結論
わらべや日洋は、セブン-イレブンのおにぎり・弁当・サンドイッチ・惣菜を作る専用の製造会社だ。売上の4分の3がセブン向けで、国内に約20の工場を構える。コンビニの棚を毎日埋める裏方であり、需要は安定している。
結論を先に言うと、やや割高と見る。理由は事業の稼ぐ力にある。営業利益率は過去最高でも3%台前半で、工場と人手に投資し続けなければならない。ROEは10年の中央値で5%にとどまり、資本コストの8%に届かない年が大半だった。この会社が利益をためても、ためた分は額面の価値に届かない。
足元の追い風は確かにある。商品規格の見直しと値上げで利益は急回復し、2026年2月期は営業利益が6割増えた。会社は2028年2月期に営業利益100億円、ROE10%を掲げる。だが利益率が4%に届いた年は、過去に1度もない。
不安も具体的だ。2026年10月、米オハイオ州の新工場の稼働を取りやめ、7億円の損失を出した。理由は取引先であるセブンが北米の供給網を見直したことだ。取引先の事情ひとつで投資が宙に浮く構造が、この会社の弱みを示している。
筆者は、この会社を「堅実な下請けの優等生」と見る。10年後の中立の姿でも、時価総額は今より少し大きいだけだ。配当を足して資本コストで割り引くと、今の値段を下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、わらべや日洋は「手堅いが、持ちたい会社ではない」。
事業の本質は、毎日の食事を安定して作る下請け業だ。需要は景気に左右されない。この点は評価できる。だが、堀の持ち主は取引先のセブンで、価格を決める力はわらべや日洋にはない。上がった原価を転嫁できるかどうかは、毎回の交渉次第だ。
利益をためて次の投資に回しても、稼ぎは資本コストに届かない。ROEが5%前後の会社は、利益を配当に回すほうが株主にとって良い。会社が配当性向を40%にとどめ、残りを工場に投じる姿は、その点で気になる。
安全域の面では、売上の4分の3を握る取引先の出方を10年先まで読めない。事業を理解することはできても、予測できる事業ではない。確信度は低い。
今の値段は、利益の急回復を織り込んだ水準に見える。10年後の中立でも本質価値は今を下回り、払う値段に安全域はない。
何で稼ぐ会社か
わらべや日洋は、コンビニ向けの中食を作るメーカーだ。事業は3つに分かれる。
中核は食品関連(売上の約9割)。米飯(おにぎり・弁当・寿司)、調理パン・サンドイッチ、惣菜(煮物・揚げ物・サラダ)、麺類を作り、セブン-イレブンの加盟店・直営店に毎日届ける。セブン向けの売上比は75%前後で、国内の主力商品の多くを任される代わりに、取引先を1社に頼る構造になっている。グループの1日の生産は300万食ほどだ。
食材関連は、工場で使う食材の調達と販売。物流関連は子会社のベストランスが担い、工場から店への配送を請け負う。いずれも食品関連の裾野であり、独立して稼ぐ力は小さい。
海外は、1982年に進出したハワイに加え、バージニア州などで現地の取引先向けに商品を作っている。米オハイオ州では新工場を建てていたが、2026年10月に稼働の中止を決め、建物と土地の売却を進めている。中国には持分法の関連会社(北京旺洋食品)を持つ。
従業員は連結で約2千人、臨時雇用者は約7,900人にのぼる。工場の人手が利益を大きく左右する、労働集約の事業だ。
優良さと弱いところ
この会社の堀は、セブン-イレブンの専用ベンダーであることだ。コンビニの米飯・調理パンは鮮度が命で、1日に何度も配送する。工場を店の近くに置き、品質の基準や衛生の管理を取引先と合わせるには時間がかかる。新規の参入者が簡単に入れる市場ではない。
一方で、この堀はわらべや日洋のものではなく、半分はセブンのものでもある。売上の4分の3を握る取引先が、価格も数量も実質的に決める。商品規格の見直しで利益を戻せたのは、セブンが値上げを受け入れたからだ。逆に、セブンが調達先を増やせば、同じ堀が一気に狭くなる。
武蔵野HDなど、同じセブン系のベンダーもいる。競争は取引先の内部で起こる。
資本効率は低い。営業利益率の最高は2026年2月期の3.2%、最悪は2019年2月期の0.7%。ROEは過去10年の中央値が5%で、2026年2月期の9%は例外的に高い年だ。工場の機械と建物に常に投資が要るため、利益のかなりの部分が事業に吸われる。
経営は堅実だが、投資判断には揺れがある。米国の新工場は取引先の都合で凍結から中止へ進んだ。ここから、1社への依存が資本配分の自由度を縛る様子が見える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
コンビニ向け中食の市場は、約11兆円の中食市場の3割ほどを占める。セブン-イレブンは国内で2万1千店を超える最大手だが、店舗数の増加は止まり、既存店の客数は前年を下回る月が続く。客単価の上昇で売上を保っている状態だ。
