結論
日本空港ビルデングは羽田空港(東京国際空港)の第1・第2旅客ターミナルビルを保有・運営し、着陸料とは別建ての施設使用料、免税店を含む物品販売、飲食、ターミナル内の不動産賃貸で稼ぐ、他の不動産業とは収益構造が異なる「インフラ運営+小売」の会社である。2025年の羽田旅客数は9,158万人・国際線2,503万人と過去最高を更新し、インバウンド拡大が免税店売上を押し上げている。2026年5月に発表した中期経営計画(2026〜2030年度)は、自らを需要創造型の「空港の要(Anchor Role)」と再定義し、2030年度に売上高3,400億円以上・営業利益550億円以上、総還元性向50%超を掲げる。第1ターミナルの国際化検討と将来のT1・T2接続という大型投資構想が10年後の姿を左右する一方、羽田の発着枠は既にほぼ上限まで配分され、容量は投資と運営効率化でしか増やせない。もっとも重い悲観は2020年のコロナ禍で実際に起きた国際線旅客9割減・免税店売上消失という実例で、10年のうちにこれに準じる規模の需要蒸発が起きれば、固定費の重いこの会社の営業利益は再び赤字に転じ得る。旅客数(実質)は発着容量の上限と国内線の細りで中立では10年で1割強の伸びに抑え、施設使用料は国の認可が要る規制料金で物価に1〜2年遅れる(10年1.30倍)一方、物販・飲食の単価と賃料は物価並みに上がる。中立のROEは10年で11%弱。資本コスト7.25%を超えるが、その超過分は先で薄れる。羽田ターミナルの独占という強い堀があるので、薄れるのは3分の1にとどまる。それでも筆者の結論は「ほぼ適正」だ。需要蒸発が起きた年の利益は薄く、悲観の筋書きは稼ぐ力そのもので測った。加重平均は今の時価総額を1割弱下回る。
バリュー投資の観点から
羽田空港という代替の無い場所でのターミナル運営権は、10年後も揺らぎにくい堀で、バリュー投資の観点では評価しやすい資産である。稼いだ利益のうちどれだけが株主のものになるか(オーナー利益)を見ると、自己資本比率42.7%・純有利子負債が時価総額比18.8%という財務の健全さは、同業の都心アセット保有・再生型より保守的に評価しやすい材料である。経営の資本配分については、JAL・ANAホールディングスとのAGP非公開化という周辺領域への資本提携は空港運営の本業に近く合理的に見えるが、第1ターミナルの国際化・T1・T2接続という中期経営計画の大型投資構想は実行の確度・工期・投資規模にまだ不確実性が残り、確信度を下げて評価すべき部分である。安全域の面では、2020年のコロナ禍で実際に営業利益が赤字に転じた実績があり、固定費の重いこの事業は需要蒸発時の損益の振れ幅が大きい。ただし羽田という資産そのものの独占性・不動産としての価値は、谷の年でも本質価値の床を支える重要な要素であり、自己資本の厚みも同業他社より相対的に厚い。
何で稼ぐ会社か
事業は大きく4つに分かれる。施設提供事業は、羽田空港第1・第2旅客ターミナルビルの運営権を背景に、航空会社・旅客から施設使用料を収受する中核事業で、収益は旅客数にほぼ比例する。物品販売事業は、出国エリアの免税店(デューティーフリー)と制限区域内外の一般物販からなり、インバウンド消費の円安効果を強く受ける。飲食事業はターミナル内のレストラン・フードコートの運営。不動産事業は、ターミナル内の航空会社事務所・商業テナントへの賃貸で、旅客数に直接左右されにくい安定収益を担う。これに加え、JAL・ANAホールディングスと共同でAGP(エアポートグラウンドパワー、地上支援機材等のサービス会社)を非公開化し出資するなど、空港運営の周辺領域への資本提携も進める。2026年5月の中期経営計画(2026〜2030年度)では、羽田を「日本の航空旅客数最大化に貢献する空港」に進化させるとし、第1ターミナルの国際線誘致の検討、将来的な第1・第2ターミナルのサテライトビル経由での接続という大型投資構想を掲げ、空港運営基盤(TAM)の構築・空港GX(脱炭素化)・人的資本経営を3本柱に据える。中計期間の成長投資は総額約1,000億円で、うち4割を既存ターミナルの大規模改修に投じる方針である。
優良さと弱いところ
最大の堀は、羽田空港という代替の無い場所でのターミナル運営の事実上の独占で、他社が同じ場所で競合することはできない。この独占性により施設使用料・店舗賃料を自ら設定できる価格決定力を持ち、ROEは今期13.9%と、業種ノート(空港ターミナル運営の成熟期ROE6〜12%)の上限を上回る水準にある。自己資本比率42.7%・純有利子負債は時価総額比18.8%と、同じ不動産業の都心アセット保有・再生型(ヒューリック自己資本比率26%等)より財務は健全で、β(使う値)0.60も大手デベロッパー(0.8前後)より低く、規制下の安定収益という性格を映す。一方で弱点は、旅客数という単一のドライバーに収益が強く連動する構造で、2021年3月期には営業利益率が-112.3%まで落ち込み、2022〜2023年3月期も赤字〜低空飛行が続いた実績がある。固定費(ターミナルの維持・人件費)が重く、需要蒸発時の損益の振れ幅が大手総合デベロッパーより大きい。もう一つの弱点は、羽田の発着枠が既にほぼ上限まで配分されており、新規の旅客増は投資(新ターミナル・接続構想)と運営効率化に依存する点で、容量の天井が成長の制約になり得る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
