結論
鹿島建設は受注高・売上高ともに国内ゼネコンで最大手に立つスーパーゼネコンで、2026年3月期は売上高3兆672億円・営業利益2,408億円と5期連続の増収増益で過去最高を更新した。建築・土木という本業のほか、不動産を自ら保有・開発する開発事業が利益率20%前後の稼ぎ頭として存在感を増し、北米を中心とする海外事業も規模を広げている。追い風は技能労働者不足を背景にした価格転嫁の定着と、ラピダス千歳工場・TSMC熊本JASMに続く半導体工場、クラウド大手向けデータセンターという新しい建設需要の柱である。一方で会社自身は2027年3月期・2028年3月期の営業利益をいったん2,100億〜2,200億円へ落ち込む計画として示しており、2026年3月期の高水準が巡航速度ではないことを認めている。
ここでは建築・土木・開発・海外の4区分で数量と利益率を積み上げ、その時点のROEと資本コストから妥当な倍率を決めた。10年後は半導体・データセンター建設ブームが一巡した後、国内の新築需要そのものが人口減・技能労働者不足で構造的に細るかどうかで株価の分布が大きく広がる。開発事業の利益を大きく増やす成長戦略と、北米・アジアでの海外事業の拡大が、国内の縮小をどこまで埋められるかが本質価値を左右する。物価3%の世界では工事単価が10年で約1.34倍に上がり、売上と利益は名目で伸びるが、今のROE12.5%は大型案件の採算が重なった山で、中立では10年後に9%弱にならす。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎ(資本コスト7%=基本7.5%+quality0.5%、これを超える分の半分が残る)だけとして出す正当化PERは中立で約13.0倍。ROEが資本コストをわずかに上回るので1÷k=12.5倍の床の少し下、約11.7倍に置いた。今のPBR1.5倍はこれを上回る。確率で重みを付けた本質価値は今の時価総額を2割弱下回り「やや割高」。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、国内ゼネコンで売上高・受注高ともに最大手という規模の堀に加え、半導体工場・データセンターという高度な施工管理能力を要する案件で優先的に指名される実績の蓄積が、今後も強みとして残るとみられる。再投資に回す分を引いた株主のものになる利益は、開発事業という資産運用型の高収益事業の拡大によって増やせる余地があり、経営陣はそこに成長投資の軸を置いている。財務は自己資本比率39%・実質的な無借金に近い水準で健全であり、谷の年にも持ちこたえられる安全域がある。
一方で、建築・土木という本業自体は顧客の入札・相見積りにより価格決定力が完全ではなく、技能労働者不足がどこまで利益率改善に続くかは実証を要する。2018年のリニア中央新幹線談合事件という資本配分とは別のガバナンスの傷も、再発防止の実効性を今後の実績で示す必要がある。開発事業・海外事業の拡大は成長戦略として説得力があるものの、本業に比べればまだ実績の蓄積が浅く、わからない部分が相応にある分、確信度を下げて考えるべき会社だと見る。
何で稼ぐ会社か
事業は大きく建築事業・土木事業・開発事業等・海外関係会社の4つに分かれる。建築事業は単体売上高1兆1,829億円・営業利益832億円でオフィスビル・商業施設・工場・半導体クリーンルームの請負施工が主力で、単体受注高は1兆5,000億円に達し、ラピダスの千歳半導体工場やTSMC関連の熊本JASM、クラウド事業者向けデータセンターなど、産業施設・先端分野の大型案件を相次いで受注している。土木事業は単体売上高4,307億円・営業利益767億円で、都市再開発に伴う地下工事やダム・トンネルといった国土強靱化・インフラ更新関連の公共工事を手掛け、単体受注高は6,158億円(前期比40.3%増)と過去最高水準の繰越高を抱える。
開発事業等は売上高927億円・営業利益176億円と全社売上の3%程度にすぎないが、オフィス・ホテル・物流施設などを自社で保有・開発・運用する高収益事業で、開発資産残高は2026年3月末に1兆3,500億円程度と2019年3月末の3倍に拡大しており、会社は数年内にこの事業の純利益を現在の数倍規模へ引き上げる成長戦略を掲げている。海外関係会社は売上高1,090億円・営業利益267億円で、1960年代から展開する北米(カジマUSA、売上高約2,220億円規模)に加え、アジア(香港・シンガポール等)での不動産開発事業も手掛け、全社ベースの海外関連売上高は1兆円を超える規模に拡大している。価格転嫁が定着した建築・土木と、資産運用型の開発事業、地域を分散した海外事業という組み合わせが、鹿島の収益構造の特徴になっている。
優良さと弱いところ
