結論
日清オイリオグループは、食用油の国内大手である。家庭用の「BOSCO」や「日清キャノーラ油」から、業務用、チョコレート用の特殊油脂、化粧品向けの油剤まで、植物油脂を軸に広く手がける。
筆者の結論は、今の値段は割高ということだ。理由は、稼ぐ力が資本コストに届かない期間が長いことにある。営業利益率は 3% 台で、過去 10 年の最良の年でも 4.1% だった。
2026 年 3 月期の純利益は約 240 億円と大きい。だが横浜の事業用地を売った約 231 億円の一時益が混じっている。本業の実力は営業利益 170 億円、会社予想の来期の純利益 120 億円に近い。
中計「Value UpX」は 2028 年度に営業利益 280 億円を掲げる。筆者は届ききらないと見るが、方向は悪くない。チョコレート用油脂や化粧品油剤など、値段を原料に左右されにくい事業が育つからだ。国内の家庭用は人口減で量が細る。
10 年後の中立では、営業利益は 300 億円強になる。ただ自己資本も厚くなり、ROE は 6% 台にとどまる。資本コストを下回る会社に高い倍率は付けられない。借金も軽くなく、利払いは金利上昇で重くなる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ち続けたい事業」ではなく「値段次第の事業」だ。堀が狭く、利益が原料相場に左右され、10 年たっても ROE が資本コストに届かない姿が中心になるからだ。
オーナー利益、つまり再投資を引いて株主に残る利益は薄い。営業利益のかなりの部分が、工場の更新や原料在庫の資金に消える。中計の投資 900 億円も、成長のためというより維持と再構築の色が濃い。
経営は誠実で、資産の売却や政策保有株の縮減など、筋の通った手を打っている。ただ、資本の使い道に決定的な妙手は見当たらない。特殊油脂は期待できるが、全体の利益に占める比重はまだ小さい。
安全域の面では、今の値段は事業の実力に対して余裕がない。2026 年 3 月期の純利益が土地売却益で大きく見えるため、割安に映りやすい点には注意が要る。実力の利益で測ると、払う値段は高い。
わかりにくい点が多く、確信度は高くない。確率を悲観側にやや厚くしたのはそのためだ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、輸入した大豆・菜種・パームなどを搾って油にし、売ることだ。原料の値段を製品に転嫁し、その差で利益を取る。
事業は 4 つに分けて見るとわかりやすい。最大は国内の食用油・油糧で、売上の 6 割近くを占める。家庭用の「BOSCO」「日清キャノーラ油」と、外食・食品メーカー向けの業務用油、搾りかすの油粕が柱だ。利益率は 3% に届かない。
2 つ目はグローバル油脂・加工油脂で、売上は約 1,400 億円。チョコレートに使う特殊油脂(CBE)や、パンや菓子向けの加工用油脂、海外の拠点を持つ。ここは会社が最も力を入れる成長の場だ。
3 つ目は加工食品・素材で、健康向けの MCT 油などを含む。4 つ目はファインケミカルで、化粧品の原料になる油剤を作る。売上は小さいが、利益率は 1 割に達する。
工場は横浜磯子など国内の大型拠点が軸だ。商社の丸紅は議決権の 1 割台半ばを持つ大株主である(2020 年の開示)。国内の同業は J-オイルミルズ、昭和産業、ボーソー油脂などで、日清オイリオは首位級の一角にある。
優良さと弱いところ
堀は広くない。食用油は、原料の相場に値段が連動する商品だからだ。「BOSCO」などの家庭用ブランドに一定の力はあるが、値上げを自分のペースで決められるほどではない。
同業の J-オイルミルズや昭和産業と並ぶ寡占で、価格競争が極端に荒れにくい点は救いだ。J-オイルミルズとは原料の共同配船など、協力する動きもある。
数字がそれを裏づける。営業利益率は過去 10 年で 2〜4% 台、ROE の中央値は 6% 台で、資本コストに届いた年はほとんどない。2026 年 3 月期の ROE 11% は土地売却益による一時の数字だ。
今年の決算ではパーム油の取引の時価評価が悪化し、国内の家庭用は数量が減った。利益が原料相場や在庫の評価で揺れる体質は変わっていない。
経営の資本の使い方は、悪くないが慎重すぎる。千若町の土地を売って資産を軽くする判断は正しい。だが、純有利子負債は 900 億円台に増え、本業の利益に対して軽くはない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の食用油は、成熟して縮む市場だ。家庭用の市場規模は 2023 年度で約 1,816 億円。会社は 2028 年度に 1,900 億円以上と見るが、これは主に値上げの分で、量ではない。人口が減り、家で揚げ物をする機会も減っているからだ。
