結論
MKSは、半導体製造装置の内部で働く真空制御機器や電源、精密光学部品と、電子基板を加工するレーザー装置・薬液を供給する会社である。筆者の結論は割高だ。製造工程に深く入り込んだ強みは本物だが、過去の大型買収で負った借金と、半導体投資の循環に対して、今の値段には十分な安全域がない。
最大の魅力は、完成装置の表に出ない重要部品を握っていることである。成膜やエッチングの装置には、MKSの真空計測、ガス制御、高周波電源などが組み込まれる。顧客の量産工程で認定された部品は簡単に交換されず、装置が稼働する限り補修や交換の需要も残る。さらにアトテックのめっき薬液は、先端基板の品質を左右する消耗品として継続的に売れる。
2026年4〜6月期は売上12.48億ドル、GAAP営業利益率20.1%と好調だった。会社は7〜9月期の売上を13.5億ドル前後と見込む。AI向け半導体と高密度基板の増設が同時に伸びている。ただし、この強い需要を10年間そのまま延長することはできない。
2036年の中立では、売上79.3億ドル、GAAP純利益11.1億ドルを見込む。半導体と先端基板の市場は広がるが、中国の国産化、顧客による価格交渉、買収資産の負担も残る。5つの筋書きの確率加重価値は現在基準で約78.5億ドルとなり、台帳時価総額133.1億ドルを約41%下回る。事業を保有したい理由は十分にあるが、この値段で10年持ち続ける理由は弱い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、MKSには長く保有する理由がある。10年後も半導体工場には真空制御、ガス供給、プラズマ電源が必要であり、電子基板には穴あけとめっき工程が必要だ。工程の複雑化は、むしろこうした技術の役割を大きくする。顧客の量産工程に認定された製品と、繰り返し消費される薬液は、長い寿命を持つ収益源になり得る。
一方、良い事業を買えば必ず良い投資になるわけではない。アトテックの技術と顧客基盤は魅力的だが、取得時に高い対価を払い、のれんの減損と負債負担を残した。2025年末の自己資本27.2億ドルに対し、のれんは約25.7億ドルに達する。帳簿上の純資産を、そのまま現金で回収できる資産と考えてはならない。
オーナー利益については、2025年のGAAP純利益約3億ドルとフリーキャッシュフロー約5億ドルの差を慎重に扱う。買収無形資産の償却は現金支出ではないが、過去に買収代金を払った事実は消えない。そこで将来の利益は株式報酬を費用とするGAAPを基礎にし、償却を倍率でもう一度評価しない。
中立では2036年に利益11.1億ドルを稼ぎ、継続的な投下資本の収益性も改善すると見込む。それでも今の株価には、安全域が不足する。買収後の負債と設備投資循環を引き受ける以上、期待する収益率を満たす値段で所有したい。成長の可能性と、現時点で払ってよい価値を分けて考えるべき会社である。
何で稼ぐ会社か
MKSの事業は、製品技術では真空ソリューション部門、フォトニクス部門、材料ソリューション部門の3つに分かれる。2025年の売上はそれぞれ15.79億ドル、10.29億ドル、13.23億ドルだった。真空部門は圧力・流量の計測制御、ガス供給、高周波電源、プラズマ発生装置を作る。フォトニクス部門はレーザー、光学部品、精密位置決め機構を作り、材料部門はアトテックの表面処理薬液、めっき装置、関連サービスを担う。
顧客の需要から見ると、半導体、電子機器・パッケージング、特殊産業という別の3区分になる。2025年の売上は半導体16.96億ドル、電子機器・パッケージング11.11億ドル、特殊産業11.24億ドルだった。以下の数量と価格の分析では、市場の大きさとシェアを対応させやすいこの3区分を使う。会計上の報告部門とは異なり、各技術部門を横断する市場別の区分である。
半導体向けでは、ラムリサーチやアプライド・マテリアルズなどの完成装置メーカーに部品やサブシステムを供給する。装置メーカーが一度採用した部品には、長い共同開発と量産認定の履歴が付く。電子基板向けでは、ESIのレーザー穴あけ装置とアトテックの薬液・めっき装置が中心である。顧客は基板メーカーやパッケージ基板メーカーで、導通穴の形成と銅めっきの精度が歩留まりを左右する。
特殊産業向けは自動車の表面処理、医療・分析機器、研究、防衛、産業用レーザーなどに分散する。2026年10月には、この領域のOphir Optics事業をTTMテクノロジーズに売却する合意を結んだ。売却はまだ完了しておらず、2027年の成立を見込む。全社の買収や非公開化ではない。
優良さと弱いところ
MKSの堀、つまり競合が容易に奪えない利益の源泉は、製造工程への深い組み込みにある。真空制御やプラズマ電源は装置全体の歩留まりに影響し、交換には再設計と量産認定が必要になる。会社によると、製品はウエハー製造装置の用途の85%超に対応し、19の製品分類で世界1位または2位の位置にある。ただし85%は対応できる用途の範囲であり、市場シェアではない。
アトテックの薬液も切り替えが難しい。めっき工程の薬液を替えると密着性、膜厚、信頼性を再評価する必要がある。2019年の旧アトテック開示では、電子機器向けめっき薬液のシェアは23%とされたが、現在も同じとは断定できない。2025年9月までの直近12か月で消耗品とサービスが売上の約41%を占めることは、設備販売だけに依存しない強みである。
ただし、値上げを自由に通せる会社ではない。大手装置メーカーは購買力が強く、2025年は売上が増えたにもかかわらず、一部事業の粗利益率が下がった。継続的な実質値上げを示す十分な開示もない。堀は広い製品群に分散するが、製品ごとには競合がいる。
