結論
テーオーシーは、東京・五反田の巨大ビル「TOCビル」を持つ、ニュー・オータニ系の賃貸ビル会社だ。筆者の結論は「割高」である。資産は厚いが、その資産が稼ぐ力は資本コストに届かない。
財布は強い。自己資本比率は85%で、借金より現金のほうが300億円ほど多い。時価総額の約3分の1が現金だ。TOCビルの土地は約2万2千㎡ある。帳簿の価額は古く、含み益は大きい可能性がある。ただ額は確かめられず、価値には入れていない。
問題は稼ぐ力だ。TOCビルは2024年にいったん閉館し、いまの入居率は66%にとどまる。会社全体では82%まで戻り、営業利益は前の期の1.7倍になった。それでも自己資本利益率は2%台だ。10年後の中立でも5%前後と見る。
建て替えは2036年以降へ延びた。それまでの11年は、耐震補強をした築50年超のビルを貸し続ける。物価が年3%で上がる世界では賃料も1.34倍になる。だが稼働を9割に戻せるかが勝負で、そこが崩れると利益は半分以下になる。
オーナー側の事情もある。2007年にダヴィンチの対抗TOBを退けた会社で、現金も戻りにくい。買収で価値が表に出る余地はあるが、数字には入れていない。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額を5割弱下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見るべき点は2つある。10年後も続く稼ぎがいくらか。そして、その稼ぎのどれだけが株主の手に残るかだ。
TOCビルの再生がうまくいけば、営業利益は今の2倍以上になる。稼ぎの質は悪くない。借金がなく、受取配当と利息が上乗せされる。景気の波にも比較的強い。ただ、築50年超のビルの稼働を9割に戻せるかは、まだ証明されていない。
気になるのは資本の置き場所だ。現金と上場株式で自己資本の4割以上が眠っている。事業に使わず、株主にも十分に戻していない。この金をどう使うかで、10年後の価値は大きく変わる。
安全域は、一部は資産が確保している。借金がなく、土地の含み益もある。しかし安全域があることと、割安であることは違う。稼ぐ力が資本コストに届かない会社に、帳簿の厚みを満額で払う理由はない。筆者は、含み益が利益に変わる道筋、つまり売却・再開発・還元のどれかが見えるまでは、割高と見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、東京の12棟のビルを貸す事業だ。連結売上の約75%、営業利益のほとんどがここから出る。
看板は品川区西五反田のTOCビルだ。1970年に開業した流通・卸売のための大型ビルで、延べ床面積は17万㎡を超える。いまは卸売の拠点から、オフィス、物販、催事場へと使い方を広げている。2024年3月にいったん閉館し、耐震補強を済ませて同年9月に順次再開した。会社はテナント集めと催事の誘致を最優先にしている。
ほかに、江東区のTOC有明(2006年開業)、品川区の大崎ニューシティと第5TOCビル、港区の赤坂インターシティAIRなどを持つ。子会社が持つ浅草ROXのビルもある。全物件が東京都内に集まっている。
不動産以外に、小さな事業が3つある。寝具やタオルの洗濯・貸出をするリネンサプライ(持株比率55%)、スポーツクラブと温浴施設、製薬の星製薬だ。売上は合わせて約40億円。利益はごくわずかで、本業を支える柱というより、ビルの周りの小事業と見るのが実態に近い。本業の賃貸が崩れた時に、これらが穴を埋める力はない。
優良さと弱いところ
最大の強みは、広い土地を持っていることだ。TOCビルの土地は約2万2千㎡あり、再開発の余地が大きい。帳簿の価額は古く、含み益は大きい可能性がある。ただし額は開示から確かめられなかった。
堀、つまり他社がまねできない強みは広くない。賃貸ビルの賃料は周辺の相場で決まり、値決め力は弱い。築50年を超えるTOCビルは、新しい大型ビルとの競争で見劣りする。流通・卸売という元の役割も細っている。
資本の使い方には疑問が残る。自己資本利益率は過去10年の中央値で5%に届かず、直近は2%台だ。自己資本比率85%という厚みを、事業で生かしきれていない。配当性向は38%。自社株買いは2024〜25年に合計36億円ほどを実施した。上場の政策保有株は15銘柄、約170億円で、自己資本の16%にあたる。
筆者は、この会社を「資産は一流、稼ぐ力は二流」と見る。建て替えを急がず、数値目標も出さない姿勢は、安全ではある。しかし株主の取り分を増やす意志は強くない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