空港ターミナル運営の領域は、羽田空港を運営する日本空港ビルデングのほか、成田国際空港(国が全額出資するNAAが運営、非上場)、関西エアポート(オリックス・フランスのヴァンシ連合が運営する関空・伊丹、非上場)があり、他の不動産業の20社とは収益構造・競争の形がまるで異なる。2025年の羽田旅客数は9,158万人(前年比5.7%増)・国際線2,503万人(同8.7%増)でいずれも過去最高を更新し、インバウンド拡大が免税店等の物品販売(543.88億円、2025年3月期)を押し上げている。羽田の発着枠は国土交通省の配分によりほぼ上限まで使われており、容量の天井が意識される一方、羽田は都心からの近さで成田・関空より利便性が高く、空港間競争では優位に立つ。中立では国際線旅客が10年で年率2〜3%、1人当たり店舗単価は10年で年率1〜2%伸びる姿を想定するが、楽観は発着枠の追加拡大・新ターミナル投資の前倒しで旅客増が加速する展開、悲観は感染症・地政学リスク・自然災害で訪日需要が急減する展開である。2020年のコロナ禍では国際線旅客が前年比9割以上減少し免税店売上もほぼ消失する極端な谷を実際に経験しており、この深さが悲観の目盛りの下敷きになる。10年の構造的な負け筋は、発着枠が頭打ちになったまま成田・LCC専用ターミナルへ需要がシフトし、羽田の相対的な地位が低下する展開である。
資本政策と M&A
株主還元は、配当性向目標30%以上(2026年3月期実績30.4%)に加え、2026年10月〜2027年3月に上限350万株・150億円の自社株買い(取得株式は全株消却)を実施する。中期経営計画(2026〜2030年度)では総還元性向50%超への引き上げを掲げ、2025年3月期実績の21.7%から大きく積み上げる方針である。M&Aでは、JAL・ANAホールディングスと共同で地上支援サービス会社AGPを非公開化し(JAL46.56%・空ビル33.44%・ANAHD20.00%の出資比率で合意)、空港運営の周辺領域に資本提携で関与する動きがある。大株主は日本マスタートラスト信託銀行9.74%・日本航空4.72%・ANAホールディングス4.72%(2026年3月末)で、航空会社2社が主要株主として安定株主の役割を担う一方、羽田という独占的なインフラ資産の価値を考えると、将来的に空港・インフラ系ファンドからの関心や再編の思惑が生まれる余地も否定できない。中期経営計画の成長投資約1,000億円のうち4割は既存ターミナルの大規模改修に向けられ、残りは第1ターミナルの国際化検討等の新規投資に配分される見込みである。
減価償却は物価で増やさない。今ある設備の償却は取得した時の値段のままで、増えるのは更新と新規の分だけだ。償却は今の298億円が10年後に約 323億円。更新投資は価格の上昇で膨らみ、足りない分は借入になって利払い(3.5%)が増える。会計の利益と現金の動きは同じ向きに動かない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
羽田空港という代替の無い場所でのターミナル運営の独占性は崩れようがなく、2025年の羽田旅客数9,158万人・国際線2,503万人という過去最高の実績は、訪日需要の拡大がまだ続いていることを示す。円安が続く限り免税店等の物品販売は伸び続け、2027年3月期第1四半期には営業利益が前年同期比40.7%増と中国人客頼みでない客層の多様化も進んでいる。中期経営計画(2026〜2030年度)が掲げる2030年度営業利益550億円以上・総還元性向50%超という目標は、第1ターミナルの国際化検討・T1・T2接続という成長投資約1,000億円の裏付けを伴い、実現可能性は十分にある。自己資本比率42.7%・純有利子負債が時価総額比18.8%という健全な財務は、同業の都心アセット保有・再生型より投資に踏み出す余力があることを示す。羽田の発着枠がほぼ上限に達していても、新ターミナル投資と運営効率化で容量を補える余地は残っており、JAL・ANAホールディングスという安定株主の下で長期の投資計画を着実に進められる。今の時価総額は、この独占的インフラ資産の質と中期経営計画の実現可能性を考えれば、十分な上振れ余地を残している。
