結論
シノブフーズは、おにぎり・弁当・サンドイッチ・惣菜を作る中食の工場会社だ。売上の約5割はファミリーマートで、残りはスーパー、ドラッグストア、その他の小売りに納める。大阪に本拠を置き、国内に8つの工場を持つ。
結論から言う。今の値段は、おおむね適正だと見る。利益率は低いが、資本効率が資本コストを少し上回る年が増え、借金がなく、自社株買いが続いている。安く放置された会社ではないが、高すぎる値段も付いていない。
稼ぎの源は単純だ。決まった時刻に、決まった品質の食事を、大量に納める。人手と工場の稼働率が利益を決める。営業利益率は2022年3月期の3%台前半から、2024年3月期には4%台まで上がった。原材料と人件費の上昇を、取引先と分け合えたということだ。
弱みも具体的だ。取引先の半分が1社で、価格の主導権は弱い。この3年で、大阪工場(約15億円)と広島工場(約9億円)の減損が出た。工場への投資は、必ず回収できるわけではない。
会社は2030年3月期に売上700億円、経常利益率5%を掲げる。売上は物価の上昇だけでほぼ届く水準で、利益率5%はこれまで一度も届いていない。筆者は計画を割り引き、3%台後半の利益率が続くと見る。それでも利益はゆるやかに増え、還元も続くため、今の値段との差は小さい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、シノブフーズは「地味だが、数字に誠実な会社」だ。
事業の本質は、毎日の食事を決まった品質で作る、下請けに近い仕事だ。需要は景気に左右されにくい。10年後も、この事業は続いていると思える。
堀は中程度だ。取引先が価格を握るので、強い堀とは言えない。ただ、ファミリーマート一本でなく、スーパー、ドラッグストア、冷凍と売り先を広げており、依存度は下がってきた。
資本の使い方は悪くない。借金はなく、設備投資は減価償却の範囲に収まり、自社株買いを淡々と続ける。一方で、この3年で工場の減損が2度出た。投資の見立てが外れる確率は、この業種では織り込むべきだ。
オーナー利益、つまり再投資を引いて株主に残る利益は、純利益に近い。年15億円前後で、時価総額に対する利回りは9%ほど。悪くない水準だ。ただし成長は、ほぼ物価の分にとどまる。
安全域は小さい。中立でほぼ適正、楽観なら今の値段を上回る。悲観の中身は重く、取引先の動きしだいで利益が大きく崩れる。大きな割安がない以上、無理に持つ理由は乏しい。
何で稼ぐ会社か
シノブフーズは、コンビニやスーパー向けの中食を作るメーカーだ。1971年に寿司の会社として始まり、1979年の「おにぎりQ」で名が通った。事業は1つにまとまっていて、セグメントの開示はない。
商品は、おにぎり、弁当、寿司、調理パン、サンドイッチ、惣菜、冷凍食品だ。常温・チルド・冷凍の3つの温度帯にそろえ、毎日店に届ける。
最大の取引先はファミリーマートで、2026年3月期の売上の47%(約294億円)を占める。前の期は50%だった。残りは、イオンなどのスーパー、ドン・キホーテ、スターバックス、ドラッグストアなどだ。コンビニ以外の比率は年々高まっていると会社は説明する。
工場は8つある。大阪市に2つ(大阪・関西)、千葉の八千代、愛知の弥富、滋賀の栗東、岡山の総社、広島の尾道、香川の観音寺だ。関西が地盤で、関東と中部に広げた形になっている。
子会社は2社。不動産賃貸のエス・エフ・ディーと、原材料を扱うマイツベーカリー(70%出資)で、規模は小さい。
利益の出方は薄い。売上に対する営業利益は4%に届かない。1食あたりの儲けは小さく、工場を高い稼働率で回し続けることが、利益の条件になる。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、鮮度と品質を守りながら、大量に作って毎日届ける仕組みそのものだ。
コンビニの中食は、決まった時刻に、衛生基準を満たした商品を、欠品なく並べなければならない。8つの工場を大都市圏の近くに置き、配送網と合わせて築くには年月がかかる。食品安全の国際認証(ISO22000)も、取引の入り口で効く。
ただし、堀の半分は取引先のものだ。ファミリーマートは伊藤忠商事の完全子会社で、仕様も価格も強く主導する。値上げが通るかどうかは、毎年の交渉で決まる。筆者がいちばん気にするのはここだ。
資本効率は、改善の途中にある。ROE(自己資本に対する純利益の割合)は、10年の中央値が6.5%で、資本コストに届かない年が多かった。2026年3月期は11.3%に上がった。営業利益率が4%を超えた年は2期あるが、それが定着するかはまだ見えない。
財務は健全だ。借入は約43億円で、現金とほぼ同額。自己資本比率は5割を超え、利払いの負担は営業利益の1%台に収まる。
