結論
篠崎屋は「三代目茂蔵」の名で豆腐や豆乳、総菜を売る小さな製造小売だ。工場は持たず、協力工場に作らせた商品を直営 30 店と約 390 の加盟店に流す。筆者の結論は割高である。黒字には戻ったが、営業利益率は 2% ほどで、10 年先も大きくは厚くならない。
豆腐は毎日の食卓に並ぶ品で、需要そのものは消えない。ただし同じ品はスーパーの棚に安く並び、値段で差をつけにくい。直営店の数は 10 年前から増えておらず、売上は長く縮んできた。会社の目標は利益率 5% だが、過去 12 年でそこに届いた年はない。
手元の純現金は時価総額の 4 割ほどあり、配当も再開した。それでも中立の筋書きで、10 年後の時価総額は今を下回る。今の値段は、利益率が目標近くまで上がる筋書きをかなり先取りしている。
筆者がいちばん気にしているのは、家賃と時給という固定費だ。物価 3% の世界では、どちらも毎年上がる。安さが売りの豆腐でそれを取り戻すのは、言うほど簡単ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、篠崎屋は「つぶれにくいが、稼ぐ力の小さい事業」だ。借金がなく、工場も持たず、売る品は毎日食べられる。オーナーとして見ると、事業が 10 年後も残る確からしさは高い。
しかし、株主のものになる利益は薄い。営業利益率 2% の小売は、家賃と人件費が少し上がるだけで利益が消える。過去 12 年で黒字が続いた期間は短く、利益の厚みを確信できる材料は少ない。値段を自分で決める力がない事業に、高い倍率は払えない。
安全域、つまり払う値段と本質価値の差も見当たらない。今の時価総額は今期の予想純利益の 20 倍を超える。純現金を差し引いても、事業の部分に 15 倍前後を払う計算だ。利益率が会社の目標の 5% に届けば話は変わるが、その確率は高くない。持ち続けたい事業だが、この値段で買いたい事業ではない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は直営店の店頭だ。駅前や商店街に小さな店を構え、豆腐・厚揚げ・豆乳・おから総菜を安く売る。小売の売上は約 26 億円で、全体の 9 割を占める。1 店あたりの売上は年 9 千万円弱で、冬の鍋の季節に売上と利益が集まる。
残りの約 3 億円は「その他」で、加盟店への卸と業務用の卸、ネット通販からなる。加盟店は酒屋や商店が店先に茂蔵の豆腐を置く形が多く、数は約 390 だが 1 店あたりの取引は小さい。加盟店は毎年 20 前後が入れ替わり、数はじりじり減っている。
会社は工場を持たない。生産はすべて協力工場に任せ、仕入の 4 割近くをハギワラ 1 社に頼る。設備を持たない分だけ身軽だが、原料の大豆や包材、工場の人件費が上がれば、その値上げを受け入れるしかない。店舗と本社はすべて借りており、家賃は売上が落ちても下がらない固定の約束だ。
人の面でも身軽である。正社員は 20 人ほどで、店は 100 人余りのパートが回す。本社の費用は年 1.5 億円ほどと見られ、売上の 5% にあたる。この本社費を店の利益でどれだけ上回れるかが、黒字と赤字の分かれ目になる。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは薄い。豆腐は作り方に秘密が少なく、スーパーが自社ブランドで安く並べる。茂蔵の店は「工場直送で安い」という評判で客を呼ぶが、近くにまいばすけっとや業務スーパーがあれば、客は値段で流れる。
資本効率も低い。過去 10 年の ROE の中央値はほぼゼロで、赤字の年が 4 回ある。売上は年 4% 近く縮み、2014 年の 49 億円から 29 億円になった。2025 年 9 月期に黒字へ戻ったのは、不採算店を閉じて既存店を立て直した成果だ。
強みを挙げるなら、財務の軽さだ。借金はなく、自己資本比率は 8 割に近い。工場を持たないので、大きな設備投資もいらない。小さな会社が長く生き残る条件は整っている。ただし、生き残ることと株主に厚く稼ぐことは別の話だ。
経営は堅実だが、攻めの手は小さい。出店は年に数店で、新しい売り方の柱もまだ見えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
豆腐の市場は量で見ると細っている。人口が減り、1 人あたりの消費も横ばいだからだ。豆腐の製造所は 1960 年代の 5 万軒から 5 千軒台まで減り、残った会社の多くは小さな町の豆腐店である。量の大半は、相模屋食料やタカノフーズのような大手の工場がスーパー向けに作る。
値段は名目で物価並みに上がると見る。2026 年は輸入大豆と包材の値上がりが続き、豆腐も値上げが通りやすい。ただし豆腐は安さで選ばれる品で、値上げが続くほど客は特売の品へ逃げる。原料高を売値へ写せる速さは、ブランドを持つ大手より茂蔵のほうが遅い。
伸びる余地は健康志向にある。高たんぱく・低糖質の食べ物として豆腐や豆乳は見直されている。茂蔵はおから総菜や豆乳デザートで客単価を上げてきた。ただ、この流れは大手も同じように取りに来るので、茂蔵だけの追い風ではない。
