結論
雪印メグミルクは、バター・チーズ・ヨーグルト・牛乳を国内で手広く作る乳業大手だ。売上は約6,200億円、うち営業利益は180億円台にとどまる。薄利で、利益率は10年間ほぼ3%で動いていない。
筆者の結論は、今の値段はやや割高である。2026年3月期の純利益は329億円まで跳ねたが、中身は政策保有株の売却益だ。事業が稼ぐ力ではない。この益を除くと、普段の純利益は140億円前後と見る。
事業の足を引くのは数量である。人口減と学校給食の対象者の減少で、牛乳類は年1%ずつ細る。生乳の生産も3年ぶりに前年を割った。値上げは通りやすいが、乳価の上昇が先に来るので、利益率は上がりにくい。
一方で、会社は変わり始めている。2030年度に営業利益350億円前後を掲げ、工場の集約と政策保有株の売却を進める。全農が15%を持つ安定株主で、PBRは1倍を割っている。再編が効く姿は楽観に置き、中立には半分だけ織り込んだ。
資本の使い方は評価できる。売却で得た資金を、配当の下限と自社株買いで戻す方針だ。ただ、積み上がった自己資本が稼ぐ力に見合わず、ROEは資本コストの7.5%に届かない。この食い違いが、割高とした理由の中心である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「守りは厚いが、稼ぎが薄い」と評価する。
守りの面では評価できる。財務は軽く、純有利子負債は自己資本の0.12倍だ。株主は安定していて、事業が突然傾く恐れは小さい。
問題は、持ち続けて増える価値の小ささだ。営業利益率が3%前後では、売上が伸びても利益はほとんど残らない。ためた利益も、ROEが資本コストを下回るので、積み上げた分だけの価値にならない。
オーナーとして気にするのは、経営が資本をどう使うかだ。売却益を戻す方向に動いたのは正しい。ただ、積み上がった自己資本に見合う稼ぎを作る道筋は、まだ工場の集約という計画の段階にある。
安全域は、今の値段にはほとんどない。純利益が売却益で膨らんだ分だけ、割安に見えている。事業の稼ぐ力から見れば、本質価値は今の時価総額をやや下回る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、生乳を加工して売ることだ。事業は大きく3つに分かれる。
乳製品は売上の約44%を占める。バター、チーズ、マーガリン、粉乳が中心で、北海道バターや6Pチーズ、ネオソフトなどの定番を持つ。営業利益率は4%弱と、会社の中では高い。
飲料・デザート類は約42%を占める。牛乳、乳飲料、ヨーグルト、デザートで、毎日骨太や恵 megumi などが主力だ。冷蔵で運ぶので、工場と配送の固定費が重い。営業利益率は1〜2%しかなく、全社の利益を薄くしている。
飼料・種苗は約8%で、牛用の配合飼料と牧草・野菜の種を扱う。酪農家に近い事業で、利益はごく小さい。その他には共同配送センターなど物流の事業があり、利益率は意外に高い。
生乳の多くは農協系の団体を通して買う。つまり、仕入れ値は酪農家の事情で決まり、売値は量販店との交渉で決まる。この挟まれた構造が、薄利の根にある。
販売先は量販店とコンビニが中心で、宅配や自社の店はほとんどない。家庭用と業務用(給食・外食・製菓のメーカー向け)の両方に売る。業務用は数量が大きいが、値決めは買い手が握る。
優良さと弱いところ
この会社の質は、堅いが強くはない。堀、つまり他社がまねできない強みは、あまり厚くない。
強みは2つある。1つは、バターとチーズの国内での存在感だ。北海道の酪農家と長く結びついた調達網は、簡単には作れない。もう1つは、全農・農林中金という農協系の大株主で、事業の存続に不安がないことだ。
弱みは値決めの力だ。乳価は酪農家との話し合いで上がり、売値は小売りの交渉で決まる。ブランドで値を決められる商品は一部のチーズやヨーグルトに限られる。プライベートブランドとの競争も続く。
資本の効率も低い。過去10年のROEの中央値は7%台で、資本コストに届かない年が多い。営業利益率は2%台から3%台で、景気の山でも伸びなかった。
経営は誠実だが、動きは遅かった。過去の不祥事から立ち直ったあと、守りの経営が長かった。ここ数年でようやく工場の集約や株の売却、自社株買いへ動いた。この変化の速さが、今後の評価を分けると筆者は見ている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の乳業は、需要が縮み、供給も縮む二重の問題を抱えている。
需要の側では、人口減と給食対象者の減少で飲用牛乳が年1%前後ずつ減る。若い世代は牛乳を飲まない。代わりにチーズ、ヨーグルト、高たんぱくの乳飲料が伸びる。
供給の側では、酪農家の離農が止まらない。2026年度の全国の生乳生産は731万トン前後で、3年ぶりの減産になる見通しだ。ただし、今はバターと脱脂粉乳の在庫が前年より2割多く、需給は緩い。値上げが一方的に通る局面ではない。
競争の相手は、明治、森永乳業、そしてダノンなど海外勢だ。雪印メグミルクは、チーズとバターで強く、ヨーグルトでは明治に及ばない。同じ領域のヤクルトとは事業が違い、海外の成長に頼れない点が弱みになる。
