結論
日本ハムは、国内で最大級の食肉と加工肉の会社である。売上の7割は豚・鶏・牛の肉そのもの、残りがハム・ソーセージなどの加工品だ。筆者の結論は、今の値段はやや割高ということだ。2026年3月期の利益は過去最高だが、稼いだのは相場の追い風だった。
食肉は利益が相場で振れる。鶏肉の値上がりと世界的な豪州産牛肉の高値が、前期の食肉の利益を8割増やした。ここ10年の食肉の利益率は3.5〜6.8%の間を行き来しており、前期の5.9%は上の方だ。筆者はこれが中立で5%弱まで戻ると見る。
加工事業は、売上5,300億円に対して利益が72億円にとどまる。利益率は1%台で、「シャウエッセン」のようなブランドがあっても、原料高を値上げで取り返しきれない年が多い。ここが伸びない限り、全社の資本効率は大きくは上がらない。
一方、手を打ってはいる。製造ラインの整理、不採算の海外事業の売却、毎年数百億円規模の自社株買い。資本効率を意識する経営に変わってきた点は評価できる。北海道ボールパークも利益を出し始めた。
10年後も、中立の利益は今よりやや多い程度だ。物価と同じ速さで伸びる会社であり、資本コストを大きく超える稼ぎではない。悲観の側は、食肉相場の崩れと加工の構造的な低収益に確率を厚く置いた。結果として、本質価値は今の時価総額を2割半ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、この会社が持ち続けたい対象かは、微妙だ。稼ぎの8割強が相場商品である食肉から出ている。この利益は、10年後も同じ水準で続くと思えない。
オーナー利益、つまり再投資を引いた株主に残る利益は、純利益よりやや少ない。加工の工場は更新に費用がかかり、食肉の飼育・と畜も設備が重い。新しく投じたお金は、資本コストをわずかに上回る程度しか稼げていない。
それでも、悪い会社ではない。国内で食肉と加工の両方を全国に流せる会社は、ほかにほとんどない。バランスシートは安全域がある。純有利子負債は自己資本の3割で、利息は営業利益の13倍の余裕で払える。
経営の資本配分は、改善の途中だ。不採算の整理と自社株買いは、価値を壊さない方向の手だ。ただ、買う価格が高すぎないかは見る必要がある。時価総額が自己資本の1.06倍の時に買う自社株は、利益が相場で振れる会社にとっては割安とは言えない。
安全域は、薄い。中立の本質価値が今の値段を下回る以上、悲観の側へ振れた時に守ってくれるのは自己資本の厚みだけだ。筆者は、確信度を下げて見ている。10年で資本コストをなんとか超える程度の会社に、高い倍率は払いたくない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は食肉事業である。国内で鶏を育て、豚や牛を仕入れ、スーパーや外食、加工メーカーに卸す。豪州では牛肉を扱い、国内向けと現地販売の両方を持つ。売上は1兆円を超え、全社の利益の8割強をここが稼いだ。利益率は薄く、相場の上げ下げで大きく動く。
加工事業は、ハム・ソーセージ、ベーコン、ハンバーグ、冷凍食品、チルド惣菜を作って売る。売上は5,300億円で、利益率は1%台と低い。国内のハム・ソーセージは、日本ハムと伊藤ハム米久が上位を占める。伊藤ハム米久は市場の2割強を持つとされ、プリマハムと丸大食品が続く。
2023年には加工の製造ラインを減らし、同じ年にウルグアイの牛肉工場を売却した。不採算の整理を進めたことで、加工は赤字の年が出にくくなった。
三つ目が、ボールパーク関連などのその他事業だ。球団の本拠地を中心にした北広島の複合施設が柱で、前期の利益は54億円だった。食肉の相場とは別の動きをする事業で、全社の利益の振れをやわらげる。
この3つを合わせると、利益の構造はこうなる。食肉が大きく振れて全社を引っ張り、加工が土台を支え、ボールパークが上乗せを足す。国内では人口が減り、肉の総量は伸びない。海外の牛肉・鶏肉の取り込みと、加工の利益率改善が成長の鍵だ。
優良さと弱いところ
堀は、食肉よりも加工にある。「シャウエッセン」に代表されるブランドと、全国の量販店にいきわたる物流網は、他社にまねしにくい。ただ、そのブランドを持っていても加工の利益率は1%台だ。原料の豚肉・牛肉の値上がりを、売り値に移しきれないからだ。
食肉は堀が薄い。鶏・豚・牛は商社や他の食肉大手も扱い、相場で値が決まる。自社で鶏を育て、と畜から販売まで持つ強みはあるが、相場が崩れれば利益は一緒に崩れる。2023年3月期には、事業利益が一気に細った。
資本効率は低い。10年の自己資本利益率は3〜10%の間で、資本コストを安定して超えたことはない。バリュー投資の目で見ると、稼ぐ力のわりに資本が多すぎる会社だった。
経営は変わりつつある。製造ラインの整理、海外の不採算の売却、自社株買いの継続と、資本効率を上げる方向の手が続いている。2026年4月には前田文男氏が社長に就いた。新体制の下で次の中期計画をどう作るかが、堀の質を決める。
