結論
六甲バターは、ベビーチーズ「Q・B・B」で知られる家庭用プロセスチーズの国内首位メーカーである。家庭用の購買金額シェアは26.5%で、15年連続の首位を守る。2025年にはナッツ菓子のミツヤグループを完全子会社にし、2026年12月期の売上は550億円に跳ねる計画だ。
筆者の結論は、今の値段はやや割高、というものだ。看板の強さは本物だが、稼ぐ力が弱い。営業利益率は直近で3%前後、自己資本利益率(ROE)は4%台で、資本コストの8%台に届かない。中期計画は2027年12月期に営業利益43億円を掲げるが、足元の見通しは20億円ほどで、開きが大きい。
利益が薄い最大の理由は原料にある。主原料のナチュラルチーズは輸入が中心で、世界の相場と為替に振り回される。値上げで取り戻しても、次の原料高でまた削られる。10年後の中立は、営業利益率が4%台に戻り、営業利益33億円、純利益22億円。それでも自己資本は430億円近くに膨らみ、ROEは5%台にとどまる。
株価は自己資本の6割ほどで、割安に見えやすい。しかし稼ぎが資本コストに届かない会社では、帳簿の厚みは価値の裏付けにならない。2026年に配当方針を引き上げ、自社株買いにも動いた点は評価できる。それでも10年先の価値は、今の値段を下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、この会社は良い事業とは言い切れない。問いは三つある。10年後も事業は残り強いか。稼いだお金のうち、株主が自由に使えるのはいくらか。経営者は資本を賢く使うか。
事業は残る。チーズは食卓に定着しており、ベビーチーズのブランドも簡単には崩れない。ただ、強くなるとは言いにくい。家庭用市場は縮み、ナチュラルへの流れは続く。
稼ぐ力は弱い。中立でも10年後の純利益は22億円ほどで、その時の自己資本は430億円近い。利益の大半は工場の更新や運転資金に吸われ、株主が自由に使えるオーナー利益は小さい。減価償却は取得時の値段のままで年22億円ほどと、物価が上がっても増えない。一方、更新投資は建築費の上昇で膨らむ。会計上の利益は物価でふくらんで見えるが、現金は細る。
資本配分には評価できる点がある。配当性向の数値目標、自社株買い、ベトナムの現地生産という手堅い投資だ。ミツヤの買収額が非開示なのは気にかかる。
安全域を測る。時価総額は自己資本の6割で、借入と現金はほぼ釣り合う。倒れにくい会社だ。だが安全域は帳簿ではなく稼ぐ力で測るもので、今の値段に十分な余裕は見えない。
何で稼ぐ会社か
事業の中心はチーズ事業で、売上の約8割を占める。家庭用の「ベビーチーズ」「チーズデザート6P」などを量販店に卸し、外食チェーン・給食・食品メーカー向けの業務用チーズも売る。一口サイズで個包装のベビーチーズが象徴的な商品だ。具材入りチーズなど独自の製造技術を持ち、2019年に稼働した神戸工場は日本最大級のプロセスチーズ工場である。
業務用では、老健・メディカル向けの「Q食」シリーズや外食チェーン向けの新規大口の開拓を重点にしている。中期計画は、既存事業の売上を2023年の約435億円から2027年に約490億円へ、年3.3%以上で伸ばすとする。業務用チーズでは、六甲バターは首位ではなく挑戦者の立場だ。
売上の約2割はナッツ事業だ。主体は豆菓子・ナッツのミツヤグループで、2024年に49%を取得し、2025年11月に残りを買って完全子会社にした。福岡と熊本に拠点を持ち、売上は約90億円。西日本の個人向けに強く、大手のOEM(受託製造)も手がける。六甲バター自身のナッツ事業と合わせて展開する。
海外はまだ小さいが、伸ばす方針だ。インドネシアでは三菱商事との合弁で、ハラル対応のチーズを作る。六甲バターの持ち分は49%で、持分法の会社として扱う。ベトナムは100%子会社が日本産チーズを売っており、2026年9月の稼働を目指して現地生産に踏み出す。海外売上は2027年に20億円が目標だ。
植物由来のチーズ代替食品「PLANT MADE」は新事業の位置づけで、オーツミルクは終了した。売上代金の回収は、筆頭株主の三菱商事に委託している。
優良さと弱いところ
優良さの評価は割れる。ブランドとシェアは本物だが、お金の稼ぎ方は平凡だ。
強みは三つある。第一に、家庭用プロセスチーズで首位の26.5%を15年続けていること。ベビーチーズと6Pの領域ではリーダーで、棚の位置と固定客を持つ。第二に、具材入りチーズなどの独自の製造技術と、日本最大級の神戸工場。第三に、東南アジアで高めの値段でも売れる「日本産」の評判だ。
