結論
エスリードは、近畿圏を地盤とする分譲マンションの中堅デベロッパーだ。親会社は森トラストで、持ち株の過半を握る。稼ぎの大半はマンションの分譲で、残りが賃貸、ホテル、一棟売りのアパートなどである。筆者の結論は「やや割高」。足元の業績は絶好調だが、10 年先まで続く強さを買うには、借金が重く、景気の振れも大きい。
2026 年 3 月期は売上 1,169 億円、営業利益 185 億円と過去最高だった。投資用マンションや一棟売りの出口が広く、販売は計画どおり進んだ。ただ、営業利益率 15.8% は過去 20 年でも最高水準にある。いまは山の近くにいると見る。
気になるのは財務だ。純有利子負債は自己資本の約 1.9 倍ある。用地を仕入れて建てるまで約 3 年かかり、その間は借金で在庫を抱える。借入の多くは変動金利で、金利が上がる世界では利払いが利益を直接削る。
一方で、森トラストという大株主の後ろ盾は大きい。資金繰りが詰まって倒れる確率は低い。ただ、親会社が過半を持つので、少数株主への還元が急に増える期待は持ちにくい。
10 年で見ると、近畿の人口は減り、数量は細る。物価が上がる分、1 戸の値段は上がるが、土地と建築費も同じだけ上がる。伸びるのは名目の売上だけだ。利払いと積み上がる自己資本を考えると、ROE は今の 13.7% から 1 桁へ下がる。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額を 2 割強下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い時に売り、悪い時に持てる」資本の余裕があるかどうかが肝になる。見たいのは、10 年後も同じ強さで稼げるかと、借金に頼らず株主に利益を残せるかだ。
前者について、近畿の用地を拾う力と出口の広さは本物だが、市況に買わされる事業でもある。値段を自分で決められない会社は、利益が山にある時ほど高く評価されがちで、安全域を取りにくい。
後者は、保有型へ移した点が悩ましい。相場がよければ保有期間の利益が上乗せされる。逆風の時には、借金を負った在庫が重しになる。純有利子負債が自己資本の約 1.9 倍あり、変動金利が新しい水準へ上がっていく。借金で在庫を抱える事業は、安全域を厚く取らないと、持ち続けたいとは思えない。
親会社の存在は、倒産のリスクを下げる。ただ、親会社が過半を持つ会社の少数株主は、利益が増えても配当の増え方が小さく、自社株買いも期待しにくい。
総じて、事業そのものは悪くないが、払う値段に十分な安全域があるとは言えない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は 2 つある。
1 つ目は不動産販売事業で、売上の約 74%、セグメント利益の約 7 割を占める。近畿圏を中心に、ファミリー向けや都市型の分譲マンションを企画・販売する。累計の開発は約 6.8 万戸。大阪・兵庫・奈良などで用地を仕入れ、約 3 年かけて建て、個人に売る。単身者向けの投資用ワンルームは、個人・法人・機関投資家に売る。
最近の変化は、すぐ売り切る型から、物件ごとに持つ期間を決める型へ移していることだ。完成後も自社で持ち、賃料を得ながら、相場のよい時を選んで売る。個別に分譲するか、一棟で売るかも物件ごとに選ぶ。建築費や用地の値上がりを、時間を使って取り返す狙いである。
2 つ目はその他事業で、売上の約 26%、利益の約 3 割。賃貸・管理、ホテル運営、建設・リフォーム、仲介、電力、一棟売りのアパート開発などが入る。開発して持ち、運用して売る循環をグループで回す。ホテルは大阪で 3 棟が動き、4 棟目を開発中だ。神戸では冷凍冷蔵倉庫、ほかにヘルスケア施設用地も手当てした。2025 年 2 月にはアパート開発の新会社も作った。
この会社は、マンションの値上がり局面に強い。一方で事業の大半は「在庫を抱え、借金で回す」形である。ここが優良さを測る時の分かれ目になる。
優良さと弱いところ
強みは、近畿の用地を拾う力と、売る先の広さだ。長年の開発で築いた用地情報の網があり、個人にも投資家にも売れる。全国の売主別供給では 8 位に入る規模である。マンションの累計開発は約 6.8 万戸に及ぶ。
