結論
かどや製油は「かどやの純正ごま油」で知られる、ごま油の専業に近い会社だ。筆者の結論は、事業は優良だが、今の値段は本質価値を大きく超える割高というものだ。
売上の約 8 割がごま油で、国内の家庭用と業務用、北米向けの輸出が柱になる。国内は人口減で数量が細る。そこを値上げと北米の伸びで補う構図だ。原料のごまは全量が輸入で、相場と円安が利益を揺らす。
財務は軽い。純現金が約 120 億円あり、自己資本比率は 8 割近い。ただ資本の効率は並で、ROE の 10 年の中央値は 8% 前後にとどまる。堀は深いが、稼ぐ額そのものが小さい会社だ。
足元ではインテグラルによる TOB が進む。買付総額は全株換算で約 700 億円、会社は賛同した。商社 2 社と創業家が 6 割強を握るため、親子上場に近い形がようやく整理される。ただ価値はその値段では測らない。10 年先の利益と資本コストから見ると、確率で重みをつけた価値は今の時価総額の 6 割に満たない。
公正取引委員会の命令と取消訴訟、原料高の利益への打撃が残る。TOB が不成立なら、市場の期待が剥がれる点も見ておきたい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、かどやは「いい商売だが、払える値段には上限がある」会社だ。
いい商売である理由は 3 つある。ブランドが香りと一緒に覚えられていること、国内で首位であること、負債がなく現金が厚いことだ。10 年後もごま油は売れる。堀は国内で広く、北米で少し広がる。
だが、持ち続けたい会社かと問われると、迷う。ごまの値動きを自分で決められず、ごま油一本で、稼ぎの額が小さい。オーナー利益、つまり再投資を除いた株主の取り分は、足元で年 20 億円台だ。ここに 7.5% の資本コストを当てると、事業の価値はおのずと決まる。
経営の資本配分は、堅実だが物足りない。現金は積み上がり、ROE は 7〜8% 台。自社株買いで資本を絞る姿勢は見えない。商社と創業家が筆頭株主で、少数株主のための資本効率は後回しになってきた面がある。
安全域は薄い。事業の本質価値と今の値段の間に、大きな開きがある。わからない点は、公取委の訴訟の結末と、北米の伸びの限界だ。この 2 つは確率に反映した。
何で稼ぐ会社か
事業は 3 つに分けて見る。国内のごま油、海外のごま油、食品ごまとその他だ。
国内のごま油は売上の約 6 割を占める。家庭用の「かどや純正ごま油」「金印ごま油」が看板で、外食・食品メーカー向けの業務用も持つ。ごまを炒って搾る製法で、香りが商品そのものだ。国内の家庭用市場は約 390 億円(日本食糧新聞の推定)で、かどやは首位とされる。
海外は売上の約 2 割だが、利益は最も厚い。主戦場は北米で、日本産ごま油の中では約 7 割のシェアを持つと会社は言う。和食だけでなく、洋食や健康志向の需要に売り込む計画だ。
食品ごまは、すりごまや煎りごまなど加工したごまの事業で、家庭用の自社ブランドと小売の自社ブランドの両方を手がける。売上の約 2 割だが、利益は薄い。2026 年 3 月期のセグメント利益は 1.8 億円にとどまった。原料高が重い。
原料のごまは全量を海外から買う。ごま油は原料費の比重が高く、仕入れの値動きと為替が原価を直撃する。2023 年 10 月と 2024 年 5 月に値上げをして、数量を保ったまま金額を伸ばした実績がある。
優良さと弱いところ
かどやの堀は、ブランドと製法の信用にある。ごま油は「かどやの香り」を指名して買う人が多く、値上げが通りやすい。ここは強い。
競合は竹本油脂、日清オイリオ、九鬼産業などだ。ただ家庭用の棚で、国内首位の座は長く動いていない。一度選ばれた銘柄は替えられにくく、原料高の局面でも 2 回の値上げを数量を落とさず通した。
弱いところは 3 つある。1 つ目は事業が一本足で、ごま油が売上の 8 割近いこと。2 つ目は原料が全量輸入で、価格を自分で決められないこと。3 つ目は 2025 年 5 月に公取委から排除措置命令と課徴金納付命令を受けたことだ。業務用ごま油と食品ごまの取引で、不当な取引制限があったとされた。会社は事実認定に争いがあるとして取消訴訟を起こしている。
資本効率は並だ。ROE は直近で 7% 台、10 年の中央値は 8% 台。自己資本の 8 割近くが厚い現金と設備で、稼ぐ力に比べ資本が重い。筆者は、ここを経営がどう直すかを見たい。2026 年 3 月期の営業利益率は 9.5% だが、2027 年 3 月期は先行投資で 7% 台へ下がる計画だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のごま油市場は、静かに伸びてきた。家庭用の市場は 2018 年の約 290 億円から 2024 年の約 390 億円へ膨らんだ。炒め物や中華だけでなく、和え物や仕上げの香り付けまで使い道が広がった。
ただ数量そのものは、人口が減る国では長く伸びない。伸びの大半は値上げによる金額で、数量は横ばいから微減が自然だ。筆者は国内を 10 年で 5% 減と置く。
北米では、アジア系の食材店から一般のスーパーへ棚が広がる途中にある。かどやは日本産ごま油で約 7 割のシェアを持つが、北米のごま油全体で見れば韓国や中国の銘柄が大きい。日本産という枠の中の首位であり、市場を広げた分だけシェアが落ちる面もある。
