結論
ウエスタンデジタルはデータセンター向け大容量 HDD の世界 2 強の一角で、2026 年 6 月期(FY26)の売上は 129 億ドル(前年比 +36%)、うち AI・クラウド向けが 89% を占める。営業利益率は 34.5% から直近の四半期で 42% に上がり、次の四半期の見通しは売上 41 億ドル・粗利益率 55〜56% と、年率の営業利益は 70 億ドル台に乗る。2028 年までの出荷容量は長期契約で割り当て済みで、2029〜31 年分も交渉中である。
売上は「出荷容量(EB)× 1 TB あたりの単価」で積んだ。FY26 は約 870 EB × 約 15 ドル/TB。HDD の単価は過去 10 年、容量が増え費用が下がるために年 8〜11% ずつ下がってきた(物価に連れて上がらない例外)。2026 年は需給が逼迫して上がったが、契約の切れる 2029 年以降は趨勢の線へ戻るとみて、10 年後の中立は容量 3.9 倍・単価 4 割・営業利益率 28%・純利益は約 43 億ドルと置いた。FY26 の GAAP 純利益 94 億ドルのうち約 65 億ドルはサンディスク株の売却益で、一度きりである。
バリュー投資の観点では、今の PER 12.5 倍はこの売却益のせいで安く見えているだけで、実力の純利益(約 38 億ドル)では 30 倍を超える。資本コストは 9.5%(基本 8.0% + quality 1.5%:HDD の周期・単価の下落・SSD への置き換え)、倍率は利益ベースの正当化 PER の上限 14.0 倍の 8.5 割に置いた(中立で 11.9 倍)。確率で加重した 10 年の本質価値は今の時価総額を約 5 割下回り(−49%)、割高。堀(2 社寡占・容量あたりの費用)は強いが、顧客 3 社で売上の 44% を占める点と、東芝の増産・SSD の代替が安全域を削る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10 年後もこの事業は存在し、今より強いか」を問う。HDD は大容量保存の費用で SSD に勝ち続ける限り残るが、今より強いとは言い切れない。NAND の単価が下がり、中国のメモリ勢が増産する世界では、ニアラインの領域でも SSD が食い込む。堀は 2 社寡占と費用だが、価格を決める力は需給がきつい時だけで、2026 年はその例外的な時期にあたる。
次にオーナー利益。FY26 の GAAP 純利益 94 億ドルのうち 65 億ドルはサンディスク株の売却益で、実力は約 38 億ドル。株式報酬は費用として入れてある。設備投資が軽い(売上の 4〜6%)ためオーナー利益は純利益に近く、FCF 率は 27%。ただし山の利益は続かないので、FY26〜29 のならし利益で見ると今の時価総額は 25〜30 倍で、10 年国債 5% の世界では安くない。
資本配分は FCF の全額を返す方針で好ましい。反面、割高な価格での自社株買いが今の値段でも続くなら価値を壊す。顧客 3 社で売上の 44% という集中は、予測の確実性を下げる。安全域は、悲観でもフリーキャッシュフロー率が 10 台と事業が黒字を保つ点にあるが、自己資本が小さく(のれん 43 億ドルが半分)資産の床は薄い。結論として、事業の質は高いが予測は難しく、値段が山の利益を前提にしているなら待つのが筋になる。
何で稼ぐ会社か
事業は HDD(ハードディスクドライブ)一本。2025 年 2 月にフラッシュ(サンディスク)を分離し、HDD の純粋な会社になった。売上の 89%(114.9 億ドル)がクラウド向けのニアライン HDD(データセンター用の大容量ドライブ)で、残りは PC 向けのクライアント(7.3 億ドル)と外付けなどのコンシューマー(7.0 億ドル)。この 3 つを「ニアライン」と「それ以外」の 2 区分に束ねて数量 × 価格で置いた。
数量は出荷容量(EB)。FY26 は合計で約 870 EB(ニアライン約 780・それ以外約 90)で前年比 +25%、1 台あたり平均 約 23TB と大容量に移っている。ドライブの台数は増えず、容量の増加は 1 台あたりの容量(ePMR・UltraSMR の 32〜40TB、HAMR の 44TB)で稼ぐ。価格は 1 EB あたり約 1,470 万ドル(ニアライン)で、費用は年約 10% 下がる。
顧客は上位クラウド事業者・AI 事業者・サーバーメーカーで、FY26 は 3 社で売上の 16%・15%・13%、上位 10 社で 73% を占める。長期契約(LTA)で 2027〜28 年の容量と価格を固めているが、購入義務のない契約で、顧客は量を減らすことができる。製造は米国・マレーシア・タイで、マレーシア・タイは税の優遇を受ける(FY26 の税率 5%、今後は 17% 前後)。設備投資は売上の 4〜6%(FY26 は 4.2 億ドル)と軽く、フリーキャッシュフロー率は 27% に達した。