数量には2つの力が働く。人口が減り、コンビニに来る人も細る。一方で、単身世帯と共働きが増え、調理済みの食事を買う人は増える。両者は打ち消し合い、国内の中食の総量は、ほぼ横ばいと見る。
価格は物価で上がる。ただしコメの高止まりと人件費の上昇が同時に起きている。セブンは2026年2月から米飯の価格を見直し、おにぎりの一部を値上げした。値上げは通ったが、客数の減少という代償も払っている。値上げの余地は無限ではない。
セブンは北海道で米飯の製造・配送を1日3回から2回に集約するなど、効率化を進めている。この動きはベンダーの工場の稼働と収益に直接響く。ほかのコンビニチェーンにはそれぞれ別のベンダーがおり、わらべや日洋の販路はセブンに偏る。
海外では北米のセブンが供給網を見直している。コンビニ事業の再編や分離の可能性が出るたびに、わらべや日洋の前提も揺れる。
資本政策と M&A
還元は連結配当性向40%をめどとし。自社株買いは小さい。株主優待は2022年2月末を最後に廃止し、配当に一本化した。優待の加算はない。
設備投資は大きい。2026年2月期は157億円を投じ、うち米国オハイオ工場の建設が大きな割合を占める。2026年10月の中止の決定で、7億円の損失を出し、残りの資産は売却を進める。回収額は小さくない見込みだが、時間はかかる。
M&Aでは買う側の実績は目立たない。買われる側としては、筆頭株主がセブン-イレブン・ジャパン(12.5%)で、創業家の資産管理会社の大友アセットマネジメントも約8%を持つ。2026年7月には創業家側が一部を売却した。セブンが完全子会社化する可能性は否定できないが、セブン&アイ側の戦略次第で、今は材料にならない。
リースの約束は年20億円ほどの返済が続く。工場や配送センターを借りる分が含まれ、固定費として残る。新リース会計基準(2028年3月期から)で純負債が増える点は、10年後の数字を今と同じ形にそろえて置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
セブン-イレブンは国内2万2千店の最大手で、中食の鮮度と品ぞろえを競争力の中心に据えている。その中核ベンダーであるわらべや日洋は、専用工場と物流網を築いており、新規の参入は難しい。
足元の利益の回復は本物だ。商品規格の見直しで実質値上げが通り、入間工場は黒字化し、2026年2月期の営業利益は6割増えた。会社は2028年2月期に営業利益100億円を見込み、ROE10%を目指している。
単身世帯と共働きの増加で、弁当・惣菜の需要は構造的に伸びる。自動化の投資が進めば、人手不足の賃金上昇も吸収できる。
米国のオハイオ工場は中止になったが、損失は7億円にとどまり、資産の売却で回収できる。既存のハワイ・バージニアの拠点は計画どおり推移しており、北米の成長は終わっていない。配当性向40%の方針は崩れず、増配余地もある。
セブンが国内で鮮度の競争を続ける限り、専用ベンダーを増やす理由は乏しい。品質の基準を共有する工場を一から育てるには、何年もかかる。
慎重な見方
わらべや日洋の最大の弱点は、売上の4分の3が1社向けという点だ。価格も数量も、セブンの意向で決まる。セブンは製造の集約、配送回数の削減、調達先の分散を、すべて自社の効率化として進められる。ベンダー側に拒否する力はない。
利益率も構造的に低い。営業利益率は過去最高でも3.2%で、4%という会社の目標は1度も達成されていない。賃金とコメの上昇は止まらず、価格に移せない局面が来れば、利益は一気に半分になる。2025年2月期にはその兆しが出た(営業利益は前年比で3割減)。
資本効率は資本コストに届かない。ROEの10年の中央値は5%で、利益をためても価値は増えない。設備投資の157億円の相当部分は、取引先の都合で凍結・中止に追い込まれた。
北米の再起も怪しい。新工場の中止は、セブンが北米の供給網を自社の都合で見直した結果であり、海外の成長は取引先の戦略次第という構造が露呈した。
工場の火災や食中毒のような事故は、年に一度起きても不思議でなく、そのたびに特別損失と取引上の信用が削られる。2026年2月期の札幌工場の火災費用5.6億円は、その一例にすぎない。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも根拠がある。だが勝つのは慎重な見方だ。足元の利益回復は本物でも、それは過去最高の3.2%という水準での話であり、10年の中立にそのまま延ばしても資本コストに届かない。取引先が1社に偏る点は、確率で表す必要がある。やや悲観に厚め(27%)、悲観にも13%を置いた。楽観は6%にとどめた。結果として、中立でも本質価値は今の時価総額を下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 3,288 円570 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,098 円190 億円)。 今の値に割り戻すと 2,184 円379 億円、今との差 −18.1%、 期待の年率 +5.1%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 5,891 円1,022 億円 | 1,522 円264 億円 | +177.9% | +10.8% | 445 円77 億円 |
