結論
テレビ朝日HDは、地上波の広告収入で稼ぐ放送局の持株会社だ。2026年3月期は視聴率3冠を背景に売上・利益とも上場来最高を付けた。筆者の結論は割高である。売上の7割強をテレビ放送が占め、その大半を占める広告が10年かけて細り、ROEが資本コストに届かないからだ。
今の好業績は山の頂上に近い。会社自身が2027年3月期は営業利益を24%減の200億円と見込む。有明の東京ドリームパーク(TDP)の開業費が重いうえ、広告の先行きも読みにくい。過去10年の営業利益率は4〜6%台が普通で、7%台は例外だった。
明るい材料もある。新しい経営計画は2029年度に営業利益330億円を掲げ、配当性向を40%に引き上げた。政策保有株の売却と自社株買いも進む。村上世彰氏の長女が1.86%を持つ株主に加わったことも、資本効率の改善を後押しする。それでも、広告の縮みを埋めるTDPとIPが利益に化けるのは先の話だ。
10年後の中立では営業利益は260億円ほど、ROEは4%台にとどまる。稼ぎに見合う倍率を掛けても、今の時価総額を割り込む。強気の筋書きなら今の値段を大きく上回るが、その確率は1割ほどだ。純現金は厚いが、事業に必要な分であり、余りとは見ていない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い放送局」だが「良い事業」とは言いにくい。理由は、事業が10年後も今より強くなっているか、確信が持てないことにある。
稼ぐ力はある。視聴率3冠で広告の売上は過去最高になった。ただし、オーナーの手元に残る利益は多くない。放送設備の更新やTDPの建設、番組制作費と、再投資の負担が重い。資本の効率でもROEが6%台と、記録的な年でも資本コストを下回る。この水準のまま利益をためても、ためた利益は額面の価値にならない。
経営者の資本配分は、改善の途上にある。政策保有株を売り、配当性向を引き上げたのは評価できる。一方、TDPに加えて1,000億円の戦略投資枠でM&Aも行う。放送局は買収が本業ではなく、筆者はここを最も警戒している。
安全域は薄い。純現金は440億円で時価総額の約14%と手厚いが、成長投資の枠がそれを上回る。余った現金とは見なさなかった。中立でも、10年後の価値は今の時価総額を割り込む。わかりにくい事業でもないが、広告の構造的な縮みという一点が、確信度を下げる。この値段なら、オーナーとして持ち続けたいとは思わない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、地上波の番組にスポンサーがお金を払うことだ。会社は2026年4月から報告セグメントを二つに改めた。
一つ目は「メディア・コンテンツ」で、全体の9割超を占める。テレビ放送、インターネット(TVerなど配信の広告)、ショッピングを束ねている。2026年3月期のテレビ放送は売上が約2,490億円、営業利益が約190億円だった。広告のうち、番組に付くタイム収入と、時間枠を売るスポット収入が柱になる。配信側では、TVerなどのデジタル広告収入が2024年度に前期比で46%伸びた。
二つ目は「TDP・イベント」だ。従来のシアター・イベントと音楽出版に、2026年3月27日に開業した東京ドリームパークが加わる。有明にある延べ床約4万6千平方メートルの施設で、3,700席のホールを持つ。立見なら最大5,000人が入る。ドラえもんなど自社のIPを使い、広告以外の収入を増やす狙いだ。会社は初年度に200万人超の来場を見込む。
不動産賃貸やリースなどは「その他」にまとまり、売上は40億円ほどと小さい。本社は六本木ヒルズにある。
顧客は広告主が中心だが、広告代理店を通す取引が多く、値段は市場で決まる面が強い。新しい二つ目の柱は、まだ利益を出していない。なお、サイバーエージェントと組むABEMAは持分法の会社で、累積損失が消えるまで利益は取り込まれない。
優良さと弱いところ
テレビ朝日の強みは、番組を作る力と、見られる力だ。2025年は暦年・年度とも、個人全体の視聴率で3冠(全日・ゴールデン・プライム)を取った。報道ステーションなどの報道・情報番組が土台になる。ドラえもん、クレヨンしんちゃん、仮面ライダーなど、世代をまたぐIPを持つ点も大きい。