業界は日清オイリオと J-オイルミルズ、昭和産業、ボーソー油脂などによる寡占だ。2026 年 7 月にはボーソー油脂が、米ぬかの減少と原油・ナフサ高を理由に、こめ油などの値上げを発表した。原料や包装資材のコスト上昇は、業界全体の共通の悩みだ。
一方で、高付加価値の領域は伸びる余地がある。チョコレート用油脂は、世界でカカオ豆が高騰し、代替の油脂への関心が高まっている。会社の推計では世界シェアは重量で約 6% だが、欧州の大手が先行しており、追い上げの難度は高い。
化粧品の油剤は市場が小さく、会社は金額ベースで 10% 以上を狙う。機能性油脂は 2023 年度の 28 億円を 2028 年度に 70 億円以上にする計画だ。小さいが、利益率は高い。
10 年で見ると、国内の量は 0.9 倍台、値段は物価並みの 1.34 倍が筆者の置き方だ。世界では植物油の需要が伸びるが、日本の会社がその果実を取れるかは、特殊油脂での差別化にかかっている。
資本政策と M&A
還元の目安は、連結配当性向 40% だ。2025 年に始まった中計では、4 年で営業キャッシュフロー 1,000 億円、投資 900 億円を見込む。稼いだ現金をほぼ全て投資に使う計画で、自社株買いの余地は大きくない。
政策保有株は 2021 年に原則持たない方針へ転じ、段階的に減らしている。千若町の事業用地の売却(約 231 億円)で資産の軽量化も進めた。
M&A は、中計で成長投資の一部に位置づけられている。北米の加工用・業務用油脂は 2030 年度に 500 億円の規模を狙うとしており、買収で時間を買う可能性がある。筆者は、買収価格が高すぎる点と、のれんの減損を警戒する。
親会社はなく、丸紅が大株主として近い関係にある。TOB で買われる可能性は、参考の確率で 27% と出ているが、筆者の筋書きには入れていない。資本政策は堅実だが、ROE を資本コストに乗せる力はまだ見えない。
株主優待は、100株で1.5千円、200株以上で3千円相当の自社製品(年1回・2026年4月の3分割前の条件)。年1.3億円と見込む(2026年3月末の有報(個人その他の株主 44,878 人・約9.5万単元)から受け取る約4.2万人の額面合計を約0.8億円とみて、商品の原価0.4と送料等1,000円を足し係数1.8)。優待は株主が受け取る現物の還元なので、10年の還元に年額×10年を、中立・やや楽観・楽観1.0、やや悲観0.75、悲観0.5の係数で足した(費用は販管費として利益から引き済みで、自己資本の流れには入れない)。年額は推定で、株主数の開示と優待条件から出した(2倍程度のずれはありうる)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
チョコレート用油脂は、カカオ豆の高騰で代替需要が高まる数少ない追い風の分野だ。会社は世界シェアを推計 6% から 15% 以上に引き上げる計画で、すでに投資を進めている。ここが全社の利益の屋台骨になれば、油脂加工の薄利から抜け出せる。
北米の加工用・業務用油脂も、2030 年度に 500 億円の規模を狙う。国内の食用油は縮むが、海外の特殊油脂でそれを上回って伸ばす。機能性油脂は 2028 年度に 70 億円以上と、2023 年度の 2.5 倍を見込む。化粧品油剤も、金額で 10% 以上のシェアを目指す。国内で人口が減っても、世界の油脂需要は伸び続ける。
国内では同業との協力で原料の調達コストが下がり、値上げが物価並みに通る環境が続く。千若町の用地売却で資産が軽くなり、純有利子負債も圧縮できる。
中計の営業利益 280 億円、ROE 8% は、その積み上げで届く水準であり、10 年先には利益率 5% 近くも見える。そうなれば倍率も 11 倍を超えて付く。会社はすでに経営の舵を切った。今の値段は、この変化を十分には織り込んでいない。さらに、原料を共同で運ぶなど同業との協力が進めば、調達費の削減が利益率を押し上げる余地もある。
慎重な見方
食用油は原料の相場に値段が連動する商品で、値上げは常にコストの後追いになる。パーム油の時価評価で今年も利益がぶれたように、本業の利益は読みにくい。10 年を通じて、営業利益率が過去最良の 4.1% を上回って定着する根拠は乏しい。
国内の家庭用は人口減と節約志向で量が減り続ける。業務用も、顧客が調達先を絞り込めば価格競争に巻き込まれる。J-オイルミルズや昭和産業との寡占は、需要が縮むほど争いが激しくなる。
特殊油脂は期待が先行している。チョコレート用油脂は欧州の大手が強く、シェア 15% は高い壁だ。北米も新規参入のコストがかさむ。中計の投資 900 億円は、営業キャッシュフロー 1,000 億円とほぼ同額で、自由に使える現金は残らない。
