結論
ラムリサーチは、半導体のウエハー上に回路を彫る「エッチング」と、薄い膜を積む「成膜」の装置を作る会社である。3D NAND(層を積み上げるフラッシュメモリ)では、深い穴を彫る工程と金属を埋める工程の大半を握り、DRAM・HBM の積層や、ロジックのゲート・オール・アラウンド(GAA)、裏面給電へ微細化が進むほど使う工程と台数が増える。2026 年 6 月期の売上は 232 億ドル、営業利益率は 35% で、直近の 6 月四半期は 67 億ドル(前年比 +30%)、9 月四半期の見通しは 81 億ドル前後と、増設の波に乗って記録を更新している。
売上は「WFE 市場(実質)× シェア × 装置の価格の水準」と「稼働装置 × 部品・保守の値段」で積んだ。10 年後は WFE が名目で約 2 倍(実質 1.4 倍・価格 1.41 倍)に育ち、売上 540 億ドル前後で落ち着くと見る。堀は、量産ラインに入った装置が何十年も使われ、その後の部品・改造・保守(顧客サポート事業)が売上の約 4 割になることにある。弱みは、設備投資の循環に利益が大きく振れること、中国の国産装置(北方華創・中微公司)にシェアを削られることである。
バリュー投資の観点では、事業の質は第一級(ROE 5 割超・実質は純現金・株主還元は利益の 7 割前後)である。資本コストは、基本の 8% に設備投資の循環の分 1% を足した 9% で割り引く。倍率は利益ベースの正当化 PER(帳簿の ROE 42%・堀は普通・g 4.5%)の 8 割に抑え、10 年後の中立は純現金込みで PER 14.5 倍前後になる。今の PER 46 倍・PBR 27 倍は山の利益が続く前提を織り込んでおり、確率で加重した本質価値は今の値段を 5 割ほど下回る(割高)。優れた会社だが、値段が先に行きすぎていると見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10 年後もこの事業は存在し、今より強いか」を問う。半導体は微細化と積層が続く限り、エッチングと成膜の工程が増えるため、10 年後も事業は存在し、NAND・DRAM・GAA の新構造で今より強くなる可能性が高い。ただし、顧客の設備投資という財布は循環し、10 年後に中国の国産勢が成熟工程を取り切った世界では、今ほどの価格を決める力は保てない。堀は広いが、設備投資の循環と国産化で削られる余地がある。
次にオーナー利益。軽い設備で営業利益の多くが現金になり、株式報酬の費用は小さい。直近のオーナー利益は純利益 73 億ドル程度と見て、今の時価総額 3,330 億ドルで割ると 2% 強にとどまる。10 年国債が 5% の世界では、その差を成長で埋める部分があまりに大きい。しかも今の利益は山に近く、ならした利益で見ればさらに低い。
資本配分は、利益の 7 割前後を返す姿勢は評価できるが、割高な水準での買い戻しは価値を壊す。安全域は、悲観の筋書き(需要が 4 割減)でも純現金と顧客サポートの安定収入が底を支える点にあるが、それでも悲観の時価総額は 510 億ドル前後(今の 6 分の 1)までしか支えない。
結論として、事業の質は優れ、予測の確実性は中程度(顧客の設備投資の持続に依存)で、資本コストは基本の 8% に循環の分 1% を足した 9% に置く。値段が先に行きすぎている時は、買わずに待つのが正しい。
何で稼ぐ会社か
事業は 2 つに分かれる。1 つはシステム事業(装置の新規販売)で、売上の約 6 割。エッチング(Kiyo・Flex・Akara など。ウエハーの膜を削って回路の溝や穴を作る)、成膜(Vector・ALTUS・Striker など。化学反応や原子層で膜を積む)、洗浄・めっきが中心である。3 D NAND では数百層を貫く穴を彫る極低温エッチングと、タングステンに代わるモリブデンを埋める成膜装置が主力になっている。顧客は、メモリがサムスン・SK ハイニックス・マイクロン・キオクシア、ファウンドリ・ロジックが TSMC・インテル・サムスン・中国の各社である。
もう 1 つが顧客サポート事業(CSBG)で、売上の約 4 割。納入済み装置の部品・消耗品、性能を引き上げる改造(アップグレード)、保守契約、中古装置の再生を売る。2026 年 6 月四半期は約 25 億ドル(前年比 +43%)に達した。納入した装置の台数が積み上がるほど伸び、設備投資が止まる年でも下がりにくく、会社全体の利益の下支えになる。景気の谷でも、稼働中の装置の部品と改造は売れ続けるからである。
