結論
DIC は、印刷インキと有機顔料で世界首位を争う化学メーカーだ。筆者の結論は「やや割高」。稼ぐ力は戻りつつあるが、今の値段は AI 半導体向け樹脂の好調がしばらく続く前提を、かなり織り込んでいる。
稼ぎの土台は、食品や日用品の包装に使うインキだ。景気に左右されにくい一方、原料の石油化学品が上がるたびに、値上げを通せるかで利益が揺れる。営業利益率は 5% 台と薄い。
今期は様子が違う。半導体の絶縁材や封止材に使うエポキシ樹脂が伸び、会社は今期の営業利益を 780 億円に引き上げた。前期の 1.5 倍である。ただしこの数字には、在庫の値上がり益や引当金の戻しなど、続かない要素が混じる。会社自身も、下期は上期より利益が減ると見ている。
中立の営業利益は、今期の水準から大きくは伸ばさず、10 年後で 1,100 億円弱と置いた。今期の水準から大きくは伸びない。純負債は自己資本の 0.8 倍と重く、景気で利益が振れる会社でもあるので、資本コストは高めに見ている。
電子材料のケミトロニクスが想定の倍に育てば、見方は変わる。ただそれは楽観の筋書きで、確率は 1 割に届かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ち続けたい事業」とまでは言えない。インキと顔料は世界首位で、10 年後も事業は残る。だが、首位であることが利益率に結びついていない。株主に残る利益、つまり設備の更新に使う分を引いた利益は、売上のわりに小さい。
値段の面でも、安全域は薄い。今期の利益は、AI 半導体の好調と、続かない一時的な要素が重なって膨らんでいる。この水準が 10 年続くなら今の値段は妥当だが、利益が平均に戻るなら、割高になる。
評価できる点もある。経営は撤退と売却を実行し、還元を強めた。美術品の売却は、遊んでいた資産を事業と株主に回す動きで、筋がよい。ケミトロニクスは、小さいが稼ぎがよい事業で、これが 10 年で倍以上に育つなら、会社の質は変わる。
気になるのは、純負債が重く、景気が悪い年に利益が大きく削られることだ。2023 年は営業利益が 179 億円まで落ち、純損益も赤字になった。買うなら、利益が平均に戻った姿で値段を考えるべきで、筆者は今の値段を、その基準に照らして高いと見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は三つある。いちばん大きいのは、インキと包装材料の「パッケージング&グラフィック」で、売上の約 5 割を占める。米国の子会社サン・ケミカルが中心で、食品包装用のインキ、接着剤、コーティング剤を世界中で売る。雑誌や新聞のインキもここに入るが、こちらは需要が縮んでいる。
二つめは顔料の「カラー&ディスプレイ」。化粧品から自動車塗料、液晶のカラーフィルターまで、色をつける材料を作る。2021 年に独 BASF の顔料事業を 11.5 億ユーロで買い、有機顔料の世界首位を固めた。ただ買収後は中国勢の安値攻勢で利益が出ず、2023 年には営業赤字に落ちた。
三つめが「ファンクショナルプロダクツ」。合成樹脂のポリマと、ケミトロニクスと呼ぶ電子材料からなる。ポリマは、自動車部品に使う耐熱樹脂 PPS のほか、塗料や接着剤の原料など。売上は 2,200 億円ほどだ。
ケミトロニクスは、半導体の基板や封止に使うエポキシ樹脂、回路を焼き付ける感光材フォトレジストの原料ポリマなどを扱う。売上は 650 億円ほど(推定)にすぎない。それでも前期の利益は 78 億円で、全社の営業利益の 15% を稼ぎ、今期は 141 億円に伸びる見通しだ。
海外売上は全体の 75%。為替と原料価格の影響を受けやすい会社である。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、規模と顧客との距離にある。インキは世界首位で、食品メーカーの包装を世界各地の工場から切らさず届けられる。有機顔料も世界首位だ。品質の安定と世界での供給を求める顧客は、DIC を選びやすい。
ところが、その強みが利益に出ていない。営業利益率は 10 年以上、2〜7% の間を行き来し、高い年がない。原料の値上がりを製品価格に載せるのが遅れること、顔料で中国勢が安く攻めることが理由だ。資本の稼ぎを示す ROE も、この 10 年の最高が 14%、直近は 7% にとどまる。
ケミトロニクスは別の性格を持つ。分子の設計で差をつける製品で、利益率は 2 割近くある。ただ、原料のエピクロロヒドリンなどを自社で持つ日系大手と競うため、堀が深いとまでは言えない。
経営は、構造改革をやり切る力を見せてきた。液晶材料、星光 PMC、アルキルフェノールから撤退し、DIC デコールも売った。一方で、BASF 顔料の買収は結果として重荷になった。筆者は、買った事業を稼がせる力が、まだ十分に示されていないと見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