ROE が資本コストに届かない会社は、貯めた利益が額面どおりには評価されない。2026 年 3 月期の純利益は土地売却益で膨らんだだけだ。実力は 120 億円で、時価総額はその 15 倍に当たる。
どちらに重みを置いたか
強気の見立てには、特殊油脂が確かな成長の核だという説得力がある。ただ、その利益はまだ全社の 2 割に満たず、国内の本体は薄利で縮む。中計の 280 億円は全社の利益率を 5% に上げる前提で、筆者は 10 年で届かないと見る。
一方、慎重な見立ての論点は強く、利益の質が低く、ROE が資本コストを下回る期間が長いという指摘は数字で裏づけられる。確率は中立 38%、悲観側(やや悲観と悲観)を合わせて 32%、楽観側は 30% とし、慎重な側にわずかに寄せた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,642 円2,418 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 774 円709 億円)。 今の値に割り戻すと 1,851 円1,693 億円、今との差 −10.3%、 期待の年率 +5.2%(資本コスト 7.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,177 円4,737 億円 | 1,160 円1,061 億円 | +207.2% | +11.9% | 507 円464 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,700 円3,385 億円 | 926 円847 億円 | +124.2% | +8.4% | 1,018 円931 億円 |
| 中立 | 38% | 2,875 円2,631 億円 | 769 円704 億円 | +76.7% | +5.9% | 1,385 円1,267 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,168 円1,069 億円 | 574 円525 億円 | −15.6% | −1.7% | 383 円351 億円 |
| 悲観 | 10% | 646 円592 億円 | 594 円544 億円 | −39.9% | −5.0% | 124 円114 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,642 円2,418 億円 | 774 円709 億円 | +65.6% | +5.2% | 3,417 円3,126 億円 |
今の株価時価総額 2,063 円1,888 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.3% を下回るほど割高。
楽観 8% 高付加価値の油脂が柱になる10年 利益 299 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 5,177 円4,737 億円
中計の旗印だったチョコレート用油脂が世界で存在感を持ち、シェアは 10 年で 2 倍を超える。北米の加工用・業務用油脂も軌道に乗り、化粧品向けの油剤は 2 倍に伸びる。
国内の食用油は量が横ばいで、原料高を値上げに乗せる力が戻る。工場の再構築が進み、利益率は過去最高の 4% を上回って 4% 台後半まで上がる。
この姿なら ROE は資本コストを少し超える。ただ利益の質は、原料相場に左右される油脂加工の域を出ない。筆者は、ここまでの成功は連続して当たる必要があり、確率は 1 割に届かないと見る。この筋書きが現実になるなら、同業との協力による調達費の削減や、千若町の用地売却による資産の軽量化も、利益率の押し上げに働く。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.3億円×10年×1=13億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 国内食用油・油糧:数量 88.0(油脂・油粕の販売量(万トン))× 価格 51(1トンあたり単価(万円))→ 売上 4,486 億円・営業利益 157 億円。数量横ばい・値上げが通る
- 加工食品・素材:数量 13.5(販売量(万トン))× 価格 111(1トンあたり単価(万円))→ 売上 1,503 億円・営業利益 72 億円。健康素材が育つ
