結論
JTは国内たばこ・海外たばこ・加工食品(テーブルマーク)の3本柱から、2025年末に医薬事業を譲渡して2本柱に絞った会社である。売上の8割超を海外たばこが占め、1999年のRJRナビスコ米国外事業買収、2007年のギャラハー買収という2度の大型M&Aで専売会社から世界3位のたばこ会社へ転じた歴史がそのまま今の収益構造になっている。国内は紙巻の販売本数が年4〜6%で減り続け、2025年度には加熱式たばこの販売比率が紙巻を初めて上回ったが、増税のたびに単価が確実に上がるため、数量減を価格で補う構図が定着している。
海外たばこはフィリピン・ロシア・トルコ・英国など広い地域に展開し、価格とミックス(加熱式・プレミアム品への構成転換)が成長の軸になっている。ここでは国内たばこ・海外たばこ・加工食品の数量×単価を積み上げ、その時点のROEと資本コストから倍率を決めて時価総額を出した。ROEは今 14〜16%程度だが、自己資本を「今+純利益−還元」で流すと中立の 10 年後は 12% 弱に下がる。資本コストは基本の 7.5% に、景気に左右されず規制で値上げが通る分と、紙巻の数量減・ロシアの不確実性を差し引きして −0.5% とし、7.0% とした。値段は物価 3% の名目で、国内たばこは増税で物価以上、海外たばこは物価並み、加工食品は数量横ばい・価格は物価並みと置き、利払いは借り換えで 3.5% に上がる分を差し引いた。規制に守られた寡占を強い堀とすると利益ベースの正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) の上限は 19〜22 倍になるが、紙巻の数量が減るので上限の 7.5〜8 割の PER 14〜17 倍に置いた。
結果として、中立の筋書きの時価総額は 10 年後に今の約 0.93 倍となり、還元を足して割り引くと本質価値は今の値段を 2 割ほど下回る「やや割高」に出た。海外の数量は世界の紙巻の減少を踏まえて中立 10 年 1.1 倍にとどめた。ロシア・訴訟の不確実性は資本コストでなく悲観の確率(10 年 11%)で見込んだうえでの結論である。ロシア事業の地政学リスクと、紙巻からの構造的な数量減という下押しを、価格の力と加熱式への構成転換、加工食品事業の下支えでどこまで相殺できるかが、今の値段を上回る価値が出るかどうかの分かれ目になる。
バリュー投資の観点から
海外たばこ事業のブランドと各国での販売網・規制対応の蓄積は、容易には崩れない堀だとバリュー投資の観点では評価できる。たばこは価格弾力性が低く、増税のたびに単価を上げられる構造は、物価3%の環境下でも実質的な価格決定力を保ち続けられる珍しい業種特性であり、オーナー利益を安定的に生み出す力は高いと見るはずだ。
一方で、紙巻からの構造的な数量減という逆風そのものは消えず、10年後もこの事業が「今より強い」かどうかは、加熱式への構成転換をどこまで取り切れるかに懸かっている。過去のRJRナビスコ・ギャラハー買収は専売会社を世界企業に変えた規律ある資本配分だったと評価できるが、2024年のような一時的な訴訟関連損失の振れは、海外展開に伴う法的リスクの大きさを示しており、10年後の収益を自信を持って予測しづらい部分も残る。
資本配分については、安定した増配と加熱式への再投資のバランスを長年維持してきた経営規律を評価できる。ロシア事業の地政学リスクという、自社の経営判断だけではコントロールできない要素を抱えている点は、安全域を考える際に相応の慎重さを求める。
何で稼ぐ会社か
収益の中心は海外たばこ事業で、売上の8割超を占める。1999年にRJRナビスコの米国外たばこ事業(ウィンストン・キャメル・セーラムなど)を約7,800億円で、2007年に英ギャラハー(LD・ベンソン&ヘッジズなど)を約1兆7,300億円で買収し、専売会社から世界3位のたばこ会社へ転じた。フィリピン・ロシア・トルコ・英国など広い地域で紙巻と加熱式たばこ(RRP)を販売し、価格改定とプレミアム品への構成転換(ミックス)が成長の主な手段になっている。
国内たばこ事業は紙巻(セブンスター・メビウスなど)と加熱式(Ploom)を展開する。国内の紙巻販売本数は年4〜6%で減少を続けるが、たばこ税は増税のたびに確実に単価を押し上げる構造があり、数量減を価格で補ってきた。2025年度には加熱式たばこの販売比率が紙巻を初めて上回り、紙巻の収益で加熱式への投資(中期経営計画2026〜2028の3年で約8,000億円)を続ける方針を採っている。
加工食品事業はテーブルマークが中心で、冷凍食品・包装米飯・調味料などを国内で展開する。売上規模はグループ全体の5%程度にとどまるが、人口減の中でも中食・簡便化需要の追い風を受けて増収増益を続けており、たばこ事業に偏った収益構造の中で小さな分散効果を持つ。2025年末に医薬事業(JTファーマ)を譲渡し、経営資源をたばこと加工食品の2本柱に集中させた。