10 年の中立では、豆腐の国内の量はほぼ横ばいか少し減り、茂蔵の直営店は今の 30 から 30 台前半にとどまると見る。小さな町の豆腐店が廃業で減る分は、茂蔵の店にとって小さな追い風になる。
資本政策と M&A
還元は始まったばかりだ。長く利益剰余金がマイナスで配当できなかったが、2026 年 9 月期は配当の再開を予定する。総額は年 0.4 億円ほどで、今期の純利益の 6 割強にあたる。
株主優待は有報にも検索にも見当たらず、無いものとして扱う。創業者の樽見茂氏が 21% を持つ筆頭株主で、親会社はいない。取引先持株会や協力工場のハギワラも株主に名を連ねる。
M&A の話は出ていない。時価総額 15 億円ほどの小さな会社で、同業や商社が店網ごと買う可能性は残る。ただ、筆者は買収の上乗せを筋書きに入れていない。手元の純現金は約 6 億円で、運転資金と出店の手元を除いた約 3 億円を余った現金と見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
黒字化は偶然ではない。既存店の改装と品ぞろえの見直しで、直営店の売上は前年を上回り続けている。2026 年 9 月期は売上が 1 割伸び、純利益は前期の 1.7 倍を見込む。会社は業績予想を出さない方針を改めてまで、この数字を示した。経営が手応えを持っている証拠だ。
豆腐と豆乳は健康志向の追い風を受ける。高たんぱくで安い食材として、物価高の中でむしろ選ばれやすい。茂蔵は工場直送の安さという分かりやすい売りを持つ。店を 40 店まで増やし、利益率を目標の 5% に近づければ、営業利益は今の 4 倍を超える。
財務の余力もある。借金はなく、純現金は時価総額の 4 割ある。出店の資金は手元で足りる。小さな会社なので、数店の出店でも利益の伸びは大きく見える。買収の受け皿になる可能性も、小さいが確かにある。
町の豆腐店は後継ぎがいなくて毎年減っている。商店街で豆腐を買える場所が消えるほど、茂蔵の店の値打ちは上がる。物価高で外食を控える家庭が増えれば、豆腐と総菜で一品をそろえる需要も太る。
慎重な見方
黒字は薄氷の上にある。営業利益率 2% は、家賃や人件費が 1 ポイント上がれば消える。過去 12 年で赤字は 5 回あり、黒字が 3 年続いたことがほとんどない。今期の好調も、冬の鍋の季節に偏った上期の利益に支えられている。
豆腐の安さは茂蔵だけのものではない。まいばすけっとや業務スーパー、スーパーの自社ブランドが、同じ値段かそれより安く豆腐を並べる。茂蔵の店は駅前の小さな店で、品数でも駐車場でも勝てない。物価 3% の世界では家賃も時給も毎年上がるが、豆腐の値上げは客の目が厳しく、追いつかない年が出る。
加盟店は毎年減り、直営店は 10 年前から増えていない。生産をハギワラなど協力工場に頼るので、工場側の値上げや廃業がそのまま利益を削る。純現金は厚く見えるが、30 店の家賃という固定の約束を背負っている。
小さな会社なので、店長や本部の数人が抜けるだけで店の運営が乱れる。人手不足の時代に、時給を上げずにパートを集め続けるのは難しい。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。黒字化の努力は本物だが、利益率 2% の小売が 10 年で目標の 5% に届いた例は、この会社の過去には無い。値段を決める力がなく、家賃という固定費を抱える構造は変わらない。一方で、借金がなく工場も持たないので、事業が急に崩れる心配は小さい。今期の増益も数字で示されている。そこで、10 年後も細く黒字を保つ姿をいちばん起こりやすいと見て、確率は中立を中心に置き、悲観側を楽観側より厚くした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/09 期)
確率で加重した株価時価総額 69 円10 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 19 円3 億円)。 今の値に割り戻すと 42 円6 億円、今との差 −60.5%、 期待の年率 −1.9%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 180 円26 億円 | 42 円6 億円 | +107.3% | +7.6% | 18 円3 億円 |
| やや楽観 | 17% | 115 円16 億円 | 30 円4 億円 | +36.0% | +3.1% | 25 円4 億円 |
| 中立 | 40% | 69 円10 億円 | 20 円3 億円 | −16.8% | −1.8% | 36 円5 億円 |
| やや悲観 | 22% | 25 円4 億円 | 8 円1 億円 | −68.3% | −10.9% | 7 円1 億円 |
| 悲観 | 13% | 19 円3 億円 | 1 円0 億円 | −81.4% | −15.5% | 3 円0 億円 |
