結論
清水建設はスーパーゼネコン4社の一角で、2024年3月期に大型民間建築工事での資材高対応により上場来初の営業赤字(246億円)を計上したが、選別受注と価格転嫁の定着で2026年3月期は国内建築の完成工事総利益率が7.6%から11.6%へ改善し、営業利益1,187億円・純利益1,266億円・ROE13.0%まで回復した。事業は国内建築・国内土木・開発事業等・海外事業の4本柱で、鹿島建設・大林組と比べると売上に占める建築の比率が高く、開発事業等・海外事業の規模は相対的に小さい。海外では基地・データセンター工事に強い米AECを2026年に完全子会社化し、国内では海洋土木のあおみ建設を子会社化して多角化を進めているが、900億円のCB(転換社債)発行はM&A資金確保の一方で希薄化懸念から株価の重荷になった。政策保有株式は2026年3月期に1,091億円を売却し連結純資産比20%以下まで縮減、賃貸等不動産の含み益(税引き後推定600億円弱)が自己資本の下支えになっている。ここでは建築・土木・開発・海外の4区分で数量×価格を積み上げ、その時点のROEと資本コスト7.75%(基本7.5%+quality0.75%)から妥当な倍率を決めた。10年後は国内建築投資の構造的な縮小とM&Aで広げた土木・海外事業の拡大が相殺し合う姿を中立に置いた。今のPBR1.4倍・PER10.8倍は採算回復の持続と開発・海外の多角化の実証をやや先取りしており、確率で重みを付けた本質価値は今の時価総額を2割強下回る「やや割高」。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、スーパーゼネコンという規模の堀を持ちながらも、2024年3月期の上場来初の営業赤字が示すように、建築請負という事業の価格決定力は完全ではなく、再投資後に株主のものになる利益の予見性は鹿島建設・大林組に比べて低いとみる。開発事業等という資産運用型の高収益事業を持つが、全社の売上の5%程度にすぎず、海外事業も売上の11〜12%とまだ小さい。あおみ建設・AECという2つのM&Aは、海洋土木・米軍基地工事という専門性の高いニッチへの布石として評価できるが、統合の成否はまだ実証されていない。
財務は自己資本比率36.8%・純有利子負債は時価総額比15.6%と健全な部類だが、他の3社ほど実質無借金ではなく、2026年のCB発行で900億円のM&A資金を調達したことは、内部資金だけでは成長投資をまかないきれていないことの裏返しでもある。政策保有株式の売却・賃貸等不動産の含み益は安全域を支えるが、建築比率の高さゆえに業界の循環と工事損失のリスクに他社より振れやすい会社だとみて、確信度を下げて考えるべきである。
何で稼ぐ会社か
事業は国内建築事業・国内土木事業・開発事業等・海外事業に加え、連結子会社の日本道路(道路舗装)やあおみ建設(海洋土木、2026年子会社化)を含む「その他事業」で構成される。単体の国内建築は完成工事高1兆1,396億円・完成工事総利益率11.6%で、オフィスビル・商業施設・工場・データセンターの請負施工が中心。半導体工場向けには設備エンジニアリングを含むBIMシミュレーション技術を自社開発し、クラウド大手向けデータセンターの受注も手掛けるが、四半期ごとの受注額のばらつきが大きい(直近は四半期200〜300億円、前年同期は800〜1,000億円規模)。国内土木は完成工事高2,591億円・完成工事総利益率10.0%で、都市再開発に伴う地下工事や国土強靱化関連の公共工事を担う。2026年に海洋土木のあおみ建設(売上高314億円)を250億円で子会社化し、洋上風力発電の基礎工事など新しい需要の取り込みを図っている。
開発事業等は売上高999億円・総利益率21.9%とグループ内で利益率が最も高く、オフィス・ホテル・物流施設・データセンターを自社で保有・開発・運用する。清水建設不動産投資顧問を通じた私募REITの運用も手掛ける。海外事業は売上高907億円(建築512億円・土木395億円)で全社売上の11〜12%を占め、北米(統括法人シミズ・アメリカ、アトランタ)と東南アジア(インドネシア等)が中心。2026年に米軍基地・データセンター工事に実績を持つAmerican Engineering Corporation(Okinawa)を完全子会社化し、中長期で海外比率20%を目指す方針を掲げている。
優良さと弱いところ
スーパーゼネコン4社の一角として規模・技術力の堀を持つが、2024年3月期に大型民間建築工事の契約〜資材調達の間の資材価格急騰で上場来初の営業赤字(246億円)を計上したことは、建築中心の事業構成の採算管理の脆さを露呈した。その後は選別受注と価格転嫁の定着で完成工事総利益率が急速に改善しており、立て直しの実行力自体は評価できるが、2026年3月期の高い利益率(国内建築11.6%)が巡航速度かどうかはまだ実績が浅い。開発事業等は総利益率21.9%と稼ぎ頭だが売上の5%程度にすぎず、鹿島建設・大林組に比べ開発・海外事業による多角化の厚みは薄く、建築請負への依存度が相対的に高い。