弱みも三つある。第一に、原料のナチュラルチーズを世界相場で買う価格の受け手であること。値上げは通っても遅れ、営業利益率は1%台から11%まで大きく振れてきた。第二に、スライスや6Pのように商品の差が出にくい分野ではチャレンジャーにとどまり、大手乳業の価格攻勢を受ける。雪印メグミルクは2工場に約475億円を投じてチーズの増産に動く。第三に、規模の小ささだ。売上は大手乳業の十分の一ほどで、原料の購買力でも研究開発でも劣る。
資本効率はこの弱みを映す。過去10年のROEの中央値は4%で、資本コストを大きく下回る。経営陣はアメーバ経営の深耕と高付加価値化で改善を掲げ、2024年に利益は上向いた。だが2025年は万博関連の費用で再び落ちた。
筆者は、ブランドは守れても、それが高い利益率に変わる保証はないと見る。三菱商事が16.5%を持つ安定した株主構成は、経営への外からの規律が働きにくいことの裏返しでもある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のチーズは、全体では伸び、家庭用の中身が入れ替わっている。農林水産省によると、2024年度のチーズ総消費量は約32.6万トンで、前年比3.5%増と5年ぶりに増えた。伸びを支えたのは外食・業務用と輸入のナチュラルチーズだ。国産プロセスチーズの生産量は11.5万トンと、前年比1.3%増にとどまる。
家庭用は逆風が強い。2024年度の家庭用市場は金額・物量とも約1%減った。相次ぐ値上げで日常使いの定番品が落ち込み、ナチュラルチーズの売上が初めて金額でプロセスチーズを上回った。ベビーチーズやスライスは減り、カマンベールやモッツァレラのような高価格帯は堅調だった。「自分好み」を求める消費者の動きの中で、プロセスチーズは定番の座を少しずつ明け渡している。
競争は大手の寡占に近い。雪印メグミルク(チーズ全体で首位の27%)、森永乳業、明治が大手で、六甲バターは家庭用プロセスチーズに絞った専業として並ぶ。雪印メグミルクは北海道と茨城の2工場に計約475億円を投じ、増産に動く。大手が量を作れば、スライスや6Pの価格競争は強まる。
原料も安定しない。国産プロセスチーズの原料には、輸入のナチュラルチーズが年7.2万トン使われる。乳製品の国際相場とドル円が、そのまま原価に響く。
10年の見立ては、国内の家庭用が数量で横ばいから微減、業務用と外食・給食が小幅な増加、海外が小さな上積み、というものだ。人口減で学校給食の対象は減るが、高齢者施設向けは増える。価格は物価並みに上がる前提だが、値上げのたびに量が逃げる点は忘れてはならない。
資本政策と M&A
資本政策は2026年に大きく動いた。8月末、配当の下限は従来の水準に据えたまま、配当性向40%以上という数値目標を新たに置いた。2026年12月期の期末配当は予定を引き上げ、年間配当は従来計画の約1.5倍になる。
株主優待も改めた。2026年12月末から、100株以上を1年以上持つ株主に額面千円のQUOカードを加え、1,000株以上には従来どおり自社製品(三千円相当)を贈る。費用は年0.6億円ほどと推定した(株主8,107人のうち対象を半数強と置いた)。10年で6億円を、還元に足した。
自社株買いも動いた。2026年上期に約12億円で、発行済み株式の5%強を取得した。株数にはすでに反映されており、自己資本の起点も取得後の325億円から始めた。
投資は、神戸工場のあと、ベトナムの現地生産(資本金約12億円)が当面の山だ。M&Aは中期計画で規模拡大の手段と位置づけられ、ミツヤが第一弾だった。取得額は開示されておらず、のれんの大きさと減損の可能性は注視が要る。
三菱商事は筆頭株主(16.5%)で、インドネシアの合弁相手でもある。再編やTOB(株式公開買い付け)の可能性は残るが、ここでは価値に織り込まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
六甲バターは、家庭用プロセスチーズの首位を15年守る。ベビーチーズとチーズデザートは他社がまねしにくい商品で、棚の定位置を持つ。看板が強い会社の利益率は、原料が落ち着けば必ず戻る。2024年に営業利益が18億円まで上向いたのがその証拠で、2026年も当初は23億円を見込んでいた。足元の落ち込みは、原料高と円安という一時的な逆風だ。
固定費の側も味方になる。神戸工場の減価償却は年22億円ほどで、物価が上がっても増えない。数量と価格が伸びれば、利益率は一気に改善する。中期計画は2027年に営業利益43億円、2030年に利益率10%を掲げる。達成が半分でも、利益は倍近くになる。