| 加重平均 | 100% | 69 円10 億円 | 19 円3 億円 | −17.6% | −1.9% | 88 円12 億円 |
今の株価時価総額 107 円15 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 出店と利益率の改善がそろう 利益 2 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 180 円26 億円
既存店の改装が当たり、茂蔵は「安くて体に良い豆腐の店」として駅前で客を集め続ける。手元の現金で年 1 店ずつ出店し、直営店は 40 店になる。おから総菜や豆乳デザートで客単価が上がり、1 店あたりの売上は物価より少し速く伸びる。
家賃と時給は毎年上がるが、値上げが通り、営業利益率は会社の目標の 5% に届く。加盟店の減少も止まる。配当は利益の半分強を続け、純現金は出店に使いながらも厚みを保つ。借金のない小さな製造小売として、稼ぐ力が一段上がった姿だ。
それでも、値段を自分で決められる事業になるわけではない。利益は今の 4 倍を超えるが、売上の規模は 50 億円ほどにとどまり、倍率は利益の振れやすさを映して控えめになる。
- 小売(直営「三代目茂蔵」):数量 40.0(直営店の数(店・期末))× 価格 1.20(1 店あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 48 億円・営業利益 4 億円。40 店 × 1 店 1.20 億円、店の利益率 9%
- その他(加盟店卸・業務用卸・通販):数量 380(加盟店の数(店・期末))× 価格 0.01(加盟店 1 店あたりの売上(億円・名目。業務用・通販を含む))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。加盟店 380 × 0.0113 億円、利益率 6%
倍率:事業の純利益 2 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.9% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)2 億円。全体の PER 13.63 倍、時価総額 26 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直営店を 10 年で 3 割増やし、利益率も会社の目標に届く筋書き。過去 12 年で利益率 5% に届いた年がなく、出店も止まっていたので低く置いた。
やや楽観 17% 既存店の回復が定着する 利益 1 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 115 円16 億円
既存店の立て直しが定着し、直営店は 35 店まで少しずつ増える。物価 3% の中で豆腐の値上げはおおむね通り、1 店あたりの売上は物価並みに伸びる。
営業利益率は 4% 前後まで上がるが、会社の目標の 5% には届かない。家賃や時給の上げが利益の伸びを毎年少しずつ削るからだ。加盟店はゆっくり減るものの、業務用と通販が補う。配当は続き、純現金は大きくは減らない。今より一段しっかりした小さな店網、という姿である。
買収の話は出ず、創業家が筆頭株主のまま経営が続く。株主に戻る現金は配当が中心で、自社株買いは小さい。
- 小売(直営「三代目茂蔵」):数量 35.0(直営店の数(店・期末))× 価格 1.18(1 店あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 41 億円・営業利益 4 億円。35 店 × 1 店 1.18 億円、店の利益率 8.5%
- その他(加盟店卸・業務用卸・通販):数量 360(加盟店の数(店・期末))× 価格 0.01(加盟店 1 店あたりの売上(億円・名目。業務用・通販を含む))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。加盟店 360 × 0.0113 億円、利益率 6%
倍率:事業の純利益 1 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)2 億円。全体の PER 12.25 倍、時価総額 16 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:今期の増収増益が数年続き、出店も少し進む筋書き。黒字化の手応えは本物で、中立より上の可能性を相応に残した。
中立 40% 細く黒字を保つ 利益 1 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 69 円10 億円
茂蔵は今の店網をほぼ保ち、直営店は 32 店になる。豆腐の値段は物価並みに上がるが、量は人口とともに少し細る。1 店あたりの売上は物価並みで、実質ではほぼ横ばいだ。