| やや楽観 | 18% | 4,754 円824 億円 | 1,339 円232 億円 | +128.4% | +8.6% | 1,097 円190 億円 |
| 中立 | 36% | 3,978 円690 億円 | 1,190 円206 億円 | +93.7% | +6.8% | 1,861 円323 億円 |
| やや悲観 | 27% | 2,178 円378 億円 | 941 円163 億円 | +16.9% | +1.6% | 842 円146 億円 |
| 悲観 | 13% | 451 円78 億円 | 637 円110 億円 | −59.2% | −8.6% | 141 円25 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,288 円570 億円 | 1,098 円190 億円 | +64.4% | +5.1% | 4,386 円761 億円 |
今の株価時価総額 2,668 円463 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 北米の再起とセブンの自社調達の深化で中食の本命ベンダーに 利益 86 億円 · PER 11.9 倍 · 株価時価総額 5,891 円1,022 億円
国内ではセブン-イレブンが鮮度と品ぞろえで差をつける戦略を続け、米飯・調理パン・惣菜の専用ベンダーとして最も多くの商品を任される。単身世帯と共働きの増加が弁当・惣菜の総量を支え、食数は今より1割ほど増える。商品規格の見直しと値上げが定着し、価格は物価を少し上回る。自動化の投資が人手不足の賃金上昇を和らげ、営業利益率は4%に届く。会社が掲げる中期計画の営業利益率(2028年2月期に4%)が10年かけて実現する姿だ。海外ではオハイオ工場の中止という躓きを経て、ハワイ・バージニアの既存拠点を磨き、北米の取引先が増える。配当性向40%を守り、自己資本はゆっくり積み上がる。それでも利益率が3%台後半の事業であり、資本の回転が重いため、ROEが資本コストを大きく超える会社にはならない。
- 食品関連(米飯・調理パン・惣菜):数量 12.0(年間の生産食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える))× 価格 265(1食あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 3,188 億円・営業利益 128 億円。営業利益率4.0%
- 食材関連:数量 3.9(年間の取扱量(万トン、推定))× 価格 402(1kgあたりの平均単価(円、名目))→ 売上 158 億円・営業利益 7 億円。営業利益率4.3%
- 物流関連:数量 12.0(配送する食数(億食))× 価格 16(1食あたりの配送料(円、名目))→ 売上 193 億円・営業利益 14 億円。営業利益率7.4%
倍率:事業の純利益 86 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.9 倍。全体の PER 11.88 倍、時価総額 1,022 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年のあいだにコメ高の転嫁、国内の増産、海外の再立ち上げがすべてうまくいく必要がある。営業利益率が過去最高をさらに押し上げる姿で、連続して当たる確度は高くない。
やや楽観 18% 国内は堅調、利益率が少し上がる 利益 70 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,754 円824 億円
コンビニの店舗数は横ばいか微増にとどまるが、1店あたりの中食の売上は伸びる。わらべや日洋は商品規格の見直しと工場の自動化で、原価の上昇を価格に移しやすくなる。食数は今より4%ほど増え、価格は物価並みを少し上回る。札幌・入間の工場の収支改善が定着し、営業利益率は3.6%まで戻る。海外は北米の既存工場で堅実に伸びるが、新工場による大きな上乗せはない。配当性向40%の方針は続き、自社株買いは小さい。実質では今より少し強い会社になるが、セブン-イレブンという1つの客に頼る構図は変わらない。
