結論
日糧製パンは、札幌に本社を置く北海道の製パン会社だ。食パンの「絹艶」、菓子パン、チーズ蒸しパンなどの和菓子、調理パンと米飯を道内のスーパーとコンビニに届ける。売上は190億円、山崎製パンが3割の株を持つ。
筆者の結論は割高だ。売上は大きいが、営業利益率は1%前後にとどまる。自己資本55億円の半分以上は土地の再評価と持ち合い株の含み益で、事業が生む純利益は1〜2億円しかない。
地場の強みはある。工場を道内の4か所に持ち、毎朝焼いたパンを広い北海道の隅々まで運ぶ網は、よそ者には作りにくい。イオン北海道、コープさっぽろ、セイコーマートが売上の4割を占める。
ただ、その網は人と燃料で動く。最低賃金と物流費の上昇は物価より速く、値上げは小売の棚の取り合いで遅れる。北海道の人口は全国より速く減る。10年後の中立の時価総額は20億円前後とみる。
大株主の山崎製パンが残りの株を買い取る日が来れば、話は変わる。ただ、それがいつ、どの値段になるかは読めない。筆者は買い取りの期待を値段に入れない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、地元に愛される商売と、株主にとって良い商売は別物だという見本だ。
10年後も、北海道の朝の食卓に日糧のパンは並ぶだろう。配送網と地元の棚は簡単には崩れない。だが、その事業が株主に残す利益は、売上の1%にも満たない。オーナー利益、つまり工場とトラックの維持に要る投資を引いて自由に使える現金は、年に1億円前後しかない。
帳簿の55億円も、その多くは土地の再評価と持ち合い株の含み益だ。工場の土地を売れば事業が止まる。退職給付の引当金15億円という、借金に近い約束もある。
経営は資本を上手に使っているか。配当は小さく、自社株も買わない。株主の半分以上が取引先で、資本の効率を問う声は届きにくい。
安全域を稼ぐ力で測れば、今の値段に余裕は無い。山崎が買い取る日が来れば話は別だが、それは筆者が予測できることではない。株主として持ち続けたい事業かと問われれば、筆者は首を横に振る。良い品を作る会社であることと、資本に報いる会社であることは、ここでは一致していない。
何で稼ぐ会社か
創業は1940年代にさかのぼる。札幌の月寒工場を中心に、琴似、釧路、函館に工場を持つ。道内に毎日、焼きたてのパンと菓子を届ける地場の会社だ。
売上190億円の中身は5つに分かれる。いちばん大きいのは菓子パンで65億円、主力は「北の国のベーカリー」だ。次が調理パン・米飯類の44億円で、サンドイッチやおにぎりをコンビニやスーパーに納める。和菓子が34億円で、ロングセラーの「チーズ蒸しパン」や串団子、日持ちのする「福かまど」がある。食パンは30億円で、発売20年の「絹艶」が看板だ。洋菓子は12億円で、シュークリームやロールケーキを作る。
売り先は道内の小売りだ。イオン北海道が17%、コープさっぽろが14%、セイコーマートを運ぶセイコーフレッシュフーズが11%を占める。
山崎製パンとは2009年に業務資本提携を結んだ。山崎は株の30%を持つ。従業員は正社員636人に、ほぼ同じ数のパートが加わる。人の手で回る商売だ。売上に占める人件費と物流費の重さが、この会社の利益の薄さを決めている。毎日焼いて毎日運ぶという仕組みは、作り置きのきく菓子のメーカーとはまるで違う。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、北海道という広い土地での配送網と、地元の棚だ。
日持ちしないパンを毎日、稚内から函館まで届けるには、道内の工場とトラックの網が要る。本州の大手が一から作るのは割に合わない。「絹艶」やチーズ蒸しパンのように、道民に長く親しまれた品もある。
しかし、その強みは利益にはなっていない。営業利益率は過去12年で0.5%から2.3%の間にあり、直近は0.6%だ。ROE、つまり自己資本に対する純利益の割合の中央値は2.6%にとどまる。
値決めの力は小売の側にある。上位3社で売上の4割を占め、店頭では山崎や大手のプライベートブランドと並ぶ。原材料や人件費が上がっても、値上げは半年から1年遅れて、しかも一部しか通らない。
帳簿も見かけほど強くない。退職給付の引当金が15億円あり、借入26億円と合わせると負債は重い。自己資本比率は38%で、食品メーカーとしては薄い部類に入る。経営の努力は、品質の向上と経費の抑制に向いている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
パンの市場は成熟している。国内の食パンと菓子パンの消費量は、人口とともにゆるやかに減る。北海道の人口は全国より速く減り、2050年までに3割近く減ると見込まれる。とくに地方の町ほど減りが速い。
