結論
東京インキは、印刷インキとプラスチック用の着色剤(マスターバッチ)を二本柱にする中堅の化学メーカーだ。筆者の結論は、改善は本物だが、今の値段はそれを先に織り込みすぎている、である。
前期は営業利益が22億円と前の期の1.7倍になり、営業利益率4.4%は過去12年で最高だった。値上げの浸透と、低収益品の整理が効いた。今期の会社予想はさらに上向く。
それでも評価を上げない理由は、稼ぐ力の水準にある。自己資本利益率(ROE)は5〜6%で、資本コストの8%台に届かない。利益率が山を超えても、中立のROEは5%台にとどまる。
事業の中身も二面ある。核の一つのオフセットインキは、印刷需要の縮小で数量が減り続ける。それを、化成品(自動車・包材向け)と土木資材、機能性のグラビアインキが埋められるかが10年の勝負になる。
財務は穏やかだ。自己資本比率は約6割、純負債は18億円と小さい。政策保有株は51億円あるが、毎年縮減している。
10年後の中立は、売上が物価なみに伸びて約630億円、営業利益率は4%台半ば。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額を下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、東京インキは「改善の物語」は面白いが、「優れた事業」とは言いにくい会社だ。
事業の持続力から見よう。オフセットインキという収益の柱は、10年のうちに数量が3割近く減ってもおかしくない。それを他の事業で補える保証はない。化成品は競合が多く、土木資材だけが数少ない高収益の芽だ。
オーナー利益の面では、研究開発と設備に毎年30億円ほど使う。減価償却と同じ程度で、株主が自由に使える分は純利益より小さい。純利益の中にも、政策保有株の売却益のような一回限りが混じる。
資本の使い方は、前向きに動き始めている。配当を厚くし、政策保有株を減らし、低収益品を整理する。この流れを3年以上続け、ROEが資本コストを超える年が出れば、評価を改める。
安全域は、今の値段にはない。筆者の見立てでは、中立でも時価総額は今を下回り、割安になるのは楽観に近い筋書きだけだ。会社の質に問題はなく、買収で価値を壊す心配も小さいが、払う値段に余裕がない。
何で稼ぐ会社か
売上499億円の稼ぎは、三つの事業に分かれる。
インキ事業(売上の約37%)は、新聞・商業印刷用のオフセットインキ、食品・医薬の包装に使うグラビアインキ、デジタル印刷用のインクジェットインキを作る。オフセットは市場が縮み続けている。グラビアは医薬包装向けが2025年から本格的に売れ、機能性の品が伸びた。
化学製品事業(約48%)が最大だ。プラスチックに色をつけるマスターバッチと樹脂コンパウンドを、包装、自動車、容器、光学向けに売る。タイ子会社の利益率は24%と高い。一方、顧客の注文で作る受託品は赤字が残る。
加工製品事業(約15%)は、水処理用のネトロン、延伸フィルム、災害対策のジオセル(土木資材)、農業資材。土木資材は利益率が約2割と高いが、ネトロンは赤字が続き、前期に8億円の減損を出した。
このほか不動産賃貸があるが、売上は1億円に満たない。
顧客は印刷会社、包装メーカー、自動車部品メーカーなどで、取引先持株会や印刷会社が株主にもなっている。研究開発費は年11億円で、売上の2%強に当たる。
優良さと弱いところ
堀は広くない。印刷インキは大手のDICとartienceが寡占し、東京インキは中堅の位置にある。マスターバッチも競合が多く、顧客の指定や価格交渉で利益率が決まる。
差を出しているのは、現場の細かな改善だ。前期はグラビアインキの医薬包装向け、化成品の自社製品、土木資材で利益率が上がった。反対に、インクジェットは前年の14%から3%に落ち、受託品は赤字だ。強みと弱みがはっきり割れている。
資本効率は低い。過去10年のROEの中央値は4.1%で、営業利益率は赤字から4%台の間を行き来してきた。2015年3月期や2023年3月期には営業赤字も経験している。
経営の姿勢には変化が見える。中期計画「TOKYOink 2027」で、低収益品の整理、配当性向40%以上またはDOE1%以上、政策保有株の縮減(2018年3月末比で57.6%)を掲げた。計画を前倒しで超える決算が出たことは評価できる。
弱いところは、新工場を含む成長投資の回収だ。成果が確認できるまでは、堀の厚さを控えめに見るのが筆者の立場である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
印刷インキ業界は、構造的に縮む市場と伸びる市場が同居している。オフセットインキは、新聞・雑誌・チラシの紙媒体が減るのに合わせて数量が年に数%ずつ減る。有報も市場縮小を明記している。一方、食品・医薬の包装に使うグラビアインキは、機能性の需要を背景に堅調だ。
競争は、大手2社のDICとartienceが国内外で規模を持ち、中堅のサカタインクスや大日精化、東京インキが特定の用途で戦う形だ。印刷会社の統合が進むほど、価格交渉は厳しくなる。
樹脂着色剤(マスターバッチ)は、包装、自動車、容器の需要に連動する。自動車の生産が変わり、環境対応で着色の需要が減ったことは、前の中期計画の未達の一因だった。海外ではタイを足場にASEAN向けの需要を狙う。