- グローバル油脂・加工油脂:数量 63.0(販売量(万トン))× 価格 56(1トンあたり単価(万円))→ 売上 3,498 億円・営業利益 192 億円。チョコ用油脂が世界で伸びる
- ファインケミカル:数量 3.1(販売量(万トン))× 価格 140(1トンあたり単価(万円))→ 売上 434 億円・営業利益 56 億円。化粧品油剤が倍増
倍率:事業の純利益 299 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 7.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.8% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍。全体の PER 15.64 倍、時価総額 4,676 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の柱が全部当たり、さらに値上げ力も戻る必要がある。チョコ用油脂は欧州大手が強く、世界シェア 2 倍は実現すれば大きいが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 22% 中計の線に近づき、稼ぐ力が少し上がる10年 利益 235 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 3,700 円3,385 億円
中計の目標には届かないが、方向は合っている。チョコレート用油脂・健康素材・化粧品油剤が着実に伸び、全社の利益のうち特殊な油脂の比重が上がる。
国内の家庭用は人口減で量が細る。それでも業務用の拡販と値上げの定着で、食用油の利益率は 3% を少し超える水準を保つ。海外では北米の加工用・業務用油脂が育ち始める。
営業利益は 10 年後に 370 億円ほどになる。自己資本の積み上がりも進むため、ROE は 8% 近くにとどまり、資本コストをわずかに下回る。ここまで来ても、倍率を高くは置けない筋書きだ。配当性向は 45% 前後を保ち、残る利益は工場の再構築と海外の拡販に回る。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.3億円×10年×1=13億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 国内食用油・油糧:数量 85.4(油脂・油粕の販売量(万トン))× 価格 49(1トンあたり単価(万円))→ 売上 4,165 億円・営業利益 133 億円。家庭用の減りを業務用が補う
- 加工食品・素材:数量 12.5(販売量(万トン))× 価格 108(1トンあたり単価(万円))→ 売上 1,352 億円・営業利益 57 億円。MCT など健康素材が拡大
- グローバル油脂・加工油脂:数量 56.0(販売量(万トン))× 価格 54(1トンあたり単価(万円))→ 売上 3,021 億円・営業利益 151 億円。北米・アジアで拡販
- ファインケミカル:数量 2.7(販売量(万トン))× 価格 136(1トンあたり単価(万円))→ 売上 369 億円・営業利益 44 億円。油剤が拡大
倍率:事業の純利益 235 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 7.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.8% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.1 倍。全体の PER 14.12 倍、時価総額 3,318 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の方向に沿って事業が育つが、会社目標の 280 億円には届かない。過去の中計で目標を満たせなかった年が多い点を踏まえ、確率は中立の次に置く。
中立 38% 国内の縮みと海外・特殊油脂の伸びが釣り合う10年 利益 187 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 2,875 円2,631 億円
国内の食用油は、人口減と家庭内調理の変化で量がゆるやかに減る。値上げは物価並みに通るが、利益率は 3% 前後から動かない。
成長を担うのは特殊油脂だ。チョコレート用油脂は量が 4 割、化粧品油剤は 5 割伸びる。健康素材も小さく積み上がる。これらが国内の目減りを埋め、営業利益は 300 億円強になる。