東京のオフィス賃貸は、貸し手に有利な市場が続いている。都心5区の空室率は2%を切り、賃料も上がっている(三鬼商事)。TOCビルのある五反田は、その都心5区のすぐ外にある。需要は強いが、新築の大型ビルとの競争は避けられない。
TOCビルが属するのは、都心にビルを持って貸す領域だ。同じ領域のヒューリックは、銀座・日本橋を中心に金融と組んで規模を伸ばす。平和不動産は兜町の再開発を進める。サンフロンティア不動産とトーセイは、中小型ビルを買って直して売る。テーオーシーはこのどれとも違い、借金がほとんどなく、一つの大型ビルに資産が集まっている。
物価が年3%で上がる世界では、賃料も名目で伸びる。ただ修繕費・人件費・固定資産税も同じように上がるので、利益率が自然に増えるわけではない。金利が上がれば、ビルの売買の目安になる期待利回りも上がる。借金のない会社は利払いの打撃を受けないが、ビルの評価は下がりうる。
この会社にとっての分かれ目は2つある。1つは、TOCビルの稼働をいまの66%からどこまで戻せるか。もう1つは、建て替え(2036年以降)に踏み切るのか、貸し続けるのか、売るのかだ。
資本政策と M&A
還元は配当と自社株買いの両方がある。配当は中間と期末の年2回で、2026年3月期の配当性向は38%。自社株買いは2024年8月と2025年2月に合計約36億円を実施した。直近の2026年3月期は実施がない。
純現金が約300億円、上場株式が約170億円(鹿島建設・ヒューリック・東映など)ある。この資産をどう使うかが最大の論点だ。会社は「キャッシュ・フローの拡大と資本効率の向上」と述べるだけで、数値目標は示していない。
株主はオーナー色が濃い。ニュー・オータニが議決権の約24%、大谷興産が約17%、オオタニ・ファンドが約8%を持つ。2007年のダヴィンチの対抗TOBは、これらの買い増しと取引先の協力で阻まれた。外部からの買収は難しい。一方、オーナー側が資産売却や非公開化を選べば、価値が表に出る余地はある。
2025年12月にはサイバー攻撃を受けた。情報管理の強化が急務だ。
減価償却は物価で増やさない。今ある設備の償却は取得した時の値段のままで、増えるのは更新と新規の分だけだ。償却は今の13億円が10年後に約 15億円。更新投資は価格の上昇で膨らみ、足りない分は借入になって利払い(3.5%)が増える。会計の利益と現金の動きは同じ向きに動かない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
TOCビルは五反田の一等の土地に立つ。耐震補強を終え、2024年9月の再開から稼働が戻り始めた。会社全体の入居率は1年で68%から82%へ上がり、営業利益は1.7倍になった。TOCビルの稼働が9割近くまで戻れば、営業利益は今の2倍以上になる。
土地の価値も見落とせない。帳簿は古く、含み益は大きい。借金がほとんどなく、現金は約300億円ある。景気が悪くなっても倒れない。
物価が年3%で上がる世界では、賃料も名目で上がり、土地の価値も名目で上がる。建て替えが2036年以降に延びたことで、先の大型投資の負担も今は考えなくてよい。
資本効率の低さは、オーナー側にとっても宿題だ。2024〜25年の自社株買いは、その意識の表れといえる。大型の自社株買いや資産売却に踏み切れば、資産の厚さがそのまま株主の価値になる。2007年にダヴィンチが仕掛けたように、この会社の資産は外から見ても魅力がある。10年のうちに、もう一度同じことが起きても不思議ではない。しかも今は、会社の側にも防戦だけでなく、価値を自分で引き出す選択肢がある。
慎重な見方
TOCビルは築50年を超える。耐震補強をしても、新築の大型ビルとの競争には勝ちにくい。再開から1年半たった2026年3月末でも、TOCビルの入居率は66%だ。流通・卸売という元の役割が細る中、催事や臨時の使用に頼る部分が多く、収入が安定しない。
稼ぐ力は資本コストに届かない。自己資本利益率は直近で2%台、10年後の中立でも5%前後だ。現金と上場株式で自己資本の4割以上が眠っているのに、動かす気配がない。数値目標も示さない。経営計画の中身が見えないので、外から評価のしようがない。
建て替えは、2023年春の着工予定から2033年頃へ、さらに2036年以降へと2度延びた。この先も延びないとは言い切れない。
営業利益の伸びは、閉館で落ちた利益が戻る分が大きい。物価の上昇で、修繕費・人件費・固定資産税も上がる。含み益は、売らなければ株主の手に入らない。しかもオーナーが握る会社で、売る動機は見えない。
