結論
丸大食品は、ハム・ソーセージとサラダチキンなどの調理加工食品を売る中堅の食肉加工会社だ。筆者は、利益の薄さを考えると、今の値段は本質価値をやや上回ると見る。
2026年3月期の営業利益は75億円と、過去の赤字から立ち直った。ただし売上の3割を占める食肉事業は、利益率が1%に届かない。加工食品事業も、競合の上位3社と量販店の自社商品に挟まれて、値上げの通りにくさは変わらない。
純利益98億円は、政策保有株の売却益(約46億円)を含む。繰り返せる稼ぎは、会社予想の60億円台が実力に近い。売却益は一度きりで、稼ぐ力とは別物だ。
評価できるのは、構造改革の実行力である。生産拠点の再編と不採算商品の整理で、3期続いた赤字を断ち切った。新しい中期計画は、営業利益90億円、ROE7.6%を掲げる。堅実だが、資本コストには届かない。
10年後の中立の姿は、利益率3%前後、ROE6%台の成熟した食品会社だ。資本コストを下回る会社の価値は、ためた利益の額面より低い。純資産に比べて安く見えても、それは割安の根拠にならない。
悲観の筋書きでは、赤字の構造に戻る。その確率は無視できず、確率で織り込んだ総合の価値は、今の時価総額をやや下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、問うべきは3つある。この事業は10年後も残るか、堀は広がるか、そして経営は資本を上手に使うかだ。
事業は残る。ハムもサラダチキンも、毎日の食卓の品だ。ただ、堀は広がっていない。上位3社と量販店の自社商品に挟まれ、価格を自分で決める力が弱い。堀の弱い会社の利益は、景気の山の利益と同じで、先で薄れる。
オーナー利益(再投資を引いて株主に残る利益)を考えると、実力は純利益60億円台である。ここから設備更新の資金(年45億円前後)を考えると、自由に使える金は多くない。利益の質は、数字ほど高くない。
資本の使い方は改善中だ。政策保有株を売って還元に回す方針は、株主の立場から見て筋が通っている。ただしROEが資本コストに届かない間は、ためた利益の価値は額面に満たない。純資産に比べて安いことは、それだけで魅力ではない。
安全域は、今の値段と比べると薄い。悲観の筋書きでは、赤字の構造に戻る恐れがあり、その場合の床は純現金と売れる株の合計、140億円ほどしかない。
筆者は、改善の物語が10年続くことに賭けるほどの確信は持てない。わかりやすい事業だが、儲けの力が足りない。そのため、確率を悲観側に厚く置いている。
何で稼ぐ会社か
丸大食品の事業は、加工食品と食肉の2本である。連結売上は2,384億円で、加工食品が1,605億円、食肉が778億円を占める。
加工食品の中身は2つに分かれる。ひとつはハム・ソーセージだ。「燻製屋」シリーズ(2026年に発売30周年)、徳用ウインナー、フィッシュソーセージが主力になる。もうひとつは調理加工食品で、サラダチキン、レトルト、チルド惣菜、デザートなどが並ぶ。内訳は開示がなく、筆者の推定ではおおむね55対45である。
稼ぐ力は加工食品にある。2026年3月期の加工食品の利益は約68億円で、利益率は4%台だ。食肉は豚・牛・鶏を仕入れて売る商売で、利益は約7億円にとどまる。売上は大きいが、儲けの源にはなっていない。
食肉は、一次加工(肉を切り分ける最初の工程)の自社化で利益を厚くする方針だ。自社で加工すれば、原料相場の振れを一部吸収できる。ただ、効果が出るのはこれからだ。
従業員は連結で約1,900人。ほかにパートなどの臨時従業員が約2,800人いる。人手に頼る工場が多く、人件費の上昇が利益を直接削る。2027年3月期の設備投資は約48億円と、大型投資に打って出る計画はない。
財務も見ておきたい。純現金は12億円と、ほぼ収支が釣り合う程度。これに加えて、純資産の約2割(約150億円)を政策保有株が占める。この株の売却が、還元と投資の原資になる。
優良さと弱いところ
この会社の堀(他社がまねできない強み)は、薄い。国内のハム・ソーセージは、日本ハム、伊藤ハム米久、プリマハムの上位3社が市場の大半を握り、丸大食品のシェアは筆者の推定で1割弱だ。量販店の自社商品も強く、値上げを自力で通す力は弱い。
その証拠が、2022年3月期から3期続いた赤字である。2023年3月期に構造改革を発表し、2024年3月期には減損を出した。会社単体の赤字は120億円を超えた。強い堀のある会社は、原料高の局面でも赤字にならない。
ただし、立て直しは本物だ。改革の中身は、生産拠点の再編、不採算商品の整理、物流拠点の統合である。その結果、2026年3月期の営業利益は75億円まで戻り、旧中期計画の目標(70億円)を2年前倒しで達成した。経営陣の実行力は評価できる。
