結論
IHIは、航空機エンジン、発電や環境のプラント、物流・産業機械を持つ複合の重工業だ。いまの稼ぎの中心は、民間エンジンの補修部品と、防衛の仕事に移っている。
筆者の結論は、追い風は本物だが、値段は先を行き過ぎている、というものだ。確率で重みを付けた価値は、今の時価総額を4割ほど下回る。
民間エンジンは、PW1100G-JMなど複数の機種に部品で参加している。機体が売れて飛び続けるかぎり、補修部品の需要は積み上がる。防衛は、2026年度の防衛費が9兆円規模に増え、会社は2030年度に防衛売上2,500億円を掲げる。
それでも10年の中立で、時価総額は今の1.05倍にとどまる。今の値段に見合うのは、楽観とやや楽観の筋書きだけだ。
もう一つ、筆者が重く見る点がある。この会社は、2007年の海外プラント事業の虚偽記載と増資、2019年の航空エンジンの検査不正、2024年の子会社のデータ改ざんと、似た問題をくり返してきた。自己資本比率も27%と薄い。今の値段は、好調が続き、問題も再発しないという前提を強く置いている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、IHIは一度採用された航空エンジンプログラムが数十年にわたり保守・部品収益を生むという意味で、堀を持つ事業であることは間違いない。防衛も装備体系への組み込みという形で切り替えコストが高く、日本の防衛費増額という政策の後押しも当面続く構造にある。
ただし、オーナー利益(再投資後に株主に残る利益)を考えるうえでは、自己資本比率27%という財務体質の弱さと、3年で6,500億円という大型投資計画が、稼いだ利益の多くを再投資に回す必要を示している点に注意が要る。経営の資本配分についても、過去に大型M&Aで価値を壊した記録は少ないものの、2007年のプラント事業の虚偽記載、2019年の検査不正、2024年の子会社データ改ざんという繰り返すガバナンスの問題は、経営が内部統制を安定して機能させられるかという点で安全域を狭める。
楽観の筋書きが続けば本質的な価値は大きいが、問題の再発や防衛予算の政策変更という不確実性を踏まえると、今の株価はすでにかなり先の成功まで前払いしているように見え、安全域は薄い。
何で稼ぐ会社か
IHIの事業は大きく4つに分かれる。民間航空エンジンは、エアバスA320neo向けPW1100G-JM(プログラムシェア約15%)のファンモジュールや低圧圧縮機の一部、GEnx・V2500・GE90・CF34など複数世代のエンジンに部品や整備で参画する構造で、新造機の納入だけでなく、保有機が増えるほど積み上がる保守・修理・部品交換(アフターマーケット)が収益の軸になる。改良型「GTF Advantage」も型式承認を取得し、既存プログラムの延命と単価上昇に効く。
防衛は航空エンジン(戦闘機・輸送機用)、艦艇用エンジン、誘導武器関連などを手掛け、日本の防衛費増額の直接的な受益者になっている。資源・エネルギー・環境はボイラー、原子力機器、ごみ処理・環境プラントなどで、脱炭素と原子力再稼働の両方に関わる。社会基盤・物流・産業機械は橋梁、シールド掘進機、車両用過給機、パーキングシステム、回転機械などをまとめた区分で、建設・物流・自動車部品に近い需要を持つ。
顧客は航空機メーカー・エンジンメーカーの国際共同開発パートナー、防衛省、電力・ごみ処理事業者、ゼネコン・自動車メーカーなど幅広く、単一の顧客や市場に依存しない複合経営がIHIの特徴だが、裏返せば各事業の規模が中途半端で、どの分野でも単独の世界首位ではないという弱さも併せ持つ。
優良さと弱いところ
IHIの堀は民間航空エンジンの国際共同開発プログラムへの参画そのものにある。一度プログラムに採用されると、機体が現役である数十年にわたり部品供給と保守の仕事が続くストック型のビジネスで、新規参入はほぼ不可能に近い。防衛事業も長期の装備体系に組み込まれるため、同様に切り替えコストが高い。
一方で、過去に繰り返しガバナンスの問題を起こしている点は優良さを傷つける。2007年には海外プラント事業の工事進行基準を不適切に運用し、有価証券報告書の虚偽記載と増資・社債発行に関わる問題で当時最大級の課徴金を受けた。2019年には航空エンジンの検査不正が211件見つかり、部品の自主回収と改善命令につながった。2024年には子会社IHI原動機で船舶・陸上用エンジンの試運転データ改ざんが発覚しており、品質管理の文化が十分に定着していない疑いが残る。自己資本比率は27%と重工業の中でも低めで、純負債は自己資本の0.31倍にとどまるものの、財務の余力は大きくない。資本効率(ROE)は直近で24%台まで改善したが、これは防衛・航空の急伸に加えて一時的な要因も含むとみられ、持続性は未知数である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
