結論
アリアケジャパンは、豚や鶏の骨から煮出した天然調味料のエキスを、外食・コンビニ・食品メーカーに売る会社だ。ラーメンスープやブイヨンの「味のもと」を、顧客の厨房の代わりに作っている。
筆者の結論は、今の値段はやや高い、である。事業の質は文句なく良い。それでも10年先の稼ぎは、物価の分と海外の伸びを足しても今の1.4倍ほどだ。その稼ぎを資本コスト6.75%で割り引くと、今の時価総額を2割弱下回る。
強みは三つある。ブイヨンやガラスープで国内首位級のシェアを持つこと。営業利益率が17%と食品として高いこと。そして純現金が時価総額の3分の1にのぼる財務だ。借金に頼らず、工場を自前の金で建てている。
成長の柱は海外だ。欧州は売上が前期比で16%伸び、中国では新工場が動き出す。米国は2027年に工場が立ち上がる予定で、2019年に一度撤退した市場へ再び出ることになる。
弱い点は、利益の中心が国内の外食向けであることだ。人口は減り、外食は人手不足で細る。骨の価格や電気代が上がれば、利益率はすぐ削られる。2023年3月期には営業利益率が20%から15%へ落ちた。
もう一つ見ておきたいのは、創業家に近い株主が4割近くを持つ点だ。現金をためたまま使わない懸念と、安定した経営という利点が表裏にある。
バリュー投資の観点から
まず、事業が10年後も存在するか。答えは、存在し、いまより強い可能性が高い。スープの味という基本が変わらず、顧客がチェーンで大きいほど、乗り換えのコストは高い。
次に、株主のものになる利益はいくらか。工場への再投資が要るが、借金がなく、今の利益は大半が株主に帰属する。ただ、純現金が時価総額の3分の1あり、その現金が10年で本当に株主に戻るかは分からない。ここが評価の分かれ目になる。
経営の資本配分は、堅実だが遅い。借金をしない、大型買収をしない、というのは美点だ。その反面、10年で純現金が倍近くに増えた。使い道がなければ返すのが筋だ。配当を増やした今期は、方向として正しい。
最後は安全域だ。中立の10年後の姿は、事業の利益が今の約1.4倍、ROEは8%前後という「良い会社だが、驚きはない」姿だ。これに見合う値段は、今よりやや低い。現金を差し引いた事業の値段が、今は倍率で見て高めに置かれている。
バリュー投資の観点では、これは売る理由ではなく、買い増しを急がない理由になる。値段が1〜2割下がれば、安全域が出る水準だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、畜産系の天然調味料エキスだ。豚骨・鶏ガラ・牛骨などを工場で煮出して濃縮し、液体や粉末にして納める。ほぼ単一の事業で、売上の7割は日本が占める。
顧客は外食チェーン、コンビニや総菜の製造会社、食品メーカーなど2万社を超える。ラーメンチェーンのスープも、洋食店のデミグラスソースの土台も、アリアケの製品が使われている。会社の説明では、業務用ラーメンスープで約28%、ガラスープで約26%、洋風のフォンとブイヨンで約68%のシェアを持つ。
海外は三つの顔を持つ。欧州は売上85億円で、ベルギーのUHT殺菌品とフランスの粉末品が伸びている。中国は青島に工場があり、50億円を投じた新工場が2026年度後半に動く予定だ。アジアでは台湾とインドネシアが外食向けと輸出を担う。
米国は2019年に子会社を米ケリーへ譲り、一度撤退した。いま再び、バージニア州に工場を建てている。大豆を原料にした植物性の製品、レトルト、ラーメンスープを作る計画だ。
社長の白川直樹氏は、畜産系だけでは伸びに天井があると語る。大豆で作るアニマルフリーのラーメンスープなどを、次の柱として育てている。
優良さと弱いところ
堀の中身は、味を決める技術と、顧客との長い付き合いにある。外食チェーンは、スープの味が変わると客が離れる。だから一度採用された製品は、価格が少し安いだけでは乗り換えられにくい。
規模の力も大きい。骨の調達、煮出し、濃縮、殺菌、配送までを一つの工場群で回している。ブイヨンの国内シェアが6〜7割とされるのは、この規模の裏づけがあるからだ。
ただし、堀は強いが無敵ではない。原料の骨は国際相場で動き、電気や運賃も上がる。値上げは顧客との交渉で、時間差が出る。2023年3月期の利益率低下はその証拠だ。
資本効率は中位だ。自己資本利益率は7%前後で、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。原因は、使い道のない現金と有価証券が自己資本に積み上がっていることだ。事業だけで見れば、利益率の高さのわりに資本はそれほど要らない。
経営は慎重で、借金をしない。これは安全だが、ためた現金を株主に返すのが遅いという弱みでもある。会社は自己資本に対する配当率3%を基本方針とし、政策保有株を減らす方針を掲げた。直近では配当を前期から大きく増やしており、変化の兆しはある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の業務用調味料は、外食と中食の数量で決まる。人口は減るが、外食は単身世帯と共働きに支えられ、数量は横ばいから微減と見る。一方で外食店は人手不足で、スープを一から煮る余裕がない。仕込みを外注する流れは、エキス屋にとって追い風だ。
