結論
JCUは、プリント基板や半導体パッケージ基板に金属の膜をつける「めっき」の薬品を作る会社である。筆者の結論は、やや割高。稼ぐ力は本物だが、いまの利益率は過去最高で、そのまま続くとは見ない。
稼ぎの源は薬品だ。売上の約9割を占め、顧客の工場に入れば薬品は使うたびに売れる。2026年3月期の営業利益率は41%に達した。10年前は23%だった。純現金が200億円を超え、自己資本比率は87%と、財務は極めて堅い。
10年先の中立は、薬品の市場が実質で年3%台に伸び、JCUがシェアを保ち、価格が物価並みに上がる姿である。営業利益は今の1.5倍弱になる。それでも利益率が山から少し下がるぶん、時価総額は1,900億円ほどにとどまる。
強気に振れる条件も具体的だ。AIサーバー向けの基板が増え、ガラスコアなど新しい基板にも薬品が入れば、利益は2倍を超える。ただ、堀は強いと言い切れず、基板メーカーの値下げ圧力と中国勢の追い上げは残る。確率を重ねた本質価値は、今の時価総額の9割ほどになる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、JCUは、自分で値段を決めにくい世界にいる優良な部品屋である。顧客の工場に消耗品として入り込み、長く使われる。これは良い事業の形だ。使った資本に対する稼ぎは高く、借金もなく、安心して持てる財務だ。
一方で、堀は最強とは言えない。基板メーカーという強い顧客を相手にし、技術の転換が起きれば、認定が一からやり直しになる。世界でも4%ほどのシェアの小さな会社で、値決めの力は、世界首位の会社ほどは強くない。このため、堀は普通とみて、高い倍率は与えない。
経営については、資本の使い方が堅実だ。買収に走らず、研究と生産に投資し、利益の半分を株主に戻す。熊本の新拠点が実を結ぶかどうかが、これからの10年の勝負どころになる。
安全域の観点では、今の利益率が過去最高であることがいちばん気になる。山の利益に、普通の倍率をかけて払えば、割高をつかむ。筆者は、利益が少し下がる中立を土台に置き、そこから確率で上下を振った。結論は、今の値段にはあまり余裕がない、というものだ。
何で稼ぐ会社か
JCUの稼ぎは、めっき薬品の消耗品ビジネスである。基板の表面に銅などの膜をつける工程で、薬品の液を使う。液は使うたびに劣化し、継ぎ足しと入れ替えが要る。工場の稼働が続く限り、売上が積み上がる。
薬品が売上の約9割、残りの約1割が、めっき装置の事業である。装置は景気と顧客の設備投資で受注が大きく振れる。2026年3月期は受注が前年の3分の1ほどに落ちた。ただ利益への寄与は小さく、全社の損益を決めるのは薬品である。
薬品の用途は、スマートフォンやサーバーのプリント基板、半導体の載るパッケージ基板、自動車部品である。重点は、AIサーバーに使うパッケージ基板と、その先の先端パッケージだ。熊本に研究と生産の拠点を新設し、2025年10月に完成させた。2026年には試生産が始まる。
海外子会社の取引は、ほとんどが現地の通貨建てである。中国、台湾、韓国、東南アジアに拠点を持つ。円安は円換算の利益を押し上げる。ここでは為替を1ドル150円に固定して考えるので、円安による追い風は、これ以上は織り込まない。
優良さと弱いところ
優良さの核は、顧客の工場に入り込んだ薬品が、簡単には他社に替えられない点である。基板のめっきは、薬品を替えると品質や歩留まりが変わる。顧客は認定に時間をかける。このため、一度入った薬品は長く使われ、利益率も高く保たれる。
利益率の高さは数字に出ている。営業利益率は、2019年3月期の28%から、2026年3月期の41%まで上がった。純現金は厚く、借金に頼らず投資を回せる。使った資本に対する稼ぎ、つまりROEは16%台と、資本コストを大きく上回る。
弱いのは規模と集中である。売上は300億円ほどで、同じ分野の上村工業よりも小さい。大手の海外勢は、マクダーミッドやアトテックなど、資金も営業網も大きい。世界の電子向けめっき薬品は約45億ドルとみる。JCUの世界シェアは約4%と、筆者は推定する。
もう1つの弱みは、薬品の価格である。基板メーカーは値下げを求めてくる。AI向けの高付加価値品は値が保てるが、自動車や汎用の基板は別だ。利益率が山にあるのは、為替の追い風と、高付加価値品の比率の上昇が重なったためだと、筆者は見る。両方が続く保証はない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
めっき薬品の需要は、基板と半導体の数に比例する。AIサーバー向けの先端パッケージが伸び、基板が大きく多層になるほど、使う薬品が増える。業界の前提どおり、半導体材料は10年で年6〜8%の拡大が見込まれる。ただ、プリント基板と自動車の分が混じるJCUの市場は、もっと穏やかに伸びるとみる。
