結論
アーバネットは、東京の都心・城南・城東の駅近に賃貸マンションを建て、完成した建物を丸ごとリートや私募ファンドへ売る不動産開発会社だ。2026年6月期の売上は394億円、営業利益は41億円。
筆者の結論は、10年で見れば今の値段は適正の範囲、というものだ。稼ぐ力は戻っているが、それを支える資金は借金に頼る。純有利子負債は433億円と自己資本195億円の2.2倍で、借り換えのたびに利払いが増える。10年後の中立の純利益は、営業利益の伸びを利払いがかなり食い、27億円前後にとどまる。
強みは、買い手が決まっている点にある。2027年6月期と2028年6月期に引き渡す5件517戸は、すでに売買契約を結んである。三井不動産との連携協定や、複数の大手運用会社との継続取引も、売り先の確かさを支える。
弱みは、買い手がファンドと銀行の融資に左右される点だ。金利が上がり、不動産の利回りが切り上がれば、ファンドが払う値段は下がる。リーマン後には営業利益率が-16%まで沈んだ。筆者は、成長の話より、借金を抱えたまま景気の山と谷をまたげるかを重く見た。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「売り先は確かだが、借金の重さが安全域を削る」会社だ。
良い点は三つある。売り先がファンドとリートで、完成前に契約が決まる。創業者が経営を握り、判断が速い。ROEは11%台と、過去の水準では資本コストを上回ってきた。
気になる点も三つある。借金が自己資本の2.2倍で、金利が上がると利益がその分だけ削られる。事業の堀が弱く、売値が買い手の期待利回りで決まる。そして、過去に赤字と増資の履歴がある。
筆者が重く見るのは、利益の質だ。営業利益41億円に対し純利益は21億円。純利益と営業利益の比は0.51と、過去の中央値0.59を下回る。借金の利払いが稼ぎを食う構造で、金利がさらに上がるほど、この比は下がる。
好況の営業利益を、そのまま10年続くものとして価値にしない。ならして、利払いも織り込んだ純利益に資本コストを当てはめる。その値は、今の値段と大差ない水準に収まる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、都市型賃貸マンションだ。東京23区と川崎などの駅から近い土地を仕入れ、1Kから2LDKの賃貸マンションを建て、完成前後にリートや私募ファンドへ一棟で売る。2026年6月期は12棟541戸を254億円で売った。1戸あたり約0.47億円で、投資用ワンルームを個人に売るFJネクストとは、買い手も値段の付き方も違う。
二つめの柱は、2024年2月に子会社にしたケーナイン。戸建て、タウンハウス、アパートを一般の個人や投資家に売る会社で、2026年6月期は売上87億円(+43%)、営業利益9億円だった。会社は、2028年6月期にこの分野を90億円まで育てる計画だ。
三つめは、親会社の用地売却、不動産の仕入れ販売、ホテル、賃貸と仲介だ。用地売却は15件84億円と、前の期の9件45億円から増えた。土地を仕入れてマンションを建てずに転売する商売で、利益は大きく振れる。ホテルは小さく、八丁堀に2026年10月、赤坂に2028年6月に引き渡す物件がある。
従業員は親会社が60人ほどで、連結でも約117人。少人数で土地の仕入れ、設計の管理、売り先の開拓を回す。工事は外部の建設会社に任せ、自社では建てない。
貸借対照表は、販売用の不動産が562億円と総資産790億円の7割を占める。買った土地とつくりかけの建物が資金を抱え、これが借金の源だ。有利子負債は549億円、現預金は116億円で、純有利子負債は433億円、自己資本比率は24.7%に下がった。
優良さと弱いところ
堀は弱い。ただ、売り先の確かさという独特の強みがある。
強みは三つある。第一に、売り先の関係だ。リート・ファンド向けの大型物件は、土地の仕入れの段階で買い手の目星が付き、2028年6月期までの引き渡し分は売買契約を結んである。三井不動産との協定で情報を受け取れる点も大きい。第二に、土地の目利きと、小さな物件を速く出す仕組みで、営業利益率は過去12年10〜12%台を保ってきた。第三に、創業者の服部信治会長の影響力が大きく、機動的に決める。
弱みは三つある。第一に、値決めの力が弱い。一棟売りの値段は、買い手の期待利回りで決まる。金利が上がれば値段は下がり、建築費の上昇を売値に転嫁しきれない。第二に、借金の重さ。純有利子負債が自己資本の2.2倍、営業利益で支払利息を割った倍率は5.5倍まで下がった。第三に、会社が小さい。社員は親会社で60人ほどで、買い手に大手運用会社が多いぶん、1社の撤退が売上に響く。
