結論
モルガン・スタンレーは、顧客資産 10.5 兆ドル(2026 年 7〜9 月期末)を持つ米国最大級のウェルス・マネジメントと、世界有数の投資銀行・市場業務(ISG)、運用部門(IM)の 3 本柱の金融である。2008 年の危機以降、ジェームズ・ゴーマン氏とテッド・ピック氏の下で、ボラティリティの高い市場業務からウェルスへ軸足を移し、E*トレード(2020 年)とイートン・バンス(2021 年)の買収で顧客資産を積み上げた。2025 年の純利益は約 169 億ドル(ROE 15.1%)。2026 年 7〜9 月期は純収益 203 億ドル、税引前利益 65 億ドル、ROTCE 22.6% と 5 四半期続けて 20% を超え、ウェルスは過去最高の 91 億ドル(税引前利益率 30.4%)、純流入は 2,324 億ドルに達した。
バリュー投資の観点では、ウェルスの手数料型収益(手数料型資産 3.2 兆ドル)は予測しやすく、堀は広がっている。一方で全体の約半分を占める ISG は景気と市場の山谷で振れ、今の ROE は山に近い。資本コスト 8.5%(基本 8.0% + quality +0.5%。ISG の山谷 +0.5)・成長 4% のもとで、中立の ROE 14.7%(のれんと無形資産約 230 億ドルを除くと 16〜17%)から利益ベースの正当化 PER は約 14.6 倍。振れの大きさからその 8 割の約 11.7 倍が 10 年後の中立で、時価総額は約 3,195 億ドル。10 年の還元約 1,360 億ドルを足して割り戻した総合の価値は 2,239 億ドルで、今の時価総額 2,875 億ドルを 2 割ほど下回り、やや割高。上振れはウェルスの規模、下振れは ISG の循環が決める。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず 10 年後を問う。ウェルス・投資銀行・運用が組み合わさった事業は、金融危機でもむしろ地位を上げ、10 年後も存在し、おそらく今より強い。堀は顧客資産の規模と、顧客が口座を動かしにくいことにある。ただし堀の幅は JPモルガンの預金基盤ほど深くはなく、ISG は景気の山谷と規制に左右される。
次にオーナー利益。証券・ウェルスは、貸出が少ない分、自己資本の積み増しが小さく、利益の 7 割を株主に返せる。ただし株式報酬の増発が大きく、2025 年は還元(純利益の約 74%)のうち相当分が株数の維持に使われた。
安全域では、10 年後の中立の PER は ROE 14.7%・資本コスト 8.5%・成長 4% の式の上限 14.6 倍の 8 割で約 11.7 倍。確率で重みづけた 10 年後の価値は今の時価総額を約 2 割下回り、期待の年率 +4.4% は資本コスト 8.5% に届かず、安全域は無い。2026 年の ROTCE は 22.6% と山に近く、これが続くという前提は入れていない。優良な事業をやや高い価格で買う形。事業の確信度は高いが、値段はやや割高と見る。
何で稼ぐ会社か
モルガン・スタンレーは 3 つの部門から成る。ウェルス・マネジメントは約 1.6 万人の金融アドバイザー(FA)が富裕層を担当する助言付きの口座に加え、E*トレードのセルフ型の口座、企業の従業員向けの株式報酬の管理(ワークプレイス)を持つ。収益は、資産残高に連動する運用助言料(手数料型資産 3.2 兆ドル)、預かり現金の運用による純金利収益(四半期 23 億ドル前後)、取引手数料からなり、2026 年 7〜9 月期の純収益は 91 億ドル、税引前利益率は 30.4% である。ワークプレイスは顧客の企業の IPO で社員が持つ株を、助言付きの顧客へ取り込む入口になる。
機関投資家向け証券(ISG)は、投資銀行(M&A の助言・株式・債券の引受)と、株式・債券・為替・商品の市場業務に分かれる。株式部門は世界首位級で、プライム・ブローカリング(ヘッジファンド向けの融資・決済)が中核。2026 年 7〜9 月期は株式が前年比 41% 増の 58 億ドル、債券(固定収益)は 7.3% 減の 20 億ドル、投資銀行は 2% 増の 22 億ドル。運用部門(IM)はモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントとイートン・バンスで、運用資産は約 1.8 兆ドル。
収益の構成は、ウェルスが約 45%、ISG が約 45%、運用が約 9%。前者は景気にかかわらず積み上がる収益で、後者が上下のぶれを作る。
優良さと弱いところ
