結論
森永乳業は、牛乳・ヨーグルト・アイスを売る国内大手の乳業で、売上の約1割を海外の素材事業が占める。筆者の結論は「やや割高」だ。10年先を見ても、利益が今の値段に見合うほど伸びにくいからである。
稼ぎの大半は国内の食品で、利益率は5%に届かない。牛乳そのものは人口減で細り、生乳の調達にも制約がある。ここを値上げと高付加価値品で守る戦いが続く。
一方、海外は様子が違う。ビフィズス菌を粉にした「菌体」を育児用ミルクやサプリの会社に売る事業と、ドイツの乳素材会社MILEIが、全社の営業利益の3分の1を稼ぐまでになった。会社は2029年3月期に営業利益440億円を目標に置く。筆者は、この目標の達成を中立とはせず、少し手前で止まると見る。
安全域の面でも物足りない。自己資本比率は5割あるが、純負債は残っており、現金が余っているわけではない。事業は10年後も残る。だが、堀、つまり他社がまねできない強みは、ビヒダスのブランドと菌体の技術にとどまる。値段が先に回復を織り込んでいる分が、割高の主因だ。
分かれ目は二つある。国内で値上げを通し続けられるか。海外の新しい拠点が、過去の減損のような失敗を繰り返さずに育つか。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、「わかる事業だが、安く買えない会社」だ。
牛乳もヨーグルトも、10年先に消えない。需要の予測はしやすい。その点は評価できる。ただし、予測しやすいことと、よく儲かることは別の話である。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、国内では乏しい。工場の更新と物流の費用に、稼ぎの多くが回る。海外の菌体やMILEIは稼ぎが厚いが、規模はまだ小さい。
経営者への評価は慎重だ。採算を重く見る方針は良い。ただ、海外の減損が約200億円出たことは、資本配分の腕を証明し切れていない事実として残る。
安全域は薄い。値段に回復が先に織り込まれ、10年の中立でも今の値段を割り込む。悲観の筋書きでは、国内の薄い利益が崩れ、海外の新拠点も育たない。そのとき株主が頼れるのは、工場などの簿価の半分程度だと筆者は見る。
結論として、この会社は「持ち続けたい」と言えるほど強くない。値段が今より2〜3割下がれば、見方が変わる。
何で稼ぐ会社か
事業は、国内の乳業と、海外の素材・育児用ミルクの二本立てである。
国内は売上の約85%。牛乳、ヨーグルト「ビヒダス」、アイス、コーヒー飲料「マウントレーニア」、チーズ、業務用の乳製品、介護・医療向けの栄養食(クリニコ)を持つ。会社はこれを「成長領域(ヨーグルト・アイス)」「中核領域」「乳業基盤領域」に分け、成長領域に資源を寄せている。成長領域の利益率は1割を超えるが、牛乳やチーズなどの基幹分野は4%程度にとどまる。
海外は、売上は小さいが利益率が高い。ドイツのMILEIは、ホエイ(乳清)やラクトースなどの乳素材を作って売る。ビフィズス菌の「菌体」は、世界の育児用ミルクやサプリの会社に素材として売る。自社ブランドの育児用ミルクはパキスタンやベトナムなどで伸ばしている。米国の植物性食品の会社PBFは、再建中の位置づけである。
売上の大きさに比べ、利益の源は偏っている。国内の大きな売上が薄い利益を生み、海外の小さな売上が厚い利益を生む構図だ。この比率が10年でどこまで変わるかが、筆者の見立ての中心になる。
優良さと弱いところ
優良さは「中の上」と筆者は見る。ブランドと素材の技術は本物だが、利益率の低さと資本効率の弱さが、一流の事業という評価を許さない。
強みの一つ目は、ビフィズス菌だ。森永乳業は菌の研究で長い蓄積を持ち、BB536などの菌株を世界の食品会社に素材として売っている。ビフィズス菌の価値を消費者に伝える「ビヒダス」のブランドと、素材の販売が同じ技術から生まれる点は、他社が簡単にはまねできない。
二つ目は、国内の寡占に近い市場にいることだ。明治、雪印メグミルクと並ぶ大手三社の一角で、小売店の棚と低温の物流網を持つ。新規参入は難しい。
弱みは、その市場が縮むことと、値段の決め方にある。生乳の値段は酪農家と乳業の交渉で決まり、乳業は原料の値上がりを製品の値上げで取り返す立場だ。値上げは小売の力に押されやすく、プライベートブランドとも競う。国内食品の利益率が5%を超えにくいのは、この構造のためである。
資本の使い方にも注文がある。2025年3月期に、パキスタン・米国・ベトナムの子会社で約200億円の減損を出した。海外への投資が全部当たるわけではない。
それでも、利益率は10年前の1%台から6%まで上がった。経営が採算を重く見る方向に動いているのは確かで、筆者はこの点を評価する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の乳製品市場は、量が細る成熟市場である。牛乳の数量は年に1〜2%減り続け、学校給食の対象人口の減少と酪農家の廃業が重なる。業種全体では、10年で国内の生乳需要は1割ほど縮むと見る。