ガバナンスには傷がある。2018年のリニア中央新幹線談合事件では罰金1.8億円の判決に加え、大林組と並んで国土交通省から120日間の営業停止処分(民間土木工事)を受けた。2017年には福島第一原発の除染・構内工事で元従業員による水増し請求等の不正が発覚し、内部通報への対応の遅れも問題視された。自己資本比率36.8%・純有利子負債は時価総額比15.6%で財務は健全な部類だが、他の3社ほど実質無借金ではなく、2026年のCB発行900億円でM&A資金を確保した分、財務の機動力に頼る場面がやや増えている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建設需要は、都市再開発・半導体工場・データセンターという法人の設備投資が押し上げる「山」の局面にあり、上場ゼネコン50社の受注高は2025年度に16兆5,388億円(5期連続増)、期末繰越高は過去最高の24兆1,764億円に達した。スーパーゼネコン5社(鹿島・清水・竹中・大成・大林)の中では、2025年度の受注高で清水建設は鹿島に次ぐ2位(約1兆8,982億円)につけている。技能労働者不足・資材高を背景に業界全体が選別受注・価格転嫁へ転換し、上場ゼネコンの9割近くで完成工事の粗利益率が改善したが、清水建設は2024年3月期に大型民間建築工事での資材高対応の工事損失で上場来初の営業赤字に陥った経緯があり、価格転嫁の定着が他社より遅れて始まった分、2026年3月期の利益率改善は他社より急カーブで進んでいる。
競合は鹿島建設・大林組・大成建設・竹中工務店で、4〜5社による準寡占が続くが、顧客(デベロッパー・官公庁)側の入札・相見積りにより完全な価格決定力にはならない。データセンター関連の受注は四半期ごとに200億円台から1,000億円規模までばらつきが大きく、半導体工場・データセンター投資の継続性が受注の柱の持続性を左右する。10年後を見通すと、都市再開発・半導体工場・データセンターという今の需要の柱が一巡した後、国内の建設投資そのものは人口減・世帯数減を背景に実質横ばい〜緩やかな縮小に向かうとみられ、あおみ建設(洋上風力)・AEC(米軍基地)のM&Aで広げた土木・海外事業の新しい柱をどこまで育てられるかが優良さの持続を決める。
資本政策と M&A
株主還元は連結配当性向40%を目安に、下限配当を定めて安定配当を掲げる。2026年3月期は大幅増配、2027年3月期もさらなる増配を予想する。政策保有株式は2026年3月期に上場株式39銘柄・1,091億円を売却し、連結純資産比で2026年3月末までに20%以下(1年前倒し)、2027年3月末に10%以下とする目標を掲げる。自社株買いは2026年3月期に100億円実施した。
M&Aでは2026年1月に海洋土木のあおみ建設を250億円で子会社化し、洋上風力発電関連の需要取り込みを図った。同年、米軍基地・データセンター工事に実績を持つ米AECも完全子会社化し、海外比率を中長期で20%に引き上げる方針である。資金はユーロ円CB(転換社債)1,000億円の発行で確保し、900億円をM&A、100億円を自社株買いに充てたが、転換による将来の株式希薄化懸念から発行発表時に株価が急落する場面があった。自社株買いの上限を100億円から200億円に拡大し、需給への影響を緩和している。清水建設自身が買収対象(TOB)になる可能性は、時価総額1.4兆円規模と業界の再編圧力の乏しさから低いとみられる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
清水建設は2024年3月期の上場来初の赤字から驚くほど早く立て直し、2026年3月期には国内建築の完成工事総利益率を7.6%から11.6%へ急改善させた。これは選別受注・価格転嫁の定着が本物であることを示しており、半導体工場・データセンターという需要の柱が続く限り、この水準はさらに上振れる余地がある。開発事業等は総利益率21.9%と稼ぎ頭で、清水建設不動産投資顧問を通じた私募REIT運用などストック型の収益源をさらに積み上げられる。
海外では、米軍基地・データセンター工事に実績を持つAECの完全子会社化により、国内では手薄だった分野への参入障壁を一気に買い取った。海洋土木のあおみ建設の子会社化も、洋上風力発電という国策の成長分野への布石であり、この2つのM&Aが実を結べば、海外比率20%・土木の新しい柱という中長期の成長戦略が現実のものになる。CB発行による900億円のM&A資金確保は希薄化こそ懸念されるが、転換制限条項により実際の希薄化は限定的で、自社株買いの上限引き上げでも需給を支えている。財務健全性を保ったまま多角化を進める経営の規律は評価できる。
慎重な見方
