品の立ち上がり)
- 銀価格の水準と、販売価格への転嫁の期間
倍率と資本コストの決め方
数量×価格で 4 事業を積み上げ、先に 10 年後の利益と ROE を出してから、式で倍率を決めた。k は基本 7.5% に quality +1.0%(循環 +0.5・値決め +0.5・借金 0・寿命 0)を足した 8.5%。中立の ROE は 8% で k を下回るため、PER は 1÷k=11.8 倍に ROE÷k(0.95)を掛け、さらにその 9 割の 10.0 倍で置いた。楽観・やや楽観は ROE が k を超えるので式の正当化 PER の 9 割と 85% を置いた。今の株価や同業の PER は倍率の根拠にしていない。純負債が軽く余った現金はないので、現金は足していない。今の営業利益は家賃を費用に入れた形で、10 年後も同じ形でそろえた(新リース会計基準で数字の形が変わる点は考慮外)。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約95%に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.53→13.92 倍・やや楽観 PER 10.95→12.88 倍・中立 PER 10.03→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した 8.5%。同領域では、値決め力が弱く循環のあるホシデン(9.0%)より低く、電池に堀があり財務が軽い点でヒロセ電機(7.5%)より高い。個別のリスクは k に足さず、筋書きで表した。