循環のどこにいるかというと、山の途中である。2026年3月期は増収増益で、会社は2027年3月期も増収を見込む。一方、営業利益は横ばいの予想だ。売上が伸びても利益が伸びないのは、原材料の上昇と先行投資が重なるためと読める。
競争は、日本の薬品メーカーと海外の大手の、少数の争いだ。上村工業は半導体向けに強く、メックは基板の前処理に強い。JCUは、プリント基板の銅めっきと、自動車部品のめっきで厚い。分野ごとに強みが違うので、価格競争は全面にはならない。
技術の転換が最大の変数である。ガラスコア基板や、新しい銅めっきの方式が広がれば、薬品の組み立てが変わる。JCUは次世代の硫酸銅めっきを開発中で、早く認定を取れば追い風になる。遅れれば、シェアを失う。中国の基板メーカーが、地元の薬品を使う動きも、10年では無視できない。
資本政策と M&A
資本の使い方は、堅実である。中期経営計画では、3年間の営業キャッシュフロー200〜250億円のうち、約半分を成長投資に、残りを株主に回す。還元の目安は、利益に対する配当と自社株買いの合計で50%だ。配当は増やし続け、自社株買いも行っている。
M&Aは、大きなものをしていない。買収で規模を買うより、熊本の新拠点のように、自前の研究と生産に投資する姿勢だ。筆者は、これを良い資本配分と見る。買収で価値を壊す心配が小さい。
大株主は、信託口が中心で、事業会社は3%台にとどまる。持ち合いは薄く、親会社もない。株主への還元は、経営の判断で動かせる。ただ、純現金が200億円を超えるのに、PBRの低下を会社自身が課題に挙げている。還元をさらに厚くする余地は、まだある。
買収される側になる可能性も、ゼロではない。小さく、現金が厚く、持ち合いが薄い会社は、同業の大手や基板関連メーカーにとって狙いやすい。ただ、これは確率を置く材料にとどめ、本質価値には織り込まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIサーバー向けの基板は、まだ序盤である。パッケージ基板は大きくなり、層も増える。基板1枚あたりの薬品の使用量は、世代ごとに増える。JCUは、熊本の新拠点で次世代の硫酸銅めっきを開発し、先端パッケージ向けの新ブランドも立ち上げた。新しい工程に早く入れば、そのまま利益に乗る。
中期経営計画では、2027年3月期の営業利益を100億円と置いた。実績はすでに120億円を超え、計画を大きく上回った。会社が慎重に目標を置く性格なのは明らかだ。2035年の営業利益175億円という長期目標も、市場の伸びだけで届く水準にみえる。
利益率が高いのは、単なる円安のせいではない。認定を受けた消耗品は、顧客が替えにくい。高付加価値品の比率が上がれば、利益率はもう一段上がる余地がある。純現金は200億円を超え、借金もない。還元を強めれば、ROEはさらに上がる。
中国では、基板の現地生産が伸び、台湾・韓国でも先端パッケージの投資が続く。JCUはこの地域に拠点を持ち、現地通貨で稼ぐ。10年後には、今の2倍の利益を稼ぐ姿も十分ありうる。
慎重な見方
利益率41%は、過去20年で見ても最高だ。そして、その高さの一部は、円安の追い風である。為替が円高に戻れば、円換算の利益は減る。会社自身が、円安は収益を押し上げる要因だと認めている。山の利益に、さらに伸びる前提を重ねるのは危うい。
会社の2027年3月期の予想は、売上が1割以上伸びるのに、営業利益はほぼ横ばいである。売上が伸びても利益が伸びないのは、原材料と投資の負担が重くなっている証拠だ。利益率はすでに天井に近い。
競争の面でも、JCUは小さい。世界シェアは4%ほどで、上村工業や海外の大手に囲まれている。AI向けの先端パッケージは、顧客が値下げを強く求める分野だ。ガラスコア基板などで工程が変われば、認定をやり直す必要がある。遅れれば、シェアを失う。
中国の基板メーカーが、地元の薬品会社を育てれば、中位品から侵食される。装置の受注は、前年の3分の1に落ちた。自動車向けも、成長が鈍い。高い利益率を前提に払うより、半導体の投資が一巡する局面を重く見るべきだ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが、やや強い。利益率が過去最高で、会社自身の予想でも利益が頭打ちだからだ。強気の見方の言う、高付加価値品の比率の上昇と新工程への参入は、起きれば大きい。ただ、条件が重なる必要がある。