2024年3月期の上場来初の営業赤字は、建築請負という事業の採算管理そのものの脆さを示した一度限りの不運ではなく、大型民間工事の契約形態(一括請負)に内在する資材高リスクであり、同様の損失は将来も再発しうる。2026年3月期の完成工事総利益率11.6%という急改善も、繰越高の消化が進む「山」の局面特有の高水準であり、会社計画どおり2027〜2028年3月期には巡航速度に戻る可能性が高い。開発事業等・海外事業は鹿島建設・大林組に比べ規模が小さく、建築請負への依存度の高さは変わらない。
あおみ建設・AECという2つのM&Aは、統合コストやのれんの管理が不確実な段階にあり、特にAECは米国の基地関連事業という特殊な顧客基盤への依存で、米国の国防予算・金利サイクルに業績が左右されるリスクを抱える。900億円のCB発行は転換時の希薄化懸念から株価の重荷になっており、資金調達力そのものに制約があることの表れでもある。リニア中央新幹線談合事件での営業停止処分、原発除染工事での不正発覚など、ガバナンスの傷は根深く、同様の問題が再発するリスクを完全には排除できない。
どちらに重みを置いたか
採算回復の実行力自体は評価できるが、2024年3月期の赤字が示した建築請負の採算管理の脆さと、開発・海外事業の規模が鹿島建設・大林組より小さいという構造的な弱さは変わっていない。10年後は国内需要の構造的な縮小にM&Aで広げた土木・海外事業の拡大が追いつくかに五分の重みを置いた。中立のROEは8%前後にとどまり、今のPBR1.4倍・PER10.8倍はこの水準をやや上回るため、計算の結論は「やや割高」になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,348 円2.27 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 677 円4,595 億円)。 今の値に割り戻すと 2,053 円1.39 兆円、今との差 +2.1%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 15% | 5,536 円3.76 兆円 | 914 円6,200 億円 | +220.7% | +12.4% | 967 円6,564 億円 |
| やや楽観 | 25% | 4,280 円2.90 兆円 | 840 円5,700 億円 | +154.6% | +9.8% | 1,280 円8,686 億円 |
| 中立 | 30% | 3,266 円2.22 兆円 | 766 円5,200 億円 | +100.5% | +7.2% | 1,210 円8,207 億円 |
| やや悲観 | 20% | 2,006 円1.36 兆円 | 442 円3,000 億円 | +21.7% | +2.0% | 490 円3,322 億円 |
| 悲観 | 10% | 663 円4,499 億円 | 118 円800 億円 | −61.2% | −9.0% | 78 円530 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,348 円2.27 兆円 | 677 円4,595 億円 | +100.1% | +7.2% | 4,025 円2.73 兆円 |
今の株価時価総額 2,011 円1.36 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 15% 楽観:開発・海外が稼ぎの柱に育ち建築偏重から脱する 利益 2,293 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 5,536 円3.76 兆円
10年の間に半導体・データセンター投資は国内で複数回の新しい波を迎え、国内建築の受注の柱として定着する。国内土木は国土強靱化・洋上風力(あおみ建設)の継続執行で底堅く推移する。開発事業等は私募REIT運用の拡大とともに純利益が着実に育ち、会社全体の収益構造を「請負」から「保有・運用」へ近づける。海外事業はAECを軸に米軍基地・データセンター工事の受注が拡大し、海外比率20%の目標を実現する。技能労働者不足は自動化・省人化投資の普及で部分的に克服し、鹿島建設・大林組・大成建設との競争でも建築偏重から脱した収益構造が評価される10年になる。
- 国内建築事業:数量 260(建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定))× 価格 67(1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円))→ 売上 17,420 億円・営業利益 1,568 億円。半導体・データセンター需要が構造的に定着