資本効率も慎重に見るべきだ。2025年の税引き後営業利益を自己資本と純負債の合計で割った概算ROICは7%弱で、要求収益率を下回る。2026年の利益回復は改善の証拠になるが、景気の山で高く見える可能性もある。過去の買収のれんが多く、良い製品を持つことと、買収に払った資本で十分に稼ぐことは別問題である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体製造装置市場は、AI向け演算半導体、HBM、先端ロジックの増設で急拡大している。SEMIの2026年7月予測では、ウエハー製造装置市場は2026年に1439億ドル、2028年に約2000億ドルへ伸びる。中立では、その後に循環的な調整を挟み、2036年に約2650億ドルへ達すると見る。物価だけでなく、三次元構造や新材料が増やす加工工程も需要を押し上げる。
MKSが直接競うのは完成装置市場の全体ではない。真空制御ではVATグループやインフィコン、プラズマ電源ではアドバンスト・エナジー、精密光学ではコヒレントなどと競争する。ラムリサーチや東京エレクトロンは主に顧客であり、一部で内製化の脅威にもなる。MKSの会社推定では、半導体向けの販売可能市場は2024年に約80億ドルだった。
電子機器・パッケージングでは、プリント基板の高密度化と先端パッケージ基板が成長源になる。プリズマークによると、世界の基板生産額は2025年に約858億ドルまで増えた。2030年には約1446億ドルとの予測があり、特に高多層基板と半導体パッケージ基板が伸びる。ただし基板そのものの売上を、薬液・装置の市場規模と取り違えてはいけない。MKSの同領域の販売可能市場は、2024年推定で約130億ドルである。
レーザー穴あけでは三菱電機やビアメカニクスが競合する。台湾の業界調査では2025年のシェアを三菱電機50%、MKS17.7%、ビアメカニクス16.7%と推定するが、調査会社によって市場の定義と規模が異なる。めっき薬液ではエレメント・ソリューションズ傘下のマクダーミッドやデュポン、JCUが競う。特殊産業向けの販売可能市場は2024年推定で約50億ドルであり、成熟した用途が多い。
AIエージェント代替の指定対象には当たらない。収益の中心は物理的な製造装置、部品、薬液とサービスであり、人月や席課金ではない。ただしAI設備投資の反動、米中輸出規制、中国の装置・材料国産化は大きなリスクとなる。今は需要拡大局面だが、永続的な好況ではない。
資本政策と M&A
資本配分の最大の論点は買収である。2016年のニューポート買収で光学技術を広げ、2019年のESI買収で基板向けレーザーを加えた。2022年にはアトテックを約44億ドルの現金・株式対価で取得し、薬液事業を手に入れた。しかし負債が膨らみ、2023年には買収した事業に関するのれん・無形資産を約19億ドル減損した。売上規模は広がったが、株主の投下資本に対する成果は十分とは言えない。
2025年末の純有利子負債は37.7億ドルで、同年のEBITDAの約4.1倍に当たる。2026年6月末には約14億ドルの転換社債も残り、株価条件によって転換可能になっている。元本部分は原則現金決済で、上回る価値の決済には株式が使われる可能性がある。既存株主の取り分を考えるうえで無視できない。
会社の優先順位は借金の削減である。2026年1月の資料では、純負債倍率2倍を目標とし、設備投資は長期的に売上の2〜4%、自社株買いは財務目標を満たした後の機動的な実施としている。既存の買戻し承認枠は2億ドルで、2026年6月までの累計実施額は約1.72億ドルだった。2026年上期の買い戻しはゼロである。
2026年10月に合意したOphir Opticsの売却額6.5億ドルは、成立すれば借金削減に役立つ。ただし同事業の利益も失うため、売却代金を利益とは別に丸ごと上乗せしない。大型買収を繰り返すより、負債を減らして既存事業の利益を株主に戻す方が価値を生みやすい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
MKSの成長機会は、単なる半導体装置の増設より広い。先端ロジックではゲート・オール・アラウンドや裏面給電により、ガス供給、真空制御、プラズマ電源の高度化が必要になる。HBMや三次元NANDでも同じことが起きる。装置メーカーは歩留まりの実績を重視するため、複数世代にわたって採用される部品メーカーには、完成装置の出荷台数以上の成長余地がある。
電子基板では、AIサーバーの高多層化と半導体パッケージ基板の高密度化が追い風になる。レーザー穴あけとめっき薬液の両方を供給できる会社は多くない。MKSはESIとアトテックの技術を持ち、製造工程の前後をまとめて改善できる。中国・台湾の基板メーカーが高度化に投資するほど、薬液と装置の需要も広がる。2026年4〜6月期には電子機器・パッケージング売上が前年比で大きく伸び、成長が既に数字に表れている。
財務の改善も上振れ要因だ。2026年6月末の現金は約6.1億ドルで、融資枠も確保されている。営業キャッシュフローが増え、売却予定の光学事業から現金が入れば、借入の返済を進めやすい。借金を減らせば、好況時の利益が株主に残りやすくなる。将来の買戻し枠が新たに承認されれば、配当と合わせて長期の還元も厚くできる。
この道筋では、2036年に売上は130億ドルを超え、純利益は25億ドルに達する。ラムリサーチやアプライド・マテリアルズのような完成装置メーカーとは役割が違うが、顧客工程への組み込みと高い消耗品比率により、部品・材料メーカーとして強い収益性を保てる。
慎重な見方
