結論
住友ベークライトは、半導体を守る樹脂「封止材」で世界一の会社だ。筆者はこの会社を、今の値段より本質的な価値が低いと見る。理由は単純で、稼ぐ力が資本コストにようやく届く程度にとどまっているからだ。
封止材事業は、AIデータセンター向けの需要を取り込んで伸びている。2026年には京セラから同種の事業を買収し、品ぞろえを一段と厚くした。半導体という柱の強さは本物だ。だが、もう一本の柱である高機能プラスチックは利益率が低く、自動車や建築の景気に振られやすい。医療機器や包装を担うクオリティオブライフも、成熟した事業が多い。
3つの事業を合わせたROE(株主から見た稼ぐ力)は8%台で、資本コスト7.75%とほぼ並ぶ。稼ぐ力が資本コストを大きく超えない会社に、高い値段をつける理由はない。筆者が描く10年後の本質的な値段は、今の時価総額の5割強にとどまる。封止材の優位がどこまで続くか、高機能プラスチックの利益率がどこまで戻るか、京セラ事業の統合がうまくいくか。この3つが、評価を動かす分かれ目になる。
バリュー投資の観点から
筆者がこの会社を見るとき、いちばん気になるのは「稼いだお金をどこに使っているか」だ。半導体関連材料は、再投資すれば資本コストを上回るリターンが見込める。京セラからの買収も、既存の封止材事業と噛み合う買い物で、筆者は好ましい資本の使い方だと見る。
一方で、高機能プラスチックに追加で資金を投じても、同じリターンは望みにくい。自動車や建築向けの樹脂は、価格競争にさらされやすいからだ。この事業に厚く投資を続けるなら、理由を問いたくなる。
堀の強さにも差がある。封止材の世界シェア4割は立派だが、競合が多い分、価格を決める力は限られる。10年という時間軸では、中国勢の追い上げも視野に入れておきたい。
政策保有株の売却と自社株買いは、資本を株主に戻す動きとして評価できる。配当の目安を引き上げたことも悪くない。ただし、稼ぐ力が資本コストとほぼ並ぶ今の水準では、払う値段には安全域、つまり見立てが外れても損をしにくい余裕を、厚めに取っておくべきだと筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
住友ベークライトの稼ぎの柱は3つある。ひとつは半導体関連材料だ。半導体チップを熱や湿気から守る樹脂「封止材」で、世界シェア4割を握る。顧客は台湾や韓国の半導体メーカー、GPUやサーバーを作る会社だ。AIデータセンター向けの需要拡大が、この事業をいちばん強く押し上げている。2026年10月には、京セラから同種のケミカル事業を300億円で買収した。同社として過去最大級の買収だ。
もうひとつの柱が、高機能プラスチックだ。工業用の積層板や、自動車のモーターを固定するアルミ基板、建物の断熱に使う発泡材などをつくる。電子・自動車・建築という、性質の異なる3つの市場に分散している。自動車の電気化は新しい需要を生むが、建築需要は国内の人口減で先細りやすい。
3本目の柱は、クオリティオブライフだ。中心は2020年に買収した川澄化学工業、今のSBカワスミである。血液バッグやカテーテル、人工透析の関連機器をつくる。高齢化が進むほど、この事業の出番は増える。医薬品や食品の包装も、ここに含まれる。海外売上の比率はすでに6割を超え、特にアジアが最大の市場に育った。
優良さと弱いところ
封止材事業の堀、つまり他社がまねできない強みは本物だ。半導体メーカーは一度材料を認定すると、簡単には乗り換えない。認定には年単位の時間がかかるからだ。だが、筆者はこの堀を信越化学の半導体材料ほど深いとは見ていない。競合にはレゾナックやパナソニック、韓国・台湾のメーカーが並ぶ。寡占ではなく、群雄割拠に近い。
高機能プラスチックの堀は薄い。自動車や建築向けの樹脂は、価格で選ばれやすい。2026年3月期は構造改革で利益率が上がったが、もともとの水準は3事業の中でいちばん低い。
クオリティオブライフは、医療機器という許認可の壁を持つ。ただしSBカワスミの規模は、大手の医療機器メーカーに比べると小さい。価格で勝負する力は強くない。
全社のROEは8%台にとどまる。中期経営計画は9〜10%を目標に掲げるが、資本コスト7.75%とほぼ並ぶ水準だ。筆者が優良さを「普通」と見るのは、この数字が理由だ。無借金に近い財務は心強い。自己資本比率は7割を超え、不況が来ても研究開発を止めずに済む。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体材料の市場は、AIという強い追い風を受けている。データセンター向けの先端品ほど放熱性や信頼性が求められ、住友ベークライトの封止材が活躍する場面も増える。ただし半導体投資は、2〜4年ごとに山と谷をつくってきた業界だ。AIという新しい需要の柱ができても、この循環そのものは消えない。筆者は、10年のうちに一度は投資の過熱が冷める場面が来ると見ておく。
中国の材料メーカーは、中位グレードの封止材で国産化を進めている。最先端品ではまだ日本や欧米の優位が続くが、10年という単位で見れば、中位グレードの顧客を奪われる展開は十分ありうる。
