結論
フォーティネット(Fortinet)は、ファイアウォール機器「FortiGate」と、その上で動く単一の OS(FortiOS)、セキュリティ更新などの定額契約を一体で売る会社である。2025 年 12 月期の売上は約 68 億ドル、GAAP の営業利益率は 30.5% と高い。2026 年に入ると、5 年ほど前に売れた機器の更新と高性能機の需要、部品価格に連動した値上げが重なり、第 2 四半期は売上 +26%・請求額 +33%・製品売上 +52% と急に伸び、通期予想を 80〜82 億ドル(+19%)へ引き上げた。
事業の質は高い。ASIC を自社で設計して価格あたりの性能で勝ち、機器の導入が終わるとセキュリティ契約が数年にわたり売上に回る。FCF は売上の 3 割台(2026 年は 4 割台)で、自社株買いも続く。一方、製品の急成長は更新の山に乗った面があり、会社自身が 2026 年末で設置基盤の約 4 分の 1 が保守終了、2027 年に低価格機が約 35 万台と説明しており、山の後の成長は 1 桁へ落ち着くとみるのが自然だ。
数量(市場 × シェア)× 価格でセグメントを積み上げると、中立は 10 年後に売上 178 億ドル(年 +10%)・純利益 46 億ドル。中立の 10 年後の時価総額は今の 6 割強、楽観でも今の約 1.2 倍にとどまり、確率で加重した本質価値は今の時価総額を大きく下回るため、評価は「割高」。優良な事業と割高な値段は別の話である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家なら、まず『10 年後もこの事業はあるか』を問う。答えはある。ファイアウォールは企業ネットワークの入口に必ず要り、AI の時代でも守る対象は増える。堀(自社 ASIC・単一 OS・切り替えの費用・前受け契約)も、今より強くなる可能性がある。事業の質への評価は高い。
次にオーナー利益を見る。GAAP の純利益は 2025 年 12 月期で約 18 億ドル、2026 年は 24 億ドル前後。株式報酬は売上の 4% 台で小さく、FCF とオーナー利益の差も小さい。成長に要る再投資も軽く、純利益の大半を株主に返せる事業である。
問題は値段。時価総額 1,240 億ドルは、2026 年の純利益の約 50 倍・売上の約 15 倍。2026 年は更新と値上げで製品が +52% と山に乗った年で、山の後は成長が 1 桁へ落ちる。計算すると、中立の 10 年後の時価総額は今の 6 割強で、確率で加重した本質価値は今の時価総額の 4 割弱にとどまる。楽観でも 10 年で今の約 1.2 倍、年率 4% 前後で、その確率は 8% しかない。安全域はない。確信度は、事業には高く(予測しやすい)、山の後の成長と値段には持てない。
何で稼ぐ会社か
売上の構造は 3 つに分けて考える。第 1 は機器(製品売上、約 3 分の 1)。FortiGate を中心に、スイッチ・無線 AP・SD-WAN 機器を売る。スループットあたりの価格が低いのは、パケット処理を専用の ASIC(FortiASIC)に任せ、汎用 CPU で動かす他社より安く速く作れるため。第 2 は基盤向けの更新・サポート・セキュリティ契約(サービス売上の大半)。機器を買うと、脅威情報の更新(FortiGuard)や保守の契約が 1〜5 年付き、前受けの繰延収益(2026 年 6 月末で 77 億ドル)として積み上がって数年かけて売上になる。第 3 は SASE(クラウドで通信を守る仕組み)とセキュリティ運用(SIEM・EDR など)のクラウド型の契約で、2026 年の請求額は SASE +35%、セキュリティ運用 +25%。
開示は製品とサービスの 2 つだけで、この 3 領域への按分は推定である(機器 22.5 億ドル・基盤向け契約 36.5 億ドル・SASE とセキュリティ運用 9.0 億ドル)。顧客は大企業から中小企業、通信会社、データセンター、工場などの OT(制御系)まで幅広く、販売の大部分は代理店を通す。更新時に『ネットワークとセキュリティを 1 つの OS で束ねる』方針で、買収でなく自社開発を貫く点が、買収でそろえるパロアルトネットワークス(Palo Alto Networks)やクラウドストライク(CrowdStrike)との違いである。
優良さと弱いところ
堀は 3 つある。第 1 は自社 ASIC と単一 OS による価格あたりの性能で、同じ処理を他社より安く提供できる。第 2 は切り替えの費用。ファイアウォールは社内ネットワークの要所に置くため、入れ替えには全拠点の設定の作り直しが要り、ルールと運用の知識が蓄積するほど乗り換えにくい。第 3 は導入後の定額契約で、前受けの繰延収益 77 億ドルが数年分の売上を先に確保している。