優良さは 4 つの柱で見る。第 1 は顧客資産の規模で、10.5 兆ドルの資産は FA、商品、技術、ブランドに配分でき、小さな競合には真似できない。ウェルスの顧客は一度入ると乗り換えにくい(口座の移管・助言の関係・税金)。第 2 は ISG の位置で、株式の引受・トレーディング・プライム・ブローカリングで世界首位級、顧客の資金調達の主幹事に入ると、ウェルスの顧客を紹介され、ウェルスの顧客から次の発行体が生まれる循環になる。第 3 は資本の厚さで、CET1 は 14.9%(規制の最低 11.8%)、ストレステストで決まる上乗せ(SCB)は 4.3% へ下がった。第 4 は経営で、2008 年に潰れかけた経験から、リスク管理を引き締め、ウェルスの比率を高める方針を 15 年貫いている。
資本効率は、ROTCE が 2026 年に 22% 前後、ROE は 15〜17%。会社の中期目標は ROTCE 20% 超で、規制資本が厚いほど ROE は抑えられる。弱い所は 3 つ。ISG の収益は市場の山谷で上下に振れること、ウェルスの手数料率は競合(バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン、シュワブ)と技術で長期に下がりやすいこと、ウェルスの純流入が企業の IPO(2026 年 4〜6 月期の流入の半分)に偏っていること。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
米国のウェルス・マネジメントは、モルガン・スタンレー(顧客資産 約 10.5 兆ドル、運用部門含む)、バンク・オブ・アメリカ(約 5.1 兆ドル)、JPモルガン、ゴールドマン・サックス(約 2.1 兆ドル)、UBS、ウェルズ・ファーゴ、シュワブ(13 兆ドル超)が競う。助言付きの口座は手数料型への移行が続き、モルガン・スタンレーの手数料型資産は 1 年で 2.65 兆ドルから 3.16 兆ドルへ増えた。金利が 3.5〜4% の世界では、顧客が預かり現金を高利の MMF へ移す動きが続き(キャッシュ・ソーティング)、純金利収益は伸びにくいが、2026 年は貸出の伸びと預かり現金の増加で成長した。
投資銀行・市場業務は、JPモルガン、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーの 3 社に集約している。2026 年は AI・データセンター向けの起債と M&A の回復が追い風で、規制緩和(バーゼル III 最終案の再提案・SLR の見直し)が大手の自社株買いの余力を広げる。ただし株式トレーディングの 41% 増は市場の混乱による売買の増加が一因で、持続性には疑問が残る。
業界のノートは、投資銀行・ウェルスの塊で ROE 13〜16% を見る(倍率の目安は古い資本コストのものなので使わない)。景気循環が最も大きい塊で、悲観は M&A・引受が半減、トレーディングに評価損が出る展開を下敷きにする。
資本政策と M&A
還元は配当と自社株買いである。2026 年 6 月に四半期配当を 15% 増やし、200 億ドルの複数年の自社株買い枠を再承認した。2025 年の配当は 67 億ドル・自社株買いは 58 億ドルで、合計は純利益の約 74%。ただし株式報酬の増発があり、株数は 1.1% しか減っていない。正味の還元は配当と、株数の減少分の合計で置く。CET1 は 14.9%、SCB は 4.3%(2027 年 10 月まで)で、規制の最低 11.8% に対し約 3 ポイントの余剰がある。
M&A は、2020 年の E*トレード(130 億ドル)、イートン・バンス(70 億ドル)、2021 年のモントリオールのフィンテック等と、ウェルス・運用の買収が中心。今後も運用・ワークプレイス領域の中規模の買収があり得る。大型の銀行買収は、規制と文化の違いから起こりにくい。買われる側になる可能性はほぼない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ウェルス・マネジメントは、資産管理の規模が堀になる事業で、モルガン・スタンレーは 10.5 兆ドルの顧客資産を持ち、毎四半期、数千億ドルの純流入を取り込んでいる(2026 年 7〜9 月期は 2,324 億ドル)。企業の IPO で生まれる資産家を、ワークプレイスの口座から助言付きの口座へ移せるのは、E*トレードと FA の両方を持つ同社だけの強みである。手数料型資産は 1 年で 19% 増え、税引前利益率は 30% を超えた。