資本効率はまだ低い。過去10年のROE(自己資本利益率)の中央値は2%台で、今期の13%は売却益の押し上げによる。実力のROEは会社予想の8%前後だ。新計画の目標も7.6%にとどまり、資本コストの水準には届かない。
財務は健全である。自己資本比率は61%、純現金も小さいながらプラスだ。借金に頼らず、危機を自力で越える体力はある。ただし堅いからといって、倍率を上げる理由にはしない。
要するに、良い会社になりつつある普通の会社である。改善の勢いは本物だが、持続力はまだ証明されていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の食肉加工品市場は、人口減で数量が緩やかに減る成熟市場だ。ハム・ソーセージ・ベーコンの国内生産は90万トン前後(筆者の推計)で、10年で見れば年0.5〜1%ずつ細ると見るのが自然である。
数量の減りを、価格改定が補ってきた。2022年から2024年にかけて業界は計6回の値上げを行い、2025年も7回目に踏み切った。原料の豚肉・牛肉、包装資材、物流費、人件費が同時に上がったためだ。ただし値上げが続くほど、消費者は安い自社商品や特売に流れやすい。
利益の水準は、会社ごとに差がある。直近では、伊藤ハム米久は食肉の相場変動に価格転嫁が追いつかず減益、プリマハムは売上が過去最高でも営業利益は前年並みだった。業界の営業利益率は2〜3%台に収まっている。丸大食品の3.1%は、その上限に近い。
追い風もある。単身世帯の増加や共働きの広がりで、サラダチキン、レトルト、惣菜といった簡便な調理品の需要が伸びている。外食や給食の人手不足は、業務用の調理済み食品に追い風だ。丸大食品はレトルトの生産ラインを増強し、業務用の開拓を急いでいる。
向かい風は、輸入豚肉の関税や飼料の相場、為替である。ドル円は150円で固定する前提だが、原料相場そのものの上げ下げは別の問題として残る。
結局、この市場で儲かるのは、値上げが通るブランド品と、簡便な調理品を持つ会社だ。丸大食品は両方に手を出しているが、どちらも1番手ではない。
資本政策と M&A
資本政策の中心は、政策保有株の売却と還元の拡大である。2024年11月に取締役会が、2026年3月末までに保有を2割ほど減らし、純資産比を20%以下にする方針を決めた。2026年2月には13銘柄の一部を売り、約46億円の売却益が出た。
ただ、株価が上がったため、2026年3月末の純資産比は20.4%と目標にわずかに届かなかった。会社は2027年3月末に向けて追加の売却を続けるとしている。売却代金は、成長投資と還元(配当・自社株買い)に充てる。
還元は厚みを増している。2026年3月期の1株配当は前期から4割増えた。新たに中間配当も始める。ただし、この配当の裏には売却益がある。繰り返せる利益に対する余力を考えると、増配を続けられるかは利益の定着にかかる。
M&A(企業の買収・合併)は、大きな動きは見当たらない。設備投資は2027年3月期で約48億円と、大型投資を避けている。買収で価値を壊すリスクは小さい反面、成長を買う手段も使っていない。
TOB(株式の公開買い付け)の可能性について、確かな材料はない。kabufuのモデル推計では、10年以内の買収の確率は27%と出ている。時価総額が約520億円と小さく、純資産を下回って取引されていることが、その背景にある。
株主優待は、200株以上で3千円相当に長期で1.5千円相当を足す自社商品。会社は優待の費用を開示していないため、200株以上の約7千人(自社商品の原価と送料)から年1.9億円と推定した。優待は株主が受け取る現物の還元なので、10年の還元に年額×10年を、中立1.0・やや悲観0.75・悲観0.5の係数で足した(費用は販管費として利益から引き済みで、自己資本の流れには入れない)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
構造改革は終わっていない。これからが効く。生産拠点の再編で固定費が下がり、不採算商品を整理したことで、売れる商品に生産が集まっている。2026年3月期の営業利益75億円は、改革の初期の成果にすぎない。
燻製屋は発売30周年を迎え、徳用ウインナーやフィッシュソーセージも堅調だ。ハム・ソーセージは、量を追わず、利益の取れる商品に絞れば、利益率はまだ上がる。
調理加工食品は、成長の主役になる。サラダチキンやレトルト、デザートは、単身世帯や共働きの増加で需要が伸びる。外食や給食、惣菜の人手不足は、調理済みの業務用品に追い風だ。レトルトラインの増強が、その需要を取り込む。