ただし、堀、つまり他社がまねできない強みは、並みの水準だ。視聴率の順位は年ごとに入れ替わる。広告の値段は市場で決まり、値上げで稼ぎを守る力は強くない。電波の免許は参入障壁になるが、広告の出し手がインターネットへ移れば、免許の価値も下がる。筆者は強い堀とは見ない。
資本の効率は低い。過去10年のROEの中央値は5%に届かない。自己資本は4,650億円まで膨らみ、中には配当収入しか生まない政策保有株が含まれる。2026年3月期のROEは6.4%と、記録的な好業績の年でも資本コストを下回る。ここが最大の弱点だ。
財務は堅い。自己資本比率は8割で、純現金が440億円ある。借金で苦しむ心配はない。一方で経営の資本配分は変わりつつある。政策保有株を縮め、配当性向を40%にし、自社株買いも明示した。方向は正しいが、実績はこれからだ。
会長の早河洋氏は、2025年の報道時点で81歳だった。世代交代と、親会社筋の朝日新聞社(20%強)との関係がどう動くかも見ておきたい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地上波の広告は、横ばいから緩やかな縮小の局面にある。2025年のテレビメディア広告費は約1兆7,600億円で、前年とほぼ同じだった。一方、インターネット広告費は総広告費の過半に達した。広告主の財布は、放送から動画・検索・SNSへ流れ続ける。
放送各社の対応は似ている。見逃し配信(TVer)、アニメ・ドラマのIP化、海外販売、イベントや不動産だ。テレビ朝日の経営計画も、同じ道を行く。アニメ枠の増設、深夜帯の改革、北米・インドなど海外IPの展開を掲げる。有明のTDPで、リアルのイベントにも手を広げる。
競争相手は、同じ周波数帯の日本テレビ、TBS、フジ・テレビ、テレビ東京に加え、NetflixやAmazonなどの動画配信、そしてYouTubeだ。日本テレビは不動産と政策保有株の資産が厚く、TBSは不動産と配信の両輪を持つ。テレビ朝日は、これらに比べて不動産の厚みが薄い。その分、広告の出入りが利益にそのまま響く。
広告収入は景気にも敏感だ。2008〜09年には、広告費が2〜3割落ちた。人口減少も効く。放送という事業の寿命は短くないが、広告が10年で3〜5割縮む筋書きは、荒唐無稽ではない。中立では、放送広告は名目でも年1〜2%の縮小と見る。配信や非広告事業は、年5〜10%の成長で一部を埋める。
今は、中東情勢などで広告出稿が慎重になるリスクも出ている。会社の2027年3月期のタイム・スポット広告の見通しは、いずれも前期より減収だ。
資本政策と M&A
資本政策は、守りから攻めへ動く途中にある。経営計画2026-2029では、4年間で成長投資に1,000億円、株主還元に500〜600億円、放送設備の更新やAI投資に400億円以上を振り向ける。配当は、これまでの安定配当から配当性向40%を目安にする方針に変えた。機動的な自社株買いも明記した。
原資の一つが政策保有株だ。会社は4年で200〜250億円を売り、純資産に占める比率を10%台前半まで下げる。2025年4月には、朝日新聞社と大日本印刷が計200億円規模の株を市場に売り出し、会社も最大30億円の自社株買いで受け止めた。朝日新聞社は今も約20%を持つ筆頭株主だ。
2026年6月には、村上世彰氏の長女の野村絢氏が1.86%を持つ第8位の株主になったと報じられた。資本効率の改善を求める圧力が、一段と強まるとみる向きがある。
M&Aは、成長投資の枠が実際の買収に向かうかどうかが焦点だ。CVC(企業の投資ファンド)を通じて30社ほどに投資する。成功すれば新しい柱になるが、放送局は買収を本業とする会社ではない。価値を壊すリスクは、確率に入れてある。
TOBについては、親会社筋の朝日新聞社が20%を持ち、放送法の外資規制もある。敵対的な買収はしにくい。ただし、非公開化や再編の話が出る余地は残る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
テレビ朝日は、視聴率で3冠を取り、番組の力がいま業界の頂点にある。この力は、一時的な運ではない。報道ステーション、ドラマ、バラエティ、スポーツ中継、そしてドラえもんやクレヨンしんちゃんのアニメと、強いIPが揃う。広告主が最も重視するのは、見られる番組だ。視聴率で首位を保てば、スポットの単価も保てる。