経営の資本配分には、よい面と悪い面がある。大阪工場と広島工場の減損は、設備を整えたあとで採算が合わなくなった例だ。一方で、株価が低い時に自社株買いを重ねる姿勢は、評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
中食は、家庭の調理と外食の中間にある市場で、国内に約11兆円ある。コンビニはその3割ほどを占める。
数量には、逆向きの力が2つ働く。人口は減り、コンビニに来る客も細る。一方で、単身世帯と共働きが増え、調理済みの食事を買う人は増える。両者は打ち消し合い、コンビニ向けの総量は、横ばいから緩やかな減少が自然だ。
売り場は、スーパーとドラッグストアに広がっている。総菜と弁当を強化する店が増え、ここがコンビニ以外の納品先になる。冷凍食品も、まとめ買いと食品ロスの削減に合う領域だ。シノブフーズは冷凍の生産能力を増やしてきた。チルドとは違う売り先を探している。
価格は物価で上がる。コメ、包材、物流費、人件費が同時に上がり、そのほとんどは製造側の負担になる。取引先と値上げを分け合えるかが、毎年の利益を決める。人手の確保も欠かせない課題で、工場は最低賃金の上昇に直接さらされる。
競争は、取引先ごとに分かれる。セブン-イレブン向けにはわらべや日洋、武蔵野などがいて、ファミリーマート向けにはシノブフーズを含む複数のベンダーがいる。ベンダーどうしの競争より、取引先が調達先をどう分けるかが、収益を左右する。
10年の構図は、数量が横ばい、価格が物価並みというものだ。伸びるのは売上の数字で、儲けの割合は、賃金と償却費の重さに抑えられる。
資本政策と M&A
還元は、配当と自社株買いの組み合わせだ。配当は増配が続き、2027年3月期も増配の計画になっている。配当性向は2割ほどと低く、方針は安定配当で、目標の割合は示していない。
低い配当を補うのが自社株買いだ。2026年5月に上限7億円の枠を決め、約5.6億円を使って9月に終えた。10月にはさらに上限4億円の枠を決めた。配当と合わせて、純利益の半分近くを株主に戻している。
設備投資は年17億円前後で、減価償却費(約16億円)と同じ規模だ。大型の新工場の計画は、今は見えない。M&Aの実績は目立たず、買収で資本を傷めるおそれは小さい。
大株主には、自社株の口座(12%台)のほか、(株)エムと松本姓の個人が並び、社長の松本崇志氏も上位にいる。取引先の名は上位にない。kabufuの試算で10年以内のTOB(公開買い付け)の確率は約27%だが、特定の動きは確かめられない。
株主優待は、500株以上に海苔の詰め合わせを贈る。費用は年1億円に届かないとみて、還元の額には足していない。工場の一部を借りる分があるとみられるが、金額は確かめられていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ファミリーマートは、国内有数のコンビニで、中食を競争力の中心に据えている。シノブフーズは、その主力ベンダーとして関西から関東、中部に工場を広げた。品質と配送を合わせた体制は、新規の参入者がすぐにまねできない。
足元の利益は本物だ。営業利益率は2022年3月期の3%から、2024年3月期には4%台まで上がった。2026年3月期のROEは11.3%で、減損のない年の実力がよく出ている。
成長の芽もある。中期計画は、冷凍食品とスーパー・ドラッグストア向けを柱に、2030年3月期に売上700億円を掲げる。冷凍は、まとめ買いと食品ロスの削減に合い、チルドの商品と違って棚の寿命も長い。コンビニ以外の比率は年々高まっている。
財務の余裕も大きい。借金はなく、設備投資は減価償却の範囲に収まる。その余力で、2026年は約5.6億円の自社株買いを終え、10月にさらに4億円の枠を決めた。株数が減れば、1株の利益は利益の伸び以上に増える。
10年で営業利益率が4%台前半に戻り、冷凍とスーパー向けが売上を押し上げれば、純利益は今の1.7倍近くになる。中立の見方は、会社の計画をほとんど信じていない分だけ、慎重すぎるのではないか。
慎重な見方
売上の半分がファミリーマート1社という構造は、10年の見通しを最も不確かにする。価格も数量も、取引先の意向で動く。調達先を増やす、規格を変える、値下げを求める。どれも取引先は自社の都合で進められる。
利益率は薄く、余裕がない。営業利益率は4%を超えた年でも4.3%が最高で、会社が掲げる経常利益率5%は一度も届いていない。賃金とコメ、包材は止まらずに上がり、価格に移しきれなければ利益は短期間に削られる。
投資の失敗も繰り返している。2023年3月期の大阪工場(約15億円)、2025年3月期の広島工場(約9億円)の減損は、3年に2度だ。次の更新投資でも、同じことが起きうる。