優良さと弱いところ
堀は 3 つある。第 1 は 2 社寡占(ウエスタンデジタルとシーゲイト・テクノロジー、東芝が約 1 割で 3 番手)という産業の形で、ヘッド・メディアの製造に数十年の技術と投資が要り、新規参入は事実上ない。第 2 は容量あたりの費用で、ニアラインの保存では HDD の TB あたり価格が SSD より 1 桁安い(NAND の高騰で 2026 年は差が 7〜20 倍に広がった)。第 3 は顧客との結びつきで、2028 年までの契約と認定の手間が切り替えを遅らせる。
弱い所も明確である。HDD の価格を決める力は需給がきつい時だけで、2019〜2023 年は営業利益率が −9% から 15% の間で振れた。顧客の集中は強く、3 社で売上の 44%・上位 10 社で 73% と、価格交渉は買い手に偏りやすい。技術では HAMR でシーゲイトが先行し(Mozaic は FY26 末でニアライン容量の約 4 割)、当社は ePMR・UltraSMR で費用を稼ぎ、HAMR は 2027 年に量産。シーゲイトの 1 EB あたり売上(約 1,490 万ドル)は当社より約 1 割高い。経営は一度きりの売却益を使って債務を大きく減らし、自己資本を 53 億ドルから 89 億ドルに戻した。資本効率(事業の ROIC 約 90%)は非常に高いが、軽い資産のため景気の山では利益が大きく振れる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
HDD は容量でも金額でもデータセンター向けが 9 割近くになった。供給は 3 社で、2025 年の台数シェアはウエスタンデジタル 42%・シーゲイト 40%・東芝 18%、容量では FY26 に業界で約 1,800 EB、うち当社が約 48%・シーゲイトが約 44%・東芝が約 1 割弱とみる。経営陣は「ニアライン容量の 3〜5 年の伸びは 25% 超」と言い、AI の学習データ・推論の記録・エージェントの履歴・物理 AI が保存容量を押し上げている。
構造の変化は 3 つ。第 1 は需要で、クラウドが容量を先に押さえる長期契約へ動いた。第 2 は供給で、2 社とも台数を増やさず(設備投資は売上の 4〜6%)容量を上げる方針のため、需給はきつい。ただし東芝がフィリピンで約 600 億円(Block & Files は約 3.8 億ドル)を投じ能力を倍にして容量シェア 30% を狙い、FY27 以降の供給が増える。第 3 は代替で、NAND は性能・電力で勝り、中国のメモリ勢(YMTC・長鑫)の増産で価格が下がれば、QLC の大容量 SSD が HDD の領域に入りうる。
循環の位置は「山の頂付近」。契約が 2028 年まで固定され、営業利益率は 4 割台。ただし HDD の過去の山(2014 年 13%・2022 年 15% 前後)より桁違いに高く、2029 年の更新と東芝の増産が重なる局面が分かれ目になる。同じ領域の会社は、シーゲイト(同じ HDD)、マイクロン・サンディスク(NAND・DRAM)。
資本政策と M&A
還元は「余ったフリーキャッシュフローを全額、配当と自社株買いで返す」方針。FY26 は自社株買い 26 億ドル・配当 1.8 億ドル(四半期ごと)で、残りの自社株買いの枠は 32.6 億ドル。FCF 35 億ドルのうち大半を返した計算になる。
資本政策の山場は 2025〜26 年のサンディスク分離の後始末で、持っていたサンディスク株を債務の返済・転換社債の整理・自社株との交換に使い切った(売却益 65 億ドル、非課税)。2028 年満期の転換社債は現金と株で整理され、残る負債は約 10 億ドル(1 年内に返済)。株数は転換社債の整理で 3.5 億株から 3.6 億株に増えた(希薄化後 3.89 億株は整理前の水準)。M&A は大きなものがなく、HDD に必要な技術は自前で開発する会社なので、今後も大型買収の可能性は小さい。買われる側になる可能性も、時価総額約 1,200 億ドルを考えるとほぼない。株式報酬は年約 2 億ドルで、純利益に費用として入っている。設備投資は売上の 4〜6%(今後 5 年)と軽く、還元の質(割高な価格で自社株を買わないか)が資本配分の論点になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI の保存容量の需要は構造的で、供給が追いつかない。学習データ・推論の記録・エージェントの履歴・物理 AI が容量を押し上げ、経営陣は 3〜5 年の EB の伸びを 25% 超と言う。供給は 2 社とも台数を増やさず容量を上げる方針なので需給はきつく、契約は 2028 年まで割り当て済みで、2029〜31 年分も交渉が進む。TB 単価は FY26 に 1 桁台後半から 10 台後半の上昇に変わり、増分の粗利益率は 70〜75% の見通しである。