システム事業の売上は「その年のウエハー製造装置市場の金額 × ラムのシェア」で決まる。直近の 6 月四半期の地域別では中国が 26%(3 月四半期は 34%)まで下がり、顧客別では NAND の売上が前期比で倍増した。装置は自社の工場で組み立てるが、ウエハーを加工する工場そのものは持たないため、設備投資は売上の数 % と軽い。研究開発は売上の約 1 割で、営業利益の多くが現金になる。
優良さと弱いところ
堀は 3 層ある。第 1 は工程の専門性で、高アスペクト比(細く深い穴)のエッチングで、ラムは長く世界の首位を保ってきた。NAND の層数が 200 層から 400 層、さらに先へ進むほど、穴を垂直に掘る難度が上がり、ラムの装置の価値が増す。第 2 は量産ラインへの組み込みで、顧客が工程を一度認定すると、装置を入れ替える費用と歩留まりのリスクが大きく、台数が積み上がるほど、顧客サポート事業の部品・改造・保守が長期の収入になる。第 3 は顧客と共同で工程を開発する体制で、新しい素材(モリブデン・先端のエッチング条件)の量産化で先行している。
結果として、営業利益率は 2022 年に 31%、2026 年 6 月期に 35% と、装置会社として高い水準にある。ROE は 2022 年に 73%、直近で 58% と極めて高いが、これは自社株買いで自己資本を薄くしてきたためで、事業が生む利益は実際にそれだけ強い。純有利子負債はほぼゼロで、自己資本比率は 53%。経営はティム・アーチャー最高経営責任者のもと、市場の山でも谷でも株主還元を続けてきた。
弱点は 3 つある。第 1 に、利益が設備投資の循環に強く依存すること。リーマン級の 2009 年は営業利益率が −10% まで落ち、2023 年はメモリの投資停止で売上が 14% 減った。第 2 に、中国の国産化で、北方華創・中微公司が成熟した工程でシェアを伸ばしている。第 3 に、エッチング・成膜は東京エレクトロンとアプライドマテリアルズが強く、価格を決める力は検査・計測の KLA ほど強くない。堀は広いが、設備投資という「顧客の財布」に縛られる堀である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ウエハー製造装置(WFE)市場は、SEMI の見通しで 2026 年に前年比 +23% の約 1,440 億ドル、2027 年に +22%、2028 年に +14% で約 2,000 億ドルと、直前の予測を大きく上方修正した。ラム自身も、2026 年の見通しを 1,400 億ドルから 1,500 億ドル台前半へ引き上げた。主因は AI データセンター向けのメモリ(HBM と DRAM の積層、NAND の置き換え)の設備投資で、顧客の増設が NAND とロジックへ広がった。
構造の変化は 3 つある。第 1 に、3D NAND の層数増加とモリブデン配線への移行、DRAM の 3 次元化、ロジックの GAA・裏面給電が、エッチングと成膜の工程数と単価を同時に押し上げる。会社は、新しい素子構造が生む追加の市場の過半を取れると見ている。第 2 に、対中輸出規制と国産化で、中国向けは新規売上の 3 割前後から縮み、北方華創・中微公司が国内市場を埋める。第 3 に、増設の原資である AI の設備投資(大手 5 社で 2026 年に約 7,300 億〜8,000 億ドル)が、減価償却の負担で 2028 年以降に鈍る可能性がある。
循環の位置は「山へ向かう途中」と見る。WFE は 2028 年ごろまで伸び、2029 年に調整が入るのが中立の置き方である。過去はメモリ投資の急停止(2019 年・2023 年)と、2009 年の −46% が谷の前例になる。競合は東京エレクトロン(エッチング・成膜・コータ)、アプライドマテリアルズ(成膜・イオン注入)、KLA(検査・計測、競合というより補完)で、中国勢が加わる。
資本政策と M&A
還元は厚い。2026 年 6 月期は配当が約 13 億ドル、自社株買いが約 38 億ドルで、株数は年 2〜3% ずつ減ってきた(2025 年 6 月期まで 10 年で 1 割強)。方針は、フリーキャッシュフローの大部分を配当と自社株買いで返すことである。ただし株式報酬は 3 億ドル級と比較的小さく、正味の還元は表の額から大きくは減らない。
買収は小さい。2012 年のノベラス・システムズ(約 33 億ドル)で成膜を取り込んだのが唯一の大型案件で、その後はコベンター(シミュレーション)など小粒の補強にとどまる。自社株買いは平均より高い水準で買うことも多く、PER 40 倍台の今の買い戻しは、バリュー投資家には価値の効率が悪い。大型の買収や TOB の対象になる可能性は、時価総額が 3,300 億ドルを超えるためほぼ無い。
設備投資は軽く、増設の原資は自社の現金で足りる。今後は、顧客と共同開発する先端工程の研究拠点(シンガポール・マレーシア・米国の工場)への投資が増えるが、利益率を損なう規模ではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