食肉は、一次加工を自社で行えば、相場の波に強くなる。利益率が1%を超えれば、全体を押し上げる。
資本政策も味方になる。政策保有株の売却代金が、成長投資と還元に回る。会社は2030年に売上3,000億円、営業利益100億円を掲げており、この目標が射程に入る。
そして、時価総額は純資産を下回る。会社が資本効率を意識すれば、株主還元は増え、評価の見直しも進む。
慎重な見方
利益率が高く見えるのは、改革直後の一時的な姿にすぎない。この会社は、2022年3月期から3期連続の赤字に沈んだ。会社単体では2024年3月期に120億円を超える赤字を出し、減損も計上している。改善が2年続いたからといって、構造が変わったとは言えない。
ハム・ソーセージは、日本ハム、伊藤ハム米久、プリマハムの上位3社と、量販店の自社商品に挟まれた市場だ。人口が減る中で、値上げを重ねるほど、消費者は安い方へ流れる。値上げの余地は、すでに使い切りつつある。
食肉は、売上778億円に対して利益が7億円しかない。豚や牛の相場が少し動くだけで、赤字になる。一次加工の自社化も、設備と人件費を先に払う投資であり、成果は確かではない。
人件費と物流費は、物価以上に上がる。工場は人手に頼る度合いが高く、賃上げが利益を直接削る。2027年3月期の営業利益予想が75億円で横ばいなのは、すでに伸びが止まっている証拠だ。
2026年3月期の純利益98億円は、売却益約46億円を含む。それを除けば、実力は60億円台である。ROEで見ても、会社自身の目標は7.6%と、資本コストの8%に届かない。
結局、純資産に比べて安いのは、稼ぐ力に対して当然の評価だ。ROEが資本コストを下回る会社の価値は、ためた利益の額面より低い。
どちらに重みを置いたか
構造改革の実行力と、利益の薄さのどちらも本物だ。強気の見方は、改善の方向について正しい。慎重な見方は、改善の水準について正しい。
3期続いた赤字は、この会社の収益力が脆いことの証拠であり、2年間の回復だけでは、その見方を覆すに足りない。そのため確率は慎重な見方に寄せ、悲観を15%、やや悲観を27%と厚く置いた。楽観は6%にとどめた。
結果として、総合の価値は今の時価総額をやや下回る。ただし、競合の日本ハム、伊藤ハム米久、プリマハムと比べると差は小さい。丸大食品の時価総額が小さく、今の値段が低めに付いているためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,276 円785 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,102 円264 億円)。 今の値に割り戻すと 2,182 円523 億円、今との差 −0.7%、 期待の年率 +7.1%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 5,308 円1,272 億円 | 1,831 円439 億円 | +224.8% | +12.5% | 428 円103 億円 |
| やや楽観 | 18% | 4,664 円1,118 億円 | 1,498 円359 億円 | +180.3% | +10.9% | 1,109 円266 億円 |
| 中立 | 34% | 4,158 円997 億円 | 1,331 円319 億円 | +149.7% | +9.6% | 1,866 円447 億円 |
| やや悲観 | 27% | 2,293 円550 億円 | 768 円184 億円 | +39.3% | +3.4% | 827 円198 億円 |
| 悲観 | 15% | 572 円137 億円 | 415 円100 億円 | −55.1% | −7.7% | 148 円35 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,276 円785 億円 | 1,102 円264 億円 | +99.2% | +7.1% | 4,378 円1,049 億円 |
今の株価時価総額 2,198 円527 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 構造改革が定着し、業務用と調理加工で伸びる10年 利益 102 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 5,308 円1,272 億円
構造改革が定着し、調理加工と業務用が伸びる。ハム・ソーセージは、燻製屋など利益の取れる商品が育ち、利益率が5%近くに乗る。調理加工食品は、サラダチキンとレトルトの業務用が広がり、数量が25%伸びる。