成長の前提には、同じ投資循環に依存する需要が重なっている。半導体製造装置、先端基板、AIサーバー向け材料は別の製品だが、最終的な投資原資は大手半導体メーカーやデータセンター事業者に集中する。AI設備投資が期待した収益を生まなければ、半導体の増設と基板工場の新設が同時に鈍る。事業が3つあることは、需要源が完全に独立していることを意味しない。
中国の国産化は、時間とともにMKSの取り分を削る可能性がある。完成装置メーカーが調達先を増やし、中国の部品・材料メーカーが量産認定を得れば、長い認定期間という堀が逆に競合の資産になる。レーザー穴あけでは三菱電機が大きなシェアを持ち、めっき薬液もマクダーミッドやデュポンが競争相手である。優れた技術を持っていても、価格を自由に引き上げられるわけではない。
最大の不安は、成長のための買収が株主価値を損ねてきたことである。アトテック買収後の2023年には巨額の減損が起きた。2025年の自己資本の大部分は、現金化しにくいのれんに相当する。2026年の利益回復は確かだが、買収に払った元本が十分な利益を生んだことまでは示さない。転換社債や借り換えの負担もあり、設備投資が止まる時期には財務上の自由度が狭くなる。
この状況で利益率を半導体装置の優良企業並みに見積もるのは危うい。MKSの2025年のGAAP営業利益率は14%台だった。2026年の急回復が恒久的でなければ、10年後に売上が増えていても、株主に残る利益が期待ほど伸びない可能性がある。技術の優位性だけでは、現在の価格を正当化できない。
どちらに重みを置いたか
長期の需要が広がるという見方には相応の根拠がある。会社が示す製品の採用範囲、消耗品とサービスの厚さ、2026年の業績回復を評価し、楽観とやや楽観に32%を割り当てた。ただし大型買収の成果、負債、中国の国産化には不確実性が残るため、やや悲観と悲観を34%とし、中立34%よりも慎重側を厚くした。
決定的なのは、2036年の利益を大きく伸ばしても、利益の質と資本コストから求める価値が現在の市場評価に届きにくいことである。中立の2036年時価総額は126.1億ドルで、10年間の還元23億ドルを加えても、9.25%の要求収益率に足りない。事業への評価は前向きだが、価格への判断は割高となる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 223.00 ドル151 億ドル(+ 還元の換算額還元の合計 43.57 ドル30 億ドル)。 今の値に割り戻すと 120.06 ドル81 億ドル、今との差 −40.6%、 期待の年率 +3.1%(資本コスト 9.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 549.11 ドル372 億ドル | 106.35 ドル72 億ドル | +224.4% | +14.1% | 65.55 ドル44 億ドル |
| やや楽観 | 22% | 343.33 ドル232 億ドル | 70.90 ドル48 億ドル | +105.0% | +8.3% | 91.13 ドル62 億ドル |
| 中立 | 34% | 205.34 ドル139 億ドル | 33.97 ドル23 億ドル | +18.4% | +1.8% | 81.37 ドル55 億ドル |
| やや悲観 | 24% | 78.02 ドル53 億ドル | 19.20 ドル13 億ドル | −51.9% | −7.7% | 23.33 ドル16 億ドル |
| 悲観 | 10% | 40.18 ドル27 億ドル | 11.82 ドル8 億ドル | −74.3% | −13.8% | 5.20 ドル4 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 223.00 ドル151 億ドル | 43.57 ドル30 億ドル | +31.9% | +3.1% | 266.58 ドル180 億ドル |
今の株価時価総額 202.04 ドル137 億ドル(2026-10-30)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 10% 先端工程と高密度基板でシェアを伸ばす 利益 25 億ドル · PER 14.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 549.11 ドル372 億ドル
半導体の三次元化と高度なパッケージングが同時に進む。ウエハー製造装置市場は2036年に名目3500億ドル規模へ育ち、MKSの半導体向け販売可能市場も実質175億ドルへ広がる。真空制御、プラズマ電源、精密光学で採用工程を増やし、実効シェアは24%に上がる。半導体向け売上は62.2億ドルになる。
高密度基板ではESIのレーザー装置とアトテックの薬液を組み合わせる強みが働く。三菱電機との競争は続くが、先端基板向けの実効シェアは11%に広がる。電子機器・パッケージングは42.3億ドル、特殊産業は26.6億ドルを売り、全社売上は約131億ドルとなる。
営業利益は34.1億ドル、GAAP純利益は25億ドルに達する。利益率が高いのは、薬液と保守の継続売上が増え、固定費の負担が軽くなるためである。2027年にOphir Opticsの売却が成立し、借入返済が進む。財務が改善した後は新たな自社株買い承認も得られ、10年間の正味還元は72億ドルとなる。競争と設備投資循環は残るが、買収で広げた事業が初めて十分な株主利益を生む筋書きである。
