結論
プレミアムウォーターホールディングスは、家庭にウォーターサーバーを置き、天然水を定期的に届ける会社だ。契約は182万件、売上は約800億円、営業利益は126億円。筆者の結論は「ほぼ適正」で、いちばんの理由は、稼ぎの大半が次の顧客を獲るために消えていく構造にある。
稼ぎの源は単純だ。契約が1件増えれば、毎月の水代が入り続ける。会社はこの積み上がりを「ストック利益」と呼び、約340億円のうち約210億円を新しい契約の獲得に使っている。残りが営業利益だ。
足元の勢いは強い。営業利益は8期連続で増え、解約率も下がっている。5年契約の比率が高まり、高機能サーバーも売れている。ただ、国内の宅配水の市場は前年比1%ほどの伸びにとどまる。伸び悩む市場で会社だけが伸び続ける図は、10年は続きにくい。
株主の側から見ると、親会社の光通信グループが議決権の大半を握る。自己資本比率は24%と薄く、サーバーの購入は借金に頼る。この2点が、価値を割り引く理由だ。
契約を2割ほど積み、1件あたりの売上が物価並みに上がれば、10年後の中立の純利益は今の6割増になる。ただし資本コストで割り引くと、今の時価総額に近い値段に収れんする。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い事業だが、価格が高くなりやすい事業」だ。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益を考える。営業利益は126億円だが、会社が使う獲得コストは210億円ある。この獲得コストを「成長のための投資」と見れば、事業が稼ぐ力は営業利益より大きい。逆に、解約を埋めるための「維持費」と見れば、営業利益が本当の稼ぎに近い。どちらが正しいかは、解約率の本当の水準で決まる。会社は具体的な数字を示していない。筆者はこの点を最も気にしている。
堀は、規模と物流と長期契約にある。ただし宅配水という商品そのものが、給水型や浄水器に置き換わる恐れを抱えている。10年後に今と同じ形で存在するかは、確信が持てない。
資本の使い方は評価できる。配当を厚く出し、借金を使いすぎてはいない。一方で、親会社2社が議決権の7割を持つので、少数株主の取り分は親会社の判断に左右される。
安全域はどうか。足元の営業利益の水準を10年伸ばしても、今の値段に対して大きな余裕は残らない。強気の筋書きでは2倍近いが、弱気の筋書きでは半分に近い。幅の大きさ自体が、確信度を下げる。結局、極端に割安でも割高でもない、という評価になる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、宅配水の定期契約だ。顧客の家にサーバーを貸し、天然水のボトルを届ける。1件あたりの売上は年4万円ほどで、毎月の水代が積み上がる。
水は岐阜などの水源で採水し、自社の工場で詰め、約5割を自社の物流で届ける。残りは販売店や提携先に任せる。営業員は約1,300人。商業施設の売り場に立つ対面営業が長く得意だった。いまはWebやテレマーケティングへの移行を進めている。
契約は長期化している。新規の9割が5年契約で、全顧客の半分近くがすでに5年契約だ。解約の少ない契約が増えれば、獲得コストの負担は将来軽くなる。新規に占める高機能サーバーの比率も、前期の16%から46%へ上がった。単価が高く、解約も少ないとされる。
電力会社・ガス会社などへの他社ブランドでの供給(OEM)も広げている。ラストワンマイル社、INEST社との資本提携で、販路を増やす狙いだ。
この事業は、売上より契約数で読むのが正しい。売上は契約の数と単価で決まり、獲得コストをどこまで使うかで利益が動く。会社が公表する「ストック利益」から獲得コストを引いたものが、営業利益になる。
財務の形も他の飲料会社と違う。サーバーは自社で持って顧客に貸すため、設備投資と借入が先に出る。営業キャッシュフローは約220億円あるが、投資に約110億円が出ていく。自己資本比率は24%で、清涼飲料の大手が5〜6割を保つのと比べ薄い。
優良さと弱いところ
首位であることが、この会社の最大の堀だ。堀とは、他社がまねできない強みのことである。会社は宅配水で3年連続のシェア首位を掲げている。この数字は会社の自己申告で、第三者の調査では確認できていない。
規模が効く場面は3つある。工場と物流の自前化、約1,300人の営業網、それに高機能サーバーの開発だ。自社物流が5割を超え、1本あたりの運賃を抑えている。
長い契約も強みだ。5年契約は、縛りの期間だけ解約を止める。ただし、これは堀というより「縛り」である。契約が切れる時に、顧客が他社や浄水器へ移れば、縛りは外れる。
弱みは3つある。第1に、商品が水の宅配だけに偏っている。第2に、価格を自分で決めきれない。ガス会社系・レンタル系・異業種が参入し、値引きと特典で競う。第3に、毎年の獲得コストが営業利益の1.7倍にのぼり、止めると利益は増えるが顧客が減る。成長を買う構造だ。