食肉は、一次加工の自社化が効いて、利益率が1%を超える。政策保有株の売却代金は、設備投資と還元に使われる。営業利益は127億円と、会社が掲げる2030年の目標100億円を上回る。
それでもROEは8%台半ばで、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。食品の加工業は、儲けの水準そのものに天井があるためだ。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.9億円×10年×1.0=19億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- ハム・ソーセージ:数量 7.9(販売数量(万トン))× 価格 154(1トンあたり出荷単価(万円))→ 売上 1,217 億円・営業利益 58 億円。燻製屋など高付加価値品の定着
- 調理加工食品:数量 13.0(販売数量(万トン))× 価格 98(1トンあたり出荷単価(万円))→ 売上 1,274 億円・営業利益 57 億円。業務用・サラダチキン・レトルトの拡大
- 食肉(豚・牛・鶏の販売と一次加工):数量 14.1(取扱数量(万トン))× 価格 74(1トンあたり販売単価(万円))→ 売上 1,039 億円・営業利益 11 億円。一次加工の自社化が利益に効く
倍率:事業の純利益 101 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)62 億円。全体の PER 12.31 倍、時価総額 1,304 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 11.83 倍・時価総額 1,207 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:調理加工の業務用開拓、ハムの高付加価値化、食肉の一次加工が同時に当たる必要があり、実現すれば強いが、連続成功の確度は高くない。小さな会社の改善が10年続く姿なので6%にとどめた。
やや楽観 18% 営業利益3%台を保ち、緩やかに伸びる10年 利益 86 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,664 円1,118 億円
新中計の路線がそのまま10年続く。営業利益は約108億円まで伸び、利益率は3.3%に乗る。ハム・ソーセージは価格改定が通り、収益が改善する。調理加工は、業務用の拡大で数量が16%伸びる。
食肉は、一次加工の内製化で利益率が1%に乗る。配当は増え、政策保有株の売却は進む。営業利益は中計の目標(90億円)を上回る。
ただ、価格競争は続き、ROEは7%台にとどまる。資本コストに届かない会社の価値は、ためた利益に伴って伸びない。国内の数量は細り続けるため、利益を伸ばすのは価格改定と業務用の開拓だけになる。配当は増えるが、自社株買いを大きく増やせるほどの余力はない。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.9億円×10年×1.0=19億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- ハム・ソーセージ:数量 7.6(販売数量(万トン))× 価格 151(1トンあたり出荷単価(万円))→ 売上 1,145 億円・営業利益 50 億円。価格改定が通り、収益が改善
- 調理加工食品:数量 12.0(販売数量(万トン))× 価格 96(1トンあたり出荷単価(万円))→ 売上 1,151 億円・営業利益 47 億円。業務用が伸びる
- 食肉(豚・牛・鶏の販売と一次加工):数量 13.8(取扱数量(万トン))× 価格 74(1トンあたり販売単価(万円))→ 売上 1,017 億円・営業利益 10 億円。一次加工で利益率が小幅に改善
倍率:事業の純利益 85 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)62 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 1,060 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新中計が掲げる営業利益90億円規模(売上2,550億円)は、旧計画を2年前倒しで達成した実績からして手が届く。ただし10年は長く、中計の延長線までを置いた。