資本効率は非常に高い。GAAP の営業利益率は 30% 台、売上に対する FCF は 3 割台(2026 年は 4 割台)で、機器と契約を 1 つの会社でまとめる構造が高い粗利益率(約 80%)につながる。自社株買いの累積で自己資本は 12 億ドルまで小さくなり、帳簿の ROE は 150% と意味をなさない。株式報酬は売上の 4% 台と、同じ領域のクラウドストライク(約 23%)より小さく、GAAP の利益が実態から離れにくい。
弱い点は 3 つ。製品は更新の山に乗って急に増えており、山の後の反動が読みにくい。FortiGate や VPN の脆弱性が繰り返し悪用され、信用を損なうリスクがある。SASE とセキュリティ運用への参入が遅く、パロアルトやゼットスケーラー(Zscaler)のほうが先行している。創業者のケン・シー氏が経営を続けており、資本配分は自社株買いと自社開発で堅実。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ネットワークセキュリティ(ファイアウォール・SD-WAN・SASE)は、サイバーセキュリティ全体(ガートナー予測で 2026 年 2,475 億ドル、+13.6%)の中で、機器の更新周期と、クラウド側への移行という 2 つの動きの間にある。ファイアウォールは企業の拠点・データセンター・工場の入口に置く機器で、5 年前後で入れ替わる。2020〜21 年のコロナ期に大量に売れた機器の保守終了が 2026 年に重なり、会社は設置基盤の約 4 分の 1(約 65 万台)が 2026 年末に保守終了、2027 年にさらに低価格機が約 35 万台と説明している。加えて AI データセンターの増設で、高性能機の需要が増えている。
競争の軸は統合。パロアルトは Prisma と Cortex を束ねて『プラットフォーム化』を進め、シスコは 2024 年にスプランクを買ってセキュリティ運用へ、チェック・ポイント(Check Point)は伝統的なファイアウォール、ゼットスケーラーとクラウドストライクはクラウド側から入る。ジュニパーを買った HPE も入る。会社は『ネットワークとセキュリティを 1 つの OS で束ねた SASE ファイアウォール』を掲げる。
循環では、今は更新の山の途上にいる。2025 年 8 月に会社が『更新サイクルの 4〜5 割を終えた』と述べて株価が 2 割超下がり、モルガン・スタンレーが格下げした経緯があり、山の後の成長鈍化は市場でも議論されている。10 年先の分かれ目は、ファイアウォールの機能がクラウド側へ移るのか、オンプレミスと両方を要る顧客が残るのかである。
資本政策と M&A
配当はなく、FCF は自社株買いに回る。2025 年は約 23 億ドル、2026 年は上期で 9.7 億ドル(12.5M 株。平均の買値は今の株価の半分以下)を買った。残りの授権は約 7.7 億ドル。ただし 2026 年の買いは今の株価の半分の水準だったが、今の高い倍率で買えば価値を壊す。
借金は 2026 年に 5 億ドルの社債を返し、残りは約 5 億ドルと小さい。現金等は 2026 年 6 月末で約 45 億ドル、純現金は約 40 億ドル。買収は小さな技術の買い足しで 2026 年は無く、大型の買収で価値を壊す危険は小さい。経営は買収でなく自社開発を貫く方針を繰り返している。
株式報酬は売上の 4% 台で、自社株買いで打ち消している。バリュー投資の観点では、株式報酬を費用に入れた上で、正味の還元(買い − 株式報酬による増加)を見る。時価総額 1,240 億ドルの会社が買われる側になることは現実的でなく、TOB の可能性は考えない。インテルとは ASIC の設計と米国での製造で提携している。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ファイアウォールの更新は終わらない。2026 年末までに保守が終わる設置基盤は約 65 万台で、2027 年にはさらに約 35 万台。5 年周期の更新に、AI データセンターの増設と OT 需要が加わり、請求額は +33% と加速し、会社は通期予想を 2 度引き上げた。値上げは部品価格に連動し、下がれば値下げする(毎月調整)ので、利益率は守られる。
しかも製品の増加は契約に変わる。前受けの繰延収益は 77 億ドルで、売上に数年かけて回るので、機器が一服してもサービス売上は年 14% で伸びる。SASE の請求額は 2 倍超(FortiSASE)、既存の大企業の 9 割に導入済みで、追加の売上が見込める。自社 ASIC・単一 OS・自社開発という設計は、買収でそろえる競合より運用が簡単で、統合が進むほど有利になる。FCF 率 47% の会社が自社株買いで株数を減らし続ければ、今の値段にも合う。
慎重な見方
値段が先を走っている。時価総額 1,240 億ドルは 2026 年の純利益の約 50 倍で、2025 年 8 月に更新の 4〜5 割が終わったと本人が言って株価が 2 割超下がったのは、ほんの 1 年前である。今回の製品 +52% には値上げ(高い 1 桁)と、部品価格の上昇前の駆け込みが混じっている可能性がある。会社は前倒しはないと言うが、サービス課金を出荷の 90 日後にしている設計は、前倒しを防ぐ意図の裏返しでもある。