国内ゼネコンで売上高・受注高ともに最大手という規模そのものが、大型プロジェクトを一社で完遂できる技術力・資金力・人材の厚みという堀になっている。半導体工場やデータセンターのような高度な施工管理能力を要する案件で優先的に指名される実績の蓄積は、後発が簡単には追いつけない差別化要因である。技能労働者不足・資材高という業界共通の逆風についても、選別受注による値上げの定着に加え、自動化施工システム「A4CSEL」(成瀬ダムでの月間打設量日本記録更新など)のような生産性向上投資を自ら手掛けられる体力があり、現場の省人化を同業より先に進められる可能性がある。自己資本比率39%・純有利子負債は時価総額比20%程度と財務は健全で、谷の年にも持ちこたえられる土台がある。
弱いところは、建築・土木事業そのものの価格決定力が顧客(デベロッパー・官公庁)側の入札・相見積りによって完全な寡占には至らない点、そして2018年のリニア中央新幹線談合事件で法人に罰金2億5,000万円・元専任部長に有罪判決が確定したガバナンスの傷である。独占禁止法委員会の設置などコンプライアンス体制は刷新されたが、業界の構造的な受注調整の文化が完全に断たれたかは実績で示し続ける必要がある。開発事業・海外事業の利益拡大戦略も、本業の建築・土木に比べればまだ実証途中の部分が残る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建設需要は、都市再開発・半導体工場・データセンターという法人の設備投資が押し上げる「山」の局面にある。上場ゼネコン50社の受注高は2025年度に16兆5,388億円(5期連続増、集計開始以来初の16兆円台)、期末繰越高は過去最高の24兆1,764億円に達し、スーパーゼネコン4社の中でも鹿島は売上高・受注高ともに頭一つ抜けている。半導体では北海道千歳のラピダス工場、熊本のTSMC関連工場に続く投資が各地で計画され、クラウド大手向けデータセンターの建設需要も生成AIの普及で拡大が続く。国土強靱化・インフラ更新(2026年度から5年で事業規模約20兆円強)も土木事業の下支えになっている。
一方で2024年問題(残業上限規制)を起点にした技能労働者の高齢化・人手不足は構造的で、業界全体が「取れる仕事を選ぶ・取った仕事の値段を上げる」方向へ転換し、鹿島を含む上場ゼネコンの9割近くで完成工事の粗利益率が改善した。鹿島の単体粗利率も土木で15.4%から24.6%、建築で9.6%から11.8%へ大きく改善している。この価格転嫁がどこまで定着するかが、半導体・データセンター投資が一巡した後の利益水準を左右する。競合は大林組・大成建設・清水建設の準大手3社で、4社による準寡占が続くが、顧客側の入札・相見積りにより完全な価格決定力にはならない。海外勢の参入は国内の建築基準・施工体制の壁で限定的である。
10年後を見通すと、都市再開発・半導体工場・データセンターという今の需要の柱が一巡した後、国内の建設投資そのものは人口減・世帯数減を背景に実質横ばい〜緩やかな縮小に向かうと考えられ、次の成長の柱(国土強靱化の継続執行、開発事業・海外事業の拡大)をどこまで確保できるかが優良さの持続を決める。
資本政策と M&A
株主還元は配当性向40%を目安とし、業績・財務状況に応じて自己株式取得を機動的に組み合わせる方針で、2024年度・2025年度とも300億円規模の自社株買いを実施している。政策保有株式は2026年度末までに連結純資産の20%未満とする目標を掲げ、500億円以上の売却を進めており、目標到達後も縮減を継続する方針である。売却で得た資金は株主還元と成長投資の双方に向けられる。
M&Aについては、大和ハウスや積水ハウスのような大型買収を繰り返す戦略は取っておらず、北米・アジアでの開発事業は現地法人を通じた自己資金での開発・JVが中心で、買う側としての大型買収の実績は限定的である。鹿島自身が買収の対象(TOB)になる可能性も、時価総額2兆円超という規模と業界内の再編圧力の乏しさから低いとみられる。2024〜2026年度の中期経営計画では成長投資総額1.2兆円(R&D600億円・デジタル600億円・戦略的投資800億円)を掲げ、2026年度の連結純利益目標1,300億円以上は2026年3月期(1,773億円)の実績で前倒しで超過達成した。
2026年5〜8月の自己株式取得(約400億円)は実行済みで、株数に反映した。この分は10年の還元に入れていない。8月25日の自己株式処分(払込約127億円)は自己資本の起点に足した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
鹿島は国内ゼネコンで売上高・受注高ともに最大手であり、半導体工場・データセンターという最も高度な施工管理能力を要する分野で優先的に指名される実績を積み重ねている。ラピダスの千歳工場、TSMC関連の熊本JASMに続き、クラウド大手向けのデータセンター建設でも実績を独占的に近い形で確保しており、生成AI普及に伴う投資拡大の恩恵を最も厚く受ける立場にある。技能労働者不足・資材高という業界共通の逆風も、選別受注による値上げの定着と自動化施工システム「A4CSEL」のような生産性向上投資で他社より先に乗り越えられる。