中立 34% 利益率は3%前後で落ち着き、規模は物価で伸びる10年 利益 74 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,158 円997 億円
10年後も、売上は物価で伸びて3,100億円台になる。数量は、ハム・ソーセージが微減、調理加工が1割増、食肉が微減で、全体ではほぼ横ばいだ。
営業利益は93億円、利益率は3%に落ち着く。今の3.1%から少し下げるのは、競合の水準(2%台)に近づく力が働くためだ。構造改革の成果の大半は残るが、人件費と物流費が価格改定を追いかけ続ける。
政策保有株の売却は進み、売却代金は還元と設備に回る。ROEは6%台で、資本コスト(8%)に届かない。食品の成熟企業として、安定はするが、資本を増やしても稼ぎは増えない姿だ。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.9億円×10年×1.0=19億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- ハム・ソーセージ:数量 7.4(販売数量(万トン))× 価格 147(1トンあたり出荷単価(万円))→ 売上 1,085 億円・営業利益 43 億円。数量は人口減で微減、価格は物価並み
- 調理加工食品:数量 11.4(販売数量(万トン))× 価格 94(1トンあたり出荷単価(万円))→ 売上 1,069 億円・営業利益 41 億円。業務用で数量は1割増
- 食肉(豚・牛・鶏の販売と一次加工):数量 13.4(取扱数量(万トン))× 価格 74(1トンあたり販売単価(万円))→ 売上 990 億円・営業利益 9 億円。利益は薄いまま
倍率:事業の純利益 73 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)62 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 919 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界ノートの中心の見立て(国内の数量は緩やかに減り、物価分は価格で取り戻す)と、中計の利益の改善を、半分ずつ織り込んだ筋書き。10年の利益率は競合の2%台より少し高い3%程度に置いた。
やや悲観 27% 価格競争と原料高で利益率が2%台に戻る10年 利益 43 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 2,293 円550 億円
ハム・ソーセージの価格競争が強まり、量販店の自社商品が棚を広げる。値上げは通りにくくなり、原料と人件費の上昇を吸収しきれない。ハム・ソーセージの利益率は3%を割る。
調理加工は、競合の参入で単価が下がり、業務用の数量も伸びない。食肉は、相場の逆風で利益が消える。営業利益は56億円と、今より25%少ない。
政策保有株の売却で還元は維持するが、増配はできない。ROEは4%を下回る。3期連続の赤字に沈んだ時の姿に、少し近づく10年である。構造改革の成果が一巡し、次の一手が見つからないまま、人件費だけが重くなる。市場は、この会社を成長の止まった食肉加工会社として扱うことになる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.9億円×10年×0.8=14.2億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- ハム・ソーセージ:数量 7.0(販売数量(万トン))× 価格 143(1トンあたり出荷単価(万円))→ 売上 1,001 億円・営業利益 28 億円。競争で利益率が戻る
- 調理加工食品:数量 10.4(販売数量(万トン))× 価格 90(1トンあたり出荷単価(万円))→ 売上 932 億円・営業利益 23 億円。価格競争が強まる
- 食肉(豚・牛・鶏の販売と一次加工):数量 12.7(取扱数量(万トン))× 価格 72(1トンあたり販売単価(万円))→ 売上 908 億円・営業利益 5 億円。相場の逆風で利益が消える
倍率:ROE 3.8%は k 8.5%を大きく下回る。稼ぐ力(事業の純利益÷k)は約 530 億円で、その約 7 割(9.0倍)に置いた。中立より低い倍率。
確率:ハム・ソーセージは上位3社と量販店のプライベートブランド(店の自社商品)に挟まれ、過去の赤字も3期続いた。改善が一巡して2%台に戻る姿は、決して珍しくない。
悲観 15% 不採算が再び広がり、構造的に優良さを失う10年 利益 8 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 572 円137 億円