売上を守る手段は二つしかない。値上げと、付加価値の高い品への組み替えだ。森永乳業は、チーズ・ヨーグルト・アイス・コーヒー飲料に軸足を寄せ、会社方針では「メリハリ」と呼ぶ。2025年3月期は、値上げの効果が約90億円あった一方、原料価格とオペレーションの費用が約110億円の重しになり、数量の効果もマイナスだった。値上げが利益を支える構図が、この数字によく出ている。
競争の形は、明治・雪印メグミルクとの国内三強に、プライベートブランドが加わる。ヨーグルトはビフィズス菌の機能を前面に出す競争で、明治の「ブルガリアヨーグルト」が強く、ビヒダスはそれを追う立場だ。節約志向が強まると、売り場は安い品に流れやすい。
海外は、事情が異なる。育児用ミルクは、アジアで出生数が多く所得も上がる国を中心に、世界でまだ伸びている。ホエイの国際価格は2026年に入って上がり、MILEIの利益を押し上げている。これは市況の山でもあり、永く続く前提には置かない。
10年を見れば、国内は数量が1割弱減り、価格は物価並みに上がる。海外は数量が6割ほど増える。この組み合わせで、全社の売上は年に3%強、営業利益は年に4%ほど伸びるというのが、中立の姿だ。
資本政策と M&A
資本の使い方は、悪くないが、強いとも言えない。
還元は、配当性向40%を目標に置き、2026年3月期には自社株買いの枠として100億円を予定した。2026年7月には1株を4株に分ける株式分割も実施した。
資産の入れ替えも進めている。2024年3月期に東京工場の跡地を売却して大きな利益を得た。2025年3月期には保有していた株式の売却益も出した。ためこんだ資産を現金に変えて、成長領域に回す方向だ。
M&Aは、これまでに好不調が混じる。ドイツのMILEIは利益の柱に育ったが、パキスタン・米国・ベトナムでは減損を出した。海外で買って育てる力は、まだ証明の途中である。
買収される側になる可能性は、筆者は低いと見る。生乳の調達網と国内の工場網は、他社が一括で買い取っても使いにくいからだ。むしろ、国内の再編(工場の統合や他社との協業)に自社が動く場面のほうが現実的である。
株主優待は、200株以上で1.5千円相当、1,000株以上で6千円相当の自社商品(寄付も選択可)。会社は優待の費用を開示していないため、200株以上の約1.5万人(自社商品の原価と送料)から年3億円と推定した。優待は株主が受け取る現物の還元なので、10年の還元に年額×10年を、中立1.0・やや悲観0.75・悲観0.5の係数で足した(費用は販管費として利益から引き済みで、自己資本の流れには入れない)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内では、ビヒダスのビフィズス菌ブランドが、節約志向の中でも指名買いされる。ヨーグルトとアイスの成長領域で、数量を落とさず高付加価値品へ組み替えが進む。牛乳の縮小は、チーズとコーヒー飲料で補える。値上げは原料高を超えて通り、国内の利益率が6%近くまで上がる。
海外は、さらに強い。菌体は、アジアの出生数と所得の伸びに乗って、育児用ミルクとサプリの両方で二桁の増収が10年続く。中国の育児用ミルク向けの出荷も始まり、市場が一段広がる。MILEIは、世界のタンパク質需要でホエイが高値を保ち、利益の柱になり続ける。パキスタンの育児用ミルクは現地製造で育ち、赤字拠点の再建も実る。
経営の面でも、採算を重く見る方針が定着し、会社が掲げる営業利益440億円の目標を大きく上回る。利益率の高い海外の比率が上がり、全社の資本効率が上がる。
この姿が実現すれば、会社は「国内の薄利の乳業」から「素材と機能性で稼ぐ会社」に変わる。倍率も、その変化に見合う水準に上がる。
慎重な見方
国内の利益率が、構造的に上がらない。生乳の生産基盤が縮み、原料の調達費は構造的に高止まりする。値上げのたびに、小売が仕入れ値の交渉で押し返し、プライベートブランドに棚を奪われる。節約志向が続けば、ビヒダスのような機能性ヨーグルトも売れ行きが鈍る。実際、2025年3月期のヨーグルトは増収でも、新商品の販売が足りず利益への貢献が限られた。
海外の利益も、見かけほど堅くない。MILEIの好調は、ホエイの国際価格が高い時期の追い風にすぎず、市況が戻れば利益は元に落ちる。菌体は、中国の素材メーカーが追い上げれば値段が崩れる。パキスタン・ベトナム・米国では、2025年3月期に約200億円の減損を出した。この失敗が、まだ終わっていない可能性がある。
さらに、会社の数値目標への信頼も揺らぐ。営業利益440億円の目標は、国内で値上げが通ることと、海外で新拠点が育つことの両方が前提だ。片方でも崩れれば、利益は目標に届かない。
稼ぎが伸びない会社に、10年で成長の倍率を付ける理由はない。株価は、利益が伸びる姿を先に織り込んでおり、その分が割高だ。
どちらに重みを置いたか
強いのは慎重な見方だ。国内の利益率の低さは、10年の構造の問題で、値上げ以外に手段が見当たらない。強気の見方が頼る海外は、まだ利益の3分の1で、国内の重しを帳消しにするには足りない。