構造の変化では、工場の集約が最大の論点だ。川越工場の終了や、会社が掲げる国内製造拠点の2〜3割の協業・再編は、同業との連携まで含む。うまく進めば固定費が下がり、利益率が上がる余地が生まれる。
海外は、東南アジア向けの輸出や現地販売にとどまる。香港からも撤退した。海外の成長で国内の縮小を補う道は、現時点では細い。
資本政策と M&A
資本政策は、守りから攻めに切り替わった段階にある。
2026年3月期に、政策保有株の売却益として約245億円を見込んだ。この資金で、2025年度に上限200億円、2026年度に上限100億円の自社株買いを決めた。配当は、売却益を除く配当性向40%以上に加え、下限を設けた。
政策保有株は、まだ投資有価証券として約350億円が残る。売却が続けば、さらに利益と戻せる資金が生まれる。工場用地の売却益も大きい。旧横浜チーズ工場は、帳簿52億円のところ135億円で売れた。
買収は少ない。海外では香港から撤退した。大型の買収で価値を壊す心配は小さいが、成長を買う動きもない。
再編や買収される側になる可能性は、無視できない。全農が15%、農林中金が7%を持つので、敵対的な買収は考えにくい。ただ、同業との工場の協業や統合は、同じ農協系の調達網を持つ会社どうしで進みやすい。
10年の還元は、売却益を除く配当性向40%以上の配当と、政策保有株の売却益から出す自社株買い(合計300億円)に、残る保有株の売却分を足した形で置いた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
再編が効けば、この会社の利益は10年で大きく変わる。会社の目標は、営業利益350億円前後だ。今の約1.9倍になる。
根拠は3つある。1つ目は工場の集約だ。川越工場の終了、興部工場の終了、神戸の集約が進めば、固定費が確実に下がる。2つ目は構成の転換だ。利益率の高いチーズや機能性のある商品が増え、薄利の牛乳類が減る。3つ目は値上げの定着だ。物価3%の世界で、乳製品の値上げは当たり前になる。
さらに、PBRは1倍を割っている。会社は株価の改善を公約し、政策保有株の売却と自社株買いを続ける。売却益と工場用地の含み益を戻せば、ROEは資本コストに近づく。全農という安定した大株主がいるので、再編を腰を据えて進められる。
この道筋が10年続けば、営業利益率は4〜5%に上がり、ROEは9%近くになる。倍率も上がり、今の値段は安く見える。含み益のある土地と有価証券の売却も、これから大きく積み上がる。会社の目標が全部実現すれば、10年後の純利益は今の普段の水準の1.7倍近くになる。
慎重な見方
利益率が3%のまま10年過ぎる、というのが最も自然な姿だ。過去10年、営業利益率は3.2%を超えたことがない。会社の計画はこれまでも何度か未達に終わった。
数量は確実に細る。人口減、給食対象者の減少、若い世代の牛乳離れが重なる。生乳の生産も減るので、仕入れの量も確保しにくくなる。乳価は上がり続け、売値への転嫁は小売りとの交渉で遅れる。
工場の集約にも限界がある。集約には100億円規模の投資が要り、効果が出るのは2028年度以降だ。投資の回収は長く、その間に競合のPBが攻める。
さらに、2026年3月期の利益は売却益で膨らんだものだ。売却益は何度も続けられない。事業の稼ぐ力は、利益140億円前後に過ぎない。自己資本の厚さは、稼ぐ力を上げない。ROEが資本コストに届かないまま、倍率は伸びない。農協系の調達網に縛られ、同業との統合も簡単には進まない。再編が完成しても、利益率が4%を超える保証はない。同じ乳業大手の森永乳業や明治も、この領域では高い利益率を安定して出せていない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方の方が強いと見て、確率を悲観側に寄せた。理由は、利益率が10年間動かなかったという事実が重いからだ。再編の効果は、会社の目標のうち半分が実現すると中立に織り込んだ。
ただし、全部が失敗する悲観の確率は高くしすぎない。農協系の安定株主、軽い財務、売却できる資産が下値を支える。楽観は、目標の全部が実現する姿で、8%に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,428 円2,041 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,281 円1,358 億円)。 今の値に割り戻すと 3,252 円1,936 億円、今との差 −8.9%、 期待の年率 +4.8%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 5,905 円3,516 億円 | 3,191 円1,900 億円 | +154.8% | +9.8% | 728 円433 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,643 円2,765 億円 | 2,855 円1,700 億円 | +110.0% | +7.7% | 1,500 円893 億円 |