成長の芽もある。ベトナムの現地生産は輸出の弱点だった為替と運賃を解消する。ミツヤは九州の販路と大手のOEMを持ち、Q・B・Bの全国網に乗せれば伸ばせる。配当性向40%以上の明文化と自社株買いは、経営が株主を見ている印だ。
財務の余力もある。手元の現金は2026年6月末で約104億円あり、年末に膨らむ売掛金は期中に回収される(上期に65億円減った)。借入を返しながら、配当性向を保つ余裕がある。
時価総額は自己資本の6割にすぎず、不動産と投資有価証券が下を支える。三菱商事という安定株主は、買収や再編が起きた時の上振れの源にもなる。
慎重な見方
利益率の薄さは偶然ではなく構造だ。原料の主体は輸入のナチュラルチーズで、世界相場とドル円で決まる。値上げは遅れて通り、また次の原料高で削られる。2019年以降の営業利益率は平均で3%台、2022年には1%を割った。中期計画は毎回、下方修正されてきた。2026年も当初の23億円は15億円に切り下がり、2027年の43億円と市場の見通し20億円との開きは大きい。
市場の中身も逆風だ。家庭用市場は縮み、ナチュラルチーズが金額でプロセスチーズを上回った。雪印メグミルクは約475億円を投じて増産に動く。大手が量で攻めれば、スライスと6Pでチャレンジャーの六甲バターが価格競争に巻き込まれる。
投資の先行きも読みにくい。インドネシアの合弁には2026年上期だけで約1億円の支援費用が出ており、ナッツの営業利益率は3%と低い。ミツヤの買収額は開示されず、のれんの減損が出る可能性が残る。
業績の回復を、原料と為替という会社の手の届かない要因に頼っている点も重い。価格改定は2025年4月にも行ったが、値上げによる量の減少が残り、同じ年に万博関連の費用も重なって、利益は前の年を下回った。
さらに資本効率は資本コストを大きく下回る。ROEは過去10年の中央値で4%。利益の多くを工場と運転資金に吸われる会社に、帳簿の6割という値段は割安の根拠にならない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、首位とブランドの強さについては正しい。だが、その強さが高い利益率に変わってきた実績は、直近の10年に乏しい。慎重な見方の、原料に振れる構造と中期計画が外れ続けてきた事実のほうが重い。確率は、中立を最大の4割に置いたうえで、やや悲観を23%とやや楽観の19%より厚くした。10年の中立は、営業利益率が4%台に戻る姿である。それでもROEは5%台で資本コストに届かない。積み上がる自己資本は額面ほどの価値を持たない。還元を足して割り引いた価値は今の値段を下回り、総合でやや割高と出た。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 1,386 円255 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 414 円76 億円)。 今の値に割り戻すと 906 円166 億円、今との差 −17.2%、 期待の年率 +5.1%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,996 円551 億円 | 724 円133 億円 | +240.0% | +13.0% | 298 円55 億円 |
| やや楽観 | 19% | 2,004 円368 億円 | 528 円97 億円 | +131.5% | +8.8% | 481 円88 億円 |
| 中立 | 40% | 1,457 円268 億円 | 434 円80 億円 | +72.8% | +5.6% | 756 円139 億円 |
| やや悲観 | 23% | 566 円104 億円 | 298 円55 億円 | −21.1% | −2.3% | 199 円37 億円 |
| 悲観 | 10% | 525 円97 億円 | 136 円25 億円 | −39.5% | −4.9% | 66 円12 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,386 円255 億円 | 414 円76 億円 | +64.5% | +5.1% | 1,800 円331 億円 |