- 国内土木事業:数量 26.7(国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質、鹿島建設・大林組と同じ市場規模を使用))× 価格 1.4%(清水建設の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1))→ 売上 3,709 億円・営業利益 371 億円。国土強靱化・洋上風力の継続執行
- 開発事業等:数量 2.2(開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 20.6%(資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1))→ 売上 4,620 億円・営業利益 924 億円。私募REIT運用拡大で純利益が育つ
- 海外事業:数量 77.7(海外事業の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定))× 価格 40(1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円))→ 売上 3,123 億円・営業利益 437 億円。AEC軸に米軍基地・データセンター工事が拡大
倍率:事業の純利益 2,293 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍。全体の PER 15.12 倍、時価総額 34,670 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体・データセンター需要の持続と、あおみ建設・AECを軸にした開発・海外事業の成長戦略の実現が重なる組み合わせで、実現すれば優良さが大きく高まるが条件は多い。
やや楽観 25% やや楽観:国内の構造的縮小をあおみ建設・AECの拡大が補う 利益 1,833 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 4,280 円2.90 兆円
国内建築・土木は国内の構造的な需要の細りを受けつつも、半導体・データセンター・国土強靱化という下支えで大崩れせず推移する。あおみ建設の洋上風力関連の受注が着実に積み上がり、開発事業等も資産残高の拡大とともに純利益が増える。海外事業もAECを軸に北米の基地・データセンター工事で地域を分散しながら規模を広げる。技能労働者不足は続くが、選別受注と自動化投資で利益率は過去平均より高い水準を保つ。政策保有株式の縮減が一巡した後も、本業・開発・海外の3本で株主還元を続けられる体質に変わっている、起伏の少ない10年になる。
- 国内建築事業:数量 239(建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定))× 価格 67(1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円))→ 売上 16,006 億円・営業利益 1,313 億円。下支えで大崩れしない
- 国内土木事業:数量 24.7(国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質、鹿島建設・大林組と同じ市場規模を使用))× 価格 1.4%(清水建設の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1))→ 売上 3,426 億円・営業利益 308 億円。洋上風力関連の受注が積み上がる
- 開発事業等:数量 1.9(開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 20.6%(資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1))→ 売上 3,901 億円・営業利益 741 億円。純利益が着実に増加
- 海外事業:数量 63.8(海外事業の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定))× 価格 40(1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円))→ 売上 2,565 億円・営業利益 282 億円。AECを軸に地域分散で着実な拡大
倍率:事業の純利益 1,833 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍。全体の PER 14.2 倍、時価総額 26,029 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:あおみ建設・AECを軸にした海外・土木の拡大戦略が構造的に続くという前提は実現性が高く、本業の価格転嫁も定着が進む組み合わせ。
