結論
江崎グリコは、ポッキーやプリッツで知られる菓子の会社だ。いま稼いでいるのは、国内ではなく海外である。
筆者の結論は、今の値段はやや割高、である。理由は、海外の伸びを十分に見込んでも、国内の乳業の赤字と菓子の原価高が全体の利益を押さえ続けると考えるからだ。
2025 年 12 月期の売上は 3,614 億円で営業利益は 87 億円。利益率は 2.4% まで落ちた。2024 年の基幹システム障害と、2025 年のチョコレート製品の回収が重なった結果である。
それでも事業の芯は傷んでいない。海外事業は売上が 907 億円、営業利益が 82 億円。東南アジアと中国で伸びており、全社の利益はほぼ海外だけで支えられている。
問題は乳業だ。2025 年は 71 億円の営業赤字で、国内の菓子と食品の利益 58 億円を食い潰した。ここが黒字に戻るかどうかが、10 年後の姿を分ける。
財務は強い。純現金が 646 億円あり、自己資本比率は 70% を超える。ただ、現金は戻ってこなければ株主のものにならない。2026 年に 250 億円の自社株買いを決めたのは、大株主から強い圧力を受けたあとのことだ。
中立の筋書きでは、10 年後に営業利益が 300 億円弱まで戻り、ROE は 7% 台にとどまる。これは資本コストをわずかに上回る水準で、高い倍率を払える会社ではない。
海外が倍に育ち、乳業の穴もふさがれば、今の値段を大きく上回る。逆に乳業の赤字が居座れば、価値は今の半分を割る。差の大きい会社だが、確率の重みは慎重な側に寄る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10 年後もこの会社は強いか」を問う。ポッキーの名前は消えない。強みは残る。
次に「稼いだ利益が株主の手元に残るか」を問う。ここが弱い。過去 10 年の ROE は中央値で 5.5%、資本コストに届かなかった。純現金が 646 億円あっても、事業がそれ以上に稼げなければ、現金は株主の価値を薄める重りになる。
経営者の資本配分も見る。海外への投資は成果が出ている。一方、乳業に積み上げた設備と、持ち合い株の保有は、効率の面で説明が弱い。大株主に押される形で自社株買いが出てきたことは、自発的な規律とは呼びにくい。
最後に安全域を見る。海外が伸び、乳業が黒字に戻ればいい会社になる。しかし戻る保証はない。予測しにくい部分が大きい会社には、確信度を下げる。
筆者の整理はこうだ。商品力のある会社だが、いまの値段には、改善が実現する前提がかなり織り込まれている。改善が本物かどうか見えるまで、払いたい値段ではない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 3 つある。国内の菓子・食品、乳業、海外だ。
国内の菓子・食品(売上 2,042 億円)は、ポッキー、プリッツ、カプリコ、ビスコなどの栄養菓子と、パピコなどのアイスクリーム、アーモンド効果に代表される健康食品、食品原料の集まりだ。コンビニとスーパーの棚に並べてもらう商売で、強いのは商品名の知名度である。2025 年の営業利益は 58 億円と薄く、チョコレート製品の回収が響いた。
乳業(売上 665 億円)は、プッチンプリンやヨーグルト、牛乳などの冷蔵品を作る。冷蔵品は日持ちしないので、工場と配送の固定費が重い。他社ブランドの飲料を受託して作る仕事も持つ。2024 年 4 月の基幹システム切り替えで出荷が止まり、売上が 20% 落ちた。翌年に売上は戻ったが、営業赤字は 71 億円に広がった。
海外(売上 907 億円)は、ポッキーを軸に、東南アジアや中国などで売る。2023 年から 2025 年にかけて売上が 712 億円から 907 億円に伸び、営業利益は 42 億円から 82 億円に倍増した。2026 年の上期も売上が前年同期より 32% 伸びている。
全社でみると、海外が売上の 4 分の 1 を占め、利益では全体を上回る。国内は菓子の黒字が乳業の赤字を埋められない形だ。
この会社の設計図は、国内で安定した現金を生み、それを海外の成長に回すものだった。いまは国内の現金を生む力が弱っている。そこが大株主の突く点でもある。
優良さと弱いところ
強みは、日本人なら誰でも知っている商品名にある。ポッキーやプリッツは数十年売られていて、棚の定位置を持つ。
海外でもポッキーは名前が通る。現地の味に合わせる力もある。韓国のロッテ(ペペロ)という似た商品の競合がいるが、アジアではグリコの名で売れている。
弱みは 3 つある。第 1 に、国内の菓子は原材料の値上がりを価格に移しきれていない。2026 年上期の栄養菓子の営業利益は、前年同期の半分に減った。カカオの値上がりと原価率の悪化が主因だ。
第 2 に、乳業の経営がうまくいっていない。システム障害のあとも赤字が縮まらなかった。ここは単なる一時的な傷でなく、冷蔵品の固定費と他社ブランド受託への依存という構造の問題を含むと筆者は見る。