需要の質が変わった。HBM と DRAM の積層、NAND の置き換え、GAA・裏面給電と、新しい素子構造が同時に起き、エッチングと成膜の工程と単価が増える。ラムは、新しい構造が生む追加の市場の過半を取れる位置にあり、NAND は 6 月四半期に前期比で倍増した。9 月四半期の見通しは 81 億ドルと、2025 年の投資家説明会が示した 2028 年の売上目標(250 億〜270 億ドル)を、四半期ベースの年換算で既に上回る。WFE の見通しも、2026 年が低 1,500 億ドル、2028 年が 2,000 億ドル前後と、上方修正が続く。
顧客サポート事業は、納入済みの装置が増えるほど伸び、景気の谷でも下がりにくい。営業利益率は会社目標の 34〜35%(2028 年)を上回って 39% 台に乗っており、固定費の増加が小さい中で売上が伸びる。10 年後は WFE が 3,000 億ドル超に育ち、ラムのシェアが 13% を保てば、売上は 650 億ドル、純利益は 200 億ドルに達し、年 2〜3% の自社株買いと合わせて株主の取り分が大きく積み上がる。
慎重な見方
今の利益は循環の山に近い。WFE は 2026 年に +23%、2027 年に +22% と 2 年続けて急増しており、2009 年・2019 年・2023 年のように、メモリの投資が急に止まれば、装置売上は山から 3〜4 割落ちる。2023 年は NAND の投資停止で売上が 14% 減り、リーマン級では営業利益率が −10% まで落ちた。今の PER 46 倍は、山の利益が続くと見ている。
中国の国産化も重い。中国は直近で売上の 26% まで下がったが、北方華創・中微公司が成熟工程を埋め、先端でもシェアを伸ばす可能性がある。東京エレクトロンとアプライドマテリアルズも、エッチング・成膜で同じ NAND 増設を取りにくる。さらに AI の設備投資が減価償却の負担で 2028 年以降に鈍れば、メモリ価格が下がり、メモリ各社の増設が止まる。資本コスト 9% と、成熟後の倍率(利益ベースで PER 14.5 倍前後)を掛けると、利益が今の 2 倍になっても時価総額は今の 7 割弱にとどまる計算になる。
どちらに重みを置いたか
強気の言う「新構造で工程と単価が増える」は 2028 年ごろまでは正しいと見て、楽観・やや楽観・中立に 68% を厚くした。倍率は利益ベースの正当化 PER(k 9%・g 4.5%・堀は普通)の 8 割、14.5 倍前後に置いた。そのため中立の時価総額は今の 7 割弱にとどまる。慎重な見方の勝ち所は、倍率の縮みと中国の国産化である。10 年後はやや悲観と悲観に 32% を置き、中立は還元を足して今の時価総額の 1.07 倍だが、10 年分を 9% で割り引くと届かない。確率は事業の見通しではなく、成熟後の倍率に効く。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 185.12 ドル2,335 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 81.99 ドル1,034 億ドル)。 今の値に割り戻すと 131.48 ドル1,658 億ドル、今との差 −42.9%、 期待の年率 +1.5%(資本コスト 9.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 330.38 ドル4,166 億ドル | 118.94 ドル1,500 億ドル | +95.2% | +6.9% | 53.92 ドル680 億ドル |
| やや楽観 | 23% | 246.77 ドル3,112 億ドル | 99.12 ドル1,250 億ドル | +50.3% | +4.2% | 79.55 ドル1,003 億ドル |
| 中立 | 33% | 182.13 ドル2,297 億ドル | 83.26 ドル1,050 億ドル | +15.3% | +1.4% | 87.58 ドル1,104 億ドル |
| やや悲観 | 20% | 118.63 ドル1,496 億ドル | 63.44 ドル800 億ドル | −20.9% | −2.3% | 36.41 ドル459 億ドル |
| 悲観 | 12% | 40.69 ドル513 億ドル | 39.65 ドル500 億ドル | −65.1% | −10.0% | 9.64 ドル122 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 185.12 ドル2,335 億ドル | 81.99 ドル1,034 億ドル | +16.1% | +1.5% | 267.11 ドル3,369 億ドル |