このため、確率は中立に3割強を置き、悲観側に合計で4割弱を寄せた。楽観は1割にとどめる。強気は上振れの幅が大きいので、確率を足せば価値は持ち上がる。それでも、本質価値は今の時価総額を1割ほど下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 9,475 円2,333 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,258 円556 億円)。 今の値に割り戻すと 6,696 円1,649 億円、今との差 +24.5%、 期待の年率 +8.1%(資本コスト 6.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 20,342 円5,009 億円 | 3,249 円800 億円 | +338.5% | +15.9% | 2,359 円581 億円 |
| やや楽観 | 21% | 13,900 円3,423 億円 | 2,680 円660 億円 | +208.2% | +11.9% | 3,482 円857 億円 |
| 中立 | 32% | 10,983 円2,705 億円 | 2,437 円600 億円 | +149.4% | +9.6% | 4,294 円1,057 億円 |
| やや悲観 | 23% | 3,639 円896 億円 | 1,949 円480 億円 | +3.9% | +0.4% | 1,285 円316 億円 |
| 悲観 | 14% | 1,219 円300 億円 | 1,015 円250 億円 | −58.5% | −8.4% | 313 円77 億円 |
| 加重平均 | 100% | 9,475 円2,333 億円 | 2,258 円556 億円 | +118.1% | +8.1% | 11,733 円2,889 億円 |
今の株価時価総額 5,380 円1,325 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.5% を下回るほど割高。
楽観 10% AI向け基板が倍増し、新工程にも入って利益が2.4倍に 利益 220 億円 · PER 22.3 倍 · 株価時価総額 20,342 円5,009 億円
AIサーバー向けのパッケージ基板が広がり、ガラスコアなど新しい基板にもJCUの薬品が採用される。世界の薬品市場は実質で年5%ほど伸び、JCUのシェアも4%から5%へ上がる。熊本の新拠点で開発した次世代の硫酸銅めっきが、顧客の認定を早く取る。
価格は、先端品の比率が上がって、物価を少し上回る。営業利益率は40%を保つ。堅い財務と厚い還元で、ROEは2割近くまで上がる。
この筋書きでは、会社が2035年に掲げる長期目標の営業利益175億円を、10年で大きく超える。ただ、ここまで行くには、技術の転換に乗り、基板メーカーの値下げ圧力もかわす必要がある。
- 薬品(めっき・表面処理薬品):数量 3.6(電子向けめっき薬品の世界市場(実質、億ドル)× JCUのシェア)× 価格 140.0%(売上の値段の指数(今を1.00とする名目。物価3%込み))→ 売上 754 億円・営業利益 302 億円。市場×シェア2.0倍・価格1.40倍、営業利益率40%
- 装置(めっき装置・洗浄装置):数量 52.0(装置の出荷台数(台、推定))× 価格 0.96(1台あたりの平均単価(億円、名目))→ 売上 50 億円・営業利益 6 億円。台数1.3倍・価格1.40倍
倍率:事業の純利益 218 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.8% が k 6.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)150 億円。全体の PER 22.3 倍、時価総額 5,009 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIの需要が倍増し、新工程の認定も取り、高付加価値品の比率も上がる必要があり、条件が重なる。慎重な見方のほうが強いので、1割にとどめた。
やや楽観 21% AI向けが続き、高付加価値品の比率が上がってやや上振れ 利益 157 億円 · PER 21.1 倍 · 株価時価総額 13,900 円3,423 億円
AIサーバーとハイエンド基板の需要が続き、薬品の市場は実質で年4%強伸びる。JCUのシェアは4%から4.4%へ少し上がる。熊本の拠点が稼働し、先端パッケージ向けの新ブランドの売上が育つ。
価格は物価をわずかに上回る。営業利益率は山から少し下がって38%に落ち着く。それでも営業利益は、今の1.8倍になる。