高機能プラスチックが向き合う自動車・建築市場は、方向が二つに分かれる。自動車の電気化は新しい需要を生むが、建築はこれから先、国内の人口減で縮んでいく。
クオリティオブライフが向き合う医療・介護市場は、高齢化という追い風を受ける。一方で医薬品包装や食品包装は、人口に連動する成熟市場だ。医療機器は、国の医療費抑制策で価格が下がる局面も避けられない。
3つの事業は、違う景気の波を持つ。ひとつが谷にある時、別のひとつが山にあることが多い。この分散は、業績の振れを和らげる保険になる。
資本政策と M&A
住友ベークライトは、株主への還元を広げている方向にある。配当の目安は、利益の3割以上から4割程度へ引き上げた。2026年には200億円規模の自社株買いも実施した。政策保有株、つまり他社との関係づくりのために持つ株式も、8銘柄を売って資産効率を高めた。
買収の姿勢も積極的だ。2020年には医療機器の川澄化学工業を約270億円で買った。今のSBカワスミである。2026年10月には京セラの半導体関連ケミカル事業を300億円で買収した。同社として最大級の買収だ。封止材と基板材料、接着剤をそろえ、AI向けの品ぞろえを厚くする狙いがある。中国やシンガポールでの工場増設も続けている。
2025年6月には、7年ぶりに社長が交代した。新しい社長の鍜治屋伸一氏のもとで、資本効率を意識した経営がどこまで進むか。筆者はここを見ている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI投資はまだ序盤だ。半導体データセンター向けの封止材需要は、ここから何年も伸び続ける余地がある。住友ベークライトは、この市場で世界シェア4割を持つ。京セラから買った事業との組み合わせで、GPU向けの液状封止材や高放熱の技術がそろう。筆者がもっとも強気になれるのはこの一点だ。
中国や東南アジアでの工場増設も、需要の取り込みに効いてくる。蘇州やシンガポールでの増産は、2030年度の稼働を目指して進む。中国の半導体産業が内製化を急ぐほど、現地生産を持つ住友ベークライトには追い風だ。
高機能プラスチックも、底を打ちつつある。構造改革で利益率は改善が続いている。自動車の電気化は、モーターを固定するアルミ基板という新しい需要を生んでいる。建築の弱さを、この新しい需要が補う展開は十分にありうる。
クオリティオブライフでは、高齢化という逆らえない流れがある。血液バッグやカテーテル、透析関連の機器は、年を追うごとに需要が増えていく。再生医療向けの新しい器材も育ち始めている。
資本の使い方も変わってきた。政策保有株を売り、自社株買いを増やし、配当の目安も上げた。3つの事業が同時に上向く年が来れば、ROEは資本コストを大きく上回る水準に届く。筆者はその芽を、今の株価よりも先に見ておきたい。
慎重な見方
封止材の世界シェア4割は立派だが、筆者はそれを過大評価したくない。競合はレゾナックやパナソニックなど複数あり、シリコンウエハーのような二社だけの寡占とは違う。価格を決める力は、見た目のシェアほど強くない。
中国の材料メーカーは、中位グレードの封止材で国産化を急いでいる。10年という時間の中では、最先端品だけでなく、中位グレードの顧客まで奪われる展開は現実的だ。半導体投資そのものも、2〜4年ごとに山と谷をつくる業界だ。AIという新しい柱ができても、谷が来る周期は消えていない。
京セラからの買収も、筆者は無条件に歓迎しない。同社として過去最大級の買い物であり、人や拠点の統合がうまくいかなければ、のれんの傷みという形で跳ね返る。買った事業の売上規模は全社の7%ほどにすぎず、成功しても効果は限られる。
高機能プラスチックは、自動車や建築の景気に振られる体質そのものが変わったわけではない。利益率はもともと3事業でいちばん低い。国内の建築需要は、人口減とともにこの先も縮んでいく。
クオリティオブライフも、医療費を抑えたい国の方針から自由ではない。価格の見直しは、いつでも利益を削りに来る。
今の株価は、ROEが9〜10%まで上がるという計画の達成をかなり強く前提にしている。筆者は、資本コストとほぼ並ぶ今のROEが続くなら、この株価は維持できないと見る。
どちらに重みを置いたか
封止材の規模と京セラ買収の効果では、強気の見立てに分がある。だが筆者は、堀の深さと中国勢の追い上げという慎重な見立ても軽視しない。物価の分を含めて計算し直しても、10年後のROEは9%に届かず、資本コスト7.75%とほぼ並ぶ。並びの堀として倍率を上限の9割強まで置いても、中立のPERは12倍程度(1÷kの下限)にとどまり、確率で重みづけた本質価値は今の値段を46%ほど下回って割高になる。筆者は確率の重心を中立に置き、AI需要の拡大と買収の成功を強気側に計35%、半導体サイクルの反転と中国勢の追い上げを慎重側に計30%と見た。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 8,913 円7,821 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,892 円1,660 億円)。 今の値に割り戻すと 5,528 円4,850 億円、今との差 −29.0%、 期待の年率 +3.3%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 20,739 円1.82 兆円 | 3,431 円3,011 億円 | +210.4% | +12.0% | 2,900 円2,545 億円 |