どちらに重みを置いたか
稼ぐ力に着目すると、慎重な見方が強い。借金がなく資産が厚いので、悲観は1割ほどに抑えた。一方、中立の10年でも自己資本利益率は5%前後で、資本コストに届かない。確率は中立をもっとも厚くし、やや悲観を楽観側と同じ程度に置いた。含み益は2019年の鑑定時価を土台にした推定の税後7割で、悲観の床にだけ入れ、中立以上には足していない。買収の可能性は、額と時期が確かめられないので、数字には入れていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,489 円1,314 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 196 円173 億円)。 今の値に割り戻すと 816 円720 億円、今との差 −13.7%、 期待の年率 +6.0%(資本コスト 8.1%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 2,123 円1,873 億円 | 386 円341 億円 | +165.6% | +10.3% | 251 円221 億円 |
| やや楽観 | 22% | 1,994 円1,759 億円 | 255 円225 億円 | +138.0% | +9.1% | 495 円437 億円 |
| 中立 | 34% | 1,845 円1,628 億円 | 184 円162 億円 | +114.7% | +7.9% | 690 円609 億円 |
| やや悲観 | 22% | 672 円593 億円 | 134 円118 億円 | −14.7% | −1.6% | 177 円156 億円 |
| 悲観 | 12% | 523 円462 億円 | 76 円67 億円 | −36.6% | −4.5% | 72 円63 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,489 円1,314 億円 | 196 円173 億円 | +78.3% | +6.0% | 1,685 円1,486 億円 |
今の株価時価総額 945 円834 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.1% を下回るほど割高。
楽観 10% TOCビルが満室近くに戻り、現金も株主へ返る 利益 74 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,123 円1,873 億円
TOCビルの稼働が9割台に戻る。築年の弱みを、賃料の見直しと催事の定着で埋める。五反田・大崎周辺の企業需要も追い風になる。稼働面積は今より2割近く増え、賃料は物価を上回って上がる。営業利益は10年後に約86億円と、今の3.5倍に届く。
資本の使い方も変わる。オーナー側が、現金と上場株式を事業で使いきれないと判断する。大型の自社株買いや特別配当で株主に返し、10年の還元は合計330億円ほどになる。建て替えは先送りのまま、現ビルを貸し続ける。
条件は重い。稼働・賃料・還元が同時にそろう必要があり、起こりにくい。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の13億円が10年後に約 15億円(物価で一律に増やすと約 11億円)。営業利益は +4億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 賃貸(不動産事業):数量 24.0(稼働している賃貸面積(万㎡)=賃貸可能面積 約25万㎡(推定)× 入居率)× 価格 8.31(1㎡あたり年間の売上(万円・共益費や催事収入を含む平均。物価で上がる名目))→ 売上 199 億円・営業利益 88 億円。稼働+18%・賃料+12%(実質)・償却は物価で増やさず按分(10年後 15億円)
- リネンサプライ・ランドリー:数量 9.5(年間の処理量(千トン))× 価格 27(1トンあたりの売上(万円・名目))→ 売上 26 億円・営業利益 1 億円。量+5%・価格は物価並み
- 製薬・スポーツ温浴・ビル管理:数量 60.0(利用・取扱の件数換算(万件))× 価格 0.50(1件あたりの売上(万円・名目))→ 売上 30 億円・営業利益 1 億円。件数は据え置き
