結論
J-オイルミルズは、国内で食用油を作る大手2社の一角だ。大豆や菜種を搾り、外食や食品メーカー向けの業務用の油と、家庭用の油を売っている。味の素が27%を持つ筆頭株主で、三井物産が13%近くを持つ。
筆者の結論は、今の値段は割高ということだ。理由は単純で、稼ぐ力が資本コストに届かない。直近の営業利益率は2%、ROEは4%台で、会社が掲げるROE8%は目標年度が延ばされてきた。
油は輸入の大豆・菜種に頼る汎用品で、原料が上がっても価格に通すのに時間がかかる。2024年度は営業利益が過去最高の86億円まで伸びたのに、2025年度は半分に落ちた。ミールという搾りかすの値下がりも響いた。
10年後を考えると、国内の需要は人口減でゆるやかに減る。会社は高付加価値の油と素材、海外で補う計画だが、中立の見立てでも営業利益率は3%強、ROEは5%程度にとどまる。ここから導く本質価値は、今の時価総額を大きく下回る。
救いは財務が堅いことと、味の素という後ろ盾があることだ。ただ、堅さは安全域にはなるが、稼ぐ力そのものを上げるわけではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず事業の持続性を見る。食用油は10年後も必要な商品だが、人口とともに量が減る汎用品で、値段を自分で決められない。持ち続けたい事業の条件である、他社がまねできない堀と、価格を決める力のどちらも弱い。
次に、オーナーに残る利益を見る。営業利益は2024年度の86億円から2025年度に44億円へ落ちた。これだけ振れる利益は、予測しにくい。設備や在庫に投じるお金は毎年かかるので、株主が自由に使える利益はもっと小さい。
経営の資本配分は、慎重で守りだ。借金は小さく、配当も増やしている。ただ、第六次中計の目標年度を延ばしてきた事実は、収益力を高める手腕に疑問を残す。
安全域の点では、自己資本が時価総額を上回る点は心強い。しかし、ROEが資本コストに届かない会社では、ためた利益は帳簿の額より小さい価値でしかない。帳簿が厚いから安全とは言えない。筆者は、いまの値段は事業の実力以上に評価されていると考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの9割は油脂事業だ。大豆と菜種を工場で搾り、油と、搾りかすのミールに分ける。油は外食・中食・食品メーカー向けの業務用と、スーパーに並ぶ家庭用に売る。ミールは飼料として畜産に売る。
業務用の油が中心で、フライ油やショートニングなど用途に合わせた商品を持つ。ここでは国内の首位級とされ、大口の顧客を抱える。家庭用は「味の素」「JOYL」ブランドで売る。家庭用マーガリンは赤字が続き、2024年3月末に撤退した。
搾油は、日清オイリオグループと工場の統合を進めている。2023年に西日本の搾油を共同会社に移した。油とミールの値の差で採算が決まる商売なので、工場の稼働率を上げて固定費を薄めるのが狙いだ。
もう一つの柱がスペシャリティフードで、売上は190億円ほどと小さい。大豆シートやテクスチャー素材、ビタミンK2などを作り、北米と東南アジアで売る。利益率が油より高く、会社が育てたい分野だ。植物性食品では、Upfield社と組んで参入している。どちらも、油の薄利を補う新しい稼ぎの芽として会社が位置づけている。
優良さと弱いところ
油の堀(他社がまねできない強み)は浅い。国内は日清オイリオとの2社で6割ほどを分け合う寡占(古い業界資料による)で、業務用では顧客との長い関係と開発力がある。ただし、製品は原料で決まる汎用品に近く、値段は市場が決める。2025年度は価格改定が想定ほど通らず、営業利益が半減した。
利益率は薄く、過去10年の営業利益率は0〜4%台。最良は2006年3月期の4.7%だ。ROEも過去10年の中央値は5%台にとどまる。
財務は堅い。自己資本比率は66%、利払いに困らない。だから借り換えの金利が上がっても痛みは小さい。ただ、堅い財務は事業が稼ぐ力を示すものではない。
素材事業は利益率が高いが、まだ売上の1割に満たない。経営は収益改善を掲げてきたが、第六次中計の目標(営業利益110億円)は目標年度が延ばされた。計画と実績のずれが大きい点が、筆者はいちばん気になる。味の素のブランドと販路は強みで、これが堀の代わりに働いている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の食用油の需要は、人口減とともにゆるやかに減る。日清オイリオとの提携を検討した2019年にも、両社は油と粕の需要が長期に減ると認めている。外食や中食の需要は底堅いが、家庭用は世帯が減り、節約志向もあって量が落ちる。