第 3 に、品質管理と内部統制に疑問符が付いた。システム障害とチョコレート製品の回収が 2 年続いた。大株主はこれを取締役会の監督の弱さの表れだと批判している。
資本効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値は 5.5% で、資本コストを下回り続けてきた。現金と投資有価証券が積み上がり、稼ぐ力に比べて資産が重い。
経営の質を一言でいえば、商品は強いが、経営の締めが甘い。商品力のある会社が資本を持て余している状態は、改善の余地として歓迎できる。ただ、本当に変わるのかは、まだ見えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
菓子市場は、金額では広がっている。2025 年の国内の菓子の小売は 4 兆円を超え、前年から 5% 増えた。ただしほとんどは値上げの効果だ。食べる量は人口とともにじわじわ減る。
栄養菓子は、チョコレート、ビスケット、スナックの競争だ。国内ではロッテ、明治、森永製菓、カルビーが相手になる。上位数社でほぼ決まる市場で、棚を取るには商品名と営業力が要る。カカオ豆と乳製品の高騰は、どこも同じ重荷だ。
乳業は別の世界である。競合は明治、森永乳業、雪印メグミルクなど。生乳の価格が上がり続け、スーパーの自社商品との競争も厳しい。冷蔵品は規模の差が利益率に出るので、グリコは小さい側にある。
海外は成長市場だ。中国と東南アジアの菓子の小売市場は、あわせて十数兆円の大きさがある。グリコの海外売上はその 1% にも届かない。うまくいけば 10 年で 2,000 億円台にのせられるが、現地の菓子会社、ロッテ、ネスレ、モンデリーズが同じ市場を狙う。
筆者の見立てでは、国内の数量は 10 年で 1 割弱減り、単価の上昇で売上を守る形になる。海外の数量は年 4〜5% 伸びる。この差が、会社の重心を海外へ移していく。
業界の今後の分かれ目は 3 つだ。カカオ・乳製品の価格、健康志向の商品の育ち方、そして海外での現地化の速さである。
資本政策と M&A
資本政策は、いま会社と大株主の綱引きの最中にある。
ダルトン・インベストメンツが発行済株式の 10.27% を持つ(2025 年 8 月の変更報告書)。2024 年の株主総会では、配当の決定機関をめぐる提案に 42.9% の賛成が集まった。2026 年には社外取締役 2 名の選任と、350 億円を上限とする自社株買いを提案した。会社は反対している。
会社側は、大株主が 5 年で発行済株式の 4 割超の自社株買いや、投資ファンドと組んだ非公開化を求めていると主張する。主張の当否は別として、買収の話が現実味を帯びている。
会社はこれに対し、2026 年に 250 億円を上限とする自社株買いを決めた。中期経営計画(2025〜2027 年)では ROE 6〜8%、配当性向 45% 以上、政策保有株を純資産の 10% 以下に減らす方針を掲げる。
1 株あたりの配当は 2020 年から 2025 年にかけて約 1.5 倍に上がった。ただ 2025 年は利益が細ったため、配当性向は 120% に達した。自社株買いは 2022 年の約 50 億円だけだった。
現金を貯め込んできた過去と、250 億円の自社株買いを決めた今のどちらが本当の姿か。筆者はまだ判断できない。
株主優待は、100株以上で1,200〜1.8千円相当、1,000株以上で最大7.2千円相当の自社グループ商品。会社は優待の費用を開示していないため、株主 約4万人(自社商品の原価と送料)から年5億円と推定した。優待は株主が受け取る現物の還元なので、10年の還元に年額×10年を、中立1.0・やや悲観0.75・悲観0.5の係数で足した(費用は販管費として利益から引き済みで、自己資本の流れには入れない)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
海外の成長は本物である。2023 年から 2025 年で営業利益が 42 億円から 82 億円に倍増し、2026 年の上期は売上が 32% 増、営業利益が 66% 増と勢いを増している。東南アジアと中国の菓子市場はまだ数倍の余地があり、グリコの売上はそのごく一部しか取れていない。ポッキーの商品名が通る間に現地での生産を増やせば、10 年後の海外売上は 2,500 億円台に届く。
国内の悪い材料は、傷が一時的だ。システム障害もチョコレート製品の回収も、原因が特定され、対策が打たれた。2023 年の営業利益は 186 億円あり、稼ぐ力は戻る。乳業は 2021 年に黒字だった。工場の再編と他社ブランド受託の整理で、赤字の穴はふさげる。
さらに外部の力が働いている。大株主が 10% を持ち、非公開化の話まで出ている。会社は 250 億円の自社株買いを決め、政策保有株も減らす。資本の効率化が進めば、ROE は 6〜8% の目標を超えて 10% 台に乗る。買収が実現すれば、時価総額に上乗せの価格が付く可能性もある。