原料の側は荒い。ごまの主産地は西アフリカやエチオピア、ミャンマーで、気候と政情で相場が跳ねる。黒ごまはミャンマー産の上昇が続き、代替の南米産も高い。ごま油の原料は価格が先に上がり、製品価格の改定が後を追う。
ごま油は単価が高い調味料だ。値上げは通りやすいが、重なれば小売の自社ブランドや安い調合油へ流れる。業界の分かれ目は、この値ごろ感の限界と、北米で西洋食に使い道を広げられるかだ。
資本政策と M&A
資本政策は、いま大きな転機にある。
株主は、三菱商事が約 27%、三井物産が約 22%、創業家系の小沢物産と小沢商事で約 16% だ。この 3 者で 6 割強を握る。上場しているのに、実質は商社と創業家の支配下という形だった。
2026 年 9 月、インテグラルが TOB を発表した。買付総額は約 580 億円で、全株に換算すると約 700 億円。会社は賛同し、応募を推奨している。創業家は応募せず、非公開化後も約 25% の議決権を持って残る。下限は 50.09% で、上限は設けない。
配当は、利益の 40% か純資産の 3.5% の高い方が目安だった。TOB に伴い、2027 年 3 月期の期末配当を見送る。報道では、別の事業会社が拘束力のある提案を検討し、ファンド 1 社が調査を進めているとも伝わる。
筆者は、TOB 価格を価値の物差しにしない。この価格は買い手の事情でも動く。TOB が成立すれば、少数株主にとっての評価は売却で終わる。成立しなければ、市場の期待が剥がれた後の事業価値が問われる。純現金は 120 億円あるが、配当性向は 5 割弱で、現金は年々積み上がっている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
かどやは日本の食卓の香りを握る会社で、10 年で利益は大きく伸びる。国内は値上げが通る実績がある。2023 年と 2024 年の値上げで数量はほとんど落ちなかった。ブランドの力は本物だ。
本命は北米だ。日本産ごま油の約 7 割を持つ首位が、和食から洋食、健康志向へ需要を広げている。海外の利益率は 30% 近い。数量が 2 倍になれば、全社の営業利益は今の 3 倍近くに膨らむ。
食品ごまは今は薄利だが、家庭用の自社ブランド品が好調で、原料高が一巡すれば利益が戻る。財務は純現金で、設備投資と M&A の余地がある。TOB に関心を示す買い手が複数いること自体が、事業価値の証拠だ。非公開化後は投資家の目で効率が上がり、利益率は 10% を超えて定着する。
配当も、利益の 4 割か純資産の 3.5% を目安に安定している。現金が積み上がっているので、効率化の余地は大きい。国内で首位のブランドは、少しの工夫で数字が動く。
慎重な見方
かどやは、利益の源が 1 つの会社だ。ごま油が売上の 8 割近く、原料のごまは全量輸入で、相場と円安に利益が左右される。2027 年 3 月期の営業利益は 25% 近く減る計画で、利益はすでに頭打ちに見える。
国内は人口減で数量が減る。値上げを重ねるほど、小売の自社ブランドや調合油へ客が移る。2 回の値上げが通ったのは、物価が上がる環境だったからにすぎない。
北米の 7 割は日本産という狭い枠の中の数字だ。ごま油市場全体では韓国や中国の銘柄が大きく、関税や現地の競争が重くなれば利益が崩れる。公取委の命令は取引先の信頼を傷つけ、取消訴訟は長引く。資本効率も低い。ROE は 10 年の中央値で 8% 台と、資本コストをようやく超える程度で、高い倍率を払う理由はない。
TOB の話題で株価が跳ねたが、それは事業の価値が増えたからではない。買い手が支配権を求めて払う値段だ。買い手が降りれば、数字だけが残る。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。ブランドと国内首位は本物だが、成長の源である北米は枠が狭く、原料は価格を決められない。利益の額が小さいので、少しの原料高で利益率が大きく動く。
確率は下振れ側を厚くした。やや悲観を 24%、悲観を 10% に置き、楽観は 8% に抑えた。中立は 36% で最大だが、国内の縮みと北米の伸びが釣り合う姿を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,517 円695 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 732 円202 億円)。 今の値に割り戻すと 1,766 円488 億円、今との差 −40.1%、 期待の年率 +1.0%(資本コスト 7.2%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,478 円1,513 億円 | 1,086 円300 億円 | +122.5% | +8.3% | 525 円145 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,793 円1,047 億円 | 833 円230 億円 | +56.8% | +4.6% | 1,018 円281 億円 |