そのため、利益が増えても自己資本は同じペースで積み上がり、ROEは7%台前半で資本コストに届かない。北米の既存拠点が小さく稼ぐ程度の上振れは、全社の利益を大きく動かさない。値上げの定着という良い面と、賃金の上昇という重しがほぼ釣り合う姿だ。
- 食品関連(米飯・調理パン・惣菜):数量 11.4(年間の生産食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える))× 価格 261(1食あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 2,971 億円・営業利益 107 億円。営業利益率3.6%
- 食材関連:数量 3.7(年間の取扱量(万トン、推定))× 価格 402(1kgあたりの平均単価(円、名目))→ 売上 150 億円・営業利益 6 億円。営業利益率4.3%
- 物流関連:数量 11.4(配送する食数(億食))× 価格 16(1食あたりの配送料(円、名目))→ 売上 180 億円・営業利益 13 億円。営業利益率7.4%
倍率:事業の純利益 70 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 824 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げの転嫁が過去に通ってきた実績があり、利益率の改善は十分ありうる。ただし賃金の上昇が続く以上、跳ね上がるほどではないと見る。
中立 36% 中立:セブンの専用工場として堅実だが、資本効率は低いまま 利益 57 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,978 円690 億円
10年後も、主力はセブン-イレブン向けの米飯・調理パン・惣菜だ。国内の人口は減るが、単身世帯と中食の需要が打ち消し、食数は今より3%ほど減る程度にとどまる。価格は物価並みの1.34倍まで上がる。コメと人件費の上昇は価格にそのまま移せず、営業利益率は過去最高の3.2%に近い水準で頭打ちになる。会社の計画が描く4%は、過去に一度も届いていない。海外は既存の北米拠点が小さく稼ぐだけで、成長の主役にはならない。借り換えで利払いが年4億円ほど増える分も、純利益には織り込んだ。配当性向40%を守ると自己資本はゆっくり増えるが、利益率が3%台の事業ではROEが6%台にとどまる。
- 食品関連(米飯・調理パン・惣菜):数量 10.6(年間の生産食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える))× 価格 257(1食あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 2,730 億円・営業利益 90 億円。営業利益率3.3%
- 食材関連:数量 3.5(年間の取扱量(万トン、推定))× 価格 402(1kgあたりの平均単価(円、名目))→ 売上 142 億円・営業利益 6 億円。営業利益率4.3%
- 物流関連:数量 10.6(配送する食数(億食))× 価格 16(1食あたりの配送料(円、名目))→ 売上 165 億円・営業利益 12 億円。営業利益率7.4%
倍率:事業の純利益 57 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 673 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の数量はほぼ横ばい、価格は物価並み、利益率は過去最高の水準を保つ姿が最も自然。悲観の材料のほうが具体的に目につくため、楽観側には寄せない。
やや悲観 27% セブンの調達方針の変更と賃金の上昇で利益率が削られる 利益 36 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 2,178 円378 億円
セブン-イレブンは北米の供給網を見直しているが、国内でも製造の集約や配送回数の削減(北海道で3回から2回へ)を進めており、ベンダーの工場の稼働や品ぞろえに波及する。食数は今より1割減り、価格の引き上げは物価に届かない。最低賃金の上昇は工場の人手に直撃し、営業利益率は2.3%まで下がる。工場の固定費が重いため、数量が落ちる局面では利益がより大きく削られる。オハイオ工場の中止に続き、海外の再投資も慎重になる。配当は利益に合わせて減るが、配当性向40%の方針は崩さない。
この筋書きの要点は、会社が潰れるわけではなく、じわじわ儲けが細ることだ。セブンの店舗数が減り始めれば、さらに数量が下振れする。優良とまでは言えなくなるが、赤字には落ちない。ROEは4%前後に沈み、利益をためても価値はほとんど増えない。