開発事業は売上の3%程度にすぎないが利益率20%前後の稼ぎ頭で、開発資産残高を2019年3月末の3倍に拡大したうえ、この事業の純利益を数年内に現在の数倍規模へ引き上げる成長戦略を掲げており、実現すれば会社全体の収益構造が「建築・土木の請負」から「保有・運用型の不動産」へ軸を移し、評価される倍率そのものが変わる。海外事業も北米・アジアで地域を分散しながら着実に規模を広げており、国内の構造的な縮小を長期的に補える。財務は健全で自己株式取得・増配を続ける余力もあり、規模・技術・資本配分のすべてで同業に優位な立場を10年後も維持できる。
慎重な見方
半導体工場・データセンターという今の建設需要の柱は、クラウド大手の投資計画や国の産業政策に強く依存する一時的な山であり、一巡すれば需要が急に縮むことが起こりうる。会社自身も2027年3月期・2028年3月期の営業利益をいったん2,100億〜2,200億円へ落ち込む計画として示しており、2026年3月期の過去最高益が巡航速度でないことを認めている。建築・土木という本業は、顧客(デベロッパー・官公庁)側の入札・相見積りによって完全な価格決定力を持たず、技能労働者不足が一段深刻化すれば、値上げより先に受注そのものを絞らざるを得なくなる。
開発事業の利益を数倍に拡大する戦略は、不動産市況が崩れれば資産評価・売却タイミングの両方で裏目に出るリスクを抱え、海外事業も北米の住宅ローン金利・不動産市況というマクロ要因に業績が左右される構造は住宅各社と変わらない。2018年のリニア中央新幹線談合事件で法人として罰金刑・元専任部長の有罪が確定したことは、業界の構造的な受注調整の文化が根深いことを示しており、同様の問題が将来再発するリスクを完全には排除できない。国内の人口減・世帯数減という構造的な縮小は10年という期間で確実に効いてくるため、今の規模の優位性だけでは10年後の優良さを保証できない。
どちらに重みを置いたか
規模・技術の優位と開発事業の成長戦略には実現性があるが、会社自身が示す2027〜2028年3月期の減益計画は、今の高水準が循環の山であることを認めている。10年後は国内需要の縮小と開発・海外の拡大の綱引きを軸に、会社計画の下振れも相応に織り込んだ。10年後は国内需要の構造的な縮小に相応の重みを置きながら、業界最大手の受注力を踏まえて確率をわずかに強気側に寄せた。中立のROEが9%弱にとどまるため、今のPBR1.5倍は山の利益を前提にしており、計算の結論は「やや割高」。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,390 円3.42 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,185 円1.01 兆円)。 今の値に割り戻すと 5,314 円2.46 兆円、今との差 +11.3%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 15% | 12,609 円5.84 兆円 | 3,111 円1.44 兆円 | +229.2% | +12.7% | 2,358 円1.09 兆円 |
| やや楽観 | 25% | 9,888 円4.58 兆円 | 2,706 円1.25 兆円 | +163.7% | +10.2% | 3,148 円1.46 兆円 |
| 中立 | 30% | 7,511 円3.48 兆円 | 2,267 円1.05 兆円 | +104.8% | +7.4% | 2,933 円1.36 兆円 |
| やや悲観 | 20% | 3,341 円1.55 兆円 | 1,435 円6,647 億円 | +0.0% | +0.0% | 955 円4,425 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,051 円4,870 億円 | 746 円3,458 億円 | −62.4% | −9.3% | 180 円833 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,390 円3.42 兆円 | 2,185 円1.01 兆円 | +100.5% | +7.2% | 9,575 円4.44 兆円 |
今の株価時価総額 4,775 円2.21 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 15% 楽観:開発・海外が稼ぎの柱に育つ 利益 3,120 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 12,609 円5.84 兆円