今のROE11.3%は、減損のない年の最良の姿だ。10年の中央値は6.5%で、資本コストを下回る年が多かった。利益をためても価値が増えにくい会社に、高い倍率は付けられない。
冷凍とスーパー向けの拡大も、安売り競争になりやすい。コンビニ向けより利益率が高い保証はない。中期計画の700億円は、物価の上昇分でほぼ届く水準で、利益の裏づけにはならない。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも根拠がある。強気の見方は、足元の実績と財務の余裕に支えられている。慎重な見方は、取引先の集中と薄い利益率という、10年消えない構造を突く。
筆者は、慎重な見方をわずかに強いと見た。中立の営業利益率は3.6%にとどめ、会社の計画を割り引く。確率は中立に厚く置き、やや悲観を23%、悲観を12%とした。楽観は7%にとどめる。結果として、中立でも今の値段をやや上回る程度で、安全域は大きくない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,615 円278 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 873 円93 億円)。 今の値に割り戻すと 1,877 円200 億円、今との差 +19.6%、 期待の年率 +8.3%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,401 円468 億円 | 1,128 円120 億円 | +252.2% | +13.4% | 387 円41 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,679 円391 億円 | 1,025 円109 億円 | +199.6% | +11.6% | 941 円100 億円 |
| 中立 | 38% | 3,046 円324 億円 | 931 円99 億円 | +153.3% | +9.7% | 1,511 円161 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,618 円172 億円 | 809 円86 億円 | +54.6% | +4.5% | 558 円59 億円 |
| 悲観 | 12% | 347 円37 億円 | 414 円44 億円 | −51.5% | −7.0% | 91 円10 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,615 円278 億円 | 873 円93 億円 | +122.2% | +8.3% | 3,489 円371 億円 |
今の株価時価総額 1,570 円167 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 冷凍と非コンビニが伸び、利益率が過去最高に近づく 利益 29 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 4,401 円468 億円
ファミリーマートの中食強化と、冷凍・スーパー向けの伸びが重なる。冷凍食品は、まとめ買いと食品ロス削減の流れに乗り、非コンビニの納品先が増える。ファミリーマート向けの食数は今より2%ほど増え、その他の区分は3割増える。価格は物価を少し上回る。商品の見直しと自動化が人手不足の賃金上昇を和らげ、営業利益率は4%台前半まで上がる。過去の最高(4.3%)に近い水準が、10年かけて定着する姿だ。
借金に頼らず自己資本が積み上がり、自社株買いも続く。減損は出ず、中期計画が掲げる経常利益率5%には届かないものの、ROEは10%台後半に乗る。ただし、取引先に頼る構造は変わらず、倍率は式の上限の9割にとどめた。
- ファミリーマート向け:数量 1.4(年間の製造食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える))× 価格 290(1食あたりの平均納入単価(円、名目))→ 売上 411 億円・営業利益 16 億円。営業利益率3.9%
- その他(スーパー・ドラッグ・他の小売り・冷凍):数量 2.0(年間の製造食数(億食))× 価格 290(1食あたりの平均納入単価(円、名目))→ 売上 580 億円・営業利益 26 億円。営業利益率4.4%
倍率:事業の純利益 29 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍。全体の PER 16.07 倍、時価総額 463 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年のあいだに、冷凍とスーパー向けの拡大、賃金上昇の吸収、取引先の安定がすべてそろう必要がある。利益率が過去最高に近づく姿で、連続して当たる確度は高くない。