| 中立 | 36% | 4,102 円2,443 億円 | 2,519 円1,500 億円 | +85.5% | +6.4% | 2,384 円1,419 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,954 円1,163 億円 | 1,847 円1,100 億円 | +6.5% | +0.6% | 836 円498 億円 |
| 悲観 | 14% | 862 円513 億円 | 1,008 円600 億円 | −47.6% | −6.3% | 262 円156 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,428 円2,041 億円 | 2,281 円1,358 億円 | +59.9% | +4.8% | 5,709 円3,399 億円 |
今の株価時価総額 3,570 円2,126 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 再編が計画どおり効き、利益率が4%台に乗る 利益 234 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 5,905 円3,516 億円
工場の集約と構成の転換が計画どおり進む。川越・興部・神戸の集約で固定費が下がり、チーズなど利益率の高い商品が全体を引き上げる。乳価の上昇も売値に通る。
営業利益は、会社が掲げる350億円前後に近づく。利益率は4%台に上がる。政策保有株や遊休地の売却は続き、売却資金は自社株買いと配当に回る。
ROEは9%近くに上がり、事業の質は評価される。最もよい姿だが、10年の間に物事が重なって進む必要がある。国内の牛乳は縮み続けるので、数量の減りを構成の転換で上回れるかが鍵になる。この筋書きでは、会社の目標が最後まで崩れない。
- 乳製品(バター・チーズ・マーガリン・粉乳):数量 82.5(推定出荷量(万トン、製品の重さ))× 価格 44(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 3,595 億円・営業利益 187 億円。チーズ増・集約で利益率上昇
- 飲料・デザート類(牛乳・ヨーグルト・デザート):数量 147(推定出荷量(万トン))× 価格 22(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 3,258 億円・営業利益 91 億円。固定費減・高付加価値化
- 飼料・種苗:数量 60.0(推定の飼料等の販売量(万トン))× 価格 11(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 646 億円・営業利益 16 億円。酪農の再編に対応
- その他(物流・受託など):数量 100(推定の物流等の取扱量(万トン))× 価格 5.41(1トンあたりの手数料・運賃(万円、名目))→ 売上 541 億円・営業利益 49 億円。物流の受託増
倍率:事業の純利益 234 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.64 倍、時価総額 3,426 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の目標がほぼ全部実現する必要がある。過去10年の利益率の動きから、低めの確率を置いた。
やや楽観 20% 国内の縮小を、構成の転換と値上げで補う 利益 199 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 4,643 円2,765 億円
工場の集約は進むが、効果は目標の半分ほどにとどまる。チーズとヨーグルトの高付加価値品で、牛乳の減りを埋める。
営業利益は290億円前後に増え、利益率は4%近くに上がる。売却益は期待ほど続かないが、配当の下限と自社株買いで株主に戻す。
ROEは資本コストを少し上回る。事業の質は良くも悪くもなく、倍率は資本コストの逆数に近い水準になる。国内の縮小は止まらないが、値上げと構成の転換がそれをほぼ打ち消す。飼料・種苗と物流は小さく、全体の動きは乳製品と飲料・デザート類で決まる。会社の営業利益の目標は、2030年度の350億円に届かない。
- 乳製品(バター・チーズ・マーガリン・粉乳):数量 80.8(推定出荷量(万トン、製品の重さ))× 価格 43(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 3,470 億円・営業利益 167 億円。高付加価値品が下支え
- 飲料・デザート類(牛乳・ヨーグルト・デザート):数量 144(推定出荷量(万トン))× 価格 22(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 3,139 億円・営業利益 72 億円。集約の効果が出る