営業利益率は 2〜3% の間を行き来する。値上げで原料高を取り戻す年もあれば、家賃と時給の上げに負ける年もある。黒字は続くが、利益の厚みは増えない。配当は利益の半分強を払い続け、純現金は大きく動かない。つぶれる心配は小さいが、株主の取り分が大きく育つこともない 10 年だ。
加盟店は毎年少しずつ減り、卸の売上は横ばいにとどまる。協力工場との取引は続くが、工場側の値上げは毎年のように来る。
- 小売(直営「三代目茂蔵」):数量 32.0(直営店の数(店・期末))× 価格 1.17(1 店あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 3 億円。32 店 × 1 店 1.17 億円、店の利益率 7.5%
- その他(加盟店卸・業務用卸・通販):数量 340(加盟店の数(店・期末))× 価格 0.01(加盟店 1 店あたりの売上(億円・名目。業務用・通販を含む))→ 売上 4 億円・営業利益 0 億円。加盟店 340 × 0.0113 億円、利益率 5.5%
倍率:事業の純利益 1 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)2 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 10 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直営店は横ばいに近く、利益率は今より少し上がる程度という、過去 12 年の実績の延長に近い筋書き。いちばん起こりやすいと見て中心に置いた。
やや悲観 22% 安値の競争に押される 利益 0 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 25 円4 億円
まいばすけっとや業務スーパーが駅前に増え、茂蔵の店は値段でも品数でも勝てなくなる。採算の悪い店を閉じ、直営店は 27 店に減る。1 店あたりの売上も実質で少し落ちる。
原料の大豆と包材、協力工場の値上げを売値に写しきれず、営業利益率は 1% を割る。黒字はかろうじて保つが、配当は減り、手元の現金は閉店の費用と赤字の年に少しずつ減る。家賃は固定の約束なので、売上が落ちた分がそのまま利益を削る。事業は残るが、稼ぐ力は今より弱い。
手元の現金は使い道のないまま会社に残り、少数株主に戻る分は小さい。加盟店も 290 まで減る。
- 小売(直営「三代目茂蔵」):数量 27.0(直営店の数(店・期末))× 価格 1.13(1 店あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 31 億円・営業利益 2 億円。27 店 × 1 店 1.13 億円、店の利益率 6.5%
- その他(加盟店卸・業務用卸・通販):数量 290(加盟店の数(店・期末))× 価格 0.01(加盟店 1 店あたりの売上(億円・名目。業務用・通販を含む))→ 売上 3 億円・営業利益 0 億円。加盟店 290 × 0.0108 億円、利益率 4%
倍率:事業の ROE 1.8% が k 8.75% 以下なので、ためた利益は額面未満で PER の上限は 1÷k=12.5 倍。稼ぐ力が細り、ROE が k を大きく下回るので、上限の 7 割の 9.0 倍に置いた。余った現金 2.2 億円は戻り方 0.75 を掛けて足した。
確率:低価格のスーパーと自社ブランドに客を取られ、店を閉じる筋書き。過去 12 年で赤字が 5 回あり、起こりやすさは楽観側より高い。
悲観 13% 赤字が続き店網が縮む 利益 −1 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 19 円3 億円
安い豆腐の売り場がさらに広がり、茂蔵の店は客数を失う。直営店は 22 店まで減り、加盟店も 230 まで細る。協力工場の値上げや廃業が重なり、商品の調達にも苦労する。
家賃と人件費の固定費が残るため、売上の減少はそのまま赤字になる。本社費を削っても追いつかず、営業赤字が毎年続く。配当は止まり、純現金は赤字と閉店の費用で 10 年かけて目減りする。借金がないので倒産は避けられるが、少数株主に現金が戻る道は見えにくい。
創業家が筆頭株主のままなので、会社を売って現金を株主に返す決断も遠い。豆腐の需要は残っても、茂蔵の店である必要はなくなる、という負け方だ。
- 小売(直営「三代目茂蔵」):数量 22.0(直営店の数(店・期末))× 価格 1.11(1 店あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 1 億円。22 店 × 1 店 1.11 億円、店の利益率 4%
- その他(加盟店卸・業務用卸・通販):数量 230(加盟店の数(店・期末))× 価格 0.01(加盟店 1 店あたりの売上(億円・名目。業務用・通販を含む))→ 売上 2 億円・営業利益 0 億円。加盟店 230 × 0.0105 億円、利益率 2%