原料は原油・ナフサ由来が中心で、価格の変動が利益を大きく動かす。2025年度も原料価格の高騰があった。販売価格の改定が遅れると、利益が薄くなる構造だ。
土木資材は、国の防災・減災の方針で需要が見込まれる。ここは成長市場といえる。ただし東京インキの規模は小さく、市場の伸びがそのまま全社の利益に効くわけではない。
資本政策と M&A
還元は数字で示している。中計では配当性向40%以上またはDOE1.0%以上を方針とし、2025年3月期から2028年3月期の4年間で総額30億円(配当25億円、自己株式取得5億円)を計画する。前期の配当性向は4割を超えた。
株主構成は特徴的だ。取引先持株会が約9%、印刷会社の共同印刷が約8%、従業員持株会が約5%を持ち、上位10社で約37%になる。取引先との関係が株主構成に表れ、買収は成立しにくい。
政策保有株は上場14銘柄で約51億円(2018年3月末から38銘柄を縮減)。前期は6銘柄を約8億円で売った。配当は利益に入っているので、価値として別には足さない。売却益は利益に混ざるが、利益を支える水準とは見ない。
M&Aは、新規事業と周辺領域で検討するとあるが、案件は未定だ。中計の投資170億円には戦略投資30億円が含まれる。
株主優待は、100株以上で電子マネーかQUOカード、寄付のいずれか千円相当、300株以上を3年以上持つと二千円相当(年1回)。現金に近い還元だ。株主数の開示が見つからず、年0.7億円と推定した(2倍程度のずれはありうる)。優待は株主が受け取る還元なので、10年の還元に足した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
改善はまだ序盤にすぎない。前期の営業利益率4.4%は12年ぶりの高水準だが、中計が掲げる2030年度の営業利益28億円(売上500億円で5.6%)は、足元の勢いから見て届く水準だ。今期の会社予想はすでに営業利益27億円と、中計の2027年度目標の20億円を前倒しで超えている。
伸びる領域がはっきりしている。医薬包装向けのグラビアインキは2025年に本格販売が始まったばかりで、数量の伸びしろが大きい。土木資材は国土強靭化の予算に支えられ、利益率が約2割と高い。タイの化成品は利益率24%で、ASEANの包材需要を取りにいける。
低収益品の整理が進む効果も大きい。受託品の赤字や、ネトロンの減損が終われば、全社の利益率は自然に上がる。政策保有株の縮減で得た資金は、成長投資と還元に回る。
株主構成も安定している。取引先と従業員が株主になっており、事業の継続性が高い。10年あれば、5%台の利益率が定着する余地はある。
慎重な見方
オフセットインキの縮小は止まらない。紙の印刷物が減るにつれ、数量は毎年減り、設備の稼働率が落ちて固定費が重くなる。有報も市場縮小を認めている。この事業が稼ぐ営業利益は10億円と、全社の半分近くを占めており、縮み方次第で全体が崩れる。
化成品は、競合が多く、価格を顧客に決められる側だ。受託品は赤字で、整理が遅れている。自動車や包材の需要は景気で動き、環境対応で着色の需要が減る逆風もある。タイの高い利益率は、全体を変えるほど大きくない。
前期の増益の質にも疑問が残る。営業利益22億円のうち、原料高の転嫁が進んだ分は、原料が下がれば戻される。経常利益や純利益には、政策保有株の売却益のような一回限りが混じる。会社が示す営業利益の山が、持続するとは限らない。
資本効率は低いままだ。ROEは5%台で、資本コストに届かない。自己資本が積み上がるほど、ROEは下がる。今の値段は、この限界を無視している。そのうえ、利益の一部は一回限りの売却益で、本業の稼ぐ力は見かけより小さい。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。利益率の改善は実績で確認できるが、10年続くと言えるほどの根拠はまだない。強気の見方の最も強い点は、今期の会社予想と医薬包装・土木資材の伸びだが、オフセットの縮小を全部は埋めない。確率は中立を中心に置き、やや悲観を厚く、悲観は1割とした。事業の質は悪くなく、悲観でも黒字は保つと見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,875 円233 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 746 円93 億円)。 今の値に割り戻すと 1,326 円165 億円、今との差 −31.6%、 期待の年率 +3.1%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,229 円401 億円 | 1,019 円127 億円 | +119.3% | +8.2% | 297 円37 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,595 円322 億円 | 897 円111 億円 | +80.3% | +6.1% | 698 円87 億円 |
| 中立 | 38% | 2,238 円278 億円 | 809 円100 億円 | +57.3% | +4.6% | 1,158 円144 億円 |
| やや悲観 | 25% | 893 円111 億円 | 626 円78 億円 | −21.6% | −2.4% | 380 円47 億円 |
