結論
サトウ食品は、パックご飯の「サトウのごはん」と、包装餅の「サトウの切り餅」を作る新潟の会社だ。売上の6割強がパックご飯、3割強が餅で、どちらも国内で首位級の看板を持つ。筆者の結論は割高である。事業の質は悪くない。問題は、稼ぎが資本コストを上回りにくいことだ。
直近の2026年4月期は、売上も利益も過去最高だった。ただ、その追い風の大半は米不足と米価の高騰が運んできたものだ。精米が値下がりに転じると、パックご飯は店頭で割高に見える。最新の四半期は売上が1割減り、営業利益はほぼ消えた。会社の通期予想も営業減益である。
10年先を考えると、パックご飯の量は簡便化で2割ほど伸び、値段は物価並みに上がる。餅は人口減で量が細る。それでも全社の営業利益率は6%前後で、過去12年の山を超えない。稼いだ利益の大半を工場と手元に残すため、自己資本利益率は6〜7%に下がり、資本コストの8.0%を割り込む。
中立の本質価値は、今の時価総額の半分ほどにとどまる。楽観の筋書きでようやく今の値段に並ぶ。いまの株価は、パックご飯の好調が続くことを織り込みすぎている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず見るのは再投資の重さだ。この事業は、利益を出すために大きな工場を建て続ける。ラインを足すたびに数十億円が要り、稼ぎの多くは設備に消える。株主の手に残る利益は、見かけの純利益よりかなり少ない。
次に、堀の深さを見る。看板は強いが、価格を市場に決められる場面が多い。ライバルも増設に動いており、10年先まで今の利益率が保たれる保証は弱い。
資本の使い方は、守りに寄っている。借金で工場を建て、成長を取りにいく姿勢は評価できる。しかし、新しい投資の稼ぎが資本コストを上回る裏づけは乏しい。上回らないなら、投資するより株主に返したほうが価値は増える。
最後に、安全域だ。割安に買うなら、悪い筋書きでも元本が守られる値段でなければならない。今の値段は、好調が続く筋書きをほぼ織り込んでおり、その余地がない。事業は嫌いでないが、払う値段には慎重になる。
何で稼ぐ会社か
事業は2本柱だ。
パックご飯は売上の約64%を占める。炊いたご飯を無菌の容器に詰め、常温で長く置ける商品である。この「無菌包装米飯」を1988年に初めて売り出したのがサトウ食品で、今も売上で首位だ。新潟の聖籠ファクトリーを中心に10ラインを動かし、年間の生産能力は4億食に達する。2026年12月には約80億円をかけた第二工場が動き出し、日産で20万食が増える。
包装餅は売上の約36%を占める。一切れずつ包んだ切り餅が中心で、正月前の鏡餅も扱う。包装餅の国内シェアは3割強で首位級だ(日本経済新聞、約2年前)。越後製菓が最大の競合である。
売り先は、スーパーやドラッグストアなどの小売りが中心と見られる(推定)。開示は単一のセグメントで、製品別の利益は出ていない。ここではパックご飯と餅を、同じ約7%の利益率で分けて置いた。
原料は国産米だ。米価が上がれば原価は重くなり、値上げが追いつくまでの間は利益が削られる。逆に精米が下がると、店頭の価格差が開いて売れ行きが鈍る。この二重の揺れが、この会社の利益の読みづらさの源である。
優良さと弱いところ
強みは、先に始めた者の看板と、量の力だ。パックご飯は1988年の発売以来、売上で首位を保つ。家庭の棚で「サトウのごはん」が指名される場面は多く、新参のブランドより値上げが通りやすい。ライン数も国内最大級で、1食あたりの製造コストは小さい。
弱みは、値段を自分で決めきれないことだ。同じ棚に東洋水産やテーブルマークの商品が並び、アイリスオーヤマは鳥栖で日産140万食の工場を伸ばしている。米価が下がれば、パックご飯と炊飯の価格差が開く。堀、つまり他社がまねできない強みは、あるが深くはない。
資本効率は見かけより低い。自己資本利益率は10%前後だが、自己資本比率は43%で、借金で押し上げている面がある。借金を含めた投下資本に対する稼ぎは6%前後にとどまり、資本コストの8.0%に届かない。
経営は創業家が握る。筆頭株主は住吉食品(有)で約35%、佐藤元社長が役員を務める会社である。意思決定は速いが、株主還元は薄い。配当性向は13%台だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