さらに構造の問題がある。ファイアウォールは機器の売り切りで、更新の山の後には需要が落ちる。SASE とセキュリティ運用は後発で、パロアルト・ゼットスケーラー・シスコ・マイクロソフトが先行し、価格も下がりやすい。FortiGate の重大な脆弱性が繰り返し悪用されている事実は、信用のリスクである。2027 年の予想は出ておらず、会社自身が『成長の正常化を織り込んでほしい』と言っている。10 年後の中立でも時価総額は今の 6 割強で、10 年待って得るものがない。
どちらに重みを置いたか
事業の質と足元の勢いは強気の見方が強く、請求額 +33%・繰延収益 77 億ドルは本物なので、楽観・やや楽観を合わせて 27% に置いた。しかし値段の議論は慎重な見方が強い。山の後の成長は 1 桁で、10 年後の中立は売上 178 億ドル・純利益 46 億ドル、利益ベースの正当化 PER の 8 割(事業 16 倍)を掛けた時価総額は今の 6 割強。楽観でも今の約 1.2 倍にとどまり、どれだけ成功しても 10 年で 8.5% の資本コストに届かない。確率は中立を最大にし、機器の反動・統合基盤との競争・事故を合わせたやや悲観と悲観を合わせて 40% と厚めに置いた。結論は『優良な事業だが割高』。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 93.98 ドル689 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 33.68 ドル247 億ドル)。 今の値に割り戻すと 63.97 ドル469 億ドル、今との差 −63.0%、 期待の年率 −3.0%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 204.56 ドル1,500 億ドル | 49.38 ドル362 億ドル | +46.8% | +3.9% | 20.31 ドル149 億ドル |
| やや楽観 | 19% | 141.95 ドル1,041 億ドル | 42.01 ドル308 億ドル | +6.3% | +0.6% | 34.95 ドル256 億ドル |
| 中立 | 33% | 103.78 ドル761 億ドル | 37.51 ドル275 億ドル | −18.3% | −2.0% | 46.63 ドル342 億ドル |
| やや悲観 | 25% | 53.64 ドル393 億ドル | 27.83 ドル204 億ドル | −52.9% | −7.3% | 20.37 ドル149 億ドル |
| 悲観 | 15% | 19.94 ドル146 億ドル | 16.10 ドル118 億ドル | −79.2% | −14.5% | 5.41 ドル40 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 93.98 ドル689 億ドル | 33.68 ドル247 億ドル | −26.2% | −3.0% | 127.66 ドル936 億ドル |
今の株価時価総額 172.98 ドル1,268 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:ネットワークとセキュリティの一体化の標準になり、SASE も大きく育つ 利益 82 億ドル · PER 18.2 倍 · 株価時価総額 204.56 ドル1,500 億ドル
10 年後(2035 年 12 月期)、売上は 285.3 億ドル(年 +15%)。ネットワークとセキュリティを 1 つの OS と自社 ASIC で束ねる設計が標準になり、機器はシェア 14.0%(市場 1.45 倍・価格 1.35 倍)で 54.8 億ドル、契約は 114.1 億ドル。SASE・セキュリティ運用は市場が 4.2 倍に伸びシェア 7.0% で 116.4 億ドルと、全体の 4 割を占める。非 GAAP の営業利益率は 39% 前後、株式報酬は売上の 3.8%、GAAP の営業利益は 99.8 億ドル、純利益は 82.4 億ドル。10 年目の倍率は、利益ベースの正当化 PER の 9 割で置く。
- 機器(ファイアウォール・スイッチ・無線 AP・SD-WAN):数量 4.1(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 14(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 55 億ドル・営業利益 21 億ドル。シェア 14%、価格 1.35 倍
- 基盤向けの更新・サポート・セキュリティ契約:数量 8.2(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 14(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 114 億ドル・営業利益 50 億ドル。基盤の契約と更新が積み上がる