- 飼料・種苗:数量 58.2(推定の飼料等の販売量(万トン))× 価格 11(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 622 億円・営業利益 12 億円。小さく維持
- その他(物流・受託など):数量 99.0(推定の物流等の取扱量(万トン))× 価格 5.25(1トンあたりの手数料・運賃(万円、名目))→ 売上 520 億円・営業利益 43 億円。ほぼ横ばい
倍率:事業の純利益 199 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.41 倍、時価総額 2,669 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再編が半分実現する姿。会社の計画と過去の実績の中間として、やや高い確率を置いた。
中立 36% 利益率は3%台にとどまり、売上は物価で伸びる 利益 176 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 4,102 円2,443 億円
国内の数量は緩やかに細り、値上げがそれを補う。売上は物価並みに伸びるが、利益率は3%台前半にとどまる。
工場の集約は進むが、浮いた費用は乳価の上昇と物流費の上昇に食われる。営業利益は260億円前後になる。
売却益に頼る年は減り、純利益は170億円台で安定する。配当と自社株買いは続き、ROEは6〜7%にとどまる。堅く、つまらない会社が10年続く。人口減の逆風と、値上げの追い風が、ほぼ釣り合う姿だ。政策保有株の売却は少しずつ続くが、利益に数える大きさにはならない。会社が掲げる調整後ROEの9%は、10年たっても届かない。
- 乳製品(バター・チーズ・マーガリン・粉乳):数量 79.0(推定出荷量(万トン、製品の重さ))× 価格 43(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 3,368 億円・営業利益 148 億円。成熟・値上げで維持
- 飲料・デザート類(牛乳・ヨーグルト・デザート):数量 141(推定出荷量(万トン))× 価格 22(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 3,069 億円・営業利益 61 億円。数量減と固定費
- 飼料・種苗:数量 57.0(推定の飼料等の販売量(万トン))× 価格 11(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 609 億円・営業利益 11 億円。酪農家の減少
- その他(物流・受託など):数量 98.0(推定の物流等の取扱量(万トン))× 価格 5.25(1トンあたりの手数料・運賃(万円、名目))→ 売上 514 億円・営業利益 41 億円。横ばい
倍率:事業の純利益 176 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 2,346 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去10年の利益率が動かなかった事実と、再編の半分程度の効果を重ねた、いちばんありうる姿として最大の確率を置いた。
やや悲観 22% 乳価の上昇を売値に転嫁できず、利益率が2%台に落ちる 利益 105 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,954 円1,163 億円
生乳の生産が減り、乳価が上がり続ける。売値への転嫁は小売りとの交渉で遅れ、プライベートブランドに棚を奪われる。
飲料・デザート類は数量の減りで固定費が重くなり、利益率は1%まで下がる。乳製品も、競合の値下げで利益が削られる。営業利益は160億円前後に下がる。
工場の集約は進むが、集約の投資の回収が遅れる。ROEは4%前後で、資本コストを大きく下回る。株主への還元は続けるが、積み上がった自己資本の利回りは低いままだ。政策保有株の売却は続き、配当は下限を守る。だが事業の稼ぎが細るので、自社株買いの規模は縮み、株主への戻し方は抑えめになる。
- 乳製品(バター・チーズ・マーガリン・粉乳):数量 74.8(推定出荷量(万トン、製品の重さ))× 価格 41(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 3,071 億円・営業利益 98 億円。転嫁が遅れる
- 飲料・デザート類(牛乳・ヨーグルト・デザート):数量 131(推定出荷量(万トン))× 価格 21(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 2,733 億円・営業利益 27 億円。固定費が重い