今の株価時価総額 230.15 ドル2,902 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 12% 新構造が 10 年続き、WFE は 3,400 億ドルへ 利益 248 億ドル · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 330.38 ドル4,166 億ドル
2036 年 6 月期の WFE は名目 3,400 億ドル(実質 2,345 億ドル、2026 年の 1.8 倍)。エッチング・成膜の工程が、3D DRAM・GAA の次の世代・先端パッケージにも広がり、当社のシェアは 14% に上がってシステム売上は 476 億ドル。顧客サポートは稼働装置が実質 2.3 倍になり 284 億ドル。合計 760 億ドルで、営業利益率は 38%(システム 32%)。中国は国産化で半減するが、グローバル顧客の増設が上回る。10 年間の正味の還元は約 1,500 億ドル。
- システム事業(エッチング・成膜・洗浄):数量 328(当社のシステム出荷(実質の億ドル)= WFE 市場(2026 年 6 月期の値段で測った実質の億ドル)× 当社シェア)× 価格 145(装置の価格の水準(2026 年 6 月期=100。中立は物価並みで 10 年 141))→ 売上 476 億ドル・営業利益 152 億ドル。WFE 実質 2,345 億ドル(名目 3,400)× シェア 14%・価格 145・営業利益率 32%
- 顧客サポート事業(部品・改造・保守):数量 228(稼働中の装置の規模の指数(2026 年 6 月期=100))× 価格 1.25(指数 1 あたりの売上(億ドル。部品・保守の値段で、中立は物価並みに上がる))→ 売上 284 億ドル・営業利益 136 億ドル。稼働装置 228(実質)× 物価並みの値段 1.45 倍・営業利益率 48%
倍率:正当化 PER は 18.7 倍(g 4.5%、RONIC 28.1%。RONIC は k 9.00% に、事業の ROE 47.2% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 16.8 倍(9 割)に置いた。エッチングと成膜で先端メモリの増設を取り切る最良の筋書きでも、設備投資の循環と中国の国産化は残る。上限の 9 割に置く。 g の内訳:装置市場の数量は 10 年後以降も実質で年 1% ほど伸びる(NAND・DRAM の積層と GAA で工程と台数が増えるが、それまでの伸びよりは鈍る)× シェアの増減 ほぼ 0 × 価格は物価並みの +3.5% で、名目の長期 g は 4.5%(structural。k 9.0% − 4.5% ≧ 3.5%)。 純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:業界ノートの楽観(2036 年に WFE 3,500 億ドル)に相当。GAA・裏面給電・High-NA・3D DRAM・NAND の超多層が続き、シェアも 14% に上がる筋書き。12% に留める。
やや楽観 23% WFE は 3,000 億ドル、シェアは 13% 利益 200 億ドル · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 246.77 ドル3,112 億ドル
2036 年 6 月期の WFE は名目 3,000 億ドル(実質 2,100 億ドル)。当社は NAND の層数増加と先端ロジックでシェアを 13% まで高め、システム売上は 390 億ドル。顧客サポートは 254 億ドル。合計 644 億ドルで営業利益率は 36%(システム 30%)。中国向けは国産化で半減し、先端メモリで補う。エッチングでは東京エレクトロンとの競争が続くが、モリブデンと極低温エッチングの先行で当社が優位を保ち、顧客サポートの積み上げが利益を安定させる。10 年間の正味の還元は約 1,250 億ドル。
- システム事業(エッチング・成膜・洗浄):数量 273(当社のシステム出荷(実質の億ドル)= WFE 市場(2026 年 6 月期の値段で測った実質の億ドル)× 当社シェア)× 価格 143(装置の価格の水準(2026 年 6 月期=100。中立は物価並みで 10 年 141))→ 売上 390 億ドル・営業利益 117 億ドル。WFE 実質 2,098 億ドル(名目 3,000)× シェア 13%・価格 143・営業利益率 30%