ただ、この強みは堀、つまり他社がまねできない強みと呼ぶには弱い。用地は大手と競りで仕入れ、完成した物件の値段は市場が決める。値上げで利益を守る力は乏しい。利益率が今は高いのも、仕入れた時より売値が上がった局面の恩恵が大きい。
資本の使い方は評価できる面と心配な面がある。評価できるのは、物件ごとに保有期間を調整し、買い手の少ない時には売り急がない柔軟さだ。心配なのは借金で、純有利子負債は自己資本の約 1.9 倍、営業利益の約 8 倍に達する。自己資本比率は 30% 台だ。利益で利息を払える倍率は 8 倍ほどで、今は余裕があるが、変動金利が新しい水準へ上がれば余裕は薄れる。
経営の安定感は、親会社の森トラストが支えている。大株主が不動産と金融の信用力を持つことは、借り換えの場面で効く。反面、少数株主から見ると、経営の自由度を親会社が握る構図でもある。
筆者は、足元の高い利益率より、保有型の在庫がどれだけ傷むかのほうを重く見ている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
近畿圏の新築マンション市場は、2025 年に 16,922 戸が発売され、前年より 11.8% 増えた。ただ平均価格は 5,328 万円と横ばいで、1 平方メートル当たりの単価は過去最高を更新した。数は戻したが、中身は「狭く・高く」へ動いている。
数量の長期の見通しは暗い。近畿の人口は減り、世帯数もいずれ頭打ちになる。建築費は職人不足で 2021 年以降に 2〜4 割上がった水準が定着し、用地も都心では取り合いだ。つくる側は、戸数を増やすより、1 戸の値段を上げて採算を保つ道を選ぶ。
競争の形は大手が先頭を走り、中堅が続く。近畿の売主では、オープンハウスグループ傘下のプレサンスが 2025 年に近畿で 2,603 戸を供給し、先頭グループにいる。エスリードは全国で 1,646 戸と 8 位だ。投資用ワンルームは、投機的な購入への規制が強まる流れの中で、買い手の裾野が細る恐れがある。
金利の影響は 2 つある。実需向けは、住宅ローン金利が上がると購買力が落ちる。投資向けは、買い手が求める利回りが上がり、売値が下がる。10 年国債 3% の世界では、どちらも数量と価格の両方に逆風になる。
同じ領域のオープンハウスグループや飯田グループホールディングスと比べ、エスリードは近畿に集中し、投資家への出口が広い点が違う。
資本政策と M&A
還元は、配当総額を持続的に高める方針だ。配当性向は 3 割台で、自社株買いは目立たない。利益の約 3 分の 2 は在庫の積み増しや用地の仕入れに回る。成長のための再投資としては筋が通るが、少数株主の取り分が小さいことも意味する。
資本政策のいちばんの論点は、親会社の森トラストだ。2013 年に公開買付けで連結子会社となり、今は持ち株の過半を握る。当時は上場維持を前提にしたものだった。森トラストの純利益は年 390 億円規模で、時価総額 790 億円のエスリードの少数株主分を買い取る余力は十分にある。完全子会社化の可能性は常に残ると見る。
M&A では、買う側として目立った買収は少なく、自社グループでの開発とグループ会社の育成が中心だ。ホテル、アパート、冷凍冷蔵倉庫、ヘルスケアなど、開発の延長で事業を広げている。
政策保有株が目立つ会社ではない。株主資本の厚みは、在庫と開発用地が中心である。中期経営計画は公表していない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
近畿圏の分譲マンションで築いた用地の網と、売る先の広さは、簡単にはまねできない。2026 年 3 月期は売上 1,169 億円、営業利益 185 億円と過去最高で、翌期の会社予想も増収増益だ。投資用マンションは、保有しながら売る型へ変え、相場が良い時を選んで売れるようになった。
新しい柱も立ち上がっている。大阪で 3 棟のホテルが動き、4 棟目も開発中だ。神戸の冷凍冷蔵倉庫、ヘルスケア施設、アパート開発など、開発して持ち、運用して売る循環が広がっている。賃料が積み上がれば、売却益に頼らず利益が安定する。
森トラストという親会社の存在も大きい。不動産の大手の信用が、借り換えの局面でも調達を支える。筆者の見立てでは、倒れる心配が小さいことは、10 年の長い期間では大きな安心材料だ。ROE は直近で 13.7% と高く、利益の約 3 分の 2 を再投資して、規模を広げている。