競合は、味の素やキッコーマン、理研ビタミン、ヤマキなどの調味料大手のほか、各地の中堅エキス会社がある。ただ畜産系のエキスを専業で大規模に作る会社は少ない。アリアケは、価格より味の再現性と安定供給で選ばれている。
海外の市場は国ごとに事情が違う。欧州ではUHT殺菌の液体エキスや粉末の需要が堅く、アリアケの売上は伸びている。中国は景気の減速と消費の低迷が続き、外食は先行きが読めない。ただ日本食(ラーメンやカレー)の引き合いは強い。
米国は市場が大きい。ラーメン店や日本食レストラン、冷凍食品の会社が育っている。一方で、一度撤退した市場で、今度は植物性の新製品から入る。成功の保証はない。
原料の側では、骨の世界的な需給と、植物性原料への切り替えが論点だ。環境や健康を理由に、動物性を減らす動きが欧米で出ている。社長が植物性を新しい核と呼ぶのは、この流れを見てのことだ。
資本政策と M&A
還元は自己資本に対する配当率3%の維持が基本方針だ。直近の期は配当を前期より大きく増やした。それでも純利益に対する割合は6割ほどで、純現金は積み上がっている。
買収は多くない。2006年に台湾有明食品を、2013年にオランダのヘニングセン社を買った程度だ。2019年に米国子会社をケリーへ売り、撤退した。大型の買収で価値を壊した履歴はなく、そのかわり現金も使われていない。
いまの投資は、中国の新工場(約50億円)と米国の新工場だ。どちらも自前の金で賄う。10年で見れば、現金が減るより増える公算が大きい。
ジャパンフードビジネスが約34%、奨学財団が約7%を持ち、安定株主が4割近い。TOBで買われる可能性は、この株主構成からは低いと見る。逆に、大株主が納得すれば株主還元が一気に増える余地もある。
政策保有株は縮減の方針だが、残高は筆者が確かめられていない。含み益の見積りは立てていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内の外食は人手不足が深刻で、仕込みをスープ専業に任せる流れが止まらない。アリアケは業務用ラーメンスープ・ガラスープ・ブイヨンで国内首位級のシェアを持ち、この流れの最大の受け皿になる。単価も、原料高を価格に通した実績がある。
欧州は売上が前期比で16%伸び、UHT殺菌品とB2C製品で成長が続いている。中国は青島の新工場で、自動化と日式の調理済み品に踏み込む。米国は大豆原料の新製品と、現地のラーメン需要を取り込む。10年後に連結売上1,000億円という社長の目標は、数量の伸びで十分届く。
財務の面でも、純現金が積み上がっているので、不況でも減配せず投資を続けられる。創業家に近い大株主は長期の視点を持ち、株主還元を徐々に増やす方向にある。植物性の製品が育てば、畜産原料の天井という弱みも消える。営業利益率は17%台を保ったまま、売上が物価と海外の伸びで膨らめば、利益は今の1.5倍を超えて伸びる。
慎重な見方
国内の外食は人口減で縮み、スープの外注化が進んでも、数量は頭打ちだ。原料の骨と電気代の上昇は止まらず、顧客との価格交渉は半年から1年の時間差が出る。営業利益率は2023年3月期のように、短期間で5ポイント落ちる。
海外の成長は思ったほど利益にならない。中国は消費が冷え込み、新工場が稼働率の低さで重荷になる。米国は一度撤退した市場で、植物性の新製品が根づく保証はなく、工場は初年度から赤字になる恐れがある。欧州の伸びも、為替と原料の影響を受けやすい。
最大の問題は、積み上がった現金だ。10年で純現金は倍近くに増えたのに、株主に十分戻っていない。創業家に近い株主が4割近くを握る会社で、少数株主の声は届きにくい。現金を見込んで値段を付けると、見込みどおり戻らないリスクを負う。
事業の稼ぎも、10年後は物価の分と海外の伸びを入れて1.4倍程度にとどまる。それで今の値段は、すでに先を見込みすぎている。
どちらに重みを置いたか
国内の需要と、現金の戻り方で、慎重な見方がやや強い。事業の質には異論がないが、10年後の利益の伸びが今の値段を正当化するには足りない。中立の時価総額は今よりやや高い程度で、資本コストで割り引くと今の値段を2割弱下回る。
海外が計画どおり伸びる筋書きと、停滞する筋書きの幅は広い。確率は、中立を最大に置きつつ、やや悲観を楽観の側より少し厚くした。悲観は、需要の縮小と海外の失敗が重なる構造的な負けとして1割強に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,221 円2,263 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,286 円716 億円)。 今の値に割り戻すと 5,407 円1,695 億円、今との差 +2.8%、 期待の年率 +6.1%(資本コスト 6.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 12,297 円3,854 億円 | 2,942 円922 億円 | +189.7% | +11.2% | 1,219 円382 億円 |
| やや楽観 | 20% | 10,030 円3,143 億円 | 2,658 円833 億円 | +141.2% | +9.2% | 2,538 円795 億円 |