| 中立 | 36% | 2,538 円701 億円 | 724 円200 億円 | +10.6% | +1.0% | 1,174 円324 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,196 円330 億円 | 688 円190 億円 | −36.1% | −4.4% | 452 円125 億円 |
| 悲観 | 10% | 433 円120 億円 | 362 円100 億円 | −73.0% | −12.3% | 80 円22 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,517 円695 億円 | 732 円202 億円 | +10.1% | +1.0% | 3,249 円897 億円 |
今の株価時価総額 2,950 円815 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:北米が倍増に近く伸び、国内も値上げが続く 利益 79 億円 · PER 18.8 倍 · 株価時価総額 5,478 円1,513 億円
北米が計画を上回り、国内も値上げが通り続ける。海外のごま油は数量が 10 年で 2.2 倍になる。西洋食向けの用途が広がり、現地の販売網が整って、利益率は 28% まで上がる。国内は数量を保ち、値上げを重ねても客が離れない。
食品ごまは、原料高が一巡して家庭用の自社ブランド品が伸び、薄利から抜ける。非公開化後に経営の効率も上がり、全社の営業利益率は 15% を超える。ただ、これは 10 年の間に原料高・訴訟・関税のどれも大きな傷にならない場合だ。
公取委の訴訟も、課徴金の額の範囲で収まり、取引先との関係も大きく傷まない。
- 国内ごま油:数量 2.1(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,518(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 313 億円・営業利益 28 億円。営業利益率 9.0%
- 海外ごま油:数量 1.3(販売数量(万トン、推定))× 価格 2,100(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 268 億円・営業利益 75 億円。営業利益率 28.0%
- 食品ごま・その他:数量 0.8(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,608(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 133 億円・営業利益 7 億円。営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 78 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.6% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)45 億円。全体の PER 18.78 倍、時価総額 1,513 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米の倍増に近い伸びと国内の値上げ継続、原料高の一巡が同時に要る。北米の枠の狭さ、利益の小ささ、公取委の訴訟を考えて 8% に抑えた。
やや楽観 22% やや楽観:北米が 8 割ほどで伸び、利益率が上がる 利益 59 億円 · PER 17.2 倍 · 株価時価総額 3,793 円1,047 億円
北米が計画の 8 割ほどで伸び、国内は数量を 2% 減にとどめる。海外のごま油は数量が 1.8 倍になり、営業利益率は 25% を保つ。国内は 2 回の値上げのあとも、家庭用のブランドが数量を支える。
食品ごまは家庭用の自社ブランド品が増え、利益率がわずかに上がる。全社の営業利益率は 12% 台になる。原料高は一部の値上げと為替の落ち着きで吸収する。
公取委の命令は取消訴訟の結果いかんにかかわらず、業績の重荷にはならない。海外の伸びと国内の値上げが両立し、10 年後の ROE は 10% 台に乗る。
- 国内ごま油:数量 2.0(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,496(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 303 億円・営業利益 23 億円。営業利益率 7.5%
- 海外ごま油:数量 1.0(販売数量(万トン、推定))× 価格 2,055(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 215 億円・営業利益 54 億円。営業利益率 25.0%
- 食品ごま・その他:数量 0.8(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,608(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 125 億円・営業利益 5 億円。営業利益率 4.0%