近畿の需要は人口減でも、大阪の都心部や阪神間の優良立地は底堅い。この会社は、それをよく知る地元の強者である。物価の上昇のもとでは、土地と建物の値上がりは売値に反映され、資産の価値は名目で膨らむ。配当は着実に増え続ける。
慎重な見方
営業利益率 15.8% は過去 20 年でも最高水準にあり、山の近くにいる。住宅の値段は市場が決め、用地は競りで仕入れる事業で、この利益率が 10 年続く保証はない。2009 年 3 月期には赤字に落ちた実績もある。
財務はもっと厳しい。純有利子負債は自己資本の約 1.9 倍で、営業利益の約 8 倍に当たる。借入の多くは変動金利で、10 年で新しい金利へ借り換わると、利払いは営業利益の増えた分を吸い取る。金利が 3.5% 前後になれば、純利益は今より 2 割強削られる計算だ。
保有型への移行は、相場が良ければ利益を上乗せするが、悪ければ在庫を抱えて動けなくなる。投資用マンションは、規制と金利上昇で買い手の裾野が細る恐れがある。ホテルや倉庫、ヘルスケアといった新規事業は、まだ利益への寄与が小さく、実績も浅い。
森トラストが過半を握るため、少数株主への配慮は薄くなりやすい。利益の約 3 分の 2 を在庫に回す構造では、利益が増えても配当と株主価値の増え方は限られる。さらに、親会社が安い価格で完全子会社化する懸念も、少数株主には残る。
近畿の人口は減る。建築費は下がらない。10 年で見ると、数量は細り、金利は上がり、売上は物価で膨らむだけで、利益は伸びない。
どちらに重みを置いたか
足元の業績と親会社の後ろ盾は強気の見方が優勢だ。ただ、10 年の数量は人口減で細り、物価の分は土地と建築費に食われるので、成長は名目にとどまる。借金の重さと変動金利の借り換えは、慎重な見方の指摘が的を射ている。
確率は慎重側を少し厚く置き、やや悲観を 24%、悲観を 11% とした。親会社の支えで破綻は遠く、悲観は 1 割程度に抑えた。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額を 2 割強下回り、結論は「やや割高」である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 8,571 円1,322 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,199 円339 億円)。 今の値に割り戻すと 5,050 円779 億円、今との差 +0.4%、 期待の年率 +7.9%(資本コスト 9.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 14,208 円2,192 億円 | 3,130 円483 億円 | +244.7% | +13.2% | 1,387 円214 億円 |
| やや楽観 | 23% | 11,767 円1,816 億円 | 2,735 円422 億円 | +188.3% | +11.2% | 3,335 円515 億円 |
| 中立 | 34% | 10,341 円1,596 億円 | 2,482 円383 億円 | +154.9% | +9.8% | 4,360 円673 億円 |
| やや悲観 | 24% | 4,009 円619 億円 | 1,536 円237 億円 | +10.2% | +1.0% | 1,331 円205 億円 |
| 悲観 | 11% | 2,268 円350 億円 | 972 円150 億円 | −35.6% | −4.3% | 356 円55 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,571 円1,322 億円 | 2,199 円339 億円 | +114.1% | +7.9% | 10,770 円1,662 億円 |
今の株価時価総額 5,030 円776 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 関西の出口が広がり、保有と売却の循環が利益を押し上げる 利益 181 億円 · PER 11.7 倍 · 株価時価総額 14,208 円2,192 億円