配当性向は 45% 前後を続け、残りで自己資本が厚くなる。ROE は 6% 台と、過去 10 年の中央値とほぼ同じだ。資本コストを下回る状態が続く、薄利の原料加工業という姿に落ち着く。原料相場の山と谷は年ごとに利益を揺らすが、10 年で均せば利益率は 3% 台半ばにとどまる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.3億円×10年×1=13億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 国内食用油・油糧:数量 81.8(油脂・油粕の販売量(万トン))× 価格 49(1トンあたり単価(万円))→ 売上 3,993 億円・営業利益 120 億円。人口減で量は緩やかに減る
- 加工食品・素材:数量 11.5(販売量(万トン))× 価格 107(1トンあたり単価(万円))→ 売上 1,225 億円・営業利益 47 億円。健康素材が小さく伸びる
- グローバル油脂・加工油脂:数量 49.0(販売量(万トン))× 価格 53(1トンあたり単価(万円))→ 売上 2,604 億円・営業利益 117 億円。チョコ用油脂が着実に伸びる
- ファインケミカル:数量 2.3(販売量(万トン))× 価格 134(1トンあたり単価(万円))→ 売上 312 億円・営業利益 34 億円。油剤が伸びる
倍率:事業の純利益 187 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.3% が k 7.30% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.7 倍、時価総額 2,562 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の縮みと特殊油脂の伸びが釣り合う姿が最も起こりやすい。営業利益率が過去最良の 4.1% を超えない前提で、確率は最大にした。
やや悲観 22% 値上げの遅れと海外の伸び悩みが続く10年 利益 109 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,168 円1,069 億円
原料の植物油は相場が荒れ、値上げが遅れる局面が増える。J-オイルミルズや昭和産業との価格競争で、家庭用も業務用も量が 1 割減る。
海外の特殊油脂は、欧州の大手との競争で期待ほど伸びない。北米の拡販には投資がかさみ、採算が出るまで時間がかかる。
営業利益は 200 億円ほどにとどまり、借金の利払いも増えて ROE は 4% 前後になる。減損を一部計上する年も出る。資本コストを大きく下回り、倍率も 9 倍ほどにしか置けない。国内の家庭用は量が戻らず、工場の稼働率が下がって固定費の重さが利益を削り、配当性向は保つが自己資本は薄くしか増えない。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.3億円×10年×0.75=9.8億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 国内食用油・油糧:数量 79.2(油脂・油粕の販売量(万トン))× 価格 47(1トンあたり単価(万円))→ 売上 3,749 億円・営業利益 86 億円。量が 1 割減、値上げが遅れる
- 加工食品・素材:数量 10.5(販売量(万トン))× 価格 105(1トンあたり単価(万円))→ 売上 1,102 億円・営業利益 33 億円。伸びが鈍る
- グローバル油脂・加工油脂:数量 42.0(販売量(万トン))× 価格 52(1トンあたり単価(万円))→ 売上 2,199 億円・営業利益 70 億円。競合に押され伸び悩む
- ファインケミカル:数量 1.9(販売量(万トン))× 価格 132(1トンあたり単価(万円))→ 売上 256 億円・営業利益 23 億円。価格競争で鈍る
倍率:ROE 4% 前後が k 7.3% を下回るので PER の上限は 1÷k で約 11.4 倍。減損と値上げの遅れが重なる筋書きで、その約 8 割の 9 倍に置いた。
確率:原料相場が荒れる年は多く、値上げの遅れは過去にも起きている。海外の特殊油脂が競争で伸び悩む可能性は、強気の筋書きと同程度に高い。
悲観 10% 国内も海外も押され、薄利から抜けられない10年 利益 59 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 646 円592 億円
構造的な負けの筋書きだ。国内では大口の顧客が調達先を絞り込み、輸入油や他社の安値に押されて量が 2 割減る。値上げは原料に追いつかず、利益率は 2% 前後に張りつく。