慎重な見方
日本空港ビルデングの収益は旅客数という単一のドライバーに強く連動し、2021年3月期には営業利益率が-112.3%まで落ち込み、2022〜2023年3月期も赤字〜低空飛行が続いた実績がある。固定費(ターミナルの維持費・人件費)が重く、2020年のコロナ禍では国際線旅客が9割以上減少し免税店売上もほぼ消失した。感染症の再流行や地政学リスク、大規模災害は今後も起こり得るテールリスクで、羽田は国際線への依存度が高まるほどこの感応度が増す。羽田の発着枠は既にほぼ上限まで配分されており、容量の天井は中期経営計画の投資計画が遅延・縮小すれば成長の制約として表面化する。第1ターミナルの国際化検討やT1・T2接続という大型投資構想は、工期・投資規模・需要予測のいずれにも不確実性があり、計画通りに進むとは限らない。成田国際空港・関西エアポートとの空港間競争や、LCC専用ターミナルへの需要シフトが進めば、羽田の相対的な地位が10年の時間軸で低下するおそれもある。今の時価総額は、インバウンド拡大と中期経営計画の達成を前提にしており、どちらかが崩れれば本質価値との差は大きく開く。
どちらに重みを置いたか
羽田という代替の無い資産の独占性については強気の見方が優勢で、2025年の旅客数過去最高・免税店の好調という実績がそれを裏付ける。一方、旅客数という単一のドライバーへの依存、発着容量の上限、2020年に実際に起きた需要蒸発の実例を踏まえると、慎重な見方の指摘も的を射ている。確率は中立を最も厚く置きつつ、需要蒸発の悲観側もやや厚めにした。旅客の伸びを抑え、施設使用料を物価より少し遅らせて利益の倍率で測ると、確率で重みを付けた本質価値は今の時価総額を1割弱下回り、結論は「適正」。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 10,261 円9,525 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,056 円1,908 億円)。 今の値に割り戻すと 6,544 円6,075 億円、今との差 +16.2%、 期待の年率 +8.1%(資本コスト 7.2%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 23,870 円2.22 兆円 | 3,555 円3,300 億円 | +386.9% | +17.2% | 3,291 円3,055 億円 |
| やや楽観 | 26% | 14,199 円1.32 兆円 | 2,554 円2,371 億円 | +197.5% | +11.5% | 4,356 円4,043 億円 |
| 中立 | 32% | 9,186 円8,527 億円 | 1,965 円1,824 億円 | +98.0% | +7.1% | 3,568 円3,312 億円 |
| やや悲観 | 20% | 3,686 円3,421 億円 | 1,496 円1,389 億円 | −8.0% | −0.8% | 1,036 円962 億円 |
| 悲観 | 10% | 280 円260 億円 | 370 円343 億円 | −88.5% | −19.4% | 65 円60 億円 |
| 加重平均 | 100% | 10,261 円9,525 億円 | 2,056 円1,908 億円 | +118.7% | +8.1% | 12,317 円1.14 兆円 |
今の株価時価総額 5,632 円5,228 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 12% 新ターミナル投資が実現し羽田の地位がさらに高まる 利益 1,032 億円 · PER 21.5 倍 · 株価時価総額 23,870 円2.22 兆円
羽田空港は第1ターミナルの国際化とT1・T2接続という中期経営計画の大型投資構想が実現し、内際乗継の利便性向上でインバウンドの地方送客も進む。旅客数は年率5%前後で拡大し続け、免税店等の物品販売も円安効果とインバウンド消費の多様化で大きく伸びる。飲食事業も旅客増に沿って拡大する。不動産事業はターミナル拡張で賃貸可能面積が増え賃料も上昇する。羽田の発着枠拡大を伴う新ターミナル投資が成長の天井を押し上げ、2030年度目標を大きく超える規模の営業利益を2036年3月期には達成する。JAL・ANAホールディングスとの資本提携も空港の要(Anchor Role)としての機能を支え、成田国際空港・関西エアポートに対する競争優位も一段と広がる。総還元性向50%超も安定的に続き、株主基盤の評価も高まる。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の298億円が10年後に約 323億円(物価で一律に増やすと約 211億円)。営業利益は +112億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 施設提供事業(施設使用料):数量 149(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 1,814(旅客1人当たり施設使用料(円))→ 売上 2,706 億円・営業利益 897 億円。旅客+63%・単価+28%・償却は物価で増やさず按分(10年後 323億円)