原料高と価格競争、人件費の上昇が同時に襲い、ハム・ソーセージと調理加工の利益率は1%前後まで落ちる。食肉は相場の下落で赤字になる。かつて3期連続の赤字に沈んだ構造が戻る。
営業利益は14億円しかなく、会社は再び構造改革と減損に追われる。配当は削られ、還元は最小限になる。
株式市場は、この会社を稼ぐ力の乏しい食肉加工会社として評価する。価値の床は、純現金と売れる政策保有株の合計、140億円ほどになる。10年後の国内の数量は、人口減と若い世代の購買の変化で、今より2割ほど細る。値上げで補えず、競合の安い商品に押される。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年1.9億円×10年×0.5=9.5億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- ハム・ソーセージ:数量 6.2(販売数量(万トン))× 価格 132(1トンあたり出荷単価(万円))→ 売上 818 億円・営業利益 10 億円。価格競争と原料高で採算が崩れる
- 調理加工食品:数量 9.0(販売数量(万トン))× 価格 84(1トンあたり出荷単価(万円))→ 売上 756 億円・営業利益 6 億円。業務用の単価下落
- 食肉(豚・牛・鶏の販売と一次加工):数量 11.0(取扱数量(万トン))× 価格 66(1トンあたり販売単価(万円))→ 売上 726 億円・営業利益 −2 億円。相場の下落で赤字
倍率:事業の純利益は約9億円で、稼ぐ力(÷k)はおよそ110億円しかない。価値の床は、純現金12億円と売れる政策保有株の税後約130億円の合計140億円。今の自己資本761億円に0.18倍を掛けて137億円とした。
確率:過去3期の連続赤字(2022〜2024年3月期)は、この会社の収益力がそもそも脆いことを示した。同じ構造に戻る確率を、競合の水準(15%)に揃えて置いた。資本コストの上乗せ(quality)と同じ理由で二重には上げていない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ハム・ソーセージ
「燻製屋」「ガーリックウインナー」などのハム・ソーセージ・ベーコンを、量販店・コンビニ・業務用に売る事業。加工食品事業の中で、収益の改善が最優先の課題になっている。
| 数量販売数量(万トン) | 価格1トンあたり出荷単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.0 | 110 | 880 | 40 |
| 10 年後 中立 | 7.4 | 147 | 1,085 | 43 |
取り方:開示は加工食品事業(売上1,605億円・利益68億円)まで。ハム・ソーセージと調理加工食品への内訳は開示がないため、筆者が約55対45と推定し、売上を880億円、利益を40億円とした。単価は出荷ベースでトンあたり110万円前後と置き、数量は約8万トン。国内のハム・ソーセージ・ベーコンの市場を90万トン前後と見て、シェアは1割弱。数量は実質で人口減により中立10年0.92倍、価格は名目で物価並みの1.34倍。
調理加工食品
サラダチキン、レトルト、チルド惣菜、デザートなどの調理加工品。量販店向けに加え、惣菜・外食・給食の業務用ルートを広げている。
| 数量販売数量(万トン) | 価格1トンあたり出荷単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.4 | 70 | 725 | 28 |
| 10 年後 中立 | 11.4 | 94 | 1,069 | 41 |
取り方:ハム・ソーセージとの内訳は推定(売上725億円、利益率3.8%)。単価は70万円前後のトンあたり出荷単価と置き、数量は約10万トン。サラダチキンとレトルト、デザートの平均。簡便化需要と業務用の拡大、レトルトラインの増強を理由に、数量は中立10年1.10倍、価格は名目で物価並みの1.34倍。
食肉(豚・牛・鶏の販売と一次加工)
豚肉・牛肉・鶏肉を仕入れて売り、一部は自社で一次加工する事業。売上は大きいが利益は薄く、相場の上げ下げで利益が振れる。
| 数量取扱数量(万トン) | 価格1トンあたり販売単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 14.1 | 55 | 778 | 7 |
| 10 年後 中立 | 13.4 | 74 | 990 | 9 |