倍率:赤字なので PBR で、今の自己資本 10.5 億円に掛けた。床は純現金 6.1 億円だが、家賃の約束と赤字で食われ、清算されない限り少数株主には戻らないので、0.5 の戻り方を掛けた約 3 億円の手前の 0.25 倍に置いた。
確率:競争と固定費に負けて赤字が続く筋書き。2016〜2024 年に赤字の期が 4 回あり、借金がなくても無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
小売(直営「三代目茂蔵」)
直営店で豆腐・豆乳・総菜を売る。売上の 9 割。
| 数量直営店の数(店・期末) | 価格1 店あたりの年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 30.0 | 0.87 | 26 | 2 |
| 10 年後 中立 | 32.0 | 1.17 | 37 | 3 |
取り方:有報の小売の売上 26.1 億円を直営 30 店で割った。セグメント利益は通期の開示を見ておらず、2026/03 中間の 1.34 億円・前年中間の 1.30 億円と下期の弱さから通期約 1.9 億円と推定。店の数は実質の数量、物価は 1 店あたり売上に入れる。
その他(加盟店卸・業務用卸・通販)
加盟店(酒屋・商店など)と業務用への卸、ネット通販。
| 数量加盟店の数(店・期末) | 価格加盟店 1 店あたりの売上(億円・名目。業務用・通販を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 389 | 0.01 | 3 | 0 |
| 10 年後 中立 | 340 | 0.01 | 4 | 0 |
取り方:その他の売上 3.29 億円・利益 0.18 億円(開示)を加盟店 389 店で割った。業務用・通販は加盟店の数に比例すると置く推定。
リスクと懸念
安値の売り場との競争
まいばすけっとや業務スーパー、スーパーの自社ブランドが豆腐を安く並べる。茂蔵の売りは安さなので、同じ値段で並ばれると客を引き留める理由が細る。駅前の小さな店は品数でも勝てない。
家賃と時給の固定費
店と本社はすべて借りており、家賃は売上が落ちても下がらない。物価 3% の世界では時給も毎年上がる。営業利益率 2% の事業では、固定費の 1 ポイントの上げが利益の大半を消す。
協力工場への依存
工場を持たず、仕入の 4 割近くをハギワラ 1 社に頼る。協力工場の値上げや人手不足、廃業はそのまま原価と品ぞろえに響く。代わりの工場を急に見つけるのは難しい。
原料と包材の値上がり
大豆は輸入に頼り、中東情勢などで包材や物流の費用も上がる。豆腐は安さで選ばれる品なので、値上げを売値へ写すのが大手より遅れやすい。
季節と天候への偏り
利益は冬の鍋の季節に集まり、下期は弱い。暖冬や上期の不振があると、通期の黒字が簡単に崩れる。小さな会社なので 1 年の振れが価値の見方を大きく動かす。
今後の分かれ目
- 直営店の出店が年 2 店以上のペースで続いたら
- やや楽観の筋書きに重みを移す。出店した店が 2 年で黒字になっているかを合わせて見る。
- 営業利益率が 2 期続けて 4% を超えたら
- 利益の厚みが構造的に変わったと見て、中立の利益率を上げる。
- 再び営業赤字に戻ったら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。家賃の固定費と閉店の費用が純現金をどれだけ食うかを見る。
- 協力工場の値上げや取引の見直しが起きたら
- 原価の上昇を利益率に入れ直し、悲観側に寄せる。
- 同業や商社による買収の話が出たら
- 買収の値段と、純現金・店網の値打ちを比べて見直す。筋書きには入れていない上振れである。
見ておくもの
- 直営店の数と既存店の売上の前年比
- 営業利益率(会社の目標 5%)
- 配当の継続と純現金の残高
- 加盟店の数の増減
- 協力工場(ハギワラ)との取引の条件
倍率と資本コストの決め方
倍率は k 8.75%(基本 7.5%+quality 0.5%)と各筋書きの ROE から式で出した。中立の事業の ROE は 6% 台で k に届かず、PER の上限は 1÷k の 12.5 倍で、その 8.5 割に置いた。今の PER 20 倍台には寄せていない。悲観は赤字なので今の自己資本に PBR を掛けた。2028/09 期から新リース会計基準で店の家賃が BS に載り、純有利子負債と営業利益の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ家賃を費用に入れた形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.5→13.63 倍・やや楽観 PER 11.3→12.25 倍・中立 PER 10.62→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。