- SASE・セキュリティ運用(クラウド型):数量 8.8(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 13(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 116 億ドル・営業利益 40 億ドル。SASE が市場 4.2 倍・シェア 7%
倍率:正当化 PER は 19.7 倍(g 4.0%、RONIC 35.2%。RONIC は k 8.50% に、事業の ROE 62.0% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 17.7 倍(9 割)に置いた。機器の更新とクラウド側のセキュリティが同時に伸びる筋書きだが、競争が残るので 9 割に留めた。 g の内訳:ネットワーク・セキュリティの需要は 10 年後以降、実質で年 1% 前後(機器の更新周期をならした値)× シェアの増減 ほぼ 0 × 価格は物価並みの +3.5% を少し下回り、名目の長期 g は 4.0%。 純現金 83 億ドルは戻り方 1 を掛けて数え、時価総額 =(純利益 82.4 − 受取利息の税引き後 2.5)× 17.7 + 83 × 1 = 1500 億ドル(純利益に対する見かけの PER は 18.2 倍)。純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:AI データセンター・OT・SASE のすべてで首位級になる展開。10 年間これが続くのは難しく、8%。
やや楽観 19% やや楽観:機器の首位を保ち、SASE・セキュリティ運用が第 2 の柱に育つ 利益 60 億ドル · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 141.95 ドル1,041 億ドル
10 年後、売上は 219.5 億ドル(年 +12%)。機器は首位級のシェア 13.0% を保ち 48.0 億ドル、契約は 97.5 億ドル。SASE・セキュリティ運用は市場が 3.5 倍に伸びシェア 5.5% で 73.9 億ドルの第 2 の柱になる。GAAP の営業利益は 72.4 億ドル(営業利益率 33%)、純利益は 59.8 億ドル。買収は小さな技術の買い足しで、自社株買いが続く。10 年目の成長は年 8% 前後まで落ちている。FortiGate の脆弱性の事故は大きくならず、更新時に統合基盤へ流れる顧客は限られる。機器の価格は部品の進歩と値上げで 1.32 倍と、物価並みに近づく。
- 機器(ファイアウォール・スイッチ・無線 AP・SD-WAN):数量 3.6(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 13(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 48 億ドル・営業利益 18 億ドル。シェア 13%、価格 1.32 倍
- 基盤向けの更新・サポート・セキュリティ契約:数量 7.1(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 14(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 98 億ドル・営業利益 42 億ドル。契約の基盤が広がる
- SASE・セキュリティ運用(クラウド型):数量 5.8(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 13(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 74 億ドル・営業利益 22 億ドル。SASE が市場 3.5 倍・シェア 5.5%
倍率:正当化 PER は 19.9 倍(g 4.0%、RONIC 37.8%。RONIC は k 8.50% に、事業の ROE 67.2% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 16.9 倍(8.5 割)に置いた。更新需要が続く筋書きで 8.5 割。 g の内訳:ネットワーク・セキュリティの需要は 10 年後以降、実質で年 1% 前後(機器の更新周期をならした値)× シェアの増減 ほぼ 0 × 価格は物価並みの +3.5% を少し下回り、名目の長期 g は 4.0%。 純現金 61 億ドルは戻り方 1 を掛けて数え、時価総額 =(純利益 59.8 − 受取利息の税引き後 1.8)× 16.9 + 61 × 1 = 1041 億ドル(純利益に対する見かけの PER は 17.4 倍)。純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:機器で首位を保ちつつ SASE とセキュリティ運用で第 2 の柱ができる展開。会社の自社 ASIC と単一 OS の優位が効く。2 割弱。