東証33業種「機械」の中でIHIは、三菱重工業と並ぶ重工業・防衛・エネルギーの会社に位置づけられる。日本の防衛費は2026年度に過去最大の9兆円規模へ拡大し、重工大手の防衛受注残は前期比+15%の6兆円超に積み上がっている局面で、防衛費増額サイクルの初期〜中期にある。会社は2030年度に防衛事業売上を2,500億円規模へ拡大する目標を掲げ、ロケットモーターや航空エンジンを中心に営業利益率10%程度を目指すとされる。
民間航空エンジンは、世界の旅客需要がコロナ前を上回って拡大を続け、新造機の生産回復ペース(ボーイング・エアバスの増産)に加えて、保有機が積み上がるほど厚くなるアフターマーケットが成長の軸になる。2030年度に民間エンジン事業売上4,500億円・営業利益率20%という目標も、新造機よりアフター収益の拡大を前提にしている。
資源・エネルギー・環境は脱炭素とアンモニア混焼・原子力関連機器への投資、社会基盤・物流・産業機械は建設・インフラ更新需要と自動車・物流向け部材の循環に連動する。全体としては、建機や工作機械のような世界的な資本財サイクルの谷からの持ち直しという文脈よりも、日本の防衛政策と世界の航空需要という2つの構造要因に強く規定される会社で、同業他社(三菱重工業・川崎重工業)との防衛・航空エンジン受注の奪い合いが競合の軸になる。
資本政策と M&A
資本政策は配当と自社株買いを組み合わせた株主還元に加えて、航空・防衛・資源エネルギー環境の3年で6,500億円という大型の投資計画を進めている段階にある。過去に大型のM&Aで事業の柱を一新した実績は乏しく、既存の国際共同開発プログラムへの参画拡大と設備投資が成長の主な手段になっている。自己資本比率が27%と低めであることから、投資の積極化は財務レバレッジを高める方向に働きやすく、配当の原資と投資のバランスが今後の資本配分の論点になる。防衛関連の受注拡大に伴う工事進行基準の収益認識は、2007年の虚偽記載問題の震源でもあったため、同種の会計処理が再び問題化しないかという点は資本政策とガバナンスの両方に関わる注視点である。
点検済み:中立の営業利益率が会社予想(28年3月期10.2%)と過去最高(10.1%)を超え、民間航空を今の16%から18%へ上げるなど全事業を今より上げていたため、民間航空16.5%・資源7.5%・社会基盤8.5%に置き直した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
民間航空エンジンは新造機の増産よりもアフターマーケットの拡大が本質で、保有機が増え続ける限り保守・部品の収益は積み上がる一方であり、GTF Advantageの型式承認で既存プログラムの延命と単価上昇も見込める。防衛は日本の防衛費が過去最大の9兆円規模へ拡大し、重工大手の受注残が前期比+15%で積み上がる局面にあり、2030年度に防衛事業売上2,500億円という会社目標は保守的に見える余地すら残る。資源・エネルギー・環境は脱炭素と原子力再稼働、社会基盤・物流・産業機械は建設・物流需要の底堅さに支えられ、4つの事業がそれぞれ別の成長要因を持つことで、1つの市場が落ち込んでも全社では下支えが働きやすい。財務面でも自己資本比率は改善傾向にあり、ROEが24%台まで高まったことは、防衛・航空への選択と集中が実を結び始めた証拠であり、投資の成果が今後さらに表面化する余地が大きい。こうした複合的な成長要因が重なれば、ROEが24%台で定着するだけでなく、さらに上振れる余地も見込める。
慎重な見方
防衛予算は単年度主義であり、政権や財政状況が変われば増額ペースが鈍る、あるいは縮小に転じるリスクが常にある。民間航空エンジンもボーイング・エアバスの生産計画の遅延や、電動化・水素化という次世代技術への投資判断次第で、既存プログラムへの依存度が高いIHIのシェアが将来世代で縮む可能性がある。何より、2007年の海外プラント事業の虚偽記載と増資、2019年の航空エンジン検査不正、2024年の子会社データ改ざんと、約10年おきに大きなガバナンスの問題を起こしてきた会社であり、品質管理と内部統制の文化が十分に根付いていない疑いが強い。自己資本比率27%、純負債が自己資本の0.31倍という財務体質で、3年6,500億円の大型投資を進めながら、ひとたび大型プロジェクトで損失を抱えれば、2007年と同じ構図(工事進行基準の見積もりの誤りが一気に表面化する)が再現しやすい。現在のROE24%台は防衛・航空の急伸という一時的要素を含み、正常化すれば大きく下がる可能性もある。