弱点ははっきりしている。第一に、利益の大半を食肉の相場に預けていること。第二に、加工の収益力が上がらないこと。この2つが変わらないかぎり、優良企業とは呼びにくい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
食肉の相場は、いまが高い側にある。国産の鶏肉は値が上がり、豪州産の牛肉は世界の需要増で高止まりしている。日本ハムはこの2つで前期に大きく稼いだ。相場は必ず戻る。戻った時に利益がどこまで落ちるかが、この会社の評価を決める。
国内の肉の量は、人口とともに緩やかに減る。ただ、肉の摂取は高齢でも落ちにくく、減り方は穏やかだ。外食の人手不足は、工場で下ごしらえをした肉や冷凍品に追い風になる。数量は10年で横ばいか1割減の幅に収まるだろう。
加工肉は、日本ハム、伊藤ハム米久、プリマハム、丸大食品の寡占に近い。伊藤ハム米久はハム・ソーセージで2割強のシェアを持つ。上位社が同時に値上げをするため、原料高の転嫁は進みやすい。それでも利益率は1〜3%台にとどまる。原料の豚肉・牛肉は輸入が多く、関税と為替に左右されるからだ。
即席麺や冷凍食品の会社と違い、この業界にはブランドで値段を決められる余地が小さい。「シャウエッセン」のような商品でも、量販店の特売や自社ブランド品との競争から逃れられない。
いま業界の追い風になっているのは、豪州・北米への展開である。国内は縮み、海外が伸びる構図は即席麺と似ているが、食肉は相場商品なので利益の安定度はずっと低い。
10年先の分かれ目は2つだ。ひとつは、鶏・牛の相場が戻ったあとの食肉の利益率が4%台後半を保てるか。もうひとつは、加工の利益率が2%台に乗るかだ。どちらも会社の努力だけでは決まらず、相場と原料の動きが大きく効く。
資本政策と M&A
還元は、配当の下限と自社株買いを組み合わせる方針だ。前年の自社株買いの枠は300億円だった。2026年10月には、1株を3株にする株式分割もある。資本効率を意識した還元の姿勢は、この数年で明らかに強まった。
買収の歴史は、成功と失敗が混ざる。海外では2023年にウルグアイの牛肉工場を売却した。国内では、加工の製造ラインを減らして生産の集約を進めた。大きな買収で価値を壊したというよりは、広げすぎた事業を整理する局面が続いている。
その一方で、新しい成長の種もある。十和田ビーフプラントは2024年4月に動き出し、自社で処理する比率を上げた。豪州の牛肉と北米の鶏肉加工は、海外展開の柱になっている。
ガバナンスでは、2026年4月の社長交代が節目になる。井川伸久氏は会長になり、前田文男氏が社長を引き継いだ。次の中期計画がどんな資本効率の目標を掲げるかを、筆者は注視している。
TOB(株式公開買い付け)の可能性は、大きくない。時価総額は5,700億円と大きく、食肉の相場に利益が左右される点で、買い手に嫌われやすいからだ。もし資本効率が低いままなら、物言う株主の圧力が強まる余地はある。
配当の実績は2026年3月期が性向44%で、総額は約150億円。来期の予想は約165億円になる。配当だけなら純利益の4割台、DOE3%程度を目指す方針だ。年440億円ほどに見えるのは、前年の自社株買い300億円を足した額で、買い戻しは毎年の約束ではない。10年の還元は、中立で年340億円(純利益の合計の約83%)に置いた。内訳は配当が純利益の45%前後(年190億円ほど)、残り年150億円ほどが自社株買いで、方針の配当に買い戻しを足した水準になる。
株主優待は、100株で1.5千円、500株以上で3〜5千円×年2回の優待品。年1.4億円と見込む(2026年3月末の有報(個人その他の株主 43,564 人・約14.6万単元)から受け取る約4.1万人の額面合計を約0.9億円とみて、商品の原価0.4と送料等1,000円を足し係数1.8)。優待は株主が受け取る現物の還元なので、10年の還元に年額×10年を、中立・やや楽観・楽観1.0、やや悲観0.75、悲観0.5の係数で足した(費用は販管費として利益から引き済みで、自己資本の流れには入れない)。年額は推定で、株主数の開示と優待条件から出した(2倍程度のずれはありうる)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
食肉の利益は、一時の追い風ではない。国産の鶏肉は値上げが通り、豪州産の牛肉は世界の需要増で、これからも高めに推移する。日本ハムは国産鶏の飼育から販売までを自社で持ち、豪州にも拠点がある。相場の恩恵を受ける位置に立っている。
加工は底を打った。2023年に製造ラインを減らし、不採算の商品を整理した。家庭用の冷凍食品と海外販売を強めている。利益率は1%台から2%台、うまくいけば3%に乗る余地がある。