当社は 10 年前の HDD の会社ではない。営業利益率は 4 割台で、FCF の 27% を全額株主へ返し、サンディスク株の売却益で債務をほぼ返し終えた。UltraSMR は費用が低く EB の 6 割に達し、HAMR の 44TB も 2027 年に量産に入る。シーゲイトとの技術差が消え、東芝が 30% を狙っても需要が供給を上回る限り価格は崩れない。
HDD が AI の記録の標準部品に変わったなら、周期の幅は縮み、これまでの PER 5〜10 倍は低すぎる。年率の営業利益 70 億ドル台・純現金・自社株買いの枠 33 億ドルを見れば、時価総額 1,160 億ドルは割安である。
慎重な見方
HDD は需要の山で増産が決まり、供給が出るころに需要が鈍る商品で、営業利益率は 2014 年 13%・2019 年 1.5%・2023 年 −9% と振れてきた。2026 年の 34〜42% は過去最高で、契約は購入義務のない約束にすぎず、AI 投資が鈍れば顧客は量を減らせる。3 社の顧客で売上の 44%・上位 10 社で 73% と集中し、価格交渉の力は買い手にある。
技術ではシーゲイトの HAMR が先行し(ニアライン容量の約 4 割)、当社の HAMR は 2027 年から。東芝は容量シェアを 1 割から 3 割へ上げる計画で、約 600 億円を投じて能力を倍にする。2 社寡占が 3 社に戻れば、価格の規律が緩む。さらに NAND は中国勢の増産で TB 単価が下がり、QLC の大容量 SSD が 2030 年代にニアラインへ入る。
倍率は、PER 12.5 倍はサンディスク株の売却益 65 億ドルで押し下げられた罠で、実力の純利益で見れば 30 倍を超える。2029 年以降の中立の純利益は約 90 億ドル、10 年後は 43 億ドルと FY26 の実力とほぼ同じで、利益ベースの倍率(中立で 13 倍)を当てても今の時価総額には届かない。
どちらに重みを置いたか
強気の言う「2028 年までは供給が足りない」は契約からみて正しいと見て、FY27〜29 の利益は高く置いた。ただし契約は購入義務がなく、顧客 3 社で 44% を占める点、東芝の倍増と NAND の代替を重く見て、10 年の確率は構造(東芝・SSD)の下振れ 38% に対し上振れ 30% とした(同領域のシーゲイトと揃えた)。確率の寄せ方よりも、FY26 の高い利益と一度きりの売却益を成熟後の倍率に持ち込まない点が結論を決めている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 172.72 ドル623 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 157.64 ドル568 億ドル)。 今の値に割り戻すと 169.84 ドル612 億ドル、今との差 −52.0%、 期待の年率 −0.7%(資本コスト 9.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 572.62 ドル2,064 億ドル | 342.30 ドル1,234 億ドル | +158.3% | +10.0% | 91.49 ドル330 億ドル |
| やや楽観 | 20% | 277.67 ドル1,001 億ドル | 233.84 ドル843 億ドル | +44.4% | +3.7% | 102.30 ドル369 億ドル |
| 中立 | 32% | 142.00 ドル512 億ドル | 165.05 ドル595 億ドル | −13.3% | −1.4% | 98.25 ドル354 億ドル |
| やや悲観 | 24% | 56.53 ドル204 億ドル | 86.82 ドル313 億ドル | −59.5% | −8.6% | 34.41 ドル124 億ドル |
| 悲観 | 14% | 6.57 ドル24 億ドル | 21.36 ドル77 億ドル | −92.1% | −22.4% | 3.91 ドル14 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 172.72 ドル623 億ドル | 157.64 ドル568 億ドル | −6.7% | −0.7% | 330.37 ドル1,191 億ドル |
今の株価時価総額 354.19 ドル1,277 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.5% を下回るほど割高。