倍率:事業の純利益 58 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)45 億円。全体の PER 17.15 倍、時価総額 1,042 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内ブランドの強さと北米の拡販は確かだが、利益率が上がるには原料と為替の安定が要る。海外の伸びが計画に届かなかった前例もあり 22% とした。
中立 36% 中立:国内は物価で支え、北米は鈍る 利益 43 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 2,538 円701 億円
国内は縮む量を値上げで支え、北米は伸びるが勢いは鈍る。国内のごま油は数量が 10 年で 5% 減り、売上は 290 億円ほど。海外のごま油は数量が 1.5 倍になり、売上は 175 億円ほど。
北米は和食以外へ広がるが、韓国・中国の銘柄との競争と関税が利益率を 22% に抑える。国内は原料高の転嫁が遅れながらも、利益率は 6% まで戻る。食品ごまは薄利のままで、全社の営業利益率は 10% ほどだ。
自己資本は 530 億円ほどで、ROE は 8% 前後。資本コストをわずかに上回る程度だ。配当は純資産の 3.5% を軸に出し続けるが、現金は積み上がり続ける。
- 国内ごま油:数量 2.0(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,474(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 289 億円・営業利益 17 億円。営業利益率 6.0%
- 海外ごま油:数量 0.9(販売数量(万トン、推定))× 価格 2,010(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 175 億円・営業利益 39 億円。営業利益率 22.0%
- 食品ごま・その他:数量 0.7(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,608(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 115 億円・営業利益 4 億円。営業利益率 3.0%
倍率:事業の純利益 42 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)45 億円。全体の PER 15.43 倍、時価総額 696 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内は縮み北米は鈍る、というもっとも無理のない筋書き。強気と慎重の主張がほぼ釣り合うが、慎重側がやや強いので、最大でも 36% にとどめた。
やや悲観 24% やや悲観:国内が早く縮み、北米は利益が出にくい 利益 26 億円 · PER 11.7 倍 · 株価時価総額 1,196 円330 億円
国内が早く縮み、北米は伸びても利益が出にくくなる。国内の数量は 10 年で 1 割減り、小売の自社ブランドが家庭用の棚を取る。値上げは通りにくくなり、価格は物価に 1 割弱届かない。
北米は関税と現地の競争で、数量は 1.2 倍にとどまる。利益率は 17% まで下がる。食品ごまはほぼ利益が出ない。公取委の命令を受けた取引先との交渉でも、条件が厳しくなる。
全社の営業利益率は 7% ほどで、今の水準を下回る。ROE は 5% 台。資本コストに届かず、倍率も上限の 1÷k 付近までしか上がらない。
原料のごまが高止まりすれば、値上げが遅れた分だけ利益が削られる。現金は積み上がるが、使い道が定まらないまま眠る。
- 国内ごま油:数量 1.9(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,430(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 266 億円・営業利益 12 億円。営業利益率 4.5%
- 海外ごま油:数量 0.7(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,950(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 136 億円・営業利益 23 億円。営業利益率 17.0%
- 食品ごま・その他:数量 0.7(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,560(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 106 億円・営業利益 2 億円。営業利益率 1.5%
倍率:ROE 5.4% が k 7.25% 以下なので PER の上限は 1÷k の 13.3 倍(ためた利益は額面未満)。その 85% の 11.69 倍を採用。稼ぐ力は純利益 26 億円で、余った現金は 0.75 倍で足した。