中立 30% 中立:国内縮小と開発・海外の拡大が相殺し合う 利益 1,426 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 3,266 円2.22 兆円
半導体工場・データセンターという今の需要の柱が一巡し、国内の建設投資全体は人口減・世帯数減を背景に実質横ばい〜緩やかな縮小に向かう。国内建築は数量の伸びが止まるが価格転嫁の定着分だけ過去平均より高い利益率を保ち、国内土木はあおみ建設の統合効果で底堅く推移する。開発事業等は資産残高の拡大が一段落しつつも利益水準は現在より高く定着し、海外事業はAECの統合効果で会社計画の範囲内で緩やかに拡大する。鹿島建設・大林組・大成建設との準寡占は続くが、顧客側の入札・相見積りで価格決定力は完全ではない。技能労働者不足はより深刻化し、選別受注の徹底が数量の重荷になる一方、価格決定力は守られる10年になる。
- 国内建築事業:数量 216(建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定))× 価格 67(1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円))→ 売上 14,459 億円・営業利益 1,084 億円。数量の伸びが止まる
- 国内土木事業:数量 22.6(国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質、鹿島建設・大林組と同じ市場規模を使用))× 価格 1.4%(清水建設の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1))→ 売上 3,144 億円・営業利益 236 億円。あおみ建設の統合効果で底堅い
- 開発事業等:数量 1.5(開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 20.6%(資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1))→ 売上 3,177 億円・営業利益 572 億円。利益水準が高く定着
- 海外事業:数量 52.7(海外事業の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定))× 価格 40(1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円))→ 売上 2,169 億円・営業利益 174 億円。AEC統合効果で計画の範囲内の拡大
倍率:事業の純利益 1,426 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.14 倍、時価総額 18,738 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内建設投資の構造的な縮小と、あおみ建設・AECを軸にした開発・土木・海外事業の拡大がちょうど相殺し合う、業種ノートの中立前提に沿う最も重みを置く筋書き。
やや悲観 20% やや悲観:国内縮小がM&Aの拡大を上回る 利益 819 億円 · PER 9.1 倍 · 株価時価総額 2,006 円1.36 兆円
国内の人口減・世帯数減が想定より速く進み、半導体工場・データセンター投資も国内から海外立地へ一部シフトすることで、国内建築の数量が大きく細る。技能労働者不足がさらに深刻化し、選別受注を徹底せざるを得ず国内土木の受注高も伸び悩む。開発事業等は不動産市況の足踏みで純利益の拡大ペースが鈍り、海外事業もAECの米軍予算見直し・金利サイクルの波をかぶり苦戦する。あおみ建設の洋上風力関連の受注も国の政策見直しで広がらない。政策保有株式の縮減資金も成長投資に回しきれず、株主還元を厚くする守りの資本政策に傾く、優良さの評価がじわじわ下がる10年になる。
- 国内建築事業:数量 189(建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定))× 価格 67(1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円))→ 売上 12,643 億円・営業利益 695 億円。数量が大きく細る
- 国内土木事業:数量 19.7(国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質、鹿島建設・大林組と同じ市場規模を使用))× 価格 1.4%(清水建設の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1))→ 売上 2,741 億円・営業利益 151 億円。受注高が伸び悩む