倍率:事業の純利益 69 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 8.10% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)380 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 1,250 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:稼働・賃料・還元の3つが同時にうまくいく必要があり、1割に抑える。
やや楽観 22% 稼働は9割前後まで戻り、現金も少しずつ還元される 利益 62 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 1,994 円1,759 億円
TOCビルの稼働が9割前後まで戻る。会社全体の稼働面積は今より1割台半ば増える。賃料は物価をわずかに上回る程度で、築古の割安さが借り手を呼ぶ。営業利益は10年後に約72億円と、今の3倍近くになる。増えた利益で、配当は着実に積み上がる。
現金は事業に回らないが、配当性向を上げ、自社株買いも続く。10年の還元は合計220億円ほど。建て替えの判断は2036年以降のままだが、ビルの稼ぎが戻ったことで、オーナー側の発言力は強まる。周辺の再開発が進めば、土地を使う選択肢も広がる。
資産の厚さと稼ぎの回復が同時に評価される、望ましいが特別ではない姿だ。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の13億円が10年後に約 15億円(物価で一律に増やすと約 12億円)。営業利益は +3億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 賃貸(不動産事業):数量 23.2(稼働している賃貸面積(万㎡)=賃貸可能面積 約25万㎡(推定)× 入居率)× 価格 7.79(1㎡あたり年間の売上(万円・共益費や催事収入を含む平均。物価で上がる名目))→ 売上 181 億円・営業利益 74 億円。稼働+14%・賃料+5%(実質)・償却は物価で増やさず按分(10年後 15億円)
- リネンサプライ・ランドリー:数量 9.1(年間の処理量(千トン))× 価格 27(1トンあたりの売上(万円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 1 億円。量横ばい
- 製薬・スポーツ温浴・ビル管理:数量 57.0(利用・取扱の件数換算(万件))× 価格 0.50(1件あたりの売上(万円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 1 億円。件数ほぼ横ばい
倍率:事業の純利益 56 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.9% が k 8.10% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)430 億円。全体の PER 11.1 倍、時価総額 1,118 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:稼働が戻る道筋は見えているが、賃料と還元は慎重にみる。
中立 34% 稼働は9割に届き、賃料は物価並み、還元は今の延長 利益 53 億円 · PER 11.0 倍 · 株価時価総額 1,845 円1,628 億円
TOCビルの稼働は9割ほどまで戻る。賃料は物価並みに上がるだけで、周辺相場との差は縮まない。稼働面積は今より1割増える。営業利益は10年後に約61億円と、今の2.5倍になる。ただ増える分の大半は、閉館で落ちた利益が戻るものだ。
資本の使い方は今の延長にとどまる。配当性向は4割前後、自社株買いは時々。現金と上場株式は積み上がり、10年の還元は合計160億円ほどだ。建て替えは2036年以降に判断される。
築50年超のビルの収益を維持しつつ、土地の含み益を表に出さないまま10年が過ぎる。もっとも起こりやすい姿である。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の13億円が10年後に約 15億円(物価で一律に増やすと約 13億円)。営業利益は +2億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 賃貸(不動産事業):数量 22.5(稼働している賃貸面積(万㎡)=賃貸可能面積 約25万㎡(推定)× 入居率)× 価格 7.42(1㎡あたり年間の売上(万円・共益費や催事収入を含む平均。物価で上がる名目))→ 売上 167 億円・営業利益 62 億円。稼働+10%・賃料は物価並み・償却は物価で増やさず按分(10年後 15億円)