広告の縮みは、会社の動きで埋められる。TVerなどの配信広告は2024年度に前期比で46%伸び、アニメ枠を増やし、海外の北米・インドへIPを売る。有明のTDPは、広告と無関係な収益の柱になる。初年度から200万人の来場を見込み、ホールは3,700席、立見で5,000人が入る。ライブとIPイベントの稼働が上がれば、固定費の重さは薄まる。
資本政策は大きく変わった。配当性向40%、機動的な自社株買い、政策保有株の売却と、すべて株主に向く。村上氏の長女が株主に入り、資本効率の圧力も強い。ABEMAも累積損失を解消すれば、持分法で利益が上乗せされる。
こうした条件が揃えば、2029年度の営業利益330億円は通過点にすぎない。10年後には営業利益500億円、ROEは資本コストに近づく。広告の形は変わっても、地上波は日本最大のマスメディアであり続ける。そう考えれば、広告が崩れる前提は置けない。
慎重な見方
2026年3月期の利益は、山の頂上に近い。会社自身が、2027年3月期は営業利益を24%減の200億円と見る。TDPの開業費がかかる一方で、広告は減る見込みだ。3冠はいつまでも続かない。視聴率の順位は数年で入れ替わり、その都度、単価は押し戻される。
インターネット広告が総広告費の過半を占めたことが、根本の問題だ。広告主は、成果が測れる広告へ予算を移し続ける。地上波の広告費は横ばいに見えても、物価が3%で上がる中で名目が横ばいなら、実質では毎年縮んでいる。人件費と制作費は物価で上がる。値上げが利かなければ、利益率は削られる。
TDPとIPは、まだ利益を出していない。会社が見込む2029年度のTDP・イベントの営業利益は40億円で、広告で失う分の一部にすぎない。有明は都心から離れ、5,000人規模のホールを毎日埋めるのは容易ではない。固定費と減価償却は、動員が足りなければそのまま重荷になる。
資本の効率も低い。ROEは過去10年の中央値で5%に届かず、新しい経営計画でも2029年度に7%台だ。資本コストを下回るROEの会社に、高い倍率は付かない。1,000億円の戦略投資は、放送局が不得意な買収に向かうリスクを抱える。
ABEMAも、利益を取り込めるのは累積損失が消えてからで、まだ先だ。10年後、広告が3割減り、TDPが重荷になった姿は、十分ありうる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方の方が強い。10年後の中立でも、営業利益は今の水準にとどまり、ROEは4%台と資本コストの8.5%を大きく下回る。強気の見方が頼りにする3冠・配信・TDPは、どれも利益の山を作る力はあるが、広告の縮みを埋めきるには時間が足りない。
経営計画の目標(2029年度の営業利益330億円)は、中立にも強気にも入れなかった。広告が名目で縮む中で、そこまで伸ばす根拠が薄いからだ。確率は中立を中心に、やや悲観側に少し寄せた。悲観は、広告の構造的な縮みとTDPの失敗が重なる筋書きとして12%に置いた。純現金と政策保有株の売却があるため、悲観でも事業が潰れる心配はない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,939 円3,961 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,410 円1,418 億円)。 今の値に割り戻すと 2,784 円2,800 億円、今との差 −17.1%、 期待の年率 +4.8%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 11% | 7,472 円7,513 億円 | 2,486 円2,500 億円 | +196.4% | +11.5% | 1,095 円1,101 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,399 円5,428 億円 | 1,890 円1,900 億円 | +116.9% | +8.1% | 1,603 円1,612 億円 |