楽観 10% AI の保存容量が増え続け、HDD が 2 社寡占の価格を保つ 利益 142 億ドル · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 572.62 ドル2,064 億ドル
出荷容量は 10 年で 5.9 倍(年 +19%)、TB 単価は FY26 比 6 割(年 −5%)に下がるだけで済む。HAMR・UltraSMR で費用が年 10% 下がるため、単価が下がっても営業利益率は 40% を保つ。東芝は 2 割弱まで伸びるが、2 社の高いシェアは崩れない。売上は約 437 億ドル、純利益は約 142 億ドル。10 年の純利益の合計は約 1,371 億ドル(山の 2027〜28 年を含む)で、正味の還元 1,234 億ドルはその範囲に収まる(純現金は 25 億ドル前後)。競合と並べると、シーゲイト(HAMR 先行)と同じ位置で 100TB 級を出し、東芝の 3 割シェア狙いを退ければ、営業利益は約 172 億ドル。競合に負けず市場も伸びる最良の組み合わせ。年ごとの道筋は、FY27〜29 の累計約 345 億ドルのあと、FY30〜36 の合計が約 1026 億ドル(150 前後で横ばい、10 年目は 142 億ドル。年ごとの金額は仮に置いた。減損・売却益は置かない)。
- ニアライン HDD(クラウド向け大容量):数量 4,614(ニアライン HDD の出荷容量(EB)= 業界の出荷 × 当社シェア)× 価格 9.11(TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル))→ 売上 420 億ドル・営業利益 168 億ドル。ニアライン:容量 × TB 単価。TB 単価は物価に連れて上がらない例外(容量増と費用の年 10% 低下で趨勢は年 −8〜11%、契約が切れる後は趨勢へ)
- ニアライン以外(PC・コンシューマー):数量 107(ニアライン以外の HDD 出荷容量(EB))× 価格 15(TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル))→ 売上 16 億ドル・営業利益 4 億ドル。ニアライン以外:容量 × TB 単価。SSD への置き換えで物価に連れて上がらない例外(趨勢は下落)
倍率:上限から少し下げて置いた。 正当化 PER の上限は 16.2 倍(g 4.0%、RONIC 36.2%。RONIC = k 9.5% + 1/2 ×(事業の ROE 63.0% − k)。堀は普通)。その 9 割の 14.6 倍に置いた。時価総額 = 事業の純利益 141.8 × 14.6 = 2064 億ドル。純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:業界ノートの楽観(容量の増加が年 15% を超えて続く)に相当。HAMR で 100TB 級に進み、東芝が増産しても需要が吸収する場合で 10%。
やや楽観 20% NAND への置き換えは限られ、HDD は大容量で生き残る 利益 77 億ドル · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 277.67 ドル1,001 億ドル
出荷容量は 10 年で 4.8 倍、TB 単価は FY26 比 5 割。営業利益率は 33% と、2014〜2022 年の山(13〜17%)よりはるかに高い。中国のメモリ勢の増産で NAND 価格が下がり、一部の用途は SSD へ移るが、アーカイブ・学習データの保存は HDD が残る。東芝が 2 割弱のシェアを握り、当社のシェアは 45% 前後。売上は約 288 億ドル、純利益は約 77 億ドル。10 年の純利益の合計は約 948 億ドル(山の 2027〜28 年を含む)で、正味の還元 843 億ドルはその範囲に収まる。競合と並べると、シーゲイトと当社が容量あたりの費用で並び、東芝が増産しても利益率は 3 割台を保つ。うまくいけば営業利益は約 94 億ドル、HAMR で遅れれば下の筋書きに近づく。年ごとの道筋は、FY27〜29 の累計約 287 億ドルのあと、FY30〜36 の合計が約 661 億ドル(117 億ドルから 77 億ドルへ細る。年ごとの金額は仮に置いた。減損・売却益は置かない)。
- ニアライン HDD(クラウド向け大容量):数量 3,754(ニアライン HDD の出荷容量(EB)= 業界の出荷 × 当社シェア)× 価格 7.34(TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル))→ 売上 276 億ドル・営業利益 91 億ドル。ニアライン:容量 × TB 単価。TB 単価は物価に連れて上がらない例外(容量増と費用の年 10% 低下で趨勢は年 −8〜11%、契約が切れる後は趨勢へ)