優良さと弱いところ
海外たばこ事業は、ブランド(ウィンストン・キャメル・LD・ベンソン&ヘッジズなど)と各国での販売網・規制対応の蓄積が堀になっており、新規参入が難しい許認可型の事業である。たばこは価格弾力性が低い嗜好品であるため、増税や原料高が来ても価格に転嫁しやすく、国内・海外ともに値上げの通りやすさという点で優良さが際立つ。
ROEは14〜16%程度で推移し、2024年には一時的な訴訟関連の引当金(カナダでの訴訟関連)で利益が急落したが、2025年には引当金の取り崩しもあって利益は176%増と急回復した。この振れ方は、M&Aで積み上げたのれんや各国の法的リスクが業績を一時的に大きく揺らすという弱点を示している。
ROEと財務体質はおおむね健全(純負債÷自己資本0.2倍程度)だが、紙巻からの構造的な数量減という逆風を、加熱式への構成転換と増税を伴う価格の力でどこまで相殺し続けられるかが優良さの持続性を左右する。ロシア事業は地政学リスクにさらされ続けており、他社(キリンのミャンマー撤退など)のように将来の撤退・減損に至る可能性は否定できない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の紙巻たばこ販売本数は年4〜6%で減少を続け、2025年度第4四半期は前年比マイナス4.8%だった。一方で加熱式たばこの販売比率が紙巻を初めて上回り、JTのPloomはフィリップモリスのアイコス・BATのgloと三つ巴で加熱式市場のシェアを争う構図になっている。たばこ税は財源確保を目的に段階的な増税が組み込まれており、数量減少を価格上昇で補う構造が今後も続くと見られる。
海外たばこ事業は、フィリピン・英国など複数市場で紙巻の価格改定(Price/Mix)が業績をけん引しており、2026年12月期のたばこ事業の事業利益は前年比8%増の見通しとなっている。ロシア・トルコなど新興国市場は喫煙率の低下速度が先進国より緩やかで、当面は数量の下支えになるが、ロシアは地政学リスク(制裁・資産凍結)の影響を常に受ける可能性がある。
加工食品(冷凍食品・包装米飯)は、人口減の中でも単身世帯の増加や中食・簡便化需要の拡大という追い風を受けており、業界全体として値上げが通りやすい環境が続いている。たばこ業界全体としては、規制強化(広告規制・フレーバー規制・パッケージ規制)が各国で強まる傾向にあり、加熱式への投資と規制対応のコストが今後10年の収益構造を左右する最大の論点になる。
資本政策と M&A
配当は長年増配を続け、2026年12月期も増配を予定している。株主還元に積極的な一方、研究開発・RRP投資(中期経営計画2026〜2028で3年間約8,000億円)にも資源を配分する方針で、紙巻で稼いだ利益を加熱式に再投資する構図が続く。
過去の大型M&A(1999年RJRナビスコ米国外事業、2007年ギャラハー)は専売会社から世界3位のたばこ会社への転換を成功させた一方、買収で積み上げたのれんと各国の法的リスク(カナダの訴訟関連引当金など)が業績を一時的に大きく揺らす要因にもなっている。
2025年末に医薬事業を譲渡し、たばこと加工食品の2本柱に資源を集中する再編を行った。今後も非中核事業の整理や、加熱式・RRP領域での追加M&Aの可能性があるが、大型買収で事業領域をさらに広げる動きよりは、既存事業の構成転換(紙巻から加熱式へ)に資本を使う方針が中心になると見られる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
海外たばこ事業は、フィリピン・英国など複数市場で価格改定(Price/Mix)が着実に進み、2026年12月期のたばこ事業の事業利益は前年比8%増の見通しとなっている。加熱式たばこの販売比率が紙巻を初めて上回ったことは、むしろ単価の高い製品への構成転換が進んでいる証拠であり、紙巻で稼いだ利益を加熱式に再投資する3年間約8,000億円の投資計画が実を結べば、収益構造そのものが高付加価値化する。
たばこ税の段階的な増税は、裏を返せば国内の数量減少を確実に価格で補える仕組みであり、他の消費財のように値上げが受け入れられるかどうかを心配する必要が小さい。嗜好品としての価格弾力性の低さは、物価3%の環境下でも実質的な価格決定力を保てる強みになる。
2025年末の医薬事業譲渡で、たばこと加工食品という理解しやすい2本柱に資源を集中できたことも評価できる。加工食品(テーブルマーク)は人口減の中でも中食需要の追い風で増収増益を続けており、たばこに偏った収益構造への小さいが確実な分散効果を持つ。財務体質も健全で、増配を続けながら加熱式投資を進める余力がある。これらを踏まえれば、中立シナリオでも今の株価に見合う本質価値を持ち、業績が計画を上回って進めば楽観に近い筋書きも十分にありうる。