ボールパークは新しい柱になる。球団の本拠地を軸にした北広島の施設は、食肉と別の動きをして全社の利益を安定させる。前期の利益は54億円で、来場者と周辺の開発が進めば、伸びる余地は大きい。
資本の面でも、会社は変わった。配当の下限と継続的な自社株買いで、資本効率を引き上げる姿勢を見せている。10年後に自己資本利益率が11%近くになれば、倍率は18倍台でも不自然ではない。
今期の4〜6月の事業利益も前年を2割ほど上回った。会社の今期予想は控えめで、実際の利益はそれを超えるだろう。
慎重な見方
前期の利益は、相場の追い風が作った偽の頂点である。食肉の利益率は、過去10年で3.5%から6.8%を行き来してきた。5.9%は平均を上回る。国産鶏の相場が戻り、豪州産牛肉の需要が一服すれば、食肉の利益は3割は落ちる。
加工は何年たっても儲からない。売上は5,300億円もあるのに、利益は72億円しか出ない。原料の豚肉と牛肉は輸入で、為替と関税に左右され、量販店は値上げを嫌う。構造改革をしても、利益率が2%に届く保証はない。
資本効率は10年たっても低いままだ。ROEは3%から10%の間で、資本コストを安定して超えたことがない。今の1.06倍のPBRは、過去10年の0.3倍台からの大幅な上げだ。倍率はすでに期待を織り込んでいる。
人口は減る。食肉も加工品も国内の数量は縮む。海外の牛肉と北米の鶏肉に期待をかけるのは良いが、海外は相場と為替の影響をさらに受ける。鳥インフルエンザや豚熱のような疫病で、供給が止まるリスクも常にある。
ボールパークの利益は、全体から見れば小さい。54億円で、全社の1割にも届かない。自社株買いも、利益が相場で振れる会社が買う値段としては、割安とは言いがたい。
どちらに重みを置いたか
悲観の側の言い分の方が強い。食肉の利益が相場頼みで、前期は頂点に近いことは、数字がはっきり示している。加工の低収益も、10年の記録が裏づけている。強気の側の言い分で確かなのは、会社が資本効率を意識し始めたことと、ボールパークの利益だ。ただ、これだけでは食肉の相場の振れを打ち消せない。中立は食肉の利益率を4.8%に戻した形に置き、確率は悲観の側に厚く寄せた。10年では、構造的に利益率が落ちる筋書きに15%を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,940 円5,323 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,127 円3,092 億円)。 今の値に割り戻すと 1,726 円4,737 億円、今との差 −17.2%、 期待の年率 +3.9%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,057 円1.11 兆円 | 1,572 円4,314 億円 | +170.1% | +10.4% | 394 円1,081 億円 |
| やや楽観 | 18% | 2,975 円8,163 億円 | 1,390 円3,814 億円 | +109.5% | +7.7% | 786 円2,156 億円 |
| 中立 | 35% | 2,264 円6,212 億円 | 1,244 円3,414 億円 | +68.3% | +5.3% | 1,228 円3,369 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,140 円3,127 億円 | 1,061 円2,911 億円 | +5.6% | +0.5% | 550 円1,509 億円 |
| 悲観 | 15% | 289 円792 億円 | 440 円1,207 億円 | −65.0% | −10.0% | 109 円300 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,940 円5,323 億円 | 1,127 円3,092 億円 | +47.2% | +3.9% | 3,067 円8,415 億円 |
今の株価時価総額 2,084 円5,718 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 海外と加工が育ち、資本効率が10%超へ 利益 691 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 4,057 円1.11 兆円