原料の大豆と菜種は輸入だ。世界ではバイオ燃料向けに油の需要が強く、油の値は上がりやすい。一方、ミールは値が上がらない。油が高くミールが安い状態が続くと、搾油の採算は悪化する。2025年度はまさにこの形だった。
価格に転嫁する力は、会社の努力だけでは決まらない。2026年1月に家庭用で9〜14%の値上げを実施し、6月にも追加で改定した。それでも2025年度は、コストの上昇に価格改定が追いつかなかった。
構造が変わる材料は搾油の統合だ。日清オイリオとの統合で工場の無駄を減らせば、固定費は下がる。もう一つは高付加価値品の比率で、会社は93対7から64対36へ変える計画を立てている。ただし、この業界は大手が少なく価格競争が限定的な反面、需要の縮小が続くので、利益率が大きく改善する余地は小さい。
資本政策と M&A
還元は拡大の方向にある。配当は2026年度に増やす予定で、2025年度の配当性向は5割弱だった。配当の目安はDOE(純資産に対する配当の割合)3%程度だ。第六次中計では配当性向40%を掲げてきた。
自己資本は1,100億円で、時価総額を上回っている。財務は堅く、有利子負債は小さい。M&Aは最大300億円を想定しているが、実績は小さく、インドの健康食品事業やケミカル事業の撤退・譲渡のように、手放す動きが目立つ。
搾油の再編が最大の資本政策だ。日清オイリオと2023年に西日本の搾油を共同会社に移し、全国統合へ進める構えだ。政策保有株は減らす方針だが、額は開示されていない。
買われる側の可能性も頭に置く。筆頭株主の味の素は27%を持つが、子会社にする水準ではなく、味の素の持分法適用の関連会社という位置づけだ。味の素は油脂製品の大口の販売先でもあり、家庭用の「味の素」ブランドの油は同社を通して売る。親子上場のような割引は置かない。三井物産も13%近くを持つ。kabufuのモデルが出す、10年以内に買収される確率は約2割だ。ただし、買収の値段が本質価値に届くかは別の話になる。
株主優待は、200株以上で3千円相当、600株以上で5千円相当の自社製品・クーポン。会社は優待の費用を開示していないため、200株以上の約1.2万人(自社商品の原価と送料)から年3億円と推定した。優待は株主が受け取る現物の還元なので、10年の還元に年額×10年を、中立1.0・やや悲観0.75・悲観0.5の係数で足した(費用は販管費として利益から引き済みで、自己資本の流れには入れない)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
収益力はまだ底にある。2025年度の営業利益44億円は、原料高と価格改定の遅れが重なった谷の数字で、2024年度は86億円を稼いだ。価格改定は2026年1月と6月に続けて入り、通れば家庭用で1割前後、業務用でも高い伸びになる。
搾油の統合は、固定費を確実に削る。日清オイリオと工場の稼働率を上げれば、ミールが安い局面でも採算を保てる。2社の寡占なので、価格競争は限定的だ。
成長の芽もある。スペシャリティフードは売上こそ小さいが、前年に営業利益が7倍に増え、利益率は高い。北米の大豆シート、東南アジアの素材が伸びれば、全社利益の厚みが変わる。植物性食品への参入も、新しい柱になりうる。
財務は堅く、配当も増えた。自己資本が時価総額を上回り、ROEが戻れば、評価は大きく見直される。味の素と三井物産が安定株主として控え、会社は最大300億円のM&Aの余力も持つ。今の値段は、利益が戻る前の底値を織り込んでおり、10年後にはROEが7%台に戻りうる。
慎重な見方
利益率が薄い会社が、物価分の値上げを毎回遅れて通すという構造は変わらない。過去10年の営業利益率は0〜4%台で、最良でも4.7%(2006年)。会社の目標である2030年度の営業利益240億円は、過去最高の約3倍だ。第六次中計の目標年度は延ばされ、2024年度の最高益のあとにはすぐ半減した。
搾油の採算は、油が高くミールが安い状態が続くと悪化し続ける。ミールは飼料の需要が弱く値上がりしにくく、油はバイオ燃料の需要で原料が高い。搾油の統合は固定費を下げるが、この値の差は消せない。
国内の需要は人口減で細る。家庭用はマーガリンから撤退し、世帯の減少も重なって量を落とす。外食は大口顧客の値下げ要求が強く、業務用の単価は伸びにくい。素材事業は小さく、全社の穴は埋まらない。
ROEは過去10年の中央値で5%台。資本コストは会社も7%と認めており、この水準では自己資本を増やしても価値は増えない。利益を内部にため込んでも、帳簿の額より小さい価値でしかない。配当を増やす余地も小さい。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は、2025年度が谷だという点に根拠がある。ただ、谷から戻っても、過去の最良の水準までだ。2024年度の86億円は原料が下がった年の追い風を受けた数字で、構造的な力ではない。