確率:一本足の事業、全量輸入の原料、国内の人口減、関税と競争を考え、下振れ側を上より厚い 24% とした。2027 年 3 月期の計画が減益であることも根拠。
悲観 10% 悲観:取引先が離れ、構造的に負ける 利益 7 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 433 円120 億円
構造的に負ける。公取委の命令を受けた業務用の取引先が離れ、課徴金に加えて取引条件が悪化する。国内は小売の自社ブランドと調合油に押され、数量が 2 割減る。値上げも通らなくなり、価格は物価に大きく遅れる。
北米は関税と現地の安いごま油に押される。日本産という枠のシェアは落ち、数量は 2 割減る。原料のごまは相場が急騰して転嫁できず、食品ごまは赤字になる。
全社の営業利益は 10 億円に届かない。資本の大半は現金と設備で、稼ぐ力は大きく崩れる。非公開化が成立しなかった場合の、TOB の期待が消えた姿でもある。
- 国内ごま油:数量 1.7(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,320(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 218 億円・営業利益 3 億円。営業利益率 1.5%
- 海外ごま油:数量 0.5(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,800(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 84 億円・営業利益 7 億円。営業利益率 8.0%
- 食品ごま・その他:数量 0.6(販売数量(万トン、推定))× 価格 1,440(1kg あたり平均単価(円、名目・推定))→ 売上 88 億円・営業利益 −1 億円。営業利益率 -1.0%
倍率:ROE が k 7.25% 以下で稼ぐ力は純利益 7 億円と小さく、事業の価値は床を下回る。そこで今の自己資本 374 億円に 0.32 を掛け、純現金約 120 億円の床(売れる資産の税後)と同じ額に置いた。ためた利益には掛けない。余った現金は 0.5 倍で足す形に近い。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.32 倍・時価総額 120 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:取引先の離反・小売の自社ブランドの台頭・北米の競争が重なる構造的な負けの筋書き。財務は厚く全部が重なる確率は高くないが、公取委の訴訟という個別の傷もあるので 10% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内ごま油
家庭用の「かどや純正ごま油」「金印ごま油」と、外食・食品メーカー向けの業務用。売上の約 6 割。
| 数量販売数量(万トン、推定) | 価格1kg あたり平均単価(円、名目・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.1 | 1,100 | 227 | 10 |
| 10 年後 中立 | 2.0 | 1,474 | 289 | 17 |
取り方:国内ごま油の売上を 227 億円(ごま油事業 314 億円から海外向け約 87 億円を引いた推定)とし、1kg あたり千百円前後の品が年 2.1 万トン売れていると置いた。家庭用は高め、業務用は低めの混ぜ合わせ。数量は人口減で中立 10 年 0.95 倍、価格は物価並みの 1.34 倍。市場は、家庭用が約 390 億円(2024 年・日本食糧新聞)、業務用を同程度の約 300 億円と推定し、かどやの国内シェアは金額で 3 割強。セグメント利益は海外向けと国内向けの切り分けが開示になく、ごま油事業 36.3 億円から海外向けの見通しを引いて推定した。
海外ごま油
北米を中心にした輸出と現地販売。日本産ごま油では約 7 割のシェア(会社調べ)。売上の約 2 割。
| 数量販売数量(万トン、推定) | 価格1kg あたり平均単価(円、名目・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 1,500 | 87 | 26 |
| 10 年後 中立 | 0.9 | 2,010 | 175 | 39 |
取り方:海外向けごま油の売上を、2027 年 3 月期の会社の見通し(約 90 億円、前期比 2.7% 増)から逆算して 87 億円と置いた。1kg あたり千五百円前後の品が年約 0.6 万トン。数量は北米の拡販で中立 10 年 1.5 倍、価格は物価並みの 1.34 倍。市場の大きさは、北米で日本産ごま油の約 7 割をかどやが持つが、ごま油全体では韓国・中国の銘柄が大きいので、かどやの取り分は全体の 1 割に届かないと推定。利益は見通しの約 23 億円(前期比 11.5% 減)から、前期は約 26 億円と推定した。
食品ごま・その他
すりごま・煎りごまなどの加工ごまと、自社ブランドや小売の自社ブランド向けの生産。売上の約 2 割。