過去の財務も傷が残る。2009年6月期は営業利益率-16%の赤字に沈み、2010年・2013年・2015年・2020年にも新株を出している。
資本の効率は、過去10年のROEの中央値が11%台と悪くない。ただ、これは金利が低かった時期の数字だ。短期金利が2%に定着し、借り換えの金利が3.5%前後へ上がると、同じ営業利益から残る利益は細くなる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
不動産開発は、金利に最も敏感な事業の一つだ。土地を借金で買い、建物を建て、完成後に買い手へ売る。その間の金利は会社が払い、売る時の値段は買い手の期待利回りで決まる。両方が金利に連動する。
足もとは悪くない。東京の賃貸マンションは家賃が上がり、ファンドの買い意欲は強い。アーバネットの2026年6月期の都市型賃貸マンションの売上は、戸数が607戸から541戸へ減ったのに、254億円と前の期の244億円を上回った。単価が上がった。
ただ、金利は新しい水準に向かう。日銀の政策金利が2%、10年国債が3%の世界では、不動産の期待利回りも切り上がり、買い手のファンドが払える値段は下がる。建築費は上がるので、売値と原価の差は両側から詰められる。会社は、仕入れ値と売値の差で利益を出す商売だ。
競合は、一棟売りの開発会社と、大手デベロッパーだ。大手は大型物件で強く、アーバネットが戦うのは中小の土地だ。ここは大手が取りにくく、競争は少ない。ただ、同じ土地を狙う小さな会社は多い。
担い手が少ない点は追い風になる。賃貸住宅の供給は、建築費の高騰と職人不足で伸びにくい。需要が強い東京では、家賃が上がるほど、新築の賃貸マンションの価値は高まる。
資本政策と M&A
資本政策は、利益の4割を配当に回す方針だ。2026年6月期の配当性向は41%で、2027年6月期も同じ水準の配当を計画する。自社株買いの実績は目立たず、発行済み株式の1.75%ほどが自己株式だ。
借金で成長する構図は変わらない。2026年6月期は、営業キャッシュフローが97億円の流出、財務キャッシュフローが131億円の流入で、販売用不動産が147億円増えた。純有利子負債は5年で125億円から433億円へ増えた。会社の説明では、金利上昇と借入金の拡大で支払利息が増えている。
過去20年に新株の発行が5期ある。直近の成長資金は借金で賄っているが、自己資本比率が24.7%まで下がったので、次の大型投資では増資や転換社債の選択肢が現実味を帯びる。筆者は希薄化の可能性を確率に織り込んだ。
株主優待は、500株以上の株主にQUOカードを年2回、1,000株以上にはその倍額を贈る(1回の額は株価の1%に満たない)。費用の開示はなく、株主35,501名のうち優待を受ける株主の持ち株の比率から、年1.5億円ほどと推定した。これは配当(年約9億円)の1割以上にあたり、10年で15億円を還元に足している。
大株主は、創業者の服部信治会長の資産管理会社が14.77%、日本カストディ1.75%、合田工務店1.56%など。個人が約76%を持つ。2025年8月には海外の投資ファンドが4.7%の大量保有を報告した。TOBは、筆者は可能性が低くないと見るが、価格に織り込んでいない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
買い手が決まっている事業は、不動産開発では珍しい。2027年6月期と2028年6月期の引き渡し分517戸は売買契約を結んである。大型案件の情報が三井不動産から入る協定もあり、売り先の確かさは同業より厚い。
会社の中期計画は、2028年6月期に売上500億円、営業利益46億円、ROE12%以上。2027年6月期の会社予想は売上435億円、営業利益42億円で、計画を前倒しで進めている。ケーナインの戸建て・タウンハウスは、売上が2年で1.4倍に伸び、営業利益率10%を保つ。
東京の賃貸需要は強い。人口は都心で減りにくく、家賃は上がる。家賃が上がれば、新築の賃貸マンションをファンドが買う値段も上がる。建築費が上がっても、土地を安く仕入れて速く売る力があれば、利益率は10%台を保てる。
借金も、売る建物の在庫を担保にした事業融資で、売れれば返せる。ホテルや高齢者施設、軽井沢のタイムシェア別荘など、新しい柱も立ち上がりつつある。10年たてば、売上は1.5〜2倍になり、営業利益は倍近くまで伸びる、と強気の人は言う。
慎重な見方
金利の上昇は、この会社に二重にのしかかる。一つは借金の利払い。純有利子負債433億円の金利が借り換えで3.5%前後へ上がると、年11億円ほど利益が減る。もう一つは売値。ファンドの期待利回りが上がれば、同じ家賃の建物に払える値段は下がる。