慎重な見方は、薄利と価格転嫁の遅れという5年間の事実に立つ。10年の中立では営業利益率3%強、ROE5%程度にとどまり、資本コストに届かない。この場合、ROEが資本コストを下回る分だけ倍率は目減りし、中立でも7倍台にとどまる。悲観ほどROEが落ちて倍率はさらに低く、悲観は稼ぐ力でなく手持ちの資産(上場株と遊休化しうる土地から借金を引いた額)で値が付く。
確率は、中立に36%を置き、やや悲観と悲観に合わせて4割弱を置いた。2022〜23年と2025年の2回、価格転嫁のずれで利益が崩れた実績を重く見たためだ。総合の評価は割高になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,266 円750 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 989 円328 億円)。 今の値に割り戻すと 1,723 円571 億円、今との差 −24.0%、 期待の年率 +3.7%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,924 円1,631 億円 | 1,558 円516 億円 | +186.0% | +11.1% | 454 円150 億円 |
| やや楽観 | 19% | 3,699 円1,225 億円 | 1,256 円416 億円 | +118.6% | +8.1% | 942 円312 億円 |
| 中立 | 36% | 2,756 円913 億円 | 1,018 円337 億円 | +66.4% | +5.2% | 1,358 円450 億円 |
| やや悲観 | 25% | 795 円263 億円 | 762 円253 億円 | −31.3% | −3.7% | 389 円129 億円 |
| 悲観 | 13% | 214 円71 億円 | 649 円215 億円 | −61.9% | −9.2% | 112 円37 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,266 円750 億円 | 989 円328 億円 | +43.6% | +3.7% | 3,255 円1,078 億円 |
今の株価時価総額 2,267 円751 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 製油の再編と高付加価値化が両方当たる10年 利益 127 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 4,924 円1,631 億円
会社の描く収益改善が、ほぼ筋書きどおりに進む。汎用油は価格改定が定着して赤字体質を抜け、機能性の高い業務用油と大豆シートなどの素材が稼ぎの厚みを増す。日清オイリオとの搾油統合は西日本にとどまらず工場の稼働率を押し上げ、ミールの値下がりにも耐えられる体質になる。海外は北米の大豆シートと東南アジアが伸び、素材事業が全社利益の2割を超える。味の素のブランドと販路が効き、家庭用の油も値上げが通りやすくなる。営業利益率は5%近くまで戻り、配当は純利益の半分を超えて続く。ただし、これは過去の最良の利益率を超える水準で、油と穀物の相場、為替、価格改定の遅れという三つの壁を越えた時にだけ届く。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年3億円×10年×1.0=30億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 業務用・加工用の油:数量 39.2(販売量(万トン))× 価格 42(1トンあたり単価(万円))→ 売上 1,642 億円・営業利益 74 億円。数量はほぼ保ち、単価は物価並み
- 家庭用の油:数量 14.7(販売量(万トン))× 価格 42(1トンあたり単価(万円))→ 売上 618 億円・営業利益 22 億円。世帯減で量が減る
- ミール(搾油の副産物):数量 59.9(販売量(万トン))× 価格 9.25(1トンあたり単価(万円))→ 売上 553 億円・営業利益 14 億円。値が低位で利益は薄い
- スペシャリティフード:数量 4.7(販売量(万トン))× 価格 104(1トンあたり単価(万円))→ 売上 485 億円・営業利益 41 億円。海外で数量が伸びる