今の株価時価総額 1,094 円201 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 三年計画が当たり、チーズが稼ぐ会社に変わる 利益 44 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 2,996 円551 億円
原料チーズが落ち着き、値上げが定着する。ベビーチーズと6Pは高付加価値の新商品で単価を上げ、スライスも技術の差で守る。業務用は外食チェーンと老健施設向けの新規大口を取り、国内のプロセスチーズで首位に立つ。ベトナムの現地生産が軌道に乗り、東南アジアが年30%台の伸びを続けて数量を押し上げる。
海外売上は中期計画の20億円を大きく超え、アジアの食品メーカー向けの業務用にも広がる。老健・メディカル向けの「Q食」も軌道に乗る。
ナッツはミツヤの販路をQ・B・Bの全国網に乗せ、輸出と訪日客向けで採算が上がる。営業利益率は7%台に乗り、中期計画が描いた「高付加価値創造企業」にほぼ届く。
配当は配当性向45%ほどまで上がる。ROEは9%台に乗り、資本コストをわずかに超える。ただ、それでも突き抜けた稼ぎ手ではなく、薄利の食品会社が一段上に上がった姿にとどまる。還元には、株主優待(費用ベース年0.6億円×10年×1.0=6億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- チーズ事業:数量 3.3(販売数量(万トン、製品ベースの推定))× 価格 210(1トンあたり売上単価(万円、名目))→ 売上 693 億円・営業利益 50 億円。首位固定・業務用と海外が伸びる
- ナッツ事業:数量 1.3(販売数量(万トン、豆菓子・ナッツ製品の推定))× 価格 140(1トンあたり売上単価(万円、名目))→ 売上 182 億円・営業利益 13 億円。相乗効果で採算改善
倍率:事業の純利益 44 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.66 倍、時価総額 551 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利益率が7%台に乗るには、値上げの定着・原料の落ち着き・海外と業務用の拡大・ミツヤとの相乗効果が全部そろう必要がある。中期計画が実際に外れてきた経緯から、低い確率にとどめた。
やや楽観 19% 値上げが通り、利益率が5%台まで戻る 利益 30 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 2,004 円368 億円
原料が落ち着き、これまでの価格改定が定着する。家庭用の数量は横ばいを保ち、業務用と海外の上積みで全体は緩やかに増える。ベビーチーズは新しい味と包装で単価を保ち、チーズデザートのような「自分好み」の高価格品が積み上がる。
業務用では、老健・メディカル向けの「Q食」シリーズと外食チェーンの新規大口が積み上がり、業務用の比率が上がる。ベトナムの現地生産は2020年代の終わりまでに黒字化し、東南アジアの輸出が着実に増える。
ナッツは物流の共同化でミツヤの採算が改善し、営業利益率が5%台に乗る。インドネシアの合弁も赤字を脱し、持分法の利益が小さく積み上がる。
利益は物価の上昇に沿って増えるが、ROEは7%弱にとどまる。配当性向は40%台前半を保つ。還元には、株主優待(費用ベース年0.6億円×10年×1.0=6億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- チーズ事業:数量 3.2(販売数量(万トン、製品ベースの推定))× 価格 205(1トンあたり売上単価(万円、名目))→ 売上 646 億円・営業利益 36 億円。価格改定の定着・海外増
- ナッツ事業:数量 1.3(販売数量(万トン、豆菓子・ナッツ製品の推定))× 価格 136(1トンあたり売上単価(万円、名目))→ 売上 170 億円・営業利益 9 億円。物流の効率化
倍率:事業の純利益 30 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 368 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:原料高が一巡し、2025年までの値上げが定着するだけで届く水準。中期計画の半分ほどの達成で、十分ありうるとして2割弱を置いた。
中立 40% 家庭用の首位を保つが、利益率は4%台どまり 利益 22 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,457 円268 億円