| 悲観 | 10% | 563 円70 億円 | 320 円40 億円 | −54.4% | −7.6% | 88 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,875 円233 億円 | 746 円93 億円 | +35.3% | +3.1% | 2,621 円326 億円 |
今の株価時価総額 1,937 円241 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 楽観:機能性インキと化成品が伸び、利益率が5%台後半に乗る 利益 34 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,229 円401 億円
グラビアの医薬包装と機能性インキが伸び、化成品の自社品とタイが成長し、土木資材も国の防災投資で拡大する。オフセットの縮小は年3%にとどまり、数量の減りは10年で5%程度。低収益の受託品とネトロンの整理は完了し、営業利益率は5%台後半まで上がる。過去12年の山(4.4%)を超えるが、前期の改善の実績(値上げの浸透と低収益品の整理)と、中計の2030年度目標(営業利益28億円)に裏づけがある範囲だ。政策保有株の売却資金は成長投資と還元に回る。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年0.7億円×10年×1.0=7.0億円。推定)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- インキ事業(オフセット・グラビア・インクジェット):数量 2.9(販売数量(万トン、推定))× 価格 828(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 241 億円・営業利益 14 億円。営業利益率6.0%
- 化学製品事業(マスターバッチ・樹脂コンパウンド):数量 5.5(販売数量(万トン、推定))× 価格 690(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 379 億円・営業利益 19 億円。営業利益率5.0%
- 加工製品事業(ネトロン・延伸フィルム・土木資材):数量 1.1(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,104(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 126 億円・営業利益 10 億円。営業利益率8.0%
- 不動産賃貸:数量 0.3(賃貸面積(万㎡、推定))× 価格 4.02(1㎡あたり年間賃料(万円、推定。名目))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。営業利益率60%
倍率:事業の純利益 34 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 401 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:医薬包装・土木資材・タイが重なって伸び、中計の2030年度目標が前倒しで届く筋書き。実現には原料高の沈静も要り、確率は低め。
やや楽観 20% やや楽観:低収益品の整理が進み、利益率が5%近くで定着 利益 27 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,595 円322 億円
低収益品の整理が計画どおり進み、前期の改善が定着する。オフセットは10年で数量が1割減、化成品は7%、土木資材を含む加工品は1割増える。単価は物価をやや上回り、営業利益率は5%近くで安定する。山を少し超えるが、今期の会社予想の水準を下回る形だ。配当性向4割以上の方針が守られ、還元が増える。化成品は自動車と包材の需要を取り込み、受託品の整理でさらに採算が上がる。ただ、ネトロンの赤字と原料高への備えは残り、利益率は山のすぐ上にとどまる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年0.7億円×10年×1.0=7.0億円。推定)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- インキ事業(オフセット・グラビア・インクジェット):数量 2.8(販売数量(万トン、推定))× 価格 816(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 225 億円・営業利益 13 億円。営業利益率5.6%
- 化学製品事業(マスターバッチ・樹脂コンパウンド):数量 5.1(販売数量(万トン、推定))× 価格 680(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 348 億円・営業利益 15 億円。営業利益率4.2%