慎重な見方
国内の紙巻たばこ販売本数は年4〜6%で減少を続けており、加熱式への転換が進んでも、たばこという嗜好品そのものの喫煙率低下という人口構成の変化は止められない。加熱式市場でもフィリップモリスのアイコス、BATのgloとの競争が激しく、JTのPloomが十分なシェアを確保できなければ、紙巻の収益縮小を補いきれないリスクがある。
海外たばこ事業は収益の8割超を占めるが、ロシア・トルコなど地政学リスクの高い市場への依存度が相応にあり、制裁の強化や資産凍結が起きれば、キリンのミャンマー撤退のような「買ったが手放す」展開になりかねない。2024年にはカナダの訴訟関連引当金で純利益が急落した経験があり、海外展開に伴う法的リスクが今後も業績を一時的に大きく揺らす可能性がある。
各国で広告規制・フレーバー規制・パッケージ規制が強化される流れは、紙巻・加熱式の双方の成長余地を長期的に狭める方向に働く。たばこという事業そのものへの規制強化・ESG投資家からの資金引き離しが進めば、今の低いβで評価されている資本コストの前提自体が崩れ、倍率が市場から見直される(資本コストが上がる)リスクも否定できない。構造的な数量減が価格の力を上回る局面が来れば、優良さの前提が崩れる。
どちらに重みを置いたか
価格決定力とブランドの堀では強気の見方が優勢だが、紙巻の構造的な数量減とロシアなど地政学リスクという慎重な見方の指摘も的を射ている。たばこ税という制度的な後押しがある分、他の消費財より数量減を価格で補いやすい業種特性を評価し、中立をやや強気側に置いたが、2024年のような一時的な損失の振れが今後も起きうることを踏まえ、悲観側にも相応の重みを残した。 ロシア・訴訟の不確実性は k でなく確率で見て、悲観に厚めの確率を置いた。結論は、今の利益は残り、新しく投じるお金の稼ぎの 3 分の 2 が残ると見ても、数量の減りから利益ベースの正当化 PER の 7.5〜8 割に置くと、総合でやや割高(今の値段を 2 割ほど下回る)になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 11,453 円20.34 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,060 円3.66 兆円)。 今の値に割り戻すと 7,291 円12.95 兆円、今との差 −2.5%、 期待の年率 +6.1%(資本コスト 7.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 13% | 27,866 円49.49 兆円 | 3,030 円5.38 兆円 | +313.0% | +15.2% | 4,016 円7.13 兆円 |
| やや楽観 | 23% | 16,748 円29.74 兆円 | 2,468 円4.38 兆円 | +156.9% | +9.9% | 4,420 円7.85 兆円 |
| 中立 | 33% | 9,731 円17.28 兆円 | 2,045 円3.63 兆円 | +57.4% | +4.6% | 3,886 円6.90 兆円 |
| やや悲観 | 20% | 3,467 円6.16 兆円 | 1,576 円2.80 兆円 | −32.6% | −3.9% | 1,009 円1.79 兆円 |
| 悲観 | 11% | 667 円1.18 兆円 | 985 円1.75 兆円 | −77.9% | −14.0% | 182 円3,227 億円 |
| 加重平均 | 100% | 11,453 円20.34 兆円 | 2,060 円3.66 兆円 | +80.6% | +6.1% | 13,513 円24.00 兆円 |
今の株価時価総額 7,481 円13.29 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 13% 加熱式主導の構成転換が10年続き国内も収益拡大 利益 22,912 億円 · PER 21.6 倍 · 株価時価総額 27,866 円49.49 兆円
10年間で加熱式(Ploom)が国内たばこ市場の主役になり、紙巻の数量減を単価の大幅な上昇が上回る。海外たばこはフィリピン・英国・トルコでの価格の力とRRP拡大が定着し、ロシア事業も大きな混乱を避けて収益に貢献し続ける。加工食品は中食需要の拡大で安定成長を続け、医薬事業譲渡で得た資源を加熱式投資と株主還元に集中配分できたことが功を奏する。無借金に近い財務体質を背景に自社株買いを継続し、ROEは高水準を維持する理想的な10年になる。フィリップモリス・BATとの加熱式競争でもJTが互角以上の地位を保ち続ける10年間になる。