- 半導体市場向け:数量 42.0(販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×MKSの実効獲得シェア。結果は実質の獲得案件額)× 価格 148(同種の装置部品・サービスの名目単価指数。2025年を100とし、シェアは含めない)→ 売上 62 億ドル・営業利益 19 億ドル。実質SAM175億ドル×シェア24%=42.0。名目単価148。先端工程の採用増と製品構成改善で営業利益率30%。
- 電子機器・パッケージング市場向け:数量 28.6(電子基板・パッケージングの販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア)× 価格 148(レーザー装置・薬液・サービスの同等工程当たり名目価格指数。2025年を100)→ 売上 42 億ドル・営業利益 12 億ドル。実質SAM260億ドル×シェア11%。高多層基板と薬液の伸びで営業利益率28%。
- 特殊産業市場向け:数量 18.0(特殊産業の販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア)× 価格 148(産業用部品・薬液・光学機器の名目単価指数。2025年を100)→ 売上 27 億ドル・営業利益 6 億ドル。実質SAM75億ドル×シェア24%。Ophir売却後も残存用途で成長。
倍率:k9.25%、g4.5%、2036年ROE25.72%、moat normalで残存割合1/2。RONIC=9.25%+0.5×(25.72%-9.25%)=17.49%。正当化PERは当期利益基準で16.34倍。高い工程採用率と薬液の継続収入を考慮し、その約91%の14.87倍とする。gの内訳は2036年以降の市場実質数量+1%、シェア横ばい、価格+3.5%。純利益はGAAPで株式報酬と無形資産償却を費用に含む。大規模な追加買収は前提に含めない。
確率:WFEが2036年に3500億ドル規模となり、MKSの半導体SAMの獲得率が24%まで上昇する場合。19の技術分類での有力な地位と、先端パッケージへの展開を根拠とする。ただし大手顧客との競争、買収負債、循環的な投資停止があるため10%に抑える。
やや楽観 22% 半導体と基板の成長を取り込み、負債を順調に減らす 利益 17 億ドル · PER 13.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 343.33 ドル232 億ドル
半導体の設備投資は循環を挟みながらも増え続ける。2036年のWFEは名目3000億ドル程度となり、MKSの半導体向け実質SAMは150億ドルに広がる。新しい成膜・エッチング工程で有力な部品メーカーの地位を維持し、実効シェアは22%になる。アドバンスト・エナジーなどとの競争は続くが、量産認定の壁が利益を守る。
先端基板では、レーザー穴あけとめっき薬液の組み合わせが採用される。基板の総生産面積だけでなく高多層化によって工程の需要が増え、電子機器・パッケージングの売上は34.1億ドルに達する。特殊産業はOphir売却後も医療、工業材料、防衛関連の残存事業が伸び、22.7億ドルを売る。
全社売上は104.6億ドル、営業利益は24.3億ドルとなる。GAAP純利益は17.4億ドルまで増え、借入返済に伴う利払いの軽減も効く。10年間の正味還元は48億ドルに達する。装置メーカーほど高い営業利益率を持たなくても、材料と保守の継続収入が利益の振れを小さくする。買収で得た製品の補完関係が成果を生むが、価格決定力は限定的なままである。
- 半導体市場向け:数量 33.0(販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×MKSの実効獲得シェア。結果は実質の獲得案件額)× 価格 145(同種の装置部品・サービスの名目単価指数。2025年を100とし、シェアは含めない)→ 売上 48 億ドル・営業利益 13 億ドル。実質SAM150億ドル×シェア22%。先端用途の構成改善を伴う単価145。
- 電子機器・パッケージング市場向け:数量 23.5(電子基板・パッケージングの販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア)× 価格 145(レーザー装置・薬液・サービスの同等工程当たり名目価格指数。2025年を100)→ 売上 34 億ドル・営業利益 9 億ドル。実質SAM240億ドル×シェア9.8%。高多層基板と薬液の増加。
- 特殊産業市場向け:数量 15.6(特殊産業の販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア)× 価格 145(産業用部品・薬液・光学機器の名目単価指数。2025年を100)→ 売上 23 億ドル・営業利益 4 億ドル。実質SAM68億ドル×シェア23%。Ophir売却後の残存事業が成長。
倍率:k9.25%、g4.5%、ROE20.19%、moat normal。RONIC14.72%、正当化PER15.27倍に対して約87%の13.29倍。継続する消耗品と部品認定を評価する一方、顧客の集中と中国の競合を考慮する。2036年以降のgは市場実質数量+1%、シェア横ばい、名目価格+3.5%から決める。GAAP利益を使い、調整後利益やSBCの足し戻しは行わない。
確率:AI向け投資の伸びが2030年代にも続き、半導体部品の採用工程が拡大する筋書き。中立より大きな市場とシェアを見込むが、中国の国産化と競合による値下げ圧力は残す。楽観ほどの独占力はないため22%。