ISG は、AI・データセンター向けの資金調達、M&A の回復、規制緩和による ROE の上昇で、2026 年の高水準が山ではなく新しい水準になりうる。株式部門は 58 億ドルと過去最高圏で、プライム・ブローカリングの顧客基盤はゴールドマン・サックスと並んで世界の 2 強。ROTCE は 5 四半期連続で 20% を超え、CET1 14.9% の余剰が資本規制の緩和で自社株買いに回れば、ROE は 17% を超える。10 年で顧客資産が 2 倍になれば、純利益は 2.4 倍になる。
2024 年から 2026 年にかけての利益の伸び(純利益 134 億ドルから年換算で約 190 億ドルへ)は、ウェルスの規模の利益と ISG の市場業務の強さの両方による。SCB が 5.1% から 4.3% へ下がったことも、資本を自社株買いに回す余力を広げた。
慎重な見方
2026 年の利益は山である。ROTCE 22.6%、株式部門の 41% 増は市場の混乱による売買の急増で、元に戻る性質のもの。2008 年の株価は 78% 下がり、2022 年は利上げで 25% 下がった。ISG の利益は景気で半分になりうる。
ウェルスの純流入の約半分は企業の IPO 関連の資産(2026 年 4〜6 月期)で、IPO が止まれば止まる。手数料率はパッシブ運用、シュワブ・バンガードの低価格、AI の助言ツールで長期に下がり、預かり現金は金利が高いほど MMF へ流れる。バンク・オブ・アメリカ・JPモルガン・ゴールドマン・サックスも同じ客を狙っている。
そして値段。PBR 2.6 倍・PER 17 倍は、資本コスト 8.5% の下でも ROE 15% 台が 10 年続くことを前提にしている。ISG の山の利益が平常に戻れば ROE は 13% 前後で、その前提に安全域はない。株式報酬の増発も、自社株買いの効果の半分を打ち消している。
買収で積み上げた規模は、同時に統合の複雑さと、2008 年のような危機での傷つきやすさも持つ。E*トレードの顧客は低コストのセルフ型で、助言付きの顧客へ移る割合は限られる。
どちらに重みを置いたか
事業の質はウェルスについて強気の見方が強く、確率は楽観・やや楽観の合計 36%、やや悲観・悲観の合計 32%、中立 32% と釣り合わせた。値段は両方の見方が拮抗する。ISG の山谷は quality の cycle で資本コストに織り込んだので、確率で重ねて悲観に寄せていない。資本コスト 8.5% では中立の ROE 14.7%(のれんを除くと 16% 台)に利益ベースの式で PER 11.7 倍が付き、価値は今の時価総額を 2 割ほど下回る。悲観は構造的な負け(12%)で、ROE が資本コストを下回るので PER 10.4 倍(PBR 約 0.66 倍)で測った。結論は「優良だが、値段はやや割高」である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 198.39 ドル3,158 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 79.57 ドル1,267 億ドル)。 今の値に割り戻すと 140.66 ドル2,239 億ドル、今との差 −23.5%、 期待の年率 +4.2%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 335.70 ドル5,344 億ドル | 94.85 ドル1,510 億ドル | +134.0% | +8.9% | 51.67 ドル823 億ドル |
| やや楽観 | 24% | 255.44 ドル4,067 億ドル | 90.45 ドル1,440 億ドル | +88.0% | +6.5% | 83.01 ドル1,322 億ドル |
| 中立 | 32% | 200.68 ドル3,195 億ドル | 85.43 ドル1,360 億ドル | +55.5% | +4.5% | 91.55 ドル1,458 億ドル |
| やや悲観 | 20% | 126.83 ドル2,019 億ドル | 67.84 ドル1,080 億ドル | +5.8% | +0.6% | 38.93 ドル620 億ドル |
| 悲観 | 12% | 60.11 ドル957 億ドル | 46.48 ドル740 億ドル | −42.1% | −5.3% | 12.79 ドル204 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 198.39 ドル3,158 億ドル | 79.57 ドル1,267 億ドル | +51.1% | +4.2% | 277.96 ドル4,425 億ドル |