| 中立 | 32% | 4,384 円4,408 億円 | 1,442 円1,450 億円 | +73.4% | +5.7% | 1,864 円1,875 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,926 円1,937 億円 | 895 円900 億円 | −16.0% | −1.7% | 649 円652 億円 |
| 悲観 | 12% | 696 円700 億円 | 448 円450 億円 | −66.0% | −10.2% | 137 円138 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,939 円3,961 億円 | 1,410 円1,418 億円 | +59.2% | +4.8% | 5,349 円5,379 億円 |
今の株価時価総額 3,360 円3,378 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 11% 3冠とIPが広告の縮みを上回り、TDPも収益の柱になる 利益 533 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 7,472 円7,513 億円
視聴率の首位級を保ち、広告の単価を守る。TVerなど配信の広告とアニメ・ドラマのIPが育ち、海外販売も北米・インドで軌道に乗る。メディア・コンテンツの売上は今より3割ほど伸びる。
TDPは来場者が計画を上回り、ホールとイベントの稼働が高まる。TDP・イベントの売上は800億円を超え、営業利益率は13%に乗る。会社が掲げた2029年度の営業利益330億円も、10年後には大きく超える。
政策保有株の売却と配当性向40%、自社株買いで還元が厚くなり、ROEは資本コストに近づく。ABEMAも累積損失を解消し、営業外で利益が上乗せされる。それでも、広告の実質的な縮みは止まらず、利益率の上振れは広告以外の伸びに支えられる。
- メディア・コンテンツ(テレビ放送・配信・ショッピング・その他):数量 2,990(テレビ広告市場(実質、億円)× 当社の売上シェア(2026/03 約17.9%)に換算した、実質の売上規模(億円))× 価格 140.0%(広告・配信の単価指数(2026/03=1.00。名目、物価3%なら10年で1.34))→ 売上 4,186 億円・営業利益 398 億円。営業利益率9.5%
- TDP・イベント(東京ドリームパーク・シアター・音楽出版):数量 1,400(来場・利用者相当(万人。音楽出版などは1人当たりに換算した推定))× 価格 60.4%(1人当たり売上(万円。名目、物価3%なら10年で1.34倍))→ 売上 846 億円・営業利益 110 億円。営業利益率13%
倍率:事業の純利益 527 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)354 億円。全体の PER 13.6 倍、時価総額 7,249 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:3冠の維持、配信とIPの成功、TDPの高稼働、ABEMAの黒字化がすべて揃う必要があり、実現すれば大きいが、揃う確度は低い。10年の広告の縮みを考えると、強気の確率は1割ほどに抑えた。
やや楽観 22% 配信とIPが育ち、広告の縮みを一部埋める 利益 389 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 5,399 円5,428 億円
3冠は続かないが、上位を保つ。配信とアニメIPが年5〜10%伸び、広告の実質的な縮みをほとんど相殺する。メディア・コンテンツの売上は、名目で10年に2割弱増える。営業利益率は8%に乗り、スポットの単価も物価に近い伸びを保つ。
TDPは初年度の想定どおり稼働し、イベントの売上は670億円ほどになる。営業利益率は11%だ。経営計画の2029年度目標には届かないが、その水準を上回る形で定着する。
還元は計画どおりに進み、ROEは6%台に上がる。放送の広告が縮む中でも、会社の動きが空白を埋める筋書きで、今の好業績が10年先まで大きくは崩れない。ただし、ROEは資本コストに届かないままだ。