パックご飯の市場は、この10年で大きく育った。国内の生産量は2025年に26万トン前後で、無菌包装米飯は2022年まで12年連続で伸びた。2016〜21年の年平均の伸びは約7%(日本食糧新聞)。単身世帯の増加と、炊く手間を省きたい需要が支えた。
ただ、伸びは止まりつつある。2023年は微減に転じ、2025年は前年並みだった。米不足の時期にパックご飯へ需要が寄ったが、精米の値下がりでその追い風は逆に回った。
同時に、供給が増えている。サトウは能力を4億食へ引き上げ、アイリスオーヤマは鳥栖で日産140万食に拡張し、はごろもフーズも能力を3割増やす。需要が頭打ちの局面で、各社が同時に増設している。価格競争の火種になりうる。
包装餅は、人口減と食の洋風化で、量は少しずつ細る。米価の高騰で一時は代替需要が出たが、構造は変わらない。国内の食の総量は2056年に向けて緩やかに減る見通しで、簡便化の追い風はパックご飯に集まる。
筆者は、この業界を「大きく伸びる成長産業」でなく、「簡便化を取り込む成熟産業」と見る。
資本政策と M&A
還元は薄く、安定している。一株あたりの配当は、2021年4月期から2026年4月期までに7割ほど増えた。だが配当性向は13%台で、方針は「内部留保を充実させつつ安定配当」だ。自社株買いはない。
資金は工場に回る。聖籠の増設に約45億円、第二工場に約80億円と、2期続けて大型の投資が続く。原資は自己資金と借り入れで、純有利子負債は166億円(時価総額の約45%)まで増えた。
2026年4月期の純利益には、政策保有株の売却益が含まれる。この益は繰り返さない前提で、10年の起点を24億円とならした。保有株の配当は営業外収益に入っており、売却による価値は別に足していない。
株主優待は、毎年10月末の株主に自社商品の詰め合わせを贈る。費用は年0.4億円ほどと推定(開示なし)。額が小さいので、還元に年額×10年を足すにとどめた。
M&Aの実績は目立たない。筆頭株主が35%を持つため、同意なしの買収は考えにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
パックご飯は、まだ家庭に浸透しきっていない。国内で炊飯器の代わりに使う人は増え続けており、単身世帯と共働きの増加がその流れを支える。2016年から2021年まで、市場は年7%で伸びた。同じ流れが続けば、10年でさらに5割は広がる。
サトウは、その市場で首位に立つ。1988年に商品を生み出し、釜炊きを再現する無人ラインなど、製法の改良も重ねてきた。第二工場が動けば、能力は4億食台半ばまで増える。大きなラインを高い稼働率で回せれば、1食あたりの製造コストが下がり、利益率は過去の山を超えうる。
米価の高騰は、結果として新しい客を連れてきた。一度パックご飯の手軽さを知った人は、米価が下がっても戻りきらない。餅も、米価が上がった時期の代替需要が一部は定着する。値上げも通りやすい。利益が積み上がれば、配当の増額も続く。配当性向はまだ13%台と低く、引き上げる余地は大きい。還元を厚くすれば、自己資本利益率は10%台を保てる。
慎重な見方
パックご飯の伸びは、すでに止まりかけている。国内の生産量は2023年に微減し、2025年も前年並みだった。米不足で押し上げられた需要は、精米の値下がりで逆流している。最新の四半期は売上が1割減り、営業利益はほぼ消えた。
供給は逆に膨らんでいる。サトウが4億食超へ、アイリスオーヤマが日産140万食へ、はごろもも3割増で能力を上げる。需要が横ばいで供給が増えれば、値引き競争になる。値段を自分で決める力は弱く、利益率は2020年前後の2〜3%台へ戻りうる。
さらに、稼ぎは資本コストに届かない。借金を含めた投下資本に対する稼ぎは6%前後で、8.0%を割る。それでも利益の8割以上を工場と手元に残す。新しい工場を作るほど、投じた資金あたりの価値は目減りする。餅は人口減で細り、成長の支えにならない。創業家が35%を握るため、外から経営を正す力も働きにくい。今の値段は、この現実を無視している。第二工場の償却が始まる来期以降は、固定費の重さも利益率を下げる。
どちらに重みを置いたか
争点は、パックご飯の好調が構造か、一時の追い風かである。足元の数字は一時の色が濃く、強気の見方が頼る「新しい客が戻らない」という根拠は、最新の四半期の落ち込みで弱まった。一方、慎重な見方が描く値引き競争は、起きれば利益を大きく削る。確率は中立に4割弱を置き、やや悲観を楽観側より厚くした。悲観には1割を置いた。資本効率が低く、増設の稼ぎが資本コストを超えにくい点は、どちらの見方でも動かないからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/04 期)