- リネンサプライ・ランドリー:数量 9.1(年間の処理量(千トン))× 価格 27(1トンあたりの売上(万円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 1 億円。量横ばい
- 製薬・スポーツ温浴・ビル管理:数量 55.0(利用・取扱の件数換算(万件))× 価格 0.50(1件あたりの売上(万円・名目))→ 売上 27 億円・営業利益 0 億円。件数ほぼ横ばい
倍率:事業の純利益 47 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.5% が k 8.10% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)400 億円。全体の PER 11.04 倍、時価総額 985 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:閉館から戻る道筋はほぼ見えているが、稼働の戻りの速さと築古の弱みが半々。いちばん厚く置く。
やや悲観 22% 稼働は8割台で止まり、賃料は物価に負ける 利益 34 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 672 円593 億円
TOCビルの稼働は8割台で止まる。新築の大型ビルに借り手を取られ、催事や臨時の使用に頼る場面が多い。賃料は物価に追いつかず、実質で1割近く目減りする。営業利益は10年後に約41億円で、今の1.6倍にとどまる。
人件費・修繕費・固定資産税が物価で上がるため、利益率は戻りきらない。リネンなどの小事業は薄利のままだ。
現金は積み上がるが、使い道も還元も決まらない。10年の還元は合計120億円ほど。建て替えは再び延び、築古のビルを貸し続けることになる。賃貸ビルの一部に減損が出て、自己資本はわずかに減る。財務は傷まないが、稼ぎは資本コストを大きく下回る。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の13億円が10年後に約 15億円(物価で一律に増やすと約 14億円)。営業利益は +1億円。建築費の上昇で膨らむ更新・再開発の投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 2億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 賃貸(不動産事業):数量 21.0(稼働している賃貸面積(万㎡)=賃貸可能面積 約25万㎡(推定)× 入居率)× 価格 6.83(1㎡あたり年間の売上(万円・共益費や催事収入を含む平均。物価で上がる名目))→ 売上 143 億円・営業利益 41 億円。稼働+3%・賃料-8%(実質)・償却は物価で増やさず按分(10年後 15億円)
- リネンサプライ・ランドリー:数量 8.6(年間の処理量(千トン))× 価格 26(1トンあたりの売上(万円・名目))→ 売上 22 億円・営業利益 0 億円。量-5%・値上げ遅れ
- 製薬・スポーツ温浴・ビル管理:数量 50.0(利用・取扱の件数換算(万件))× 価格 0.48(1件あたりの売上(万円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 0 億円。件数-9%
倍率:事業の ROE は 3% 前後で資本コスト 8.1% を大きく下回る。稼ぐ力(事業の純利益÷k)は約 400 億円、これに余った現金(谷で食われて 0.75 倍)の戻り分約 95 億円を足して約 490 億円。売れる資産の税後は約 560 億円。床は今の自己資本ではなく稼ぐ力と売れる資産の間に置き、自己資本 1041 億円に 0.57 倍を掛けた。
確率:築古の弱みと催事への依存は現実的で、楽観側と同じ程度の確率を置く。
悲観 12% 築古のTOCビルが競争に敗れ、稼働・賃料とも下がる 利益 9 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 523 円462 億円