10年の間に半導体・データセンター投資は国内で複数回の新しい波を迎え、建築事業の受注の柱として定着する。ラピダス・TSMC関連に続く国内立地が相次ぎ、クラウド大手向けデータセンターの受注も独占的な地位を保つ。土木事業は国土強靱化・インフラ更新の継続執行で底堅く推移する。開発事業は資産残高の拡大とともに純利益が数倍規模へ育ち、会社全体の収益構造を「請負」から「保有・運用」へ大きく近づける。海外事業も北米・アジアでの開発が軌道に乗り、金利サイクルの波を大きくかぶらずに規模を広げる。技能労働者不足は自動化施工システムの普及で部分的に克服し、大林組・大成建設・清水建設との競争でも価格決定力が一段強まる10年になる。
- 建築事業:数量 270(建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定))× 価格 67(1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円))→ 売上 18,090 億円・営業利益 1,447 億円。半導体・データセンター需要が構造的に定着
- 土木事業:数量 26.7(国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質))× 価格 2.3%(鹿島の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1))→ 売上 6,164 億円・営業利益 1,233 億円。国土強靱化の継続執行
- 開発事業等:数量 2.1(開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 20.7%(資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1))→ 売上 4,288 億円・営業利益 943 億円。開発事業の純利益が数倍規模に拡大
- 海外関係会社:数量 93.3(海外関係会社の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定))× 価格 40(1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円))→ 売上 3,752 億円・営業利益 675 億円。北米・アジアの開発が軌道に乗る
倍率:事業の純利益 3,120 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍。全体の PER 17.74 倍、時価総額 55,349 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体・データセンター需要の持続と開発事業の成長戦略の実現が重なる組み合わせで、実現すれば優良さが大きく高まるが条件は多い。
やや楽観 25% やや楽観:国内の構造的縮小を開発・海外が補う 利益 2,517 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 9,888 円4.58 兆円
建築・土木は国内の構造的な需要の細りを受けつつも、半導体・データセンター・インフラ更新という下支えで大崩れせず推移する。都市再開発の需要も一定の水準で残り、受注の柱がいくつも並ぶ分散が効く。開発事業は資産残高の拡大とともに純利益が着実に増え、海外事業も北米・アジアで地域を分散しながら規模を広げる。技能労働者不足は続くが、選別受注と自動化施工への投資で利益率は過去平均より高い水準を保つ。政策保有株式の縮減が一巡した後も、本業・開発・海外の3本で株主還元を続けられる体質に変わっている、起伏の少ない10年になる。
- 建築事業:数量 248(建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定))× 価格 67(1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円))→ 売上 16,616 億円・営業利益 1,197 億円。下支えで大崩れしない
- 土木事業:数量 24.7(国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質))× 価格 2.3%(鹿島の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1))→ 売上 5,695 億円・営業利益 1,025 億円。インフラ更新需要が続く