家庭用の国内数量は横ばいから微減。ナチュラルへの流れで定番品は細るが、六甲バターはシェアを27%付近で守る。業務用は外食・給食・老健施設向けで小さく伸び、ベトナムの現地生産が輸出の代わりを務めて海外が上積みになる。チーズの数量は今より5%ほど増える。
値上げは原料高のたびに繰り返され、価格は物価並みの1.34倍に落ち着く。営業利益率は4%台に戻り、営業利益は33億円ほどになる。ナッツはミツヤの黒字が続くが、採算は低い。
ミツヤとの相乗効果は、物流の効率化と販路の相互乗り入れにとどまり、利益を大きく押し上げるほどではない。神戸工場の償却は変わらないので、数量が増えた分は利益率の改善に効く。
借り換えで利払いが増え、持分法やインドネシア向けの費用で営業外は小幅のマイナスが残る。純利益は22億円で、ROEは5%台。配当性向40%強を続け、自己資本は430億円近くまで増える。還元には、株主優待(費用ベース年0.6億円×10年×1.0=6億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- チーズ事業:数量 3.1(販売数量(万トン、製品ベースの推定))× 価格 201(1トンあたり売上単価(万円、名目))→ 売上 613 億円・営業利益 26 億円。首位維持・数量は小増
- ナッツ事業:数量 1.2(販売数量(万トン、豆菓子・ナッツ製品の推定))× 価格 134(1トンあたり売上単価(万円、名目))→ 売上 161 億円・営業利益 7 億円。黒字だが低採算
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.2% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 268 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:家庭用首位とブランドは続くが、原料・為替・大手の増産という外部の力で利益率が振れる。会社計画ほどは戻らず、2019年以降の平均(3%台)と過去の中央値(4%台前半)の間に置いた。最大の確率とした。
やや悲観 23% 大手の増産と原料高で、利益率が3%を割る 利益 12 億円 · PER 8.6 倍 · 株価時価総額 566 円104 億円
大手乳業の増産が6Pとスライスの価格競争を強め、六甲バターは値上げのたびに量を失う。家庭用の数量は微減し、業務用でも大口の獲得は進まない。価格は物価に追いつかず、10年で1.31倍にとどまる。
業務用では、外食チェーンが値上げを嫌って調達先を絞り、新規の大口は取れない。ナチュラルチーズへの流れも続き、定番品のベビーチーズは新商品で支えきれない年が出てくる。
原料高と円安が重なる年が複数あり、営業利益率は3%を割る。ナッツは採算が低いまま。インドネシアへの支援費用が長引き、ベトナムの現地生産も立ち上がりに時間がかかる。
純利益は12億円で、ROEは3%。配当性向は40%を保つ。還元には、株主優待(費用ベース年0.6億円×10年×0.75=4.5億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- チーズ事業:数量 2.9(販売数量(万トン、製品ベースの推定))× 価格 197(1トンあたり売上単価(万円、名目))→ 売上 562 億円・営業利益 16 億円。価格競争・数量微減
- ナッツ事業:数量 1.1(販売数量(万トン、豆菓子・ナッツ製品の推定))× 価格 130(1トンあたり売上単価(万円、名目))→ 売上 146 億円・営業利益 4 億円。低採算のまま
倍率:ROE3.0%が資本コスト8.25%を大きく下回る。PERの上限は1÷k=12.1倍で、その約7割(8.6倍)に置いた。稼ぐ力に比べ、積み上がった自己資本の価値は低い。
確率:雪印メグミルクなど大手の増産は決まっており、家庭用の価格競争は現実的な筋書き。2019年以降の営業利益率の平均がすでに3%台なので、再び届かない10年は十分に起こりうる。
悲観 10% 専業の弱さが出て、価格競争に負け続ける10年 利益 1 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 525 円97 億円