築50年超のTOCビルが、新築の大型ビルとの競争に敗れる。流通・卸売の需要は細り、催事に頼る収入も安定しない。稼働は7割台に下がり、賃料は物価に追いつかず実質で2割下がる。営業利益は10年後に約16億円まで落ちる。
建て替えか売却かの判断が遅れ、追加の耐震・改修費がかさむ。ビルの評価を引き下げる減損が出て、自己資本は今を下回る。現金の一部は、見込みの外れた新規事業と修繕に消える。
借金がないので倒れはしない。しかし成長企業としての評価はなくなり、資産を持つだけの会社と見られる。10年の還元は合計80億円にとどまる。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の13億円が10年後に約 15億円(物価で一律に増やすと約 16億円)。営業利益は −1億円。建築費の上昇で膨らむ更新・再開発の投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 7億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 賃貸(不動産事業):数量 18.8(稼働している賃貸面積(万㎡)=賃貸可能面積 約25万㎡(推定)× 入居率)× 価格 5.93(1㎡あたり年間の売上(万円・共益費や催事収入を含む平均。物価で上がる名目))→ 売上 111 億円・営業利益 16 億円。稼働-8%・賃料-20%(実質)・償却は物価で増やさず按分(10年後 15億円)
- リネンサプライ・ランドリー:数量 8.2(年間の処理量(千トン))× 価格 25(1トンあたりの売上(万円・名目))→ 売上 20 億円・営業利益 0 億円。量-10%・値下げ
- 製薬・スポーツ温浴・ビル管理:数量 45.0(利用・取扱の件数換算(万件))× 価格 0.46(1件あたりの売上(万円・名目))→ 売上 21 億円・営業利益 0 億円。件数-18%・赤字
倍率:ROE は 1% 台で稼ぐ力はほとんどない(事業の純利益÷k は約 160 億円)。余った現金は半分に食われる。売れる資産の税後は約 450 億円だが、売却に時間がかかり値引きもある。減損後の自己資本 900 億円に 0.523 倍を掛け、稼ぐ力と床の間に置いた。
確率:財務は傷みにくいが、築古ビル一つに資産が集中しており、構造的に負ける筋書きの確率は1割ほど。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
賃貸(不動産事業)
東京都内12棟のビル(TOCビル・TOC有明・大崎ニューシティなど)を貸す中核事業。
| 数量稼働している賃貸面積(万㎡)=賃貸可能面積 約25万㎡(推定)× 入居率 | 価格1㎡あたり年間の売上(万円・共益費や催事収入を含む平均。物価で上がる名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.4 | 5.54 | 113 | 24 |
| 10 年後 中立 | 22.5 | 7.42 | 167 | 62 |
取り方:賃貸可能面積は開示がなく、TOCビルの延べ床17万㎡超、TOC有明・大崎ほかを足して約25万㎡と推定した。期末の入居率81.7%を掛けて稼働面積20.4万㎡。売上113億円を割ると1㎡あたり年5.5万円。物価の分は価格に入れ、面積は実質。
リネンサプライ・ランドリー
寝具・タオル類の洗濯と貸出を行う子会社(持株比率55%)の事業。
| 数量年間の処理量(千トン) | 価格1トンあたりの売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 9.1 | 20 | 18 | 1 |
| 10 年後 中立 | 9.1 | 27 | 24 | 1 |
取り方:処理量は開示がない。売上18億円を、洗濯1kgあたりの単価を仮置きして割った推定値。
製薬・スポーツ温浴・ビル管理
星製薬の製薬、スポーツクラブ・温浴施設、ビル管理の小規模な事業の集まり。
| 数量利用・取扱の件数換算(万件) | 価格1件あたりの売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 55.0 | 0.37 | 20 | 0 |
| 10 年後 中立 | 55.0 | 0.50 | 27 | 0 |
取り方:件数は開示がない。売上20億円を、1件あたりの平均単価を仮置きして割った推定値。
リスクと懸念
TOCビルの稼働が戻らない