| 中立 | 37% | 8,245 円2,584 億円 | 2,374 円744 億円 | +101.9% | +7.3% | 3,929 円1,231 億円 |
| やや悲観 | 24% | 4,200 円1,316 億円 | 2,013 円631 億円 | +18.1% | +1.7% | 1,491 円467 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,575 円494 億円 | 1,429 円448 億円 | −42.9% | −5.4% | 330 円104 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,221 円2,263 億円 | 2,286 円716 億円 | +80.7% | +6.1% | 9,507 円2,980 億円 |
今の株価時価総額 5,260 円1,649 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 海外が計画どおり育ち、10年後に売上1,300億円台 利益 190 億円 · PER 18.9 倍 · 株価時価総額 12,297 円3,854 億円
10年後、国内は外食のスープ外注化がさらに進み、シェアを広げて数量はやや増える。欧州はB2C製品が根づき、数量は2倍を超える。中国は新工場で日式の調理加工品が当たり、米国は大豆原料の製品とラーメンスープが現地の外食に入り込む。海外の数量は、今の2〜2.5倍になる。
植物性の製品が第二の柱に育ち、畜産原料の天井という弱みも薄れる。値上げも、品質と安定供給を理由に物価を少し上回って通る。営業利益率は19%台まで上がる。
純現金を使った工場は、いずれも採算に乗る。配当も増え、自己資本利益率は10%を超える。会社の掲げる売上1,000億円の目標を、大きく上回る姿だ。
- 日本(業務用エキス・ブイヨン・スープ):数量 8.9(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 840(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 746 億円・営業利益 131 億円。日本の営業利益率 17.5%
- 欧州:数量 2.5(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 980(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 249 億円・営業利益 42 億円。欧州の営業利益率 17.0%
- 中国・アジア・米国:数量 5.2(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 700(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 366 億円・営業利益 91 億円。中国・アジア・米国の営業利益率 25.0%
倍率:事業の純利益 185 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)350 億円。全体の PER 18.93 倍、時価総額 3,854 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:欧州・中国の増設と米国の再進出が三つとも成功し、国内も値上げが通り続ける必要がある。連続して当たる確度は高くないため1割を下回る確率に置いた。
やや楽観 20% 海外が着実に伸び、国内も堅調 利益 160 億円 · PER 18.0 倍 · 株価時価総額 10,030 円3,143 億円
国内の数量は横ばいから微増で、値上げも物価並みに通る。欧州はUHT品が伸び、数量は10年で1.8倍になる。中国は新工場の稼働が軌道に乗り、台湾とインドネシアの輸出も増える。米国は2027年の稼働から数年遅れても、植物性の新製品が少しずつ売れ始める。
営業利益率は17%台で、今の水準を保つ。純利益は10年で今の1.7倍ほどになる。
配当は利益の増加に合わせて増えるが、純現金の積み上がりは止まらない。事業は良いが、現金の戻り方は中立と変わらない筋書きだ。堀は保たれ、国内の外食向けでは、味の再現性で大口の顧客を守り続ける。値上げの交渉も、原料高の局面で大きく遅れることはなく、利益率は大きく崩れない。
- 日本(業務用エキス・ブイヨン・スープ):数量 8.5(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 822(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 697 億円・営業利益 115 億円。日本の営業利益率 16.5%
- 欧州:数量 2.2(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 959(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 209 億円・営業利益 33 億円。欧州の営業利益率 16.0%