今の株価時価総額 183.97 ドル2,929 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 12% 楽観:ウェルスの規模が堀を広げ、ROE が 17% を保つ 利益 395 億ドル · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 335.70 ドル5,344 億ドル
2035 年末、ウェルスの顧客資産は 20 兆ドル(年 9.4%)。企業の株式報酬の口座から富裕層・助言付きの口座へ顧客を移す流れが続き、手数料型の比率が上がる。収益は 740 億ドル、税引前利益率は 33%。ISG は世界のプール 6,000 億ドルの 11.5%(690 億ドル)。運用部門は 4.2 兆ドルで 139 億ドル。純利益は約 400 億ドル、ROE は 17%、10 年の正味の還元は 1,510 億ドル。成長は名目 4% に落ち着いた後でも、式の上限 15.4 倍の 8.8 割で PER 13.5 倍が付く。 同時に、手数料型の比率が上がるほど収益は景気に左右されにくくなり、ISG の山谷を吸収する。AI で助言業務の費用が下がり、FA 1 人あたりの顧客資産が増えて利益率が改善する。競合の追随は技術投資と規制のコストで難しく、堀はむしろ広がる。
- ウェルス・マネジメント:数量 200,000(顧客資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの純収益の率(運用助言料・純金利収益・取引手数料))→ 売上 740 億ドル・営業利益 244 億ドル。顧客資産 年 9.4%・規模の利益
- 機関投資家向け証券(ISG):数量 6,000(世界の投資銀行・市場業務の収益プール(億ドル))× 価格 11.5%(モルガン・スタンレーのシェア)→ 売上 690 億ドル・営業利益 235 億ドル。シェアを維持・拡大
- 運用部門(IM):数量 42,000(運用資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの報酬率)→ 売上 139 億ドル・営業利益 39 億ドル。運用資産が 2.5 倍
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.50%)。事業の ROE 17.5%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 2260 億ドル)、残る割合 1/2(普通 1/2)で RONIC 13.0%、g 4.0%(ウェルスの預かり資産と手数料の伸びで長期の名目は 4% 前後。式は g 4% で計算する)。式の値は 15.4 倍で、これが検査の上限になる。ウェルスの規模で堀が広がる優良な金融。 上限の 8.8 割の 13.5 倍に置いた。
確率:ウェルスの顧客獲得(企業の株式報酬・E*トレード)と規制緩和が実現し、市場業務のシェアも守る。10 年を通じた実現は 1 割強。
やや楽観 24% やや楽観:ウェルスは名目並みに伸び、利益率は 31% を保つ 利益 323 億ドル · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 255.44 ドル4,067 億ドル
2035 年末、ウェルスの顧客資産は 18 兆ドル(年 8.2%)、手数料率は年 0.8% ずつ下がって収益は 648 億ドル、税引前利益率は 31%。ISG は世界のプール 5,400 億ドルの 11%(594 億ドル)。景気後退を 1〜2 回挟んでも、資本の厚みと手数料型収益の安定で ROE は 15〜16% を保つ。AI の導入で助言業務の費用は下がるが、競合も同じ投資をするため利益率の改善は限られる。純利益は約 330 億ドル、10 年の正味の還元は 1,440 億ドル。PER は式の上限 15.0 倍の 8.4 割で 12.6 倍。
- ウェルス・マネジメント:数量 180,000(顧客資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの純収益の率(運用助言料・純金利収益・取引手数料))→ 売上 648 億ドル・営業利益 201 億ドル。資産 年 8.2%