中立 34% 市場は拡大するが、シェアと利益率には競争が残る 利益 11 億ドル · PER 11.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 205.34 ドル139 億ドル
2036年のウエハー製造装置市場は名目2650億ドルへ育つ。MKSの半導体向け実質SAMは130億ドルとなるが、中国の国産化と競合製品の採用により、実効シェアは19.5%へやや下がる。真空制御や電源の量産認定は残り、半導体向け売上は35.7億ドルとなる。完成装置メーカーのラムリサーチや東京エレクトロンとの関係は続くものの、値決めには顧客の交渉力が働く。
電子機器・パッケージングでは、基板の生産面積と加工工程の複雑さが増す。アトテックのめっき薬液が継続収入を生み、レーザー装置も高密度基板向けに残る。三菱電機やマクダーミッドとの競争で大幅なシェア拡大は見込まないが、売上は25.8億ドルになる。特殊産業はOphir売却後の事業が物価と緩やかな数量成長に支えられ、17.8億ドルを売る。
全社売上は79.3億ドル、営業利益は15.9億ドルとなる。GAAP純利益は11.1億ドルで、2025年より大きく増える。借入の返済と利益成長によって財務は改善するが、2021年のような高収益状態が恒久的に続くとは見ない。正味の株主還元は10年間で23億ドルであり、その多くは負債削減が進んだ後に実現する。堀は保たれるが、買収に依存しない堅実な成長企業へ落ち着く姿である。
- 半導体市場向け:数量 25.4(販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×MKSの実効獲得シェア。結果は実質の獲得案件額)× 価格 141(同種の装置部品・サービスの名目単価指数。2025年を100とし、シェアは含めない)→ 売上 36 億ドル・営業利益 8 億ドル。実質SAM130億ドル×シェア19.5%。2025年の近似シェア21.2%から小幅低下。価格は物価並み。
- 電子機器・パッケージング市場向け:数量 18.3(電子基板・パッケージングの販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア)× 価格 141(レーザー装置・薬液・サービスの同等工程当たり名目価格指数。2025年を100)→ 売上 26 億ドル・営業利益 6 億ドル。実質SAM210億ドル×シェア8.7%。基板の高多層化と消耗薬液が成長源。
- 特殊産業市場向け:数量 12.6(特殊産業の販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア)× 価格 141(産業用部品・薬液・光学機器の名目単価指数。2025年を100)→ 売上 18 億ドル・営業利益 3 億ドル。実質SAM60億ドル×シェア21%。Ophir売却による対象範囲縮小を含む。
倍率:k9.25%、g4.5%、2036年ROE14.57%、moat normal、残存割合1/2。RONIC=9.25%+0.5×(14.57%-9.25%)=11.91%。正当化PERは13.69倍で、これに対して約83%の11.36倍を採用する。増分の収益性は資本コストを超えるが、現時点の買収のれん、設備投資循環、中国の国産化を踏まえ、理論上限を全額与えない。gは2036年以降の市場実質数量+1%、シェア横ばい、価格+3.5%。純利益はGAAPであり、株式報酬と買収無形資産の償却を戻さない。
確率:半導体装置市場は2036年に約2650億ドルへ広がり、基板も高密度化するという業界の中立的な見通しを採用する。MKSの製品認定と薬液の継続需要は残るが、中国の国産化で一部シェアを失う。設備投資の循環と買収負債を考慮し、最も高い34%を割り当てる。
やや悲観 24% 中国の国産化と投資減速で利益率が低下する 利益 5 億ドル · PER 9.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 78.02 ドル53 億ドル
半導体の増設が2020年代末に調整され、2036年のWFEは名目2200億ドルにとどまる。中国の国産部品メーカーが量産認定を進め、真空制御、電源、光学の一部でMKSの実効シェアが17.5%まで下がる。既存顧客向けの補修需要は残るが、新しい工程での採用が減り、半導体向け売上は25.8億ドルになる。
電子基板では、中国・台湾のメーカーが薬液調達を多様化し、レーザー装置でも三菱電機やビアメカニクスとの価格競争が強まる。基板の生産量自体は増えるものの、MKSの取り分が減り、売上は16.9億ドルにとどまる。特殊産業の需要も弱く、Ophir売却後の事業は13.7億ドルを売る。
全社売上56.4億ドル、営業利益8億ドル、GAAP純利益4.9億ドルとなる。薬液と部品の継続需要が赤字転落を防ぐが、利益率は2026年の好況時から大きく下がる。新規買収は行わず、稼いだ現金の多くを借金返済に充てる。10年間の正味還元は13億ドルにとどまり、自己資本は60.2億ドルまで増える。利益は残っても、自己資本に対する稼ぎは要求収益率を下回り、以前ほどの優良企業ではなくなる。
- 半導体市場向け:数量 19.3(販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×MKSの実効獲得シェア。結果は実質の獲得案件額)× 価格 134(同種の装置部品・サービスの名目単価指数。2025年を100とし、シェアは含めない)→ 売上 26 億ドル・営業利益 4 億ドル。実質SAM110億ドル×シェア17.5%。価格134は物価を下回る。