- 中国・アジア・米国:数量 4.4(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 685(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 303 億円・営業利益 73 億円。中国・アジア・米国の営業利益率 24.0%
倍率:事業の純利益 155 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)350 億円。全体の PER 18.01 倍、時価総額 3,143 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:欧州と中国は伸びが続き、米国は遅れても立ち上がる。国内の外食向けも値上げが通る。多くの場合の上位の幅として、筆者が2割と見る。
中立 37% 中立:良い会社として、物価と海外の分だけ伸びる 利益 136 億円 · PER 17.0 倍 · 株価時価総額 8,245 円2,584 億円
国内の数量は人口減と外食の縮みで伸びず、スープの外注化がそれを相殺して横ばいになる。値上げは物価並みに通り、売上は物価の1.34倍になる。
欧州は伸びが鈍りながら、数量は10年で1.5倍になる。中国は新工場が立ち上がり、アジアと米国を合わせて海外の数量は1.9倍になる。ただ、米国は赤字の期間が長く、中国は価格競争が激しくなる。
営業利益率は17%前後で、今の水準にほぼ戻る。純利益は今の1.4倍ほどだ。純現金は事業の投資と配当で増減しながら、おおむね今の水準が続く。良い会社が良いまま、静かに成熟する10年になる。
- 日本(業務用エキス・ブイヨン・スープ):数量 8.1(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 804(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 649 億円・営業利益 101 億円。日本の営業利益率 15.5%
- 欧州:数量 1.8(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 938(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 170 億円・営業利益 26 億円。欧州の営業利益率 15.0%
- 中国・アジア・米国:数量 3.8(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 670(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 256 億円・営業利益 59 億円。中国・アジア・米国の営業利益率 23.0%
倍率:事業の純利益 131 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)350 億円。全体の PER 17.04 倍、時価総額 2,584 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内は横ばい、海外は計画の7割ほどの達成という、筆者のもっとも現実的な見方。強気と慎重の主張がちょうど釣り合う位置で、確率を最大にした。
やや悲観 24% 国内の利益率が下がり、海外の立ち上げが遅れる 利益 86 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 4,200 円1,316 億円
骨と電気代が物価を上回って上がり、顧客との交渉は後手に回る。国内の営業利益率は12%台まで下がる。外食の数量は10年で1割減る。
中国は消費の冷え込みで新工場の稼働率が上がらない。米国は工場の立ち上がりが遅れ、赤字が長引く。欧州の伸びも原料と為替で鈍る。
純利益は今よりやや少ない水準にとどまる。配当は維持するが、純現金は工場の投資で今より減る。堀は残っているが、優良さが薄れた10年になる。顧客は離れないものの、値上げの交渉力は弱まり、新しい投資の稼ぎも資本コストをやっと上回る程度にとどまる。成長を期待して集まった株主の見方は、厳しいものに変わる。
- 日本(業務用エキス・ブイヨン・スープ):数量 7.3(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 780(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 567 億円・営業利益 71 億円。日本の営業利益率 12.5%
- 欧州:数量 1.5(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 910(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 138 億円・営業利益 17 億円。欧州の営業利益率 12.0%