| やや楽観 | 23% | 13,027 円1.14 兆円 | 2,587 円2,270 億円 | +100.5% | +7.2% | 3,591 円3,151 億円 |
| 中立 | 32% | 7,812 円6,855 億円 | 1,867 円1,638 億円 | +24.3% | +2.2% | 3,097 円2,718 億円 |
| やや悲観 | 21% | 3,177 円2,788 億円 | 979 円859 億円 | −46.6% | −6.1% | 873 円766 億円 |
| 悲観 | 12% | 2,176 円1,910 億円 | 684 円600 億円 | −63.3% | −9.5% | 343 円301 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,913 円7,821 億円 | 1,892 円1,660 億円 | +38.7% | +3.3% | 10,805 円9,481 億円 |
今の株価時価総額 7,788 円6,834 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 12% 半導体・高機能プラスチック・医療の3本柱がすべて強化される 利益 1,058 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 20,739 円1.82 兆円
AIデータセンター向けの需要は、10年たっても勢いを失わない。住友ベークライトの封止材事業は、京セラ事業との統合も進み、出荷の規模が今の2倍近くまで育つ。高放熱の技術とGPU向けの液状封止材が、事業の顔になる。
高機能プラスチックは、自動車の電気化が本格的に効いてくる。アルミ基板など新しい需要が、建築の縮小を埋めて余りある。利益率は二桁の中ほどまで上がる。
クオリティオブライフは、SBカワスミの血液バッグやカテーテル、透析関連の機器が、高齢化という長い流れに乗る。再生医療向けの新しい器材も、育った成果が出てくる。
政策保有株はほぼ売り切り、自社株買いと増配を続けながら、無借金のまま3つの事業がそろって強くなる。筆者が思い描く、この会社にとっていちばん理想的な10年だ。中国勢の追い上げは最先端品には届かず、技術の優位は10年を通じて広がっていく。
- 半導体関連材料(封止材・パッケージ基板材料・ボンディングペーストなど):数量 175(世界のエポキシ樹脂封止材(EMC、固体・液体合計)生産量(千トン)に住友ベークライトの世界シェア(推定4割)を掛けた出荷量)× 価格 22(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン。封止材に加え基板材料・ボンディングペーストも含む全体売上を数量で割った名目の単価))→ 売上 3,850 億円・営業利益 963 億円。出荷量2.43倍・単価1.49倍(京セラ統合後の構造拡大)、事業利益率25%
- 高機能プラスチック(工業用樹脂・自動車用積層板・建材用発泡材など):数量 200(機能性プラスチック製品の販売量(千トン、推定))× 価格 11(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目))→ 売上 2,100 億円・営業利益 252 億円。販売量1.33倍・単価1.49倍、事業利益率12%
- クオリティオブライフ(医療機器・医薬品包装・食品包装など):数量 60.0(医療機器・包装材料の出荷量(千トン、推定))× 価格 37(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目))→ 売上 2,220 億円・営業利益 377 億円。出荷量1.50倍・単価1.38倍、事業利益率17%
倍率:事業の純利益 1,058 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍。全体の PER 17.2 倍、時価総額 18,198 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年間、半導体関連材料の構造的な拡大と京セラ事業統合の成功、高機能プラスチック・クオリティオブライフの同時改善が重なる必要があり、実現すれば非常に強いが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 23% AI需要が業界の主役に定着し半導体依存が高まる 利益 729 億円 · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 13,027 円1.14 兆円