- 電子機器・パッケージング市場向け:数量 12.6(電子基板・パッケージングの販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア)× 価格 134(レーザー装置・薬液・サービスの同等工程当たり名目価格指数。2025年を100)→ 売上 17 億ドル・営業利益 3 億ドル。実質SAM180億ドル×シェア7%。薬液と装置の競争が強まる。
- 特殊産業市場向け:数量 10.3(特殊産業の販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア)× 価格 134(産業用部品・薬液・光学機器の名目単価指数。2025年を100)→ 売上 14 億ドル・営業利益 2 億ドル。実質SAM54億ドル×シェア19%。残存する産業用途は緩やかに縮む。
倍率:2036年ROE8.14%はk9.25%を下回る。増分投資が資本コストを十分に上回らないため、利益の正当化PER上限は1÷k=10.81倍。構造的なシェア低下と営業利益率の悪化を反映し、その約84%の9.08倍とする。2036年以降のgは市場実質数量+0.5%、シェア年-0.5%、価格約+2.5%から名目2.5%と見込む。これは企業の高成長を想定した倍率ではない。
確率:中国の部品・材料の国産化、AI設備投資の反動、基板装置の競争が重なる筋書き。実効シェアが半導体17.5%、基板7.0%まで落ちるとする。会社が複数市場に分散し、消耗品売上を持つため全面崩壊までは見込まず、24%。
悲観 10% 技術の主導権を失い、買収資産が再び傷む 利益 3 億ドル · PBR 1.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 40.18 ドル27 億ドル
半導体の微細化投資が大きく鈍り、2036年のWFEは名目1700億ドルにとどまる。中国の部品メーカーが国内装置だけでなく一部の海外装置にも入り込み、MKSの実効シェアは13.5%へ下がる。工程の認定は残るが、新規世代の採用で競合に負ける。値上げも物価に追いつかず、半導体向け売上は14.7億ドルに縮む。
電子基板では、三菱電機などの競合が装置を取り、現地の薬液メーカーが量産認定を得る。実効シェアは5.5%まで落ち、売上は9.8億ドルになる。特殊産業は売却後の残存事業で10.1億ドルを保つ。全社売上は34.6億ドル、営業利益は3.9億ドルまで落ちる。
2020年代後半には好況の利益を返済に使うが、その後の需要減退で買収のれんが再び減損される。10年間のGAAP純利益累計は減損込みで18億ドルにとどまり、2036年の純利益は2.55億ドルとなる。正味還元も8億ドルに縮み、自己資本は37.2億ドルとなる。製造工程の一部と薬液の継続収入は残るため、全面的な事業消滅ではない。ただし技術優位と高い資本効率は失われ、現在の自己資本を参考にした保守的な床で評価する。のれんが多いため、その帳簿上の床が実際の清算価値を保証するわけではない。
- 半導体市場向け:数量 12.8(販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×MKSの実効獲得シェア。結果は実質の獲得案件額)× 価格 115(同種の装置部品・サービスの名目単価指数。2025年を100とし、シェアは含めない)→ 売上 15 億ドル・営業利益 2 億ドル。実質SAM95億ドル×シェア13.5%。価格115にとどまり、実質的な値下げが進む。
- 電子機器・パッケージング市場向け:数量 8.5(電子基板・パッケージングの販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア)× 価格 115(レーザー装置・薬液・サービスの同等工程当たり名目価格指数。2025年を100)→ 売上 10 億ドル・営業利益 1 億ドル。実質SAM155億ドル×シェア5.5%。薬液とレーザー装置の競争敗北。
- 特殊産業市場向け:数量 8.8(特殊産業の販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア)× 価格 115(産業用部品・薬液・光学機器の名目単価指数。2025年を100)→ 売上 10 億ドル・営業利益 1 億ドル。実質SAM50億ドル×シェア17.5%。残存事業は縮小する。
倍率:2036年のROEは6.85%でk9.25%に届かず、利益の永続的な高成長は正当化できない。収益性と買収資産の不確実性を重く見て、倍率は中立より低くする。悲観の床には現在の自己資本27.2億ドルを使い、PBR1.0倍で時価総額27.2億ドルとする。2036年の自己資本37.2億ドルに倍率を掛けて価値を膨らませない。帳簿ののれん約25.7億ドルは売却可能資産とは限らず、この床はモデル上の下限であり清算時の回収保証ではない。2036年以降の事業のgは実質数量とシェアの弱さにより名目1%以下。
確率:半導体投資の長期停滞と中国部品・薬液の国産化が重なり、MKSの工程採用率が構造的に低下する場合。2023年と同様の買収資産減損も起こる。現金創出力が残ることから倒産を基本とせず、確率は10%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
半導体市場向け
成膜・エッチング装置に組み込まれる真空制御、流量制御、高周波電源、反応性ガス装置と、露光・計測向け精密光学部品。VSDとPSDを横断する市場別の分析区分。
