結論
ADEKA は、有機化学の合成技術で稼ぐ素材メーカーだ。事業は五つある。プラスチックに混ぜる樹脂添加剤、半導体の製造に使う材料、潤滑油添加剤などの環境材料、マーガリンなどの食品、そして農薬を中心にしたライフサイエンスである。筆者の結論は「適正」。良い会社だが、今の値段はその良さをすでに払っている。
強みは、事業が分散していることだ。一つの市場が崩れても、ほかが支える。kabufu の長期データでは、赤字の期がない。自己資本比率は 56% で、借金より現金が多い。
足元は追い風が吹く。今期は AI 向けの半導体用途が伸び、営業利益の予想は 500 億円に引き上げられた。前期より 2 割ほど多い。ただ、半導体材料は設備投資の波に左右される。一時の山を、10 年続く姿と見ない方がよい。
弱みは、稼ぐ効率の低さだ。ROE(自己資本に対する利益の割合)は 9% 前後で、化学の優良会社に比べると見劣りする。売上の 7 割は、利益率が 1 割に届かない事業が占める。利益の質を上げるには、半導体材料と農薬の比重がもっと高まる必要がある。
10 年後の中立の時価総額は今の 1.3 倍ほどで、配当と自社株買いを足すと年率で資本コスト(7.75%)に近い。悲観側(計 33%)を混ぜた本質価値は今の値段をやや下回り、安く買える値段ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ADEKA は「安心して持てるが、安くは買えない」会社だ。事業は五つに分かれ、顧客と作り込んだ品が多い。10 年後も、半導体の材料も農薬も、需要がなくなるとは考えにくい。
ただ、株主に残る利益の効率はもう一つだ。設備と研究に大きな投資を続ける一方で、ROE は 10% 前後にとどまる。稼いだ利益を再投資して、資本コストを大きく上回る利益を生み続けている、とまでは言えない。
安全域もほとんどない。10 年後の営業利益が中立で 1.6 倍になっても、割り引くと今の値段にほぼ等しい。足元の営業利益の増加は、AI 向けの山に乗った部分を含む。ここを基準にして買うと、山が過ぎた時に慌てる。
財務の堅さは評価する。借金より現金が多く、赤字の年がない。ただし、現金は時価総額の 6% にすぎず、これを安全域の柱にはできない。
筆者の構えはこうだ。半導体材料の利益が 150 億円を超えて定着したら、事業の質が変わったと見て、評価を上げる。それまでは、堅実な素材メーカーとして公正に評価する。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は五つある。売上が大きい順に、化学品が 5 割強、ライフサイエンスが 3 割弱、食品が 2 割だ。化学品はさらに三つに分かれる。
樹脂添加剤は、プラスチックを長持ちさせたり燃えにくくしたりする薬剤だ。酸化防止剤や難燃剤、塩ビ用の安定剤がある。家電や自動車の素材に入るため、景気と電気自動車の動きを受ける。半導体材料は、チップの製造で薄い膜を作る原料だ。先端のメモリ向けの高誘電材料が中心で、EUV 露光用の薬剤も手がける。久喜に新しい研究棟を建て、5 年で 500 億円超の先行投資をしてきた。環境材料は潤滑油添加剤などで、前期は利益が 15% ほど伸びた。
食品は、マーガリンやショートニングなどの加工油脂が中心だ。国内の高付加価値品は堅調だが、中国では低迷している。「フードテック」を掲げて新しい素材を育てている。
ライフサイエンスは農薬が主力で、医薬や動物薬も少し扱う。前期は欧米の販売が好調で、国内も米価の上昇で水稲向けが伸びた。売上は 1 割ふえ、利益は 26% ふえた。
利益率は事業で大きく違う。半導体材料は 2 割、環境材料と樹脂添加剤は 1 割前後、農薬は 9% ほど、食品は 5% である。会社全体では 10% に届く程度だ。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねできない強みは、「顧客と一緒に作り込んだ品」にある。半導体の材料は、顧客の工場の工程に入ると、簡単には替えられない。農薬も、登録を取った有効成分は長く売れる。どちらも価格だけの勝負になりにくい。
財務は堅い。自己資本比率は 56% で、純現金が 260 億円ある。配当は減らさない方針で、配当性向は 4 割以上を目指す。去年から今年にかけて、180 億円の自社株買いも終えた。
一方で、稼ぐ効率は中程度だ。ROE は 9% 前後で、10 年前の 7% 台から少し上がった程度にとどまる。営業利益率は 10% で、過去最高の水準にある。上がりきった数字で、ここからの改善は半導体材料と農薬の比重が増えるかにかかる。
弱いところもはっきりしている。樹脂添加剤は、家電や電気自動車の需要が弱く、汎用の品は中国の追い上げを受ける。食品は利益率が低く、中国で苦戦している。半導体材料は、先行投資がかさんで前期は 2 割近い減益だった。投資が実を結ぶ前に需要が崩れると、重荷になる。
競合は事業ごとに違う。半導体の前駆体(膜の原料)では、米国のエア・プロダクツやエンテグリス、韓国の UP ケミカルなどが同じ市場にいる。世界の順位を示す確かな統計は見つからなかった。筆者は、「強い会社の集まり」ではなく「堅実な会社の集まり」と見ている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ADEKA の稼ぎは、互いに関係の薄い五つの市場の合計だ。業界全体の景気より、それぞれの顧客の動きが効く。