家庭用のプロセスチーズが縮み、ナチュラルへの移行が速まる。大手の増産で、スライスと6Pの棚を失う。業務用はコスト競争で新規を取れず、価格は10年で1.2倍にとどまる。ベビーチーズのブランドも、定番の座を保てなくなる。
ミツヤの買収は期待した相乗効果を生まず、のれんの減損を迫られる。大手の増産と小売のPB(独自商品)に押され、六甲バターは「安売りに付き合うか、量を失うか」の二択になる。
原料高を価格に乗せきれない年が続き、営業利益率は1%を割る。ベトナムやインドネシアへの支援が嵩み、ナッツの採算も悪化して減損が出る。純利益はほぼゼロ。配当は下限まで切り詰める。
それでも財務は崩れない。有利子負債は手元の現金とほぼ同額で、土地と投資有価証券、運転資本が下支えする。還元には、株主優待(費用ベース年0.6億円×10年×0.5=3億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- チーズ事業:数量 2.5(販売数量(万トン、製品ベースの推定))× 価格 180(1トンあたり売上単価(万円、名目))→ 売上 450 億円・営業利益 4 億円。シェア低下・原料高
- ナッツ事業:数量 1.0(販売数量(万トン、豆菓子・ナッツ製品の推定))× 価格 120(1トンあたり売上単価(万円、名目))→ 売上 120 億円・営業利益 2 億円。減損・低採算
倍率:ほぼ無利益で、稼ぐ力(約1億円÷k)より、売れる資産の税後が支える床で値が付く。今の自己資本333億円に0.29倍を掛けた約97億円。内訳は床の資産の欄(現金・投資有価証券・土地・運転資本の税後)に書いた。EV(時価総額+年末の純有利子負債66億円)÷営業利益は約37倍に見えるが、年末の売掛金が膨らむ季節要因で、期中の純有利子負債はほぼゼロ。悲観は利益でなく資産で値を付けており、利益の倍率は使っていない。
確率:家庭用は縮み、大手は増産し、スライスと6Pで負ける。原料高を価格に乗せきれない年が続くと、2022年のように営業利益率が1%を割る。起こる頻度は低いが、単品に近い専業なので無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
チーズ事業
家庭用のベビーチーズ・6P・スライスと、外食・給食・食品メーカー向けの業務用チーズ、輸出。家庭用プロセスチーズで国内首位。
| 数量販売数量(万トン、製品ベースの推定) | 価格1トンあたり売上単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12(会社予想・ミツヤ込みの連結) | 2.9 | 150 | 435 | 12 |
| 10 年後 中立 | 3.1 | 201 | 613 | 26 |
取り方:2026年12月期の会社予想(売上550億円・営業利益15億円)を、中間決算のセグメント比(チーズ212.6億円・ナッツ55.8億円・その他0.7億円)で配分した。チーズの売上は約435億円。数量は、国産プロセスチーズの生産11.5万トン(農林水産省・2024年度)に対する六甲バターの数量シェアを約25%(家庭用の購買金額シェア26.5%を目安に、輸出と業務用の差を見た)と置き、2.9万トンと推定した。価格は売上÷数量で1トン約150万円。営業利益はセグメント利益(中間で率2.8%)から、年換算で約2.7%の11.7億円。数量は人口に結びつく国内の成熟需要なので、10年の中立は1.05倍(業務用と海外の上積み)。価格は名目で物価並みの1.34倍が基本。
ナッツ事業
ミツヤグループ(豆菓子・ナッツ、製菓原料)と六甲バター自身のナッツ事業。西日本の個人向けに強く、大手OEMも手がける。
| 数量販売数量(万トン、豆菓子・ナッツ製品の推定) | 価格1トンあたり売上単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12(会社予想・ミツヤ込みの連結) | 1.2 | 100 | 115 | 3 |
| 10 年後 中立 | 1.2 | 134 | 161 | 7 |
取り方:中間決算のナッツ事業売上55.8億円(利益1.7億円)から、年換算で約115億円・営業利益3.3億円。ミツヤグループの売上約90億円(開示)に六甲バター自身のナッツ約25億円を足した姿。数量は豆菓子・ナッツの平均単価1キロ約千円と置いて1.15万トンと推定(開示は無く、推定)。10年の中立は数量1.04倍、価格は物価並みの1.34倍。
リスクと懸念
原料チーズと為替