- 機関投資家向け証券(ISG):数量 5,400(世界の投資銀行・市場業務の収益プール(億ドル))× 価格 11.0%(モルガン・スタンレーのシェア)→ 売上 594 億ドル・営業利益 193 億ドル。プール 年 6%
- 運用部門(IM):数量 37,000(運用資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの報酬率)→ 売上 118 億ドル・営業利益 31 億ドル。運用資産 年 8%
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.50%)。事業の ROE 16.1%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 2010 億ドル)、残る割合 1/2(普通 1/2)で RONIC 12.3%、g 4.0%(ウェルスの預かり資産と手数料の伸びで長期の名目は 4% 前後。式は g 4% で計算する)。式の値は 15.0 倍で、これが検査の上限になる。ウェルスの規模で堀が広がる優良な金融。 上限の 8.4 割の 12.6 倍に置いた。
確率:ウェルスの地位が保たれ、規制も大きく変わらない。起こりやすい。
中立 32% 中立:ウェルスは年 7%、市場業務はシェア横ばい、ROE は 15% 前後 利益 274 億ドル · PER 11.7 倍 · 株価時価総額 200.68 ドル3,195 億ドル
2035 年末、ウェルスの顧客資産は 16.5 兆ドル(年 7.2%)、手数料率は年 0.8% ずつ下がり、収益は 586 億ドル、税引前利益率は 30%。ISG は世界のプール 4,900 億ドルの 10.5%(515 億ドル)で、投資銀行・株式・債券の 3 本柱を保つが、シェアは広がらない。運用部門は 3.4 兆ドルで 105 億ドル。景気後退を 2 回挟み、そのたびに利益は 3〜4 割落ちるが、ならすと年 5.5%増。10 年後の純利益は約 280 億ドル、ROE は 14.4%(平均自己資本で 15%)、10 年の正味の還元は 1,360 億ドル。PER は成熟した優良金融として、式の上限 14.6 倍の 8 割の 11.7 倍。
- ウェルス・マネジメント:数量 165,000(顧客資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの純収益の率(運用助言料・純金利収益・取引手数料))→ 売上 586 億ドル・営業利益 176 億ドル。資産 年 7.2%・手数料率 年 0.8% 低下
- 機関投資家向け証券(ISG):数量 4,900(世界の投資銀行・市場業務の収益プール(億ドル))× 価格 10.5%(モルガン・スタンレーのシェア)→ 売上 514 億ドル・営業利益 159 億ドル。シェア横ばい
- 運用部門(IM):数量 34,000(運用資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの報酬率)→ 売上 105 億ドル・営業利益 26 億ドル。運用資産 年 7%
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.50%)。事業の ROE 14.7%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 1860 億ドル)、残る割合 1/2(普通 1/2)で RONIC 11.6%、g 4.0%(ウェルスの預かり資産と手数料の伸びで長期の名目は 4% 前後。式は g 4% で計算する)。式の値は 14.6 倍で、これが検査の上限になる。ウェルスの規模で堀が広がる優良な金融。 上限の 8.0 割の 11.7 倍に置いた。
確率:議論の落としどころ。ウェルスは堅調に伸びるが、手数料率の低下と競合(バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス)で利益率は 30% 前後。
やや悲観 20% やや悲観:手数料率の低下と競合で利益率が縮み、ROE は 11% 台 利益 188 億ドル · PER 10.7 倍 · 株価時価総額 126.83 ドル2,019 億ドル
2035 年末、ウェルスの顧客資産は 14 兆ドル(年 5.5%)にとどまり、手数料率が年 1.5% ずつ下がって収益は 476 億ドル、利益率は 26%。AI の助言ツールとパッシブ運用の拡大で、顧客が高い手数料を払わなくなる。ISG は世界のプール 4,200 億ドルの 9.5%(399 億ドル)で、ゴールドマン・サックスと JPモルガンに押される。純利益は約 195 億ドル、ROE は 10.7%、10 年の正味の還元は 1,080 億ドル。優良金融から普通の金融に近づき、PER は式の上限 13.1 倍の 8.2 割で 10.7 倍。