近畿圏の分譲マンションは数が減らず、大阪・兵庫の都市部では価格の強さが続く。エスリードは用地の情報網と販売の出口の広さを武器に、神奈川など東京圏へも広げ、引渡戸数を今より 15% 増やす。投資用マンションと一棟売りは、国内外の投資家の買いが続き、保有して賃料を得ながら高い時期に売る型が収益を底上げする。
ホテル、アパート、冷凍冷蔵倉庫、ヘルスケア施設といった新しい柱も育ち、その他事業は件数が 6 割増える。用地は人気の立地を押さえ続け、建築費の上昇は価格に転嫁できる。
借金は増えるが、物件が値上がりする局面では含み益が担保の余裕になり、親会社の森トラストの信用も効いて借り換えは通る。金利上昇の負担は利益を削るものの、利益率は 15% 前後を保つ。配当は利益の 3 分の 1 を目安に増え続ける。
- 不動産販売事業(分譲マンション・投資用マンション):数量 2,185(年間引渡戸数(戸、推定))× 価格 0.64(1戸当たり平均売上(億円))→ 売上 1,394 億円・営業利益 209 億円。戸数+15%・単価+40%
- その他事業(賃貸・管理・ホテル・一棟売り・建設ほか):数量 64.0(運用・売却する物件・施設の件数(件相当、推定))× 価格 11(1件当たりの年間売上(億円))→ 売上 679 億円・営業利益 143 億円。件数+60%・単価+40%
倍率:事業の純利益 181 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.7 倍。全体の PER 11.66 倍、時価総額 2,110 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:近畿の需要が崩れず、東京圏への展開と保有型の循環が両方うまく回り、金利負担も吸収できる組み合わせは条件が重なる必要があるので、確率は抑える。
やや楽観 23% 東京圏への展開が一部実り、近畿の地位を保つ 利益 144 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 11,767 円1,816 億円
近畿圏の需要は人口減で細るものの、大阪の都心部と阪神間は底堅い。エスリードは近畿での供給を保ち、東京圏への展開が少しずつ実って、引渡戸数は今より 5% 増える。単価は物価並みに上がり、土地と建築費の上昇もほぼ価格に転嫁できる。
保有期間を調整する型は、相場の良い時に売って利益を取る柔軟さとして働く。ホテルとアパートの開発が増え、その他事業の件数は 3 割増える。
利益率は今の水準から少し下がり、14% 台に落ち着く。変動金利の借入は 3.5% 前後に借り換わり、利払いは増えるが、物件の賃料と売却益で吸収できる。配当は着実に伸び、森トラストの持ち株比率は今と同じ過半が続く。
- 不動産販売事業(分譲マンション・投資用マンション):数量 1,995(年間引渡戸数(戸、推定))× 価格 0.62(1戸当たり平均売上(億円))→ 売上 1,246 億円・営業利益 181 億円。戸数+5%・単価+37%
- その他事業(賃貸・管理・ホテル・一棟売り・建設ほか):数量 52.0(運用・売却する物件・施設の件数(件相当、推定))× 価格 10(1件当たりの年間売上(億円))→ 売上 540 億円・営業利益 108 億円。件数+30%・単価+37%
倍率:事業の純利益 144 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.45 倍、時価総額 1,649 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:用地の仕入れ力と出口の広さは実績で裏付けられており、緩やかに育つ姿には相応の厚みを置く。ただし利益率は今が山に近いので、厚くしすぎない。
中立 34% 近畿の人口減が数量を削り、名目の増収を金利負担が食う 利益 120 億円 · PER 11.3 倍 · 株価時価総額 10,341 円1,596 億円
近畿圏の人口は減り、新築マンションの戸数はじわじわ細る。エスリードの引渡戸数は今より 5% 減る。投資家向けの一棟売りやホテルが補い、その他事業の件数は 15% 増える。