- ニアライン以外(PC・コンシューマー):数量 93.0(ニアライン以外の HDD 出荷容量(EB))× 価格 14(TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル))→ 売上 13 億ドル・営業利益 3 億ドル。ニアライン以外:容量 × TB 単価。SSD への置き換えで物価に連れて上がらない例外(趨勢は下落)
倍率:上限から一段下げて置いた。 正当化 PER の上限は 15.2 倍(g 4.0%、RONIC 24.7%。RONIC = k 9.5% + 1/2 ×(事業の ROE 39.9% − k)。堀は普通)。その 8.5 割の 13.0 倍に置いた。時価総額 = 事業の純利益 77.3 × 13.0 = 1001 億ドル。純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:NAND の価格が戻っても、ニアラインの保存では TB あたり費用で HDD が数倍有利という状態が続く筋書き。業界ノートの中立と楽観の中間で 20%。
中立 32% HDD は大容量保存の定番として残るが、単価は趨勢どおり下がる 利益 43 億ドル · PER 11.9 倍 · 株価時価総額 142.00 ドル512 億ドル
出荷容量は 10 年で 3.9 倍(年 +14%)、TB 単価は FY26 比 4 割(年 −8.5%)。営業利益率は山と谷をならして 28% と、過去の HDD の水準(10% 台)の 2 倍近くに残る。東芝の増産(30% 狙い)と HAMR の遅れで当社のシェアは約 48% から 45% に下がり、SSD は性能や電力が大事な用途へ広がる。売上は約 189 億ドル、純利益は約 43 億ドルで、FY26 の実績(約 38 億ドル)とほぼ同じ。10 年の純利益の合計は約 674 億ドル(山の 2027〜28 年を含む)で、正味の還元 595 億ドルはその範囲に収まる。競合と並べると、シーゲイトの HAMR が先行する分、当社は容量あたりの価格で数 % 劣り、東芝にもシェアを譲る。この商品がうまくいけば営業利益は約 52 億ドル、競合に負ければ下の筋書きの約 23 億ドルになる。成熟後の倍率は、g 4.0% の正当化 PER の上限 14.0 倍の 8.5 割(11.9 倍)を事業の純利益に掛けて時価総額 512 億ドル。年ごとの道筋は、FY27〜29 の累計約 232 億ドルのあと、FY30〜36 の合計が約 442 億ドル(90 億ドルから 43 億ドルへ細る。年ごとの金額は仮に置いた。減損・売却益は置かない)。
- ニアライン HDD(クラウド向け大容量):数量 3,050(ニアライン HDD の出荷容量(EB)= 業界の出荷 × 当社シェア)× 価格 5.88(TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル))→ 売上 179 億ドル・営業利益 50 億ドル。ニアライン:容量 × TB 単価。TB 単価は物価に連れて上がらない例外(容量増と費用の年 10% 低下で趨勢は年 −8〜11%、契約が切れる後は趨勢へ)
- ニアライン以外(PC・コンシューマー):数量 85.0(ニアライン以外の HDD 出荷容量(EB))× 価格 12(TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル))→ 売上 10 億ドル・営業利益 2 億ドル。ニアライン以外:容量 × TB 単価。SSD への置き換えで物価に連れて上がらない例外(趨勢は下落)
倍率:上限から一段下げて置いた。 正当化 PER の上限は 14.0 倍(g 4.0%、RONIC 17.6%。RONIC = k 9.5% + 1/2 ×(事業の ROE 25.6% − k)。堀は普通)。その 8.5 割の 11.9 倍に置いた。時価総額 = 事業の純利益 42.9 × 11.9 = 512 億ドル。純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:業界ノート(容量 年 +15%・TB 単価 年 −11%)より、FY26 の価格の上げの一部が残る分だけ売上が高い。同領域のシーゲイトの中立と同じ置き方で最も厚い 32%。
やや悲観 24% 東芝と SSD に挟まれ、価格を決める力が弱まる 利益 19 億ドル · PER 10.6 倍 · 株価時価総額 56.53 ドル204 億ドル