どちらに重みを置いたか
防衛費増額と航空アフターマーケットの拡大という2つの構造的な追い風は強く、中立の筋書きでも事業の規模は名目で 10 年に約 1.6 倍へ拡大していく。ただし、約10年おきに繰り返すガバナンスの問題と、自己資本比率の低さという財務の弱さを考えると、慎重な見方にも相応の重みを置き、確率は中立を中心に据えつつ、楽観側をやや厚く、悲観側も一定の確率を残す形にした。計算では中立の 10 年後の時価総額は今の 1.05 倍にとどまり、資本コストを超える新しい投資の稼ぎは先で薄れるとみて正当化 PER の 8 割に置くと、今の値段を正当化するには 10 年後の楽観側の筋書きが要る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,543 円3.76 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 440 円4,668 億円)。 今の値に割り戻すと 2,115 円2.24 兆円、今との差 −13.7%、 期待の年率 +5.0%(資本コスト 7.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 7,588 円8.04 兆円 | 692 円7,335 億円 | +237.7% | +12.9% | 828 円8,778 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,784 円6.13 兆円 | 582 円6,166 億円 | +159.7% | +10.0% | 1,273 円1.35 兆円 |
| 中立 | 35% | 3,854 円4.09 兆円 | 465 円4,926 億円 | +76.2% | +5.8% | 1,512 円1.60 兆円 |
| やや悲観 | 22% | 1,119 円1.19 兆円 | 310 円3,288 億円 | −41.7% | −5.3% | 314 円3,334 億円 |
| 悲観 | 13% | 252 円2,668 億円 | 184 円1,950 億円 | −82.2% | −15.9% | 57 円600 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,543 円3.76 兆円 | 440 円4,668 億円 | +62.5% | +5.0% | 3,984 円4.22 兆円 |
今の株価時価総額 2,452 円2.60 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 防衛費がGDP2%水準で定着し航空アフターが拡大 利益 3,590 億円 · PER 21.5 倍 · 株価時価総額 7,588 円8.04 兆円
日本の防衛費が対GDP比2%程度で定着し、IHIの防衛事業は2030年度目標の2,500億円を超えて拡大が続き、輸出規制の緩和も追い風になる。民間航空エンジンは世界の航空需要が年4%程度で拡大を続け、保有機の増加に伴うアフターマーケットが収益の中心になり、水素エンジンなど次世代技術の開発にも参画してシェアを広げる。資源・エネルギー・環境は原子力・脱炭素投資の拡大、社会基盤・物流・産業機械は物流自動化や都市インフラ更新の需要に支えられる。10年の間、2007年・2019年・2024年のような品質・開示の問題は再発せず、信用が積み上がる。 自己資本比率も投資の回収が進むことで改善し、株主還元の原資も拡大する。
- 民間航空エンジン:数量 1,400(世界の民間航空エンジン市場(新造+アフターマーケット、億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 9.07(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 12,699 億円・営業利益 2,794 億円
- 防衛(航空エンジン・艦艇用エンジン・誘導武器等):数量 445(防衛向けの航空エンジン・艦艇用ガスタービン・誘導武器部品の生産と整備の件数(台・基換算、推定))× 価格 11(1 台・基あたりの平均売上(億円))→ 売上 4,704 億円・営業利益 659 億円
- 資源・エネルギー・環境:数量 12.7(ボイラー・ガスタービン・原子力機器・環境設備の年間の引き渡し容量(GW 換算、推定))× 価格 508(1 GW あたりの売上(億円。保守・部品を含む))→ 売上 6,452 億円・営業利益 645 億円