やや楽観 20% 国内は堅調、非コンビニが育ち利益率を保つ 利益 24 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 3,679 円391 億円
コンビニの店数は横ばいでも、1店あたりの中食は伸びる。スーパーとドラッグストアの納品が増え、冷凍も育つ。ファミリーマート向けの食数は今より2%減る程度、その他の区分は2割ほど増える。価格は物価並みに少し上乗せがつく。営業利益率は3.9%まで上がり、直近の水準を保つ。
配当と自社株買いで半分を戻しても、自己資本は少しずつ積み上がり、ROEは10%台に乗る。売上は中期計画の700億円を上回るが、経常利益率5%には届かない。取引先が1社に偏る構図は変わらず、強い会社とまでは言えない。
冷凍は、チルドの商品が売れ残る時間帯や季節の波を和らげる。工場の稼働率が上がれば、固定費の重さが軽くなり、利益率を守る力になる。
- ファミリーマート向け:数量 1.4(年間の製造食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える))× 価格 288(1食あたりの平均納入単価(円、名目))→ 売上 392 億円・営業利益 14 億円。営業利益率3.6%
- その他(スーパー・ドラッグ・他の小売り・冷凍):数量 1.8(年間の製造食数(億食))× 価格 288(1食あたりの平均納入単価(円、名目))→ 売上 523 億円・営業利益 21 億円。営業利益率4.1%
倍率:事業の純利益 24 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.0% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍。全体の PER 15.54 倍、時価総額 378 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが通った実績と、非コンビニの拡大は十分ありうる。ただし賃金の上昇が続くため、跳ね上がるほどではない。
中立 38% 中立:数量は横ばい、価格は物価並み、利益率は少し低下 利益 20 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 3,046 円324 億円
10年後も、主力はファミリーマート向けの中食だ。人口は減るが、単身世帯と共働きが打ち消し、食数は今より5%減る程度にとどまる。スーパー・ドラッグストアと冷凍が、その他の区分で8%ほど数量を押し上げる。価格は物価並みの1.34倍で、売上は850億円近くになる。
利益率は、直近より少し低い3.6%に落ち着く。賃金と包材の上昇を価格に移しても、新しい設備の減価償却が増え、利幅を押し下げる。会社が掲げる5%には届かない。借り換えで利払いが少し増える分も織り込み、減損が10年に1度ある前提で純利益を置いた。還元は純利益の55%ほどで、自己資本はゆっくり積み上がる。ROEは9%に近づくが、強い堀を持つ会社の水準には届かない。
- ファミリーマート向け:数量 1.3(年間の製造食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える))× 価格 284(1食あたりの平均納入単価(円、名目))→ 売上 374 億円・営業利益 13 億円。営業利益率3.4%
- その他(スーパー・ドラッグ・他の小売り・冷凍):数量 1.7(年間の製造食数(億食))× 価格 284(1食あたりの平均納入単価(円、名目))→ 売上 472 億円・営業利益 18 億円。営業利益率3.8%
倍率:事業の純利益 20 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍。全体の PER 14.93 倍、時価総額 303 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は横ばい、価格は物価並み、利益率は直近より少し低い水準という姿が最も自然。強気にも慎重にも寄せず、中立に最も厚く置いた。
やや悲観 23% 取引先の調達分散と賃金上昇で利益率が3%に下がる 利益 15 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,618 円172 億円
ファミリーマートが調達先を分散し、価格交渉で優位に立つ。賃金とコメ、包材の上昇を、値上げで半分ほどしか移せない。食数は、ファミリーマート向けが1割減り、その他の区分は横ばいにとどまる。価格は物価に届かず、10年で1.30倍になる。営業利益率は3%まで下がる。