資本効率は高い。ROEは26%と、過去10年の中央値25%と同水準だ。ただし自己資本が小さいから高く見える面があり、薄い自己資本の裏返しでもある。
経営は、配当性向を5割前後で保ち、小さな自社株買いも出した。資本の使い方に規律はあるが、借金を増やしながら顧客を獲る構造には、景気や金利の変化に弱い面がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の宅配水は、成長の終盤から成熟へ移りつつある。矢野経済研究所によると、2025年度の宅配水市場は約1,800億円で、前年度比は1%増。顧客件数もボトルの本数も伸び悩んでいる。
伸びているのは給水型・浄水型のサーバーだ。水道水をそのまま浄化して出すので、ボトルを運ぶ手間も費用もない。世帯普及率は9〜10%でまだ低い。伸びしろがあるのは確かだが、その中身は宅配水ではなく、水道直結型や給水型かもしれない。
競合は3つのグループに分かれる。ガス会社系、レンタル・オフィスサービス系、そして異業種からの参入組だ。アクアクララやコスモウォーターなど、宅配水の専業も多い。首位の規模で、獲得コストと物流の単価が競合より安く済むかどうかが勝負になる。
コスト面の逆風もある。ペットボトルのリサイクル規制、物流の人手不足、水の採水と運搬の費用が上がる。物価3%の世界では、水の値上げは通りやすいが、他社が値上げしなければ顧客は動く。
もうひとつは世帯数だ。日本の世帯数は2030年ごろがピークで、その後は減る。世帯あたりの契約を増やさない限り、国内の市場は伸びにくい。
この市場では、清涼飲料の他社とは稼ぎ方が違う。ペットボトルの飲料は売り切りだが、宅配水は契約して毎月届ける。数量の単位は契約件数だ。サントリー食品などの飲料大手と比べるときは、同じ領域でも、数量が「出荷量」でなく「契約件数」である点に注意がいる。
資本政策と M&A
資本の使い方は、顧客獲得と配当に偏っている。
稼ぎの半分は配当に回る。配当性向は50%前後を保ち、増配を続けてきた。カタログギフトの株主優待もある。小さな自社株買い(5億円)も実施した。
借入でサーバーを買い、顧客に貸す。自己資本比率は24%で、会社は30%を目標に掲げる。
株主構成は、他の飲料大手と大きく違う。有価証券報告書では、光通信が親会社、HCMAアルファがその他の関係会社だ。HCMAアルファが約40%、光通信が約30%を持ち、2社で約7割に達する。少数株主にとっては、将来の完全子会社化の可能性と、親会社の都合で資本政策が決まる不確実さの両方がある。外部の見方でも、10年以内に買収される確率は22%ほどとされる。
M&Aは、買収より資本提携が中心だ。ラストワンマイル社、INEST社の株を持ち、販路を広げた。大型の買収で資産を積み上げる飲料大手の型とは違う。
株主優待は、100株以上で5千円相当のカタログギフト。会社は優待の費用を開示していないため、株主 約1.5万人(カタログ品の原価と送料)から年5億円と推定した。優待は株主が受け取る現物の還元なので、10年の還元に年額×10年を、中立1.0・やや悲観0.75・悲観0.5の係数で足した(費用は販管費として利益から引き済みで、自己資本の流れには入れない)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
首位の規模は、時間とともに効いてくる。宅配水の世帯普及率はまだ10%に届かず、海外と比べても低い。ガスや電力の会社がOEMで売り先を広げれば、会社は工場と物流の稼働率を上げながら顧客を増やせる。
解約の少ない5年契約が、全顧客の半分を占めるところまで来た。新規の90%が5年契約で、高機能サーバーの比率は46%に上がっている。1件あたりの売上が上がるうえ、解約も減るなら、毎年の獲得コストの負担はこれから軽くなる。
獲得コストを使う構造は、裏を返せば利益の余力でもある。会社は、ストック利益の約6割を将来の顧客に回している。成長が鈍ったら、それを抑えれば営業利益は一気に増える。解約を埋めるだけの獲得で足りるなら、いまの営業利益は本来の稼ぐ力の半分以下かもしれない。
岐阜北方工場が本格稼働し、自社物流が5割を超えた。1本あたりの原価はこれから下がる。会社が自分で最低ラインと位置づける今期予想(営業利益135億円)を超え、年率10%の成長を続ければ、10年で利益は2倍以上になる。親会社の光通信グループは、長期の純投資として株を持ち続けている。
慎重な見方
伸びているのは、市場ではなく会社のシェアだけだ。宅配水の市場は前年比1%増にとどまり、顧客件数もボトルの本数も伸び悩んでいる。会社が純増を続けるほど、獲得の競争は激しくなる。
長い契約は、堀に見えて縛りだ。5年契約の比率を上げるほど、将来の解約が先送りされているだけともいえる。契約が切れる時期に、顧客が給水型や浄水器に移れば、解約は一度に出る。会社は解約率の水準を示していない。