借金の増え方も気になる。5年で純有利子負債は3.5倍になり、自己資本比率は24.7%まで下がった。営業キャッシュフローは97億円の流出で、売れなければ資金繰りが詰まる。過去に5回、新株を出した会社だ。
買い手はファンドと銀行融資に左右される。金融機関の融資姿勢が変われば、ファンドの買いが止まり、一棟売りは一気に出なくなる。2009年6月期の営業利益率は-16%で、在庫の評価損が出た。
人の薄さも不安だ。親会社の従業員は60人ほどで、創業者の判断に依存する。会長は1950年生まれで、後継の体制が育つ前に判断が滞ることもありうる。ケーナインも買収から日が浅く、利益の伸びが続くかは確かでない。
どちらに重みを置いたか
売り先の確かさでは、強気の見方に分がある。だが、借金の利払いと金利への感度では、慎重な見方のほうが具体的だ。
確率は、中立に3割台、楽観側に3割弱、悲観側に4割弱を置いた。同じ領域の会社(投資用マンション・不動産テック)が悲観側に3割台半ばを置くのに対し、悲観をやや厚くしたのは、借金が自己資本の2.2倍と同業より重く、融資が止まった時の傷が深いからだ。楽観側を厚くしなかった理由も同じで、売上が伸びるほど在庫を抱える資金も増え、利益の伸びが借金の伸びに吸われる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 757 円280 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 249 円92 億円)。 今の値に割り戻すと 501 円185 億円、今との差 −7.3%、 期待の年率 +6.4%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,453 円536 億円 | 401 円148 億円 | +243.4% | +13.1% | 148 円55 億円 |
| やや楽観 | 21% | 1,080 円399 億円 | 342 円126 億円 | +163.3% | +10.2% | 299 円110 億円 |
| 中立 | 34% | 851 円314 億円 | 307 円113 億円 | +114.4% | +7.9% | 394 円145 億円 |
| やや悲観 | 24% | 378 円140 億円 | 144 円53 億円 | −3.3% | −0.3% | 125 円46 億円 |
| 悲観 | 13% | 264 円98 億円 | 50 円19 億円 | −41.8% | −5.3% | 41 円15 億円 |
| 加重平均 | 100% | 757 円280 億円 | 249 円92 億円 | +86.4% | +6.4% | 1,007 円372 億円 |
今の株価時価総額 540 円199 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% ファンドの買いが続き、借金の重さを抜け出す十年 利益 42 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 1,453 円536 億円
ファンドとリートの買いが続き、東京の賃貸マンションの値段が建築費の上昇に追い付く。三井不動産との連携が深まり、大型物件を年に数件確保して、都市型賃貸の販売は780戸まで伸びる。単価は物価並みの1.34倍で、利益率は12%まで上がる。
ケーナインは買収の効果が出て、戸建て・タウンハウスと用地の取引を1.7倍にする。ホテルや高齢者施設、軽井沢のタイムシェア別荘が、新しい柱として育つ。
売上は10年で2倍の786億円。借金も在庫に合わせて増え、利払いは30億円まで膨らむが、営業利益92億円がそれを上回る。中計の目標である営業利益46億円を、2倍の水準で達成する十年だ。
- 都市型賃貸マンション(親会社):数量 780(年間の販売戸数(戸))× 価格 0.63(1戸あたり販売額(億円))→ 売上 491 億円・営業利益 59 億円。780戸(実質+44%)× 1戸0.629億円(物価1.34倍)
- 戸建・タウンハウス・アパート(ケーナイン):数量 100(年間の取引件数(戸・件))× 価格 2.03(1件あたり売上(億円))→ 売上 203 億円・営業利益 22 億円。100件(実質+67%)× 1件2.03億円(1.40倍)