- 飼料・種苗:数量 54.0(推定の飼料等の販売量(万トン))× 価格 9.90(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 535 億円・営業利益 5 億円。酪農家の減少
- その他(物流・受託など):数量 95.0(推定の物流等の取扱量(万トン))× 価格 4.90(1トンあたりの手数料・運賃(万円、名目))→ 売上 466 億円・営業利益 30 億円。受託が減る
倍率:ROE4.0%がk7.5%以下なのでPERの上限は13.3倍。この筋書きの稼ぐ力(純利益÷k)に対し、約75%(10.0倍)。国内の縮小と乳価の上昇が続く構造。
確率:生乳の不足が続き、再編の効果が出にくい姿。利益率が10年間動かなかった事実を重く見て、やや高い確率を置いた。
悲観 14% 生乳の不足と乳価の上昇で、乳業の採算が崩れる 利益 40 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 862 円513 億円
酪農家の離農が止まらず、生乳の調達が難しくなる。乳価は上がり続けるが、売値は小売りとの交渉で上げられない。
飲料・デザート類は赤字に近づき、乳製品も利益率が2%を割る。営業利益は60億円前後まで落ちる。工場の集約の効果は、乳価の上昇に飲み込まれる。
再編の投資は回収できず、減損が出る。自己資本は減るが、配当は維持される。事業の質は低下し、優良な会社ではなくなる。配当は、有価証券や遊休地の売却でまかなう。全農と農林中金が支える安定株主の構図は残るので、倒産のような事態にはならない。ただし、事業の稼ぐ力は低いまま、株価は純資産を大きく割り込む。
- 乳製品(バター・チーズ・マーガリン・粉乳):数量 68.0(推定出荷量(万トン、製品の重さ))× 価格 39(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 2,620 億円・営業利益 47 億円。利益率が2%割れ
- 飲料・デザート類(牛乳・ヨーグルト・デザート):数量 115(推定出荷量(万トン))× 価格 20(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 2,249 億円・営業利益 7 億円。ほぼ利益なし
- 飼料・種苗:数量 51.0(推定の飼料等の販売量(万トン))× 価格 9.18(1トンあたりの平均単価(万円、名目))→ 売上 468 億円・営業利益 0 億円。赤字すれすれ
- その他(物流・受託など):数量 90.0(推定の物流等の取扱量(万トン))× 価格 4.51(1トンあたりの手数料・運賃(万円、名目))→ 売上 406 億円・営業利益 16 億円。受託が縮む
倍率:ROE2%前後でk7.5%を大きく下回る。この筋書きの稼ぐ力(純利益÷k)の約75%(10.0倍)。減損で自己資本が減る。売れる投資有価証券と遊休地の税後は、借金を引くと稼ぐ力の価値より小さい。
確率:酪農の離農が止まらず、乳価の上昇を転嫁できない構造的な負け。農協系の安定株主と軽い財務が下値を支えるので、確率は14%にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
乳製品(バター・チーズ・マーガリン・粉乳)
バター・チーズ・マーガリン・粉乳を作る事業。国内のバター・チーズで存在感が大きい。
| 数量推定出荷量(万トン、製品の重さ) | 価格1トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 85.0 | 32 | 2,684 | 105 |
| 10 年後 中立 | 79.0 | 43 | 3,368 | 148 |
取り方:セグメント売上2,684億円と営業利益105億円は開示。数量は開示が無いので、製品の重さを85万トンと推定し、売上で割って単価を出した。10年の中立は数量0.93倍(国内の需要減を、チーズなどの構成転換で一部補う)、価格1.35倍(物価並み)。
飲料・デザート類(牛乳・ヨーグルト・デザート)
牛乳、乳飲料、ヨーグルト、デザートを作る事業。冷蔵の配送の固定費が重い。
| 数量推定出荷量(万トン) | 価格1トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 160 | 16 | 2,603 | 39 |
| 10 年後 中立 | 141 | 22 | 3,069 | 61 |
取り方:セグメント売上2,603億円と営業利益39億円は開示。数量は推定160万トン。10年の中立は数量0.88倍(人口減と給食対象者の減少で年1.2%ほど減る)、価格1.34倍(物価並み)。
飼料・種苗
牛用の配合飼料と牧草・野菜の種を扱う事業。酪農家に近く、利益は小さい。
| 数量推定の飼料等の販売量(万トン) | 価格1トンあたりの平均単価(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 7.98 | 479 | 7 |