インキは、成長と縮小が同居する市場だ。包装用は食品や日用品の消費に支えられ、世界で年 3〜5% ほど伸びる。出版用は紙媒体の縮小で年に数% ずつ減る。世界市場は調査によって 200 億〜270 億ドルと幅があり、DIC はサン・ケミカルを通じてその首位にいる。競合は独ジーベック、フリント・グループ、日本の artience(東洋インキ)やサカタインクスなど。上位はどこも利益率が薄く、価格競争で体力を削り合う。
顔料は、中国勢が増産を続け、汎用品の値段が上がりにくい。日本勢が守れるのは、ディスプレイや化粧品など、品質が問われる高付加価値品だ。DIC の顔料は 2023 年に赤字になり、会社は 2030 年度に利益 160 億円まで戻す計画を立てている。
半導体材料は、いま最も勢いがある。AI 向けの半導体は、基板が大きく複雑になり、電気の損失が少ない材料が要る。DIC のエポキシ樹脂や硬化剤は、ここで採用が広がる。ただ半導体の投資は、2〜4 年で山と谷を繰り返してきた。山の利益を永久に続くものと置くのは危うい。
原料の約 7 割は石油化学品だ。中東情勢でナフサが上がり、今期は価格転嫁が想定より進んだが、これは追い風であると同時に、原料が下がれば値下げ圧力に変わる。景気の位置は、DIC にとって「利益の山に近い」と見る。
資本政策と M&A
還元は、ようやく厚くなってきた。長期計画のフェーズ 2 は、総還元性向 40% 以上、配当に最低ラインを設けた。今期は配当を 150 円に増やし、100 億円を上限に自社株買いを行う。
株主の圧力が背中を押した面がある。香港のオアシス・マネジメントが、川村記念美術館の収蔵品を売って還元に回すよう迫った。会社は 2025 年 3 月の株主総会でこの要求を退けたが、収蔵品を約 4 分の 1 に減らすと決め、前期に売却益 69 億円を得た。政策保有株も、純資産比 6% から 4% 以下へ減らす計画だ。
財務の重さは変わらない。純負債は自己資本の約 0.8 倍で、会社はこれを 0.8 倍以下に抑える方針だ。戦略投資は 5 年で 900 億円超を見込み、千葉工場には約 90 億円で半導体用エポキシ樹脂の設備を足す。
M&A は、買う側としては BASF 顔料(2021 年)とカナダのフォトレジスト用樹脂メーカー(2023 年)がある。買われる側の確率は、データ上は 10 年以内に 16% ほどだが、時価総額が大きく、現実味は高くない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
今期の急伸は、一時的なものではない。AI 向け半導体は、パッケージ基板が大きく複雑になり、電気の損失が少ない材料を必要とする。DIC の活性エステル型の硬化剤や低誘電の樹脂は、この領域で大きな採用を持つ。千葉工場の新設備が 2029 年に動けば、エポキシ樹脂の生産能力は 1.6 倍になる。ケミトロニクスは 10 年で売上が 4 倍近くに伸び、利益は 400 億円規模に届く。
インキの利益率も上向く。値上げが想定より通った今期は、原料を価格に載せる力が上がった証拠だ。出版用のインキは縮むが、会社はそれを小さく整理し、包装用の成長が利益の中心になる。アジアや中東、中南米にまだ伸びしろがある。
顔料は構造改革の効果が出る。工場を減らし、在庫を絞った結果、2030 年度には利益 160 億円という計画に届く。買収した BASF 顔料の統合も進み、赤字は過去のものになる。
財務も軽くなる。利益が増えれば、純負債の比率は 0.5 倍台に下がり、自社株買いの余地が出る。営業利益 1,500 億円、ROE 11% が見える姿で、これなら倍率も、今より高く付く。
慎重な見方
今期の利益は、山である。在庫の値上がり益、海外工場の引当金の戻し、顧客の前倒し発注が重なった。会社も、ケミトロニクスの下期利益は上期の 7 割強に減ると見ている。AI 向けの設備投資が一巡すれば、半導体材料の需要は急に冷える。過去の半導体投資は、2〜4 年で山と谷を繰り返した。
本業のインキは、利益率が 5% 台で、10 年間ほとんど上がっていない。原料が下がれば、値上げした分は値下げ圧力に変わる。出版用は縮み続け、中国勢は包装用にも手を伸ばす。顔料は 2023 年に 89 億円の赤字を出した事業で、構造改革が実るかはまだわからない。
財務も軽くない。純負債は自己資本の 0.8 倍で、営業利益は支払利息の 8 倍にとどまる。金利が上がる局面では、借り換えのたびに利払いが増える。会社の目標も、2030 年度の営業利益が 800 億円以上で、今期の予想 780 億円からほとんど伸びない。
つまり市場は、今期の山を新しい普通と見ている。平均に戻れば、利益は 3 割ほど減り、倍率も縮む。ROE が資本コストを下回る会社に、高い倍率は付かない。
どちらに重みを置いたか