工場の固定費が重いため、数量が落ちると利益は大きく削られる。赤字には落ちないが、ROEは資本コストの7.5%を下回る7%前後に沈む。配当と自社株買いは利益に合わせて縮み、自己資本は積み上がっても価値は増えにくい。
冷凍やスーパー向けは伸びるが、売り先ごとに値下げの圧力があり、全体の利益率を押し上げるほどにはならない。会社が掲げる経常利益率5%は、この筋書きでは遠い目標のままだ。
- ファミリーマート向け:数量 1.2(年間の製造食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える))× 価格 276(1食あたりの平均納入単価(円、名目))→ 売上 344 億円・営業利益 10 億円。営業利益率2.8%
- その他(スーパー・ドラッグ・他の小売り・冷凍):数量 1.5(年間の製造食数(億食))× 価格 276(1食あたりの平均納入単価(円、名目))→ 売上 424 億円・営業利益 14 億円。営業利益率3.2%
倍率:ROE約7%はk7.5%に届かず、PERの上限は1÷k=13.3倍。稼ぐ力(純利益15億円÷k=約200億円)の約75%にあたる10倍に置いた。
確率:賃金・コメ・包材の上昇を価格に移しきれない局面は、過去にも何度かあった。売上の47%が1社向けという構造が、この筋書きに現実味を与える。
悲観 12% ファミリーマートが調達先を広げ、専用ベンダーの強みが薄れる 利益 4 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 347 円37 億円
ファミリーマートが専用ベンダーの枠を広げ、シノブフーズの取扱いが大きく減る。ファミリーマート向けの食数は3割近く減り、その他の区分も安売りに押されて15%減る。価格は物価に追いつかず、10年で1.22倍にとどまる。工場の稼働率が落ち、営業利益率は1%台まで下がる。
不採算の工場を閉じ、減損で自己資本が25億円ほど減る。純利益は4億円まで細り、還元も半分になる。財務は崩れないが、安定した専用ベンダーとは見なされなくなる。
中期計画は大幅に未達となり、冷凍への投資も回収が遅れる。経営は固定費の削減と工場の統合に追われ、新しい成長の手を打つ余力が乏しい。創業家に近い株主が多いため、会社の売却や再編が選択肢に上がる可能性は残るが、少数株主に有利な形になるとは限らない。
- ファミリーマート向け:数量 1.0(年間の製造食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える))× 価格 259(1食あたりの平均納入単価(円、名目))→ 売上 258 億円・営業利益 2 億円。営業利益率0.8%
- その他(スーパー・ドラッグ・他の小売り・冷凍):数量 1.3(年間の製造食数(億食))× 価格 259(1食あたりの平均納入単価(円、名目))→ 売上 338 億円・営業利益 5 億円。営業利益率1.5%
倍率:ROE約2.5%でk7.5%を大きく下回る。稼ぐ力は純利益4億円÷k=約55億円で、その約7割(PER9倍)に置いた。純現金は約1億円で、売れる資産は専用設備が中心のため床に積まない。清算されない限り、少数株主は現金の使い方を決められない。
確率:取引の見直しは一度始まると進みやすい。ただし、ファミリーマートが専用ベンダーを大きく切り替えるには時間がかかり、財務も崩れないため、12%にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ファミリーマート向け
ファミリーマートの店頭に並ぶおにぎり・弁当・調理パン・惣菜の製造。売上の47%を占める最大の取引先。
| 数量年間の製造食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える) | 価格1食あたりの平均納入単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.4 | 212 | 294 | 11 |
| 10 年後 中立 | 1.3 | 284 | 374 | 13 |
取り方:有報のファミリーマート向け売上293.9億円(全体の47.4%)を、1食あたり納入単価212(円)で割って年1.386億食とした(推定)。食数は、千葉工場の求人に「毎日80万食以上」とあるのを全社の目安に、年約2.93億食とし、売上を食数で割った単価が212(円)で、おにぎり約100(円)と弁当約300(円)の中間に収まる。営業利益は区分の開示がなく、全社の営業利益率3.76%を両区分に仮置きした。市場の大きさ:国内の中食は約11兆円、コンビニはその約3割。食数は人口減と中食志向が打ち消して中立で0.95倍、価格は物価並みの1.34倍。