中立 33% 中立:優良なネットワークセキュリティ企業として、年 10% 弱で伸びて落ち着く 利益 46 億ドル · PER 16.6 倍 · 株価時価総額 103.78 ドル761 億ドル
10 年後、売上は 178.3 億ドル(年 +10%)。機器は市場が 1.34 倍(価格を除いて年 3%)、シェア 12.0%、価格 1.30 倍で 41.8 億ドル。契約は設置基盤の積み上がりで市場 1.48 倍・シェア 11.0%、価格 1.36 倍の 84.1 億ドル。SASE・セキュリティ運用は市場 3.1 倍・シェア 4.5% で 52.3 億ドル。非 GAAP の営業利益率は 35% 前後、株式報酬は売上の 4.5%、GAAP の営業利益は 55.6 億ドル(31%)、純利益は 45.8 億ドル。成長は年 5〜6% へ落ち着き、買収は小さい。
- 機器(ファイアウォール・スイッチ・無線 AP・SD-WAN):数量 3.2(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 13(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 42 億ドル・営業利益 15 億ドル。シェア 12%、価格 1.30 倍(部品の値下がりと競争で物価並みの 1.41 倍に届かない)
- 基盤向けの更新・サポート・セキュリティ契約:数量 6.2(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 14(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 84 億ドル・営業利益 35 億ドル。市場 1.48 倍・シェア 11%、価格 1.36 倍
- SASE・セキュリティ運用(クラウド型):数量 4.2(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 13(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 52 億ドル・営業利益 14 億ドル。市場 3.1 倍・シェア 4.5%、価格 1.25 倍(ユーザー数課金の値下がり)
倍率:正当化 PER は 20.1 倍(g 4.0%、RONIC 42.4%。RONIC は k 8.50% に、事業の ROE 76.3% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 16.1 倍(8 割)に置いた。自社製チップの原価の強みはあるが、機器は買い替えの周期に左右されるので、中立は 8 割に置いた。 g の内訳:ネットワーク・セキュリティの需要は 10 年後以降、実質で年 1% 前後(機器の更新周期をならした値)× シェアの増減 ほぼ 0 × 価格は物価並みの +3.5% を少し下回り、名目の長期 g は 4.0%。 純現金 46 億ドルは戻り方 1 を掛けて数え、時価総額 =(純利益 45.8 − 受取利息の税引き後 1.4)× 16.1 + 46 × 1 = 761 億ドル(純利益に対する見かけの PER は 16.6 倍)。純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:市場の伸びに沿って機器・契約・SASE がそれぞれ育つ議論の落としどころ。最大の 3 分の 1。
やや悲観 25% やや悲観:機器の価格競争とクラウド側への移行で、成長が 1 桁前半に鈍る 利益 26 億ドル · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 53.64 ドル393 億ドル
10 年後、売上は 122.2 億ドル(年 +6%)。機器はパロアルト・シスコ・ジュニパー(HPE)との競争でシェア 10.0%、価格 1.22 倍で 29.3 億ドル、契約は 62.4 億ドル。SASE はゼットスケーラーやパロアルトのクラウド型に押されシェア 3.5% と伸びきらず 30.6 億ドル。営業利益率は 26%、GAAP の営業利益は 31.4 億ドル、純利益は 26.3 億ドル。更新の山の後に需要が落ち、更新時の値引きが常態になる。株式報酬は売上の 5% へ上がる。自社株買いは続けるが、株価が下がるので買える株数は増える。
- 機器(ファイアウォール・スイッチ・無線 AP・SD-WAN):数量 2.4(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 12(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 29 億ドル・営業利益 9 億ドル。シェア 10%、価格 1.22 倍