- メディア・コンテンツ(テレビ放送・配信・ショッピング・その他):数量 2,705(テレビ広告市場(実質、億円)× 当社の売上シェア(2026/03 約17.9%)に換算した、実質の売上規模(億円))× 価格 137.0%(広告・配信の単価指数(2026/03=1.00。名目、物価3%なら10年で1.34))→ 売上 3,706 億円・営業利益 297 億円。営業利益率8.0%
- TDP・イベント(東京ドリームパーク・シアター・音楽出版):数量 1,150(来場・利用者相当(万人。音楽出版などは1人当たりに換算した推定))× 価格 58.3%(1人当たり売上(万円。名目、物価3%なら10年で1.34倍))→ 売上 671 億円・営業利益 74 億円。営業利益率11%
倍率:事業の純利益 383 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)354 億円。全体の PER 13.22 倍、時価総額 5,140 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:配信とIPが育ち、TDPも想定どおり動く、経営計画の延長線に近い筋書き。強気より起こりやすいが、広告の縮みの速さ次第なので2割強にとどめた。
中立 32% 広告は名目でも緩やかに縮み、新しい柱が下支えする 利益 274 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 4,384 円4,408 億円
地上波の広告は、人口減少とインターネット広告への移行で、名目でも年1〜2%の緩やかな縮小が続く。一方、配信とIPが年5〜10%伸びて部分的に相殺する。メディア・コンテンツの売上は名目で今より小幅に増える程度だ。
視聴率の順位は入れ替わり、3冠の年は例外になる。広告の単価は物価ほどには上がらず、人件費と制作費の上昇が利益率を押し下げる。営業利益率は6%台に戻る。
TDPは軌道に乗るが、営業利益率は9%にとどまる。2029年度の営業利益330億円の目標には届かず、10年後も260億円前後だ。純利益は今の水準を下回り、ROEは4%台になる。
- メディア・コンテンツ(テレビ放送・配信・ショッピング・その他):数量 2,422(テレビ広告市場(実質、億円)× 当社の売上シェア(2026/03 約17.9%)に換算した、実質の売上規模(億円))× 価格 134.0%(広告・配信の単価指数(2026/03=1.00。名目、物価3%なら10年で1.34))→ 売上 3,245 億円・営業利益 211 億円。営業利益率6.5%
- TDP・イベント(東京ドリームパーク・シアター・音楽出版):数量 1,000(来場・利用者相当(万人。音楽出版などは1人当たりに換算した推定))× 価格 55.8%(1人当たり売上(万円。名目、物価3%なら10年で1.34倍))→ 売上 558 億円・営業利益 50 億円。営業利益率9%
倍率:事業の純利益 268 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.3% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)354 億円。全体の PER 13.52 倍、時価総額 3,708 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの中立(放送広告は名目で年1〜2%の縮小、配信・非広告が年5〜10%で相殺)を、この会社の構造に当てはめた。意見が分かれる中で、最も確度が高い。
やや悲観 23% 広告の縮みが加速し、TDPも伸び悩む 利益 109 億円 · PER 10.6 倍 · 株価時価総額 1,926 円1,937 億円
インターネット広告への移行が想定より速く進み、地上波の広告は実質で3割以上縮む。視聴率で2位以下に落ちる年が続き、スポットの単価も押し戻される。メディア・コンテンツの売上は名目で2割弱減る。
人件費と制作費の上昇を値上げで吸収できず、営業利益率は3%台に落ちる。TDPは動員が足りず、営業利益は20億円に届かない。配当は維持するが、自社株買いは細る。配信とIPの伸びも、広告の落ち込みを埋めるには足りない。