東芝が約 3 割まで伸び、当社のシェアは 4 割弱へ。クラウド大手は SSD への一部移行と HDD の 3 社競争で価格を下げさせ、TB 単価は FY26 比 3 割(年 −11%)。営業利益率は 19% まで下がるが、HDD の過去の水準(10〜17%)よりは高い。還元は資産の売却でなく、FY27〜28 の高い利益で払う。クライアント向けは SSD に置き換わり縮む。売上は約 126 億ドル、純利益は約 19 億ドル。10 年の純利益の合計は約 372 億ドル(山の 2027〜28 年を含む)で、正味の還元 313 億ドルはその範囲に収まる。競合と並べると、東芝が 3 割シェアを取り、シーゲイトも価格を下げて追従する。当社が負ければ営業利益は約 23 億ドルで、うまくいった時(約 52 億ドル)の 4 割強。成熟後の倍率は、g 4.0% の正当化 PER の上限 11.7 倍の 9 割(10.6 倍)を事業の純利益に掛けて時価総額 204 億ドル。年ごとの道筋は、FY27〜29 の累計約 162 億ドルのあと、FY30〜36 の合計が約 210 億ドル(FY30 約 42 から FY36 約 19 億ドルへ、毎年 3〜4 億ドルずつ細る。年ごとの金額は仮に置いた。減損・売却益は置かない)。
- ニアライン HDD(クラウド向け大容量):数量 2,502(ニアライン HDD の出荷容量(EB)= 業界の出荷 × 当社シェア)× 価格 4.70(TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル))→ 売上 118 億ドル・営業利益 22 億ドル。ニアライン:容量 × TB 単価。TB 単価は物価に連れて上がらない例外(容量増と費用の年 10% 低下で趨勢は年 −8〜11%、契約が切れる後は趨勢へ)
- ニアライン以外(PC・コンシューマー):数量 76.0(ニアライン以外の HDD 出荷容量(EB))× 価格 10(TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル))→ 売上 8 億ドル・営業利益 1 億ドル。ニアライン以外:容量 × TB 単価。SSD への置き換えで物価に連れて上がらない例外(趨勢は下落)
倍率:東芝の増産と SSD への置き換えで利益の質が落ちる筋書き。上限から少し下げて置いた。 正当化 PER の上限は 11.7 倍(g 4.0%、RONIC 11.3%。RONIC = k 9.5% + 1/2 ×(事業の ROE 13.1% − k)。堀は普通)。その 9 割の 10.6 倍に置いた。時価総額 = 事業の純利益 19.3 × 10.6 = 204 億ドル。純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:東芝が 3 割シェアを狙い、中国のメモリ勢が NAND の単価を下げる筋書き。HDD の 2 社寡占が崩れ、過去の周期型に戻る。慎重な見方の中心として 24%。
悲観 14% 構造的な敗北:NAND(QLC)が大容量保存を奪い、HDD は特殊品に 利益 3 億ドル · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 6.57 ドル24 億ドル
中国のメモリ勢(YMTC・長鑫)の増産で NAND の単価が崩れ、大容量 SSD(QLC)がニアラインの用途を奪う。出荷容量は 10 年で 2.3 倍までしか伸びず、TB 単価は FY26 比 2 割(年 −15%)、営業利益率は 5%。東芝・シーゲイトとの価格競争も重なり、売上は約 62 億ドル、純利益はほぼ 0 まで落ちる。自己資本は新設備と過去ののれん(43 億ドル)が大半で、稼がない資産になる。還元は資産の売却でなく、FY27〜28 の高い利益で払う。10 年の純利益の合計は約 110 億ドル(山の 2027〜28 年を含む)で、正味の還元 77 億ドルはその範囲に収まる。競合と並べると、勝ち負けでなく代替の問題で、3 社とも SSD に市場を奪われる。当社の営業利益は約 3 億ドルと、FY26 の約 46 億ドルの 1 割にも届かない。成熟後の倍率は、稼ぐ力に対する上限 1÷k = 10.5 倍の 9 割(9.5 倍)を事業の純利益 2.5 億ドルに掛けて時価総額 24 億ドル。年ごとの道筋は、FY27〜29 の累計約 91 億ドルのあと、FY30〜36 の合計が約 19 億ドル(FY30 の約 4 億ドルから FY36 の 2.5 億ドルへ細る。年ごとの金額は仮に置いた。減損・売却益は置かない)。