| 数量販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×MKSの実効獲得シェア。結果は実質の獲得案件額 | 価格同種の装置部品・サービスの名目単価指数。2025年を100とし、シェアは含めない | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 17.0 | 100 | 17 | 3 |
| 10 年後 中立 | 25.4 | 141 | 36 | 8 |
取り方:売上16.96億ドルは2025年10-Kの半導体向け実績であり、全社売上の配賦ではない。MKSの2026年1月投資家向け貸付資料では、半導体向けSAMは2024年推計80億ドル。これを2025年価格の近似母数とし、16.96÷80=21.2%を実効獲得率として数量16.96を作った。これはMKSがWFE全体の21.2%を売っているという意味ではない。会社がいう用途カバー率85%超も市場シェアではない。2036年はSEMIのWFE見通しを使って実質SAMを動かし、中国の国産化や採用工程の増減をシェアに反映する。2026年7月のSEMI資料は https://www.semi.org/en/semi-press-release/global-semiconductor-equipment-sales-forecast-to-reach-a-record-229-billion-dollars-in-2028-semi-reports 。実際の部品出荷数量と平均販売単価は非開示。営業利益2.71億ドルは2025年の用途別売上、製品別粗利益率、研究開発負担を基にした推計で、報告セグメント利益ではない。
電子機器・パッケージング市場向け
基板向けレーザー穴あけ装置、めっき薬液、表面処理装置と先端パッケージ関連技術。主にMSDとPSDを横断し、薬液の継続購入が利益を支える。
| 数量電子基板・パッケージングの販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア | 価格レーザー装置・薬液・サービスの同等工程当たり名目価格指数。2025年を100 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 11.1 | 100 | 11 | 2 |
| 10 年後 中立 | 18.3 | 141 | 26 | 6 |
取り方:売上11.11億ドルは2025年10-Kの電子機器・パッケージング市場実績である。MKSの2026年1月資料にある2024年の販売可能市場130億ドルを母数にすると、2025年売上との近似的な実効獲得率は8.55%。数量11.11は130×8.55%であり、価格指数とは分離した。市場の物量の補助指標にはプリズマーク推定のPCB生産面積と、生産額に占める高多層・先端パッケージ基板の伸びを使う。2025年の世界PCB生産額は858億ドル、2030年予想は約1446億ドルだが、これはMKSの装置・薬液SAMとは異なる。レーザー穴あけ単独市場では2025年のMKSシェア17.7%との台湾業界調査があるが、薬液を含む本区分全体のシェアには使わない。装置台数、薬液のリットル数、平均販売単価は非開示。営業利益2.22億ドルはMSDの高い粗利益率とPSDの装置事業を考慮した推計。
特殊産業市場向け
自動車・産業機器向けの表面処理、医療・分析装置向け部品、研究用機器、防衛・産業光学など。VSD、PSD、MSDの3部門を横断する。
| 数量特殊産業の販売可能市場SAM(2025年価格換算の億ドル)×実効獲得シェア | 価格産業用部品・薬液・光学機器の名目単価指数。2025年を100 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 11.2 | 100 | 11 | 2 |
| 10 年後 中立 | 12.6 | 141 | 18 | 3 |
取り方:売上11.24億ドルは2025年10-Kにある特殊産業向けの実績。MKSの2026年1月資料では2024年の販売可能市場を約50億ドルと推定しており、2025年の実効獲得率は11.24÷50=22.5%と近似する。医療機器、産業用コーティング、研究機器、防衛光学の数量単位は互いに異なり、会社は製品別出荷数を示していないため、同等価格で測った獲得案件額を共通の実質数量とした。2019年の旧アトテック資料にある一般金属表面処理薬液のシェア21%は、現在の本区分全体のシェアではない。Ophir Opticsの売却予定を2036年の数量・シェアに反映するが、売却対象の単独売上は非開示なので架空の額を割り振らない。営業利益1.52億ドルは用途別粗利益率からの推計。
リスクと懸念
半導体と先端基板の同時減速
MKSは半導体、電子基板、特殊産業の3市場に分散しているが、半導体と先端基板の投資原資はAI設備投資に強く結びつく。メモリ価格が下がり、TSMCやメモリメーカーが増設を抑えれば、真空制御部品と基板用レーザー装置の売上が同時に落ちる。2026年の急成長は構造的な需要と景気循環の双方を含んでいる。
中国の国産化と輸出規制
2025年の海外売上比率は81%で、中国を含むアジアの設備投資への依存が大きい。米国の輸出規制が強化されれば装置と部品の販売機会が減る。一方、中国メーカーが真空制御、電源、薬液の量産認定を得れば、規制が緩んでも失ったシェアが戻らない可能性がある。2026年の販売増を永続的なシェア拡大と混同できない。
買収のれんと資本配分
2022年のアトテック買収は、電子基板向けの継続収入を増やしたが、負債と巨額ののれんも残した。2023年の約19億ドルの減損は、買収価格の判断を慎重に評価すべき証拠である。2025年末ののれんは約25.7億ドルあり、将来の需要が弱ければ追加減損が起こる。買収で売上を増やしても、投下資本の収益率が低ければ株主価値は増えない。