これらが重なれば、10 年後の営業利益は 500 億円を超え、今の値段を大きく上回る。
慎重な見方
利益の質に疑問がある。2025 年は売上が 9% 増えたのに、営業利益は 21% 減った。海外が稼いでも、国内で食われている。2026 年の通期予想は、上期の増益にもかかわらず営業利益を 140 億円から 120 億円に下げた。
乳業の赤字は構造的だ。2024 年のシステム障害が引き金だったにせよ、売上が戻った 2025 年に赤字がむしろ広がった。冷蔵品は固定費が重く、競合に規模で劣る。これを黒字にするには工場の閉鎖など痛みを伴う手が要るが、会社はまだ具体策を示していない。
国内の菓子は原価高を価格に移しきれていない。2026 年の上期は栄養菓子の営業利益が半減した。品質の問題が 2 年続いたことも、ブランドと営業力の土台を傷める。
海外の成長にも限りがある。中国と東南アジアでは現地メーカーとロッテなどが追い上げる。海外の利益率は上期の 14% が高すぎる水準で、長続きしにくい。
資本政策は大株主の圧力で動いており、自発的ではない。2025 年の配当性向は 120% で、これ以上は続かない。今の株価は利益の 60 倍を超える。利益が戻る前提でなければ説明できない値段だ。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は海外の成長に根拠がある。ただし国内の傷は、原因が 2 年続けて別の事故で、一過性と言い切れない。乳業の構造赤字も未解決のままだ。確率は中立を中心に置きつつ、やや悲観と悲観の合計を 37% と、楽観側の 27% より重くした。
乳業の赤字が縮まる証拠が出るまで、慎重な側の言い分が勝つ。海外の利益率が 10% を超えて 2 年続けば、重みは楽観側へ動く。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 5,165 円3,087 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,119 円1,266 億円)。 今の値に割り戻すと 3,907 円2,335 億円、今との差 −22.3%、 期待の年率 +3.8%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 12,221 円7,304 億円 | 3,096 円1,850 億円 | +204.8% | +11.8% | 1,072 円641 億円 |
| やや楽観 | 20% | 8,026 円4,797 億円 | 2,594 円1,550 億円 | +111.3% | +7.8% | 2,124 円1,269 億円 |
| 中立 | 36% | 5,309 円3,173 億円 | 2,175 円1,300 億円 | +48.9% | +4.1% | 2,694 円1,610 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,689 円1,607 億円 | 1,820 円1,088 億円 | −10.3% | −1.1% | 1,127 円674 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,004 円600 億円 | 1,213 円725 億円 | −55.9% | −7.9% | 266 円159 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,165 円3,087 億円 | 2,119 円1,266 億円 | +44.9% | +3.8% | 7,284 円4,353 億円 |
今の株価時価総額 5,026 円3,004 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 海外が倍増し、乳業の穴もふさがる10年 利益 397 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 12,221 円7,304 億円
海外が 10 年で 2.0 倍の数量に育つ。ポッキーに続く現地向けの商品が当たり、中国と東南アジアで生産が増え、利益率は 13% 台に乗る。海外の営業利益は 340 億円近くに届き、会社の稼ぎの 6 割を占める。
国内は、健康食品とアーモンド効果が育ち、チョコレート製品の回収の傷も癒える。栄養菓子は価格転嫁が進み、国内の菓子・食品の営業利益率は 6% 台に戻る。乳業は工場の再編と受託の整理で黒字に戻る。