ROEは2%を割り、資本コストを大きく下回る。1,000億円の戦略投資も目立った成果を出せない。価値の中心は、残った稼ぐ力と純現金になる。
- メディア・コンテンツ(テレビ放送・配信・ショッピング・その他):数量 2,013(テレビ広告市場(実質、億円)× 当社の売上シェア(2026/03 約17.9%)に換算した、実質の売上規模(億円))× 価格 130.0%(広告・配信の単価指数(2026/03=1.00。名目、物価3%なら10年で1.34))→ 売上 2,617 億円・営業利益 92 億円。営業利益率3.5%
- TDP・イベント(東京ドリームパーク・シアター・音楽出版):数量 800(来場・利用者相当(万人。音楽出版などは1人当たりに換算した推定))× 価格 54.2%(1人当たり売上(万円。名目、物価3%なら10年で1.34倍))→ 売上 433 億円・営業利益 17 億円。営業利益率4%
倍率:事業に要らない資産354億円(持ち合い株の評価差額金と賃貸不動産の含み益の税後、戻り方0.5)を分けると、事業の純利益104億円・事業のROE1.9%。ROEがk8%以下なので、ためた利益は額面に満たない価値で、PERは1÷k=11.8倍まで。上限は事業104億円×11.8倍+余った資産177億円=1,400億円。成長と堀の持ちを低く見るので、上限を下回らせる。やや悲観は上限の8.0割に置き、時価総額1,156億円、全体のPERに直して10.62倍。
確率:インターネット広告への移行が想定を超える、業種共通の構造変化をこの会社に当てた。視聴率の順位が落ちる年が続く可能性は、3冠の例外性を考えると低くない。
悲観 12% 広告の構造的な縮みとTDPの失敗が重なる 利益 12 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 696 円700 億円
広告収入が10年で4割ほど縮み、視聴率の優位も失う。放送の固定費(番組・設備・人件費)は削りきれず、メディア・コンテンツの営業利益はほぼ消える。TVerなど配信の広告も、プラットフォームの側に値段を決められて伸びない。
TDPは来場者が伸びず、固定費と減価償却が重荷になる。TDP・イベントは赤字に沈み、一部の減損も出る。成長投資のM&Aも成果を出せず、配当は絞られる。
こうなると、株主が頼れるのは純現金と政策保有株の売却代金だ。それでも事業が潰れるわけではなく、資産の価値が床になる。放送免許と六本木の本社という資産は残るが、利益を生む力は大きく損なわれる。
- メディア・コンテンツ(テレビ放送・配信・ショッピング・その他):数量 1,510(テレビ広告市場(実質、億円)× 当社の売上シェア(2026/03 約17.9%)に換算した、実質の売上規模(億円))× 価格 125.0%(広告・配信の単価指数(2026/03=1.00。名目、物価3%なら10年で1.34))→ 売上 1,888 億円・営業利益 19 億円。営業利益率1.0%
- TDP・イベント(東京ドリームパーク・シアター・音楽出版):数量 600(来場・利用者相当(万人。音楽出版などは1人当たりに換算した推定))× 価格 50.0%(1人当たり売上(万円。名目、物価3%なら10年で1.34倍))→ 売上 300 億円・営業利益 −9 億円。営業利益率-3%
倍率:悲観は広告の構造的な縮みとTDPの失敗が重なる筋書きで、事業の純利益12億円÷k8%の稼ぐ力は約139億円にとどまる。純現金と政策保有株の売却の税後を足した売れる資産の床は約700億円(floor_assets_oku)で、稼ぐ力より大きいので、その大きい方の700億円まで置く。今の自己資本4,653億円に対するPBRに直すと0.15倍で、床は帳簿の自己資本ではなく稼ぐ力と売れる資産で決めている。
確率:広告の構造的な縮みとTDPの失敗が重なる複合の筋書き。放送局に固有の固定費の重さと、投資の成果が出ない可能性を見て、1割強に置いた。純現金と政策保有株の売却が床になるため、確率はこれ以上上げなかった。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