- 基盤向けの更新・サポート・セキュリティ契約:数量 4.9(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 13(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 62 億ドル・営業利益 24 億ドル。契約の更新率が下がり価格が伸びない
- SASE・セキュリティ運用(クラウド型):数量 2.7(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 11(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 31 億ドル・営業利益 6 億ドル。SASE のシェアが 3.5% に低迷
倍率:正当化 PER は 20.1 倍(g 4.0%、RONIC 41.8%。RONIC は k 8.50% に、事業の ROE 75.1% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 14.1 倍(7 割)に置いた。機器が値下がりし、更新が伸びない筋書き。自己資本が薄いので PBR が中立を超えないよう、上限の 7 割に置いた。 g の内訳:ネットワーク・セキュリティの需要は 10 年後以降、実質で年 1% 前後(機器の更新周期をならした値)× シェアの増減 ほぼ 0 × 価格は物価並みの +3.5% を少し下回り、名目の長期 g は 4.0%。 純現金 40 億ドルは戻り方 1 を掛けて数え、時価総額 =(純利益 26.3 − 受取利息の税引き後 1.2)× 14.1 + 40 × 1 = 393 億ドル(純利益に対する見かけの PER は 15.0 倍)。純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:パロアルト・ゼットスケーラー・シスコ・マイクロソフトの統合基盤との競争で、機器の価格とシェアが削られる展開。10 年は競争の入れ替わりが起きるには十分長く、4 分の 1 を置いた。
悲観 15% 悲観:構造的に負ける(ファイアウォールのクラウド化と統合基盤に押され、機器が縮む) 利益 10 億ドル · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 19.94 ドル146 億ドル
10 年後、ファイアウォールの機能が SASE・クラウド側へ移り、機器の売れ行きが縮む。シェアは 7%、価格は 1.05 倍にとどまり、売上は 62.0 億ドル(年 −1%)と今を下回る。FortiGate の重大な脆弱性が悪用された事故や、統合基盤による値引きで契約の更新率も下がる。営業利益率は 17%、GAAP の営業利益は 10.4 億ドル、純利益は 9.5 億ドル。優良な事業とは言えなくなり、倍率も下がる。純現金と前受けの契約が時価総額を支えるが、買収の下限(売上の約 3 倍)は利益ベースの上限を超えるので採らない。
- 機器(ファイアウォール・スイッチ・無線 AP・SD-WAN):数量 1.3(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 11(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 14 億ドル・営業利益 3 億ドル。シェア 7%、価格 1.05 倍
- 基盤向けの更新・サポート・セキュリティ契約:数量 3.2(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 11(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 35 億ドル・営業利益 11 億ドル。解約と値引きが続く
- SASE・セキュリティ運用(クラウド型):数量 1.3(対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア)× 価格 9.80(1 単位の値段(億ドル。2025 年=10))→ 売上 13 億ドル・営業利益 1 億ドル。SASE が育たず値下がり
倍率:正当化 PER は 18.4 倍(g 4.0%、RONIC 23.2%。RONIC は k 8.50% に、事業の ROE 38.0% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 12.9 倍(7 割)に置いた。機器が縮み、開発費の負担が重くなる筋書きで 7 割。 g の内訳:ネットワーク・セキュリティの需要は 10 年後以降、実質で年 1% 前後(機器の更新周期をならした値)× シェアの増減 ほぼ 0 × 価格は物価並みの +3.5% を少し下回り、名目の長期 g は 4.0%。 純現金 38 億ドルは戻り方 1 を掛けて数え、時価総額 =(純利益 9.5 − 受取利息の税引き後 1.1)× 12.9 + 38 × 1 = 146 億ドル(純利益に対する見かけの PER は 15.4 倍)。純利益は GAAP(株式報酬は費用)。