いま最も勢いがあるのは半導体だ。AI 向けのサーバー投資で、メモリの高性能化と後工程の積層が進み、材料の使用量が増える。会社は前回の決算で、AI 関連の半導体用途の好調を上方修正の主な理由に挙げた。ただ、設備投資の山と谷は必ず来る。前期は微細化の足踏みで、半導体材料の利益が減った。
樹脂添加剤は、家電と電気自動車の停滞が続く。汎用の品は、中国の増産で値段が上がりにくい。住宅・インフラ向けの潤滑油添加剤などは、堅調に推移している。
農薬は、世界の需要が緩やかに伸びる。世界の食料需要が底堅いことが追い風だ。一方で、特許が切れた有効成分は安い後発品に置き換わる。新しい成分を出し続けられるかが、長期の分かれ目になる。
中東情勢でナフサ(石油化学の原料)の供給が詰まると、原料価格が先に上がる。値上げがすぐ通らない事業では、利益率が落ちる。会社の予想は、この影響を織り込んでいない。値上げが遅れた期は、利益がまず目減りする。
資本政策と M&A
還元の方針は、配当性向 40% 以上で、減配しない。去年 8 月には上限 180 億円の自社株買いを決め、今年 5 月までに約 480 万株を買って全部を消却した。
投資は 3 年で 750 億円の枠を持つ。そのうち 158 億円が半導体材料の生産設備で、100 億円が研究棟だ。投資の成果は、前期の半導体材料の減益にまだ表れていない。
M&A は、最近、大型のものを見かけない。内部で育てて設備に投じる会社である。買われる側になる可能性は、データ上は 10 年以内に 15% ほどとされる。ただ、TOB や買収提案の報道は確認できなかった。
政策保有株(取引先の株式)の方針は、今回調べた資料からは確認できなかった。資本の使い方で気になるのは、投資の回収に時間がかかり、ROE が上がりにくい点だ。自社株買いが続くかどうかが、資本効率の改善を左右する。
点検済み:中立の営業利益率11.0%が過去の山(10.1%)を超え、会社の来期予想(10.8%)とほぼ同じ水準に置かれていたため、事業別を今の水準に置き直した(全社10.4%)。
還元の点検(P3 2026-10-19):開示された方針は配当性向40%以上・減配なし。180億円の自社株買いは実行済み(株数に反映)。中立の還元を純利益の合計の70%から55%(配当40%台前半+自社株買い10%台前半)に下げ、留保は自己資本に残した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体材料の利益は、これから大きく伸びる。AI 向けのメモリが高性能になるほど、高誘電材料の使用量が増える。EUV の薬剤や後工程の材料も加わる。ADEKA は世界の大手チップメーカーと、20 年を超える取引の実績がある。新しい世代のたびに、材料の採用が決まる。久喜の新研究棟と生産設備への投資は、その入り口にあたる。利益率が 2 割を超えるこの事業の比重が増えるだけで、会社全体の利益率は 12% に近づく。
ライフサイエンスも勢いがある。欧米の販売が伸び、国内は水稲向けが堅調だ。売上の 4 分の 1 を占め、利益は前期 26% 増えた。新しい有効成分が続けば、年 1 割近い成長もありうる。
経営は資本の使い方を変えている。180 億円の自社株買いを終え、配当は 4 割以上で減らさない。10 年後は、利益が 2 倍を超え、ROE も 14% 台に上がる。倍率も、半導体材料の比重が増えた分だけ上がる。今は低い ROE が、その時には評価の理由に変わる。
慎重な見方
今期の増益は、半導体の山に乗っている。前期は微細化が足踏みして、半導体材料の利益が 2 割近く減った。先行投資がかさむと、需要の谷では固定費が重くなる。メモリの投資は山と谷を繰り返してきた。前駆体の分野では、韓国勢などの競合が追ってくる。
農薬も安心できない。前期の好調は、欧米の販売と、米価高に支えられた国内の水稲向けが重なったためだ。米価の落ち着きや在庫の調整が来れば、反動が出る。新しい有効成分を出し続ける力が問われる。
樹脂添加剤と食品は、利益率が低い。中国の増産で、汎用の品は物価並みに値上げできない。ROE は 9% で、この 10 年あまり 10% に届かなかった。売上の大半は低い利益率の事業で、全体の利益率を押し上げる余地は小さい。原料価格が先に上がる局面では、利益が減る。三つの弱みが重なれば、10 年たっても利益の伸びは物価に届かない。この会社の ROE が低いままという事実が、その見方を支えている。
どちらに重みを置いたか