ケミトロニクスの伸びは本物だが、全体の利益に占める割合はまだ 2 割で、山の高さを割り引く必要がある。一方、インキと顔料の薄い利益率は、10 年見ても大きくは変わらない。強いのは、利益が平均に戻るという見立てだ。確率は、中立に 4 割弱を置き、やや悲観の側を厚く、楽観の側をやや薄くした。景気の谷に当たる悲観は、負債の重さを考えて 1 割強とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 7,910 円7,477 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,385 円2,254 億円)。 今の値に割り戻すと 5,391 円5,097 億円、今との差 +12.2%、 期待の年率 +7.9%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 15,382 円1.45 兆円 | 3,551 円3,357 億円 | +293.9% | +14.7% | 1,515 円1,432 億円 |
| やや楽観 | 20% | 12,267 円1.16 兆円 | 3,048 円2,881 億円 | +218.6% | +12.3% | 3,063 円2,895 億円 |
| 中立 | 36% | 9,097 円8,600 億円 | 2,548 円2,409 億円 | +142.3% | +9.3% | 4,192 円3,963 億円 |
| やや悲観 | 24% | 3,511 円3,319 億円 | 1,724 円1,630 億円 | +8.9% | +0.9% | 1,256 円1,188 億円 |
| 悲観 | 12% | 899 円850 億円 | 1,332 円1,259 億円 | −53.6% | −7.4% | 268 円253 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,910 円7,477 億円 | 2,385 円2,254 億円 | +114.2% | +7.9% | 10,294 円9,731 億円 |
今の株価時価総額 4,807 円4,544 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:AI 基板の材料で主役の一角になり、インキの利益率も上がる 利益 951 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 15,382 円1.45 兆円
ケミトロニクスの数量は、今の 2.6 倍になる。AI 向けの先端パッケージが 10 年を通じて大きく伸び、DIC の低誘電の樹脂や硬化剤は、基板メーカーの標準材料に近づく。千葉工場の新設備に続く増設も決まる。売上は 2,300 億円、営業利益は 400 億円を超える。
インキは、原料の転嫁力が上がり、営業利益率が 7.5% に高まる。包装用の新興国での伸びが加わる。顔料は、高付加価値品の比率が上がり、利益率が 9% に届く。ポリマも環境対応品が欧州から世界に広がる。
営業利益は今の 2.9 倍の 1,500 億円。ROE は 11% で、資本コストを上回る水準に定着する。価値を生む会社に変わった姿だが、倍率は成熟した会社の水準にとどめた。
- インキ・包装材料:数量 6,045(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 8,103 億円・営業利益 608 億円。売上 8,103 億円・営業利益率 7.5%
- 顔料・ディスプレイ材料:数量 2,578(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 130.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 3,357 億円・営業利益 302 億円。売上 3,357 億円・営業利益率 9.0%
- ケミトロニクス(電子材料):数量 1,697(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 2,265 億円・営業利益 408 億円。売上 2,265 億円・営業利益率 18.0%
- ポリマ・その他の樹脂:数量 2,640(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 3,567 億円・営業利益 303 億円。売上 3,567 億円・営業利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 951 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍。全体の PER 15.29 倍、時価総額 14,541 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体材料の高成長が 10 年続き、同時に構造改革が実を結ぶ必要がある。条件が多いので、1 割に届かない確率にした。
やや楽観 20% やや楽観:ケミトロニクスが倍以上に育ち、顔料が戻る 利益 797 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 12,267 円1.16 兆円
ケミトロニクスの数量が今の 2.3 倍になる。AI の需要は途中で何度か調整を挟むが、先端パッケージの比重が上がり続け、営業利益は 330 億円ほどになる。