- ウェルス・マネジメント:数量 140,000(顧客資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの純収益の率(運用助言料・純金利収益・取引手数料))→ 売上 476 億ドル・営業利益 124 億ドル。資産 年 5.5%・手数料率が低下
- 機関投資家向け証券(ISG):数量 4,200(世界の投資銀行・市場業務の収益プール(億ドル))× 価格 9.5%(モルガン・スタンレーのシェア)→ 売上 399 億ドル・営業利益 108 億ドル。シェアを落とす
- 運用部門(IM):数量 28,000(運用資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの報酬率)→ 売上 81 億ドル・営業利益 18 億ドル。パッシブ化で報酬率が低下
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.50%)。事業の ROE 11.0%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 1710 億ドル)、残る割合 1/2(普通 1/2)で RONIC 9.7%、g 4.0%(ウェルスの預かり資産と手数料の伸びで長期の名目は 4% 前後。式は g 4% で計算する)。式の値は 13.1 倍で、これが検査の上限になる。ウェルスの規模で堀が広がる優良な金融。 上限の 8.2 割の 10.7 倍に置いた。
確率:ウェルスの手数料競争(バンガード・シュワブ・低価格の助言)とデジタル化が進む展開。起きても不思議はない。
悲観 12% 悲観:構造的に負ける(手数料の崩壊・市場業務の失速・大きな不祥事) 利益 92 億ドル · PER 10.4 倍 · 株価時価総額 60.11 ドル957 億ドル
2035 年末、ウェルスの顧客資産は 10.5 兆ドルにとどまり、手数料率が 0.31% まで下がる(今の 0.39% から 2 割減)。顧客が低価格のロボアドバイザーとパッシブ運用に移り、助言の価値が薄まる。ISG は技術投資で他行に及ばず、シェアは 8% に落ちる。加えて大きな不祥事か市場業務の損失で、顧客の信頼を失う。純利益は約 100 億ドル、ROE は 6.4%。もう優良な金融ではなく、普通の証券会社として PER 10.4 倍で測る。10 年の正味の還元は 740 億ドル。 一度失った信頼とシェアは戻らず、優秀な FA は競合へ移る。規制当局が資本の上乗せを課し、還元も絞られる。ウェルスの顧客資産の伸びが市場並みを下回るため、利益は 10 年で伸びない。
- ウェルス・マネジメント:数量 105,000(顧客資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの純収益の率(運用助言料・純金利収益・取引手数料))→ 売上 326 億ドル・営業利益 65 億ドル。手数料の崩壊
- 機関投資家向け証券(ISG):数量 3,400(世界の投資銀行・市場業務の収益プール(億ドル))× 価格 8.0%(モルガン・スタンレーのシェア)→ 売上 272 億ドル・営業利益 54 億ドル。シェアを大きく落とす
- 運用部門(IM):数量 21,000(運用資産残高(億ドル))× 価格 0.00(残高あたりの報酬率)→ 売上 55 億ドル・営業利益 8 億ドル。報酬率が低下
倍率:事業の ROE 6.3%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 1460 億ドル)が k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.50%)以下なので、PER は 1÷k = 11.8 倍まで(ためた利益は額面未満の価値。SCHEMA §1-1)。ウェルスの規模で堀が広がる優良な金融。 上限の 8.8 割の 10.4 倍に置いた。
確率:手数料の崩壊、市場業務のシェア喪失、リスク管理の失敗がそろう確率を 1 割強と置く。2008 年の再現ではなく、構造的な負け。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