- 用地売却・仕入販売・ホテル・賃貸(親会社):数量 26.0(年間の取扱件数(件))× 価格 3.55(1件あたり売上(億円))→ 売上 92 億円・営業利益 11 億円。26件 × 3.55億円(1.34倍)
倍率:事業の純利益 42 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.74 倍、時価総額 536 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:売り先の確かさが続き、金利の上昇がファンドの買いを止めない筋書き。足もとの契約済み5件517戸という実績はあるが、金利が上がる世界でそれが10年続くには条件が重い。
やや楽観 21% 売り先が堅調で、利払いを稼ぎが上回る十年 利益 33 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,080 円399 億円
契約済みの大型物件を計画どおり引き渡し、その後も年に4〜5件のファンド向けの物件を確保して、都市型賃貸は680戸まで伸びる。金利の上昇で期待利回りは切り上がるが、家賃の上昇が値段を支え、単価は1.32倍(物価の伸びにわずかに届かない)。
ケーナインは年2桁の伸びを5年続け、その後は物価並みに落ち着く。利益率は10〜11%と、過去の山に届かない水準で保つ。
営業利益は73億円と今の1.8倍。借金も1.6倍の約700億円まで増え、利払いが25億円に達するが、稼ぎがそれを上回る。ROEは9%台に戻り、資本コストの近くで推移する、堅実な十年だ。
- 都市型賃貸マンション(親会社):数量 680(年間の販売戸数(戸))× 価格 0.62(1戸あたり販売額(億円))→ 売上 422 億円・営業利益 46 億円。680戸(実質+26%)× 1戸0.620億円(1.32倍)
- 戸建・タウンハウス・アパート(ケーナイン):数量 85.0(年間の取引件数(戸・件))× 価格 1.99(1件あたり売上(億円))→ 売上 169 億円・営業利益 18 億円。85件(実質+42%)× 1件1.99億円(1.37倍)
- 用地売却・仕入販売・ホテル・賃貸(親会社):数量 24.0(年間の取扱件数(件))× 価格 3.55(1件あたり売上(億円))→ 売上 85 億円・営業利益 9 億円。24件 × 3.55億円(1.34倍)
倍率:事業の純利益 33 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.08 倍、時価総額 399 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ファンド向けの引き渡しが続き、利益が着実に伸びる筋書き。2027年・2028年の契約済み分と中期計画の進み具合が裏づける。楽観側ではもっとも起こりやすい。
中立 34% 売上は物価並みに伸びるが、利払いが利益を食う十年 利益 27 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 851 円314 億円
都市型賃貸の販売は、戸数が620戸と今より15%増えるが、会社の計画の水準(FY2028に320億円)から見て無理のない伸び。単価は物価の1.34倍に届かず1.28倍。金利が上がり、ファンドの期待利回りが切り上がるぶん、売値が物価に遅れる。
ケーナインは年に3%ほどの実質の伸び、用地・ホテルなどは今並み。営業利益率は10%前後で、過去12年の山(12%)を超えない。本社費用や人件費も物価で増え、10年で1.34倍になる。営業利益は60億円と今の1.46倍。
借金は、在庫が1.5倍になるのに合わせて605億円に増える。借り換えで金利が3.5%前後になり、利払いは21億円。今より11億円増えるが、会社の説明にある金利上昇と借入金の拡大の影響どおりだ。純利益は27億円と、今の21億円から1.25倍にとどまる。
配当は利益の4割を保ち、優待も続く。自己資本は336億円、ROEは7.9%と、資本コストを下回る。売上が増えても、金利が上がるぶん、株主に残る利益は細い十年だ。
- 都市型賃貸マンション(親会社):数量 620(年間の販売戸数(戸))× 価格 0.60(1戸あたり販売額(億円))→ 売上 373 億円・営業利益 38 億円。620戸(実質+15%)× 1戸0.601億円(1.28倍)
- 戸建・タウンハウス・アパート(ケーナイン):数量 75.0(年間の取引件数(戸・件))× 価格 1.94(1件あたり売上(億円))→ 売上 146 億円・営業利益 15 億円。75件(実質+25%)× 1件1.94億円(1.34倍)