主原料のナチュラルチーズは輸入が中心で、乳製品の国際相場とドル円が原価に直結する。2026年は中東情勢の悪化と円安で、通期の営業利益予想が当初の23億円から15億円に下がった。値上げは遅れて通るため、原料高の年は利益が大きく削られる。
家庭用プロセスチーズの縮小と大手の増産
2024年度の家庭用チーズは金額・物量とも約1%減り、ナチュラルが金額でプロセスを初めて上回った。雪印メグミルクは約475億円を投じて増産に動く。スライスと6Pで価格競争に巻き込まれれば、数量と利益率が同時に落ちる。
中期計画の未達
中期計画は2027年12月期に営業利益43億円、ROE8%以上を掲げる。足元の見通しは営業利益20億円ほどで、開きが大きい。計画が外れ続けると、投資家の信頼と、経営が掲げる高付加価値化の戦略の説得力が揺らぐ。
ミツヤの採算とのれん
ナッツ事業の営業利益率は中間で3%台と低い。取得額は非開示で、のれんの大きさがわからない。原料のナッツ・豆類の高騰や円安で採算がさらに悪化すれば、減損が出る可能性がある。
海外事業の支援と立ち上がり
インドネシアの合弁には、2026年上期だけで約1億円の支援費用が営業外に出た。ベトナムの現地生産は2026年9月の稼働を目指す初の単独の海外工場で、立ち上がりが遅れれば固定費だけが先行する。
筆頭株主・三菱商事への依存
三菱商事は16.5%を持つ筆頭株主で、売上代金の回収を委託し、インドネシアの合弁相手でもある。関係は安定の源だが、同社の方針が変われば資本や取引条件が動きうる。少数株主の意向とは別に決まる面もある。
金利の上昇
借入は短期58億円と長期47億円。借り換えで金利が上がれば、利払いは年2億円ほど増える見込みだ。営業利益が薄いため、金利上昇の分がそのまま純利益を削る。
今後の分かれ目
- 2027年12月期の営業利益が20億円を超え、利益率が3.5%以上に戻ったら
- 原料高の一巡と値上げの定着が確認できたとして、やや楽観の確率を厚くする。
- 原料チーズの相場と円安がさらに進み、営業利益が15億円を割り込んだら
- 値上げが追いつかない構造だとみて、やや悲観・悲観の確率を引き上げる。
- ミツヤで大きな減損が出たら
- 買収の価格と相乗効果の読みが外れたとして、経営の資本配分の評価を下げ、悲観の確率を引き上げる。
- 家庭用プロセスチーズの購買金額シェアが27%を超えて伸びたら
- 棚の力が強まったとして、数量の筋書きを楽観側に寄せる。
- ベトナムの現地生産が2027年までに黒字化したら
- 海外が輸出の代わりに自立したとみて、海外の数量の筋書きを上げる。
- 三菱商事が持ち株の方針を変えた(買い増し・売却・TOB)ら
- 価値評価に織り込んでいない再編の要素が出るため、条件を確認して前提を作り直す。
見ておくもの
- チーズ事業の営業利益率(2027年12月期に3%台後半へ戻るか)
- 家庭用プロセスチーズの購買金額シェア(目標27%)
- 原料ナチュラルチーズの国際相場とドル円
- ミツヤの営業利益率とのれん・減損の有無
- インドネシア合弁への支援費用の推移とベトナム工場の稼働
- 配当性向40%以上の継続と自社株買いの追加
倍率と資本コストの決め方
倍率は、10年後のROEと資本コスト8.25%から、利益ベースで置いた。中立のROEは5.2%で資本コストを下回るため、PERの上限は1÷k=12.1倍(ためた利益は額面未満の価値)で、その約8割強に置いた。今の株価や自己資本に対する倍率には寄せていない。自己資本の起点は、2026年上期に自社株買い約12億円を終えた後の325億円。純利益の起点は、為替差益など一時的な分を除いた13億円。悲観の床は、期中の現金・借入と、土地・投資有価証券・運転資本の税後で置いた。減価償却は取得時の値段のまま年22億円ほどで置いた。10年後は、償却を終える機械と、高くなった更新投資の新しい償却が相殺して25億円ほど。費用は償却とそれ以外に分け、償却以外を物価で増やした。新リース会計基準(2028年12月期から強制)では賃借の約束が資産・負債に載るが、六甲バターのリース債務は約6億円と小さく、家賃を費用に入れた今の形でそろえて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.8→12.66 倍・やや楽観 PER 10.6→12.12 倍・中立 PER 10→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityを足して決めた。事業が傾いているわけではないので上乗せ(extra)は置かない。