半導体の追い風は本物だが、山の高さは見えにくい。農薬の好調も、一部は米価の高さに助けられている。強気の言い分は、新しい世代と有効成分が続くことに頼る。慎重な言い分は、過去の ROE の低さという事実に基づく。確率は、悲観側にやや厚く置いた。中立は、利益率が今の水準で定着する筋書きにした。悲観の筋書きでは、半導体の競争激化と農薬の特許切れの二つが同時に起きる場合を、厚めに見ている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,616 円7,391 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,114 円2,052 億円)。 今の値に割り戻すと 5,379 円5,220 億円、今との差 +18.8%、 期待の年率 +8.0%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 13,529 円1.31 兆円 | 2,784 円2,702 億円 | +260.4% | +13.7% | 1,142 円1,108 億円 |
| やや楽観 | 22% | 10,524 円1.02 兆円 | 2,425 円2,353 億円 | +186.1% | +11.1% | 2,849 円2,764 億円 |
| 中立 | 38% | 7,702 円7,475 億円 | 2,077 円2,016 億円 | +116.1% | +8.0% | 3,716 円3,607 億円 |
| やや悲観 | 22% | 5,597 円5,431 億円 | 1,956 円1,898 億円 | +66.9% | +5.3% | 1,662 円1,612 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,776 円1,724 億円 | 1,510 円1,465 億円 | −27.4% | −3.2% | 361 円351 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,616 円7,391 億円 | 2,114 円2,052 億円 | +115.0% | +8.0% | 9,730 円9,442 億円 |
今の株価時価総額 4,526 円4,392 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 7% AI とメモリの好循環が続き、半導体材料が柱になる 利益 704 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 13,529 円1.31 兆円
AI 向けの半導体投資が 10 年にわたって続き、高誘電材料と後工程の材料の使用量が大きく増える。半導体材料の売上は今の 2 倍を超え、利益率も 24% まで上がる。
農薬では新しい有効成分が育ち、欧米の販売が伸び続ける。環境材料は潤滑油添加剤の高付加価値化が進み、利益率が 14% に届く。
営業利益は今の 2.5 倍になり、ROE は 14% 台へ上がる。会社の姿は、堅実な素材メーカーから、半導体と農薬の二本柱を持つ会社へ変わる。数量は、半導体が実質で年 9% 近く、農薬が年 4% 前後で増える。それでも倍率は、成長を払いすぎない水準にとどめた。
三つの事業がそろって成功した姿で、10 年先に確率を厚く置くには条件が重い。
- 樹脂添加剤:数量 111(出荷量(千トン・推定))× 価格 16(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,793 億円・営業利益 215 億円。売上 1793 億円・営業利益率 12.0%
- 半導体材料:数量 859(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 130.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34 が基本。顧客の値下げ圧力で届かないと置く))→ 売上 1,117 億円・営業利益 268 億円。売上 1117 億円・営業利益率 24.0%
- 環境材料:数量 145(出荷量(千トン・推定))× 価格 11(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,518 億円・営業利益 213 億円。売上 1518 億円・営業利益率 14.0%
- 食品:数量 305(出荷量(千トン・推定))× 価格 4.19(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,278 億円・営業利益 83 億円。売上 1278 億円・営業利益率 6.5%
- ライフサイエンス:数量 1,674(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 140.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 2,344 億円・営業利益 258 億円。売上 2344 億円・営業利益率 11.0%
倍率:事業の純利益 704 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍。全体の PER 18.65 倍、時価総額 13,130 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI と新しい有効成分がともに 10 年続く必要があり、条件が重いので 1 割を切らせた。