単価は物価並みに上がるが、用地と建築費も同じだけ上がるため、利益率は今の山から 14% 台へ下がる。借入の多くは変動金利で、10 年のうちに新しい金利へ借り換わる。利払いの増加は、営業利益の増えた分をほぼ吸い取る。
結果として、10 年後の純利益は今とほとんど変わらない。売上は 3 割以上増えるのに、利益は伸びない会社になる。配当は利益の 3 分の 1 ほどを続け、残りは在庫の積み増しに回って自己資本が厚くなる。ROE は今の 13.7% から 7% 台に下がる。森トラストが過半を持つ体制は続き、少数株主への還元が増える材料も乏しい。
- 不動産販売事業(分譲マンション・投資用マンション):数量 1,805(年間引渡戸数(戸、推定))× 価格 0.61(1戸当たり平均売上(億円))→ 売上 1,102 億円・営業利益 154 億円。戸数-5%・単価+34%
- その他事業(賃貸・管理・ホテル・一棟売り・建設ほか):数量 46.0(運用・売却する物件・施設の件数(件相当、推定))× 価格 10(1件当たりの年間売上(億円))→ 売上 467 億円・営業利益 91 億円。件数+15%・単価+34%
倍率:事業の純利益 120 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.3 倍。全体の PER 11.31 倍、時価総額 1,357 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:人口減少と建築費高で数量は緩やかに細り、物価で名目だけが伸びる。親会社の後ろ盾で破綻には遠いが、借金の利払いが利益を削る。最も現実味のある姿として中心に置く。
やや悲観 24% 近畿の需要が細り、保有する在庫と金利負担が重くなる 利益 46 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 4,009 円619 億円
近畿の人口減が加速し、大阪の都心でも新築の売れ行きが鈍る。引渡戸数は今より 2 割減る。単価は物価の半分ほどしか上がらず、土地を高く仕入れた物件は利幅が薄くなる。
投資用マンションは、金利が上がると買い手の利回り要求が高まり、売値が仕入れ値に届かない物件が出る。保有期間を延ばす方針が裏目に出て、在庫が積み上がる。借入は新しい金利に借り換わり、利払いの負担がさらに増える。
その他事業は、ホテルとアパートの新規開発が減速し、件数は横ばいにとどまる。配当は維持するが増えない。親会社の支援で資金繰りは保たれるものの、利益は今の 4 割にまで落ちる。
- 不動産販売事業(分譲マンション・投資用マンション):数量 1,520(年間引渡戸数(戸、推定))× 価格 0.57(1戸当たり平均売上(億円))→ 売上 866 億円・営業利益 87 億円。戸数-20%・単価+25%
- その他事業(賃貸・管理・ホテル・一棟売り・建設ほか):数量 40.0(運用・売却する物件・施設の件数(件相当、推定))× 価格 9.48(1件当たりの年間売上(億円))→ 売上 379 億円・営業利益 61 億円。件数横ばい・単価+25%
倍率:ROE は 3% 台で資本コスト以下。新しく投じるお金が価値を増やさないので PER は 1÷k=10.5 倍が上限。この筋書きは稼ぐ力で測り、在庫の叩き売りの床は下の悲観で見る。構造的に細る筋書きなので、上限の 8 割、8.5 倍に置いた。
確率:人口減少が進み、金利が想定より高止まりすると、投資用マンションの買い手が細り、保有型の在庫が滞る。10 年という期間では十分ありうる姿として厚めに置く。
悲観 11% 在庫の値下げ売りと金利負担で、保有型の循環が逆回りする 利益 −55 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 2,268 円350 億円
金利が高止まりし、近畿の新築と投資用マンションの買い手が一気に細る。保有していた物件は売値が仕入れ値を割り、評価損を出しても売れない。引渡戸数は今の半分になり、単価は名目でも上がらない。