- 物品販売事業(免税店・一般物販):数量 149(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 1,635(旅客1人当たり物品販売(免税店等)売上(円))→ 売上 2,440 億円・営業利益 317 億円。旅客+63%・単価+34%
- 飲食事業:数量 149(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 469(旅客1人当たり飲食売上(円))→ 売上 699 億円・営業利益 63 億円。旅客+63%・単価+28%
- 不動産事業(ターミナル内賃貸):数量 21.5(ターミナル内の賃貸可能面積(万平方メートル))× 価格 44(1平方メートル当たり年間賃料(万円))→ 売上 952 億円・営業利益 390 億円。面積+48%・賃料+28%
倍率:事業の純利益 1,032 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 15.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.5 倍。全体の PER 21.47 倍、時価総額 22,157 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:第1ターミナルの国際化やT1・T2接続という大型投資構想が10年で実現するには投資・工期・需要の条件が重なる必要があり、確率は抑える。
やや楽観 26% 中期計画線に沿って旅客増と投資が進む 利益 665 億円 · PER 19.8 倍 · 株価時価総額 14,199 円1.32 兆円
羽田空港の旅客数は訪日需要の拡大を背景に年率3.5%前後で増加を続ける。第1ターミナルの国際化検討は着実に進み、免税店等の物品販売も底堅く伸びる。飲食事業も旅客増に沿って拡大する。不動産事業はテナント稼働の改善で緩やかに伸びる。中期経営計画(2026〜2030年度)の2030年度目標をやや上回るペースで増益が続き、2036年3月期には空港の要(Anchor Role)としての役割が定着する。成田国際空港・関西エアポートとの空港間競争は続くが羽田の都心近接という優位性で大きくシェアを落とすことはなく、JAL・ANAホールディングスとの資本提携も含めた周辺事業のM&Aも1,000億円枠の範囲で継続する。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の298億円が10年後に約 323億円(物価で一律に増やすと約 232億円)。営業利益は +91億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 施設提供事業(施設使用料):数量 120(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 1,727(旅客1人当たり施設使用料(円))→ 売上 2,075 億円・営業利益 610 億円。旅客+41%・単価+22%・償却は物価で増やさず按分(10年後 323億円)
- 物品販売事業(免税店・一般物販):数量 120(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 1,558(旅客1人当たり物品販売(免税店等)売上(円))→ 売上 1,871 億円・営業利益 187 億円。旅客+41%・単価+28%
- 飲食事業:数量 120(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 446(旅客1人当たり飲食売上(円))→ 売上 536 億円・営業利益 38 億円。旅客+41%・単価+22%
- 不動産事業(ターミナル内賃貸):数量 17.7(ターミナル内の賃貸可能面積(万平方メートル))× 価格 42(1平方メートル当たり年間賃料(万円))→ 売上 746 億円・営業利益 284 億円。面積+22%・賃料+22%