海外の特殊油脂は、買収や設備への投資が重くなる一方で、欧州の大手や東南アジアの新規勢との競争で採算が悪化する。大型の減損も出る。
営業利益は 140 億円ほどで、純利益は 60 億円に届かない。ROE は 2% 台で、倍率も縮む。借り換えの金利が 3.5% 前後に上がる中で、借金の重さが利益を削る。配当は純利益に対して重くなり、自己資本の積み上がりも鈍い。投資の回収が遅れ、価値を壊した 10 年として終わる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.3億円×10年×0.5=6.5億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 国内食用油・油糧:数量 72.2(油脂・油粕の販売量(万トン))× 価格 46(1トンあたり単価(万円))→ 売上 3,284 億円・営業利益 72 億円。シェアを落とし量が 2 割減
- 加工食品・素材:数量 9.0(販売量(万トン))× 価格 102(1トンあたり単価(万円))→ 売上 916 億円・営業利益 23 億円。値下げ圧力で利益薄い
- グローバル油脂・加工油脂:数量 31.5(販売量(万トン))× 価格 51(1トンあたり単価(万円))→ 売上 1,599 億円・営業利益 40 億円。海外で減損・採算悪化
- ファインケミカル:数量 1.4(販売量(万トン))× 価格 128(1トンあたり単価(万円))→ 売上 179 億円・営業利益 14 億円。汎用化で値崩れ
倍率:ROE が資本コスト 7.3% を下回り、PER の上限は 1÷k で約 11.4 倍。縮む事業の先細りを織り込み、その約 75%、8.5 倍に置いた。稼ぐ力(純利益÷k)に収まる額。純資産の多くは工場など売りにくい資産で、構造的に負ける筋書きでは帳簿の自己資本を床にしない。
確率:国内の寡占が崩れるか海外投資が失敗する複合の筋書き。薄利の原料加工業は一度競争力を落とすと戻りにくく、10% は置く価値がある。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内食用油・油糧
家庭用食用油(BOSCO・日清キャノーラ油)、業務用油、油粕を国内で製造・販売する。
| 数量油脂・油粕の販売量(万トン) | 価格1トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 88.0 | 36 | 3,204 | 85 |
| 10 年後 中立 | 81.8 | 49 | 3,993 | 120 |
取り方:セグメント「油脂・油糧および加工食品・素材」の売上 3,895 億円のうち加工食品・素材を約 800 億円と置き、残りと「その他」の差額を合わせて 3,204 億円とした。数量は食用油約 55 万トン・油粕など約 33 万トンの推定で、国内の食用油市場約 220〜240 万トンに対し会社シェア 2 割台前半という見立て。利益はセグメント利益 111 億円を加工食品・素材と分けて配分。価格は名目で、10 年で物価並みの 1.34 倍(原料の相場は年ごとに動くが 10 年では均す)。数量は実質で、人口減により中立 0.93 倍。
加工食品・素材
健康向けの MCT 油などの機能素材、ホームユースの加工品。
| 数量販売量(万トン) | 価格1トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.0 | 80 | 795 | 26 |
| 10 年後 中立 | 11.5 | 107 | 1,225 | 47 |
取り方:セグメント「油脂・油糧および加工食品・素材」から国内食用油を除いた分を、機能素材・加工品の平均単価(1 トン約 80 万円)から数量に直した推定。利益率は約 3% と置いた。価格は名目で 10 年 1.34 倍。数量は実質で、健康志向の素材に伸びしろがあるため中立 10 年 1.15 倍。
グローバル油脂・加工油脂
チョコレート用特殊油脂(CBE)、パン・菓子向け加工用油脂、海外拠点での販売。
| 数量販売量(万トン) | 価格1トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 35.0 | 40 | 1,388 | 47 |
| 10 年後 中立 | 49.0 | 53 | 2,604 | 117 |
取り方:セグメント売上 1,388 億円(前期比 20.3% 増)、営業利益 47 億円。1 トン約 40 万円の油脂単価から数量を逆算した推定。CBE の世界シェアは会社推計で重量約 6%(2024 年度)、2028 年度 15% 以上が目標だが、筆者は中立で 10 年に数量 1.4 倍(シェア 8〜9% 相当)に置く。価格は名目で 1.34 倍。数量は実質(拡販・北米の開拓)。