獲得コストは、毎年210億円も出ていく。営業利益の1.7倍だ。獲得を止めれば利益は増えるが、顧客は減る。つまり、本当に稼いでいるのかを判断する材料が足りない。
財務も薄い。自己資本比率は24%で、飲料大手の半分以下だ。サーバーは借金で買う。金利が3%台に上がれば、利払いが利益を削る。
親会社2社が議決権の約7割を握る。少数株主は、親会社の都合で資本政策や再編が決まる立場だ。そのうえ、直近の純利益は前期比5割増と大きく跳ねている。一時的な要因があるなら、足元の利益を10年伸ばす前提は危うい。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分には、首位の規模・物流・長い契約という実体がある。慎重な言い分には、市場が伸びない事実と、解約の水準が見えないという欠点がある。
筆者は、市場の頭打ちを重く見た。強気の根拠は会社の自己申告に偏っており、第三者の数字で裏づけられるものが少ない。そこで確率を、やや悲観と悲観に合わせて35%ほど置き、楽観とやや楽観は28%に抑えた。中立は37%と中心に厚くした。
結果、総合の本質価値は、今の時価総額を少し上回る程度にとどまった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,471 円1,975 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,847 円564 億円)。 今の値に割り戻すと 4,426 円1,351 億円、今との差 +15.9%、 期待の年率 +8.1%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 11,758 円3,588 億円 | 2,605 円795 億円 | +276.0% | +14.2% | 1,149 円351 億円 |
| やや楽観 | 20% | 9,818 円2,996 億円 | 2,310 円705 億円 | +217.5% | +12.2% | 2,426 円740 億円 |
| 中立 | 37% | 7,663 円2,339 億円 | 1,992 円608 億円 | +152.8% | +9.7% | 3,572 円1,090 億円 |
| やや悲観 | 22% | 3,001 円916 億円 | 1,512 円462 億円 | +18.1% | +1.7% | 993 円303 億円 |
| 悲観 | 13% | 551 円168 億円 | 819 円250 億円 | −64.1% | −9.7% | 178 円54 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,471 円1,975 億円 | 1,847 円564 億円 | +117.7% | +8.1% | 8,318 円2,538 億円 |
今の株価時価総額 3,820 円1,166 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 宅配水の普及が進み、首位の規模が利益率を押し上げる10年 利益 214 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 11,758 円3,588 億円
宅配水が、家庭の水の選び方として定着する。世帯普及率は10%弱から15%近くに上がり、会社の契約は280万件に届く。高機能サーバーの比率が高いまま保たれ、1件あたりの売上は物価を少し上回って伸びる。
獲得コストは、契約の積み上がりで相対的に軽くなる。解約が少ない5年契約が全体の大半を占め、毎年の新規獲得に使うお金は利益の中で小さくなる。物流の自社比率と工場の稼働が上がり、1本あたりの原価も下がる。
光通信グループとの関係も安定し、電力・ガス会社向けのOEM(他社ブランドでの供給)が数十万件の上乗せになる。営業利益率は18%台まで上がり、利益の半分を配当に回しても自己資本は厚くなる。ROEは20%前後に落ち着く。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年5億円×10年×1.0=50億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 宅配水(ウォーターサーバーの定期契約):数量 280(保有契約件数(万件、期末))× 価格 6.18(1件あたりの年間売上(万円・名目))→ 売上 1,730 億円・営業利益 320 億円。普及と高機能化で単価も上がる