借入金の金利と転換社債
2025年末の純負債は37.7億ドルで、景気が悪化する局面では重い。2026年には借入を借り換え、約14億ドルの転換社債も残る。転換条件を満たす場合には現金決済と株式発行の組み合わせが問題になる。将来の資金調達が必要になれば、既存株主の経済的な取り分が弱まる可能性がある。想定する5.75%程度の借り換え金利も利益への負担になる。
製造技術の転換と顧客の内製化
真空制御やプラズマ電源は切り替えに時間がかかるが、顧客が次世代装置を設計する時には、競合部品への変更が可能になる。ラムリサーチやアプライド・マテリアルズが内製化を進めたり、アドバンスト・エナジーやインフィコンが新しい工程で採用されたりすると、過去の認定実績だけでは守れない。装置世代ごとの採用率が堀の実力を表す。
レーザー装置・薬液の競争と価格転嫁
レーザー穴あけ装置では三菱電機などが強く、薬液ではマクダーミッドやデュポンが競う。高密度基板の市場が伸びても、装置価格の値引きや薬液の調達先分散によってMKSの取り分が減る可能性がある。2025年には製品構成や関税の影響で粗利益率が下がった。一般物価を上回る値上げ力があると断定するには、製品別の実績が不足している。
帳簿価値と実際に売れる資産の差
MKSの自己資本には買収のれんが大きく含まれる。2025年末の帳簿自己資本27.2億ドルは、工場や在庫を売ればその額が株主に残ることを意味しない。厳しい不況で営業利益と資産の売却価格が同時に下がれば、モデルに採用した悲観の床さえ下回る可能性がある。特に借金が残る間は、債権者への返済が株主への分配に優先する。
今後の分かれ目
- 2027〜2028年のWFE予測が下方修正され、半導体向け売上が2四半期続けて前年割れになる
- 短期の循環が中立より弱いと判断する。半導体向けの実質市場を下げ、やや悲観の確率を厚くする。
- 2027年にOphir Opticsの6.5億ドル売却が成立し、手取り資金が実際に負債返済に回る
- 利払いの軽減と財務柔軟性の改善を評価する。ただし売却対象の利益も失うため、売却代金を二重に価値へ加えない。
- 純負債÷EBITDAが2倍以下となり、追加の大型買収を行わずに達成する
- 経営の資本配分に対する信頼を引き上げる。自己資本の増加と将来の正味還元が確認できれば、やや楽観への確率を増やす。
- 半導体向け真空制御・電源の新世代採用が増え、実効SAMシェアが22%を超える
- 量産認定による堀が次世代でも広がる証拠となる。数量と増分資本収益率の見通しを上方修正する。
- 高密度基板向け薬液売上が伸びる一方、レーザー装置の粗利益率が継続的に低下する
- 電子機器・パッケージングの市場成長を売上に反映しつつ、利益率は引き下げる。売上成長だけでは強気の筋書きに寄せない。
- 中国の国産メーカーが主要顧客の新装置で量産認定され、MKSの半導体向け実効シェアが18%未満になる
- 過去の認定による堀が縮んだと判断し、長期の数量、価格決定力、増分ROICを引き下げる。
- 自社株買いが再開されても株式報酬や転換社債の希薄化を打ち消すだけにとどまる
- 買い戻しの総額をそのまま株主還元に数えず、正味還元の見通しを引き下げる。増資があれば受取資金も差し引く。
見ておくもの
- 半導体向け売上とWFEの成長率の差。2026年4〜6月期の半導体売上5.54億ドルを起点に採用率を確認する
- 電子機器・パッケージング売上と基板市場の成長率。薬液とレーザー装置の内訳を可能な範囲で追う
- VSD、PSD、MSDの粗利益率。2026年4〜6月期はそれぞれ43.8%、50.8%、50.5%
- 純負債÷調整後EBITDAと会社の目標2倍への進捗
- 転換社債の転換条件、元本現金決済、株式交付とキャップドコールの実際の影響
- 2027年予定のOphir Optics売却の成立、手取り資金、借入返済額
- 新製品の量産認定と、アドバンスト・エナジー、インフィコン、三菱電機、マクダーミッドなどとの競争状況
- GAAP営業利益率とGAAP純利益。調整後利益との差、買収償却、株式報酬、減損を継続監視する
倍率と資本コストの決め方
まず2025年の市場別売上と会社推定SAMを結び、実質数量を市場成長とシェア、名目価格を物価と競争条件に分けた。各市場の営業利益率から全社GAAP利益を作り、現在の株価を使わずに2036年の事業価値を求めた。倍率はk9.25%と、ROE、RONIC、長期gから算出し、好況・中立は理論上限の約8〜9割とした。純現金の上乗せはしない。2025年末は純負債であり、2026年の売却予定資産も現金として二重計上しない。基準株価は添付の2026年10月23日の値を守ったため、10月27日の検索時価総額とは基準日が違う。10年間の確率加重時価総額144.32億ドルと正味還元29.50億ドルを9.25%で割り引くと、現在価値は約78.54億ドルとなる。台帳時価総額133.1億ドルとの差は約-41.0%で、判断は割高である。
資本コスト 9.3% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。米国株の基本8.0%にquality+1.25%を加えた9.25%。βや株価の過去の変動からは決めない。半導体装置の循環と財務負担を反映し、負債が軽い優良装置会社より少し高い。ただし現在は継続的な営業利益とフリーキャッシュフローがあり、存続そのものが危険とは判断しない。個別のM&A失敗、中国の国産化、転換社債の希薄化は数量・利益率・確率に反映する。