自動車向けは成長が鈍いが、基板と半導体の伸びが全体を引っ張る。還元は利益の55%を保ち、純現金は少しずつ積み上がる。
この筋書きの鍵は、新しい基板の工程に、早い段階で入れるかどうかだ。入れれば、高付加価値品の比率が上がり、利益率の落ち込みが小さくて済む。
- 薬品(めっき・表面処理薬品):数量 2.8(電子向けめっき薬品の世界市場(実質、億ドル)× JCUのシェア)× 価格 137.0%(売上の値段の指数(今を1.00とする名目。物価3%込み))→ 売上 571 億円・営業利益 217 億円。市場×シェア1.55倍・価格1.37倍、営業利益率38%
- 装置(めっき装置・洗浄装置):数量 44.0(装置の出荷台数(台、推定))× 価格 0.94(1台あたりの平均単価(億円、名目))→ 売上 41 億円・営業利益 4 億円。台数1.1倍・価格1.37倍
倍率:事業の純利益 155 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.5% が k 6.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)150 億円。全体の PER 21.13 倍、時価総額 3,423 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けの需要が続き、先端品の採用が進む素直な上振れ。会社の中計が前倒しで達成された実績を踏まえ、2割強を置いた。
中立 32% 薬品は実質年3%台で伸び、シェアは保ち、利益率は山から少し下がる 利益 128 億円 · PER 20.3 倍 · 株価時価総額 10,983 円2,705 億円
薬品の世界市場は、実質で年3%台で伸びる。JCUはシェアの約4%を保ち、数量は今の1.4倍になる。価格は物価並みの1.34倍で、売上は今の1.7倍近くになる。
営業利益率は、今の41%から36%へ下がる。為替の追い風が消え、基板メーカーの値下げ圧力が強まる。それでも、認定を受けた消耗品の強みは残り、36%は化学の中で飛び抜けて高い水準だ。
装置は台数が横ばいで、利益は小さい。熊本の新拠点は、新製品の立ち上げに必要な投資として、利益を大きく動かさない。還元は利益の55%ほどで、純現金は積み上がる。
- 薬品(めっき・表面処理薬品):数量 2.5(電子向けめっき薬品の世界市場(実質、億ドル)× JCUのシェア)× 価格 134.0%(売上の値段の指数(今を1.00とする名目。物価3%込み))→ 売上 495 億円・営業利益 178 億円。市場×シェア1.37倍・価格1.34倍、営業利益率36%
- 装置(めっき装置・洗浄装置):数量 40.0(装置の出荷台数(台、推定))× 価格 0.92(1台あたりの平均単価(億円、名目))→ 売上 37 億円・営業利益 3 億円。台数1.00倍・価格1.34倍
倍率:事業の純利益 126 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.2% が k 6.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)150 億円。全体の PER 20.29 倍、時価総額 2,704 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場が実質年3%台で伸び、シェアを保つが、利益率は山から下がる。2つの見方の落としどころ。
やや悲観 23% AI投資が一巡し、値下げと中国勢で利益が2割減 利益 70 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 3,639 円896 億円
AIの投資が一巡し、基板の需要は横ばいに近くなる。中国の基板メーカーが地元の薬品を使い始め、JCUの中位品が値下げを迫られる。市場の伸びは実質で年1%ほどにとどまる。
価格は物価を下回り、10年で1.22倍にとどまる。営業利益率は28%まで下がる。
営業利益は今の8割に落ちる。それでも財務は堅く、純現金が下支えになる。ただ、新しい投資の稼ぎは、資本コストを少し上回る程度に薄れる。
熊本の新拠点は、先端品の売上が育たず、投資の回収が遅れる。会社は還元を続けるが、増配の余地は小さくなる。筆者は、この筋書きを、利益率が山にある優良株がたどる、ごく普通の下り坂と見る。