半導体関連材料は、AI向けの需要が業界の主役として根づく10年になる。京セラ事業の統合も順調で、出荷の規模は2倍を超える。高機能プラスチックは、自動車の電気化による新しい需要が緩やかに積み上がり、利益率は二桁に届く。クオリティオブライフは、医療機器の伸びが続き、利益率を保つ。中国勢の追い上げは中位グレードにとどまり、最先端品での住友ベークライトの地位は大きく揺らがない。研究開発の資金は半導体関連材料に重点配分され、高機能プラスチックは既存設備の効率化が中心になる。政策保有株の売却と自社株買いは続き、配当の目安4割が定着する。
- 半導体関連材料(封止材・パッケージ基板材料・ボンディングペーストなど):数量 150(世界のエポキシ樹脂封止材(EMC、固体・液体合計)生産量(千トン)に住友ベークライトの世界シェア(推定4割)を掛けた出荷量)× 価格 20(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン。封止材に加え基板材料・ボンディングペーストも含む全体売上を数量で割った名目の単価))→ 売上 3,000 億円・営業利益 660 億円。出荷量2.08倍・単価1.35倍、事業利益率22%
- 高機能プラスチック(工業用樹脂・自動車用積層板・建材用発泡材など):数量 185(機能性プラスチック製品の販売量(千トン、推定))× 価格 9.80(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目))→ 売上 1,813 億円・営業利益 181 億円。販売量1.23倍・単価1.39倍、事業利益率10%
- クオリティオブライフ(医療機器・医薬品包装・食品包装など):数量 55.0(医療機器・包装材料の出荷量(千トン、推定))× 価格 34(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目))→ 売上 1,870 億円・営業利益 280 億円。出荷量1.38倍・単価1.27倍、事業利益率15%
倍率:事業の純利益 729 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.7 倍。全体の PER 15.68 倍、時価総額 11,431 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体関連材料のAI需要が業界の主役として定着するという、業界見通しの上位レンジに近い想定。
中立 32% 中立:半導体への依存が強まり、他2事業は構造的な制約が残る 利益 500 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 7,812 円6,855 億円
半導体関連材料は、京セラ事業の統合効果を含めて、出荷の規模が今の1.8倍ほどに育つ10年になる。AI向けの需要を取り込み、利益率を保つ。高機能プラスチックは、自動車の電気化による新しい需要と、建築需要の構造的な縮みが相殺し合い、利益率の改善は小幅にとどまる。クオリティオブライフは、高齢化による医療機器の伸びが医薬品・食品包装の停滞を補う。中国勢は中位グレードの国産化を進め、そこのシェアを少しずつ奪うが、最先端品では日本企業への依存がまだ続く。会社全体としては、半導体関連材料への依存度が一段と高まる構造になる。配当の目安4割は、この10年も続く。
- 半導体関連材料(封止材・パッケージ基板材料・ボンディングペーストなど):数量 128(世界のエポキシ樹脂封止材(EMC、固体・液体合計)生産量(千トン)に住友ベークライトの世界シェア(推定4割)を掛けた出荷量)× 価格 19(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン。封止材に加え基板材料・ボンディングペーストも含む全体売上を数量で割った名目の単価))→ 売上 2,368 億円・営業利益 450 億円。出荷量1.78倍・単価1.25倍、事業利益率19%
- 高機能プラスチック(工業用樹脂・自動車用積層板・建材用発泡材など):数量 172(機能性プラスチック製品の販売量(千トン、推定))× 価格 9.30(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目))→ 売上 1,600 億円・営業利益 136 億円。販売量1.15倍・単価1.32倍、事業利益率8.5%