- 社会基盤・物流・産業機械:数量 801(車両用過給機・運搬機械・駐車場設備・橋梁などの出荷(台・基換算、万、推定))× 価格 11(1 台・基あたりの平均売上(万円))→ 売上 9,139 億円・営業利益 1,005 億円
倍率:事業の純利益 3,590 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.5 倍。全体の PER 21.5 倍、時価総額 77,185 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:防衛費が主要国並みの対GDP比2%水準で定着し、民間航空エンジンのアフターマーケットが世界の航空需要拡大とともに広がる姿で、10年という長さを考えれば相応に起こりうるが、最も良い組み合わせとして確率は抑える。
やや楽観 20% 防衛・航空の成長が概ね会社目標どおり定着 利益 2,811 億円 · PER 20.8 倍 · 株価時価総額 5,784 円6.13 兆円
防衛費の増額は2030年代前半でいったん落ち着くが、既存の受注残と輸出の積み上がりで防衛事業は緩やかに拡大を続ける。民間航空エンジンは新造機・アフターともに世界の航空需要の拡大に沿って伸び、GTF Advantageの後継機種にも参画する。資源・エネルギー・環境、社会基盤・物流・産業機械も社会インフラの更新需要に支えられて緩やかに成長する。品質・ガバナンスの大きな問題は再発しないが、受注競争で防衛・航空ともシェアの伸びはやや限定的になる。 自己資本比率は緩やかに改善し、株主還元も段階的に拡大する一方、革新的な新技術では後発にとどまる。
- 民間航空エンジン:数量 1,300(世界の民間航空エンジン市場(新造+アフターマーケット、億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 8.47(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 11,007 億円・営業利益 2,201 億円
- 防衛(航空エンジン・艦艇用エンジン・誘導武器等):数量 394(防衛向けの航空エンジン・艦艇用ガスタービン・誘導武器部品の生産と整備の件数(台・基換算、推定))× 価格 11(1 台・基あたりの平均売上(億円))→ 売上 4,166 億円・営業利益 542 億円
- 資源・エネルギー・環境:数量 11.9(ボイラー・ガスタービン・原子力機器・環境設備の年間の引き渡し容量(GW 換算、推定))× 価格 508(1 GW あたりの売上(億円。保守・部品を含む))→ 売上 6,045 億円・営業利益 544 億円
- 社会基盤・物流・産業機械:数量 754(車両用過給機・運搬機械・駐車場設備・橋梁などの出荷(台・基換算、万、推定))× 価格 11(1 台・基あたりの平均売上(万円))→ 売上 8,601 億円・営業利益 860 億円
倍率:事業の純利益 2,811 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.7% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.8 倍。全体の PER 20.78 倍、時価総額 58,413 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の2030年度目標(防衛2,500億円・民間エンジン4,500億円)が達成され、その後も緩やかな拡大が続く姿で、10年の時間軸では十分起こりうる組み合わせとみる。
中立 35% 防衛費はピークをやや過ぎ航空は成熟成長 利益 1,982 億円 · PER 19.4 倍 · 株価時価総額 3,854 円4.09 兆円
防衛費の増額ペースは2030年代前半をピークにいったん緩み、その後は物価上昇並みの安定した成長にとどまる。IHIの防衛事業は今の値段で 2,800 億円前後(物価込みの名目で約 3,760 億円)で定着する。民間航空エンジンはアフターマーケットの拡大が続くものの、新造機の生産ペースは循環的な波を伴いながら成熟した成長にとどまる。資源・エネルギー・環境、社会基盤・物流・産業機械も国内の設備更新需要を中心にゆっくり成長する。全社の営業利益率は 11% 台(会社の 28 年 3 月期予想は 10.2%)にとどまる。品質・ガバナンスの問題は目立った再発はないが、自己資本比率の改善は緩やかにとどまる。 自己資本比率の改善は緩やかにとどまり、三菱重工業・川崎重工業との受注競争も一進一退が続く。