- 国内たばこ:数量 81.7(国内たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算))× 価格 136(1本あたり平均単価(円))→ 売上 11,079 億円・営業利益 2,991 億円。加熱式主導の単価上昇が数量減を上回る
- 海外たばこ:数量 720(海外たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算))× 価格 122(1本あたり平均単価(円))→ 売上 87,552 億円・営業利益 32,395 億円。加熱式と新興国で数量 1.6 倍
- 加工食品(テーブルマーク):数量 19.5(販売食数(億食、冷凍麺・包装米飯・冷凍お好み焼き等を 1 食に換算した推定))× 価格 140(1 食あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 2,730 億円・営業利益 191 億円。中食需要拡大で安定成長
倍率:事業の純利益 22,912 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 14.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.6 倍。全体の PER 21.6 倍、時価総額 494,899 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年間、加熱式への構成転換と海外の価格の力が途切れず続く必要があり、実現すれば非常に強いが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 23% 価格の力が数量減を安定して上回る 利益 14,460 億円 · PER 20.6 倍 · 株価時価総額 16,748 円29.74 兆円
国内の紙巻数量減は続くが、加熱式への転換と増税に伴う単価上昇がこれを安定して上回る。海外たばこはフィリピン・英国の価格改定が定着し、トルコ・ロシアは地政学リスクを抱えつつも収益への貢献を保つ。加工食品は中食需要の追い風で緩やかな成長を続け、医薬事業譲渡後の資源配分がたばこ事業の構成転換を後押しする10年になる。増配と加熱式投資の両立が10年間続き、会社の中期計画の延長線上にある姿として市場から評価される。ロシア・トルコの地政学リスクは残るが、致命的な悪材料には至らない10年間として想定し、株主還元も増配ペースを保つ。
- 国内たばこ:数量 73.7(国内たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算))× 価格 112(1本あたり平均単価(円))→ 売上 8,284 億円・営業利益 1,988 億円。単価上昇が数量減を安定して上回る
- 海外たばこ:数量 610(海外たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算))× 価格 101(1本あたり平均単価(円))→ 売上 61,427 億円・営業利益 20,885 億円。数量 1.3 倍・価格は物価並み以上
- 加工食品(テーブルマーク):数量 18.2(販売食数(億食、冷凍麺・包装米飯・冷凍お好み焼き等を 1 食に換算した推定))× 価格 137(1 食あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 2,493 億円・営業利益 149 億円。中食需要で緩やかな成長
倍率:事業の純利益 14,460 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 12.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.6 倍。全体の PER 20.57 倍、時価総額 297,442 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画で示す価格・ミックス戦略が10年間おおむね計画通りに進むという、業界の構造的見通しの上位レンジに近い想定。
中立 33% 中立:数量減と価格の力がおおむね均衡する成熟企業 利益 8,663 億円 · PER 19.4 倍 · 株価時価総額 9,731 円17.28 兆円