倍率:事業の純利益 127 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.84 倍、時価総額 1,631 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去の最良の営業利益率(4%台)を超える水準が10年続く必要があり、会社の目標も延期されてきた。実現すれば強いが、連続して当てるのは難しい。
やや楽観 19% 価格改定が定着し、素材が育つ10年 利益 98 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,699 円1,225 億円
2025年度に届かなかった価格改定が、数年かけて通る。業務用の油は、機能を付けた高単価品の比率が上がり、利益率が3%台後半まで戻る。家庭用は値上げ疲れで量を失うが、単価で補う。ミールの値は低位で落ち着き、搾油の統合効果で赤字は出ない。スペシャリティフードは北米と東南アジアで需要を広げ、全社売上の1割強を占める。営業利益は10年後に120億円前後になり、過去最高の86億円を超えるが、会社の目標には届かない。配当は純利益の半分前後を維持する。ROEは7%近くまで戻るが、資本コストには届かない。配当は純利益の半分前後を維持し、財務の堅さは変わらない。味の素の販路と、日清オイリオとの搾油の統合が、利益の底上げを支える。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年3億円×10年×1.0=30億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 業務用・加工用の油:数量 38.0(販売量(万トン))× 価格 41(1トンあたり単価(万円))→ 売上 1,548 億円・営業利益 59 億円。数量はほぼ保ち、単価は物価並み
- 家庭用の油:数量 14.4(販売量(万トン))× 価格 41(1トンあたり単価(万円))→ 売上 588 億円・営業利益 18 億円。世帯減で量が減る
- ミール(搾油の副産物):数量 59.2(販売量(万トン))× 価格 9.25(1トンあたり単価(万円))→ 売上 548 億円・営業利益 11 億円。値が低位で利益は薄い
- スペシャリティフード:数量 4.2(販売量(万トン))× 価格 101(1トンあたり単価(万円))→ 売上 419 億円・営業利益 30 億円。海外で数量が伸びる
倍率:事業の純利益 98 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 1,225 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:価格改定の定着と素材の成長は、会社がいま取り組んでいる方向の延長で起きやすい。ただし2025年度の未達が示すとおり、時間がかかる。
中立 36% 原料高を転嫁しきれない成熟事業のまま、収益だけ少し戻る10年 利益 73 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,756 円913 億円
国内の油の需要は人口減でゆるやかに減る。業務用の油は外食・中食に支えられて量をほぼ保つが、家庭用は世帯の減少で量を落とす。価格改定は遅れながらも物価並みに通り、営業利益率は3%強まで戻る。これは過去10年の最良に近い水準だが、搾油の採算とミールの値が不安定で、それ以上は伸びない。スペシャリティフードは海外で伸び、全社利益の1/4弱を担うようになる。日清オイリオとの搾油統合は固定費を下げるが、油と粕の値の差には勝てない。配当は純利益の半分で続き、ROEは5%前後の低い水準にとどまる。外食の需要に支えられて業務用は崩れないが、家庭用の量は戻らない。10年を通して見ると、会社が自力で稼ぐ力は少しずつ戻るが、資本コストには届かない成熟事業のまま終わる。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年3億円×10年×1.0=30億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 業務用・加工用の油:数量 37.2(販売量(万トン))× 価格 40(1トンあたり単価(万円))→ 売上 1,472 億円・営業利益 44 億円。数量はほぼ保ち、単価は物価並み
- 家庭用の油:数量 14.1(販売量(万トン))× 価格 40(1トンあたり単価(万円))→ 売上 566 億円・営業利益 14 億円。世帯減で量が減る