倍率:事業の純利益 665 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.8 倍。全体の PER 19.82 倍、時価総額 13,180 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期経営計画の目標線にほぼ沿って旅客数・投資が進む姿で、やや楽観として相応の厚みを置く。
中立 32% 旅客増が発着枠の制約で緩やかになりつつ投資が進む 利益 474 億円 · PER 18.0 倍 · 株価時価総額 9,186 円8,527 億円
羽田空港の旅客数は発着枠がほぼ上限であることから増加ペースが年率2.5%程度に落ち着くが、第1ターミナルの国際化検討やT1・T2接続構想は中期経営計画の投資枠の範囲で緩やかに進む。免税店等の物品販売はインバウンド需要の持続で底堅く伸びる。飲食事業も旅客増に沿って拡大する。不動産事業はテナント稼働の安定で緩やかに伸びる。2030年度目標の営業利益550億円は達成後、2036年3月期にかけてさらに積み上がるが、新ターミナル投資の効果はまだ全面化していない。成田国際空港・関西エアポートとの競争環境は大きく変わらず、羽田という独占的インフラ資産の収益力が基盤となり、総還元性向も段階的に50%超の水準に近づく。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の298億円が10年後に約 323億円(物価で一律に増やすと約 252億円)。営業利益は +71億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 施設提供事業(施設使用料):数量 105(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 1,645(旅客1人当たり施設使用料(円))→ 売上 1,727 億円・営業利益 434 億円。旅客+28%・単価+16%・償却は物価で増やさず按分(10年後 323億円)
- 物品販売事業(免税店・一般物販):数量 105(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 1,483(旅客1人当たり物品販売(免税店等)売上(円))→ 売上 1,558 億円・営業利益 140 億円。旅客+28%・単価+22%
- 飲食事業:数量 105(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 425(旅客1人当たり飲食売上(円))→ 売上 446 億円・営業利益 27 億円。旅客+28%・単価+16%
- 不動産事業(ターミナル内賃貸):数量 16.0(ターミナル内の賃貸可能面積(万平方メートル))× 価格 40(1平方メートル当たり年間賃料(万円))→ 売上 644 億円・営業利益 232 億円。面積+10%・賃料+16%
倍率:事業の純利益 474 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.6% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.0 倍。全体の PER 17.99 倍、時価総額 8,527 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:発着枠の天井による旅客増の鈍化と、中期経営計画の投資が緩やかに進む姿を中心シナリオとする。
やや悲観 20% 発着枠の頭打ちと空港間競争の激化が重なる 利益 298 億円 · PER 10.6 倍 · 株価時価総額 3,686 円3,421 億円
羽田の発着枠が頭打ちになったまま旅客数の増加が年率0.5%程度まで鈍化し、成田国際空港・関西エアポートやLCC専用ターミナルへの需要シフトが一部で進む。第1ターミナルの国際化検討は投資効果への慎重論から優先度が後退する。免税店等の物品販売は訪日客数の伸び悩みで横ばい圏にとどまる。飲食事業も旅客数の鈍化に合わせて伸びが止まる。不動産事業はテナント稼働の伸び悩みで横ばいにとどまる。中期経営計画が掲げた総還元性向50%超への引き上げも当初計画より遅れ、JAL・ANAホールディングスとの資本提携の範囲も広がらない。それでも羽田という資産そのものの価値と都心近接の優位性が崩れるわけではない。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の298億円が10年後に約 323億円(物価で一律に増やすと約 280億円)。営業利益は +43億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 施設提供事業(施設使用料):数量 96.3(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 1,565(旅客1人当たり施設使用料(円))→ 売上 1,507 億円・営業利益 299 億円。旅客+5%・単価+10%・償却は物価で増やさず按分(10年後 323億円)