10年間で国内紙巻の数量は大きく減るが、加熱式への転換と増税分の単価上昇が数量減をおおむね相殺し、国内たばこ事業は横ばいに近い規模で推移する。海外たばこは成長するが、過去ほどの高成長は一巡し、フィリピン・英国の価格改定と新興国のリスクが相殺し合う。加工食品は中食需要を取り込みつつも人口減の影響を受け、全社として「普通に優良な」嗜好品企業としての評価に収まる10年になる。医薬事業譲渡で得た資源の再配分は一定の成果を上げるが、特別な超過成長には至らない落ち着いた10年間になる。それでも増配と加熱式投資の両立は維持され、優良さ自体は大きく崩れない。
- 国内たばこ:数量 59.9(国内たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算))× 価格 102(1本あたり平均単価(円))→ 売上 6,128 億円・営業利益 1,226 億円。数量減と単価上昇がおおむね均衡
- 海外たばこ:数量 510(海外たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算))× 価格 83(1本あたり平均単価(円))→ 売上 42,330 億円・営業利益 13,122 億円。数量 1.1 倍・価格は物価並み
- 加工食品(テーブルマーク):数量 17.0(販売食数(億食、冷凍麺・包装米飯・冷凍お好み焼き等を 1 食に換算した推定))× 価格 134(1 食あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 2,278 億円・営業利益 103 億円。中食需要と人口減が相殺
倍率:事業の純利益 8,663 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.4 倍。全体の PER 19.39 倍、時価総額 167,976 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:紙巻の構造的な数量減と、増税・ミックス改善という価格の力がおおむね相殺し合う、業界の中心的な見通し。
やや悲観 20% 規制強化で構成転換の速度が計画より遅れる 利益 4,703 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 3,467 円6.16 兆円
各国での規制強化(フレーバー規制・パッケージ規制・広告規制)が加熱式の普及を鈍らせ、国内・海外ともに紙巻の数量減を価格の力で十分に補えなくなる。ロシア・トルコの地政学リスクが長期化し、海外たばこの成長ペースも後退する。加工食品は原材料高が続き利益率が伸び悩む。たばこという事業そのものへの規制強化・ESG投資家の資金引き離しが進み、優位性はあるが以前ほどの評価を受けにくくなる10年になる。加熱式への追加投資も計画より抑制的になり、成長の裾野が狭まる10年間になる。事業自体が崩れるわけではないが、かつての勢いは後退した姿になる。
- 国内たばこ:数量 48.4(国内たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算))× 価格 84(1本あたり平均単価(円))→ 売上 4,085 億円・営業利益 613 億円。規制強化で構成転換が遅れる
- 海外たばこ:数量 460(海外たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算))× 価格 68(1本あたり平均単価(円))→ 売上 31,372 億円・営業利益 8,470 億円。地政学リスクの長期化で成長後退
- 加工食品(テーブルマーク):数量 15.5(販売食数(億食、冷凍麺・包装米飯・冷凍お好み焼き等を 1 食に換算した推定))× 価格 128(1 食あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 1,984 億円・営業利益 39 億円。原材料高で利益率伸び悩む
倍率:ROE7.6%・k7.0%・残る割合0.67でRONIC=7.4%、正当化PER上限15.1倍の約7割(10.5倍)を採用。稼ぐ力(事業の純利益÷k)に、規制強化で利益が薄れる分を見込んだ7割。
確率:各国の広告・フレーバー規制強化が加熱式の普及速度を鈍らせ、紙巻の数量減を価格の力で補いきれなくなる想定。過去の規制強化の事例に沿う下振れレンジ。 地政学・規制の不確実性を確率で表すため、前より 1 ポイント厚くした。
悲観 11% 構造的に優良さを失う 利益 1,184 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 667 円1.18 兆円