- 薬品(めっき・表面処理薬品):数量 2.0(電子向けめっき薬品の世界市場(実質、億ドル)× JCUのシェア)× 価格 122.0%(売上の値段の指数(今を1.00とする名目。物価3%込み))→ 売上 357 億円・営業利益 100 億円。市場×シェア1.09倍・価格1.22倍、営業利益率28%
- 装置(めっき装置・洗浄装置):数量 36.0(装置の出荷台数(台、推定))× 価格 0.82(1台あたりの平均単価(億円、名目))→ 売上 30 億円・営業利益 1 億円。台数0.90倍・価格1.20倍
倍率:事業のROEが資本コスト6.5%を少し上回る程度の筋書き。ためた利益は帳簿の額に届かない価値とみて、稼ぐ力(純利益÷k=12.9倍)より低い10.5倍に置いた。余った現金は谷で食うので0.75倍で数える。
確率:投資の一巡と顧客の値下げで、利益が今より下がる筋書き。利益率が過去最高の山にあり、会社自身の予想でも利益が頭打ちなので、やや厚く置いた。
悲観 14% 新工程で認定を取れず、中国勢と顧客に追われて構造的に負ける 利益 20 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 1,219 円300 億円
ガラスコア基板や新しい銅めっきの方式で、JCUの薬品が認定を取れない。先端の基板は、世界の大手薬品会社に取られる。中位の基板は、中国の地元の薬品に切り替わる。
市場の実質の伸びは年1%にとどまり、JCUのシェアは4%から3%を割る。価格は物価に追いつかず、10年で1.05倍にとどまる。営業利益率は12%まで下がる。
装置は赤字になり、全社の営業利益は今の2割以下になる。優良な消耗品の会社ではなくなり、価値は、純現金と、売れる資産の税後で測るほかない。
還元は利益の裏付けを失い、配当を守るために、純現金を取り崩して払う。それでも財務は傷まず、つぶれる心配は小さい。ただ、成長の物語は終わり、安値で放置される。筆者は、確率は低くても、起きれば深い筋書きとして置く。
- 薬品(めっき・表面処理薬品):数量 1.4(電子向けめっき薬品の世界市場(実質、億ドル)× JCUのシェア)× 価格 105.0%(売上の値段の指数(今を1.00とする名目。物価3%込み))→ 売上 221 億円・営業利益 27 億円。市場×シェア0.78倍・価格1.05倍、営業利益率12%
- 装置(めっき装置・洗浄装置):数量 28.0(装置の出荷台数(台、推定))× 価格 0.75(1台あたりの平均単価(億円、名目))→ 売上 21 億円・営業利益 −1 億円。台数0.70倍・価格1.10倍
倍率:優位を失い、利益が小さい金利収入だけの筋書き。稼ぐ力でなく売れる資産で測る。純現金217億円と、設備・在庫・売掛金などの売却価値(税後)を床とし、今の自己資本546億円に0.55倍を掛けた。
確率:技術の転換点で認定を取れず、中国勢と顧客の値下げで構造的に負ける筋書き。小さな会社で技術の転換に弱い面があり、起きれば深いので、1割を超える確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
薬品(めっき・表面処理薬品)
プリント基板・半導体パッケージ基板・自動車部品などのめっきに使う薬品。全社の売上の約9割とほぼ全部の利益を稼ぐ。
| 数量電子向けめっき薬品の世界市場(実質、億ドル)× JCUのシェア | 価格売上の値段の指数(今を1.00とする名目。物価3%込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.8 | 100.0% | 269 | 121 |
| 10 年後 中立 | 2.5 | 134.0% | 495 | 178 |
取り方:薬品の売上269億円(全社の90.7%)を、世界の電子向けめっき薬品の市場約45億ドル(上村工業・メック・マクダーミッド・アトテックなどの推定の合計)のうちJCUが取るシェア約4%(推定)で置いた。数量は市場×シェアの実質、価格は今を1.00とする名目の指数で、物価3%は価格に入れる。薬品の営業利益は開示を確認できず、全社の営業利益121.6億円から装置の推定3億円と本社費の推定を引いて約121億円と置いた。
装置(めっき装置・洗浄装置)
めっきの設備とプラズマ洗浄などの装置。薬品の売り込みを支える設備で、顧客の投資に左右され、利益はごくわずか。
| 数量装置の出荷台数(台、推定) | 価格1台あたりの平均単価(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 0.69 | 27 | 3 |
| 10 年後 中立 | 40.0 | 0.92 | 37 | 3 |