- クオリティオブライフ(医療機器・医薬品包装・食品包装など):数量 45.0(医療機器・包装材料の出荷量(千トン、推定))× 価格 36(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目))→ 売上 1,616 億円・営業利益 210 億円。出荷量1.13倍・単価1.34倍(物価並み)、事業利益率13%
倍率:事業の純利益 500 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.71 倍、時価総額 6,855 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体材料市場の中心的な見通しと、高機能プラスチック・クオリティオブライフの構造的な制約を組み合わせた中心シナリオ。
やや悲観 21% 中国勢の国産化が中位グレードに広がる 利益 211 億円 · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 3,177 円2,788 億円
中国勢の国産化が、半導体関連材料の中位グレードにも広がる10年になる。出荷の伸びは鈍り、利益率は戻りきらない。高機能プラスチックは、国内の建築需要の縮みが、自動車の電気化による新しい需要を上回る。利益率は低いままだ。クオリティオブライフは、国の医療費抑制策が響き、利益率の改善はわずかにとどまる。京セラ事業の統合効果も、当初の想定より小さい。会社全体として、過去10年ほどの成長力を失う10年になる。無借金の財務は保たれるが、株主還元の原資は乏しくなり、設備投資の優先順位を見直す場面が増える。社長以下の経営陣には、縮んだ事業の立て直しという重い課題が残る。
- 半導体関連材料(封止材・パッケージ基板材料・ボンディングペーストなど):数量 100(世界のエポキシ樹脂封止材(EMC、固体・液体合計)生産量(千トン)に住友ベークライトの世界シェア(推定4割)を掛けた出荷量)× 価格 16(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン。封止材に加え基板材料・ボンディングペーストも含む全体売上を数量で割った名目の単価))→ 売上 1,600 億円・営業利益 192 億円。出荷量1.39倍・単価1.08倍(中位グレード侵食)、事業利益率12%
- 高機能プラスチック(工業用樹脂・自動車用積層板・建材用発泡材など):数量 155(機能性プラスチック製品の販売量(千トン、推定))× 価格 8.30(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目))→ 売上 1,287 億円・営業利益 64 億円。販売量1.03倍・単価1.18倍、事業利益率5%
- クオリティオブライフ(医療機器・医薬品包装・食品包装など):数量 44.0(医療機器・包装材料の出荷量(千トン、推定))× 価格 29(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目))→ 売上 1,276 億円・営業利益 115 億円。出荷量1.10倍・単価1.08倍、事業利益率9%
倍率:ROE 4.2% は k 7.75% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で PER は 1÷k=12.1 倍まで。中国勢の侵食で利益率が下がり ROE は k に届かないので、価値は稼ぐ力(純利益÷k)までとし、その9割の 11.61 倍に置いた。
確率:中国の国産化が半導体関連材料の中位グレードにも及び、高機能プラスチック・クオリティオブライフの成長も鈍るという、業界見通しの弱めのレンジに相当。
悲観 12% 半導体の優位と高機能プラスチック・医療の収益力が共に崩れる 利益 −12 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 2,176 円1,910 億円
中国の半導体材料メーカーが、最先端品にまで食い込む10年になる。住友ベークライトの封止材事業は出荷が大きく減り、利益率はほぼ消える。京セラ事業の統合も実を結ばず、買収で生じたのれんが傷む不安も残る。自動車と建築の需要は長く低迷し、高機能プラスチックは損失に転じる。クオリティオブライフも、医療費抑制策と包装需要の縮小で、稼ぐ力はわずかしか残らない。会社全体として、優良企業という評価が市場から外れる10年になる。配当は手元資金と政策保有株の売却で細く続くが、かつてのような高い評価には戻れない。無借金に近い財務だけが、最後の支えとして残る。
- 半導体関連材料(封止材・パッケージ基板材料・ボンディングペーストなど):数量 78.0(世界のエポキシ樹脂封止材(EMC、固体・液体合計)生産量(千トン)に住友ベークライトの世界シェア(推定4割)を掛けた出荷量)× 価格 14(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン。封止材に加え基板材料・ボンディングペーストも含む全体売上を数量で割った名目の単価))→ 売上 1,092 億円・営業利益 33 億円。出荷量1.08倍・単価0.95倍(最先端グレードも侵食)、事業利益率3%