- 開発事業等:数量 1.7(開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 20.7%(資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1))→ 売上 3,618 億円・営業利益 760 億円。純利益が着実に増加
- 海外関係会社:数量 76.7(海外関係会社の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定))× 価格 40(1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円))→ 売上 3,082 億円・営業利益 524 億円。地域分散で着実な拡大
倍率:事業の純利益 2,517 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.92 倍、時価総額 42,588 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:開発事業の拡大戦略が構造的に続くという前提は実現性が高く、本業の価格転嫁も定着が進む組み合わせ。
中立 30% 中立:国内縮小と開発・海外の拡大が相殺し合う 利益 1,983 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 7,511 円3.48 兆円
半導体工場・データセンターという今の需要の柱が一巡し、国内の建設投資全体は人口減・世帯数減を背景に実質横ばい〜緩やかな縮小に向かう。建築事業は数量の伸びが止まるが価格転嫁の定着分だけ過去平均より高い利益率を保ち、土木事業は国土強靱化の継続執行で底堅く推移する。開発事業は資産残高の拡大が一段落しつつも利益水準は現在より高く定着し、海外事業も会社計画の範囲内で緩やかに拡大する。大林組・大成建設・清水建設との4社による準寡占は続くが、顧客側の入札・相見積りで価格決定力は完全ではない。技能労働者不足はより深刻化し、選別受注の徹底が数量の重荷になる一方、価格決定力は守られる10年になる。
- 建築事業:数量 224(建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定))× 価格 67(1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円))→ 売上 15,008 億円・営業利益 976 億円。数量の伸びが止まる
- 土木事業:数量 22.6(国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質))× 価格 2.3%(鹿島の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1))→ 売上 5,226 億円・営業利益 836 億円。インフラ更新で底堅い
- 開発事業等:数量 1.4(開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 20.7%(資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1))→ 売上 2,948 億円・営業利益 590 億円。利益水準が高く定着
- 海外関係会社:数量 63.3(海外関係会社の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定))× 価格 40(1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円))→ 売上 2,546 億円・営業利益 407 億円。会社計画の範囲内の拡大
倍率:事業の純利益 1,983 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍。全体の PER 15.82 倍、時価総額 31,371 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内建設投資の構造的な縮小と、開発事業・海外事業の拡大がちょうど相殺し合う、業種ノートの中立前提に沿う最も重みを置く筋書き。
やや悲観 20% やや悲観:国内縮小が開発・海外の拡大を上回る 利益 1,073 億円 · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 3,341 円1.55 兆円
国内の人口減・世帯数減が想定より速く進み、半導体工場・データセンター投資も国内から海外立地へ一部シフトすることで、建築事業の数量が大きく細る。都市再開発の需要も一巡後は細り、新しい受注の柱を作れない。技能労働者不足がさらに深刻化し、選別受注を徹底せざるを得ず土木事業の受注高も伸び悩む。開発事業は不動産市況の足踏みで純利益の拡大ペースが鈍り、海外事業も金利サイクルの波をかぶり苦戦する。政策保有株式の縮減資金も成長投資に回しきれず、株主還元を厚くする守りの資本政策に傾く、優良さの評価がじわじわ下がる10年になる。