資本政策も動く。政策保有株が減り、自社株買いが続く。ROE は 14% を超える。大株主との対話が実を結び、会社は国内の穴を自力でふさぐ。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年5億円×10年×1.0=50億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 乳業事業:数量 5.3(出荷数量(億個、プリン・ヨーグルト・飲料などの個数換算))× 価格 179(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 951 億円・営業利益 33 億円。乳業が黒字に戻る
- 海外事業:数量 18.1(販売数量(億個、袋・箱・カップの個数換算))× 価格 138(1個あたりの円換算の出荷単価(円、名目))→ 売上 2,498 億円・営業利益 337 億円。東南アジア・中国が倍増
- 国内の菓子・食品ほか:数量 20.0(出荷数量(億個、菓子・アイス・健康食品・原料の個数換算))× 価格 145(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 2,898 億円・営業利益 188 億円。栄養菓子と健康食品が回復
倍率:事業の純利益 394 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)200 億円。全体の PER 17.4 倍、時価総額 7,108 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外が倍増し、乳業の赤字も消え、国内の菓子が回復する、の 3 つが同時に起きる必要がある。買収の可能性を含めても 1 割に届かない。
やや楽観 20% 海外が柱に育ち、国内は横ばいを守る10年 利益 288 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 8,026 円4,797 億円
海外が数量で 1.75 倍になる。ポッキーを軸にした現地向けの商品が広がり、利益率は 11% 台後半を保つ。海外の営業利益は 250 億円前後に達し、全社の柱になる。
国内の菓子・食品は、人口減を単価の上昇で補い、営業利益率は 5% 台に戻る。乳業は赤字を抜け、小幅な黒字になる。
自社株買いと配当を続け、ROE は 10% 台に乗る。ただし乳業と菓子の収益力は、昔の水準までは戻らない。
大株主の圧力も効く。政策保有株が減り、経営は資本効率を意識するようになる。会社の目標 ROE 6〜8% は上回るが、10 年を通じて絶好調とまではいえない。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年5億円×10年×1.0=50億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 乳業事業:数量 5.0(出荷数量(億個、プリン・ヨーグルト・飲料などの個数換算))× 価格 177(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 884 億円・営業利益 18 億円。乳業は小幅黒字
- 海外事業:数量 15.9(販売数量(億個、袋・箱・カップの個数換算))× 価格 136(1個あたりの円換算の出荷単価(円、名目))→ 売上 2,162 億円・営業利益 249 億円。海外が約 1.75 倍
- 国内の菓子・食品ほか:数量 19.5(出荷数量(億個、菓子・アイス・健康食品・原料の個数換算))× 価格 143(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 2,785 億円・営業利益 139 億円。国内は横ばい
倍率:事業の純利益 285 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)200 億円。全体の PER 15.18 倍、時価総額 4,572 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外が柱に育つ道筋には実績がある。乳業の黒字化は小幅にとどまる前提で、大きな上振れを求めない形なので、楽観より厚く置いた。
中立 36% 海外の伸びが国内の足踏みを補い、利益は倍以上に戻る10年 利益 211 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 5,309 円3,173 億円
海外は数量が 1.55 倍、価格は物価並みの 1.34 倍で、売上は約 1,900 億円。利益率は 10% で、営業利益は 190 億円前後になる。2025 年の 82 億円の倍以上だ。
国内の菓子・食品は、数量が人口減で 3% ほど減るが、単価で補う。原価高の転嫁は進まず、営業利益率は 4% にとどまる。乳業は規模を縮めつつ、赤字を抜けてほぼ均衡する。