確率で加重した株価時価総額 6,818 円344 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,069 円54 億円)。 今の値に割り戻すと 3,885 円196 億円、今との差 −46.3%、 期待の年率 +0.9%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 13,674 円690 億円 | 2,290 円116 億円 | +120.8% | +8.2% | 1,117 円56 億円 |
| やや楽観 | 20% | 9,692 円489 億円 | 1,463 円74 億円 | +54.3% | +4.4% | 2,231 円113 億円 |
| 中立 | 38% | 7,726 円390 億円 | 1,069 円54 億円 | +21.6% | +2.0% | 3,342 円169 億円 |
| やや悲観 | 25% | 3,236 円163 億円 | 702 円35 億円 | −45.5% | −5.9% | 985 円50 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,775 円90 億円 | 339 円17 億円 | −70.8% | −11.6% | 211 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,818 円344 億円 | 1,069 円54 億円 | +9.1% | +0.9% | 7,886 円398 億円 |
今の株価時価総額 7,230 円365 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% パックご飯が伸び続け、能力増が利益に結びつく 利益 50 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 13,674 円690 億円
簡便化の流れがあと10年続き、パックご飯の量は5割増える。第二工場に続く増設も高い稼働率で回り、1食あたりのコストが下がる。値段は物価を少し上回って上がる。餅は人口減で細るが、鏡餅と通年の切り餅で首位を守る。営業利益率は過去の山と同じ7%台に乗り、全社の営業利益は70億円を超える。利益を積み増しつつ、配当性向は3割まで引き上げる。創業家は還元を厚くし、自己資本利益率は10%近くを保つ。株主が最も報われる10年だ。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年0.4億円×10年×1.0=4.0億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- パックご飯:数量 510(販売数量(百万食。1食は約200グラム))× 価格 140(1食あたりの出荷額(円、推定。名目))→ 売上 714 億円・営業利益 57 億円。営業利益率8.0%
- 包装餅:数量 4.8(販売数量(万トン、推定))× 価格 518(1キログラムあたりの出荷額(円、推定。名目))→ 売上 250 億円・営業利益 17 億円。営業利益率6.8%
倍率:事業の純利益 50 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.82 倍、時価総額 690 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:パックご飯が年7%に近い伸びを再び取り戻し、増設が高い稼働率で回る必要がある。米価の追い風が一巡した今は、確度の高い筋書きではない。
やや楽観 20% パックご飯が堅調に伸び、利益率が山に近づく 利益 39 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 9,692 円489 億円