10年後、豪州と北米の事業が育ち、食肉の量は1割強伸びている。食肉の利益率は5.5%を保つ。加工は冷凍食品と海外販売が伸びて、利益率が3%近くに上がる。国内の量は減るが、付加価値の高い商品への組み替えがそれを上回る。ボールパークは周辺の開発も進み、利益は100億円を超える。会社は資本効率を重視し、自己資本利益率は11%に達する。海外と加工の両方が育てば、ブランドの価値も上がる。成長はやや高めの4%を見込めるようになる。競合との差も広がる。伊藤ハム米久やプリマハムは国内中心で、海外の牛肉・鶏肉の取り込みで日本ハムが一歩先に出る。利益は物価を超えて伸び、10年で今の約1.9倍になる。ただし相場商品の食肉が残る限り、倍率は強いブランド企業ほどには上がらない。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.4億円×10年×1=14億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 食肉事業:数量 146(推定取扱量(万トン))× 価格 110(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 15,984 億円・営業利益 879 億円。海外と相場で量が増える
- 加工事業:数量 53.4(推定出荷量(万トン))× 価格 133(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 7,099 億円・営業利益 199 億円。海外・冷凍が伸びる
- ボールパーク関連・その他:数量 1,280(推定の来場・利用者数(万人))× 価格 0.53(1人あたり売上(万円))→ 売上 684 億円・営業利益 123 億円。周辺開発が進む
倍率:事業の純利益 691 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.1 倍。全体の PER 16.11 倍、時価総額 11,132 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外・加工・ボールパークがそろって育つ必要があり、確率は低い。
やや楽観 18% 食肉が高めを保ち、加工が2%台に乗る 利益 561 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 2,975 円8,163 億円
10年後、食肉は物価並みに伸び、数量も少し増える。利益率は5%強を保つ。加工は人口減で量は減るが、冷凍食品の拡大で利益率が2%台に乗る。ボールパークは安定した利益を出し、100億円に近づく。還元を続けても自己資本はあまり増えず、自己資本利益率は9%近くになる。堅実だが派手さのない10年だ。物価の分だけ利益が伸び、会社の資本効率の姿勢が、少しずつ数字に出てくる。国内の加工品でシェアを少し伸ばし、食肉は豪州・北米の取り込みで量を保つ。競合のプリマハムや伊藤ハム米久と比べて、利益率が上位に入る。会社は長期の利益の質を高める道を歩み、倍率も平均を少し上回る。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.4億円×10年×1=14億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 食肉事業:数量 138(推定取扱量(万トン))× 価格 108(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 14,908 億円・営業利益 760 億円。数量が少し増える
- 加工事業:数量 52.3(推定出荷量(万トン))× 価格 131(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 6,852 億円・営業利益 164 億円。冷凍の拡大で2%台
- ボールパーク関連・その他:数量 1,120(推定の来場・利用者数(万人))× 価格 0.53(1人あたり売上(万円))→ 売上 590 億円・営業利益 94 億円。安定
倍率:事業の純利益 561 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.55 倍、時価総額 8,163 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:加工が2%台に乗り、食肉が高めを保つ道。会社の資本効率への姿勢が追い風。
中立 35% 物価並みに伸びる成熟した食肉・加工会社 利益 466 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 2,264 円6,212 億円