- 加工製品事業(ネトロン・延伸フィルム・土木資材):数量 1.0(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,088(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 113 億円・営業利益 8 億円。営業利益率7.0%
- 不動産賃貸:数量 0.3(賃貸面積(万㎡、推定))× 価格 4.02(1㎡あたり年間賃料(万円、推定。名目))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。営業利益率58%
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.1% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 322 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:前期の改善が定着する形。今期の会社予想と、第1四半期の好調を実績の範囲で延ばした。
中立 38% 中立:オフセットの縮小を化成品と土木資材が支える 利益 23 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,238 円278 億円
売上は物価なみに伸び、10年で約630億円になる。オフセットの縮小で、インキの数量は15%減る。化成品と加工品は横ばいで、土木資材の伸びとネトロンの縮小が相殺する。原料・賃上げ・物流の費用も同じペースで増えるため、営業利益率は山の4.4%と同じ水準にとどまる。営業利益は28億円、純利益は22億円。配当は利益の4〜5割を目安にする。会社が目標に掲げる2030年度の営業利益28億円とほぼ同じ水準で、中計の達成は見込むが、それ以上は置かない。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年0.7億円×10年×1.0=7.0億円。推定)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- インキ事業(オフセット・グラビア・インクジェット):数量 2.6(販売数量(万トン、推定))× 価格 804(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 209 億円・営業利益 11 億円。営業利益率5.3%
- 化学製品事業(マスターバッチ・樹脂コンパウンド):数量 4.8(販売数量(万トン、推定))× 価格 670(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 320 億円・営業利益 12 億円。営業利益率3.6%
- 加工製品事業(ネトロン・延伸フィルム・土木資材):数量 0.9(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,072(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 102 億円・営業利益 6 億円。営業利益率6.3%
- 不動産賃貸:数量 0.3(賃貸面積(万㎡、推定))× 価格 4.02(1㎡あたり年間賃料(万円、推定。名目))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。営業利益率55%
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 265 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の数量と価格の見通し(オフセットの縮小を他の事業が一部補う、物価並みの値上げ)に沿う中心。
やや悲観 25% やや悲観:オフセットが想定以上に縮み、受託品の赤字が残る 利益 13 億円 · PER 6.1 倍 · 株価時価総額 893 円111 億円
オフセットの縮小が想定より速く、インキの数量は10年で25%減る。化成品は受託品の赤字が残り、整理が遅れて数量も8%減る。原料高の転嫁が遅れ、営業利益率は3%を割る。グラビアの伸びも、価格競争で利益に結びつかない。ネトロンの追加損失も出る。工場の稼働が落ち、固定費の重さが利益を削る。純利益は13億円にとどまり、配当は据え置きに近い。値上げのたびに印刷会社が内製や他社に動き、取引先の統合で価格交渉も厳しくなる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年0.7億円×10年×0.75=5.3億円。推定)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- インキ事業(オフセット・グラビア・インクジェット):数量 2.3(販売数量(万トン、推定))× 価格 780(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 179 億円・営業利益 7 億円。営業利益率4.0%
- 化学製品事業(マスターバッチ・樹脂コンパウンド):数量 4.4(販売数量(万トン、推定))× 価格 650(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 286 億円・営業利益 6 億円。営業利益率2.2%