インキは、営業利益率が 7% に上がる。顔料は 8% に戻り、会社が掲げる 160 億円を超えて 250 億円ほどを稼ぐ。ポリマは中国とインドの投資が実り、数量が 15% 増える。
営業利益は 1,300 億円で、今の 2.5 倍。ROE は 10% 近くまで上がり、資本コストにほぼ並ぶ。会社の長期計画(ROE 10% 以上)が実現する姿に近い。
- インキ・包装材料:数量 5,935(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 7,955 億円・営業利益 557 億円。売上 7,955 億円・営業利益率 7.0%
- 顔料・ディスプレイ材料:数量 2,470(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 130.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 3,217 億円・営業利益 257 億円。売上 3,217 億円・営業利益率 8.0%
- ケミトロニクス(電子材料):数量 1,501(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 2,003 億円・営業利益 331 億円。売上 2,003 億円・営業利益率 16.5%
- ポリマ・その他の樹脂:数量 2,530(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 3,418 億円・営業利益 256 億円。売上 3,418 億円・営業利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 797 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍。全体の PER 14.55 倍、時価総額 11,596 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の目標どおりに進めば現れる姿で、ケミトロニクスの足元の勢いを見ると、実現の見込みは小さくない。確率は 2 割に置いた。
中立 36% 中立:物価の上昇に、実質の小さな伸びが乗る 利益 637 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 9,097 円8,600 億円
インキは、数量が 10 年で 5% 増えるにとどまる。包装用の伸びを、出版用の縮小がほぼ打ち消す。値段は物価並みに上がり、営業利益率は 6.5%。
顔料は、中国勢との価格競争が続き、値段は物価に届かない。それでも構造改革の効果で、営業利益率は 7% に戻る。ケミトロニクスは、数量が今の 1.9 倍に伸び、営業利益は 240 億円ほどになる。AI の山と谷を均した姿である。
営業利益は今の 2.1 倍の 1,080 億円。ただ今期予想の 780 億円から見ると、10 年で 4 割増にとどまり、年 3〜4% の伸びだ。物価の上昇を、ほぼそのまま利益に映した形である。ROE は 8% 台で、資本コストには届かない。優良ではあるが、割安ではない会社に落ち着く。
- インキ・包装材料:数量 5,770(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 7,734 億円・営業利益 503 億円。売上 7,734 億円・営業利益率 6.5%
- 顔料・ディスプレイ材料:数量 2,363(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 125.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 2,959 億円・営業利益 207 億円。売上 2,959 億円・営業利益率 7.0%
- ケミトロニクス(電子材料):数量 1,240(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 130.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 1,606 億円・営業利益 241 億円。売上 1,606 億円・営業利益率 15.0%
- ポリマ・その他の樹脂:数量 2,420(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 130.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 3,172 億円・営業利益 222 億円。売上 3,172 億円・営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 637 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.5 倍、時価総額 8,600 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:3 年の中立と同じ前提を 10 年に延ばした筋書き。会社の長期計画より少し先まで進めたが、利益率は今期予想の水準を超えない。