ただし、全面的に悲観するほどではない。ビフィズス菌という技術の核があり、赤字拠点の再建も一部で進んでいる。このため、確率は中立に最も厚く置き、悲観側にやや寄せた。悲観の確率は、大きな減損の前例があることから、同業と同じ水準を確保した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,368 円4,416 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 434 円1,401 億円)。 今の値に割り戻すと 985 円3,180 億円、今との差 −5.3%、 期待の年率 +5.7%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 2,494 円8,052 億円 | 598 円1,930 億円 | +197.3% | +11.5% | 309 円998 億円 |
| やや楽観 | 22% | 1,972 円6,365 億円 | 536 円1,730 億円 | +141.1% | +9.2% | 552 円1,781 億円 |
| 中立 | 34% | 1,539 円4,967 億円 | 458 円1,480 億円 | +92.1% | +6.7% | 679 円2,192 億円 |
| やや悲観 | 20% | 686 円2,215 億円 | 348 円1,123 億円 | −0.6% | −0.1% | 207 円668 億円 |
| 悲観 | 14% | 173 円558 億円 | 222 円715 億円 | −62.1% | −9.2% | 55 円178 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,368 円4,416 億円 | 434 円1,401 億円 | +73.3% | +5.7% | 1,802 円5,817 億円 |
今の株価時価総額 1,040 円3,357 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 10% 菌体と海外が国内の重さを上回る 利益 488 億円 · PER 16.5 倍 · 株価時価総額 2,494 円8,052 億円
ビヒダスの指名買いが続き、国内の利益率は6%近くまで上がる。海外は、菌体が育児用ミルクとサプリの両方で二桁の増収を保ち、中国向けも広がる。MILEIはホエイの高値で稼ぎ続け、パキスタンも現地製造で育つ。
会社が掲げる営業利益440億円の目標は、早い段階で超える。利益の厚い海外の比率が上がり、全社の資本効率も上がる。国内の薄利の乳業が、素材と機能性で稼ぐ会社に変わる姿である。
配当性向は4割を超え、自社株買いも続く。この筋書きは、海外の拠点が過去の減損のような失敗を繰り返さないことが前提になる。
筆者がこの筋書きで重く見るのは、国内の利益率の上がり方である。値上げだけでなく、アイスや飲料の工場の効率化が進み、固定費が薄まる前提が要る。そこまで進めば、国内でも利益が伸びる会社になる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年3億円×10年×1.0=30億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 国内事業(乳製品・アイス・飲料・栄養食):数量 163(推定出荷量(万トン、牛乳換算の目安))× 価格 43(1トンあたりの売上(万円、名目))→ 売上 6,951 億円・営業利益 403 億円。高付加価値品で数量を守る
- 海外事業(菌体・乳素材・育児用ミルク):数量 26.4(推定出荷量(万トン、製品の混合))× 価格 86(1トンあたりの売上(万円、名目))→ 売上 2,270 億円・営業利益 340 億円。菌体・育児用ミルクが二桁増
倍率:事業の純利益 488 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.5 倍。全体の PER 16.5 倍、時価総額 8,052 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の値上げが原料高を超えて通り、海外の菌体・乳素材も10年伸び続ける組み合わせは、実現の条件が重いため低めの確率にした。
やや楽観 22% 会社計画に近い形で海外が伸びる 利益 408 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 1,972 円6,365 億円
国内は数量が1%ほど減るが、値上げとミックスの改善で利益率は5%台に乗る。ヨーグルトとアイスの成長領域が、牛乳の縮小を補う。
海外は、菌体と育児用ミルクが伸び、売上は今の2.5倍に近づく。MILEIは市況の山が引いても、一定の稼ぎを保つ。