- 用地売却・仕入販売・ホテル・賃貸(親会社):数量 22.0(年間の取扱件数(件))× 価格 3.55(1件あたり売上(億円))→ 売上 78 億円・営業利益 8 億円。22件 × 3.55億円(1.34倍)
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 314 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:戸数はほぼ今並みに伸び、価格は物価に届かず、借金の利払いが利益を食う筋書き。2つの見方の落としどころで、もっとも厚い3割台に置いた。
やや悲観 24% 融資が細り、売れ行きが落ちる十年 利益 12 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 378 円140 億円
10年のどこかで、銀行の不動産向け融資が絞られる。ファンドの買いが細り、都市型賃貸の販売は480戸まで落ち込む。単価は期待利回りの上昇で1.15倍にとどまり、物価に大きく遅れる。ケーナインの戸建て・タウンハウスも、住宅ローンの金利上昇で売れ行きが鈍い。
在庫の回転が遅くなり、値引きして売る物件も出る。営業利益率は7.5%まで下がり、営業利益は32億円。借金は在庫に合わせて縮み、405億円まで下がるが、利払いはなお14億円残る。
その間に評価損や赤字の期が一度は混じる。10年の純利益の累計は120億円と、中立の半分。配当も利益に合わせて削り、自己資本は273億円でROEは4%台。稼ぐ力は細るが、会社の存続を脅かすほどではない、苦しい十年だ。
- 都市型賃貸マンション(親会社):数量 480(年間の販売戸数(戸))× 価格 0.54(1戸あたり販売額(億円))→ 売上 259 億円・営業利益 19 億円。480戸(実質-11%)× 1戸0.540億円(1.15倍)
- 戸建・タウンハウス・アパート(ケーナイン):数量 62.0(年間の取引件数(戸・件))× 価格 1.81(1件あたり売上(億円))→ 売上 112 億円・営業利益 8 億円。62件 × 1件1.81億円(1.25倍)
- 用地売却・仕入販売・ホテル・賃貸(親会社):数量 17.0(年間の取扱件数(件))× 価格 3.18(1件あたり売上(億円))→ 売上 54 億円・営業利益 4 億円。17件 × 3.18億円(1.20倍)
倍率:10年後のROE4.4%(純利益12億円÷自己資本273億円)。ROEはk8.5%を大きく下回り、稼ぐ力は構造的に細る。利益が増えず全額を還元に回した時の価値=純利益÷k=10.3倍が上限で、景気の谷を挟んで利益の質が低いぶん、約8割強の8.5倍に置いた。時価総額103億円は、悲観の床(約98億円)を上回る。
確率:金利の上昇で期待利回りが切り上がり、融資姿勢が慎重になる筋書き。10年のうちに一度は融資が絞られる局面が来る、とみるのが自然で、悲観側のなかではもっとも起こりやすい。
悲観 13% 融資が止まり、在庫を安く売り急ぐ十年 利益 1 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 264 円98 億円
不動産向け融資が長く止まる。ファンドが買い手に回らず、都市型賃貸の販売は300戸と半分以下に落ち込む。期待利回りが大きく上がり、単価は今と同じ水準にとどまる。ケーナインも住宅ローンの引き締めで売れ行きを落とし、用地売却は減る。
在庫を持ち続けると金利が重く、売り急ぐ。販売用不動産の評価損が出て、赤字の期が続く。営業利益率は3%台まで下がり、営業利益は8億円、利払い6億円を引くと税引き前もほぼゼロ。
10年の純利益の累計は、評価損を含めて55億円。配当は大きく削り、優待も縮む。増資や転換社債で資本を補う局面もありうるが、ここでは希薄化は別の係数に入れず、価値は純資産に掛ける形で測る。自己資本は239億円と今より厚いが、在庫の値打ちは評価損後でも簿価を下回る。2008年のリーマン後に起きたことが、再び起きる十年だ。
- 都市型賃貸マンション(親会社):数量 300(年間の販売戸数(戸))× 価格 0.47(1戸あたり販売額(億円))→ 売上 141 億円・営業利益 4 億円。300戸(実質-45%)× 1戸0.470億円(価格横ばい)
- 戸建・タウンハウス・アパート(ケーナイン):数量 40.0(年間の取引件数(戸・件))× 価格 1.67(1件あたり売上(億円))→ 売上 67 億円・営業利益 2 億円。40件 × 1件1.67億円(1.15倍)