- 高機能プラスチック(工業用樹脂・自動車用積層板・建材用発泡材など):数量 120(機能性プラスチック製品の販売量(千トン、推定))× 価格 7.00(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目))→ 売上 840 億円・営業利益 −17 億円。販売量0.80倍・単価0.99倍、事業損失(事業利益率−2%)
- クオリティオブライフ(医療機器・医薬品包装・食品包装など):数量 36.0(医療機器・包装材料の出荷量(千トン、推定))× 価格 25(1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目))→ 売上 900 億円・営業利益 27 億円。出荷量0.90倍・単価0.93倍、事業利益率3%
倍率:半導体関連材料の優位を失い利益がほとんど出ない筋書きなので、稼ぐ力でなく売れる資産で測る。純現金と設備・医療機器事業の売却価値(税後)を床とし、今の自己資本に 0.55 倍を掛けた。
確率:中国の国産化が半導体関連材料の最先端にも及び、高機能プラスチック・クオリティオブライフも同時に崩れる複合シナリオ。技術優位の喪失は一度始まると10年で後退しやすいため低頻度だが無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体関連材料(封止材・パッケージ基板材料・ボンディングペーストなど)
半導体チップを守る樹脂「封止材」が主力。パッケージ基板材料や接着剤も手掛ける、会社のいちばん大きな稼ぎ頭だ。
| 数量世界のエポキシ樹脂封止材(EMC、固体・液体合計)生産量(千トン)に住友ベークライトの世界シェア(推定4割)を掛けた出荷量 | 価格1千トンあたりの売上収益(億円/千トン。封止材に加え基板材料・ボンディングペーストも含む全体売上を数量で割った名目の単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 72.0 | 15 | 1,064 | 207 |
| 10 年後 中立 | 128 | 19 | 2,368 | 450 |
取り方:世界のEMC生産量(2023年で固体約15万トン・液体約2.8万トンの計約18万トン、調査会社推定)にAI向け需要の拡大を加味して2026年時点で約180千トンと置き、住友ベークライトのシェア約4割を掛けて72千トンとした。価格は半導体関連材料事業の売上収益(1,064億円)をこの数量で割った値(基板材料・ボンディングペーストを含む混合単価)。数量は実質、価格は物価3%込みの名目。
高機能プラスチック(工業用樹脂・自動車用積層板・建材用発泡材など)
工業用の積層板や、自動車・建築向けの機能性樹脂を手掛ける事業。電子・自動車・建築という3つの異なる市場に分散する。
| 数量機能性プラスチック製品の販売量(千トン、推定) | 価格1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 7.03 | 1,055 | 62 |
| 10 年後 中立 | 172 | 9.30 | 1,600 | 136 |
取り方:高機能プラスチック事業の売上収益(1,055億円)を、フェノール樹脂成形材料や工業用積層板など機能性樹脂の一般的な単価(数十万円/トン水準)から逆算した販売量約150千トンで割って単価を置いた。数量は自動車・建築向け需要に連動し実質で小さく動き、価格は物価並みを基本とする。
クオリティオブライフ(医療機器・医薬品包装・食品包装など)
SBカワスミの医療機器と、医薬品・食品の包装を手掛ける事業。高齢化が進むほど医療機器の出番が増える。
| 数量医療機器・包装材料の出荷量(千トン、推定) | 価格1千トンあたりの売上収益(億円/千トン、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 27 | 1,072 | 129 |
| 10 年後 中立 | 45.0 | 36 | 1,616 | 210 |
取り方:医療機器(カテーテル・ステントグラフトなど高付加価値品を含む)と医薬品・食品包装の売上収益(1,072億円)を、医療機器の単価が包装材料より大幅に高いことを踏まえた推定出荷量約40千トンで割って単価を置いた。数量は高齢化に伴う医療機器需要の伸びと、人口に連動する包装需要の停滞が相殺し合う。
リスクと懸念
半導体投資の循環が反転するリスク
半導体投資は2〜4年ごとに山と谷をつくってきた業界だ。AIという新しい需要の柱ができても、この循環そのものは消えていない。投資が急に冷え込めば、封止材事業の稼ぐ力は数年単位で大きく落ち込む。会社全体の利益の3割前後を占める事業だけに、全社業績への響き方も大きい。