倍率:事業の純利益 214 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 26.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 17.2%、10 年より先の名目の伸び g 2.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍。全体の PER 16.07 倍、時価総額 3,439 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世帯普及率が1割台後半まで進み、首位が高機能サーバーで単価も上げるには、市場と自社の両方が計画以上に伸びる必要がある。重なる確度は高くない。
やや楽観 20% シェアを少しずつ広げ、獲得コストの重さが軽くなる10年 利益 178 億円 · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 9,818 円2,996 億円
市場はゆっくり広がり、会社は契約を250万件まで積む。首位の物流網とブランドで、新規の獲得は競合より安く済む。電力・ガス会社向けのOEMも少しずつ積み上がり、新規の獲得の一部を担う。
高機能サーバーの割合が上がり、1件あたりの売上は物価より少し速く上がる。5年契約の比率が高まって解約が減るので、毎年の獲得コストの負担は今より軽くなる。工場と物流の稼働率が上がり、1本あたりの原価もゆっくり下がる。営業利益率は17%台半ばまで上がる。
借金を使ってサーバーを増やす構図は続くが、利益の伸びで自己資本比率は30%に近づく。配当性向は5割前後を保ち、ROEは18%ほどになる。会社が掲げる年10%のストック利益の成長には届かないが、堅実な成長が10年続く姿だ。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年5億円×10年×1.0=50億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 宅配水(ウォーターサーバーの定期契約):数量 250(保有契約件数(万件、期末))× 価格 6.05(1件あたりの年間売上(万円・名目))→ 売上 1,512 億円・営業利益 265 億円。シェア拡大・獲得コストが軽くなる
倍率:事業の純利益 178 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 25.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 16.5%、10 年より先の名目の伸び g 2.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.0 倍。全体の PER 15.97 倍、時価総額 2,843 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の年10%のストック利益成長ほどではなく、顧客は増え続けるが獲得コストの重さは残る。国内の宅配水が伸び悩む中で、5年契約の効果が出る筋書きで、確度は中程度。
中立 37% 市場はゆるく伸び、首位がじわりとシェアを取る10年 利益 139 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 7,663 円2,339 億円
市場は国内の人口減と世帯数の頭打ちで急には伸びない。それでも世帯普及率は10%台前半まで上がり、会社はシェアを3分の1から36%ほどに広げて契約を220万件台に積む。
1件あたりの売上は、物価並みに上がる。新しい高機能サーバーの単価増と、原材料・物流費の転嫁が打ち消し合う。営業利益率は16%で、直近の水準をわずかに上回る。人手不足で物流費は上がるが、自社物流の効率化で吸収する。
獲得コストを使い続ける構造は変わらない。ストック利益が毎年1割増える会社目標には届かず、4〜5%の成長にとどまる。利益の半分は配当に回り、ROEは16%弱で落ち着く。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年5億円×10年×1.0=50億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 宅配水(ウォーターサーバーの定期契約):数量 223(保有契約件数(万件、期末))× 価格 5.91(1件あたりの年間売上(万円・名目))→ 売上 1,319 億円・営業利益 211 億円。ゆるい普及・シェアじわり拡大
倍率:事業の純利益 139 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.0%、10 年より先の名目の伸び g 2.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍。全体の PER 15.76 倍、時価総額 2,191 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場は前年比1%増と伸び悩む一方、会社は純増を続けている。首位の規模・物流と5年契約の定着を素直に延ばした中心の筋書き。親会社2社が支配する構造と借金の薄い自己資本は、悲観側の確率に回した。