会社の計画にほぼ沿って進み、営業利益は10年で1.8倍になる。それでも国内の重さは残り、全社の利益率は6%台にとどまる。
この筋書きで前提になるのは、会社の計画が大きく外れないことである。国内の成長領域が伸び、海外が計画どおりに増益を続ける。大きな失敗がなければ、10年でこの水準に届く。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年3億円×10年×1.0=30億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 国内事業(乳製品・アイス・飲料・栄養食):数量 158(推定出荷量(万トン、牛乳換算の目安))× 価格 42(1トンあたりの売上(万円、名目))→ 売上 6,608 億円・営業利益 350 億円。高付加価値品が縮小を補う
- 海外事業(菌体・乳素材・育児用ミルク):数量 22.2(推定出荷量(万トン、製品の混合))× 価格 86(1トンあたりの売上(万円、名目))→ 売上 1,909 億円・営業利益 277 億円。菌体が伸び乳素材も堅調
倍率:事業の純利益 408 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍。全体の PER 15.6 倍、時価総額 6,365 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画(2029年3月期に営業利益440億円)に近い道筋が10年続く姿として、中立よりやや薄い確率を置いた。
中立 34% 国内は横ばい、海外が少しずつ伸びる 利益 340 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 1,539 円4,967 億円
国内は、数量が10年で5%減る。値上げはおおむね物価並みで、原料高の転嫁は時間差で通る。利益率は5%を割る水準にとどまる。
海外は、数量が6割増える。菌体は二桁の伸びが続き、育児用ミルクも広がるが、MILEIはホエイの高値が戻り、利益は平らになる。パキスタン・ベトナムは、赤字から抜けるが大きくは稼がない。
全社の営業利益は10年で5割ほど増え、会社計画(2029年3月期に440億円)には、少し遅れて追いつく。この間に配当と自社株買いを続け、自己資本は薄く積み上がる。ROEは8%台にとどまる。
筆者は、会社の計画が少し遅れる姿を最も現実的と見る。国内の値上げは通るが、原料と人件費の上昇もあり、利益率は大きく上がらない。海外の伸びが国内の重さを少しずつ薄めていく。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年3億円×10年×1.0=30億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 国内事業(乳製品・アイス・飲料・栄養食):数量 152(推定出荷量(万トン、牛乳換算の目安))× 価格 41(1トンあたりの売上(万円、名目))→ 売上 6,294 億円・営業利益 302 億円。成熟・値上げで維持
- 海外事業(菌体・乳素材・育児用ミルク):数量 19.2(推定出荷量(万トン、製品の混合))× 価格 86(1トンあたりの売上(万円、名目))→ 売上 1,651 億円・営業利益 223 億円。菌体伸長・市況は平準化
倍率:事業の純利益 340 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.61 倍、時価総額 4,967 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の成熟と海外の緩やかな伸びという、今の構造を10年延ばした姿で、最も厚い確率にした。会社計画には少し届かないとみる。
やや悲観 20% 国内の利益率が崩れ、海外も伸び悩む 利益 200 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 686 円2,215 億円
国内は、数量が1割以上減り、値上げは物価に届かない。小売とプライベートブランドの圧力で、利益率は3%台まで下がる。
海外は、MILEIの市況が戻り、菌体にも中国勢の競争が及ぶ。パキスタンなどの再建も遅れ、売上の伸びは1.6倍にとどまる。
営業利益は今の水準から伸びず、ROEは5%台に沈む。配当は維持できるが、自社株買いは細る。
原因は国内の構造にある。生乳の調達費の上昇に加え、物流と人件費の上昇が続き、値上げで取り返せない。会社が掲げる成長領域も、価格競争に巻き込まれて利益率が下がる。ただし事業の土台は崩れず、赤字には落ちない。優良とは言えないが、普通の食品会社として残る姿である。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年3億円×10年×0.8=22.5億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 国内事業(乳製品・アイス・飲料・栄養食):数量 141(推定出荷量(万トン、牛乳換算の目安))× 価格 40(1トンあたりの売上(万円、名目))→ 売上 5,656 億円・営業利益 187 億円。数量減と値上げ不足