- 加工製品事業(ネトロン・延伸フィルム・土木資材):数量 0.9(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,040(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 89 億円・営業利益 4 億円。営業利益率4.5%
- 不動産賃貸:数量 0.3(賃貸面積(万㎡、推定))× 価格 4.02(1㎡あたり年間賃料(万円、推定。名目))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。営業利益率50%
倍率:ROE3.2%、RONIC5.7%、g4%で正当化PERは7.1倍。その85%の6.1倍。構造的に利益率が落ちた姿で、伸びても価値が増えない。PBRは0.20倍と低いが、本業の設備は売却価値が簿価を大きく下回るとみており、床(約70億円)をやや上回る水準にとどめた。
確率:オフセットの縮小が速く、受託品の赤字が残る。2023年3月期に営業赤字へ落ちた実績があり、厚めに置く。
悲観 10% 悲観:印刷需要の急減と中国勢の台頭で、本業が赤字に近づく 利益 2 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 563 円70 億円
印刷需要の急減で、オフセットの数量が4割減る。中国勢の台頭と顧客の内製化で、化成品の価格が崩れる。自動車向けの着色需要も、環境対応と生産の変化でさらに細る。受託品の赤字が拡大し、設備の減損も出る。ネトロンは撤退に追い込まれる。営業利益は2億円にとどまり、配当を減らして現金を守る。政策保有株の売却で一部を補うが、本業の弱さは変わらない。取引先持株会や印刷会社の株主も、取引の縮小とともに保有を見直す。残るのは、土木資材やタイなど一部の高収益事業と、保有する不動産・株式の価値だ。新工場の投資は回収が遅れる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年0.7億円×10年×0.5=3.5億円。推定)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- インキ事業(オフセット・グラビア・インクジェット):数量 1.8(販売数量(万トン、推定))× 価格 690(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 127 億円・営業利益 3 億円。営業利益率2.0%
- 化学製品事業(マスターバッチ・樹脂コンパウンド):数量 3.8(販売数量(万トン、推定))× 価格 575(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 220 億円・営業利益 0 億円。営業利益率0.0%
- 加工製品事業(ネトロン・延伸フィルム・土木資材):数量 0.7(販売数量(万トン、推定))× 価格 920(1kg あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 65 億円・営業利益 1 億円。営業利益率1.0%
- 不動産賃貸:数量 0.3(賃貸面積(万㎡、推定))× 価格 4.02(1㎡あたり年間賃料(万円、推定。名目))→ 売上 1 億円・営業利益 1 億円。営業利益率40%
倍率:純利益は2億円で稼ぐ力は測れない。床は売れる資産の税後で測り、今の自己資本319億円に対するPBR0.22倍(時価総額70億円)に置いた。
確率:印刷需要の急減と中国勢の台頭、受託品の損失が重なる複合の筋書き。政策保有株などの売れる資産が下を支えるため、確率は1割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
インキ事業(オフセット・グラビア・インクジェット)
新聞・商業印刷用のオフセットインキ、食品・医薬包装用のグラビアインキ、インクジェットインキ。売上の約37%。
| 数量販売数量(万トン、推定) | 価格1kg あたり平均単価(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.1 | 600 | 184 | 10 |
| 10 年後 中立 | 2.6 | 804 | 209 | 11 |
取り方:インキ事業の売上183.7億円を、1kgあたり平均六百円前後の品が年3.1万トン売れていると置いて分けた(推定。オフセットは安く、インクジェットは高い)。数量は、オフセットの縮小(年3%減)をグラビアとインクジェットの伸びが一部だけ補い、中立は10年で0.85倍。価格は物価並み(10年1.34倍)。市場の大きさは公式の開示がなく推定しない。競合はDIC、artience、サカタインクス、大日精化。
化学製品事業(マスターバッチ・樹脂コンパウンド)
プラスチックに色を付ける樹脂着色剤(マスターバッチ)と樹脂コンパウンド。包材・自動車・容器・光学向け。売上の約48%。
| 数量販売数量(万トン、推定) | 価格1kg あたり平均単価(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.8 | 500 | 239 | 8 |