- 建築事業:数量 196(建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定))× 価格 67(1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円))→ 売上 13,132 億円・営業利益 657 億円。数量が大きく細る
- 土木事業:数量 19.7(国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質))× 価格 2.3%(鹿島の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1))→ 売上 4,556 億円・営業利益 592 億円。受注高が伸び悩む
- 開発事業等:数量 1.0(開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 20.7%(資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1))→ 売上 2,144 億円・営業利益 322 億円。拡大ペースが鈍る
- 海外関係会社:数量 43.3(海外関係会社の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定))× 価格 40(1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円))→ 売上 1,742 億円・営業利益 174 億円。金利サイクルで苦戦
倍率:ROE 5.6%(純利益 1,073 億円 ÷ 自己資本 19,169 億円)。事業の ROE が資本コスト k 7% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.5 倍。国内の建設投資が細り、採算も戻らない局面で、上限の 7 割 5 分 の 9.4 倍に置いた。余り資産は立てていない(持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので足さない)。
確率:国内の人口減・技能労働者不足のペースが想定より速く、開発事業・海外事業の拡大がそれを補いきれない組み合わせ。
悲観 10% 悲観:国内は構造的に負け、新しい需要の柱も作れない 利益 133 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,051 円4,870 億円
国内では人口減・技能労働者不足が加速し、建築・土木ともに数量が大きく縮小、価格転嫁もすでに限界に達していて値下げを迫られる。半導体工場・データセンター投資は国内立地の優位性を失い海外へシフトし、次の成長の柱を作れない。都市再開発・国土強靱化の需要も予算の制約で先送りが続く。開発事業は不動産市況の悪化で資産の売却も停滞し、海外事業は投資が実らず一部撤退含みとなって損失を出す。大林組・大成建設・清水建設にシェアを奪われ、談合事件の記憶も含めガバナンスの評価が戻らないまま、会社全体として構造的に優良さを失った10年になる。
- 建築事業:数量 140(建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定))× 価格 67(1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円))→ 売上 9,380 億円・営業利益 188 億円。構造的な需要蒸発
- 土木事業:数量 15.1(国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質))× 価格 2.3%(鹿島の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1))→ 売上 3,484 億円・営業利益 279 億円。公共工事予算の制約も強まる
- 開発事業等:数量 0.6(開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 20.7%(資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1))→ 売上 1,206 億円・営業利益 121 億円。資産売却も停滞
- 海外関係会社:数量 23.3(海外関係会社の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定))× 価格 40(1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円))→ 売上 938 億円・営業利益 −47 億円。一部撤退含みで損失