- 食品関連(米飯・調理パン・惣菜):数量 9.9(年間の生産食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える))× 価格 250(1食あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 2,459 億円・営業利益 59 億円。営業利益率2.4%
- 食材関連:数量 3.3(年間の取扱量(万トン、推定))× 価格 390(1kgあたりの平均単価(円、名目))→ 売上 128 億円・営業利益 5 億円。営業利益率4.0%
- 物流関連:数量 9.9(配送する食数(億食))× 価格 15(1食あたりの配送料(円、名目))→ 売上 149 億円・営業利益 10 億円。営業利益率7.0%
倍率:ROE4.1%でk8.5%を大きく下回る。稼ぐ力(純利益÷k=約430億円)の約8割に当たる9.5倍に置いた。
確率:賃金・コメ・包材の上昇を価格に移しきれない局面は、過去にも何度もあった。売上の4分の3が1社向けという構造は、この筋書きに現実味を与える。強い慎重論のため、やや悲観に厚めの確率を置いた。
悲観 13% セブンが調達先を分散し、専用ベンダーの強みが失われる 利益 9 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 451 円78 億円
セブン-イレブンが製造会社を増やし、価格交渉で優位に立つ。わらべや日洋の専用ライン(米飯・調理パン)の一部が他社に移り、食数は今より25%減る。価格は物価に追いつかず、10年で1.25倍にとどまる。工場の固定費が重く、売上が落ちると利益が一気に削られ、営業利益率は0.8%まで下がる。これは過去の最悪の水準(0.7%)に近い。不採算工場の閉鎖と減損で自己資本が40億円減る。海外も縮小し、北米は既存拠点の維持にとどまる。この姿でも純利益は小幅の黒字で、財務は破綻しない。ただし優良な専用ベンダーとは見なされなくなる。
- 食品関連(米飯・調理パン・惣菜):数量 8.2(年間の生産食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える))× 価格 240(1食あたりの平均単価(円、名目))→ 売上 1,970 億円・営業利益 16 億円。営業利益率0.8%
- 食材関連:数量 2.8(年間の取扱量(万トン、推定))× 価格 375(1kgあたりの平均単価(円、名目))→ 売上 105 億円・営業利益 4 億円。営業利益率4.0%
- 物流関連:数量 8.2(配送する食数(億食))× 価格 15(1食あたりの配送料(円、名目))→ 売上 119 億円・営業利益 8 億円。営業利益率7.0%
倍率:ROE1.3%でk8.5%を大きく下回る。稼ぐ力は純利益9億円÷k=約115億円で、その約7割(PER8.5倍)に置いた。純現金も売れる資産の積み上げも立てない(工場は専用設備で、簿価どおりには売れないとみて、自己資本の厚さを床にしない)。純負債はあり、リースや借入も残る。
確率:1社向けが4分の3を占める事業で、取引の見直しは一度始まると進みやすい。北米の新工場は取引先の都合で中止になったばかりで、この構図が国内にも及ぶ姿は荒唐無稽ではない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
食品関連(米飯・調理パン・惣菜)
セブン-イレブン向けのおにぎり・弁当・サンドイッチ・惣菜・麺を作る専用工場。売上の約9割。
| 数量年間の生産食数(億食、おにぎり1個も弁当1個も1食と数える) | 価格1食あたりの平均単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 10.9 | 192 | 2,100 | 70 |
| 10 年後 中立 | 10.6 | 257 | 2,730 | 90 |
取り方:食品関連の売上2,099.8億円を、グループの1日の生産300万食前後から年約10.9億食とみて、1食あたり単価192(円)で割った(推定)。おにぎり約150(円)、弁当約500(円)、惣菜約250(円)の平均。数量は国内の人口減と単身世帯の増加が打ち消し合い、中立の10年で0.97倍。価格は物価並みの1.34倍。市場の大きさ:国内の中食は約11兆円で、コンビニはその約3割(約3.3兆円)。セブン-イレブンは国内2.2万店で最大手。競合ベンダーは武蔵野HDなどセブン系と、他社系のベンダー。
食材関連
工場で使う食材・資材の調達と販売。食品関連の周辺で、独立した収益力は小さい。
| 数量年間の取扱量(万トン、推定) | 価格1kgあたりの平均単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 3.7 | 300 | 112 | 5 |
| 10 年後 中立 | 3.5 | 402 | 142 | 6 |