- ミール(搾油の副産物):数量 58.6(販売量(万トン))× 価格 9.25(1トンあたり単価(万円))→ 売上 542 億円・営業利益 8 億円。値が低位で利益は薄い
- スペシャリティフード:数量 3.6(販売量(万トン))× 価格 98(1トンあたり単価(万円))→ 売上 356 億円・営業利益 21 億円。海外で数量が伸びる
倍率:事業の純利益 73 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.2% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 912 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の前提(国内需要の緩やかな縮小・原料高の転嫁の遅れ)と、2024年度の最高益から2025年度の半減までの振れを踏まえた中心の筋書き。
やや悲観 25% 競争と原料高で利益が薄いまま沈む10年 利益 42 億円 · PER 5.9 倍 · 株価時価総額 795 円263 億円
価格改定が毎回遅れ、物価分も転嫁しきれない。大豆・菜種の相場がバイオ燃料の需要で高止まりする一方、ミールは飼料の需要減で安いままで、搾油は薄利が続く。業務用の油は外食の淘汰と大口顧客の値下げ要求で単価が伸びず、家庭用はPBや輸入油に押されて量を落とす。スペシャリティフードは伸びるが、全社の穴埋めには足りない。営業利益率は2%にとどまり、2022〜23年のような赤字寸前の期が数回混じる。配当は純利益の半分を保つので、自己資本はほとんど増えない。財務は堅いので経営危機にはならないが、稼ぐ力は低いまま、10年が過ぎる。味の素などの大株主の動きが、再編の呼び水になる可能性もある。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年3億円×10年×0.8=22.5億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 業務用・加工用の油:数量 35.3(販売量(万トン))× 価格 38(1トンあたり単価(万円))→ 売上 1,353 億円・営業利益 27 億円。数量はほぼ保ち、単価は物価並み
- 家庭用の油:数量 13.1(販売量(万トン))× 価格 39(1トンあたり単価(万円))→ 売上 512 億円・営業利益 8 億円。世帯減で量が減る
- ミール(搾油の副産物):数量 56.7(販売量(万トン))× 価格 8.97(1トンあたり単価(万円))→ 売上 509 億円・営業利益 4 億円。値が低位で利益は薄い
- スペシャリティフード:数量 3.0(販売量(万トン))× 価格 95(1トンあたり単価(万円))→ 売上 284 億円・営業利益 13 億円。海外で数量が伸びる
倍率:ROE3.1%はk8%を大きく下回り、RONIC=5.8%。正当化PERは約6.9倍。上限の約85%(5.9倍)。倍率は中立の7.8倍より低く、ROEが落ちるほど目減りする(ROE÷kは中立0.61、やや悲観0.37)。同じ物差しで悲観まで通した。
確率:原料相場と価格転嫁のずれは、ここ5年で2回(2022〜23年、2025年)起きている。再び起きる確度が高く、確率を中立に近く置いた。
悲観 13% 搾油の統合が裏目に出て、構造的に稼げなくなる10年 利益 18 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 214 円71 億円
国内の油の需要が想定より早く縮み、搾油の再編で稼働率を上げても追いつかない。輸入の食用油や大手同士の価格競争で、汎用油の値段は物価に追いつかず、ミールはほぼ原価割れが続く。業務用の油は大口顧客に利益を吸われ、家庭用は撤退を迫られる。スペシャリティフードも海外で価格競争に巻き込まれる。営業利益率は1%前後に沈み、2022〜23年のような赤字寸前の期が常態化する。政策保有株や遊休地の売却が進むが、買い手が付く事業は限られる。配当は維持が難しくなり、減配が重なる。自己資本は積み上がらず、財務の堅さだけが残る。味の素などの大株主が持分の整理を考えても、買い手が付きにくい水準だ。還元には、株主優待の受け取り(費用ベース年3億円×10年×0.5=15億円)も足した。優待の費用は利益から引き済み。
- 業務用・加工用の油:数量 33.3(販売量(万トン))× 価格 37(1トンあたり単価(万円))→ 売上 1,229 億円・営業利益 15 億円。数量はほぼ保ち、単価は物価並み
- 家庭用の油:数量 12.0(販売量(万トン))× 価格 38(1トンあたり単価(万円))→ 売上 450 億円・営業利益 2 億円。世帯減で量が減る