ウェルス・マネジメント
富裕層・個人・企業従業員向けの助言と取引、預かり現金、貸出。顧客資産の残高と手数料率で稼ぐ。
| 数量顧客資産残高(億ドル) | 価格残高あたりの純収益の率(運用助言料・純金利収益・取引手数料) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 82,000 | 0.00 | 320 | 91 |
| 10 年後 中立 | 165,000 | 0.00 | 586 | 176 |
取り方:2025 年末の顧客資産を約 8.2 兆ドルと概算し、純収益約 320 億ドル(推定)を割った率 0.39%。営業利益は税引前利益の推定(利益率 28%)。米国のウェルスでは、シュワブ(Charles Schwab、顧客資産約 10 兆ドル)・フィデリティ(Fidelity)・メリルリンチ(Merrill、バンク・オブ・アメリカ)と並ぶ最大手の一角。率は名目の顧客資産に対する割合なので、物価の分は残高(中立で 3 年 1.24 倍・10 年 2.0 倍)の側に入り、率まで物価で上げると二重になる。率が少しずつ下がるのは、率の低い E*トレードの自己運用口座と職域(株式報酬の口座)の比重が増えることと、シュワブ・バンガード(Vanguard)の低価格・AI の助言との競争による。
機関投資家向け証券(ISG)
投資銀行(M&A・引受)と市場業務(株式・債券・為替)、プライム・ブローカリング。
| 数量世界の投資銀行・市場業務の収益プール(億ドル) | 価格モルガン・スタンレーのシェア | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,000 | 10.7% | 320 | 112 |
| 10 年後 中立 | 4,900 | 10.5% | 514 | 159 |
取り方:世界の投資銀行手数料(約 1,300 億ドル)と大手の市場業務の収益(約 1,700 億ドル)を合わせて約 3,000 億ドル(推定)と置き、ISG の純収益約 320 億ドルのシェア 10.7%。営業利益は税引前利益の推定。競合はゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)・JPモルガン・バンク・オブ・アメリカで、株式の売買・引受では上位、債券では中位。収益プールは名目の取引額とともに物価以上に伸びる(中立で 10 年 1.63 倍)ので、シェアは物価で上げない。
運用部門(IM)
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントとイートン・バンス。投信・ファンド・オルタナティブ。
| 数量運用資産残高(億ドル) | 価格残高あたりの報酬率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 17,000 | 0.00 | 60 | 15 |
| 10 年後 中立 | 34,000 | 0.00 | 105 | 26 |
取り方:運用資産を約 1.7 兆ドルと概算し、純収益約 60 億ドル(推定)を割った率 0.35%。営業利益は税引前利益の推定。ブラックロック(BlackRock)・バンガードなどの大手と比べ規模は中位。運用資産は名目の資産価格で膨らむので物価の分はそこに入り、報酬率はパッシブ化で少しずつ下がると置いた。
リスクと懸念
市場業務の山と景気後退
ISG の利益は株式・債券の売買と M&A・引受の山谷で上下する。2026 年の株式部門の 41% 増は市場の混乱による売買の増加が一因で、元に戻る性質のもの。景気後退で投資銀行は半減し、トレーディングに評価損が出れば、純利益は 3〜5 割減る。リーマンで株価は 78% 下がった。 3 年に 1 度は利益が大きく落ちる前提で、ならした利益で値段を見る必要がある。
ウェルスの手数料率の低下
パッシブ運用の拡大、シュワブ・バンガードの低価格、AI の助言ツールで、助言付きの手数料率は長期に下がる。ウェルスの収益は残高 × 率で、率が年 1% 下がれば 10 年で 1 割減る。顧客資産が増えても利益は伸びにくい。 率が下がっても資産が増え続ける限り収益は増えるが、利益率の改善余地は小さくなる。
預かり現金と純金利収益
短期金利 3.5〜4% では、顧客の現金が高利の MMF やステーブルコインへ流れ、預かり現金の収益が減る。ウェルスの純金利収益は四半期 23 億ドル前後で、預かり現金が 2 割減れば利益率が 1〜2 ポイント下がる。 預かり現金は貸出に回せば利ざやを稼げるが、貸出の信用リスクを取ることにもなる。