やや楽観 22% 半導体と農薬が計画を上回り、利益率が上がる 利益 577 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 10,524 円1.02 兆円
半導体材料が市場の伸びを少し上回り、売上は今の 2 倍に近づく。農薬は年 3% 前後の数量の伸びで、新しい成分も加わる。環境材料は住宅・インフラ向けが底堅い。
樹脂添加剤は、高機能品の比率が上がって利益率が 11% に乗る。食品も、国内の高付加価値品で 6% の利益率を保つ。
営業利益は今の 2 倍を超え、ROE は 13% 近くになる。ここまでは、半導体の需要が大きく崩れない前提だ。三つの強い事業がそろって計画に届くが、一つは足踏みする想定を含む。
数量は、半導体が実質で年 7%、農薬が年 3%、環境材料が年 2% 弱で増える。値段は物価並みで、半導体だけは顧客の値下げ圧力で届かない。
- 樹脂添加剤:数量 104(出荷量(千トン・推定))× 価格 16(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,610 億円・営業利益 180 億円。売上 1610 億円・営業利益率 11.2%
- 半導体材料:数量 716(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 125.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34 が基本。顧客の値下げ圧力で届かないと置く))→ 売上 895 億円・営業利益 201 億円。売上 895 億円・営業利益率 22.5%
- 環境材料:数量 137(出荷量(千トン・推定))× 価格 10(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,398 億円・営業利益 182 億円。売上 1398 億円・営業利益率 13.0%
- 食品:数量 291(出荷量(千トン・推定))× 価格 4.08(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,185 億円・営業利益 71 億円。売上 1185 億円・営業利益率 6.0%
- ライフサイエンス:数量 1,529(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 136.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 2,079 億円・営業利益 212 億円。売上 2079 億円・営業利益率 10.2%
倍率:事業の純利益 577 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.4% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍。全体の PER 17.7 倍、時価総額 10,213 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体と農薬という材料の見えやすい上振れで、10 年なら十分ありうる。
中立 38% 中立:物価に実質 2% の伸びが乗り、利益率は今の水準で定着 利益 454 億円 · PER 16.5 倍 · 株価時価総額 7,702 円7,475 億円
樹脂添加剤は、数量が年 1〜2% で伸び、値段は物価並みに上がる。利益率は 10% 近くで、今と同じだ。半導体材料は、AI 向けの需要で市場が実質で年 5% 伸び、ADEKA はシェアを保つ。ただ値段は顧客の値下げ圧力で、物価までは上がらない。
環境材料は潤滑油添加剤が堅調で、利益率は 11% 台。食品は数量が横ばいで、物価分の値上げが利益を支える。農薬は欧米の販売で売上が 1.7 倍近くになる。
営業利益は今の 1.6 倍、年 5% 弱の伸びだ。物価 3% に実質 2% 弱の成長が乗った姿である。事業別の利益率は今の水準で、全社の利益率は 10% 台前半。ROE は 10% 台に上がるが、化学の優良会社と比べると、なお控えめだ。
- 樹脂添加剤:数量 97.7(出荷量(千トン・推定))× 価格 16(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,517 億円・営業利益 149 億円。売上 1517 億円・営業利益率 9.9%
- 半導体材料:数量 584(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 120.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34 が基本。顧客の値下げ圧力で届かないと置く))→ 売上 700 億円・営業利益 144 億円。売上 700 億円・営業利益率 20.6%
- 環境材料:数量 126(出荷量(千トン・推定))× 価格 10(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,270 億円・営業利益 146 億円。売上 1270 億円・営業利益率 11.5%