- ニアライン HDD(クラウド向け大容量):数量 1,799(ニアライン HDD の出荷容量(EB)= 業界の出荷 × 当社シェア)× 価格 3.23(TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル))→ 売上 58 億ドル・営業利益 3 億ドル。ニアライン:容量 × TB 単価。TB 単価は物価に連れて上がらない例外(容量増と費用の年 10% 低下で趨勢は年 −8〜11%、契約が切れる後は趨勢へ)
- ニアライン以外(PC・コンシューマー):数量 49.0(ニアライン以外の HDD 出荷容量(EB))× 価格 8.03(TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル))→ 売上 4 億ドル・営業利益 0 億ドル。ニアライン以外:容量 × TB 単価。SSD への置き換えで物価に連れて上がらない例外(趨勢は下落)
倍率:上限から少し下げて置いた。 事業の ROE 2.1% が k 9.5% 以下なので、正当化 PER の上限は 1÷k = 10.5 倍。その 9 割の 9.5 倍に置いた。時価総額 = 事業の純利益 2.5 × 9.5 = 24 億ドル。純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:NAND の TB あたり単価が大きく下がり、2030 年代にニアラインの保存でも HDD の優位が消える筋書き。もう優良な会社ではなくなっている。14%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
ニアライン HDD(クラウド向け大容量)
クラウド・AI 事業者向けの大容量 HDD(ePMR・UltraSMR・HAMR)。長期契約が集中する区分で、売上の 89%。
| 数量ニアライン HDD の出荷容量(EB)= 業界の出荷 × 当社シェア | 価格TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 782 | 15 | 115 | 44 |
| 10 年後 中立 | 3,050 | 5.88 | 179 | 50 |
取り方:FY26 のクラウド売上は 114.9 億ドル(10-K)。ニアラインの出荷は Q1 183・Q2 192・Q3 約 199・Q4 約 208 EB(Q3・Q4 は合計 222・231 EB からそれ以外 約 23 を引いた推定)で合計 782 EB、1 TB あたり 14.69 ドル。業界の HDD 出荷は FY26 に約 1,800 EB(シーゲイトの注記と同じ推定)で当社のシェアは約 48%、数量は業界の伸び(経営陣は 3〜5 年で年 25% 超、本稿は 10 年で年 +14% に鈍る)× シェア(東芝の増産で下がる)。価格は物価に連れて上がらない例外:容量の増加と費用の低下で TB 単価は年 8〜11% 下がる趨勢(業界ノート)。2026 年は需給の逼迫で上がり、契約が 2028 年までを固定。営業利益 43.6 億ドル(営業利益率 37.9%)は推定で、全社の営業利益 46.0 億ドル(brief)との合計が一致する。
ニアライン以外(PC・コンシューマー)
PC 向け(クライアント)と外付け・ゲーム機向け(コンシューマー)の HDD。TB 単価は高いが、SSD に置き換わって縮む区分。
| 数量ニアライン以外の HDD 出荷容量(EB) | 価格TB あたり売上(ドル/TB。売上 = EB × ドル/TB × 0.01 億ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 89.0 | 16 | 14 | 2 |
| 10 年後 中立 | 85.0 | 12 | 10 | 2 |
取り方:FY26 のクライアント 7.26 億ドル+コンシューマー 7.03 億ドル = 14.29 億ドル。出荷容量は Q2 の 23 EB を基に Q1 約 20・Q3・Q4 約 23 EB で合計 89 EB(推定)、1 TB あたり約 16.06 ドルと、ニアラインより高い(小容量のドライブ)。EB は FY26 に +3%・+1% と横ばい、単価は +26%・+12%(メモリ高騰で SSD が高くなった一時の追い風)。SSD への置き換えで長期は縮み、価格は物価に連れて上がらない例外(TB 単価の下落が趨勢)。営業利益 2.4 億ドル(営業利益率 約 17%)は推定。
リスクと懸念
契約は購入義務のない約束
長期契約(2027〜28 年固定、2029 年分まで)は量と価格を決めるが、顧客が量を減らしても取り戻せる救済は限られる(10-K)。AI 投資が鈍れば、契約の更新時に価格・量が大きく動き、FY29 の利益が急に落ちる。