- 民間航空エンジン:数量 1,200(世界の民間航空エンジン市場(新造+アフターマーケット、億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 7.86(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 9,434 億円・営業利益 1,557 億円
- 防衛(航空エンジン・艦艇用エンジン・誘導武器等):数量 356(防衛向けの航空エンジン・艦艇用ガスタービン・誘導武器部品の生産と整備の件数(台・基換算、推定))× 価格 11(1 台・基あたりの平均売上(億円))→ 売上 3,763 億円・営業利益 452 億円
- 資源・エネルギー・環境:数量 11.1(ボイラー・ガスタービン・原子力機器・環境設備の年間の引き渡し容量(GW 換算、推定))× 価格 508(1 GW あたりの売上(億円。保守・部品を含む))→ 売上 5,644 億円・営業利益 423 億円
- 社会基盤・物流・産業機械:数量 707(車両用過給機・運搬機械・駐車場設備・橋梁などの出荷(台・基換算、万、推定))× 価格 11(1 台・基あたりの平均売上(万円))→ 売上 8,064 億円・営業利益 685 億円
倍率:事業の純利益 1,982 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.4 倍。全体の PER 19.39 倍、時価総額 38,429 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:防衛費増額が2030年代前半にピークを迎えて以降は安定成長に移り、民間航空エンジンも循環通りの成熟した成長にとどまる姿を中心の筋書きとした。
やや悲観 22% 防衛予算の一部縮小と航空シェアの一部喪失 利益 892 億円 · PER 11.3 倍 · 株価時価総額 1,119 円1.19 兆円
防衛予算が財政事情で一部縮小し、既存プログラム中心の受注にとどまる。民間航空エンジンは次世代の電動化・水素化技術の開発で主要エンジンメーカーに主導権を握られ、新規プログラムへの参画シェアが一部失われる。資源・エネルギー・環境、社会基盤・物流・産業機械も国内需要の縮小で伸び悩む。自己資本比率の改善は停滞し、三菱重工業・川崎重工業との受注競争でも後れを取る場面が増える。 資本効率の低下が続き、株主還元の拡大余地も限られたものになる。 防衛・航空ともに当初の成長期待から取り分を失い、資源・エネルギー・環境と社会基盤・物流・産業機械の安定性だけが下支えとなる構図が続く。
- 民間航空エンジン:数量 1,050(世界の民間航空エンジン市場(新造+アフターマーケット、億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 6.65(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 6,985 億円・営業利益 908 億円
- 防衛(航空エンジン・艦艇用エンジン・誘導武器等):数量 280(防衛向けの航空エンジン・艦艇用ガスタービン・誘導武器部品の生産と整備の件数(台・基換算、推定))× 価格 11(1 台・基あたりの平均売上(億円))→ 売上 2,957 億円・営業利益 237 億円
- 資源・エネルギー・環境:数量 9.8(ボイラー・ガスタービン・原子力機器・環境設備の年間の引き渡し容量(GW 換算、推定))× 価格 508(1 GW あたりの売上(億円。保守・部品を含む))→ 売上 4,973 億円・営業利益 249 億円
- 社会基盤・物流・産業機械:数量 624(車両用過給機・運搬機械・駐車場設備・橋梁などの出荷(台・基換算、万、推定))× 価格 11(1 台・基あたりの平均売上(万円))→ 売上 7,123 億円・営業利益 427 億円
倍率:事業の ROE 6.3% は k 7% 以下なので、PER の上限は 1÷k の 13.3 倍。防衛予算の一部縮小と航空シェアの一部喪失で ROE が k を下回る筋書きなので、価値は稼ぐ力(純利益÷k)に、自己資本の薄さへの安全率を掛け、上限の 8.5 割の 11.3 倍に置いた。
確率:防衛予算の単年度主義による一部削減と、電動化・水素化の遅れによる航空エンジンのシェア一部喪失が重なる姿で、10年という長さでは十分な確率があるとみる。