変動金利の借入は 3.5% 以上に借り換わり、利払いが営業利益を上回る。ホテルやアパートの開発は止まり、保有物件を処分して借入を返す局面に入る。配当は大きく減らし、赤字の年は物件売却で得た現金でごく細く続ける。
親会社の森トラストは支援を続けるが、少数株主に残る価値は、在庫を 2 割値引きして売り、借入を返した後の分に縮む。
- 不動産販売事業(分譲マンション・投資用マンション):数量 950(年間引渡戸数(戸、推定))× 価格 0.46(1戸当たり平均売上(億円))→ 売上 433 億円・営業利益 −4 億円。戸数-50%・単価横ばい
- その他事業(賃貸・管理・ホテル・一棟売り・建設ほか):数量 32.0(運用・売却する物件・施設の件数(件相当、推定))× 価格 7.58(1件当たりの年間売上(億円))→ 売上 243 億円・営業利益 19 億円。件数-20%・単価横ばい
倍率:赤字で稼ぐ力は 0 とみる。株主に残るのは、販売用不動産・開発用地・保有物件を 2 割引で売り、借入を返したあとの分。今の自己資本 816 億円に対する PBR 0.43 倍を床に置いた(内訳は筆者の推定)。営業利益は 5 億円ほどで EV÷営業利益は意味を持たないので、借入 1,533 億円の返済を先に引いて測った。
確率:金利の高止まりと近畿の需要減が同時に起き、在庫を抱えたまま売値が下がる構造的な負けを置く。親会社の後ろ盾があるので、確率は 1 割強に抑えた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
不動産販売事業(分譲マンション・投資用マンション)
近畿圏を中心にファミリー向け・都市型の分譲マンションと投資用ワンルームを企画・販売する中核事業。個人への分譲のほか、物件ごとに保有期間を決めて一棟で法人・機関投資家へも売る。
| 数量年間引渡戸数(戸、推定) | 価格1戸当たり平均売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,900 | 0.46 | 866 | 133 |
| 10 年後 中立 | 1,805 | 0.61 | 1,102 | 154 |
取り方:決算の外部売上 865.9 億円を、引渡戸数の推定 1,900 戸で割った 1 戸当たり 0.456 億円で置いた。引渡戸数は開示を確かめられず、2025 年の全国売主別供給 1,646 戸(不動産経済研究所)と、投資用ワンルーム・一棟売りが混じる売上構成から筆者が推定した。セグメント利益 132.8 億円(利益率 15.3%)。単価は中立で物価並み(10 年 1.34 倍。土地と建築費が物価で上がる)。
その他事業(賃貸・管理・ホテル・一棟売り・建設ほか)
賃貸・建物管理、ホテル運営、建設・リフォーム、仲介・買取再販、電力、一棟売りのアパート開発など。開発して持ち、運用して売る循環をグループで回す。
| 数量運用・売却する物件・施設の件数(件相当、推定) | 価格1件当たりの年間売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 7.58 | 303 | 59 |
| 10 年後 中立 | 46.0 | 10 | 467 | 91 |
取り方:その他事業の外部売上 303.3 億円を、運用・売却する物件・施設 40 件相当で割った 1 件当たり 7.58 億円で置いた。件数は賃貸・ホテル・一棟売り・管理などをならした筆者の推定で、開示の数字ではない。セグメント利益 59.4 億円(利益率 19.6%)。単価は中立で物価並み(10 年 1.34 倍)。
リスクと懸念
変動金利の借入と金利上昇
純有利子負債は自己資本の約 1.9 倍あり、借入の多くは変動金利だ。10 年国債 3% の世界では 3.5% 前後へ借り換わり、利払いの増加が純利益の 2 割強を削る。利益率が高くても、金利が上がるほど手元に残る分は細る。
保有型の在庫が傷む恐れ
物件ごとに保有期間を延ばす方針は、相場が良ければ利益を上乗せする。逆に相場が崩れると、売るに売れない在庫が積み上がる。投資用マンションの買い手の利回り要求が高まれば、売値が仕入れ値を割る物件も出る。
利益率が山にある