パックご飯の量は10年で4割ほど増える。増設は稼働率が少し足りない時期をはさみつつ、10年後には回る。値上げは物価並みに通る。餅の量は人口減で緩やかに細る。営業利益率は6.7%前後で、過去の山(6.9%)の手前にとどまる。配当性向は2割台に上がるが、利益の大半は設備と手元に回る。自己資本利益率は8%ほどで、資本コストとほぼ同じだ。堅実な成長企業になるが、株主に超過の価値をもたらすほどではない。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年0.4億円×10年×1.0=4.0億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- パックご飯:数量 445(販売数量(百万食。1食は約200グラム))× 価格 137(1食あたりの出荷額(円、推定。名目))→ 売上 610 億円・営業利益 45 億円。営業利益率7.3%
- 包装餅:数量 4.7(販売数量(万トン、推定))× 価格 507(1キログラムあたりの出荷額(円、推定。名目))→ 売上 239 億円・営業利益 15 億円。営業利益率6.4%
倍率:事業の純利益 39 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 489 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:簡便化の流れが続き、増設の効果が出る筋書きだが、競合の増設と米価の戻りで利益率は山を超えない。強気側の穏やかな想定。
中立 38% 成熟した首位企業として、緩やかに伸びる 利益 31 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 7,726 円390 億円
パックご飯の量は10年で2割増える。簡便化の流れは続くが、米不足期の上振れは剥がれる。第二工場の稼働率が満ちるまで時間がかかり、償却が利益率を押さえる。値段は物価並みに上がる。餅は人口減で量が1割減り、値上げで売上を保つ。全社の営業利益率は6%強で、過去の山(6.9%)を超えない。利益の約8割を設備と手元に残すため、自己資本は倍近くまで膨らむ。自己資本利益率は6〜7%に下がり、資本コストを割る。事業は健全でも、株主の目線では育ちにくい会社になる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年0.4億円×10年×1.0=4.0億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- パックご飯:数量 396(販売数量(百万食。1食は約200グラム))× 価格 134(1食あたりの出荷額(円、推定。名目))→ 売上 531 億円・営業利益 36 億円。営業利益率6.7%
- 包装餅:数量 4.6(販売数量(万トン、推定))× 価格 496(1キログラムあたりの出荷額(円、推定。名目))→ 売上 227 億円・営業利益 14 億円。営業利益率6.0%
倍率:事業の純利益 31 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 388 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:パックご飯の好調が一巡し、増設が緩やかに埋まる筋書き。最新の四半期の落ち込みと会社の営業減益予想を考えると、これが最も確度が高い。
やや悲観 25% パックご飯が値下がり競争に巻き込まれる 利益 16 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 3,236 円163 億円
各社の増設が出そろい、パックご飯は供給過剰になる。サトウも稼働率を保つために値上げを控え、値段は物価の伸びを下回る。量は5%増にとどまる。餅は人口減で量が細り、利益は薄くなる。営業利益率は3.8%まで下がり、2017〜20年の水準に戻る。配当は据え置きで、利益は第二工場の償却と借金の利払いに消える。優良さは薄れるが、看板と製造規模は残り、事業が崩れるわけではない。パックご飯の首位は守るものの、価格を決める力は競合に移る。餅は縮小が続き、餅の工場には余力が出る。経営は増設を止めて借金の返済を優先し、成長への投資は後ろに回る。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年0.4億円×10年×0.75=3.0億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- パックご飯:数量 346(販売数量(百万食。1食は約200グラム))× 価格 130(1食あたりの出荷額(円、推定。名目))→ 売上 450 億円・営業利益 21 億円。営業利益率4.6%