全社の営業利益は 300 億円弱。過去の好調期(5〜6%)に戻るだけで、それを大きく超えない。資本コストをわずかに上回る ROE に落ち着く。配当と自社株買いは続く。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年5億円×10年×1.0=50億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 乳業事業:数量 4.7(出荷数量(億個、プリン・ヨーグルト・飲料などの個数換算))× 価格 174(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 819 億円・営業利益 8 億円。乳業は損益ほぼ均衡
- 海外事業:数量 14.1(販売数量(億個、袋・箱・カップの個数換算))× 価格 134(1個あたりの円換算の出荷単価(円、名目))→ 売上 1,884 億円・営業利益 188 億円。海外が約 1.55 倍
- 国内の菓子・食品ほか:数量 18.9(出荷数量(億個、菓子・アイス・健康食品・原料の個数換算))× 価格 141(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 2,659 億円・営業利益 106 億円。国内は人口減を単価で補う
倍率:事業の純利益 208 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)200 億円。全体の PER 12.88 倍、時価総額 2,918 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外の伸びが続き、国内は人口減を単価で補う、最も多くの材料で支えられる道。乳業は赤字を抜け出す程度の前提で、確率を最大にした。
やや悲観 25% 乳業の赤字と国内の原価高が居座り、海外だけでは足りない10年 利益 107 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 2,689 円1,607 億円
乳業の赤字が 10 年を通じて残る。工場の再編が遅れ、冷蔵品の固定費が重く、営業赤字は 20 億円弱で居座る。
国内は、カカオと乳製品の高止まりで原価率が悪化し、価格転嫁も思うように進まない。営業利益率は 3% にとどまる。海外は数量が 1.25 倍に鈍り、現地メーカーとの競争で利益率は 7% 台に下がる。
全社の営業利益は 150 億円強。ROE は 4% 程度にとどまる。配当は維持するが、自社株買いは大きくは続かない。余った現金は食われ、買収の失敗に使われる可能性も残る。
大株主との対立は長引き、経営の意思決定は後手に回る。海外の勢いは続くが、国内の穴を埋めるには足りない。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年5億円×10年×0.8=37.5億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 乳業事業:数量 4.2(出荷数量(億個、プリン・ヨーグルト・飲料などの個数換算))× 価格 166(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 699 億円・営業利益 −17 億円。乳業の赤字が残る
- 海外事業:数量 11.3(販売数量(億個、袋・箱・カップの個数換算))× 価格 128(1個あたりの円換算の出荷単価(円、名目))→ 売上 1,446 億円・営業利益 108 億円。海外は約 1.25 倍に鈍る
- 国内の菓子・食品ほか:数量 17.8(出荷数量(億個、菓子・アイス・健康食品・原料の個数換算))× 価格 134(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 2,392 億円・営業利益 72 億円。国内の原価高と競争
倍率:ROE 4% が k 7.75% 以下なので、PER の上限は 1÷k の 13.8 倍(ためた利益は額面未満の価値)。その 8 割の 11.0 倍。乳業の赤字と国内の原価高が続き、利益の質が低い筋書き。余った現金は、自社株買い 250 億円を使った後の 200 億円の 0.75 倍(150 億円)とし、戻り方 0.5 を掛ける。
確率:乳業の赤字が居座り、国内の原価高が続く道。2024 年と 2025 年の 2 年連続の不祥事・事故、2026 年の下方修正という実績があり、起きやすさは中立に近い。
悲観 12% 乳業の縮小と国内の低採算が重なり、海外の伸びも止まる10年 利益 13 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,004 円600 億円
乳業は縮小し、赤字が 30 億円規模で続く。冷蔵品の工場を閉じても固定費の回収が追いつかない。国内の菓子はブランド力が傷み、価格競争に巻き込まれて営業利益率は 1% 程度まで落ちる。