- 用地売却・仕入販売・ホテル・賃貸(親会社):数量 12.0(年間の取扱件数(件))× 価格 2.92(1件あたり売上(億円))→ 売上 35 億円・営業利益 1 億円。12件 × 2.92億円(1.10倍)
倍率:10年後のROEは0.5%でk8.5%を大きく下回る。稼ぐ力(純利益1億円÷k)は約12億円で、床としては小さい。EV÷営業利益は、今の純有利子負債433億円を足すと(98億円+433億円)÷8億円で約68倍となるが、10年後の借金は在庫の縮小とともに174億円まで減るとみる(その場合は約34倍)。営業利益が薄い局面では利益の倍率を使わず、資産の値打ちで見る。値は、今の自己資本195億円に掛け目0.5を掛けた約98億円。販売用不動産562億円を15%安く売り、その他の資産も2割目減りするとみて、借金433億円を返したあとに残る分から置いた。ためた利益には掛けない。やや悲観の時価総額より低い。
確率:融資の停止と期待利回りの急上昇が重なる筋書き。リーマン後の営業利益率-16%の実績があり、借金が重い会社の傷は深いので、1割を超えて置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
都市型賃貸マンション(親会社)
東京都心・城南・城東の駅近に賃貸マンションを建て、リート・私募ファンドへ一棟で売る。
| 数量年間の販売戸数(戸) | 価格1戸あたり販売額(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 541 | 0.47 | 254 | 27 |
| 10 年後 中立 | 620 | 0.60 | 373 | 38 |
取り方:2026年6月期の決算説明資料で、12棟541戸、売上254.07億円(前期は607戸244.30億円)。1戸あたり0.4696億円(約4,700万円)。営業利益は、不動産事業のセグメント利益59.1億円から全社費用などを引いた連結営業利益41.5億円を、売上比で配分した推定で、利益率は約10.4%(開示はセグメント別の営業利益を出していない)。数量は戸数で実質、価格は名目。
戸建・タウンハウス・アパート(ケーナイン)
2024年2月に子会社にしたケーナインの、個人・投資家向け戸建、タウンハウス、アパート、用地の販売。
| 数量年間の取引件数(戸・件) | 価格1件あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 60.0 | 1.45 | 87 | 9 |
| 10 年後 中立 | 75.0 | 1.94 | 146 | 15 |
取り方:決算説明資料で、ケーナインの2026年6月期は売上87億円(+42.9%)、営業利益9億円。戸建17戸17.0億円、タウンハウス18戸14.75億円、アパート2棟17戸7.3億円で合計約52戸39億円、残りの約48億円は用地などとみて8件前後と推定し、取引件数を約60、1件あたり1.45億円とした。戸数と用地の内訳は開示がなく推定。営業利益9億円は開示された子会社の数字。
用地売却・仕入販売・ホテル・賃貸(親会社)
親会社の用地売却、不動産の仕入れ販売、ホテル、賃貸・仲介、建築請負。
| 数量年間の取扱件数(件) | 価格1件あたり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 20.0 | 2.65 | 53 | 6 |
| 10 年後 中立 | 22.0 | 3.55 | 78 | 8 |
取り方:全社の売上393.94億円から都市型賃貸254.07億円とケーナイン87億円を引いた約53億円。用地売却15件83.5億円のうち、ケーナイン分を除く約7件35億円と、仕入れ販売5.4億円、賃貸・仲介6.0億円、ホテル2.4億円、請負3.5億円の合計。件数は推定で20件、1件2.65億円。営業利益は、連結41.47億円から都市型賃貸26.5億円とケーナイン9億円を引いた残りで、利益率は約11%。用地売却は利益が大きく振れる。
リスクと懸念
金利の上昇と借り換え
有利子負債549億円は、借り換えのたびに3.5%前後の新しい金利になる。会社の説明でも、金利上昇と借入金の拡大で支払利息が増えている。10年で年11億円ほど利益が減る見込みで、借金がさらに増えれば幅は広がる。
買い手の期待利回りと融資姿勢
一棟売りの値段は、ファンドとリートの期待利回りで決まる。利回りが上がれば売値が下がり、金融機関の融資が絞られれば買い手が減る。2009年6月期は営業利益率-16%まで沈んだ。
販売用不動産と資金繰り