- 食品:数量 277(出荷量(千トン・推定))× 価格 4.02(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,112 億円・営業利益 58 億円。売上 1112 億円・営業利益率 5.2%
- ライフサイエンス:数量 1,395(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 134.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 1,869 億円・営業利益 165 億円。売上 1869 億円・営業利益率 8.8%
倍率:事業の純利益 454 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍。全体の PER 16.45 倍、時価総額 7,475 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:物価に実質 2% の伸びを乗せ、利益率は今の水準で定着する、中心の筋書き。
やや悲観 22% 半導体の投資が一巡し、樹脂添加剤と食品が重しになる 利益 354 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 5,597 円5,431 億円
AI 向けの投資が一巡し、半導体材料の伸びが市場を下回る。値段も顧客に押され、物価の 1 割ほどしか上がらない。利益率は 18% に下がる。
樹脂添加剤は、中国の汎用品に押されて値上げが通らず、利益率が 9% に落ちる。食品は中国の不振が続き、利益率が 4% 台になる。農薬は新しい成分の立ち上がりが遅れ、数量の伸びは年 1% ほどにとどまる。
営業利益は今の 1.25 倍で、物価の分を除けばほとんど増えない。ROE は 9% を割り込み、資本コストとほぼ同じになる。倍率も、成長の乏しい会社の水準に縮む。現実的な弱気の姿である。
- 樹脂添加剤:数量 89.2(出荷量(千トン・推定))× 価格 15(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,344 億円・営業利益 121 億円。売上 1344 億円・営業利益率 9.0%
- 半導体材料:数量 448(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 110.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34 が基本。顧客の値下げ圧力で届かないと置く))→ 売上 492 億円・営業利益 89 億円。売上 492 億円・営業利益率 18.0%
- 環境材料:数量 116(出荷量(千トン・推定))× 価格 9.76(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,128 億円・営業利益 118 億円。売上 1128 億円・営業利益率 10.5%
- 食品:数量 263(出荷量(千トン・推定))× 価格 3.90(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,025 億円・営業利益 46 億円。売上 1025 億円・営業利益率 4.5%
- ライフサイエンス:数量 1,250(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 128.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 1,600 億円・営業利益 136 億円。売上 1600 億円・営業利益率 8.5%
倍率:ROE 8.8%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC=k 7%+残る割合 1/2×(8.8−7.8)=8.3%、長期の成長率 g 4%から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=13.8 倍。ROE が k をわずかに上回るだけの成長の乏しい会社の水準で、1÷k の下限 15.14 倍に置いた。
確率:過去 10 年 ROE が低かった実績と、半導体投資の山と谷、中国の追い上げを考えると、上振れと同じ厚みで置く。
悲観 11% 構造的な負け:半導体は価格競争に巻き込まれ、農薬の柱が細る 利益 194 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 1,776 円1,724 億円
前駆体の分野で、競合が価格を下げて参入し、顧客も調達先を分けて、ADEKA の半導体材料は数量も値段も伸びなくなる。先行投資が回収できず、減損も出る。
農薬は、主力の有効成分の特許が切れて後発品に置き換わり、新しい成分も続かない。樹脂添加剤と食品は、低い利益率のまま縮む。
営業利益は今の 7 割にとどまり、ROE は 5% 台に下がる。もう優良会社の評価は付かず、自己資本の 0.55 倍で測る。それでも借金は少なく、純現金は残るので、会社が傾くことはない。ただ、株主には 10 年かけて価値が増えない展開となる。