やや悲観 22% 市場の頭打ちと値下げ競争で、増えない顧客を抱える10年 利益 70 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 3,001 円916 億円
宅配水の市場が前年比1%程度という足元の姿が続く。給水型の浄水サーバーの伸びで、宅配水から顧客が少しずつ移る。会社の契約は純増が止まり、170万件へゆるく減る。
獲得コストの単価は上がる。商業施設での対面営業の環境が悪く、Webやテレマーケティングに移る分、競合との獲得競争が激しくなる。新規の高機能サーバーを値引きしてでも獲り続けなければ、解約を埋められない。
1件あたりの売上は物価に追いつかず、営業利益率は12%まで下がる。借金の利払いが3.5%前後に上がり、純利益の取り分も細る。それでも契約と物流の基盤は残り、稼ぐ力は薄いながら続く。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年5億円×10年×0.8=37.5億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 宅配水(ウォーターサーバーの定期契約):数量 170(保有契約件数(万件、期末))× 価格 5.52(1件あたりの年間売上(万円・名目))→ 売上 938 億円・営業利益 113 億円。純増が止まり値引きが増える
倍率:ROE約10%、k7.5%。成長はほぼ止まり、g を2%に落として式に当てはめた正当化PERは約13倍。構造的な負けの手前なので、さらに低い11.5倍に置いた。7割へは引き上げていない。
確率:宅配水の市場が1%程度でほぼ横ばいという事実を重く見て、会社の純増が止まる筋書きを厚めに置いた。物流費・人件費の上昇と値引き競争が重なる想定。
悲観 13% 給水型・浄水器に顧客を奪われ、長い契約が重荷に変わる10年 利益 16 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 551 円168 億円
家庭の水が、水道直結の浄水や給水型サーバーに構造的に置き換わる。宅配水は、ボトルを運ぶ手間と費用が嫌われる商品になり、契約は120万件まで減る。
5年契約は、縛りが解けるころに一斉に解約へ向かう。解約を埋めるための獲得コストは減らせず、1件あたりの売上も値下げ競争で物価に追いつかない。営業利益率は5%に落ち込み、利益はほとんど残らない。
サーバーの資産は貸し出し先が減って回収が進まず、減損が出る。借金の借り換えで3.5%前後の金利が重くのしかかり、自己資本比率はさらに薄くなる。配当は、手元の資金を取り崩して辛うじて保つ。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年5億円×10年×0.5=25億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 宅配水(ウォーターサーバーの定期契約):数量 120(保有契約件数(万件、期末))× 価格 4.85(1件あたりの年間売上(万円・名目))→ 売上 582 億円・営業利益 29 億円。顧客が給水型に流れ、利益が消える
倍率:ROE約4%がk7.5%を下回るので、PERの上限は1÷k(12.9倍)。純利益16億円がほぼ唯一の稼ぎで、純現金も売れる資産も借金が上回るため、床はこの稼ぐ力に置いた。先細る利益なので上限の約8割の10.5倍(168億円)にとどめる。
確率:単一の商品、自己資本比率24%、親会社2社による支配、獲得コストを毎年投じる構造が同時に効く筋書き。給水型・浄水器への移行が一気に進めば、長期契約の顧客が解約で一斉に減る。構造の弱さを確率に反映した。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
宅配水(ウォーターサーバーの定期契約)
サーバーを貸し、天然水のボトルを届ける定期契約。OEM供給も含む。
| 数量保有契約件数(万件、期末) | 価格1件あたりの年間売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 182 | 4.41 | 803 | 126 |
| 10 年後 中立 | 223 | 5.91 | 1,319 | 211 |
取り方:保有契約182万件(会社開示)、売上803億円から1件あたり年4.41万円を逆算。数量は実質(契約件数)、価格は名目で中立は10年で物価並みの1.34倍。市場の推定:世帯普及率9.7%×世帯数約5,700万で約550万世帯、会社は3分の1の位置。中立は市場550万→620万世帯(普及率11%)、シェア33%→36%で約223万件(10年1.23倍)。矢野経済研究所の宅配水市場は前年度比1%増で、伸びは普及率の上昇と首位のシェア拡大から出す。営業利益はセグメント1つなので全社と同じ。