倍率:ROE 0.8% と谷の利益(純利益 133 億円)では稼ぐ力は 1,900 億円ほどにしかならず、床は売れる資産の税後で測る。開発資産 1.35 兆円の 5 割(強制売却)6,750 億円に、含み益の税後(推定)約 1,500 億円と政策保有株の税後(推定)約 1,300 億円を足し、純有利子負債 4,409 億円に自社株買い実行の差引 273 億円(取得 400 億円−自己株処分の払込 127 億円)を足した 4,682 億円を引いた約 4,870 億円を、決算期末の自己資本 14150 億円に対する PBR 0.344 倍(時価総額 4870 億円)に置いた。構造的に受注の採算が崩れた姿。谷の年は営業利益が 339 億円と小さく、EV ÷ 営業利益は 28 倍と高いが谷の営業利益が小さいためで、測る数字ではないので、売れる資産の床で測った。
確率:国内の縮小が深刻化し、同時に半導体・データセンター需要が海外立地シフトで取り切れず、開発・海外事業も裏目に出る、リーマン級の構造的な劣化を想定。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築事業
オフィスビル・商業施設・工場・半導体クリーンルームなどの建築請負。半導体工場・データセンターなど先端分野の大型案件が中心。
| 数量建築の年間の完成床面積(万㎡、単体・推定) | 価格1万㎡当たりの完成工事高(億円。㎡当たり約50万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 237 | 50 | 11,829 | 832 |
| 10 年後 中立 | 224 | 67 | 15,008 | 976 |
取り方:単体の建築の完成工事高(約1兆1,829億円)を、オフィス・工場・データセンター・病院など大型建築の平均の㎡単価約50万円(建築費の公表値と大型案件からの推定)で割って完成床面積を逆算した。単価は中立で物価並み(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍)、床面積は実質
土木事業
都市再開発に伴う地下工事、ダム・トンネル・橋梁など国土強靱化・インフラ更新関連の土木工事。
| 数量国内の土木投資(兆円。今の値段で測った実質) | 価格鹿島の土木のシェア(%)× 工事単価の物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 25.0 | 1.7% | 4,307 | 767 |
| 10 年後 中立 | 22.6 | 2.3% | 5,226 | 836 |
取り方:国内の土木投資(政府・民間合計で約25兆円)に対する単体の土木の完成工事高(約4,307億円)の比率をシェアとした。投資の量は実質、工事単価は物価並みに上がる
開発事業等
オフィス・ホテル・物流施設などを自社で保有・開発・運用する不動産事業。
| 数量開発・賃貸に回している資産(兆円。今の値段で測った実質、推定) | 価格資産に対する開発事業等の売上の比率(%)× 物価の指数(今=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 15.5% | 927 | 176 |
| 10 年後 中立 | 1.4 | 20.7% | 2,948 | 590 |
取り方:開発事業等の売上(約927億円)を、開発・賃貸に回している資産の推定約6,000億円で割った比率。売却と賃料は物価並みに上がる数量は実物(開発・賃貸に回す資産の残高を今の値段で測った実質)で、増えるのは開発資産を 2019 年から 3 倍に積み増してきた会社の成長戦略による。名目の市場の伸びを数量に置いたものではなく、物価は価格の 1.34 倍だけで見ている。
海外関係会社
北米(カジマUSA)・アジア(香港・シンガポール等)での建築・不動産開発事業。
| 数量海外関係会社の年間の完成・開発床面積(万㎡、推定) | 価格1万㎡当たりの売上(億円。㎡当たり約30万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 36.3 | 30 | 1,090 | 267 |
| 10 年後 中立 | 63.3 | 40 | 2,546 | 407 |
取り方:海外関係会社のセグメント売上(約1,090億円)を、米国の物流施設・アジアの開発など平均の㎡単価約30万円で割って床面積を逆算した。単価は物価並み(150 円固定)数量は実物(完成・開発の床面積)で、北米・アジアの開発を会社計画の範囲で広げる事実による。名目の市場の伸びは置いておらず、物価は単価の 1.34 倍だけで見ている。
リスクと懸念