悲観 13% 構造的に負け主役から外れる 利益 −574 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 252 円2,668 億円
防衛予算が政策転換で縮小し、IHIの防衛受注残が減少に転じる。民間航空エンジンは電動化・水素化という技術転換の主要プログラムへの参画に失敗し、既存プログラムの終息とともに取り分を失う。資源・エネルギー・環境、社会基盤・物流・産業機械も国内需要の縮小と海外勢の価格競争で採算が悪化する。2007年型の工事進行基準の見積もり誤りや品質不正が再発し、大型の損失計上とリストラが続く。重工業の再編の中でIHIは防衛・航空の主役から外れ、事業の切り出しや資本提携を迫られる。 株主還元は大きく絞り込まれ、事業ポートフォリオの見直しが長期にわたって続く。 赤字の年も配当は手元資金と、政策保有株・不採算事業の売却で払う。
- 民間航空エンジン:数量 750(世界の民間航空エンジン市場(新造+アフターマーケット、億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 5.04(実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 3,780 億円・営業利益 152 億円
- 防衛(航空エンジン・艦艇用エンジン・誘導武器等):数量 178(防衛向けの航空エンジン・艦艇用ガスタービン・誘導武器部品の生産と整備の件数(台・基換算、推定))× 価格 11(1 台・基あたりの平均売上(億円))→ 売上 1,882 億円・営業利益 56 億円
- 資源・エネルギー・環境:数量 7.4(ボイラー・ガスタービン・原子力機器・環境設備の年間の引き渡し容量(GW 換算、推定))× 価格 508(1 GW あたりの売上(億円。保守・部品を含む))→ 売上 3,764 億円・営業利益 38 億円
- 社会基盤・物流・産業機械:数量 471(車両用過給機・運搬機械・駐車場設備・橋梁などの出荷(台・基換算、万、推定))× 価格 11(1 台・基あたりの平均売上(万円))→ 売上 5,376 億円・営業利益 54 億円
倍率:赤字のため稼ぐ力では測れず、売れる資産の床で置く。事業用資産(今の自己資本 6,522 億円に純負債 2,044 億円を足した 8,566 億円)が簿価の 55% で売れると仮定し、純負債を返すと 4,711−2,044=2,667 億円で、今の自己資本の 0.41 倍にあたる。工場・整備拠点と防衛の設備が残るが、品質問題と財務の薄さを重く見た仮定で、市場の値付けは根拠にしていない。純有利子負債 2,044 億円を足した EV÷営業利益は営業利益がほぼ消える年なので高く出るが、この筋書きは資産の床で測り、EV の倍率では割高・割安を言わない(借金の重さは床の掛け目に入れた)。
確率:防衛予算の政策転換、航空エンジンの技術転換での主要プログラム落選、品質問題の再発が重なって構造的に競争力を失う姿で、10年の悲観として5%以上の確率を残した。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
民間航空エンジン
PW1100G-JM・GEnx・V2500・GE90・CF34など複数の国際共同開発エンジンに部品・整備で参画。新造機納入とアフターマーケット(保守・部品)の両方で稼ぐ。
| 数量世界の民間航空エンジン市場(新造+アフターマーケット、億ドル、今の値段で測った実質) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの当社売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 900 | 4.86 | 4,380 | 701 |
| 10 年後 中立 | 1,200 | 7.86 | 9,434 | 1,557 |
取り方:世界の民間航空エンジン市場(新造+MRO)を900億ドル程度とみて、IHIのシェアを3.24%、1ドル150円で億円に換算。航空・宇宙・防衛セグメントの売上構成比(41%)のうち民間エンジン分を按分して逆算した。 数量は今の値段で測った市場規模(実質)にし、物価の分は価格(シェア × 150 円 × 物価の倍率)に入れた。今の価格はシェア 3.2%。
防衛(航空エンジン・艦艇用エンジン・誘導武器等)
戦闘機・輸送機用エンジン、艦艇用エンジン、誘導武器関連などを手掛け、防衛予算増額の直接的な受益者になっている。