ロシア事業が制裁の強化で収益に大きな打撃を受け、資産の一部を失う。各国での広告・フレーバー規制が一段と強まり、加熱式市場でもフィリップモリス・BATに対して競争劣位に陥る。国内の紙巻数量減は規制強化でさらに加速し、価格の力だけでは補えなくなる。加工食品も原材料高と人口減の直撃で収支が悪化する。かつての「価格決定力の強い優良企業」という評価は後退し、規制リスクの高い成熟企業としての評価に落ち着く10年になる。増配方針も見直しを迫られ、株主還元の規模そのものが縮小する厳しい10年間になる。それでも事業自体が消滅するわけではなく、規模を縮めた形で存続する。
- 国内たばこ:数量 34.9(国内たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算))× 価格 77(1本あたり平均単価(円))→ 売上 2,670 億円・営業利益 214 億円。規制強化で数量減が一段加速
- 海外たばこ:数量 307(海外たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算))× 価格 56(1本あたり平均単価(円))→ 売上 17,156 億円・営業利益 3,431 億円。ロシア制裁と加熱式での競争劣位
- 加工食品(テーブルマーク):数量 13.5(販売食数(億食、冷凍麺・包装米飯・冷凍お好み焼き等を 1 食に換算した推定))× 価格 118(1 食あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 1,593 億円・営業利益 −48 億円。原材料高と人口減の直撃
倍率:ROE2.2%がk7.0%以下なので、PERの上限は1÷k=14.3倍(ためた利益は額面未満の価値)。その約7割(10.0倍)を採用。ロシア事業の損失確定と規制強化で稼ぐ力が細る筋書き。稼ぐ力(純利益÷k)の7割。
確率:ロシア事業の制裁による損失確定、各国の規制強化、加熱式での競争劣位が同時に重なる複合シナリオ。嗜好品の規制リスクは一度強まると10年で後退しやすいため低頻度だが無視できない確率を置いた。 ロシア事業と規制の不確実性は資本コストに足さずこの確率に入れたため、前より厚い 11% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内たばこ
紙巻(セブンスターなど)と加熱式(Ploom)の国内販売。
| 数量国内たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算) | 価格1本あたり平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 100 | 63 | 6,280 | 1,256 |
| 10 年後 中立 | 59.9 | 102 | 6,128 | 1,226 |
取り方:JT全体のたばこ売上収益見通し(約3.47兆円)の国内比率18.1%から算出。販売数量は会社開示の総販売数量5,529億本から国内分を概算。 国内の価格は増税が続くため物価より速く上がる(中立 10 年 1.6 倍)。数量は喫煙率の低下で 10 年 4 割減る。
海外たばこ
フィリピン・ロシア・トルコ・英国など広域での紙巻・加熱式(RRP)販売。
| 数量海外たばこ販売数量(億本、紙巻・加熱式換算) | 価格1本あたり平均単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 460 | 62 | 28,420 | 8,526 |
| 10 年後 中立 | 510 | 83 | 42,330 | 13,122 |
取り方:たばこ事業売上収益の海外比率81.9%から算出。価格は国内とほぼ同水準に設定(地域による差は平均化)。 数量は実質(本数)で置く。世界の紙巻市場は年 2% 前後減るが、加熱式(Ploom)の拡大と新興国・米国(ベクター)でのシェア獲得で、中立は 10 年 1.1 倍(年 1% 程度)にとどめる。価格は名目で、物価並み(10 年 1.34 倍)に上がる。
加工食品(テーブルマーク)
冷凍食品・包装米飯・調味料などの国内加工食品事業。
| 数量販売食数(億食、冷凍麺・包装米飯・冷凍お好み焼き等を 1 食に換算した推定) | 価格1 食あたりの平均単価(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 16.5 | 100 | 1,650 | 50 |
| 10 年後 中立 | 17.0 | 134 | 2,278 | 103 |
取り方:テーブルマークの売上 1,650 億円を、冷凍うどん・包装米飯など 1 食あたり百円前後の品が年 16.5 億食売れていると置いて分けた(推定)。数量は人口減と簡便化需要が打ち消し合ってほぼ横ばい、価格は原材料・人件費に合わせて物価並み(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍)に上がる。
リスクと懸念