- ミール(搾油の副産物):数量 53.6(販売量(万トン))× 価格 8.63(1トンあたり単価(万円))→ 売上 462 億円・営業利益 0 億円。値が低位で利益は薄い
- スペシャリティフード:数量 2.3(販売量(万トン))× 価格 91(1トンあたり単価(万円))→ 売上 214 億円・営業利益 6 億円。海外で数量が伸びる
倍率:ROE1.4%はk8%を大きく下回り、同じ式(RONIC=5.0%)の正当化PERは約4.3倍、上限の85%で3.7倍、事業の純利益18億円で約66億円。純現金+売れる資産の税後(71億円)がこれを上回るので、床の資産で値が付く。今の自己資本1,106億円に0.064倍を掛けた形で、帳簿の自己資本は床にしない。
確率:搾油の再編が裏目に出て構造的に稼げなくなる筋書き。過去20年で大きな赤字は2003年だけだが、需要の縮小と大手同士の競争は止まらないので、確率は軽くしない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
業務用・加工用の油
外食・中食・食品メーカー向けのフライ油、ショートニングなど。同社の稼ぎの中心で、国内の業務用では首位級とされる。
| 数量販売量(万トン) | 価格1トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 39.2 | 30 | 1,156 | 22 |
| 10 年後 中立 | 37.2 | 40 | 1,472 | 44 |
取り方:油脂セグメントの売上 2,069 億円(開示)を、業務用・家庭用・ミールに推定で割った。業務用は国内の外食・食品向けの量を約 39 万トン、単価を 1 トン約 30 万円と置いて 1,156 億円。内訳の公式開示は資料ごとに食い違うため推定。営業利益は油脂セグメントの 34 億円を、販売額の大きさと利益の薄さを踏まえて配分した。単価は名目で、中立は物価並みの 10 年 1.34 倍。数量は実質で、外食・中食の需要は人口減を映して中立 10 年 0.95 倍(日本の食用油の需要は人口とともにゆるやかに減ると業界は見ている)。 数量の突き合わせ:搾油量はおよそ100万トンで(倉敷だけで年37万トン、6工場)、ここから出る油は30万トン前後、ミールは60万トン台。油の販売量55万トンがそれを上回るのは、購入した油やパーム系の加工油脂を含むため。ミール63万トンとは整合。油の単価は大豆・菜種の相場と為替に連動して動き、中立では原料も物価並みに上がるので転嫁は遅れて物価並みに通すと置いた。
家庭用の油
スーパーで売る家庭用の食用油。「味の素」「JOYL」ブランドが中心。値上げの通りやすさが利益を左右する。
| 数量販売量(万トン) | 価格1トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 16.0 | 30 | 480 | 8 |
| 10 年後 中立 | 14.1 | 40 | 566 | 14 |
取り方:家庭用は売上を約 480 億円と推定(販売量約 16 万トン、単価 1 トン約 30 万円)。2024 年 3 月末に家庭用マーガリン(ラーマ)から撤退した後の油が中心。営業利益は 8 億円と推定。単価は名目で中立 10 年 1.34 倍。数量は実質で、世帯の減少と消費の節約志向、マーガリン撤退の後遺症を映して中立 10 年 0.88 倍。
ミール(搾油の副産物)
大豆・菜種から油を搾った後に残る粕(ミール)。飼料向けに売る。油とミールの値の差が搾油の採算を決める。
| 数量販売量(万トン) | 価格1トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 63.0 | 6.90 | 435 | 4 |
| 10 年後 中立 | 58.6 | 9.25 | 542 | 8 |
取り方:ミールの売上を約 435 億円と推定(販売量約 63 万トン、単価 1 トン約 7 万円)。2025 年度はミールの値下がりが営業利益を約 10 億円押し下げたと会社は説明している。営業利益は 3.8 億円と推定。単価は名目で中立 10 年 1.34 倍(飼料の穀物価格も物価で上がる)。数量は実質で、国内の畜産の縮小と搾油の統合を映して中立 10 年 0.93 倍。
スペシャリティフード
大豆シート、テクスチャー素材(食感を変える素材)、ビタミン K2 など。北米と東南アジアへ広げている。
| 数量販売量(万トン) | 価格1トンあたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.6 | 73 | 190 | 8 |