- 海外事業(菌体・乳素材・育児用ミルク):数量 15.6(推定出荷量(万トン、製品の混合))× 価格 80(1トンあたりの売上(万円、名目))→ 売上 1,251 億円・営業利益 138 億円。競争と市況で利益率低下
倍率:ROE 5.2% が k 7.25% 以下なので PER の上限は 1÷k=13.3 倍(ためた利益は額面未満の価値)。稼ぐ力の約 8 割(10.5 倍)。国内の薄利が続く構造的な負けの筋書きで、7 割へ引き上げない。
確率:生乳の調達費の上昇が値上げで取り返せない、国内の成熟市場に特有の筋書きで、相応の確率を置いた。
悲観 14% 国内も海外も優良さを失う 利益 60 億円 · PER 9.3 倍 · 株価時価総額 173 円558 億円
国内は、生乳の調達費が高止まりし、小売の値引き要求が強まって、利益率は2%を割る。数量は2割減る。
海外は、ホエイの市況が崩れ、菌体は中国の素材メーカーに値段を下げさせられる。パキスタン・ベトナム・米国の拠点は再び減損を出し、自己資本が減る。
赤字に近い利益が続き、配当は純利益の範囲を超えて続けられない。事業は残るが、もう優良な食品会社ではなく、設備の価値で評価される。
この筋書きの利益率は、国内の食品としてはほとんど稼がない水準である。それでも工場と販売網は残り、買い手がつく。だから価値はゼロにはならず、設備の価値が床になる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年3億円×10年×0.5=15億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 国内事業(乳製品・アイス・飲料・栄養食):数量 128(推定出荷量(万トン、牛乳換算の目安))× 価格 39(1トンあたりの売上(万円、名目))→ 売上 4,944 億円・営業利益 89 億円。生乳高止まりと値下げ圧力
- 海外事業(菌体・乳素材・育児用ミルク):数量 12.0(推定出荷量(万トン、製品の混合))× 価格 71(1トンあたりの売上(万円、名目))→ 売上 847 億円・営業利益 42 億円。再び減損・市況悪化
倍率:ROE 2.8%で k 7.25%を大きく下回り、ためた利益は額面未満の価値。稼ぐ力(純利益 60 億円÷k ≒ 800 億円)の約 7 割(9.3 倍)に置いた。売れる資産は、保有株の税後約 160 億円と土地の簿価 522 億円(工場用地で売りにくい)を足しても純負債 912 億円に届かないので、資産の床は立てない。
確率:2025年3月期に約200億円の減損を出した前例があり、国内の構造負けと海外の失敗が重なる筋書きの確率は、同領域の明治HDと同程度の厚みに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内事業(乳製品・アイス・飲料・栄養食)
牛乳・ヨーグルト「ビヒダス」・アイス・マウントレーニア・チーズ・業務用乳製品・クリニコ。国内の乳業大手三社の一角。
| 数量推定出荷量(万トン、牛乳換算の目安) | 価格1トンあたりの売上(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 160 | 31 | 4,944 | 235 |
| 10 年後 中立 | 152 | 41 | 6,294 | 302 |
取り方:2026年3月期の売上5,714億円から、海外事業(会社計画で約730億円、実績は上振れと見て770億円)を引いた4,944億円を国内とした。営業利益は、全社345億円から海外の推定120億円と本社費等の調整△10億円を引き、235億円(利益率4.75%)。出荷量160万トンは公表が無いため生乳換算の推定で、単価はその割り算。価格は名目で物価並み(10年1.34倍)。数量は国内の縮小で中立10年0.95倍。
海外事業(菌体・乳素材・育児用ミルク)
ビフィズス菌素材(菌体)、ドイツMILEIの乳素材、パキスタン・ベトナムの育児用ミルク、米国PBF。利益率が高く、全社の営業利益の約3分の1。
| 数量推定出荷量(万トン、製品の混合) | 価格1トンあたりの売上(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.0 | 64 | 770 | 120 |
| 10 年後 中立 | 19.2 | 86 | 1,651 | 223 |