ロシア事業の地政学リスク
海外たばこ事業の重要な市場であるロシアは、制裁の強化や資産凍結のリスクに常にさらされており、キリンのミャンマー撤退のように「買ったが手放す」展開に至る可能性があり、収益の8割超を海外に依存する構造の中でこの一国のリスクが相対的に大きい。
国内紙巻の構造的な数量減
国内の紙巻たばこ販売本数は年4〜6%で減少を続けており、加熱式への転換が計画より遅れれば、増税による単価上昇だけでは数量減を補いきれなくなる局面が来る可能性がある。喫煙率の低下は人口構成の変化そのものであり、短期間で反転することは想定しにくい構造的な逆風である。
各国の規制強化
広告規制・フレーバー規制・パッケージ規制が各国で強化される流れは、紙巻・加熱式双方の成長余地を長期的に狭める方向に働き、ESG投資家の資金引き離しが進めば資本コストの前提自体が見直されるリスクもある。規制の強まり方は国ごとに異なり、どの市場で先に強化が進むかの予見は難しい。
訴訟関連の一時的損失
2024年にはカナダの訴訟関連引当金で純利益が急落した実績があり、海外展開に伴う法的リスクが今後も業績を一時的に大きく揺らす可能性がある。たばこ会社特有の製造物責任訴訟は、一度発生すると長期間にわたって業績の不確実性を高める要因になる。
加熱式市場での競争
フィリップモリスのアイコス、BATのgloとの三つ巴の競争が激しく、JTのPloomが十分なシェアを確保できなければ、紙巻の収益縮小を加熱式で補いきれなくなる。新機種の投入競争が続く中で、技術やデバイスの訴求力で劣後するリスクも抱えている。
加工食品事業の原材料高
テーブルマークの冷凍食品・包装米飯事業は原材料高・物流費高騰の影響を受けやすく、価格転嫁が遅れれば利益率が圧迫される小さいながら無視できないリスクである。たばこ事業への依存を和らげる分散効果の役割を果たしきれなくなる可能性もある。
今後の分かれ目
- 加熱式たばこの国内販売比率がさらに拡大し、紙巻の収益縮小を上回る単価上昇が続いたら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。加熱式投資の計画が実を結んでいるとみる。
- ロシア事業に制裁強化や資産凍結の動きが出たら
- やや悲観・悲観側に重みを移し、海外たばこの前提を下方修正する。
- 各国で広告・フレーバー規制の強化が相次いだら
- 10年の筋書きをやや悲観側に寄せ、加熱式普及の前提を慎重に見直す。
- 訴訟関連など特別損失が再び発生したら
- 一時的な振れとして見るか、構造的な法的リスクの高まりとして見るかを、発生地域と規模で判断する。
- 加工食品事業の増収増益が続き、全社利益への貢献度が高まったら
- たばこ事業への依存度低下として評価し、分散効果を前提にやや前向きに見直す。
- たばこ税の増税ペースが想定より緩やかになったら
- 国内たばこの価格前提を下方修正し、数量減を補いきれない年が増える可能性を考慮する。
見ておくもの
- 四半期ごとの国内紙巻・加熱式の販売数量とシェア
- 海外たばこの地域別の価格改定(Price/Mix)の進捗
- ロシア・トルコの事業環境と地政学リスクの動向
- 各国の規制強化(広告・フレーバー・パッケージ)の動き
- 加工食品事業の増収増益の継続
倍率と資本コストの決め方
国内・海外たばこ・加工食品の数量×単価を積み上げ、その時点の利益に利益ベースの正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) の上限を出し、その 7.5〜8 割を掛けて倍率を決め、最後に今の株価と比べた。k は基本 7.5% に quality −0.5% を足した 7.0%。たばこの長期の伸びは名目 2.5〜3% 前後だが、紙巻の数量減と加熱式の採算の読みにくさを見て、上限すれすれにはしなかった。中立の PER は 14.3 倍。これは今の株価から逆算したものではなく、流れで積んだ自己資本での ROE 12% 前後と k 7%、強い堀(残る割合 2/3)、数量の減りの組み合わせから出た値である。悲観側は稼ぐ力(純利益÷k)の 7 割に置いた。自己資本は「今+純利益−還元」で流した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17.3→21.6 倍・やや楽観 PER 16→20.57 倍・中立 PER 14.3→19.39 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本 7.5% に quality を足して決める(β・規模は使わない)。quality の内訳と理由は quality_why に書いた。事業が傾いているわけではないので上乗せ(extra)は置かない。