一方で、単身の世帯と共働きの家庭は増え、調理パンやおにぎり、小分けの和菓子の需要は底堅い。コンビニの棚は、この会社にとって数量を保つ頼みの綱だ。
費用の側は厳しい。小麦や油脂、砂糖の値段は世界の相場と円の水準で決まる。最低賃金は年に5%前後上がり、パートの多い工場ほど響く。広い北海道では、トラックの運転手の不足と燃料代が物流費を押し上げる。
競争の相手は山崎製パンと、道内の小さなパン屋、そして小売りのプライベートブランドだ。山崎は大株主でもあり、正面から争う関係ではない。ただ、値決めの主導権がメーカー側に戻る兆しは見えない。
筆者は、10年で数量が1割減り、値段は物価にわずかに届かないと見る。
明るい材料もある。観光客の増加で、北海道らしさを打ち出した和菓子や土産向けの品は道外にも売れる。ただ、売上の大半を占める毎日のパンでは、この追い風は小さい。
資本政策と M&A
還元は小さい。配当の総額は年3千万円ほどで、2026年3月期の配当性向は4割を超えた。自社株買いの実績は無い。株主優待として、1単元以上の株主に自社製品を送る。株主数は2,500人ほどで、費用は年に数百万円と小さい。
資本の構成には特徴がある。山崎製パンが30%、取引先の持株会が16%、ADEKAと北洋銀行がそれぞれ5%を持つ。株主の半分以上が取引先で、経営に厳しい注文が付きにくい。
山崎による完全子会社化は、いつでもありうる選択肢だ。山崎は2009年の提携以来、持株比率を3割に保っている。ただ、具体的な動きは見えない。
設備投資は年7億円ほどで、ほぼ減価償却と同じだ。古い工場の建て替えが来れば、建築費の上昇で借入が増える。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
見落とされているのは、北海道での立場の強さだ。広い道内に毎日パンを届ける網は、本州の大手には作れない。イオン北海道、コープさっぽろ、セイコーマートという地元の3強が売上の4割を占め、互いに離れられない関係にある。
商品にも力がある。食パンの「絹艶」は発売20年を迎え、品質の訴求で売上を伸ばした。チーズ蒸しパンや「福かまど」の和菓子は、道外への販路も広がる。北海道産の小麦や米を使った商品は、観光客の土産にもなる。
利益の改善の余地は大きい。2027年3月期の会社の予想は、営業利益2億円と前期の1.6倍だ。値上げは遅れても、いずれ通る。減価償却は取得した時の値段のままで、物価が上がる分だけ利益率は自然に持ち上がる。
最大の選択肢は山崎製パンだ。3割を持つ大株主が完全子会社にすれば、少数株主は買い取りの値段を受け取れる。自己資本は55億円あり、今の時価総額はその8割にすぎない。札幌の工場の土地だけでも、帳簿で47億円ある。地元の取引先が株主に並ぶ構図は、裏を返せば会社が地域に欠かせない存在だという証しでもある。
慎重な見方
地元に強くても、もうからない会社はもうからない。営業利益率は過去12年で最高でも2.3%、直近は0.6%だ。ROEの中央値は2.6%で、資本コストの8%に遠く及ばない。
費用の上昇は構造的だ。最低賃金は年に5%前後上がり、パートの多い工場を直撃する。広い北海道では物流費の上昇が本州より重い。小麦や油脂の値段も、円安と世界の需給で振れる。値上げは小売の棚の取り合いで遅れ、全部は通らない。
数量も細る。北海道の人口は全国より速く減り、地方の町ほど減りが速い。配送網の強みは、運ぶ先の人が減れば重荷に変わる。
帳簿の厚さは見かけだ。55億円の自己資本のうち、27億円は土地の再評価、5億円は持ち合い株の含み益だ。退職給付の引当金15億円と借入26億円が負債に乗る。
山崎による買い取りは、山崎の都合で決まる。3割で足りている今、高い値段で残りを買う理由は乏しい。買い取りがあっても、利益の薄い会社の値段は利益の薄さで決まる。少数株主が期待するほどの上乗せになるとは限らない。
どちらに重みを置いたか
強いのは慎重な見方だ。北海道での配送網と地元の棚は本物だが、利益率は長く1〜2%にとどまり、費用の上昇が値上げを上回る。
確率は中立を厚くし、悲観側をやや厚めに置いた。山崎製パンによる買い取りは、時期も値段も読めないので、価値の計算には入れず、分かれ目として示した。値上げが2期続けて通り、利益率が2%を超えれば、見方を楽観側に動かす。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,003 円21 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 159 円3 億円)。 今の値に割り戻すと 549 円11 億円、今との差 −74.7%、 期待の年率 −6.1%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,198 円46 億円 | 287 円6 億円 | +14.5% | +1.4% | 174 円4 億円 |