メディア・コンテンツ(テレビ放送・配信・ショッピング・その他)
地上波の広告(タイム・スポット)、TVerなど配信の広告、ショッピングなどを束ねた報告セグメント。不動産賃貸・リースの小さな収入も含めて置いた。
| 数量テレビ広告市場(実質、億円)× 当社の売上シェア(2026/03 約17.9%)に換算した、実質の売上規模(億円) | 価格広告・配信の単価指数(2026/03=1.00。名目、物価3%なら10年で1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,145 | 100.0% | 3,145 | 262 |
| 10 年後 中立 | 2,422 | 134.0% | 3,245 | 211 |
取り方:2025年のテレビメディア広告費1兆7,556億円(業種ノート)に対し、会社が示す新セグメント(2025年度の参考値:メディア・コンテンツ3,070億円・TDP・イベント250億円・その他40億円)を2026/03実績の連結売上3,395億円に合わせて按分した。メディア・コンテンツとその他を合わせて約3,145億円(市場の約17.9%)、営業利益は連結262億円の全部をここに置いた(TDP・イベントの営業利益は参考値で「ー」)。開示は新セグメントの実績が出る前の推定。
TDP・イベント(東京ドリームパーク・シアター・音楽出版)
2026年3月開業の有明の東京ドリームパーク、シアター・イベント、音楽出版。広告に頼らない新しい柱として、経営計画では2029年度に売上460億円・営業利益40億円を目標に置く。
| 数量来場・利用者相当(万人。音楽出版などは1人当たりに換算した推定) | 価格1人当たり売上(万円。名目、物価3%なら10年で1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 41.7% | 250 | 0 |
| 10 年後 中立 | 1,000 | 55.8% | 558 | 50 |
取り方:会社の2025年度参考値(売上250億円・営業利益『ー』)。来場者数は開示がないため、既存のシアター・イベント・音楽出版を1人当たりに換算した推定で、600万人相当×1人当たり0.4167万円=250億円とした。TDPは2026年3月27日開業のため、2026/03の実績にはほぼ含まれない。数量は実物(来場・利用者数)で、2026 年 3 月に開業した東京ドリームパークの来場が積み上がる事実による。名目の市場の伸びは置いておらず、物価は 1 人当たり売上の 1.34 倍だけで見ている。
リスクと懸念
広告の構造的な縮み
インターネット広告が総広告費の過半を占め、地上波の広告費は横ばい〜縮小が続く。物価が3%で上がる中で名目が横ばいなら、実質は毎年縮む。人件費と制作費は物価で上がるため、値上げが利かなければ利益率が削られる。10年で広告が3〜5割縮む筋書きは、悲観に織り込んだ。
視聴率3冠の揺り戻し
2025年の3冠は、報道・情報番組の強さに支えられた。視聴率の順位は数年で入れ替わり、広告のスポット単価は順位に連動する。3冠が崩れると、2026年3月期に66%増えたテレビ放送の営業利益は、その分だけ戻される。会社自身が2027年3月期を営業減益と見ている点も重い。
TDPの稼働と固定費
有明のTDPは延べ床約4万6千平方メートル、ホールは立見で5,000人を収容する。初年度200万人超の来場を見込むが、毎日のように埋めるには、人気の公演やIPイベントを切らさず入れ続けなければならない。動員が足りなければ、固定費と減価償却がそのまま重荷になる。会社の2029年度のTDP・イベント営業利益は40億円と、まだ小さい。
成長投資とM&Aでの価値の毀損
4年で1,000億円の戦略投資枠があり、CVCで30社ほどに投資し、M&Aも行う方針だ。放送局は買収が本業ではなく、投資の目利きが育っていない中で、純現金440億円を上回る枠を使う。高い値段で買えば、ROEがさらに下がる。
広告の景気感応度
広告費は景気の影響を強く受ける。2008〜09年には2〜3割落ちた例がある。2027年3月期は、中東情勢でスポンサーの出稿が慎重になる懸念が、会社の見通しにも出ている。放送設備や番組制作費は固定的で、売上が落ちると利益は大きく減る。