- 顧客サポート事業(部品・改造・保守):数量 207(稼働中の装置の規模の指数(2026 年 6 月期=100))× 価格 1.23(指数 1 あたりの売上(億ドル。部品・保守の値段で、中立は物価並みに上がる))→ 売上 255 億ドル・営業利益 116 億ドル。稼働装置 207(実質)× 物価並みの値段 1.43 倍・営業利益率 45.5%
倍率:正当化 PER は 18.3 倍(g 4.5%、RONIC 25.6%。RONIC は k 9.00% に、事業の ROE 42.1% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 15.6 倍(8.5 割)に置いた。工程の複雑化で単価と台数が増える筋書き。ただし東京エレクトロン・アプライドとの競争が利益率を抑える。上限の 8.5 割に置く。 g の内訳:装置市場の数量は 10 年後以降も実質で年 1% ほど伸びる(NAND・DRAM の積層と GAA で工程と台数が増えるが、それまでの伸びよりは鈍る)× シェアの増減 ほぼ 0 × 価格は物価並みの +3.5% で、名目の長期 g は 4.5%(structural。k 9.0% − 4.5% ≧ 3.5%)。 純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:業界ノートの中立と楽観の間(2036 年に約 3,000 億ドル)。新構造の寄与が中立より大きく、シェアが 13% に上がる筋書き。
中立 33% 市場は 1.8 倍に育つが、中国の国産化で利益率は 34% に収れん 利益 157 億ドル · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 182.13 ドル2,297 億ドル
2036 年 6 月期の WFE は名目で平均 2,600 億ドル(実質 1,845 億ドル、2026 年から実質で年 3% 強の伸び、装置の値段は物価並みの 141)。当社のシェアは中国の国産化で一部を失いながら、新構造の獲得で 12% を保ち、システム売上は 312 億ドル。顧客サポートは稼働装置が実質 1.85 倍になり 224 億ドル。合計 536 億ドルで、営業利益率は 34%(システム 28%、サポート 43%)に収れんする。堀は残り、エッチング・成膜の主要 3 社の 1 つであり続けるが、価格を決める力は今より弱い。10 年間の正味の還元は約 1,050 億ドル。優良であることは変わらないが、「山の利益を稼ぐ会社」から「普通に強い会社」へ評価が下がる。
- システム事業(エッチング・成膜・洗浄):数量 221(当社のシステム出荷(実質の億ドル)= WFE 市場(2026 年 6 月期の値段で測った実質の億ドル)× 当社シェア)× 価格 141(装置の価格の水準(2026 年 6 月期=100。中立は物価並みで 10 年 141))→ 売上 312 億ドル・営業利益 87 億ドル。WFE 実質 1,844 億ドル(名目 2,600)× シェア 12%・価格 141・営業利益率 28%
- 顧客サポート事業(部品・改造・保守):数量 185(稼働中の装置の規模の指数(2026 年 6 月期=100))× 価格 1.21(指数 1 あたりの売上(億ドル。部品・保守の値段で、中立は物価並みに上がる))→ 売上 224 億ドル・営業利益 96 億ドル。稼働装置 185(実質)× 物価並みの値段 1.41 倍・営業利益率 43%
倍率:正当化 PER は 18.3 倍(g 4.5%、RONIC 25.4%。RONIC は k 9.00% に、事業の ROE 41.9% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 14.6 倍(8 割)に置いた。量産ラインへの組み込みと顧客サポートの収入で堀はあるが、WFE の振れと中国の国産化で利益率は 34% に収れんする。中立は上限の 8 割に置く。 g の内訳:装置市場の数量は 10 年後以降も実質で年 1% ほど伸びる(NAND・DRAM の積層と GAA で工程と台数が増えるが、それまでの伸びよりは鈍る)× シェアの増減 ほぼ 0 × 価格は物価並みの +3.5% で、名目の長期 g は 4.5%(structural。k 9.0% − 4.5% ≧ 3.5%)。 純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:業界ノート中立(2036 年に WFE 約 2,650 億ドル、数量 年 +2%・能力あたり投資額 年 +4.2%)をラムのシェア 12% に落とした。強気の需要と慎重な競争の落としどころで最も確率を厚くした。