| 10 年後 中立 | 3.6 | 98 | 356 | 21 |
取り方:スペシャリティフードの売上 190 億円・営業利益 8.3 億円(開示。2025 年度は価格改定と数量増で増益)。単価を 1 トン約 73 万円と置いて数量約 2.6 万トンを逆算した。単価は名目で中立 10 年 1.34 倍。数量は実質で、北米の大豆シート、東南アジアの需要、植物性食品への展開を映して中立 10 年 1.4 倍(伸ばす理由:海外の販路)。
リスクと懸念
原料相場と価格転嫁のずれ
大豆・菜種の相場、為替、物流費が上がっても、価格改定には数か月以上かかる。2025年度はこのずれで営業利益が約半分になった。改定の幅(家庭用9〜14%など)が顧客に受け入れられるかも、毎回の試練になる。
ミールの値下がりと搾油の採算
油が高く、ミールが安い状態が続くと、搾油の採算が悪くなる。2025年度はミールの販売が営業利益を約10億円押し下げた。飼料の需要が弱く、輸入ミールとの競争もあるので、この傾向は続く可能性がある。
国内需要の縮小
人口減と世帯の減少で、食用油の量は長期に減る。家庭用は特に、節約志向と調理の簡素化で量を落としやすい。マーガリン撤退のあとに残る家庭用の油で、固定費を薄める難しさもある。
日清オイリオとの統合の実行
搾油の統合は固定費を下げる狙いだが、工場の再編には費用と時間がかかる。統合で期待した効果が出ないか、相手の都合で進まなければ、会社が描く収益改善の前提が崩れる。顧客の離反も論点になる。
収益計画の信頼性
第六次中計の営業利益110億円・ROE8%は、目標年度が延ばされた。長期の目標(2030年度に営業利益240億円超)も過去最高の約3倍と大きい。計画が現実と離れていると、配当や投資の判断が後手になる。
大株主の動き
味の素が27%、三井物産が13%近くを持つ。両社の戦略次第で、持分の売却や再編の話が出る可能性がある。買収の話が出れば値段が動くが、買収価格が本質価値を超えるとは限らない。
今後の分かれ目
- 価格改定が2回続けて想定どおり通ったら
- 業務用・家庭用の利益率の前提を上げ、やや楽観側に確率を寄せる。
- ミールの値が戻り、搾油の採算が改善したら
- 油脂の営業利益の前提を上げ、中立の利益率を3%台後半へ見直す。
- 日清オイリオとの搾油統合が全国に広がったら
- 固定費の削減を織り込み、やや楽観側の確率を厚くする。
- 原料相場が急騰し、価格改定が遅れたら
- 2022〜23年のような低採算の局面になるとみて、やや悲観・悲観側に確率を寄せる。
- スペシャリティフードの営業利益が全社の3割を超えたら
- 利益の質が上がるとみて、倍率の前提を上げる。
- 味の素などの大株主が持分の売却や統合を表明したら
- 買収の確率を見直す。ただし、買収価格が本質価値に届くかは別に検討する。
見ておくもの
- 価格改定の浸透度(家庭用・業務用)
- 油とミールの値の差(搾油の採算)
- 日清オイリオとの搾油統合の進み方
- スペシャリティフードの売上と利益率
- 次期中期経営計画の数値目標
- 味の素・三井物産の持分の動き
倍率と資本コストの決め方
油脂の3つ(業務用・家庭用・ミール)とスペシャリティフードの4つに分け、量(万トン、実質)と1トンあたりの単価(名目、物価並み1.34倍を基本)を推定で置いて積み上げた。倍率は5つの筋書きとも同じ式で置いた:正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、RONIC=k+0.5×(ROE−k)、g=4%、k=8%(基本7.5%に quality +1.0%)。楽観は上限の9割、それ以下は85%。ROEが落ちるほど上限が下がり、楽観10.5倍、やや楽観8.9倍、中立7.8倍、やや悲観5.9倍の順に低い。悲観はROE1.4%で同じ式なら3.7倍(約66億円)にしかならず、純現金+売れる資産の税後71億円(floor_assets_oku)がそれを上回るので床の資産で値を付けた。今の株価や過去のPER・PBRは見ていない。今の利益は2025年度の谷で、ならして中立の純利益は73億円、ROE5.2%(過去中央値5.2%と同程度)とした。純有利子負債は154億円で、余った現金は無いので分けていない。リースは大きくなく、新会計基準による数字の形の変化は小さい。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +1.0% を足した。事業が傾いているわけではないので上乗せは置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。