海外も数量の伸びが止まる。中国・東南アジアで現地メーカーとロッテなどに押され、利益率は 4% に下がる。品質問題が再発し、ブランドの信頼が揺らぐ。
利益はほぼ消える。配当は維持できず、10 年の還元は現金と資産の売却で約 700 億円にとどまる。事業の稼ぎでなく、現金と売れる資産が価値を支える。
10 年後の会社は、かつての優良な菓子メーカーというより、現金と看板を持つ中堅の食品会社になっている。再編や買収の対象として扱われる可能性もあるが、ここでは値の上振れとして数えない。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年5億円×10年×0.5=25億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 乳業事業:数量 3.4(出荷数量(億個、プリン・ヨーグルト・飲料などの個数換算))× 価格 153(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 522 億円・営業利益 −31 億円。乳業は縮小・赤字
- 海外事業:数量 8.6(販売数量(億個、袋・箱・カップの個数換算))× 価格 118(1個あたりの円換算の出荷単価(円、名目))→ 売上 1,015 億円・営業利益 41 億円。海外の伸びが止まる
- 国内の菓子・食品ほか:数量 16.2(出荷数量(億個、菓子・アイス・健康食品・原料の個数換算))× 価格 124(1個あたりの出荷単価(円、名目))→ 売上 2,007 億円・営業利益 20 億円。国内は低採算
倍率:利益は 13 億円とほぼ消え、稼ぐ力(約 180 億円)では値が付かない。床は現金と売れる資産の税後 600 億円で、これに置いた(今の自己資本 2,779 億円の 0.22 倍)。余った現金は床の中に含む。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.2522 倍・時価総額 600 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:乳業が縮小に向かい、海外の伸びも止まる重い筋書き。品質問題の連鎖や主要市場での競争負けが重なる必要があるが、直近の事故の多さと冷蔵品の構造赤字から 12% を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
乳業事業
プッチンプリン、ヨーグルト、牛乳などの冷蔵品と、他社ブランド飲料の受託製造。売上構成比 18%。
| 数量出荷数量(億個、プリン・ヨーグルト・飲料などの個数換算) | 価格1個あたりの出荷単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 5.1 | 130 | 665 | −71 |
| 10 年後 中立 | 4.7 | 174 | 819 | 8 |
取り方:2025/12 期のセグメント売上 665 億円を、プリン・ヨーグルト・飲料などの標準的な出荷単価で割って個数を概算した(推定)。営業損益 −71 億円はセグメントの区分利益。単価は物価並みに上がり 10 年 1.34 倍が中立。数量は人口減と競争で中立 10 年 0.92 倍。国内の冷蔵乳製品は明治・森永乳業・雪印メグミルクなどが並ぶ成熟市場で、グリコは規模の小さい側にある。
海外事業
ポッキーを軸に、東南アジアや中国などで売る菓子とアイス。売上構成比 25%。
| 数量販売数量(億個、袋・箱・カップの個数換算) | 価格1個あたりの円換算の出荷単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 9.1 | 100 | 907 | 82 |
| 10 年後 中立 | 14.1 | 134 | 1,884 | 188 |
取り方:海外売上 907 億円を、袋・箱・カップの標準的な円換算の出荷単価で割って個数を概算した(推定)。区分利益 82 億円。中国・東南アジアの菓子の小売は合わせて十数兆円あり、グリコのシェアは 1% 未満。中立は数量が 10 年で 1.55 倍(年 4.5%)、価格は物価並みの 1.34 倍。円換算 150 円固定のため国内と同じ 1.34 倍とした。
国内の菓子・食品ほか
ポッキー・プリッツ・カプリコ・ビスコなどの栄養菓子、パピコなどのアイス、アーモンド効果など健康食品、食品原料。売上構成比 57%。
| 数量出荷数量(億個、菓子・アイス・健康食品・原料の個数換算) | 価格1個あたりの出荷単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 19.5 | 105 | 2,042 | 58 |
| 10 年後 中立 | 18.9 | 141 | 2,659 | 106 |