やや悲観 20% 中国の国産化と投資の頭打ちで、WFE は 2,200 億ドル 利益 113 億ドル · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 118.63 ドル1,496 億ドル
2036 年 6 月期の WFE は名目 2,200 億ドル(実質 1,690 億ドル)で、AI 向けの増設が鈍り、メモリが再び過剰になる。中国の国産装置(北方華創・中微公司)が成熟工程だけでなく先端にも広がり、当社のシェアは 10.5% まで下がり、東京エレクトロンの価格攻勢で装置の値段も 130 と物価に負ける。システム売上は 231 億ドル。顧客サポートは 185 億ドル、合計 416 億ドルで営業利益率は 31.5%(システム 24%)。顧客サポートは稼働装置の積み上がりで下支えになるが、中国の顧客は国産装置の保守へ移る。10 年間の正味の還元は約 800 億ドル。堀は残るが、価格を決める力は大きく削られる。
- システム事業(エッチング・成膜・洗浄):数量 178(当社のシステム出荷(実質の億ドル)= WFE 市場(2026 年 6 月期の値段で測った実質の億ドル)× 当社シェア)× 価格 130(装置の価格の水準(2026 年 6 月期=100。中立は物価並みで 10 年 141))→ 売上 231 億ドル・営業利益 55 億ドル。WFE 実質 1,692 億ドル(名目 2,200)× シェア 10.5%・価格 130・営業利益率 24%
- 顧客サポート事業(部品・改造・保守):数量 159(稼働中の装置の規模の指数(2026 年 6 月期=100))× 価格 1.16(指数 1 あたりの売上(億ドル。部品・保守の値段で、中立は物価並みに上がる))→ 売上 185 億ドル・営業利益 76 億ドル。稼働装置 159(実質)× 物価並みの値段 1.35 倍・営業利益率 41%
倍率:正当化 PER は 17.7 倍(g 4.5%、RONIC 21.9%。RONIC は k 9.00% に、事業の ROE 34.8% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 13.2 倍(7.5 割)に置いた。中国の国産化とメモリの投資の振れで利益率が落ち、新しく投じる資本の稼ぎが薄れる筋書き。上限の 7.5 割に置く。 g の内訳:装置市場の数量は 10 年後以降も実質で年 1% ほど伸びる(NAND・DRAM の積層と GAA で工程と台数が増えるが、それまでの伸びよりは鈍る)× シェアの増減 ほぼ 0 × 価格は物価並みの +3.5% で、名目の長期 g は 4.5%(structural。k 9.0% − 4.5% ≧ 3.5%)。 純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:業界ノート中立よりも市場が小さく、シェアが 10.5% まで落ちる筋書き。中国の国産化と AI 投資の減速が重なる。
悲観 12% 構造的な敗北。国産化と微細化の停滞で、もう優良ではない 利益 47 億ドル · PER 10.9 倍 · 株価時価総額 40.69 ドル513 億ドル
2036 年 6 月期の WFE は名目 1,700 億ドル(実質 1,480 億ドル)と、微細化が止まって装置の需要が伸びない。中国の国産装置がエッチング・成膜の中国市場を取り、世界でも価格競争が起きて、当社のシェアは 8.5%、装置の値段は 115 と物価に大きく負ける。システム売上は 144 億ドル、利益率は 10%。顧客サポートは稼働装置の置き換えが進まず 129 億ドル。合計 273 億ドルで営業利益率は 20%。もう「価格を決める優良企業」ではない。それでも純現金と顧客サポートの収入が床になるが、純利益の安定性が低いので、利益ベースの上限(PER 14.6 倍)の 7.5 割、PER 10.9 倍で測る(自己資本 275 億ドルの約 1.9 倍)。
- システム事業(エッチング・成膜・洗浄):数量 125(当社のシステム出荷(実質の億ドル)= WFE 市場(2026 年 6 月期の値段で測った実質の億ドル)× 当社シェア)× 価格 115(装置の価格の水準(2026 年 6 月期=100。中立は物価並みで 10 年 141))→ 売上 144 億ドル・営業利益 14 億ドル。WFE 実質 1,478 億ドル(名目 1,700)× シェア 8.5%・価格 115・営業利益率 10%