取り方:全社の売上296.7億円から薬品269.3億円を引いた約27.4億円を、出荷台数約40台(推定)×1台約0.69億円と置いた。台数は開示が無く推定。装置の利益は開示を確認できず、約3億円と推定した。調整は全社費用でマイナス約2.4億円と置いて、営業利益121.6億円に合わせた。
リスクと懸念
利益率が過去最高の山にある
営業利益率は41%と、過去最高である。円安の追い風と、高付加価値品の比率の上昇が重なった結果だ。円高に戻る、値下げが強まる、のどちらかで、利益率は大きく下がりうる。10年の中立でも、36%まで下がる前提を置いた。
技術の転換で認定を失う
ガラスコア基板や新しい銅めっきの方式が広がると、薬品の組み立てが変わる。顧客は認定をやり直す。JCUが遅れれば、これまで強みだった認定の壁が、他社の乗り換えを許す入口に変わり、シェアを失う。熊本の新拠点の成否が、ここに効く。
中国の基板メーカーの地元調達
中国の基板メーカーは、地元の薬品会社を育てている。中位品から順に、JCUの薬品が置き換えられる恐れがある。JCUは中国に拠点を持つが、現地の値下げ競争に巻き込まれれば、利益率が下がる。
規模の小ささと顧客の値下げ圧力
売上は300億円ほどで、世界のシェアは約4%と推定する。基板メーカーは、複数の薬品会社を競わせて値下げを求める。大手の海外勢は資金も営業網も大きく、JCUが値決めで主導権を握るのは難しい。
半導体・基板の投資の循環
基板と半導体の投資は、2〜4年ごとの山と谷を繰り返す。AIの需要が新しい柱になっても、循環は消えない。装置の受注が前年の3分の1に落ちたように、短い期間で数字が大きく動く。
装置事業の振れ
装置は売上の約1割で、利益は小さい。ただ、受注が大きく振れ、赤字になる年もありうる。薬品の売り込みを支える面もあるので、縮めると薬品の営業にも響く。
今後の分かれ目
- AI向け・先端パッケージ向けの薬品の売上が、薬品全体の中で目立って増える
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。高付加価値品の比率が上がれば、利益率の山が続く。
- ガラスコア基板など新しい工程で、JCUの薬品が認定を取ったと確認される
- 楽観側の確率を上げ、悲観側を下げる。熊本の新拠点の投資が回収に向かう。
- 営業利益率が、3四半期続けて36%を下回る
- 山の利益が終わりつつあるサインとみて、やや悲観側の確率を上げる。
- 中国の基板メーカーが、JCUの顧客の薬品を地元品へ切り替えたと伝えられる
- 悲観側の確率を上げる。中位品のシェアを守れるかを個別に確認する。
- 会社が、利益に対する還元の目安を上げる、または大きな自社株買いを決める
- 純現金の使い道が改善するので、余った現金の戻り方への確信が増す。
- 同業・基板関連の大手が、JCUに買収の提案をする
- 買収価格がどの確率の価値を上回るかを個別に見る。本質価値の計算には織り込まない。
見ておくもの
- 薬品の四半期の営業利益率と、半導体向け売上の伸び
- 熊本事業所の稼働と、次世代の硫酸銅めっきの認定の進み方
- 為替(円ドル)の水準と、海外子会社の利益の円換算
- 中期経営計画の次の段階の目標と、総還元性向
- 装置事業の受注と、基板・半導体の設備投資
倍率と資本コストの決め方
数量は市場の実質規模×シェア、価格は物価3%込みの名目(中立で10年1.34倍)で積み、利益率は事業の構造から置いた。倍率は、その時点の純利益に正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)(k6.5%、g4%、RONIC=k+残る割合1/2×(ROE−k))を当て、中立は上限の85%に置いた。利益の質(高い利益率と純現金)と、規模の小ささ・顧客の値下げ圧力・循環を見合わせた。悲観は純現金と売れる資産の税後で測った。今の株価は最後に比べただけで、今の倍率に寄せていない。製造業でリース負債は小さく、新リース会計基準での形の変化は無視できる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.7→22.3 倍・やや楽観 PER 15→21.13 倍・中立 PER 13.7→20.29 倍)。
資本コスト 6.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +0.25% を足して7.75%。個別の懸念(シェアが小さい・技術の転換・円安の追い風)は k に足さず、筋書きの利益率と確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 6.50%。