取り方:国内その他事業(売上 772 億円)とその他(1,270 億円。栄養菓子・健康食品・食品原料など)の合計 2,042 億円を、菓子・アイスなどの標準的な出荷単価で割って個数を概算した(推定)。営業利益 58 億円は 2 つの区分利益の合計(7 億円と 51 億円)。単価は物価並みの 10 年 1.34 倍。数量は人口減で中立 10 年 0.97 倍。日本の菓子の小売は 4 兆円超で、グリコの国内売上は市場の 1 割に届かない。
リスクと懸念
乳業の構造的な赤字
乳業は 2025 年に 71 億円の営業赤字を出し、国内菓子の利益を食い潰した。システム障害のあと売上は戻ったのに赤字は広がっており、冷蔵品の固定費の重さ、他社ブランドの受託への依存などの構造の問題を含む。工場の再編が遅れれば、全社の利益回復を数年遅らせる。
品質管理と内部統制
2024 年の基幹システム切り替えによる出荷停止と、2025 年のチョコレート製品の回収が続いた。大株主は取締役会の監督機能の弱さを批判している。3 度目が起これば、棚の確保力と海外ブランドの信頼を傷める。
カカオと乳製品の原価高
2026 年上期の栄養菓子は、売上がほぼ横ばいのまま営業利益が 51% 減った。カカオ、乳製品、包装資材の高騰を価格に移しきれていない。原価高が長引くと、国内の利益率の回復が遅れる。
海外の競争と現地の事業環境
中国と東南アジアでは、現地の菓子会社とロッテ、ネスレ、モンデリーズが同じ市場を狙う。海外の営業利益率は 2026 年上期に 14% まで上がったが、この水準が続く保証はない。為替・関税・地政学の影響も受ける。
大株主との対立と非公開化の話
ダルトンは 10.27% を持ち、社外取締役の選任と自社株買いを求めて提案を重ねている。会社は、大株主が投資ファンドと組んだ非公開化を想定していると主張している。経営が揺れる間、事業判断が遅れる恐れがある。逆に買収が実現すれば株価は大きく動く。
資本の使い方
純現金 646 億円と政策保有株が積み上がり、ROE は過去 10 年の中央値で 5.5% にとどまる。2025 年の配当性向は 120% に達した。250 億円の自社株買いが単発で終われば、資本効率の改善は進まない。
今後の分かれ目
- 乳業の工場再編や受託の整理が具体的に発表されたら
- 乳業の赤字が縮む確度が上がる。やや楽観・中立側に重みを移してよい。
- 海外の営業利益率が 10% を超えたまま 2 年続いたら
- 海外の稼ぐ力が定着したと判断し、楽観・やや楽観の確率を上げる。
- 原材料価格の高止まりで栄養菓子の営業利益が 2 年続けて減ったら
- 国内の収益性が戻らないとみて、やや悲観・悲観に重みを移す。
- 品質や情報システムの事故が再び起きたら
- ブランドと経営管理への信頼が傷む。悲観側の確率を上げる。
- 大株主の提案が総会で過半の賛成を得る、または非公開化の動きが具体化したら
- 資本政策が大きく動く。買収価格の議論が始まり、値は大きく変わりうる。
- 自社株買いが 250 億円で終わらず、毎年続く方針が示されたら
- 余った現金の戻り方を 1.0 に近づけ、価値の見積もりを上げる。
見ておくもの
- 海外事業の売上と営業利益率(2026 年 12 月期の通期、上期は 14%)
- 乳業事業の営業損益と工場再編の発表
- 栄養菓子の営業利益と原価率(カカオ・乳製品)
- 自社株買い 250 億円の実施状況と、2027 年以降の還元方針
- 大株主(ダルトン)の持株比率の変化と、総会での賛成率
- チョコレート製品の回収・システム障害の再発の有無
倍率と資本コストの決め方
3 つのセグメントごとに数量(個数換算、実質)と単価(円、名目)を置き、10 年後の営業利益を積んだ。倍率は式で決めた。中立は ROE が 7% 台半ばで資本コスト 7.75% をわずかに上回るので、下限の 1÷k である 13.8 倍に近い 13.9 倍にした。式の上限は 14.0 倍。今の株価(PER 60 倍超、PBR 約 1.1 倍)には寄せていない。今の利益が極端に低いので、PER で今の株価を測ること自体に意味がない。余った現金は 450 億円と見て、戻り方を 0.5 とした。悲観は稼ぐ力ではなく、現金と売れる資産の床から置いた。今の株価が倍でも半分でも、この計算の値は動かない。 持ち合い株の含み益(税後152億円)と賃貸不動産の含み益(税後約59億円)は、配当と賃料が純利益に残るので足していない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17.2→17.4 倍・やや楽観 PER 14.8→15.18 倍・中立 PER 13.9→12.88 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality −0.25% を足した。事業が傾いているわけではないので上乗せはしない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.25% → 7.75%。