- 顧客サポート事業(部品・改造・保守):数量 120(稼働中の装置の規模の指数(2026 年 6 月期=100))× 価格 1.08(指数 1 あたりの売上(億ドル。部品・保守の値段で、中立は物価並みに上がる))→ 売上 129 億ドル・営業利益 41 億ドル。稼働装置 120(実質)× 物価並みの値段 1.25 倍・営業利益率 32%
倍率:正当化 PER は 14.6 倍(g 4.5%、RONIC 13.0%。RONIC は k 9.00% に、事業の ROE 17.1% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 10.9 倍(7.5 割)に置いた。需要が山から 4 割減り、純利益の安定性も落ちた筋書き。純現金は自己資本の中にあり、この PER に含まれる。上限の 7.5 割に置く。 g の内訳:装置市場の数量は 10 年後以降も実質で年 1% ほど伸びる(NAND・DRAM の積層と GAA で工程と台数が増えるが、それまでの伸びよりは鈍る)× シェアの増減 ほぼ 0 × 価格は物価並みの +3.5% で、名目の長期 g は 4.5%(structural。k 9.0% − 4.5% ≧ 3.5%)。 純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:業界ノートの悲観(10 年・構造):中国の国産化で中国売上が半減以上、微細化が止まり設備投資の単価が上がらない。ラムはシェアも単価も失う。12% を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
システム事業(エッチング・成膜・洗浄)
エッチング・成膜・洗浄の装置の新規販売。3D NAND・DRAM・GAA が主な顧客。
| 数量当社のシステム出荷(実質の億ドル)= WFE 市場(2026 年 6 月期の値段で測った実質の億ドル)× 当社シェア | 価格装置の価格の水準(2026 年 6 月期=100。中立は物価並みで 10 年 141) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 146 | 100 | 146 | 45 |
| 10 年後 中立 | 221 | 141 | 312 | 87 |
取り方:2026 年 6 月期の売上 232 億ドルから、顧客サポート事業(四半期の積み上げで約 86 億ドル)を引いた約 146 億ドルをシステム売上とした。WFE は 2025 年が約 1,200 億ドル、2026 年が 1,439 億ドル(SEMI)で、当社の期間(2025 年 7 月〜2026 年 6 月)に合わせて約 1,330 億ドル、当社のシェア約 11%(アプライドマテリアルズ 約 2 割・ASML 約 2 割・東京エレクトロン 約 1 割強・KLA 約 1 割弱)。数量は「WFE 市場(2026 年 6 月期の値段で測った実質の億ドル)× シェア」、価格は装置の価格の水準(2026 年 6 月期=100、rev_factor 0.01)で、中立は物価並み(10 年 141)。谷の筋書きは値引きで物価より下げる。営業利益は事業別に開示されないため、全社 82 億ドルを顧客サポートの利益率 43% と残りに分けて推定した。
顧客サポート事業(部品・改造・保守)
納入済み装置への部品・消耗品・性能向上の改造・保守契約・再生装置。
| 数量稼働中の装置の規模の指数(2026 年 6 月期=100) | 価格指数 1 あたりの売上(億ドル。部品・保守の値段で、中立は物価並みに上がる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 100 | 0.86 | 86 | 37 |
| 10 年後 中立 | 185 | 1.21 | 224 | 96 |
取り方:2026 年 6 月期の四半期売上(20〜25 億ドル台、6 月は 24.7 億ドル)の積み上げから約 86 億ドル。納入台数が積み上がるため、数量を稼働装置の規模の指数とし、2026 年を 100、1 あたり 0.86 億ドルで置いた。部品・保守の値段は物価並みに上がるのが中立(10 年 1.41 倍)で、前の版の「値段据え置き・指数で伸びを全部表す」形を、実質の装置の規模と値段に分けた。利益率は部品・保守の性格から 43% と推定。
リスクと懸念
メモリ・ファウンドリの設備投資の急停止
ラムの売上は WFE の循環に連動し、2009 年(WFE −46%)、2019 年、2023 年(メモリ投資 −40%)で大きく落ちた。今は WFE が 2 年連続で +20% 超の山に向かっており、メモリ価格の下落で増設が止まれば、システム売上は山から 3〜4 割減る。
中国の国産化と輸出規制