確率:10 年の間に、ファイアウォールの機能がクラウド側へ移る、統合基盤が機器の単価を壊す、FortiGate の重大な脆弱性や事故で信用を失う、のいずれか。リーマン級の不況も重なる前提で 15%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
機器(ファイアウォール・スイッチ・無線 AP・SD-WAN)
FortiGate を中心とした機器の売り切り。自社 ASIC で価格あたりの性能が高い。更新の周期に売上が大きく左右される。
| 数量対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア | 価格1 単位の値段(億ドル。2025 年=10) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2.3 | 10 | 23 | 8 |
| 10 年後 中立 | 3.2 | 13 | 42 | 15 |
取り方:市場はファイアウォール・SD-WAN・スイッチなど保護に関わる機器の世界規模で約 200 億ドルの推定(公表の第三者の数字は未確認)。売上 22.5 億ドル(製品売上の推定)はシェア 11.25%。台数では首位級だが金額ではパロアルト・シスコ・チェック・ポイントと並ぶ 1 割強とみる。競合はパロアルト、シスコ、チェック・ポイント、ジュニパー(HPE)、ソニックウォール。価格は 10 年で物価(1.41 倍)より低い 1.30 倍を中立とした。同じ性能の機器の価格は ASIC と部品の進歩で下がり続けるが、2026 年は部品(メモリ)の値上がりを値上げとして転嫁している。事業の利益は株式報酬・償却の前の値で、本社の調整欄で引く。
基盤向けの更新・サポート・セキュリティ契約
機器に付く保守と脅威情報(FortiGuard)などの定額契約。機器の導入から数年遅れて売上になり、更新率が高い。
| 数量対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア | 価格1 単位の値段(億ドル。2025 年=10) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3.7 | 10 | 37 | 15 |
| 10 年後 中立 | 6.2 | 14 | 84 | 35 |
取り方:サービス売上(2026 年予想 52 億ドルが +14% から逆算して 2025 年 約 45.6 億ドル)のうち、SASE・セキュリティ運用を除く機器基盤向けを 36.5 億ドルと推定。市場はネットワークセキュリティ機器の保守・セキュリティ契約で約 380 億ドルの推定、シェア 9.6%。数量は設置基盤の大きさに比例し、市場は実質で年 4%。価格は機器の価格に連動して 10 年 1.36 倍を中立とした。事業の利益率は約 40% で、株式報酬の前。
SASE・セキュリティ運用(クラウド型)
クラウド側で通信を守る FortiSASE、ログと脅威の分析(SIEM・EDR)、AI の運用支援。伸びが最も速いが後発。
| 数量対象市場の実質規模(10 億ドル、2025 年の価格)× シェア | 価格1 単位の値段(億ドル。2025 年=10) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.9 | 10 | 9 | 1 |
| 10 年後 中立 | 4.2 | 13 | 52 | 14 |
取り方:市場は SASE・SSE(クラウドでの通信の保護)と、SIEM・EDR などのセキュリティ運用のうち会社の対象を合わせた約 300 億ドルの推定(ガートナーのセキュリティ 2,475 億ドルの約 12%)。売上 9.0 億ドルはシェア 3.0%(SASE の ARR などは未開示で推定)。競合はゼットスケーラー、パロアルト(Prisma・Cortex)、クラウドストライク、シスコ、マイクロソフト。数量(実質)は年 +12%、価格は 10 年 1.25 倍(ユーザー数課金の値下がりと競争で物価並みに届かない)を中立とした。事業の利益率は投資段階のため約 15%。
リスクと懸念
更新の山の反動
2026 年の製品 +52% には、2020〜21 年に売れた機器の更新、AI データセンター向け、値上げの 3 つが重なっている。会社は前倒しはないと言うが、山が過ぎれば製品は大きく減りうる。2025 年 8 月に更新の 4〜5 割を終えたと述べて株価が 2 割超下がった前例がある。
値段が成長を先に払っている
時価総額 1,240 億ドルは 2026 年の純利益の約 50 倍・売上の約 15 倍。中立の 10 年後でも時価総額は今の 6 割強で、事業が成功しても値段が高いままなら株主のリターンは低い。10 年間、年 10% の成長を続けても、資本コスト 8.5% を大きくは上回れない水準にある。