ファインケミカル
化粧品・医薬向けの油剤など。
| 数量販売量(万トン) | 価格1トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.6 | 100 | 155 | 15 |
| 10 年後 中立 | 2.3 | 134 | 312 | 34 |
取り方:セグメント売上 155 億円・営業利益 15 億円。高付加価値のため単価を 1 トン約 100 万円と置き、数量に直した推定。化粧品油剤の世界市場は汎用品を含み大きく、会社は金額で 10% 以上を目標とする。価格は名目で 1.34 倍。数量は実質で、新製品と海外の拡販により中立 10 年 1.5 倍。
リスクと懸念
原料相場と時価評価のぶれ
大豆・菜種・パームの相場は年ごとに大きく動く。2026 年 3 月期はパーム油の取引の時価評価が悪化して利益を押し下げた。値上げは原料の後追いになりやすく、相場が急騰する局面では利益率が一時的に 2% 台へ落ちる。
国内の食用油の量の縮み
家庭用の数量は 2026 年 3 月期も減った。人口減と家庭内調理の変化は止まらない。市場規模は値上げで保てても、量が減れば工場の稼働が下がり、固定費の重さが利益率を削る。
特殊油脂の競争
チョコレート用油脂は、欧州の大手が先行する分野で、世界シェア 6% から 15% への引き上げは高い壁だ。北米でも新規参入の投資が先行し、採算が出るまでの期間が想定より延びる恐れがある。
借金の重さと金利
純有利子負債は 933 億円で、時価総額の約半分、EBITDA の 3 倍超にあたる。借り換えのたびに金利が 3.5% 前後へ上がり、10 年で利払いは 23 億円ほど増える見込みだ。
海外投資の減損
中計は 4 年で 900 億円の投資を見込み、北米の加工用油脂や海外の拠点に振り向ける。買収や設備の収益が想定を下回れば、のれんや固定資産の減損が利益と自己資本を同時に削る。
一時益で見た目の割安
2026 年 3 月期の純利益は約 240 億円と大きいが、千若町の用地売却益(約 231 億円)を含む。実力の純利益は会社予想の 120 億円前後で、一時益だけで割安と判断すると誤る。
今後の分かれ目
- チョコレート用油脂の世界シェアが 10% を超えたら
- 特殊油脂の利益が全社の屋台骨になる。楽観・やや楽観側の確率を上げる。
- パームや大豆の相場が急騰し、値上げが半年以上遅れたら
- 営業利益率が 2% 台に落ちる。やや悲観側に寄せる。
- 北米の加工用油脂で大型の買収があり、のれんが膨らんだら
- 借金が増え、減損の危うさも増す。やや悲観側に寄せる。
- 国内の家庭用で、同業が大きく値下げに動いたら
- 寡占が崩れる兆しとして、悲観側の確率を上げる。
- 営業利益が 2 年続けて 250 億円を超えたら
- 中計の 280 億円が現実味を帯びる。やや楽観側を厚くする。
- 丸紅や同業との資本の動きが出たら
- 再編の可能性として、中立から楽観側の価値を見直す。
見ておくもの
- 家庭用食用油の販売数量と値上げの浸透
- パーム油などの原料相場と時価評価損益
- チョコレート用油脂・化粧品油剤の売上と利益率
- 営業キャッシュフローと純有利子負債の推移
- 中計の営業利益目標(2028 年度 280 億円)の進み具合
倍率と資本コストの決め方
4 つの事業ごとに、実質の数量(万トン)と名目の単価(物価並みの 10 年 1.34 倍)を置き、事業の利益率を積み上げて 10 年後の営業利益を出した。倍率は式の上限(ROE が k を下回る場合は 1÷k)を先に決め、利益の質で 7〜9 割に置いた。今の株価・PER・PBR は倍率の根拠に使っていない。リース(新リース会計基準)は今の形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。2026 年 3 月期の純利益は土地売却益を含むため、起点には会社予想の 120 億円と営業利益 170 億円を使った。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→15.64 倍・やや楽観 PER 10→14.12 倍・中立 PER 9.7→13.7 倍)。
資本コスト 7.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した。事業が傾いてはいないので上乗せはしない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.80% → 7.30%。