取り方:食材関連の売上112億円を、1kgあたり平均単価300(円)の食材が年3.7万トン動くと置いて分けた(推定)。数量は食品関連の食数と連動し、中立の10年で0.95倍。価格は物価並みの1.34倍。市場の大きさ:国内の業務用食材卸は大手が複数あり、同社は系列の工場向けが中心。
物流関連
子会社ベストランスが担う、工場から店舗への配送。工場の稼働に連動する。
| 数量配送する食数(億食) | 価格1食あたりの配送料(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 10.9 | 12 | 127 | 9 |
| 10 年後 中立 | 10.6 | 16 | 165 | 12 |
取り方:物流関連の売上126.5億円を、食品関連が作る年約10.9億食の配送にあたる料金とみて、1食あたり11.6(円)で割った(推定)。数量は食品関連と同じ動き。価格は物価並み。市場の大きさ:コンビニ配送は共同配送が主流で、大手の物流会社も競合。同社は系列のため取引は安定している。
リスクと懸念
セブン-イレブン1社への依存
売上の約75%がセブン向け。取引条件や調達方針の変更が、そのまま業績を左右する。北米の供給網の見直しで新工場が中止になったのは、この構造が表面化した例だ。国内でも製造の集約や配送回数の削減が進めば、工場の稼働が落ちる。
人件費の上昇と人手の確保
臨時雇用者が約7,900人にのぼる労働集約の事業で、最低賃金の上昇が利益率を直撃する。自動化の投資で補うにも限度があり、価格に移せなければ営業利益率は2%台に落ちる。
コメ・原料の価格変動
おにぎり・弁当の原価の多くはコメと食材。高止まりを価格に移すには取引先の承認が要る。値上げで客数が減る副作用もあり、数量と価格の両面で利益を圧迫しうる。
海外投資の失敗
米オハイオ工場は建設費を投じながら稼働前に中止となり、7億円の損失を出した。北米は成長市場と位置づけているが、投資の判断は取引先の戦略に左右され、再び同じ事態が起きるおそれがある。
工場の事故・火災・衛生
2026年2月期には札幌工場の火災で5.6億円の特別損失を出した。食品の工場は火災、食中毒、異物混入のリスクを常に抱え、1件の事故が取引停止につながりうる。
資本効率が資本コストに届かない
ROEの10年の中央値は5%で、資本コストの8%を下回る。会社は2028年2月期にROE10%以上を掲げるが、営業利益率が3%台前半の事業で達成するには、利益率の改善と資本の圧縮の両方が必要になる。
今後の分かれ目
- セブン-イレブンが国内で新たにベンダーを増やし、わらべや日洋の取扱品目を減らしたら
- やや悲観・悲観の確率を引き上げ、本質価値を下方に見直す。
- 営業利益率が2期続けて3.5%を超えたら
- やや楽観・楽観側に重みを移す。ただし賃金の上昇を吸収できた理由(自動化・価格の改定)の中身を確かめる。
- オハイオ工場の資産が簿価に近い額で売却されたら
- 投資の失敗の傷は小さく、悲観の確率を下げてよい。大きく下回れば逆に減損が広がる。
- セブン&アイが中食の製造会社を傘下に収めると表明したら
- 買われる側の筋書きが現実になる。TOBの価格が本質価値を上回るかを別に確かめる。
- コメ価格が下落し、おにぎりの原価が下がったら
- 利益率が上振れする。ただしセブンが値下げに動けば、上振れは限られる。
- 最低賃金が想定を超えて上がったら
- 営業利益率を下に見直し、中立の利益を減らす。
見ておくもの
- セブン-イレブンの国内店舗数と既存店客数の推移
- 営業利益率が3.2%を超えて定着するか
- オハイオ工場の資産の売却額と時期
- 最低賃金の改定とコメ価格の動向
- セブン&アイの組織再編と調達方針の発表
倍率と資本コストの決め方
食品関連は年間の生産食数×1食の単価、食材関連は取扱量×1kgの単価、物流関連は配送食数×1食の配送料でそれぞれ積み上げ、価格は物価並みの1.34倍を基本にした。倍率は式から決めた。中立のROEは6%台でk8.5%を下回るため、PERの上限は1÷k=12.5倍で、その約9割に置いた。今の株価は見ずに決め、最後に比べて割高と出た。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)の約8割。新リース会計基準(2028年3月期から)で純負債とリース負債の形が変わるが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12→11.88 倍・やや楽観 PER 11.8→11.76 倍・中立 PER 11→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityの+0.5%を足して8.0%。事業が傾いてはおらず、上乗せ(extra)は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 8.50%。