部品価格と値上げの巻き戻し
メモリなど部品価格に連動して毎月値上げしており、下がれば値下げする。部品の高騰で押し上げられた売上と請求額は、部品が下がれば同じ速さで減る。2026 年下期の請求額に高い 1 桁の値上げ効果が入っている。
統合基盤との競争(SASE・セキュリティ運用)
パロアルトは買収で Prisma・Cortex・CyberArk を束ね、シスコはスプランクを買い、ゼットスケーラーとクラウドストライクはクラウド側から来る。会社は SASE に後発で、価格と更新時の値引きで機器の単価が削られる可能性がある。
製品の脆弱性と信用
FortiGate や FortiOS の重大な脆弱性が繰り返し悪用され、米政府の悪用された脆弱性の一覧にも多数載る。防御の要となる機器の脆弱性は、大口顧客と政府の更新に響き、訴訟や補償の費用も出る。
自社ファブレスと供給・地政学
ASIC は外部の工場で作り、機器の製造は台湾や米国の委託先に依存する。米中の対立や関税、半導体の供給不足は原価と納期に直接効く。2026 年はインテルと ASIC・米国での製造で提携したが、立ち上がりのリスクがある。
今後の分かれ目
- 2027 年の会社予想(2027 年 1〜2 月に発表予定)で、請求額の伸びが 15% を割る、または製品売上の伸びがマイナスになったら
- 更新の反動が始まったと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。2028 年の機器を今の中立より 1〜2 割下げて見る。
- 請求額が 2027 年も +20% を超え、SASE の請求額が +40% 以上を保ったら
- 楽観・やや楽観の確率を上げる。ただし 10 年後の中立が今の 6 割強という構造は、倍率が先に下がるため変わらない。
- メモリなどの部品価格が下がり、会社が値下げに転じたら
- 値上げで押し上げられた製品売上が減るので、機器の価格の伸びを中立より下げて見る。利益率は守られる設計だが、売上は減る。
- パロアルトやゼットスケーラーが SASE でファイアウォールの機能を取り込み、大型の更新で値引きを始めたら
- 機器のシェアを 12% から 10% へ、価格を 1.20 倍以下に下げて見る。やや悲観の確率を上げる。
- FortiGate の重大な脆弱性が大規模な攻撃に使われ、政府機関や大企業の契約が解約されたら
- 悲観の確率を大きく上げる。更新率の低下が数字に出れば、契約の売上の伸びを年 14% から 8% へ下げて見る。
- 自社株買いを今の株価の水準で大きく増やし、授権を引き上げたら
- 正味の還元は増えるが、割高な水準での買いは価値を壊すので payout を上げない。倍率に注意する。
見ておくもの
- 請求額・繰延収益の伸びと、製品売上と請求額の差(更新の山の反動の兆し)
- 2027 年の会社予想(2027 年 1〜2 月)と、製品売上の前年比
- 部品(メモリ)価格と会社の値上げ・値下げの動き、粗利益率(79〜81% の予想)
- SASE・セキュリティ運用の請求額の伸び(今は +35%・+25%)と、パロアルト・ゼットスケーラーのシェア
- FortiGate・FortiOS の脆弱性の公表と、悪用された事故
- 自社株買いの規模と、株式報酬の売上比(今は 4% 台)
倍率と資本コストの決め方
今の時価総額 1,240 億ドルを見る前に、領域ごとの市場 × シェア × 価格と利益率で売上と GAAP の純利益を積み上げた。倍率は利益ベースの正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g)、RONIC = k + 残る割合 ×(事業の ROE − k)の 7〜9 割で置いた。k = 8.5%(基本 8% + 機器の更新周期の循環 0.5%)、ROE は検査と同じ帳簿の自己資本に対する純利益(自社株買いで自己資本が薄く、余った現金を除くと 100% 超と高く出る)、残る割合は普通の 1/2、g は 4%。10 年中立の正当化 PER は 20.1 倍で、機器の買い替えの周期に左右されるのでその 8 割の事業 16.1 倍に置いた(純現金を足して見かけ 16.6 倍)。2026 年の純利益は会社の予想から 24 億ドルと置いた(今年の成長を延ばしてはいない)。今の値段に合わせる調整はしていない。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 5% + β 1.00 × 5%。k = 基本 8.0% + quality +0.50% = 8.50%。機器の更新周期の分だけ循環に +0.5% を入れ、quality は +0.5%。更新の山の反動・統合基盤との競争・脆弱性の事故は k に足さず、確率(やや悲観・悲観を厚く)と筋書きの利益率で表した。純現金で存続は危うくないので上乗せ 0。