純流入の偏り(IPO 依存)
2026 年 4〜6 月期の純流入 1,480 億ドルの半分は、顧客企業の IPO に伴う資産だった。IPO 市場が止まれば流入も減る。ワークプレイスの資産を助言付きの顧客へ移せるかが、持続性の分かれ目。 流入が減ると手数料型資産の伸びも鈍り、ウェルスの収益成長が市場並みに戻る。
株式報酬と自社株買いの効率
株式報酬の増発が大きく、2025 年は自社株買いに 58 億ドルを使いながら株数は 1.1% しか減らなかった。見かけの還元(純利益の約 74%)の価値は、正味では 5〜6 割にとどまる。 株式報酬は人材の確保に必要な費用であり、実質の利益は会計上の純利益より小さい。
規制・リスク管理・経営の継承
資本規制(SCB・バーゼル III)の変更で還元が増減する。2008 年のような市場業務の損失、プライム・ブローカリングの顧客破綻(2021 年のアルケゴスで同業は多額の損失)のような事故が起こりうる。ピック氏の後の経営の継承も長期の不確実性。 同業のゴールドマン・サックスは 2020 年代に消費者向け事業から撤退した経験があり、事業の拡大には規律が要る。
今後の分かれ目
- ウェルスの純流入が IPO を除いても年 3% を超え、手数料型資産が増え続けたら
- ウェルスの規模の堀が確認でき、楽観・やや楽観の確率を上げ、PER を 1 倍ほど上げて見る。
- 株式部門の収益が 2026 年の水準(58 億ドル)から 2 割以上下がり、ROTCE が 18% を割ったら
- 山が終わった合図。中立の利益水準を下げ、やや悲観の確率を上げる。
- 資本規制の緩和(SLR・バーゼル III)が確定して、CET1 の余剰が自社株買いに回ったら
- ROE が 1〜2 ポイント上がり、楽観・やや楽観の確率を上げる。PER を 1 倍ほど上げて見る。
- 短期金利が下がらずに預かり現金の比率が 2 割下がったら
- ウェルスの純金利収益が縮み、税引前利益率が 28% 台へ下がる。やや悲観の確率を上げる。
- 景気後退が来て投資銀行が半減し、ウェルスの顧客資産が 3 割下がったら
- 悲観の筋書きに入る。ただし CET1 14.9% と手数料型収益で配当は維持でき、悲観の筋書き(時価総額 957 億ドル)が下の目安。
- ピック氏が退任し、後継の経営方針が不透明になったら
- 資本配分の規律が保たれるかを確信度に反映する。方針の継続が確認できれば確率は動かさず、大型買収へ転換するなら、ROE と g を下げて式で倍率を引き直す。
見ておくもの
- ウェルスの純流入(IPO 関連を除く)と手数料型資産の増加
- ウェルスの税引前利益率(30% 超を保てるか)と預かり現金の比率
- 株式部門・債券部門の収益(2026 年の山からの戻り)
- CET1 比率と SCB(2027 年 10 月の更新)、自社株買いの規模
- IPO・M&A の件数と投資銀行の手数料プール
- ROTCE(20% 超を保てるか)
倍率と資本コストの決め方
今の PER 17.1 倍・PBR 2.58 倍を見る前に、3 部門ごとの顧客資産・収益プール × シェアから利益を積み上げ、ROE・g・k から利益ベースの正当化 PER を出し、その 7〜9 割に倍率を置いた。k は基本 8.0% + quality +0.5% の 8.5%、g は 4%(k − g = 4.5%)。中立の 10 年後 PER 11.7 倍は、式の上限 14.6 倍(ROE 14.7%、RONIC 11.6%)の 8 割。2026 年の利益は山に近いと見て、将来の利益は年 5.5% 増にならした。ウェルスの手数料率は競争で物価並みには上げず、ISG は収益プールが名目で伸びる前提でシェアを置いた。過去の中央値や今の PER には寄せていない。金融の借金(顧客預金・短期調達)の金利は事業の費用に入るため、利払いは別に足していない。表の純利益・自己資本は優先株を除く普通株の値。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality +0.50% = 8.50%。内訳は cycle +0.50・pricing +0.00・debt +0.00・life +0.00(%)で、理由は quality_why。β は使わない。個別の懸念(市場の山谷・ウェルスの手数料率・規制資本)は k に足さず、筋書きの数量・利益率と確率で表した。