10年後、日本ハムは物価並みに伸びる成熟した会社になっている。食肉は数量が横ばいで、利益率は4.8%に落ち着く。加工は人口減で量が減るが、利益率は2%まで戻る。ボールパークは安定した利益を出す。営業利益は750億円ほどで、今の3割増だ。これは物価の分にほぼ等しい。自己資本利益率は7%台で、資本コストをわずかに上回る。還元は純利益の7割ほどで続き、自己資本はゆっくり増える。優良とは言えないが、堅い会社であり続ける。競合の伊藤ハム米久やプリマハムとは、シェアも利益率もほぼ同じ水準で並ぶ。海外の牛肉と北米の鶏肉は国内の縮小を補い、全体の量は横ばいに落ち着く。大きな買収もなく、外から買われる可能性も小さい。成長と還元がほぼ釣り合う、安定した10年になる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.4億円×10年×1=14億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 食肉事業:数量 130(推定取扱量(万トン))× 価格 107(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 13,858 億円・営業利益 665 億円。数量は横ばい
- 加工事業:数量 51.2(推定出荷量(万トン))× 価格 129(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 6,609 億円・営業利益 132 億円。人口減、利益率は2%
- ボールパーク関連・その他:数量 1,080(推定の来場・利用者数(万人))× 価格 0.52(1人あたり売上(万円))→ 売上 561 億円・営業利益 84 億円。安定
倍率:事業の純利益 466 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 6,212 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:物価並みの成長で、資本コストをわずかに上回る中心の見通し。
やや悲観 25% 食肉の相場と加工の低収益が重しになる 利益 295 億円 · PER 10.6 倍 · 株価時価総額 1,140 円3,127 億円
10年後、食肉は相場の戻りと国内の縮小で、利益率が4%を割り込む。加工は人口減で量が1割以上減り、利益率は1%台前半に戻る。ボールパークの利益は横ばいだ。営業利益は490億円ほどで、今を下回る。自己資本利益率は5%で資本コストを割り、倍率は大きく下がる。会社は資本効率の目標を果たせず、株主の期待は薄れる。自社株買いも続けにくくなり、配当を守るのが精いっぱいになる。国内の肉の量が人口とともに縮み、競合との値下げの競争が強まる。海外の牛肉も相場の戻りで利益が細る。ボールパークの伸びだけでは足りず、全社の利益は今を下回る。株主は資本効率の低い会社として見なし、倍率も下がる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.4億円×10年×0.75=10.5億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 食肉事業:数量 126(推定取扱量(万トン))× 価格 103(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 13,041 億円・営業利益 496 億円。相場が戻り縮小
- 加工事業:数量 48.4(推定出荷量(万トン))× 価格 123(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 5,973 億円・営業利益 72 億円。人口減で量が減る
- ボールパーク関連・その他:数量 800(推定の来場・利用者数(万人))× 価格 0.50(1人あたり売上(万円))→ 売上 403 億円・営業利益 48 億円。横ばい
倍率:ROE4.9%がk7.5%以下なので、PERの上限は1÷k=12.5倍(ためた利益は額面未満の価値)。その約8割(10.6倍)を採用。稼ぐ力(事業の純利益÷k)の85%。食肉の相場の悪化が続く筋書き。
確率:食肉の相場が戻り、加工が低収益に戻る。10年の記録から可能性は高い。
悲観 15% 構造的に負け、優良とは呼べなくなる 利益 90 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 289 円792 億円