やや悲観 24% やや悲観:中国勢に押され、半導体材料の優位も薄まる 利益 387 億円 · PER 8.6 倍 · 株価時価総額 3,511 円3,319 億円
インキは、中国の安値攻勢と出版用の縮小で、数量が 5% 減る。値段は物価に追いつかず、利益率は 5.5%。顔料は、汎用品の値下がりが続き、営業利益率が 5% にとどまる。
ケミトロニクスの数量は 1.5 倍に伸びるが、日本や台湾、中国の競合が追い上げ、値段は物価ほど上がらない。営業利益は 160 億円ほどで、今期予想の 141 億円とほぼ変わらない。
営業利益は 720 億円で、今期予想より下がる。ROE は 5% 台にとどまり、資本コストを大きく下回る。倍率も縮み、時価総額は今の 7 割に届かない。三つの事業のうち、二つが期待に届かない、現実的な弱気の姿である。
- インキ・包装材料:数量 5,220(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 128.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 6,684 億円・営業利益 368 億円。売上 6,684 億円・営業利益率 5.5%
- 顔料・ディスプレイ材料:数量 2,148(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 115.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 2,475 億円・営業利益 124 億円。売上 2,475 億円・営業利益率 5.0%
- ケミトロニクス(電子材料):数量 979(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 120.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 1,170 億円・営業利益 158 億円。売上 1,170 億円・営業利益率 13.5%
- ポリマ・その他の樹脂:数量 2,200(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 125.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 2,772 億円・営業利益 166 億円。売上 2,772 億円・営業利益率 6.0%
倍率:ROE 5.8% は k 7.75% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で PER は 1÷k=11.4 倍まで。ROE 5% 台で k を大きく下回り優良とは言えない姿なので、稼ぐ力(純利益÷k)の7.5割の 8.57 倍に置いた。
確率:インキと顔料の薄い利益率は、この 10 年変わっていない。半導体材料でも、10 年の先まで優位が続く保証はない。確率は 2 割台半ばに置いた。
悲観 12% 構造的な負け:インキと顔料は中国に奪われ、半導体材料も失速 利益 100 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 899 円850 億円
中国の企業が包装用インキと顔料で世界の価格を決める。DIC の数量は 15% 減り、値段は物価の半分ほどしか上がらない。顔料はほぼ利益が出ず、出版用インキの縮小で、大型の工場閉鎖が続く。
ケミトロニクスも期待外れに終わる。AI の山が終わった後、基板材料で中国勢が台頭し、数量は今から増えず、利益率も 9% に下がる。営業利益は 320 億円と、今の 6 割ほどになる。
もう優良な化学会社とは見られず、自己資本の 0.45 倍で測る。減損で自己資本は 4,100 億円まで減る。それでも会社が潰れるわけではなく、配当の最低ラインは守られる。ただ、株主にとっては 10 年かけて価値が増えない、つらい展開である。
- インキ・包装材料:数量 4,671(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 120.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 5,607 億円・営業利益 252 億円。売上 5,607 億円・営業利益率 4.5%
- 顔料・ディスプレイ材料:数量 1,826(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 105.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 1,921 億円・営業利益 19 億円。売上 1,921 億円・営業利益率 1.0%