- 開発事業等:数量 1.1(開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 20.6%(資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1))→ 売上 2,311 億円・営業利益 324 億円。拡大ペースが鈍る
- 海外事業:数量 36.1(海外事業の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定))× 価格 40(1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円))→ 売上 1,450 億円・営業利益 44 億円。AEC含め金利サイクルで苦戦
倍率:ROE 4.76%(純利益 819 億円 ÷ 自己資本 17,205 億円)。事業の ROE が資本コスト k 7.75% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.1 倍。国内の建設投資が細り、採算も戻らない局面で、上限の 7 割 5 分 の 9.1 倍に置いた。余り資産は立てていない(持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので足さない)。
確率:国内の人口減・技能労働者不足のペースが想定より速く、あおみ建設・AECの拡大がそれを補いきれない組み合わせ。
悲観 10% 悲観:国内は構造的に負け、M&Aも裏目に出る 利益 90 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 663 円4,499 億円
国内では人口減・技能労働者不足が加速し、国内建築・土木ともに数量が大きく縮小、価格転嫁もすでに限界に達していて値下げを迫られる。半導体工場・データセンター投資は国内立地の優位性を失い海外へシフトし、次の成長の柱を作れない。開発事業等は不動産市況の悪化で資産の売却も停滞し、海外事業はAECの米軍予算の削減や基地関連事業の縮小で損失を出し、統合によるのれんの減損も生じる。鹿島建設・大林組・大成建設にシェアを奪われ、談合事件の記憶も含めガバナンスの評価が戻らないまま、会社全体として構造的に優良さを失った10年になる。
- 国内建築事業:数量 135(建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定))× 価格 67(1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円))→ 売上 9,038 億円・営業利益 181 億円。構造的な需要蒸発
- 国内土木事業:数量 15.1(国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質、鹿島建設・大林組と同じ市場規模を使用))× 価格 1.4%(清水建設の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1))→ 売上 2,096 億円・営業利益 63 億円。公共工事予算の制約も強まる
- 開発事業等:数量 0.6(開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 20.6%(資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1))→ 売上 1,300 億円・営業利益 117 億円。資産売却も停滞
- 海外事業:数量 19.4(海外事業の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定))× 価格 40(1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円))→ 売上 781 億円・営業利益 −39 億円。AECの米軍予算削減とのれん減損含み
倍率:ROE 0.6% と谷の利益(純利益 90 億円)では稼ぐ力は 1,100 億円ほどにしかならず、床は売れる資産で測る。総資産 2.65 兆円を強制売却で 8 割(受注の仕掛・販売用不動産・売掛を安く処分)の 2.12 兆円しか回収できず、負債 1.68 兆円は全額払うとして残る約 4,470 億円を、今の自己資本 9780 億円に対する PBR 0.46 倍(時価総額 4499 億円)に置いた。構造的に受注の採算が崩れ、M&A も裏目に出てのれんも減損した姿。谷の年は営業利益が 342 億円と小さく EV ÷ 営業利益は参考にならない。
確率:国内の縮小が深刻化し、同時に半導体・データセンター需要が海外立地シフトで取り切れず、あおみ建設・AECのM&Aも裏目に出る、リーマン級の構造的な劣化を想定。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内建築事業