10年後、構造的に負けている。疫病や関税、外食の縮小が重なり、食肉の利益率は2.5%に落ちる。加工は量が2割減り、利益はほとんど出ない。ボールパークも伸び悩み、投資の償却が重くのしかかる。営業利益は200億円を割り、自己資本利益率は2%台だ。資産の減損も出て、自己資本は450億円ほど目減りする。配当は手元の資金と資産の売却で保つが、自社株買いは止まっている。もう優良とは呼べず、株価は資産価値を下限に決まる。外食の縮小と疫病で、国内の量が構造的に縮む。競合に比べても、利益率の低い食肉への偏りが重荷になる。物言う株主が事業の売却や分離を求める局面も出てくる。会社は事業の整理を迫られ、優良さを失う。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.4億円×10年×0.5=7億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 食肉事業:数量 117(推定取扱量(万トン))× 価格 95(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 11,169 億円・営業利益 279 億円。疫病・関税で縮む
- 加工事業:数量 44.0(推定出荷量(万トン))× 価格 116(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 5,091 億円・営業利益 25 億円。量が2割減る
- ボールパーク関連・その他:数量 640(推定の来場・利用者数(万人))× 価格 0.47(1人あたり売上(万円))→ 売上 298 億円・営業利益 24 億円。伸び悩む
倍率:ROE1.5%がk7.5%以下なので、PERの上限は1÷k=12.5倍(ためた利益は額面未満の価値)。その約7割(8.8倍)を採用。稼ぐ力に、疫病と相場の悪化で利益が薄れる分を見込んだ7割。EVでも見た:純有利子負債1,599億円を足すと営業利益の20倍超で、利益の倍率では割安・割高を言わない。
確率:疫病・関税・外食縮小で構造的に利益率が落ちる道。商品相場の会社なので15%と厚めにした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
食肉事業
国産の鶏・豚・牛と輸入肉、豪州の牛肉を仕入れ・生産し、量販店・外食・加工メーカーへ卸す。全社の利益の8割強を稼ぐが、相場で大きく振れる。
| 数量推定取扱量(万トン) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 130 | 80 | 10,341 | 613 |
| 10 年後 中立 | 130 | 107 | 13,858 | 665 |
取り方:開示は売上10,341億円・利益613億円(事業利益、IFRS)のみで、数量は出ていない。国産鶏・豚・牛と輸入牛の混ざった平均の卸値を1トン約80万円と置き、取扱量を130万トン前後と推定した。数量は実質、価格は名目。国内の肉の総量は人口減でほぼ横ばい、豪州・北米の取り込みで中立の10年は1.00倍。価格は物価並み(10年1.34倍)で置き、相場の振れは利益率に入れる。利益率は10年の幅3.5〜6.8%の平均が約5.1%で、前期5.9%は上の方。中立は4.8%へ戻す。
加工事業
ハム・ソーセージ、ベーコン、ハンバーグ、冷凍食品、チルド惣菜を作って売る。国内のハム・ソーセージは日本ハムと伊藤ハム米久が上位。
| 数量推定出荷量(万トン) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 55.0 | 96 | 5,303 | 72 |
| 10 年後 中立 | 51.2 | 129 | 6,609 | 132 |
取り方:開示は売上5,303億円・利益71.8億円。数量は開示がなく、ハム・ソーセージ、冷凍食品、惣菜などの混ざった平均を1トン約96万円と置き、出荷量を55万トン前後と推定した。数量は人口減で10年0.93倍が中立。冷凍食品の簡便化需要が減り幅を一部相殺する。価格は物価並み(10年1.34倍)。利益率は10年の平均が約2%、前期は1.4%。構造改革の効果で中立は2%まで戻す。
ボールパーク関連・その他
北海道の球団の本拠地を中心にした複合施設の運営と、その他の事業。利益は食肉とは別の動きをする。
| 数量推定の来場・利用者数(万人) | 価格1人あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 800 | 0.39 | 310 | 54 |
| 10 年後 中立 | 1,080 | 0.52 | 561 | 84 |
取り方:開示は売上310億円・利益54.2億円(ボールパーク関連の利益は54億円とされる)。来場・利用者の数は開示がなく、1人あたり約0.39万円(売上÷人数)で800万人前後と推定した。数量は施設の拡張で中立の10年1.35倍、価格は物価並み(1.34倍)。利益率は今の17%から15%へ少し下げる。
リスクと懸念
食肉の相場が一気に戻る
前期の食肉の利益率5.9%は、10年の平均を上回る。国産鶏の値や豪州産牛肉の高値が崩れれば、利益は数年で3割ほど落ちうる。全社の利益の8割強が食肉に偏るので、相場の影響が直接出る。会社の予想が控えめなのも、この振れを織り込んでいるからだろう。