販売用不動産は562億円と総資産の7割で、前の期から147億円増えた。営業キャッシュフローは97億円の流出。売れ行きが鈍ると在庫が積み上がり、評価損と借り入れの増加が同時に来る。
増資の可能性
自己資本比率は24.7%まで下がった。過去20年に新株を出した期が5回ある。次の大型投資や融資の締め付けの局面では、増資や転換社債が選択肢になり、既存の株主の取り分が薄まりうる。
少数の売り先と創業者への依存
主な売り先は大手の運用会社とリートで、1社の撤退が売上に響く。親会社の従業員は60人ほどで、創業者の服部信治会長の判断への依存が大きい。後継の体制が整うまでは、意思決定の継続性が課題になる。
ケーナインの買収効果
2024年2月に子会社にしたケーナインは、2026年6月期に売上87億円、営業利益9億円で、会社の成長の柱になっている。ただ、のれんや人材の定着、戸建ての住宅ローンへの感度など、買収から日が浅いぶん読みにくい点が多い。
今後の分かれ目
- 日銀の政策金利が2%を超え、借り換えの金利が3.5%を超えて推移したら
- 支払利息が想定より増え、純利益は中立から下がる。やや悲観側の確率を上げる。決算短信の営業外費用と有利子負債の金利で確かめる。
- 2027年6月期・2028年6月期に引き渡し予定の大型物件(5件517戸)が計画どおり売上に計上されたら
- 売り先の確かさが実績で裏づけられ、楽観側の確率を上げる。決算説明資料のパイプラインの進み具合で確かめる。
- 販売用不動産が前の期から再び大きく増え、営業キャッシュフローの流出が続いたら
- 在庫の回転が遅くなる兆しで、悲観側へ重みを移す。販売用不動産の残高と回転日数が目印になる。
- 自己資本比率が20%を割り込み、増資や転換社債の発行を発表したら
- 希薄化が確定する。普通株の価値を、発行条件に応じて見直す。調達の用途(成長か、借金の返済か)も確かめる。
- ファンド・リートの取引価格の利回りが急に切り上がったら
- 一棟売りの単価が下がる。単価の見通しを下げ、中立の純利益を見直す。J-REITの取得利回りの変化が目印になる。
- 創業者の服部信治会長が経営から退く、または経営体制の変更を発表したら
- 意思決定の継続性が試される。後継の経営者の実績と、売り先との関係の継続を確かめ、確率を見直す。
- 他社からのTOBや買収の提案が正式に出たら
- 条件次第で価値は大きく変わる。提案価格が本質価値を上回るなら楽観側へ、下回るなら今の見方を保つ。
見ておくもの
- 販売用不動産の残高と、営業キャッシュフロー
- 有利子負債の借り換え金利と、支払利息
- ファンド・リートの取引利回りと、一棟売りの単価
- ケーナインの売上と営業利益率
- 自己資本比率と、増資・転換社債の有無
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。ROEは10年後の自己資本と、金利が借り換えで3.5%前後になった後の利払いを織り込んだ純利益から出し、k8.5%(基本7.5%+quality+2.25%)・g4.0%の式で上限を求め、7〜9割に置いた。ROEがk以下のときは決まりどおり上限は1÷k。悲観の床は、販売用不動産562億円を15%安く売り、借金を返したあとに残る分で置き、過去のPBRの底や谷は使っていない。同じ領域の会社と比べると、k8.5%はグローバル・リンク(9.5%)、フェイスネットワーク(9.5%)とSRE(10.0%)の間で、借金の重さをdebtに+1.0%入れた。悲観側の確率は、同業の3割台半ばよりやや厚い。リース会計は、事務所の賃借が小さく、新リース会計基準の影響は小さいので、10年後の数字は今の形でそろえた。今の株価が倍でも半分でも、この数字は動かない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.5→12.74 倍・やや楽観 PER 8.7→12.08 倍・中立 PER 8.2→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality+2.25%を足してk8.5%。個別のリスク(増資の可能性・TOB・後継)はkに足さず、筋書きと確率で表した。同じ領域のグローバル・リンク(9.5%)、フェイスネットワーク(9.5%)、SRE(10.0%)の間に置く。FJネクスト(8.75%)より高いのは、FJネクストが純現金で自己資本比率7割超なのに対し、この会社は純有利子負債が自己資本の2.2倍あるため。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.75% → 8.50%。