リスクと懸念
宅配水市場そのものの頭打ち
宅配水の市場は前年度比1%増にとどまり、顧客件数もボトルの本数も伸び悩んでいる。会社の純増はシェアの拡大でつくっているので、市場が縮めば獲得の競争が激しくなり、獲得コストが上がる。給水型・浄水型へ顧客が移る動きも続く。
解約率の実際の水準が見えにくい
会社は解約率が前期から0.14ポイント改善したと説明するが、水準は示していない。5年契約の比率を上げるほど、解約が将来に先送りされるだけの面もある。契約の満期が重なる時期に解約が出れば、顧客数の前提が崩れる。
親会社2社の支配と少数株主の立場
光通信が親会社、HCMAアルファがその他の関係会社で、2社で議決権の約7割にのぼる。資本政策・再編・完全子会社化の判断は親会社の都合で決まる。外部の見方では、10年以内の買収の確率は22%ほどだ。
薄い自己資本と借入の金利
自己資本比率は24%で、サーバーの購入と工場投資を借入でまかなう。純有利子負債は約370億円。借換えの金利が3%台半ばに上がれば、純利益の取り分が削られる。景気後退で資金調達が細れば、獲得を続けにくくなる。
物流費・人件費・環境規制のコスト増
人手不足で運賃と人件費が上がる。ペットボトルのリサイクル規制や容器の軽量化にもコストがかかる。値上げを通せなければ、営業利益率は直近の15.8%から下がる。自社物流が5割あるぶん、運賃の上昇を直接受ける。
獲得コストと営業利益の見かけ
稼ぎの約6割にあたる210億円を毎年、顧客の獲得に使う。これを成長の投資と見るか維持の費用と見るかで、本当の稼ぐ力が変わる。直近の純利益は前期比5割増と大きく跳ねており、一時的な要因があれば、足元の利益を前提にできない。
提携先・持分法投資先の動き
ラストワンマイル社、INEST社などの持分法適用会社の業績や、販路としての機能が想定を下回る恐れがある。提携先の都合で販路が変わると、新規獲得の効率が落ちる。
今後の分かれ目
- 会社が解約率の具体的な水準を開示したら
- 年率で10%台前半を下回るなら、獲得コストの多くが成長の投資とみなせる。楽観側に確率を寄せる。20%近い水準なら、営業利益が本当の稼ぎに近く、悲観側に寄せる。
- 宅配水の市場が前年度比で減少に転じたら
- 会社の純増の前提が崩れ、数量の前提を中立から悲観寄りに引き下げる。
- 光通信などが完全子会社化(TOB)を発表したら
- 本質価値は変わらない。提示価格を本質価値の計算結果と比べて、少数株主にとっての値打ちを判断する。
- 電力・ガス会社向けのOEMが、数十万件規模で積み上がったら
- 会社の契約数の前提を上方修正し、やや楽観側に重みを移す。
- 借入の金利が想定より上がり、利払いが営業利益の1割を超えたら
- 純利益の前提を下げ、自己資本比率の目標(30%)の達成を見直す。
- 獲得コストを抑えても、純増が続くようになったら
- 獲得の効率が上がった証拠で、営業利益率の前提を上方修正する。
見ておくもの
- 保有契約件数(200万件の達成時期)と、純増の中身(新規−解約)
- 解約率の水準と、5年契約の満期を迎える顧客の動き
- 新規獲得の営業チャネルの比率(対面・Web・OEM)
- 営業利益率と、獲得コストに使うストック利益の割合
- 自己資本比率(目標30%)と純有利子負債の推移
- 光通信グループ・HCMAアルファの持株比率の変化
倍率と資本コストの決め方
宅配水の1つのセグメントで、契約件数(実質)と1件あたり年間売上(名目)の積で10年を置き、営業利益率と純利益÷営業利益の比(過去の中央値0.70の近く)から利益を出した。倍率は、k7.5%(基本7.5%+quality+0.25%)の利益ベースの正当化PERの上限に対し、中立は8割、悲観側は構造から低く置いた。今の株価・過去のPER・同業の倍率は使っていない。自己資本は「今+純利益の合計−還元」で流した。サーバーは自社保有で、新リース会計基準の影響は小さいが、今と同じ形でそろえた。同じ領域の2587・2593とは、事業の形が違うため数量の単位(契約件数)を変え、quality・確率は差をつけた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.2→16.07 倍・やや楽観 PER 14.7→15.97 倍・中立 PER 14→15.76 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityを足して決めた。事業が傾いているわけではないので上乗せは置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 8.00%。