- 中国・アジア・米国:数量 2.6(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 650(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 170 億円・営業利益 29 億円。中国・アジア・米国の営業利益率 17.0%
倍率:事業の ROE が k を下回るため PER の上限は 1÷k=13.3 倍。稼ぐ力(純利益÷k)の約 86%(12.8 倍)を採用。余った現金は筋書きで額を書かないので 0.75 倍の 263 億円を戻り方 0.5 で足した。
確率:原料高と電気代の上昇を価格に通しきれず、中国の消費も戻らない。外食向けの専業で、2023年3月期の再来がありうるため、楽観より少し厚い2割台に置いた。
悲観 11% 構造的に優良さを失う 利益 29 億円 · PER 12.0 倍 · 株価時価総額 1,575 円494 億円
外食チェーンが仕込みを自社に戻し、スープの値下げ要求が強まる。国内の数量は10年で2割減り、価格は物価を大きく下回る。営業利益率は7%まで落ちる。
原料の骨の相場が長く高止まりし、欧州の利益は消える。中国の新工場は稼働せず、米国の工場は赤字のまま減損に至る。減損は約150億円で、自己資本は「今+純利益−還元」の流れより減る。
配当は利益の減少にあわせて減らす。それでも10年で純現金は今より減り、400億円ほどになる。かつての「食のインテル」という評価は消え、ふつうの食品メーカーになる。純現金だけが残り、事業の稼ぐ力は今の3分の1ほどに落ちる。創業家に近い株主は配当を減らさず現金を守るが、株主が事業の再建を迫る力も弱く、立て直しは遅れる。
- 日本(業務用エキス・ブイヨン・スープ):数量 6.3(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 720(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 454 億円・営業利益 32 億円。日本の営業利益率 7.0%
- 欧州:数量 1.1(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 840(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 91 億円・営業利益 5 億円。欧州の営業利益率 5.0%
- 中国・アジア・米国:数量 1.6(販売数量(万トン、製品換算の推定))× 価格 600(1kg あたりの平均単価(円、推定。名目))→ 売上 96 億円・営業利益 5 億円。中国・アジア・米国の営業利益率 5.0%
倍率:ROE 2.3% が k 以下なので PER の上限は 1÷k=13.3 倍。稼ぐ力(約 30 億円÷k)の約 9 割(12.0 倍)を採用。余った現金は 0.5 倍の 175 億円を戻り方 0.5 で足した。純利益が薄いのは減損と赤字工場の筋書きのため。
確率:外食向けの大口顧客が内製や他社へ移り、骨の価格が構造的に上がり、中国と米国の工場が稼働せず減損に至る。専業の弱みが重なる筋書きで、1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本(業務用エキス・ブイヨン・スープ)
外食・中食・食品メーカー向けの畜産系天然調味料。ラーメンスープ・ガラスープ・フォンとブイヨンで国内首位級。
| 数量販売数量(万トン、製品換算の推定) | 価格1kg あたりの平均単価(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.1 | 600 | 485 | 78 |
| 10 年後 中立 | 8.1 | 804 | 649 | 101 |
取り方:日本の売上 484.6 億円(地域別。開示は金額のみ)を、1kg あたり六百円前後の濃縮品が年 8 万トン売れていると置いて分けた(推定)。営業利益は全社 118 億円から海外の計画(欧州 11 億・アジア 27 億)を引いて 78 億円前後と推定。数量は人口減と外食の縮みで横ばい、スープの外注化で相殺し中立 10 年 1.0 倍。価格は物価並み(10 年 1.34 倍)。市場の大きさ:会社の説明で業務用ラーメンスープ約 28%・ガラスープ約 26%・フォンとブイヨン約 68%。競合は調味料大手と各地の中堅エキス会社。
欧州
ベルギーのUHT殺菌品、フランスの粉末品、オランダ。外食・食品メーカー向けとB2C。
| 数量販売数量(万トン、製品換算の推定) | 価格1kg あたりの平均単価(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.2 | 700 | 85 | 14 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 938 | 170 | 26 |