| 数量防衛向けの航空エンジン・艦艇用ガスタービン・誘導武器部品の生産と整備の件数(台・基換算、推定) | 価格1 台・基あたりの平均売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 300 | 7.86 | 2,358 | 283 |
| 10 年後 中立 | 356 | 11 | 3,763 | 452 |
取り方:防衛の売上 2,358 億円を、F110・F7-10・XF9 系の航空エンジン、艦艇用ガスタービン、誘導武器のロケットモーターなどの生産と整備を合わせた年約 300 台・基換算(推定)で割り、1 件あたり約 7.9 億円と置いた。件数は防衛予算(今は 9 兆円規模)の装備品の調達量に沿い、価格は物価並み(防衛の契約は原価に物価が乗る)。
資源・エネルギー・環境
ボイラー、原子力機器、ごみ処理・環境プラントなど。脱炭素とアンモニア混焼・原子力再稼働の両方に関わる。
| 数量ボイラー・ガスタービン・原子力機器・環境設備の年間の引き渡し容量(GW 換算、推定) | 価格1 GW あたりの売上(億円。保守・部品を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.0 | 378 | 3,780 | 265 |
| 10 年後 中立 | 11.1 | 508 | 5,644 | 423 |
取り方:資源・エネルギー・環境の売上 3,780 億円を、事業用ボイラー・ガスタービン・原子力機器・アンモニア混焼などの年約 10 GW 換算(推定)で割り、1 GW あたり約 378 億円(保守・部品を含む)と置いた。容量は石炭火力の縮小とアンモニア・原子力の伸びの差し引きで、価格は物価並み。
社会基盤・物流・産業機械
橋梁、シールド掘進機、車両用過給機、パーキングシステム、回転機械などをまとめた区分。建設・物流・自動車部品に近い需要を持つ。
| 数量車両用過給機・運搬機械・駐車場設備・橋梁などの出荷(台・基換算、万、推定) | 価格1 台・基あたりの平均売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 8.49 | 5,095 | 408 |
| 10 年後 中立 | 707 | 11 | 8,064 | 685 |
取り方:社会基盤・物流・産業機械の売上 5,095 億円を、車両用過給機(ターボチャージャー、年数百万台)を中心に運搬機械・駐車場設備・橋梁などを合わせた年約 600 万台・基換算(推定)で割り、1 台あたり約 8.5 万円と置いた。台数は自動車生産とインフラ更新に沿い、価格は物価並み。
リスクと懸念
防衛予算の単年度リスク
日本の防衛費は2026年度に過去最大の9兆円規模へ拡大したが、予算は単年度で決まる仕組みであり、政権や財政事情の変化で増額ペースが鈍る、あるいは既存の受注計画が見直される可能性がある。IHIの防衛事業は2030年度に売上2,500億円という成長を前提に投資を進めており、予算の政策変更は投資回収の前提を直接揺るがす。
ガバナンス・品質管理の再発リスク
2007年の海外プラント事業の虚偽記載と増資、2019年の航空エンジン検査不正、2024年の子会社IHI原動機のデータ改ざんと、約10年おきに大きな品質・開示の問題を繰り返している。航空・防衛という安全性が厳しく問われる事業で同種の問題が再発すれば、受注停止や信用の失墜に直結する。
民間航空機サイクルの変化
ボーイング・エアバスの生産計画の遅延や、電動化・水素化・新型エンジンへの技術転換が進めば、既存プログラムへの部品供給に依存するIHIの取り分が将来世代機で縮む可能性がある。新造機の生産回復ペースが想定より遅れることも、アフターマーケットの立ち上がりを遅らせる。
財務体質の弱さ
自己資本比率は27%、純負債は自己資本の0.31倍にとどまるが、重工業の中では余力が大きいとは言えない。3年で6,500億円という大型投資計画を進める中で、大型プロジェクトの損失や市況の悪化が重なれば、増資や外部負債への依存度が急速に高まるおそれがある。
工事進行基準の収益認識リスク
防衛・資源エネルギー環境・社会基盤など長期の大型プロジェクトは工事進行基準で収益を認識する場面が多く、2007年の虚偽記載問題はこの基準の運用の不適切さが震源だった。受注が拡大するほど見積もりの誤りや採算悪化の発覚が後ずれするリスクも大きくなる。
競合との受注競争
防衛・航空エンジンでは三菱重工業・川崎重工業という国内重工大手との受注競争があり、海外では大手エンジンメーカーとの共同開発の枠組みそのものが競争の場になる。プログラムシェアの拡大や新規プログラムへの参画に失敗すれば、成長の多くを他社に奪われる。