取り方:食肉事業の売上は778億円、利益は6.9億円(利益率0.9%、開示)。畜肉の平均卸単価を55万円前後と置いて取扱数量を約14万トンと推定した。数量は国内の消費の横ばい〜微減で中立10年0.95倍、価格は名目で物価並みの1.34倍(相場の山谷は10年でならす)。
リスクと懸念
加工食品の価格競争
ハム・ソーセージは上位3社と量販店の自社商品に挟まれ、値上げが通りにくい。業界が2022年から7回値上げした後で、消費者の値ごろ感の学習が進み、安い商品へ流れる動きが強まれば、価格改定の効果が薄れる。
食肉事業の薄い利益
食肉は売上778億円に対して利益が7億円で、利益率は1%に届かない。豚・牛・鶏の相場が動くたびに赤字へ振れる体質で、一次加工の自社化が効かなければ、全社の利益の足を引く。
赤字の再発
2022年3月期から3期続いた赤字(2023年に構造改革、2024年に減損)は、収益力の脆さを示した。改革の成果が一巡した後に、同じ構造へ戻るリスクがある。
人件費と物流費の上昇
従業員は連結で約1,900人、臨時従業員も約2,800人と人手に頼る。賃上げと物流費の上昇が、価格改定の速さを上回れば、利益率はすぐに下がる。
政策保有株の売却益への依存
2026年3月期の純利益98億円は約46億円の売却益を含む。この売却益は一度きりで、会社予想の純利益は60億円台に戻る。還元が売却益に支えられていると、増配を続けにくい。
資本効率の低さ
新しい計画のROE目標は7.6%と、資本コストの8%に届かない。改善が資本コストを超えない限り、自己資本が増えても価値は増えず、株主の評価は上がりにくい。
原料・為替の相場
輸入豚肉・牛肉と飼料、包装資材の相場が急に動くと、価格転嫁が数四半期遅れて利益を圧迫する。本分析はドル円を150円で固定するが、現実の円相場は利益に直接効く。
今後の分かれ目
- ハム・ソーセージの利益率が5%近くに乗ったら
- 構造改革が定着したとみて、楽観・やや楽観側に確率を移す。
- 食肉事業の利益率が1%を安定して超えたら
- 一次加工の自社化が効いたと判断し、中立の利益率を引き上げて見直す。
- 原料相場が急騰し、価格改定が追いつかなくなったら
- やや悲観・悲観側に確率を移し、赤字の再発を前提に評価する。
- 政策保有株の売却が進み、自社株買いが大きく増えたら
- 自己資本が圧縮されてROEは上がるが、利益そのものは変わらない。倍率の上限は変えず、還元の増加分だけを加える。
- 営業利益が90億円(新計画の目標)を2年続けて超えたら
- 中立の利益率を3%台前半へ引き上げる余地を検討する。
- 競合の再編や買収の動きが出たら
- TOB(公開買い付け)の可能性を評価に加え、悲観側の下値を厚く見直す。
見ておくもの
- ハム・ソーセージと調理加工の利益率(営業利益率4%台を維持できるか)
- 食肉事業の利益率(1%を安定して超えるか)
- 中期計画の営業利益90億円・ROE7.6%の達成度
- 政策保有株の縮減の進み具合と、売却代金の使い道(還元・投資)
- 原料相場(豚肉・牛肉・鶏肉)と価格改定の通り方
- 量販店の自社商品の拡大と、競合3社の値上げの動き
倍率と資本コストの決め方
数量×価格で、ハム・ソーセージ、調理加工食品、食肉の3つに分けて10年を積み上げた。ハム・ソーセージと調理加工の内訳は開示がなく、筆者の推定(55対45)である。倍率は、k 8.5%(基本7.5%+quality+0.5%)で、ROEが k 以下なので上限 1÷k=12.5倍を使い、利益の質で上限の約9割(楽観・やや楽観)と8.6割(中立)に置いた。今の株価・PER・PBRや同業の倍率から倍率を決めていない。2026年3月期の純利益98億円は政策保有株の売却益(約46億円)を含むため、将来の純利益には使っていない。やや悲観・悲観は稼ぐ力と純現金・売れる株の床で置いた。自己資本は「今の761億円+期間の純利益-還元」で流した。新リース会計基準(2028年3月期から貸借対照表に載る)の前の形、つまり家賃を営業費用に入れた形で10年後の数字を置いた。日本ハム・プリマハム・伊藤ハム米久(k 8.5%、quality+0.5%、確率7/18/35/25/15前後)と物差しを揃え、悲観の確率15%も同水準にした。 持ち合い株の含み益(税後83億円)は余り資産として戻り方0.5で足した(2026-10-19 見直し)。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityの+0.5%を足して8.0%。事業は傾いておらず、上乗せ(extra)は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 8.50%。