顧客の集中
FY26 は 3 社で売上の 44%(16%・15%・13%)、上位 10 社で 73%。クラウド大手が内製や SSD への配分を増やすと、価格の交渉力が買い手に傾く。1 社の設備投資の見直しが全体の利益に直結する。
東芝の増産とシェアの再配分
東芝は容量シェア 約 1 割から 30% を狙い、フィリピンに約 600 億円(Block & Files は約 3.8 億ドル)を投じて能力を倍にする。2 社寡占が 3 社に戻ると、2029 年以降の価格規律が緩む。10 月に株価が東芝の報道で下がった。
HAMR でシーゲイトに遅れる
シーゲイトの HAMR(Mozaic)は FY26 末でニアライン容量の約 4 割に達し、当社の HAMR は 2027 年に立ち上がる。UltraSMR の費用優位で補えない世代では、1 EB あたりの売上(シーゲイトの方が約 1 割高い)の差が開き、認定に失敗すれば大口の契約を失う。
NAND(SSD)への置き換え
2026 年は NAND の高騰で HDD の優位が広がったが、中国のメモリ勢(YMTC・長鑫)の増産で NAND 価格が戻れば、QLC の大容量 SSD がニアラインの一部(頻繁にアクセスする保存)に入る。10 年の悲観の構造要因。
AI 投資の巻き戻し
需要の大半はクラウド上位事業者の設備投資で、AI の収益が追いつかず投資が鈍れば、容量の積み増しが止まる。マイクロン・サンディスクなど AI 関連の保存・メモリ株と相関が高く、8 月は決算後に株価が 16% 下がった。
一度きりの売却益と税率
FY26 の GAAP 純利益 94 億ドルのうち約 65 億ドルは非課税のサンディスク株の売却益。FY26 の税率 5% はマレーシア・タイの免税で、グローバル最低税で上がる(今後 17%)。見かけの EPS・PER は実力を表さない。
今後の分かれ目
- クラウド大手が 2029 年分の契約を現在の価格水準で更新する
- 契約の山が 2030 年へ延びる。10 年の楽観・やや楽観の確率を寄せ、単価の下落の始まりを遅らせる。
- 東芝が 2027 年に容量シェアを 2 割へ引き上げる
- 2 社寡占が崩れる兆し。10 年のやや悲観・悲観の確率を引き上げ、単価の下落を趨勢(年 −11%)に寄せる。
- 当社の HAMR(44TB)の量産認定が 2027 年に遅れる
- シーゲイトに容量あたりの価格で遅れ、シェアを数 % 失う。中立のシェアを 45% から 42% 前後へ下げて見る。
- NAND の TB あたり価格が大きく下がり、SSD が HDD の 3 倍以内に近づく
- 10 年の構造的な敗北の確率を引き上げる。ニアラインの代替が現実になる合図。
- クラウド上位 5 社の設備投資が 2 四半期続けて下方修正される
- 契約の購入義務がないため、利益の落ち込みが速い。
- 自社株買いが今の水準より高い値段で枠(約 33 億ドル)いっぱいまで進む
- 資本配分の質の低下。正味の還元(株式報酬と転換社債の株数増を引いた額)を下げて見る。
見ておくもの
- ニアライン HDD の出荷容量(EB)と TB 単価の前期比(四半期決算)
- 2029〜31 年分の長期契約の成立と価格の水準
- 東芝のフィリピン工場の立ち上げと容量シェア
- HAMR(44TB)の認定の進み方とシーゲイトの Mozaic 比率
- NAND の TB あたり価格と大容量 SSD(QLC)の採用
- クラウド上位 5 社の設備投資の改定
- 顧客 3 社の売上比率と自社株買いの額・株数の増減
倍率と資本コストの決め方
今の PER・PBR や過去の倍率には寄せていない。10 年後の倍率は、利益ベースの正当化 PER = (1−g/RONIC)/(k−g)(k 9.50%、g 4.0%、RONIC = k + 残る割合 ×(事業の ROE − k)、堀は普通)の上限に対し、楽観 9 割・やや楽観 8.5 割・中立 8.5 割・やや悲観 9 割・悲観 9 割 で置いた。中立は上限 14.0 倍の 8.5 割で、事業の純利益に 11.9 倍。総合は今の時価総額に対し -48.8% で、割高。結論は計算の結果で、先に決めたものではない。
資本コスト 9.5% = 無リスク金利 5% + β 1.80 × 5%。k = 基本 8.0% + quality 1.5% = 9.5%。β は使わない。HDD の周期(+0.75)、商品として単価が下がること(+0.25)、SSD への置き換えと HAMR の遅れ(+0.5)を quality で見た。純現金で debt は足さず、extra も置かない。山の利益と東芝・SSD の競争は筋書きと確率(10 年のやや悲観・悲観 38%)で表し、k には二重に足していない。