| やや楽観 | 18% | 1,553 円33 億円 | 215 円5 億円 | −18.5% | −2.0% | 318 円7 億円 |
| 中立 | 40% | 1,152 円24 億円 | 167 円4 億円 | −39.2% | −4.9% | 528 円11 億円 |
| やや悲観 | 23% | 382 円8 億円 | 119 円3 億円 | −76.9% | −13.6% | 115 円2 億円 |
| 悲観 | 12% | 172 円4 億円 | 48 円1 億円 | −89.9% | −20.5% | 26 円1 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,003 円21 億円 | 159 円3 億円 | −46.5% | −6.1% | 1,162 円24 億円 |
今の株価時価総額 2,170 円45 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 値上げが定着し、利益率が過去の山に戻る 利益 4 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,198 円46 億円
物価の上昇が当たり前になり、小売りも毎年の値上げを受け入れる。単価は1.36倍と物価をわずかに上回る。「絹艶」と和菓子のブランドが棚を守り、数量の減りはパンで3%にとどまる。和菓子は道外と観光客の土産に広がる。
工場の償却は取得時の値段のままで、売上が名目で伸びる分だけ利益率を押し上げる。営業利益率は2.5%と、過去12年の山を少し上回る。営業利益は6億円、純利益は4億円だ。
配当は増え、10年の還元は6億円。それでもROEは5%台で、資本コストに届かない。土地の再評価で膨らんだ自己資本が、ROEを低く見せる面もある。山崎製パンとの協力で原材料の調達が安くなることも、この姿を後押しする。
- パン・調理パン・米飯:数量 127(出荷個数(百万個))× 価格 150(1個あたりの平均の卸単価(円))→ 売上 190 億円・営業利益 5 億円。営業利益率 2.4%
- 和菓子・洋菓子:数量 38.5(出荷個数(百万個))× 価格 163(1個あたりの平均の卸単価(円))→ 売上 63 億円・営業利益 2 億円。営業利益率 2.8%
倍率:事業の純利益 4 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.4% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 46 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが費用の上昇に追いつき、償却の据え置きが利益率を押し上げ、数量の減りも小さい、という条件が揃う必要がある。過去12年の山の利益率を上回る姿で、確度は低い。
やや楽観 18% 値上げが遅れて通り、利益率が2%に戻る 利益 3 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,553 円33 億円
数量は人口とともにパンで7%、和菓子で4%減る。単価は物価並みの1.34倍まで、1年遅れで追いつく。
調理パンと米飯はコンビニの棚で底堅く、和菓子の日持ちのする品が道外に広がる。償却は取得時の値段のままで、工場の建て替えは一部にとどまる。
営業利益率は1.9%に戻り、営業利益は4.5億円、純利益は2.8億円になる。
配当は少し増え、10年の還元は4.5億円。自己資本は68億円、ROEは4%に届かない。地元の棚を守りながら、ようやく利益が人並みに近づく姿だ。山崎製パンとの原材料の共同購入や物流の協力が深まれば、この筋書きの確度は上がる。
- パン・調理パン・米飯:数量 122(出荷個数(百万個))× 価格 147(1個あたりの平均の卸単価(円))→ 売上 179 億円・営業利益 3 億円。営業利益率 1.8%
- 和菓子・洋菓子:数量 37.0(出荷個数(百万個))× 価格 161(1個あたりの平均の卸単価(円))→ 売上 59 億円・営業利益 1 億円。営業利益率 2.2%
倍率:事業の純利益 3 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.0% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 32 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2027年3月期の会社予想は営業利益2億円で回復の途上にある。値上げが遅れて通ってきた実績もある。ただ人件費と物流費の上昇は続く。