加工の低収益が続く
売上5,300億円に対し利益は72億円で、利益率は1%台だ。原料の豚肉・牛肉は輸入が多く、為替と関税に振られる。値上げが量販店に通らない年は、構造改革をしても利益が出にくい。加工が伸びなければ、全社の資本効率は上がらない。食肉の好調に隠れて、この弱さは見えにくい。
疫病と食の安全
鳥インフルエンザや豚熱、牛の疾病が出れば、供給が止まり出荷が滞る。食品の品質の問題が起きれば、長く築いたブランドを傷つける。自社で鶏を育てている分、鳥インフルの影響を直接受ける。食肉業界は2002年に牛肉の偽装事件で信用を落とした過去もある。
為替と関税
豚肉・牛肉の輸入と豪州事業は、為替の影響を強く受ける。この分析では1ドル150円で固定したが、円高に振れれば輸入の仕入れは安くなる一方、豪州の円換算の利益は減る。関税の変更も原価に響き、利益の振れを大きくする。為替の見方で、全社の利益の見え方が変わる。
人口減と外食の縮小
国内の肉の総量は人口減で緩やかに減る。外食向けの業務用が戻りきらなければ、食肉も加工も数量が落ちる。人手不足で外食店が減れば、卸の需要にも響く。量が減っても工場の固定費は減らないため、利益率を押し下げやすい。特に加工は、量の減少がそのまま利益の減少になる。
資本効率が上がらないまま
過去10年の自己資本利益率は3〜10%で、資本コストを安定して超えていない。新しい中期計画が現実的な目標を示せなければ、株主の期待が剥がれる。自社株買いを割高な値段で続けると、かえって価値を損なうおそれがある。目標と現実の差が、株価の動きを決める。
ボールパークの利益が伸びない
北広島の施設は、球団の成績や来場者数に影響される。前期の利益54億円は全社の1割に届かず、伸びなければ新しい柱にはならない。建物への投資の償却負担も重く、天候や集客の波がそのまま利益に出る。全体の利益への寄与は、まだ限られる。
今後の分かれ目
- 国産鶏と豪州産牛肉の相場が高値のまま2〜3年続いたら
- 食肉の利益率が5%台を保ち、中立を超えて楽観・やや楽観の側へ寄る。全社のROEは9%台に届く。
- 鶏・牛の相場が急に崩れたら
- 食肉の利益率は3%台に戻り、全社の営業利益は前期の6〜7割に落ちる。やや悲観の筋書きに寄る。
- 加工の利益率が2%台後半に乗ったら
- 全社の利益は100億円ほど積み上がり、倍率も上限の側に近づく。構造改革が実を結んだと判断する。
- 次期中期計画が10%以上のROE目標と具体策を示したら
- 資本効率の改善を織り込める。中立の倍率は据え置きでも、強気の側に確率を移せる。
- 鳥インフルエンザや豚熱で国内の供給が大きく止まったら
- 一時的に利益が落ち、悲観の確率を厚くする。ただ、相場が上がるので自社の生産分の利益は一部保たれる。
- ボールパーク関連の利益が100億円に近づいたら
- 食肉の相場に左右されない土台が厚くなり、利益の質の評価を引き上げる。
見ておくもの
- 食肉事業の利益率(国産鶏・豪州産牛肉の相場との関係)
- 加工事業の利益率が2%台に乗るか
- 次期中期計画のROE目標と株主還元の水準
- 自社株買いの金額と買う時の株価(PBR)
- ボールパーク関連の利益の推移
- 鳥インフルエンザ・豚熱の発生状況
- 豪州産牛肉の世界需要と為替
倍率と資本コストの決め方
食肉・加工・ボールパーク関連の3つに分け、数量は実質・価格は物価並みで積み、利益率は食肉を10年平均の5%弱へ戻した。倍率は ROE が資本コスト(基本7.5%+quality+0.5%=8.0%)を下回るため、中立は上限の 1÷k=12.5 倍の95%(11.9倍)に置いた。今の株価や PER 16.2倍から逆算してはいない。前期の利益が相場の追い風を受けた頂点に近いので、そこを基準にせず利益率を戻した。日本ハムは IFRS で、リースはすでに BS に載っている。新リース基準で形が変わらないため、営業利益は事業利益から本社費とその他費用を引いた今と同じ形で置いた。純利益には利払いの増加(10年 −40)を含めた。悲観側は稼ぐ力(純利益÷k)の85%・7割に置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→16.11 倍・やや楽観 PER 12.5→14.55 倍・中立 PER 11.9→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本 7.5% に quality を足して決める(β・規模は使わない)。quality の内訳と理由は quality_why に書いた。事業が傾いているわけではないので上乗せ(extra)は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.50%。