- ケミトロニクス(電子材料):数量 653(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 100.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 650 億円・営業利益 58 億円。売上 650 億円・営業利益率 9.0%
- ポリマ・その他の樹脂:数量 1,870(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 115.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 2,168 億円・営業利益 87 億円。売上 2,168 億円・営業利益率 4.0%
倍率:構造的な負けで優良ではなくなる姿で、純利益は 100 億円に細る。純負債 3,728 億円を背負うため売れる資産は負債の返済に回り、床の資産では値が付かない。株主の価値は稼ぐ力(純利益÷k=約 1,140 億円)を下回る水準として、やや悲観の PER 8.57 倍を超えない 8.5 倍に置いた。
確率:インキ・顔料の構造的な劣勢と、半導体材料の失速が重なる場合。どちらも前例があり、10 年なら 1 割強の確率で起こりうる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
インキ・包装材料
食品包装用などの印刷インキ、接着剤、コーティング剤、出版用インキ。米サン・ケミカルが中心。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 5,495 | 100.0% | 5,497 | 311 |
| 10 年後 中立 | 5,770 | 134.0% | 7,734 | 503 |
取り方:今の売上 5,497 億円(2025/12 期のセグメント売上)。印刷インキ・包装材料の関連市場を、今の値段で約 3.5 兆円(調査会社の世界のインキ市場 200 億〜270 億ドルに接着剤・コーティング剤を加えた推定)と置き、DIC のシェアを約 15.7%(数量 5,495)と逆算した。市場は調査で幅が大きい。物価の分は価格指数に入れ、シェアは数量の側に置いた。
顔料・ディスプレイ材料
有機顔料、ディスプレイ用のカラー材料、デジタル・スペシャリティ顔料。2021 年に BASF の顔料事業を買収。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,148 | 100.0% | 2,152 | 50 |
| 10 年後 中立 | 2,363 | 125.0% | 2,959 | 207 |
取り方:今の売上 2,152 億円。有機顔料とカラー関連材料の関連市場を約 1.2 兆円と推定し、シェアを約 17.9% と逆算した(開示はなく、世界首位という会社の説明からの推定)。物価の分は価格指数に入れる。
ケミトロニクス(電子材料)
半導体用エポキシ樹脂・活性エステル硬化剤・低誘電材料、フォトレジスト用ポリマ、工業用テープ。ファンクショナルプロダクツの一部。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 653 | 100.0% | 650 | 78 |
| 10 年後 中立 | 1,240 | 130.0% | 1,606 | 241 |
取り方:今の売上は約 650 億円(会社の 2026 年見通し 781 億円と、約 20% 増という説明からの逆算の推定。営業利益 78 億円は開示)。半導体基板・封止・感光材向けの関連市場を約 1.02 兆円と推定し、シェアを約 6.4%(数量 653)と置いた。シェアの数字は非開示で、会社は「トップクラス」と述べるのみ。 数量は市場(今の値段・実質)× シェア。物価は価格の指数に別に入れている。
ポリマ・その他の樹脂
合成樹脂(PPS 耐熱樹脂など)、塗料・接着剤の原料、ハイパフォーマンス材料。ファンクショナルプロダクツからケミトロニクスを除いた部分。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,200 | 100.0% | 2,218 | 153 |
| 10 年後 中立 | 2,420 | 130.0% | 3,172 | 222 |
取り方:ファンクショナルプロダクツの売上 2,868 億円・営業利益 231 億円から、ケミトロニクス(推定 650 億円・78 億円)を引いた残りを置いた。関連市場を約 5.5 兆円、シェアを約 4% と推定した(根拠は粗い)。物価の分は価格指数に入れる。
リスクと懸念
AI 半導体の山が終わる
今期の利益増の主役はケミトロニクスで、営業利益は前期の 78 億円から 141 億円へ伸びる見通しだ。半導体投資は 2〜4 年で山と谷を作ってきた。AI 向けの設備投資が一巡すれば、この事業の利益は急に細り、全社の見通しも崩れる。
今期の利益に続かない要素が混じる