中立 40% 数量は1割減り、利益率は1%台半ば 利益 2 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,152 円24 億円
北海道の人口が減り、パンの数量は1割、和菓子は8%減る。単価は値上げの遅れで物価にわずかに届かず、1.32倍だ。
人件費と物流費は物価より速く上がる。一方で、今ある工場の償却は取得時の値段のまま増えない。建て替える工場の分だけ、新しい値段の償却が少しずつ足される。2つが打ち消し合い、営業利益率は1.5%と、過去の中央値に近い水準にとどまる。
営業利益は3.4億円、純利益は2億円だ。借入の金利は3.5%へ上がり、利息が少し増える。
配当は今の水準を保ち、優待を含めた10年の還元は3.5億円。自己資本は66億円、ROEは3%強だ。
地元の棚は守れるが、利益は物価の上昇に追いつくのがやっとである。
- パン・調理パン・米飯:数量 118(出荷個数(百万個))× 価格 145(1個あたりの平均の卸単価(円))→ 売上 171 億円・営業利益 2 億円。営業利益率 1.4%
- 和菓子・洋菓子:数量 35.4(出荷個数(百万個))× 価格 160(1個あたりの平均の卸単価(円))→ 売上 57 億円・営業利益 1 億円。営業利益率 1.8%
倍率:事業の純利益 2 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.1% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 24 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去12年の営業利益率の中央値に近い水準が続く、最も自然な姿。費用の上昇と値上げの遅れ、償却の据え置きが相殺する。
やや悲観 23% 費用が値上げを上回り、利益がほぼ消える 利益 1 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 382 円8 億円
最低賃金は年に5%上がり、トラックの運転手も足りない。費用は物価より速く上がるが、値上げは小売の棚の取り合いで1.27倍にとどまる。数量はパンで15%、和菓子で12%減る。
営業利益率は0.5%に落ち、営業利益は1億円、純利益は0.5億円だ。工場の建て替えで借入が増え、利息が利益を削る。
配当は減り、10年の還元は2.5億円。自己資本はほとんど増えない。
帳簿の土地は工場が建つ場所で、売れば事業が止まる。山崎製パンが支えるか、手放すかで会社の行く末が決まる。少数株主は、その決定をただ待つ立場に置かれる。配当も細り、持っている理由が薄れていく。
- パン・調理パン・米飯:数量 111(出荷個数(百万個))× 価格 140(1個あたりの平均の卸単価(円))→ 売上 155 億円・営業利益 1 億円。営業利益率 0.4%
- 和菓子・洋菓子:数量 33.9(出荷個数(百万個))× 価格 152(1個あたりの平均の卸単価(円))→ 売上 52 億円・営業利益 0 億円。営業利益率 0.7%
倍率:稼ぐ力(純利益0.5億円÷k)は約6億円。売れる資産の税後から純負債と退職給付を引き、戻り方0.5を掛けた床(約9億円)の手前で、今の自己資本の0.145倍に置いた。
確率:2026年3月期は費用の上昇を吸収できず営業利益率0.6%まで落ちた。最低賃金と物流費の上昇は続く見込みで、この姿は現に近い。
悲観 12% 赤字が続き、工場を畳んで縮む 利益 −3 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 172 円4 億円
北海道の地方の人口が急速に減り、パンの数量は22%、和菓子は20%減る。小売りはプライベートブランドを広げ、単価は1.2倍しか上がらない。
配送網は運ぶ先が減って重荷になる。営業損失が続き、純損失は年3億円近くに達する。地方の工場を畳み、借入で穴を埋める。
配当は止まり、10年の還元は1億円。
残る価値は札幌の工場の土地と持ち合い株だ。ただ退職給付と借入が重くのしかかり、少数株主の手に届く分はわずかだ。
この筋書きでは、北海道の朝の食卓から日糧のパンが減り、本州の大手とプライベートブランドがその棚を埋める。山崎製パンも、赤字の会社を高く買い取る理由は持たない。
- パン・調理パン・米飯:数量 102(出荷個数(百万個))× 価格 132(1個あたりの平均の卸単価(円))→ 売上 135 億円・営業利益 −2 億円。営業利益率 -1.5%
- 和菓子・洋菓子:数量 30.8(出荷個数(百万個))× 価格 144(1個あたりの平均の卸単価(円))→ 売上 44 億円・営業利益 −1 億円。営業利益率 -1.2%