為替・資源価格の変動
鋼材・銅などの素材価格や人件費の上昇を値上げで追えなければ、資源・エネルギー・環境や社会基盤・物流・産業機械の採算が悪化する。輸出や海外プロジェクトの比率が高まるほど、為替変動が収益のブレを大きくする面もある。
今後の分かれ目
- 防衛費が2027年度以降も高水準の拡大を続け、防衛事業の受注残が増え続ける
- 防衛セグメントの成長が会社目標の2030年度2,500億円を上回るペースで進み、楽観に近い筋書きの実現性が高まる。
- 防衛予算が政権交代や財政悪化で増額を止める、あるいは既存計画が見直される
- 防衛セグメントの成長が止まり、やや悲観から悲観の筋書きに近づく。
- ボーイング・エアバスの新造機増産ペースが計画どおり回復し、保有機の増加でアフターマーケットが拡大する
- 民間航空エンジンの利益率が改善し、楽観・やや楽観の筋書きに近づく。
- 2007年・2019年・2024年のような検査不正やデータ改ざん、収益認識の誤りが再び発覚する
- 受注停止や信用の失墜につながり、悲観の筋書きに近づく。
- 次世代エンジン(電動化・水素化)の開発競争で主要プログラムへの参画に失敗する
- 10年後の民間航空エンジン事業の取り分が縮み、10年の悲観シナリオに近づく。
- 自己資本比率が投資拡大で一段と下がり、大型プロジェクトの損失が重なる
- 増資や資産売却の必要性が高まり、株主価値が希薄化する方向に振れる。
- 国内重工の再編(統合・事業譲渡)の動きが具体化する
- 規模拡大による受注競争力の強化、または防衛・航空事業の切り出しという両方向の可能性があり、筋書きの幅を広げる要因になる。
見ておくもの
- 防衛費・防衛関連受注残の年度ごとの開示(防衛省予算、重工各社の受注残)
- 民間航空エンジンのアフターマーケット収益比率と新造機の納入ペース(ボーイング・エアバスの増産状況)
- 自己資本比率・純負債の推移と大型投資計画(3年6,500億円)の進捗
- 品質管理・内部統制に関する新たな問題の有無(検査・データの不正再発)
倍率と資本コストの決め方
倍率は、各時点で利益ベースの正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)(RONIC は k を超える分の半分が残る値、k 7%・g 4%)を計算し、上限の 8〜8.5 割に楽観〜中立を置いた。k は基本 7.5% に循環 +0.5%・寿命 −0.5% を足した。やや悲観は ROE が k を下回るので稼ぐ力(純利益÷k)に安全率を掛け、悲観は赤字なので純負債を返した後の売れる資産の仮定の床で置き、今や過去の PER・PBR は根拠にしていない。今の PBR 4 倍台をそのまま延長せず、10 年後は ROE 11〜12% に落ち着くと置いた。割高の向きは変わらず、今の株価に寄せて倍率を調整したことはない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.7→21.5 倍・やや楽観 PER 14.1→20.78 倍・中立 PER 13.3→19.39 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k=基本 7.5%+quality +0.0%=7.5%。内訳と理由は quality_why。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 7.00%。
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読んだ資料
- IHI防衛予算増加で安定収益規模が大きい話(SMBC日興証券froggy)
- IHIの航空・宇宙・防衛事業は2030年度に売上8,000億円へ、アフターマーケットに期待(日経クロステック)
- 航空・防衛・原子力に重点、IHIが3年で6,500億円投資(ニュースイッチ)
- IHIの航空エンジン事業がストック型ビジネスである理由(IRnote)
- IHI、不正検査211件 航空エンジン、社長謝罪(日本経済新聞)
- IHI、検査不正で改善命令 航空部品自主回収へ(日本経済新聞)
- IHI子会社の不適切行為に関する調査報告書の解説(ニュートン・コンサルティング)
- IHI|有価証券報告書等の虚偽記載と当時最大の課徴金(2007年)(社史データベース)
- IHI、大幅な下方修正で伊藤会長が引責辞任(Response)
- IHI 航空エンジン製品ページ(PW1100G-JM・GTF Advantage等)