中国は売上の 26%(3 月四半期は 34%)まで下がったが、北方華創・中微公司が成熟工程を埋め、先端でもシェアを伸ばす可能性がある。規制の強化・緩和は上振れにも下振れにも働くが、国産化の方向は変わりにくい。
東京エレクトロン・アプライドマテリアルズとの競争
エッチング・成膜で同じ NAND・DRAM の増設を取りにくる。新構造(モリブデン・極低温エッチング・GAA)の量産認定で後れを取ると、シェアが 12% から下がる。価格の競争は検査・計測の KLA ほど緩やかではない。
AI 設備投資の巻き戻し
大手 5 社の設備投資(2026 年に約 7,300 億〜8,000 億ドル)が、AI の課金収入に追いつかず、減価償却の負担で 2028 年以降に鈍れば、メモリ各社の増設が止まる。装置は最も後ろの需要なので、増減が大きく出る。
今の倍率が高すぎる
今の PER 46 倍・PBR 27 倍は、山の利益が続く前提を織り込む。ラムの利益が 2 倍になっても、成熟後の倍率(14.5 倍前後)が当たれば時価総額は今の 7 割弱に下がる。事業が好調でも、値段の側で損をするリスクが大きい。
顧客の集中
売上の上位はサムスン・SK ハイニックス・マイクロン・TSMC・インテルなど数社で、各社の投資計画の変更が売上に直結する。顧客は装置の価格や顧客サポートの契約条件で値下げを求める交渉力も持ち、数社の投資計画が同時に延期されると、売上と利益率が一度に落ちる。
資本配分
自社株買いは PER 40 倍台の割高な水準でも続く可能性があり、その分は価値を押し下げる。大型買収は少ないが、先端の研究拠点(シンガポール・マレーシア・米国)への投資が増え、利益率を下げる場合がある。株式報酬の希薄化も、自社株買いの一部に消える。
今後の分かれ目
- SEMI・顧客が WFE の見通しを 2 回続けて下げる(2027 年の +22% が一桁に鈍る)
- 悲観・やや悲観の確率を上げる。山が 2027 年で終わる合図。
- NAND のモリブデン移行と 400 層超の量産が前倒しになり、ラムのシェアが WFE の 13% を超える
- 10 年の楽観・やや楽観へ確率を寄せる。新構造の追加市場を取れている証拠。
- 中国のグローバル顧客以外の売上が急減し、国産勢が先端のエッチングで量産認定される
- 10 年のやや悲観の確率を上げる。シェアと価格の両方に効く。
- メモリ価格(DRAM・NAND の契約価格)が 2 四半期続けて下がる
- メモリ各社の設備投資が止まる先行指標。悲観・やや悲観を厚くする。
- 顧客サポート事業が 2 四半期続けて前年比で減る
- 稼働装置の利用率が落ちている合図で、谷の下支えが弱くなる。悲観の床を下げる。
- 対中輸出規制が緩み、中国向けが売上の 4 割に戻る
- 短期の上振れ要因だが、国産化の流れは変わらず、確率は小さく置く。
見ておくもの
- SEMI の WFE 見通し(四半期ごと)と、サムスン・SK ハイニックス・マイクロン・TSMC の設備投資
- NAND・DRAM の契約価格(設備投資の先行指標)
- ラムの受注残・システム売上と顧客サポート事業の前年比
- 中国の売上比率(26% からどこまで下がるか)と国産装置の量産認定
- 営業利益率(9 月四半期の見通し 39.5% を維持できるか)
- モリブデン・極低温エッチングの採用の進み具合
倍率と資本コストの決め方
売上と利益はセグメントの数量と価格で積み、アプライドマテリアルズ・東京エレクトロン・KLA・中国勢と照らした。倍率は今の株価ではなく、利益ベースの正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) の 7〜10 割に置いた。k = 9%(基本 8% + 循環 1%)、g は 4.5%(structural:NAND・DRAM の積層と GAA で工程と台数が 10 年先も増える)、堀は普通。10 年の中立は ROE 42% で正当化 PER 18.3 倍、その 8 割の 14.6 倍(純現金込みの実効)。日本株の東京エレクトロンとは市場の前提(無リスク金利・物価)が違うので、倍率を直接は写していない。今の PER 46 倍・PBR 27 倍には寄せていない。割高の結論は、山の利益に左右される点を差し引いても変わらない。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 5% + β 1.63 × 5%。k = 基本 8.0% + quality +1.00% = 9.00%。設備投資の循環は筋書きの数量と確率で表し、k には循環の上乗せ 1.0% だけを入れた。個別のリスク(中国の国産化・メモリの投資停止・競合)は k に足さず、確率と悲観の深さで表した。純現金で存続は危うくないので上乗せ 0。