- 物品販売事業(免税店・一般物販):数量 96.3(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 1,344(旅客1人当たり物品販売(免税店等)売上(円))→ 売上 1,294 億円・営業利益 78 億円。旅客+5%・単価+10%
- 飲食事業:数量 96.3(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 404(旅客1人当たり飲食売上(円))→ 売上 389 億円・営業利益 16 億円。旅客+5%・単価+10%
- 不動産事業(ターミナル内賃貸):数量 14.5(ターミナル内の賃貸可能面積(万平方メートル))× 価格 36(1平方メートル当たり年間賃料(万円))→ 売上 528 億円・営業利益 174 億円。面積横ばい・賃料+5%
倍率:事業の ROE 8.1% は資本コスト 7.2% を上回る。RONIC=k+残る割合 2/3×(ROE−k)=7.4%、g 3.7% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=14.1 倍。国の指定を受けた羽田ターミナルの独占で今の稼ぎは長く残るが、発着容量の上限で旅客の伸びは鈍く、施設使用料は物価に遅れ、感染症や災害で旅客が消える振れもあるので、上限の 7.5 割、10.6 倍に置いた。
確率:発着枠の頭打ちと成田・関空・LCCへの需要シフトという業種ノートの指摘する10年の構造的負け筋が現実味を持ち、相応の確率を置く。
悲観 10% 発着枠の頭打ちと空港間でのシェア流出による構造的な地位低下 利益 26 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 280 円260 億円
羽田の発着枠が10年を通じて頭打ちのまま、第1ターミナルの国際化・T1・T2接続という大型投資構想が資金・需要予測の不確実性から縮小・延期され、成田国際空港・関西エアポート・LCC専用ターミナルへの需要シフトが構造的に進む。旅客数はほぼ横ばいからわずかな減少にとどまり、免税店等の物品販売も訪日客の奪い合いで伸び悩む。飲食事業も同様に伸び悩む。不動産事業はテナントの退店・賃料低下が続く。固定費の重さは変わらないため、営業利益は低位にとどまり、羽田の「空港の要」としての優位性は後退するが、都心近接という地理的優位と資産そのものの価値は失われない。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の298億円が10年後に約 323億円(物価で一律に増やすと約 338億円)。営業利益は −15億円。投資は内部の資金で賄え、借入は増えない。
- 施設提供事業(施設使用料):数量 82.8(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 1,348(旅客1人当たり施設使用料(円))→ 売上 1,116 億円・営業利益 74 億円。旅客-10%・単価-5%・シェア流出・償却は物価で増やさず按分(10年後 323億円)
- 物品販売事業(免税店・一般物販):数量 82.8(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 1,101(旅客1人当たり物品販売(免税店等)売上(円))→ 売上 912 億円・営業利益 0 億円。旅客-10%・単価-10%・採算ほぼゼロ
- 飲食事業:数量 82.8(ターミナルの旅客数(百万人))× 価格 331(旅客1人当たり飲食売上(円))→ 売上 274 億円・営業利益 0 億円。旅客-10%・単価-10%・採算ほぼゼロ
- 不動産事業(ターミナル内賃貸):数量 13.1(ターミナル内の賃貸可能面積(万平方メートル))× 価格 31(1平方メートル当たり年間賃料(万円))→ 売上 411 億円・営業利益 82 億円。面積-10%・賃料-10%・テナント退店
倍率:事業の ROE 0.8% は資本コスト 7.2% 以下。新しく投じるお金が価値を増やさないので、PER は 1÷k=13.8 倍まで。この筋書きは稼ぐ力(純利益 36 億円÷k)で測る。羽田の土地は国有で、売れる資産を厚くは見られないので、資産の床は置かない。EV÷営業利益が高く出るのは営業利益が小さいためで、一年の利益で測る数字ではない。やや悲観の 10.6 倍より低い 10.0 倍(上限の 7.2 割)に置いた。