中国メーカーの追い上げ
中国の材料メーカーは、封止材や基板材料の中位グレードで国産化を進めている。最先端品ではまだ日本や欧米の優位が続くが、10年という時間軸では、中位グレードの顧客を奪われるリスクが残る。価格競争が今より厳しくなる展開も避けられない。
京セラ事業の統合リスク
2026年10月に買収した京セラの半導体関連ケミカル事業は、同社として過去最大級の買い物だ。人や拠点の統合がうまくいかなければ、期待した相乗効果が出ず、買収で生じたのれんが傷む可能性がある。川崎・真岡・郡山・無錫という複数拠点の一体運営も、経営の実行力が問われる場面だ。
高機能プラスチックの景気依存
高機能プラスチックは、自動車と建築という性質の異なる2つの市場に業績が連動する。利益率はもともと3事業でいちばん低い。国内の建築需要は人口減でこの先も縮み、自動車の電気化による新しい需要がそれを補えるとは限らない。
医療費抑制策・薬事規制のリスク
クオリティオブライフの医療機器は、国の医療費抑制策による価格の見直しを受けやすい。薬事承認の変更や材料価格の改定が、利益率を下げる場面は今後も起こりうる。SBカワスミの事業規模は、大手医療機器メーカーに比べると小さい。
顧客の集中リスク
半導体関連材料事業は、台湾・韓国の大手半導体メーカーやGPUメーカーへの依存度が高い。少数の大口顧客の投資計画が変われば、受注にすぐ影響が及ぶ。顧客の多様化は進めているが、依存度が急に下がるわけではない。
原材料価格の変動
封止材の原料であるエポキシ樹脂は、石油化学製品の値動きに左右される。中東情勢などで原料価格が急に上がれば、値上げで吸収しきれない期間の利益率が下がる。逆に原料が急落すれば、競合も値下げに動きやすくなる。
今後の分かれ目
- AIデータセンター向けの投資が上方修正され続けたら
- 筆者は強気側の確率を上げる。ただし、すでに株価にどこまで織り込まれているかは別に確かめたい。
- 中国メーカーが封止材・基板材料の中位グレードで日本企業並みの品質に達したら
- 慎重側に重心を移し、半導体関連材料の取り分の前提を下げる。
- 京セラから引き継いだ事業の統合が計画どおり進み、GPU向け液状封止材の拡大が確認できたら
- 中立からやや楽観側に重みを移してよい。
- 自動車の電気化に伴うアルミ基板の採用が加速したら
- 高機能プラスチックの利益率改善の確度が上がる。
- 国の医療費抑制策で材料価格の改定幅が大きくなったら
- クオリティオブライフの利益率を下方に見直す。
- 次の決算で高機能プラスチックの利益率が2026年3月期からさらに上がったら
- 構造改革の効果が定着したとみて、中立の前提を上げる。
見ておくもの
- 半導体関連材料の四半期の利益率とAI向け投資の動き
- 京セラから引き継いだ事業の統合の進み方
- 中国メーカーによる封止材・基板材料の国産化の進み方
- 高機能プラスチックの利益率(構造改革の効果)
- 自社株買い・政策保有株の売却と配当の目安の変化
倍率と資本コストの決め方
数量は実質(封止材の生産量・機能性樹脂と医療機器包装材料の出荷量の推定)、価格は物価3%込みの名目で積んだ。資本コストは基本7.5%+quality+0.75%(半導体・自動車の循環+0.5、競合が複数いる品の厚さ+0.25)の8.25%。倍率は正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)(RONIC=k+残る割合1/2×(ROE−k)、普通の堀)の上限の9〜9.7割に置いた。封止材の顧客認定という切り替えコストはあるが、競合が複数いるため強い堀とはしなかった。やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k)、悲観は純現金と売れる資産で測り、過去のPBRの底からは置いていない。今のPER27倍・PBR2.2倍は最後に比べただけで、寄せていない。純現金974億円は京セラ事業の買収約300億円と増設投資に使う予定のため、余った現金として分けず事業資本として扱った。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.83→17.2 倍・やや楽観 PER 12.67→15.68 倍・中立 PER 12.12→13.71 倍・やや悲観 PER 10.91→11.61 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75%(半導体・自動車の循環 +0.5、競合が複数いる品の厚さ +0.25)を足して 8.25%。半導体関連材料・高機能プラスチック・クオリティオブライフの 3 事業を持ち、景気で振れる資本財色が強い。京セラ事業の統合やガバナンスの個別のリスクは k でなく筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。