オフィスビル・商業施設・工場・データセンターなどの建築請負。半導体工場・データセンター向けの大型案件も手掛ける。
| 数量建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定) | 価格1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 228 | 50 | 11,396 | 798 |
| 10 年後 中立 | 216 | 67 | 14,459 | 1,084 |
取り方:単体の国内建築の完成工事高(約1兆1,396億円)を、鹿島建設・大林組と同じ平均㎡単価約50万円で割って完成床面積を逆算した。単価は中立で物価並み(10 年 1.34 倍)、床面積は実質。op_oku は完成工事総利益率11.6%からSG&A相当を差し引いた営業利益率約7.0%で推定。
国内土木事業
都市再開発に伴う地下工事、国土強靱化・インフラ更新関連の土木工事、海洋土木(あおみ建設)を含む。
| 数量国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質、鹿島建設・大林組と同じ市場規模を使用) | 価格清水建設の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.0 | 1.0% | 2,591 | 168 |
| 10 年後 中立 | 22.6 | 1.4% | 3,144 | 236 |
取り方:国内の土木投資(政府・民間合計で約25兆円、業種ノートと鹿島建設・大林組と同じ市場規模)に対する単体の国内土木の完成工事高(約2,591億円)の比率をシェアとした。投資の量は実質、工事単価は物価並みに上がる。op_oku は単体利益率10.0%からSG&A相当を差し引いた営業利益率約6.5%で推定。
開発事業等
オフィス・ホテル・物流施設・データセンターなどを自社で保有・開発・運用する不動産事業。私募REIT運用も含む。
| 数量開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定) | 価格資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.7 | 15.4% | 999 | 150 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 20.6% | 3,177 | 572 |
取り方:開発事業等の売上(約999億円、総利益率21.9%)を、鹿島建設の開発事業の資産対売上比率に近い前提で、開発・賃貸に回している資産の推定約6,500億円で割った比率。賃貸等不動産の含み益は時価総額の26.5%相当・823億円(税引き後推定約600億円弱)で、悲観の床の計算に使う。売却・賃料は物価並みに上がる。数量は実物(開発・賃貸に回す資産の残高を今の値段で測った実質)で、増えるのは開発事業を広げる会社の方針による。名目の市場の伸びを数量に置いたものではなく、物価は価格の 1.34 倍だけで見ている。
海外事業
北米(シミズ・アメリカ、米軍基地・データセンター工事に強いAEC含む)・東南アジアでの建築・土木事業。
| 数量海外事業の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定) | 価格1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.2 | 30 | 907 | 0 |
| 10 年後 中立 | 52.7 | 40 | 2,169 | 174 |
取り方:海外事業の売上(建築512億円・土木395億円、合計907億円)を、鹿島建設・大林組と同じ平均㎡単価約30万円で割って床面積を逆算した。単価は物価並み(150円固定)。海外建築が総利益ベースで赤字(▲27億円)、海外土木が黒字(+27億円)でほぼ相殺し、op_oku は現状ゼロ近辺とした。数量は実物(完成・開発の床面積)で、AEC の統合で北米の工事を広げる事実による。名目の市場の伸びは置いておらず、物価は単価の 1.34 倍だけで見ている。
リスクと懸念
大型建築工事の採算悪化の再発
2024年3月期の上場来初の営業赤字は、大型民間建築工事で契約から資材調達までの間に資材価格が急騰したことが原因だった。一括請負契約が中心である限り、同種の資材高・労務費高騰が再び起きれば、価格転嫁が追いつかず同様の工事損失が再発するリスクがある。
政策保有株式売却益の剥落
2026年3月期は上場株式39銘柄・1,091億円を売却し、純利益の押し上げに寄与した。2027年3月末に連結純資産比10%以下という目標に近づくほど売却できる残り玉は減り、売却益という一時的な上乗せが剥落した後、本業の増益だけで純利益を維持できるかが問われる。