確率:10年で発着枠が頭打ちのまま成田・関空・LCCへのシェア流出が続く構造的な負け筋は起こりうるが、羽田の都心近接という地理的優位を考えると最も確率は低く置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
施設提供事業(施設使用料)
羽田空港第1・第2旅客ターミナルビルの運営権を背景に、航空会社・旅客から施設使用料を収受する中核事業。
| 数量ターミナルの旅客数(百万人) | 価格旅客1人当たり施設使用料(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 91.6 | 1,265 | 1,159 | 232 |
| 10 年後 中立 | 105 | 1,645 | 1,727 | 434 |
取り方:2025年の羽田旅客数9,158万人(航空局統計等)を旅客数の基準に置き、brief.py の2026年3月期売上高2,898億円のうち施設提供事業の比率を約40%(1,159億円)と推定して旅客1人当たり施設使用料を逆算。事業利益率20%を使用。2026-10-18 の見直しで、旅客数(実質)は中立で 3 年 99 百万人・10 年 105 百万人に抑えた。国内線は人口とともに細り、伸びは訪日客と国際線の発着枠の拡大の分だけ。羽田は発着容量(年約 49 万回)が上限に近く、伸ばせるのは機材の大型化と国際線の枠の分。施設使用料(旅客取扱施設利用料など)は国の認可が要る規制料金で、改定は物価に 1〜2 年遅れて追いつくので、中立は 3 年 1.06 倍・10 年 1.30 倍(物価より少し下)に置いた
物品販売事業(免税店・一般物販)
出国エリアの免税店(デューティーフリー)と制限区域内外の一般物販からなる、インバウンド消費の影響を強く受ける事業。
| 数量ターミナルの旅客数(百万人) | 価格旅客1人当たり物品販売(免税店等)売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 91.6 | 1,107 | 1,014 | 81 |
| 10 年後 中立 | 105 | 1,483 | 1,558 | 140 |
取り方:2025年3月期の免税店等商品売上543.88億円(会社開示)を踏まえ、2026年3月期はインバウンド拡大・円安により増加したとみて、売上高2,898億円のうち物品販売事業の比率を約35%(1,014億円)と推定して旅客1人当たり売上を逆算。在庫を抱える物販のため事業利益率8%とやや低めに使用。1 人当たり売上は中立で物価並み(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍)。免税品の値段も物価で上がる
飲食事業
ターミナル内のレストラン・フードコートの運営。
| 数量ターミナルの旅客数(百万人) | 価格旅客1人当たり飲食売上(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 91.6 | 317 | 290 | 15 |
| 10 年後 中立 | 105 | 425 | 446 | 27 |
取り方:売上高2,898億円のうち飲食事業の比率を約10%(290億円)と推定して旅客1人当たり飲食売上を逆算。人件費負担が重く事業利益率5%を使用。1 人当たり売上は中立で物価並み。人件費も上がるので利益率は変えない
不動産事業(ターミナル内賃貸)
ターミナル内の航空会社事務所・商業テナントへの賃貸で、旅客数に直接左右されにくい安定収益を担う。
| 数量ターミナル内の賃貸可能面積(万平方メートル) | 価格1平方メートル当たり年間賃料(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 14.5 | 30 | 435 | 152 |
| 10 年後 中立 | 16.0 | 40 | 644 | 232 |
取り方:売上高2,898億円の残差から不動産事業の比率を約15%(435億円)と推定し、ターミナル内の賃貸可能面積を約14.5万平方メートルと仮定して1平方メートル当たり年間賃料を逆算。賃貸事業のため事業利益率35%を使用。テナントの賃料は売上連動の部分が多く、中立で物価並み(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍)
リスクと懸念
感染症・地政学リスクによる国際線旅客の急減
2020年のコロナ禍では国際線旅客が前年比9割以上減少し、免税店売上もほぼ消失する実例が実際に起きた。感染症の再流行・地政学リスク・大規模災害は今後も起こり得るテールリスクで、固定費の重いこの会社の営業利益は需要蒸発時に赤字へ転じやすい。
羽田の発着枠がほぼ上限という容量制約