| 10 年後 中立 | 4.8 | 670 | 320 | 12 |
取り方:化学製品事業の売上238.9億円を、1kgあたり平均五百円前後の品が年4.8万トン売れていると置いて分けた(推定。マスターバッチと樹脂コンパウンド)。数量は、低収益の受託品の整理とタイ・包材の伸びが打ち消し合い、中立は10年で横ばい。価格は物価並み。競合は樹脂着色剤の国内外の専業と大手。
加工製品事業(ネトロン・延伸フィルム・土木資材)
水処理・包装用のネトロン、一軸延伸フィルム、ジオセル工法の土木資材、農業資材。売上の約15%。
| 数量販売数量(万トン、推定) | 価格1kg あたり平均単価(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.9 | 800 | 76 | 5 |
| 10 年後 中立 | 0.9 | 1,072 | 102 | 6 |
取り方:加工製品事業の売上75.8億円を、1kgあたり平均八百円前後の品が年0.95万トン売れていると置いて分けた(推定。ネトロン・延伸フィルム・土木資材・農業資材の合計)。数量は、土木資材の伸びとネトロンの縮小が打ち消し合い、中立は10年で横ばい。価格は物価並み。
不動産賃貸
保有する不動産の賃貸。売上0.9億円と小さい。
| 数量賃貸面積(万㎡、推定) | 価格1㎡あたり年間賃料(万円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.3 | 3.00 | 1 | 1 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 4.02 | 1 | 1 |
取り方:不動産賃貸の売上0.9億円を、貸室の面積約0.3万㎡と1㎡あたり年3万円の賃料に分けた(推定)。賃料は物価並みに上がると置く。
リスクと懸念
オフセットインキの構造的な縮小
紙の印刷物が減り、オフセットインキの数量は減り続ける。インキ事業の営業利益は全社の半分近くを占め、縮小が想定より速ければ、他事業の伸びでは補えない。有報も市場縮小を明記している。
原料価格と転嫁の遅れ
原料は原油・ナフサ由来が中心で、2025年度も高騰があった。販売価格の改定が遅れる年は、利益が急に薄くなる。過去には営業赤字の年(2015年3月期、2023年3月期)もある。
受託品とネトロンの赤字
化成品の受託製品の利益率は−3.1%、ネトロンは−17.4%で、前期は8億円の減損を出した。整理が遅れれば、増益の足を引く。
自動車・包材の需要変動
化成品は自動車、包材、容器向けが主力で、景気や生産台数に連動する。環境対応で着色の需要が減る逆風も、前の中期計画の未達の一因だった。
増益の質
前期の純利益には、固定資産の売却益5億円と、政策保有株の売却益5億円が含まれる。一回限りの利益で、営業利益の改善の持続性とは別に見る必要がある。
成長投資の回収
中計は5年で投資170億円を計画し、化成品の新工場も進める。戦略投資30億円の使い道は未定で、回収できなければ資本効率がさらに下がる。
今後の分かれ目
- 営業利益率が5%を超えて、2年以上定着したら
- やや楽観・楽観に確率を移し、価値は今の水準に近づく。
- オフセットインキの数量が年5%以上の速さで減り始めたら
- やや悲観・悲観に確率を移す。インキ事業の利益の前提を下げる。
- 受託品の赤字とネトロンの整理が完了したら
- 化成品・加工品の利益率の前提を上方修正する。
- 大型M&Aや新工場の投資が発表されたら
- 投資額と回収の見通しを確認し、ROEへの影響を見直す。
- 取引先・印刷会社の再編で株主が動き、買収の提案が出たら
- 提案価格が本質価値を上回るかを見る。
見ておくもの
- 営業利益率(会社予想5%前後が定着するか)
- オフセットインキの数量とグラビアの売上
- 受託品・ネトロンの赤字の縮小
- 土木資材とタイの化成品の利益
- 配当性向・自己株式取得、政策保有株の縮減
倍率と資本コストの決め方
インキ・化学製品・加工製品は販売トン数×1kgの単価(推定)、不動産は面積×賃料で積み、価格は物価並みに上げた。中立の営業利益率は4.4%で、過去12年の山(直近期の4.4%)と同じ水準に置いた。会社予想はさらに上だが、実績で確認できるのは前期までのため、そこを超えては置かない。倍率は利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の9割で、ROEがkより低いので1÷kが上限になる。今の株価(PER約13倍・PBR約0.8倍)には寄せていない。純負債は小さく、余った現金は分けなかった。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.3→11.76 倍・やや楽観 PER 9.4→11.76 倍・中立 PER 8.6→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityを足して決める。事業が傾いてはいないので上乗せは置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 8.50%。