資本効率の低さとガバナンス
ROEは過去10年の中央値で5%に届かず、2029年度目標でも7%台にとどまる。朝日新聞社が約20%を持つ筆頭株主で、政策保有株の縮減も会社の判断次第だ。村上世彰氏の長女が1.86%を持つ株主に加わったが、変化の速さは読めない。経営トップの世代交代も課題だ。
ABEMAの利益が見えない
サイバーエージェントと組むABEMAは持分法の会社で、会社は累積損失が消えるまで利益を取り込まない考えを示した。AbemaTVは2025年9月期に営業損失46億円と赤字幅を縮めたが、本体の利益に寄与するのは先だ。投資の回収は長引く可能性がある。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益が会社見通しの200億円を大きく上回って着地したら
- 広告の底堅さが想定以上ということなので、やや強気の筋書きに確率を移してよい。ただし、単年の上振れだけでなく、複数年続くかを確認する。
- TDPの来場者が初年度200万人を大きく下回ったら
- 固定費が重荷になる悲観寄りの筋書きに確率を寄せる。逆に、IPイベントの稼働が高く、営業利益が計画線(2029年度に40億円)を超えれば、強気寄りに移す。
- 政策保有株の売却を200〜250億円から大幅に積み増し、自社株買いを増やしたら
- 資本効率が計画より速く改善する。事業の価値は変わらないが、株主に戻る額が増えるため、還元の合計を上方に直す。
- 1,000億円の成長投資枠で、本業と関係の薄い大型のM&Aを発表したら
- 価値の毀損リスクが現実になる。中立より下の筋書きへ確率を移し、買収後のROEを見直す。
- インターネット広告への移行が加速し、テレビ広告費が名目でも前年を2年続けて2割近く割り込んだら
- 10年の悲観の筋書き(広告の構造的な縮み)に近づく。確率を悲観側に寄せる。
- ABEMAの累積損失が解消し、持分法利益が本体の純利益に入り始めたら
- 営業外収益が増える。純利益と営業利益の比を上方に直し、純利益の水準を上げる。
見ておくもの
- 個人全体・世帯の年間視聴率(3冠の維持)と、タイム・スポット広告収入の前年比
- 2027年3月期の営業利益(会社見通し200億円)と、2029年度目標(営業利益330億円)への進み具合
- TDPの来場者数・ホールの稼働と、TDP・イベント事業の営業利益(2029年度に40億円)
- 政策保有株の売却額(4年で200〜250億円)と純資産に占める比率、自社株買いの規模
- 配当性向40%目途の実行と、1,000億円の戦略投資枠の使い道(M&A・CVC)
- ABEMAの黒字化と、持分法損益への取り込みの時期
倍率と資本コストの決め方
今の株価や同業のPERは見ずに、メディア・コンテンツ(広告市場の実質×売上シェア×単価指数)とTDP・イベント(来場者×1人当たり売上)で10年を積んだ。倍率は式の上限に対する位置で置いた。ROEが資本コストを下回るため、中立でも上限は1÷k(k8%)、堀は並みで残る割合1/2。中立は上限の8割、楽観は上限の9.5割に置き、悲観は純現金と政策保有株の売却の税後(床)まで。純現金442億円は、成長投資1,000億円の枠・放送設備更新・TDPの減価償却を考えて余りとは見なしていない。旧基準の実績と同じ形(家賃を費用に入れた形)で10年後を置いたため、新リース会計基準(2028年3月期から)の形の変化は織り込んでいない。リース負債の大きさは未確認で、賃借を中心にした事業ではない。 持ち合い株の評価差額金(税後420億円)と賃貸不動産の含み益の税後を余った資産472億円とし、戻り方0.5で足した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.68→13.6 倍・やや楽観 PER 11.02→13.22 倍・中立 PER 10.62→13.52 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%+quality+1.0%=8.5% 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。