- 樹脂添加剤:数量 76.5(出荷量(千トン・推定))× 価格 14(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 1,081 億円・営業利益 70 億円。売上 1081 億円・営業利益率 6.5%
- 半導体材料:数量 322(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 100.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34 が基本。顧客の値下げ圧力で届かないと置く))→ 売上 322 億円・営業利益 32 億円。売上 322 億円・営業利益率 10.0%
- 環境材料:数量 102(出荷量(千トン・推定))× 価格 9.16(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 930 億円・営業利益 74 億円。売上 930 億円・営業利益率 8.0%
- 食品:数量 235(出荷量(千トン・推定))× 価格 3.66(1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目)→ 売上 860 億円・営業利益 26 億円。売上 860 億円・営業利益率 3.0%
- ライフサイエンス:数量 1,004(関連市場(実質・億円)× シェア)× 価格 115.0%(価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34))→ 売上 1,155 億円・営業利益 69 億円。売上 1155 億円・営業利益率 6.0%
倍率:半導体の競争激化と農薬の特許切れが重なる構造的な負けで優良ではなくなる姿。ROE は k を下回るので、稼ぐ力(純利益÷k)より低い水準として、純現金と自己資本の残る分を床に、今の自己資本に 0.55 倍を掛けた。
確率:半導体の競争激化と農薬の特許切れが重なる場合で、優良ではなくなる姿。ROE の低さを考え、通常の 1 割程度に厚くした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
樹脂添加剤
プラスチックの酸化防止剤・難燃剤・塩ビ用安定剤など。家電・自動車・建材の素材に入る。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 85.0 | 12 | 985 | 97 |
| 10 年後 中立 | 97.7 | 16 | 1,517 | 149 |
取り方:開示は金額だけ。化学品の売上 2,148 億円から半導体材料 360 と環境材料 803 を引いて 985 億円、利益も同様に 97 億円と置いた。平均単価を 1 千トンあたり約 11.6 億円(汎用品と高機能品の混合)と推定して出荷量を約 8.5 万トンとした。
半導体材料
先端メモリ向けの高誘電材料(ALD 前駆体)・EUV 露光用の薬剤など、半導体の製造に使う原料。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34 が基本。顧客の値下げ圧力で届かないと置く) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 358 | 100.0% | 360 | 74 |
| 10 年後 中立 | 584 | 120.0% | 700 | 144 |
取り方:関連する材料市場を今の値段で約 3,000 億円、ADEKA のシェアを約 12% と推定した(358 ≒ 2,983 × 12%)(売上 360 億円からの逆算。市場規模は開示がなく幅がある)。物価の分は価格指数に入れ、シェアは数量の側に置いた。
環境材料
潤滑油添加剤など。住宅・インフラ・自動車向けの機能材料。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 107 | 7.51 | 803 | 92 |
| 10 年後 中立 | 126 | 10 | 1,270 | 146 |
取り方:開示は金額だけ。売上 803 億円を平均単価 1 千トンあたり約 7.5 億円と推定して割り、出荷量を約 10.7 万トンとした。
食品
マーガリン・ショートニングなどの加工油脂。国内の高付加価値品と中国向け。
| 数量出荷量(千トン・推定) | 価格1 千トンあたり売上(億円)。物価 3% を含む名目 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 277 | 3.00 | 830 | 43 |
| 10 年後 中立 | 277 | 4.02 | 1,112 | 58 |
取り方:開示は金額だけ。売上 830 億円を平均単価 1 千トンあたり約 3 億円と推定して割り、出荷量を約 27.7 万トンとした。
ライフサイエンス
農薬が主力。医薬・動物薬の原料も少し扱う。欧米と国内の水稲向けが柱。
| 数量関連市場(実質・億円)× シェア | 価格価格指数(今 1.00、物価 3% で 3 年 1.09・10 年 1.34) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,116 | 100.0% | 1,117 | 98 |