取り方:欧州の売上 84.6 億円(前期 72.7 億円)を、1kg あたり七百円前後の品が年 1.2 万トンと置いて分けた(推定)。営業利益は 2026/03 期計画の 11 億円に増収分を足して 14 億円前後と推定。数量は直近の伸び(前期比 16%)が鈍りつつ、B2C 強化とUHT品の拡販で中立 10 年 1.5 倍。価格は物価並み。市場の大きさ:欧州の業務用ブイヨンは大手食品会社が競合で、アリアケは液体エキスの専業としての位置。
中国・アジア・米国
中国(青島・日照)、台湾、インドネシア、2027年に稼働予定の米国工場。外食・食品メーカー向けと日式の調理加工品。
| 数量販売数量(万トン、製品換算の推定) | 価格1kg あたりの平均単価(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.0 | 500 | 100 | 26 |
| 10 年後 中立 | 3.8 | 670 | 256 | 59 |
取り方:中国 62.5 億円とアジア(中国除く)37.9 億円の計 100.4 億円を、1kg あたり五百円前後の品が年 2 万トンと置いて分けた(推定。米国は今は売上がなく、2027 年度から数量に加わる)。営業利益は 2026/03 期計画の 27 億円をもとに 26 億円前後と推定。数量は中国の新工場(2026 年度後半)と米国の新工場で中立 10 年 1.9 倍。価格は物価並み。市場の大きさ:中国は外食の消費が冷えるが日式の引き合いが強い。米国は日本食・ラーメン需要が大きいが、再進出で立ち上がりは未知数。
リスクと懸念
原料の骨と電気代の上昇
豚骨・鶏ガラ・牛骨の国際相場と、煮出し工程の電気代は利益率を大きく動かす。値上げは顧客との交渉で半年から1年遅れる。2023年3月期は営業利益率が20%から15%へ落ちた。同じことが10年のうちに何度か起きる前提で見る必要がある。
国内の外食数量の縮み
売上の7割は日本の外食・中食向けだ。人口減と外食店の閉店で数量は細る。スープの外注化が続く限り相殺できるが、大手チェーンが内製に戻れば、数量と価格の両方が崩れる。顧客が分散しているのは救いだが、大口の動きは読みにくい。
中国の消費低迷と新工場
中国は外食の消費が冷え、青島の新工場(約50億円)の稼働は景気に左右される。日式の調理加工品に踏み込むのも、会社にとっては新しい領域だ。稼働率が上がらなければ、減価償却費の重さだけが残る。
米国再進出の実行
2019年に子会社を売って撤退した市場へ、2027年に新工場で戻る。大豆原料の植物性製品は市場が育ちきっていない。立ち上がりの赤字が数年続く可能性があり、成功しても利益に効くのは10年の後半だ。
積み上がった現金の使い道
純現金は536億円で時価総額の約33%にのぼる。創業家に近い株主が4割近くを持つ会社で、少数株主が還元を迫りにくい。配当は増えているが、現金が戻らなければ、本質価値に足せる額は限られる。
動物性から植物性への流れ
欧米を中心に、動物性原料を減らす動きがある。社長自身が畜産系の伸びに天井があると認めている。植物性の製品は売上がまだ小さく、畜産系の利益を補う規模に育つかは分からない。
今後の分かれ目
- 欧州の売上が、前期比2桁の伸びを3年続けたら
- 欧州の数量を楽観側に引き上げ、中立と楽観の確率を寄せ直す。
- 米国工場が稼働初年度から黒字化したら
- 海外の数量と利益率を上方修正し、楽観寄りに見直す。
- 純現金が配当や自社株買いで大きく減ったら
- 余った現金の戻り方を0.5から引き上げ、本質価値を押し上げる。
- 営業利益率が2期続けて14%を下回ったら
- 原料高を価格に通せない構造の表れとして、やや悲観・悲観の確率を厚くする。
- 大手の外食チェーンが仕込みの内製化を発表したら
- 国内数量の前提を下げ、悲観側の筋書きの重みを増やす。
- 中国の新工場が稼働後も赤字のままなら
- 中国・アジアの利益率を下げ、やや悲観側に重みを移す。
見ておくもの
- 欧州と中国の地域別売上・営業利益の四半期ごとの推移
- 営業利益率(原料価格を価格に転嫁できているか)
- 米国工場の稼働時期と初年度の収支
- 純現金の水準と配当・自社株買いの方針
- 植物性製品の売上規模
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとに数量と価格を置き、数量は実質、価格は物価並みの1.34倍で積んだ。倍率は、事業の ROE・資本コスト・残る割合から正当化 PER の上限を出し、その9割に置いた。今の株価や同業の PER は見ていない。余った現金は事業から切り離して足し、戻り方は創業家に近い株主が4割近いため0.5とした。悲観は稼ぐ力と純現金の床から決めた。新リース会計基準は、自社保有の工場が中心のため影響は小さい。10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16→18.93 倍・やや楽観 PER 14.5→18.01 倍・中立 PER 13.5→17.04 倍・やや悲観 PER 11.5→12.8 倍)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足して決めた。事業が傾いているわけではないので上乗せは置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 6.75%。