半導体・データセンター建設需要の一巡
鹿島の建築事業の高成長は、ラピダス・TSMC関連の半導体工場やクラウド大手向けデータセンターという特定分野の投資拡大に強く依存している。クラウド事業者の投資計画見直しや半導体産業政策の縮小があれば、受注の柱の一つが細り、会社計画の減益シナリオが前倒しで表面化しうる。
技能労働者不足の深刻化
2024年問題を起点にした技能労働者の高齢化・人手不足は構造的で、価格転嫁が続く限りは利益率改善の追い風だが、人手不足が受注量そのものを制約する段階に進めば、値上げでは補えない数量減につながる。自動化施工システム「A4CSEL」の普及が想定より遅れれば、この制約はより重くなる。
開発事業の不動産市況リスク
開発事業は売上の3%程度だが利益率20%前後の稼ぎ頭で、純利益を数年内に数倍へ拡大する成長戦略を掲げている。オフィス・ホテル・物流施設の賃料・資産価値が不動産市況の悪化で下がれば、拡大戦略そのものが裏目に出るリスクがある。
海外事業の金利・市況感応度
北米・アジアの開発型事業は、住宅ローン金利や現地の不動産市況というマクロ要因に業績が左右されやすく、大和ハウス・積水ハウスなど住宅各社の海外M&A事業と同様の金利サイクルリスクを抱える。海外関係会社の営業利益は全社の1割程度にすぎないが、拡大戦略の成否を測る試金石になる。
ガバナンス・談合リスクの再発
2018年のリニア中央新幹線談合事件で法人に罰金2億5,000万円、元専任部長に有罪判決が確定した。独占禁止法委員会の設置などコンプライアンス体制は刷新されたが、業界の構造的な受注調整の文化が再発するリスクを完全には排除できない。
国内建設投資の構造的な縮小
人口減・世帯数減を背景に、都市再開発・半導体工場需要が一巡した後の国内建設投資は実質横ばい〜緩やかな縮小に向かうとみられ、今の受注残高の厚みが尽きた後に次の成長の柱を確保できなければ、優良さの評価がじわじわ下がる。
今後の分かれ目
- ラピダス・TSMC関連に続く半導体工場やデータセンターの新規大型案件が相次いで発表されたら
- 楽観・やや楽観側の確率を上げてよい。建築事業の受注の柱がさらに厚みを増す証拠になる。
- 会社の2027年3月期・2028年3月期の営業利益が計画(2,100億〜2,200億円)を下回ったら
- やや悲観側に重みを移す。価格転嫁の定着・半導体需要の持続性への懸念が強まったことを示す。
- 開発事業の純利益が数年内に数倍規模へ拡大していることが数値で確認できたら
- 楽観・やや楽観側の確率を上げてよい。収益構造の転換が実証された証拠になる。
- 国土強靱化予算の執行が前倒しで進み、土木事業の受注高・粗利率が会社計画を上回ったら
- 中立〜やや楽観側の確率を上げてよい。本業の底堅さが増した証拠になる。
- 談合・コンプライアンス関連の新たな問題が発覚したら
- やや悲観側に重みを移す。ガバナンスの評価を見直し、優良さの評価を下げる。
- 技能労働者不足を理由に受注を絞る動き(受注高・完成工事高の明確な減少)が統計で確認されたら
- やや悲観側に重みを移す。価格転嫁では補えない数量減の先行指標になる。
見ておくもの
- 建築事業・土木事業の単体受注高と完成工事の粗利率の推移
- 開発事業等セグメントの売上・営業利益と開発資産残高
- 半導体工場・データセンターの新規大型受注の有無
- 政策保有株式の残高・連結純資産比と売却の進捗
- 海外関係会社セグメントの売上・営業利益と北米不動産市況
倍率と資本コストの決め方
数量(建築の完成床面積・国内の土木投資・開発資産・海外の床面積=実質)と単価・シェア(物価3%を入れた名目)を積み上げ、価格=1だった4区分を数量×単価に分け直した。会社の2027・2028年3月期の減益計画を踏まえ、今の過去最高益が続くとは置いていない。倍率は利益で決め、新しく投じるお金の稼ぎ(RONIC=k 7%+1/2×(ROE−k)、k=基本7.5%+quality0.5%)と長期g 4%(k−g≥3.5%)から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)を出し、上限の9割前後(やや悲観は7割5分)に置き、ROEがkを少し上回る中立は上限の9割に置いた。悲観は谷の利益の稼ぐ力でなく、開発資産などの売れる資産の税後で測った。今の株価は最後に比べただけで、結論の「やや割高」は、今のPBR1.5倍が中立の倍率(PER約12倍・PBR約1.0倍)を上回り、確率加重の価値が今の時価総額を2割弱ほど下回るため。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.5% = 8%。理由は quality_why。個別のリスク(不祥事・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.00%。