その他(スーパー・ドラッグ・他の小売り・冷凍)
イオンなどのスーパー、ドン・キホーテ、スターバックス、ドラッグストア向けと、冷凍食品。コンビニ以外の拡大先。
| 数量年間の製造食数(億食) | 価格1食あたりの平均納入単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.5 | 212 | 326 | 12 |
| 10 年後 中立 | 1.7 | 284 | 472 | 18 |
取り方:全体売上619.7億円からファミリーマート向け293.9億円を引いた325.8億円を、同じ単価212(円)で割って年1.537億食とした(推定)。冷凍やスーパー向けは単価が違うが、開示がなく同じ単価で近似した。営業利益は全社の営業利益率3.76%を仮置き。数量は、スーパー・ドラッグストアの総菜強化と冷凍食品の伸びで、中立で1.08倍(中期計画の売上700億円は、物価4年分でほぼ届く水準で、数量の伸びを必要としない)。価格は物価並みの1.34倍。競合は、地域のスーパー系の惣菜工場と大手の食品メーカー。
リスクと懸念
ファミリーマート1社への依存
売上の47%がファミリーマート向け。調達先の分散、規格の変更、値下げの要求のどれもが、そのまま業績を左右する。依存度は下がってきたが、10年でなくなる水準ではない。
人件費・コメ・包材の上昇
労働集約の事業で、最低賃金の上昇が利益率を直撃する。コメや包材、物流費も同時に上がる。取引先と値上げを分け合えない局面では、営業利益率が2%台に落ちうる。
工場への投資の回収
2023年3月期に大阪工場、2025年3月期に広島工場の減損を出した。3年に2度の減損は、設備の更新と稼働率の維持が重いことを示す。冷凍ラインへの投資が同じ道をたどるおそれもある。
冷凍・非コンビニの採算
中期計画は冷凍とスーパー・ドラッグ向けを成長の柱に置く。しかし、売り先ごとに競争相手が違い、価格競争に巻き込まれやすい。コンビニ向けより利幅が厚くなる保証はない。
食品安全と工場の事故
食品工場は、食中毒、異物混入、火災のリスクを常に抱える。一件の事故が取引停止や特別損失につながり、取引先への依存が大きいほど傷は深い。
資本効率が資本コストに届かない期間
ROEの10年の中央値は6.5%で、資本コストの7.5%を下回る年が多かった。直近の11.3%が定着しなければ、利益をためても価値は増えにくい。
今後の分かれ目
- ファミリーマートの売上比率が40%を下回り、他の売り先が育ったら
- 依存の構造が和らいだとして、やや悲観・悲観の確率を下げ、やや楽観に重みを移す。
- ファミリーマートが他のベンダーへの発注を増やし、シノブフーズの取扱いが減ったら
- やや悲観・悲観の確率を引き上げ、本質価値を下方に見直す。
- 営業利益率が2期続けて4%を超えたら
- やや楽観・楽観に重みを移す。ただし、賃金上昇を吸収できた理由(価格の改定か、工場の自動化か)を確かめる。
- 新たな工場の減損が出たら
- 設備投資の回収力を割り引き、中立の利益率を下げる。
- 冷凍食品の売上が目に見えて伸び、利益率が全社平均を上回ったら
- その他の区分の数量と利益率を上方に見直す。
- 自社株買いの枠が拡大され、総還元が純利益の7割を超えたら
- 株主還元の厚みを評価し、payoutを上方に見直す。
見ておくもの
- ファミリーマート向けの売上比率の推移
- 営業利益率が4%を超えて定着するか
- 冷凍食品とスーパー・ドラッグ向けの売上と利幅
- 最低賃金の改定とコメ・包材の価格
- 工場の減損の有無と設備投資の額
倍率と資本コストの決め方
売上は食数×1食の単価で、ファミリーマート向けとその他に分けて積んだ。価格は物価並みの1.34倍を基本にし、数量は人口減と中食志向が打ち消す前提で置いた。倍率は式(正当化PER)から決め、中立はROEがkを上回るので下限1÷k、上限は式の約9割強に収めた。今の株価は見ずに決め、最後に比べて、ほぼ適正と出た。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)の7割。新リース会計基準(2028年3月期から)で純負債とリース負債の形が変わるが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15→16.07 倍・やや楽観 PER 14.5→15.54 倍・中立 PER 13.5→14.93 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityの0を足して7.5%。事業は傾いておらず、上乗せ(extra)は置かない。