| 10 年後 中立 | 57.0 | 11 | 609 | 11 |
取り方:セグメント売上479億円と営業利益7億円は開示。数量は推定60万トン。酪農家の数が減るので、10年の中立は数量0.95倍、価格は物価並みの1.34倍。
その他(物流・受託など)
共同配送センターなど、物流を中心にした事業。
| 数量推定の物流等の取扱量(万トン) | 価格1トンあたりの手数料・運賃(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 3.92 | 392 | 33 |
| 10 年後 中立 | 98.0 | 5.25 | 514 | 41 |
取り方:売上約392億円・営業利益約33億円は第三者サイトの集計による推定(有報の原本は未確認)。取扱量は推定100万トン。中立は数量0.98倍、価格は物価並みの1.34倍。
リスクと懸念
国内の牛乳類の数量が構造的に縮む
人口減と給食対象者の減少で、飲用牛乳は年1%前後ずつ細る。若い世代の牛乳離れも続く。チーズやヨーグルトで補う戦略には限りがあり、飲料・デザート類の固定費の重さが利益を直接削る。数量の減りが想定を上回れば、利益率が1%台に落ちる。
乳価の上昇を売値に転嫁できない
生乳は農協系の団体を通して買い、乳価は酪農家の事情で上がる。売値は量販店との交渉で決まり、転嫁は遅れる。バターと脱脂粉乳の在庫が積み上がる今は、値上げ余地が小さい。プライベートブランドとの競争もあり、利益が仕入れ高に先に削られる。
工場の集約の効果が出ない
川越工場の終了など、集約には109億円規模の投資が要る。効果が出るのは2028年度以降で、10年の間に乳価と物流費が先に上がれば、浮いた費用が食われる。国内製造拠点の2〜3割の協業・再編という目標は、同業との調整が難航すれば進まない。
売却益に頼った利益の見え方
2026年3月期の純利益は、政策保有株の売却益で大きく膨らんだ。売却益は繰り返せない。今後の決算で、事業の稼ぐ力と一度きりの益が混ざって見える点に注意が要る。株価が見かけの利益に反応して動く恐れもある。
大株主の農協系との距離
全農が15%、農林中金が7%を持つ。安定株主だが、調達と販売の両方で農協系と結びつくので、経営が自由に動きにくい面もある。乳価の交渉でも、大株主と取引先が重なる。資本効率を高める施策が、農協側の事情で遅れる恐れがある。
食の安全への信頼
過去に集団食中毒や牛肉偽装という不祥事があり、食の安全の事故は経営に直接響く。再び大きな事故が起きれば、ブランドと売上が短期間で傷む。今は管理が厳しくなり、事故の頻度は下がっているが、ゼロにはならない。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益が会社予想の210億円を大きく割ったら
- 再編の効果が出ていないか、乳価の上昇が転嫁できていない。筋書きをやや悲観側に引き上げ、利益率が3%を超えない前提を強める。
- 飲料・デザート類の営業利益率が2%を超えて定着したら
- 固定費の削減と構成の転換が効いている。確率を楽観側に寄せ、10年の利益率を4%台まで見直す。
- 国内製造拠点の協業・統合が同業と正式に決まったら
- 固定費の削減が一段進み、会社の目標の営業利益350億円前後に現実味が出る。中立の利益を上方に見直す。
- 政策保有株の売却と自社株買いが、今の水準を超えて続いたら
- 資本効率の改善が進み、ROEが資本コストに近づく。倍率の上限が上がり、本質価値を見直す。
- バターと脱脂粉乳の在庫が減り、需給が引き締まったら
- 値上げが通りやすくなり、乳製品の利益率が上がる。ただし乳価も上がるので、利益の増え方は慎重に見る。
見ておくもの
- 乳製品・飲料デザート類それぞれの営業利益率
- 調整後ROE(会社の2030年度目標は9%)の進み方
- 川越工場の集約と、国内製造拠点の協業・再編の発表
- 政策保有株の残高(投資有価証券)と自社株買いの実施額
- 生乳の生産量とバター・脱脂粉乳の在庫
倍率と資本コストの決め方
倍率は、2036年の時点の利益に、資本コスト7.5%と長期の名目成長4%から出した利益ベースの正当化PERを使って決めた。中立はROEが6〜7%とk以下になるため、PERの上限は1÷k=13.3倍で、その約8割に置いた。今のPERやPBRは参照していない。2026年3月期の純利益は売却益で膨らんでいるので、普段の純利益140億円前後を出発点にして積み上げた。10年の自己資本は今の自己資本に純利益の合計を足し、還元を引いて流した。悲観側は稼ぐ力の約75%に置いた。リース会計の変更(2028年3月期)後は数字の形が変わるが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.6→14.64 倍・やや楽観 PER 11.5→13.41 倍・中立 PER 10.7→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityを足して決めた。事業は傾いておらず、上乗せは置かない。