取り方:2026年3月期の海外事業は会社計画で売上726億円・営業利益113億円。実績が過去最高と報じられたため、売上770億円・利益120億円(利益率約15.6%)とみた推定。出荷量12万トンは素材と最終品の混合で、公表が無いため売上から逆算した推定値。価格は名目で物価並み(10年1.34倍)。数量は菌体・育児用ミルクの伸びで中立10年1.6倍。市場の大きさ:育児用ミルクと菌体の世界市場は成長が続くが、MILEIのホエイは市況の山を含むため、10年は平準化して置いた。
リスクと懸念
国内の値上げが通らなくなる
国内食品の利益率は5%を割る水準で、原料と物流費の上昇を値上げで取り返す余地が小さい。小売の仕入れ交渉とプライベートブランドの攻勢で、値上げが止まれば利益はすぐ削られる。節約志向が長く続く場合の、最大の下振れ要因である。
生乳の調達基盤が縮む
酪農家の廃業で生乳の生産量が減り、乳業は調達の費用が構造的に上がる。需給の逼迫で、数量を抑えざるを得ない局面もすでに出ている。国内乳業の共通の弱点で、森永乳業だけが避けることはできない。
海外拠点の再度の失敗
2025年3月期にパキスタン・米国・ベトナムの子会社で約200億円の減損を出した。パキスタンは育児用ミルクが拡大に転じ、米国は黒字になったが、再発の芽は消えていない。海外の利益を頼りにする筋書きでは、この失敗の再発が最大の傷になる。
ホエイ市況と菌体の競争
MILEIの好調は、世界のホエイ価格の上昇の追い風を含む。市況が戻れば、海外利益の一部が剥げ落ちる。菌体も、中国など新興の素材メーカーが追い上げれば、値段が下がる可能性がある。
会社計画の未達
中期計画は、2029年3月期に営業利益440億円・ROE10%を掲げる。国内の値上げと海外の拡大の両方が前提で、片方が崩れれば未達になる。計画を前提にした値段は、その時に調整を迫られる。
ヨーグルトの販売の弱さ
2025年3月期は、ビヒダスが増収でも、新商品と機能性ヨーグルトの販売が足りず、利益への貢献が限られた。機能性を売りにする戦略が、消費者の節約志向とぶつかる可能性がある。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益が会社予想の350億円を上回り、海外が計画を超えたら
- 海外の利益比率が上がる速さが想定以上で、筋書きを楽観側に寄せて見直す。
- 国内の値上げが2期続けて通らず、国内の営業利益率が4%を割ったら
- 国内の薄利の構造が深まっており、やや悲観の確率を厚くする。
- MILEIのホエイ市況が反落し、海外の営業利益が大きく減ったら
- 海外の稼ぎの一部が市況の山だったことになり、中立の海外の利益率を下げて見直す。
- パキスタン・ベトナム・米国で再び減損が出たら
- 海外投資の資本配分に問題があるとみて、悲観の確率を厚くする。
- 業界で工場の統合や再編(他社との協業)が進んだら
- 国内の固定費が下がり、国内の利益率が5%台に届く可能性が出るため、やや楽観を厚くする。
見ておくもの
- 国内食品・海外事業それぞれの営業利益率の推移
- 菌体の増収率(育児用ミルク・サプリ向け)と中国向け出荷の拡大
- MILEIのホエイ市況と営業利益
- 会社の営業利益目標(2029年3月期に440億円)への進み具合
- パキスタン・ベトナム・米国の黒字化
- 自社株買いと配当性向(目標40%)の実行
倍率と資本コストの決め方
倍率は、式(正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g))と、中立の ROE 約 8% が k をわずかに超える事業の経済性だけで置いた。ROE が k を超えるため、PER の下限 1÷k(13.3 倍)に床が決まり、結果として式の上限の 9 割台半ばになった。今の株価・PER・PBR、同業の倍率は倍率の根拠に使っていない。営業利益は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いたため、新リース会計基準で形が変わる影響は織り込んでいない。価値は、今の株価が倍でも半分でも変わらない。結果が「やや割高」になったのは、2027 年 3 月期の利益が横ばいの会社予想で、10 年の伸びが年 4% ほどにとどまるためである。 悲観は、純負債 912 億円が売れる資産(保有株の税後 約 160 億円・土地の簿価 522 億円)を上回るので資産の床を立てず、稼ぐ力の約 7 割に置いた(前は自己資本の半分を床にしていたが、根拠が弱いので直した)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.5→16.5 倍・やや楽観 PER 13.9→15.6 倍・中立 PER 13.3→14.61 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality(合計 0)を足した。事業は傾いておらず上乗せ(extra)は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 7.25%。