営業利益率 15.8% は過去 20 年の最高水準にある。用地は大手と競り、完成物件の値段は市場が決めるため、利益率を守る力は乏しい。2009 年 3 月期には営業赤字に落ちた実績がある。山の水準が平常と見られている点が危うい。
近畿の人口減と新築の裾野
近畿圏の人口は減り続け、世帯数もいずれ頭打ちになる。建築費は 2021 年以降の上昇が定着し、1 戸の値段は上がる一方で、買える人の数は細る。大阪の都心部は底堅いが、10 年の期間では周辺部から影響が出る。
投資用マンションへの規制
投資用ワンルームは、投機的な購入への規制が強まる流れにある。融資姿勢の厳格化や税制の変更で買い手の裾野が細れば、売れ行きと価格に直接響く。売る先が個人・法人・機関投資家に分かれている点は、ある程度の分散にはなる。
親会社が握る少数株主の立場
森トラストが持ち株の過半を握る。経営の自由度と還元の方針は親会社の意向に左右され、少数株主の取り分は増えにくい。完全子会社化の際に提示される価格が本質価値を下回る場合、少数株主の側が損をする恐れもある。
新規事業の立ち上がりの遅れ
ホテル、冷凍冷蔵倉庫、ヘルスケア、アパート開発は、まだ利益への寄与が小さく実績も浅い。立ち上がりが遅れたり、開発費が膨らんだりすれば、借金を重ねて広げたことが重しになる。ホテルは訪日客と景気に、倉庫は荷主の需要に左右される。
今後の分かれ目
- 10 年国債が想定の 3% を大きく超えて上昇する
- 変動金利の借入の利払いが利益を削り、投資用マンションの売値も下がる。本質価値はやや悲観の筋書きに近づく。
- 保有している投資用マンションや一棟物件が、帳簿より高く売れる
- 保有型の循環が機能している証拠になる。利益率が今の水準で保たれ、楽観に近い筋書きの確からしさが高まる。
- 森トラストが少数株主から株式を買い取る(完全子会社化)
- 提示価格のプレミアム次第で、少数株主に実現する価値が決まる。本質価値より低ければ不利、高ければ有利になる。
- 近畿圏の新築マンション発売戸数が、平均価格の上昇とともに減り続ける
- 数量の縮小が名目の増収を打ち消し、利益は伸びない。中立からやや悲観の筋書きへ寄る。
- ホテル・アパート・倉庫の新規事業が計画どおり利益に乗る
- その他事業が分譲の景気の振れを和らげ、利益の質が上がる。資本コストを超える稼ぎが残りやすくなる。
- 投資用マンションへの融資規制や税制の変更が強まる
- 買い手の裾野が細り、保有型の在庫が滞る。やや悲観から悲観の筋書きの確率を引き上げる必要が出る。
見ておくもの
- 近畿圏の新築マンション発売戸数・平均価格(不動産経済研究所)
- 住宅ローン金利と、投資用マンション融資の姿勢
- 販売用不動産・保有物件の残高と、売却時の利益率(決算説明資料)
- 純有利子負債と、支払利息の推移(変動金利の借り換えの影響)
- 森トラストの持ち株比率と、完全子会社化などの動き
- ホテル・アパート・冷凍冷蔵倉庫・ヘルスケア事業の利益への寄与
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER から筋書きを作らず、事業ごとに戸数(実質)× 価格(物価 3% 込みの名目)で積み、金利上昇による利払いの増加を純利益から引いた。倍率は資本コスト 9%(基本 7.5% に、住宅の循環+0.75・値決め力+0.5・借金+0.75)と、弱い堀(残る割合 1/3)から、ROE が資本コストを下回る筋書きは 1÷k を上限に置いた。悲観の床は在庫を 2 割引で売り借入を返した後の分で、過去の PBR の底は使っていない。EV÷営業利益でも確かめた。今の時価総額は最後に比べただけ。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.6→11.66 倍・やや楽観 PER 9.4→11.45 倍・中立 PER 8.9→11.31 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +2.0%(循環+0.75・値決め+0.5・借金+0.75)を足した 9.5%。親会社の後ろ盾や社長交代などの個別の事情は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.50% → 9.00%。