倍率:赤字で稼ぐ力の床は無い。売れる資産の税後から膨らんだ純負債と退職給付を引き、戻り方0.5を掛けた床(約3.7億円)で、今の自己資本の0.065倍。
確率:人口減、費用の上昇、小売りのプライベートブランドが重なる構造的な負け。道内の配送網は残るので、1割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
パン・調理パン・米飯
食パン(絹艶など)、菓子パン(北の国のベーカリー)、サンドイッチ・おにぎりなどの調理パン・米飯と、仕入れ商品。道内のスーパー・コンビニに毎日配送する。
| 数量出荷個数(百万個) | 価格1個あたりの平均の卸単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 131 | 110 | 144 | 1 |
| 10 年後 中立 | 118 | 145 | 171 | 2 |
取り方:2026年3月期の食パン30.1・菓子パン64.9・調理パン米飯44.1・仕入4.7億円の合計143.8億円(短信の部門別売上)。個数の開示は無く、平均の卸単価を約110(円/個)として約1.3億個と推定。単一セグメントのため営業利益1.21億円を、価格競争の強いパンに0.55%、菓子に0.9%と配分した推定。
和菓子・洋菓子
チーズ蒸しパン・串団子・福かまどなどの和菓子と、シュークリーム・ロールケーキなどのチルドの洋菓子。
| 数量出荷個数(百万個) | 価格1個あたりの平均の卸単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 38.5 | 120 | 46 | 0 |
| 10 年後 中立 | 35.4 | 160 | 57 | 1 |
取り方:2026年3月期の和菓子33.8・洋菓子12.3億円の合計46.2億円(短信)。個数の開示は無く、平均の卸単価を約120(円/個)として約3,850万個と推定。利益は配分した推定。
リスクと懸念
人件費と物流費の上昇
パートの多い工場は最低賃金の引き上げを直接受ける。広い北海道では運転手の不足と燃料代が物流費を押し上げる。費用が値上げより速く上がれば、1%前後の利益率はすぐに消える。
小売りへの依存と値決め
イオン北海道・コープさっぽろ・セイコーマートで売上の4割。プライベートブランドと棚を争い、値上げは遅れて一部しか通らない。
北海道の人口減
道内の人口は全国より速く減り、地方の町ほど減りが速い。毎日の配送網は、運ぶ先が減れば固定費の重荷になる。
原材料と為替
小麦・油脂・砂糖・米の値段は世界の相場と円の水準で振れる。2026年3月期は米の高騰が米飯類を圧迫した。
退職給付と工場の老朽化
退職給付の引当金15億円は借金に近い約束だ。古い工場を建て替えれば、建築費の上昇で借入が膨らみ、金利3.5%の利息がのしかかる。
今後の分かれ目
- 山崎製パンが完全子会社化を提案したら
- 提示の値段で価値が決まる。本質価値の計算とは別に、提案の値段を基準に見直す。
- 営業利益率が2期続けて2%を超えたら
- 値上げの定着とみて、やや楽観の確率を厚くする。
- 営業利益が2期続けて赤字になったら
- 悲観の確率を厚くする。
- 工場の統廃合や大きな建て替えが決まったら
- 投資の額と借入の増え方で、利益率と利息の見込みを置き直す。
- 配当性向の引き上げや自社株買いの方針が示されたら
- 資本の使い方の改善とみて、中立の倍率を上限に近づける。
見ておくもの
- 営業利益率と値上げの実績
- 最低賃金と物流費の動き
- 上位3社の小売りの売上比率
- 山崎製パンの持株比率と提携の動き
- 工場の建て替えと借入の残高
倍率と資本コストの決め方
今の株価は見ずに、パンと菓子の個数と単価、利益率から10年後の利益を積んだ。ROEはどの筋書きも資本コスト8.5%を下回るため、PERは1÷k(12.5倍)を上限に利益の質で8〜9割に置いた。悲観側は稼ぐ力が小さいので、土地と持ち合い株の税後から純負債と退職給付を引き、戻り方0.5を掛けた床で置いた。自己資本の厚さや今のPBRには寄せていない。中立のPBRが0.3倍を割るのは、自己資本の半分以上が土地の再評価と含み益でROEが3%しかないためで、売れる資産の床(約9億円)は中立を下回ることを確かめた。山崎製パンによる買い取りの値段は予測できないので価値に入れていない。新リース会計基準の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.2→11.76 倍・やや楽観 PER 10.6→11.76 倍・中立 PER 10→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。