- 包装餅:数量 4.3(販売数量(万トン、推定))× 価格 481(1キログラムあたりの出荷額(円、推定。名目))→ 売上 208 億円・営業利益 8 億円。営業利益率3.6%
倍率:自己資本利益率3.9%が資本コスト8.0%を大きく下回る。倍率の上限(12.5倍)をそのまま使わず、ROE÷kにあたる約5割を反映して9倍に引いた。純利益が薄く、増設の重さに見合う稼ぎが出ない。
確率:パックご飯の供給が各社の増設で需要を上回り、値引き競争になる筋書き。米価の戻りと増設の同時進行を考えると、起こりうる。確率は強気側より厚い。
悲観 10% 値引き競争が定着し、利益率が構造的に落ちる 利益 6 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,775 円90 億円
パックご飯の供給過剰が長引き、量販店向けの値引きが定着する。サトウは首位の座を守れず、量が1割減る。値段は物価の半分ほどしか上がらない。餅も人口減と米価の下落で売上が縮む。営業利益率は2%台に沈み、第二工場は償却が重くのしかかる。借金の利払いも増え、純利益は数億円にとどまる。配当は半分に減らす。それでも看板と工場は残り、床の価値は売れる資産が支える。創業家は経営を続けるが、首位の看板を生かした新しい商品や海外への展開は進まない。第二工場の稼働率は低いままで、減損も避けられない。一方で、パックご飯そのものは日常の食卓から消えず、事業が止まるわけではない。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年0.4億円×10年×0.5=2.0億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- パックご飯:数量 297(販売数量(百万食。1食は約200グラム))× 価格 115(1食あたりの出荷額(円、推定。名目))→ 売上 342 億円・営業利益 11 億円。営業利益率3.2%
- 包装餅:数量 3.8(販売数量(万トン、推定))× 価格 425(1キログラムあたりの出荷額(円、推定。名目))→ 売上 162 億円・営業利益 3 億円。営業利益率2.0%
倍率:稼ぐ力(純利益÷資本コスト)は約70億円にとどまる。床は売れる資産で見る。工場・ライン・土地の売却価値を取得原価の約4〜5割とみて、純有利子負債約100億円を引いた税後の約90億円を、今の自己資本248.6億円に掛けて約0.36倍とした。EV(時価総額+純有利子負債)÷営業利益は高く出るが、谷の利益が極端に薄いためで、回復を見込まない最悪の筋書きとして置いた。
確率:増設競争のあとに値引きが定着し、首位の座も揺らぐ。創業家企業で、経営の立て直しが遅れる想定。確率は1割とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
パックご飯
炊いたご飯を無菌で包装した常温保存のご飯「サトウのごはん」。国内首位。
| 数量販売数量(百万食。1食は約200グラム) | 価格1食あたりの出荷額(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 330 | 100 | 330 | 23 |
| 10 年後 中立 | 396 | 134 | 531 | 36 |
取り方:パックご飯と関連の売上330億円を、年3.3億食と1食あたり百円前後に分けた(推定)。1食約200グラムなら約6.6万トンで、国内生産量26万トン前後(農林水産省)の約25%にあたる。数量は簡便化の流れで中立10年1.2倍、価格は物価並みの1.34倍。能力は年4億食(2026年12月に第二工場が稼働)。競合は東洋水産、テーブルマーク、越後製菓、アイリスオーヤマ、はごろもフーズ。利益は開示がなく、全社の営業利益率並みで置いた。
包装餅
個包装の切り餅と鏡餅。国内の包装餅で首位級(シェア約3割)。