2024年に閉館した後、TOCビルの入居率は66%にとどまる。築50年超で、新築の大型ビルと競う弱みがある。催事や臨時の使用に頼る収入は安定しにくく、稼働が戻らなければ営業利益の回復が止まる。この会社の利益の回復は、ほぼこの一点にかかっている。
建て替えの再延期と費用の高騰
新TOCビルの着工は、2023年春の予定から2033年頃、さらに2036年以降へ延びた。建築費の高騰とビル賃貸市況が理由だ。今後も延びる可能性があり、そのたびに現ビルの改修費がかさむ。土地の価値が利益に変わる時期が遠のく。
金利上昇でビルの評価が下がる
10年国債3%への金利上昇が進むと、ビルの売買の目安になる期待利回りが切り上がる。借金がなく利払いは増えないが、含み益は縮み、売却で価値を出す道が細る。上場株式の評価も下がりうる。
東京一極集中と災害
保有物件はすべて東京都内で、しかも品川区に偏っている。大地震や水害で一度に被害を受ける可能性がある。TOCビルは耐震補強を済ませたが、築50年超のビルでは補修費が膨らみやすい。
現金と有価証券が使われない
純現金約300億円と上場株式約170億円で、自己資本の4割を超える。オーナー色の濃い会社で、大型の還元や投資に動く保証はない。資本が眠ったままだと、10年たっても自己資本利益率が5%前後にとどまる。
情報セキュリティ
2025年12月にサイバー攻撃を受けた。ビルの入退館・テナント管理・決済の仕組みが止まれば、営業の停止や信用の低下につながる。会社も情報管理の強化を急ぐ課題に挙げている。
政策保有株の値動き
鹿島建設・ヒューリック・東映など上場15銘柄を約170億円持つ。株価が下がれば自己資本が減り、売れば税金がかかる。これまでも売却益を利益に入れてきたので、利益の質を見る時は一時の益を外す必要がある。
今後の分かれ目
- TOCビルの稼働が2年以内に8割台後半まで戻る
- 営業利益の回復が確かになり、中立から楽観の側へ寄る。賃料の改定が進めば、築古の弱みは薄まる。
- TOCビルの稼働が7割台で止まる
- 利益の回復は会社全体の稼働の戻り分で終わり、やや悲観の筋書きに近づく。催事への依存を見直す必要が出る。
- 現金と上場株式を使った大型の自社株買いや特別配当が出る
- 眠っていた資産が株主の価値に変わり、現金の戻り方を0.5から1.0へ上げて見直せる。本質価値は大きく上がる。
- オーナー側による非公開化や資産売却が出る
- 含み益が表に出て、いまの数字に入っていない価値が加わる。価格と時期を確かめたうえで見直す。
- 新TOCビルの着工がさらに先へ延びる
- 現ビルの改修費が増え、土地の価値が利益に変わる時期が遠のく。悲観の確率を少し上げる。
- 10年国債の金利が3%を大きく超えて上がる
- ビルの期待利回りが上がり、含み益が縮む。借金がないので利払いの影響は小さいが、売却で価値を出す道は細る。
見ておくもの
- TOCビルの入居率(決算ごと)と催事・臨時使用の比重
- 新TOCビル計画(着工時期・分譲を含む設計変更)の発表
- 自社株買い・配当方針の変更と数値目標の有無
- 上場株式(鹿島建設・ヒューリック・東映)の売却と保有の縮減
- ニュー・オータニなど大株主の持株比率の変動
- 五反田・大崎のオフィス空室率と賃料、期待利回り
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER から筋書きを作らず、稼働面積(推定・実質)と賃料(物価 3% 込みの名目)を積んだ。倍率は資本コスト 8.1%(基本 7.5% に quality +0.6%)と、ROE が資本コスト以下であることから 1÷k を上限とし、利益の質に応じて 8.5〜9 割に置いた。余った現金は戻り方 0.5 で足した。賃貸ビルの含み益は、2019年3月期の鑑定時価(約1,581億円)を土台に、金利上昇で2割下がったとみた推定の税後7割(約500億円)で、悲観側の床にだけ入れた。賃料が純利益に残るので、中立以上には足していない。リースは借地料が小さく影響は軽微。最近の時価は確かめられていない。結論は「割高」。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.2→11.76 倍・中立 PER 10.5→11.04 倍・やや悲観 PBR 0.48→0.57 倍・悲観 PBR 0.444→0.523 倍)。
資本コスト 8.1% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.6% を足した 8.1%。事業は傾いていないので extra は置かない。