| 10 年後 中立 | 1,395 | 134.0% | 1,869 | 165 |
取り方:ADEKA が関わる農薬・医薬関連の市場を、今の値段で約 1.8 兆円、シェアを約 6.2% と推定した(売上 1,117 億円からの逆算。市場規模は幅が広い推定)。物価の分は価格指数に入れた。
リスクと懸念
半導体材料の投資の山と谷
利益率が 2 割を超える半導体材料は、会社の成長の期待を一身に背負う。前期は微細化の足踏みで、売上が増えても利益が 2 割近く減った。今期は AI 向けで戻る見通しだが、メモリ投資の谷が来れば、先行投資の固定費が重くのしかかる。会社全体の利益の変動も、ここから生まれやすい。
前駆体の競争の激化
先端メモリの膜の原料では、米国の大手や韓国の専業が同じ市場にいる。顧客が調達先を分けたり、競合が価格を下げて入ったりすれば、数量も値段も伸びない。世界の順位を示す確かな統計は見つからず、強さの度合いは外から読み切れない。価格競争が起きた時の傷の深さを、外から測れない点も弱みだ。
農薬の好調が一時的かもしれない
前期のライフサイエンスは、欧米の販売と、米価高に支えられた国内の水稲向けが重なった。米価の落ち着きや流通在庫の調整が来れば反動が出る。主力成分の特許が切れて後発品が出れば、売上と利益率の両方が落ちる。
樹脂添加剤と食品の利益率の低さ
樹脂添加剤は家電・電気自動車の停滞と、中国の汎用品の増産で値段を上げにくい。食品は利益率が 5% 台で、中国のショートニング・マーガリンの販売が低迷している。この二つで売上の 4 割を占めるため、会社全体の利益率を重くしている。
原料価格と中東情勢
石油化学の原料であるナフサは、中東情勢で供給が詰まりうる。会社の今期予想は、この影響を織り込んでいない。原料が先に上がり、値上げが後から追う局面では、利益率が先に落ちる。樹脂添加剤や食品のように利益率が低い事業ほど、この目減りが効く。
ROE の低さ
ROE は 9% 前後で、この 10 年で 10% に届いたことがない。投資を増やしても、回収が遅れれば自己資本ばかりが積み上がる。倍率が上がりにくい根本の理由で、半導体と農薬の比重が上がらなければ、評価は変わらない。
今後の分かれ目
- 半導体材料の営業利益が、年 150 億円を超えて定着したら
- 半導体材料の利益率と数量の前提を上げ、楽観・やや楽観の確率を引き上げてよい。
- メモリ大手の設備投資が大きく削られたら
- 半導体材料の数量前提を下げ、やや悲観に確率を寄せる。
- 主力の農薬成分の特許が切れ、国内外で後発品が増えたら
- ライフサイエンスの利益率の前提を下げ、中立の利益を 1 割ほど下方修正する。
- 樹脂添加剤の営業利益率が 11% を超えて定着したら
- 樹脂添加剤の前提を上げ、中立の利益率を引き上げる。
- ナフサの供給が詰まり、原料価格の上昇が続いたら
- 値上げの遅れを見込み、中立・やや悲観の利益を下げる。
- 自社株買いが追加され、総還元が利益の 7 割を超える状態が続いたら
- 自己資本の積み上がりが抑えられ、ROE の前提を上げられる。ただし本質価値の変化は小さい。
見ておくもの
- 半導体材料の売上と営業利益率(四半期ごとの動き。AI 向けの山かどうか)
- ライフサイエンスの欧米向け販売と、国内の水稲向けの動き
- 樹脂添加剤の営業利益率(家電・自動車の需要と、汎用品の値段)
- メモリ大手の設備投資計画と、HBM・後工程の材料の採用状況
- ナフサなど原料価格と、値上げが通る速さ
- 自社株買いの追加と、総還元性向の推移
倍率と資本コストの決め方
五つのセグメントを、出荷量(樹脂添加剤・環境材料・食品)と市場×シェア(半導体材料・農薬。物価は価格指数に分離)で積み上げ、利益率から営業利益を出した。倍率は k 7%(基本 7.5%+quality 0.25%)・g 4%・ROE 10% 台から出した正当化 PER の 9 割に置き、今の PER 16.5 倍には寄せていない。今期の営業利益 500 億円は AI 向けの山を含むため、中立はそこから緩やかに積む形にした。純現金 260 億円は時価総額の 6% で 1 割に届かないので、余った現金は分けていない。工場は自社で持つ会社でリースは小さく、新リース会計基準の影響は限定的と見た。数字は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.82→18.65 倍・やや楽観 PER 13.97→17.7 倍・中立 PER 12.9→16.45 倍・やや悲観 PER 12.9→15.14 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.25%(半導体の投資循環)を足して 7.75%。事業が五つに分かれ赤字の期がなく純現金もあるが、ROE が 9% 前後と低く利益率の低い事業が売上の 7 割を占めるので、下げは置かない。半導体の山や農薬の特許切れは筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.00%。