羽田空港の発着枠は国土交通省の配分により既にほぼ上限まで使われており、新規の旅客増は新ターミナル投資と運営効率化に依存する。大幅な増枠は国際情勢・空域調整次第で不確実であり、容量の天井が成長の制約になり得る。
成田・関西・LCCとの空港間競争
成田国際空港(国が全額出資するNAAが運営)や関西エアポート(オリックス・ヴァンシ連合が運営する関空・伊丹)、LCC専用ターミナルとの空港間競争が存在する。羽田は都心からの近さで優位に立つが、路線網の拡大や発着枠の配分次第で需要シフトが進めば、羽田の相対的な地位が10年の時間軸で低下するおそれがある。
大型投資構想(T1国際化・T1・T2接続)の実行リスク
第1ターミナルの国際化検討と将来のT1・T2接続という中期経営計画の大型投資構想は、工期・投資規模・需要予測のいずれにも不確実性があり、計画通りに進むとは限らない。中計期間の成長投資約1,000億円の使い方次第で投資効率が左右される。
免税店売上の為替・インバウンド消費動向への感応度
免税店等の物品販売は円安の進行とインバウンド消費単価に強く依存し、2027年3月期1Qの営業利益増も円安効果が大きい。為替が反転したり、訪日需要の客層構成(中国人客への依存度など)が変化すれば、売上の伸びが鈍化しやすく、業績の振れ幅を作る要因になる。
国土交通省による空港使用料規制・政策変更
施設使用料・発着枠配分は国土交通省の規制・政策の影響を強く受ける事業である。空港使用料の見直しや発着枠配分の変更、空港運営に関する制度変更があれば、会社が自ら設定している価格決定力の前提そのものが変わり、収益構造に直接影響する。
ターミナル老朽化・改修コストと災害リスク
羽田空港第1・第2旅客ターミナルビルは稼働から相当年数が経過しており、老朽化対応の改修コストが今後かさみやすい。首都圏直下地震等の大規模災害が発生した場合、ターミナル機能の停止・復旧コストのリスクもある。
今後の分かれ目
- 羽田の発着枠が大幅に拡大される
- 容量の天井という制約が後退し、本質価値は楽観に近い筋書きに近づく。
- 第1ターミナルの国際化・T1・T2接続構想が計画通り実現する
- 中期経営計画の2030年度目標の達成確度が高まり、本質価値は楽観に近い筋書きに近づく。
- 感染症の再流行・地政学リスク・大規模災害でインバウンドが急減する
- 2020年と同様に営業利益が赤字に転じるリスクがあり、本質価値は悲観の筋書きに近づく。
- 円安が続きインバウンド消費が堅調に推移する
- 免税店等の物品販売の伸びが続き、本質価値は楽観側の筋書きに近づく。
- 成田・関西・LCC専用ターミナルへの需要シフトが構造的に進む
- 羽田の相対的な地位が低下し、10年の構造的な負け筋(やや悲観・悲観)の確率を引き上げる必要が出る。
- 総還元性向50%超を安定的に達成する
- 株主還元への評価が改善し、倍率の上振れ材料になる。
見ておくもの
- 羽田空港の月次旅客数・国際線比率(国土交通省航空局統計)
- 羽田発着枠拡大・新ターミナル投資計画の政策動向
- 免税店等物品販売の売上・インバウンド消費単価(為替動向を含む)
- 第1ターミナルの国際化検討・T1・T2接続構想の進捗
- 総還元性向・自己株買いの実施状況(中期経営計画の目標50%超)
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER から筋書きを作らず、旅客数(実質)と 1 人当たりの使用料・売上(物価 3% 込みの名目)を積み、借り換えの利払いの増加を純利益から引いた。使用料は規制料金で物価に 1〜2 年遅れるので 10 年で 1.30 倍。倍率は資本コスト 7.25%(基本 7.5% に、旅客の振れ+0.5・独占による値決め力−0.5・寿命−0.25)と、強い堀(残る割合 2/3)の正当化 PER から出し、楽観〜中立は上限の 8〜8.5 割に置いた。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)で測り、羽田の土地は国有なので資産の床は置かない。過去の PBR の底は使っていない。結論は「適正」。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 18.03→21.47 倍・やや楽観 PER 15.49→19.82 倍・中立 PER 13.88→17.99 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β 0.60 × 5% + 規模 0.50%。k は基本 7.5% に quality −0.25%(循環+0.5・値決め−0.5・寿命−0.25)を足した 7.25%。強い堀の会社なので下げは −0.5% 以内に収めた。
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