在庫の値上がり益、前期に積んだ海外工場の引当金の戻し、顧客の前倒し発注が今期を押し上げている。会社も下期は上期より利益が減ると見る。今期の営業利益 780 億円を普通の水準と読むと、10 年の見通しを誤る。
原料価格と価格転嫁
原料の約 7 割は石油化学品で、中東情勢によるナフサ高は通期で 50〜100 億円のコスト増になりうると会社は見ていた。値上げが通らなければ、利益率の薄いインキと樹脂はすぐ減益に落ちる。原料が下がれば、今度は値下げ圧力に変わる。
顔料の構造改革が実らない
カラー&ディスプレイは 2023 年に 89 億円の営業赤字を出し、前期も利益率は 2% 台にとどまる。中国勢の安値攻勢が続けば、会社の目標である 2030 年度の利益 160 億円には届かず、BASF 顔料の買収額を回収できなくなる。
出版用インキの縮小
雑誌や新聞のインキは紙媒体の縮小で、需要が毎年数% 減る。会社は規模を合わせて小さくする方針で、必要なら大胆な構造改革も検討すると言うが、工場の閉鎖や人員整理には費用がかかり、利益の足を引っ張る。縮む市場で売上を守る道はなく、どこまで小さくするかの見極めが課題になる。
財務の重さと利払い
純負債は約 3,700 億円で、自己資本の約 0.8 倍。営業利益は支払利息の 8 倍ほどだ。借り換えのたびに金利が上がると、10 年で経常利益は 90 億円ほど削られる。景気後退で利益が落ちる年に、これが重くのしかかる。
為替の影響
海外売上が 75% を占め、円安は円換算の利益を押し上げる。会社は下期を 1 ドル 150 円で見るが、円高に振れれば、海外の利益が円では目減りし、利益の山が低くなる。今期の好調の一部は、円安の追い風でもある。為替の読みは当たりにくいので、本文の筋書きでは 150 円に固定して置いた。
今後の分かれ目
- ケミトロニクスの利益が下期以降も上期の水準(四半期 40 億円台)を保ったら
- 半導体材料の前提を上げ、楽観・やや楽観の確率を引き上げてよい。
- AI 向けの設備投資が減速し、パッケージ基板の発注が目に見えて減ったら
- ケミトロニクスの数量を下げ、やや悲観・悲観に寄せる。
- 原料価格が下がる中でも、インキの価格が維持され、営業利益率が 7% を超えて定着したら
- インキの利益率の前提を上げ、中立を 1 割ほど引き上げてよい。
- 顔料の営業利益が 100 億円を超え、赤字の期が出なくなったら
- カラー&ディスプレイの前提を上げ、会社の 2030 年度目標 160 億円の達成確率を高く見てよい。
- 千葉のエポキシ樹脂設備の稼働が遅れる、または稼働後に半導体需要が弱かったら
- 設備投資の回収が遅れ、ケミトロニクスの数量と全社の ROE の前提を下げる。
- 自社株買いが大きく積み増される、または政策保有株や美術品の売却資金が追加で還元に回ったら
- 還元の前提を上げる。ただ利益そのものは変わらず、本質価値の変化は小さい。
見ておくもの
- ケミトロニクスの四半期の営業利益と、パッケージ基板向けの動き
- パッケージング&グラフィックの営業利益率(原料の下落局面で価格が保てるか)
- カラー&ディスプレイの営業利益(赤字の期が出ていないか)
- 原料(ナフサ・エピクロロヒドリン)の価格と、為替
- 純負債と自己資本の比率(0.8 倍以下の達成)と、自社株買いの実績
倍率と資本コストの決め方
4 つのセグメントを、市場規模(実質)× シェアと価格指数で積み上げ、利益率から営業利益を出した。倍率は k 7.75%(基本 7.5%+quality 1.25%)、g 4%、ROE 8% 台から出した正当化 PER(ROE が k に届かないので 1÷k)の 0.9 倍(中立)で、今の PER には寄せていない。結果は 10 年の中立の時価総額が今の 1.4 倍ほど、配当を足して年率 6% 台半ばで、k を下回る。今の株価は今期予想の純利益 480 億円(会社計画)に対する PER 10 倍で、中立は営業利益を今期予想(780 億円)から大きくは伸ばさず置いたため、割高に出た。これは今期の利益に在庫益・引当金の戻し・前倒し発注・美術品の売却益といった続かない要素があるという判断による。ROE が k を下回るので PER の下限 1÷k は当てはまらない。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)で測り、過去の PBR の底からは置いていない。純現金の会社ではなく、余った現金は立てない。リースは工場・倉庫が中心で規模は限定的と見たが、新リース会計基準(2028/03 期から)では純負債と自己資本比率の見え方が変わるので、数字は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.25%(市況の循環 +0.5、顔料の値決めの弱さ +0.25、重い純負債 +0.5)を足して 8.75%。事業が傾いているわけではないので extra は 0。顔料の構造改革の遅れや BASF 顔料の統合の実行リスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 7.75%。