CB発行による希薄化・資金調達力の制約
2026年に発行したユーロ円CB1,000億円は転換制限条項で当面の希薄化は抑えられるが、株価が転換価額を上回って推移すれば将来的な株式の希薄化が避けられない。900億円をM&A資金に充てたことは、内部資金だけで成長投資をまかなえていないことの裏返しでもある。
あおみ建設・AECの統合リスク
米軍基地・データセンター工事に強いAECと、海洋土木のあおみ建設を相次いで子会社化したが、いずれも統合後の実績はまだ浅い。AECは米国の国防予算・金利サイクルに業績が左右されやすく、のれんの管理や現地経営陣の維持に失敗すれば、期待した多角化効果が得られないリスクがある。
ガバナンス・コンプライアンスの傷
2018年のリニア中央新幹線談合事件では罰金1.8億円の判決に加え、国土交通省から120日間の営業停止処分を受けた。2017年の福島第一原発除染工事での不正発覚、トンネル工事での施工管理の問題も含め、業界の構造的な受注調整・現場管理の文化が完全に断たれたとは言い切れない。
国内建設投資の構造的な縮小
人口減・世帯数減を背景に、都市再開発・半導体工場需要が一巡した後の国内建設投資は実質横ばい〜緩やかな縮小に向かうとみられる。開発事業等・海外事業の規模が鹿島建設・大林組より小さい清水建設は、新しい成長の柱を確保できなければ、国内縮小の影響をより大きく受ける。
データセンター受注の振れの大きさ
データセンター関連の受注は四半期で200億円台から1,000億円規模までばらつきが大きく、特定の大口顧客の投資計画見直し一つで受注の柱が細る可能性がある。生成AI投資の失速やクラウド事業者の投資計画凍結があれば、建築事業の成長シナリオの前提が崩れる。
今後の分かれ目
- 国内建築事業の完成工事総利益率が2027〜2028年3月期の会社計画(営業利益率6.6〜6.9%相当)を上回って推移したら
- 楽観・やや楽観側の確率を上げてよい。価格転嫁の定着が会社計画以上に進んだ証拠になる。
- 大型工事での資材高対応の工事損失が再び発生したら
- やや悲観側に重みを移す。2024年3月期の赤字が一度限りの不運でなかったことを示す。
- あおみ建設・AECの統合後の売上・利益が計画どおりに積み上がっていることが確認できたら
- 楽観・やや楽観側の確率を上げてよい。M&Aによる多角化の実証になる。
- 政策保有株式の縮減目標(2027年3月末10%以下)を達成した後も純利益が本業増益で維持されたら
- 中立〜やや楽観側の確率を上げてよい。売却益剥落への懸念が後退する。
- CBの転換・希薄化が実際に進み、自己資本・1株当たりの価値が大きく薄まったら
- やや悲観側に重みを移す。資金調達の負の側面が表面化したことになる。
- 談合・コンプライアンス関連の新たな問題が発覚したら
- やや悲観側に重みを移す。ガバナンスの評価を見直し、優良さの評価を下げる。
- データセンター・半導体工場の新規大型受注が会社計画を上回るペースで続いたら
- 楽観側の確率を上げてよい。建築事業の受注の柱がさらに厚みを増す証拠になる。
見ておくもの
- 国内建築事業の完成工事総利益率・受注高の推移
- 政策保有株式の残高・連結純資産比と売却の進捗
- CBの転換状況と自社株買いの実施額
- あおみ建設・AECの統合後の売上・利益
- データセンター・半導体工場の新規大型受注の有無
- 海外事業(北米・アジア)の売上・営業利益
倍率と資本コストの決め方
数量(国内建築の完成床面積・国内の土木投資・開発資産・海外の床面積=実質)と単価・シェア(物価3%を入れた名目)を積み上げ、鹿島建設・大林組と同じ市場規模の前提を使い、資本コストは基本7.5%にquality+0.75%(建築比率の高い循環+入札で価格を決められない)を足した8.25%とした。2024年3月期の上場来初の赤字と2026年3月期の急改善の両方を踏まえ、今の高い利益率がそのまま続くとは置いていない。倍率は利益で決め、新しく投じるお金の稼ぎ(RONIC)と長期g4%以内から正当化PERを出し、上限の9割(やや悲観は7割5分)に置いた。建築比率の高さは資本コストで見て、倍率では重ねて下げていない。悲観は谷の利益の稼ぐ力でなく、総資産を強制売却で8割回収・負債は全額払うとして残る売れる資産(約4,470億円)で測った。今の株価(PBR1.4倍)は最後に比べただけで、結論は「やや割高」。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.75% = 8.25%。理由は quality_why。個別のリスク(不祥事・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。
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