| 数量販売数量(万トン、推定) | 価格1キログラムあたりの出荷額(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/04 | 5.1 | 370 | 188 | 13 |
| 10 年後 中立 | 4.6 | 496 | 227 | 14 |
取り方:包装餅の売上188億円を、年5.1万トンと1キログラムあたり三百七十円前後に分けた(推定)。数量は人口減と食の洋風化で中立10年0.9倍、価格は物価並みの1.34倍。国内の包装餅で首位級(約2年前の日本経済新聞でシェア33.1%)、競合は越後製菓。利益は開示がなく、全社の営業利益率並みで置いた。
リスクと懸念
米価と原料コストの振れ
原料の国産米は、価格が政策と天候で大きく動く。上がれば原価が重くなり、値上げが追いつくまで利益は削られる。下がれば、店頭でパックご飯が炊飯に比べ割高に見え、売れ行きが鈍る。最新の四半期の減収減益は、この二重の揺れの現れである。
各社の増設による供給過剰
サトウが年4億食へ、アイリスオーヤマが日産140万食へ、はごろもが3割増へと、各社が同時に増設している。市場の伸びが止まりかけた局面で能力が増えれば、値引き競争を招く。サトウは首位の分だけ、価格競争の的にもなりやすい。
増設投資の回収
第二工場に約80億円、聖籠の増設に約45億円と、大型の投資が続く。稼働率が計画に届かなければ、償却と利払いが利益率を押し下げる。借金は純有利子負債で自己資本の0.67倍、時価総額の約45%に達している。
包装餅の縮小
人口減と食の洋風化で、餅の量は緩やかに細る。米価の高騰で一時は代替需要が出たが、構造は変わらない。餅は売上の3割強を占めるため、縮めば全社の成長を押さえる。
単一商品への集中
売上の6割強がパックご飯、残りが餅で、主力は米を原料にする食品の2本に絞られる。品目を広げた食品会社に比べ、特定の商品の需要や価格の揺れが、そのまま全社の利益に出る。
創業家の支配と薄い還元
筆頭株主の住吉食品(有)が約35%を持つ。意思決定は速いが、配当性向は13%台と低く、利益の多くが設備に回る。株主に戻さずに溜めるほど、自己資本利益率は下がる。外から経営を正す力は働きにくい。
今後の分かれ目
- 精米の市場価格がさらに下がり、パックご飯の販売が前年を下回り続けたら
- やや悲観・悲観の筋書きに重みを移す。数量の中立(10年で2割増)を下げる。
- アイリスオーヤマやはごろもの増設が前倒しで稼働し、小売りの値引きが広がったら
- パックご飯の価格を物価以下に置き直し、やや悲観の確率を厚くする。
- 第二工場の稼働率が早く満ち、1食あたりの製造コストが下がったら
- 利益率の上振れを認め、やや楽観・楽観に重みを移す。
- 配当性向の引き上げや自社株買いなど、還元の方針が明確に変わったら
- 自己資本の膨らみが止まり、自己資本利益率が上がる。中立の倍率を見直す。
- 米価が再び急騰し、パックご飯や餅に需要が寄ったら
- 足元の利益は上振れるが一時的と見て、中立の数量・利益率は動かさない。
- 創業家が保有株を売り、経営に変化があれば
- 同意のある買収や再編が視野に入る。確率を見直す。
見ておくもの
- 四半期ごとのパックご飯・包装餅の売上と営業利益率(米価と売れ行きの関係)
- 第二工場の稼働状況と減価償却の立ち上がり
- アイリスオーヤマ・はごろもフーズ・東洋水産の増設と店頭価格
- 配当性向と自社株買いの方針、純有利子負債の推移
- 農林水産省のパックご飯の生産量
倍率と資本コストの決め方
倍率は、10年後の自己資本利益率と資本コスト8.0%から出した。中立では、自己資本利益率が6.6%と資本コストを下回るため、倍率の上限は資本コストの逆数の12.5倍になる。ここから9割の11.2倍に置いた。稼ぎの質はそこそこ良く、上限に近づけた。今の株価に合わせて動かしてはいない。今の水準を正当化するには、楽観の筋書きが必要になるため、割高と出た。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.4→13.82 倍・やや楽観 PER 11.5→12.5 倍・中立 PER 11.2→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityの+0.5%を足して8.0%。事業が傾いているわけではないので上乗せ(extra)は置かない。