| 数量販売数量(万トン、推定) | 価格1kg あたり平均単価(円、名目・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.7 | 1,200 | 86 | 2 |
| 10 年後 中立 | 0.7 | 1,608 | 115 | 4 |
取り方:全社売上 400 億円からごま油事業 314 億円を引いた約 86 億円を食品ごまとその他と置き、1kg あたり千二百円前後の品が年約 0.7 万トンと推定した。数量は国内の人口減と、小売の自社ブランドの伸びが相殺して 10 年 1.0 倍、価格は物価並みの 1.34 倍。市場は国内の加工ごま全体で数百億円と推定し、かどやのシェアはカテゴリーごとに違う。利益は 2026 年 3 月期のセグメント利益 1.8 億円に、その他の少額を足した。
リスクと懸念
原料ごまの高騰と調達の偏り
ごまは全量が輸入で、西アフリカ・エチオピア・ミャンマーなど産地が限られる。気候や政情で相場が跳ね、為替の円安も重なる。ごま油は原料費の比重が高く、値上げが遅れると利益が一気に削られる。2026 年 3 月期の食品ごま事業の利益が 1.8 億円に落ちたのが、その実例だ。
公取委の命令と取消訴訟
2025 年 5 月、業務用ごま油と食品ごまの取引で不当な取引制限があったとして、排除措置命令と課徴金納付命令を受けた。会社は東京地裁に取消訴訟を起こした。課徴金の額は未確認だが、敗訴すれば取引先との条件や信用に傷が残る。
ごま油一本足
売上の約 8 割がごま油で、他に大きな柱がない。ごまの調達か、ブランドの信用に傷がつけば、全体が揺れる。新しい用途の開拓が成長の中心だが、この 10 年で成果が出る保証はない。
国内の数量減と値上げの限界
人口が減る国で、家庭用の数量は伸びない。2 回の値上げが通ったのは物価上昇の環境が追い風だったためで、重ねれば小売の自社ブランドや調合油へ客が移る。国内の数量が想定より早く縮めば、国内の利益は物価に負ける。
北米の枠の狭さと関税
日本産ごま油の約 7 割は、北米のごま油全体では小さな枠だ。韓国や中国の銘柄、現地の安い品が強い。米国の関税や為替の変化で、利益率の高い海外が崩れると、全社の利益の半分近くが消える。
TOB の不成立と少数株主
TOB が成立すれば非公開化され、少数株主は売却の機会を得る。不成立なら市場の期待が剥がれ、事業の価値で測られる。商社と創業家の支配が続けば、資本効率の改善は遅れる。
今後の分かれ目
- 北米の売上が 2 年続けて 2 桁増になり、現地の販売網が広がる
- 海外の筋書きを楽観側へ引き上げてよい。ただ国内の縮みが続くので、全社の価値は今の値段に届かない可能性が高い。
- 原料ごまの相場が急落し、円高にも振れる
- 食品ごまと国内の利益率が回復する。中立の営業利益率を 1〜2 ポイント上方に直す。
- 公取委の取消訴訟で課徴金が大きく減る、または命令が取り消される
- 訴訟の傷が消え、悲観側の確率を下げる。取引先との関係の回復も確認する。
- TOB が不成立に終わり、対抗する買い手も現れない
- 市場の期待が剥がれ、事業の本質価値に近づく。非公開化がなければ現金の使い道も問われる。
- 国内の家庭用で、小売の自社ブランドに棚を奪われ始める
- 国内数量の縮みが加速する。やや悲観の筋書きに寄せ、確率を下げ側に移す。
- 北米で関税や現地の競争のせいで、海外の営業利益率が 20% を割る
- 海外の筋書きを悲観側に寄せる。全社の利益の主力が崩れるので、確率を移す。
見ておくもの
- 海外ごま油の売上・数量と営業利益率(四半期ごと)
- 原料ごまの価格と為替、国内の値上げの発表と数量の反応
- 公取委の取消訴訟の進み方と課徴金の額
- TOB の成否、価格の引き上げ、対抗提案の有無
- 設備投資の額と、現金の使い方(自社株買い・配当)
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとに数量 × 価格で 10 年を積み、中立の純利益に正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) を掛けた。k は基本 7.5% に quality 0 を足した 7.5%。ROE が k をわずかに上回るだけなので、倍率は式の上限と下限 1÷k の間の 13 倍台になった。今の株価も TOB の買付価格も、倍率の根拠に使っていない。純現金 120 億円のうち 60 億円を余った現金として分け、戻り方は商社と創業家の支配が強いので 0.5 とした。リースの約束は小さく、新リース会計基準の影響は軽い。10 年後の数字は家賃を営業費用に含む今の形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.8→18.78 倍・やや楽観 PER 14.5→17.15 倍・中立 PER 13.4→15.43 倍・やや悲観 PER 11.3→11.69 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality 0 を足した。事業が傾いているわけではないので上乗せはない。公取委の命令や TOB は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 7.25%。